# File Name: Holy-Bible---Japanese---Japanese-Raguet-yaku---Aionian-Edition.noia # File Size: 1177083 # File Date: 03/27/2024 23:20:33 # File Purpose: Supporting resource for the Aionian Bible project # File Location: https://resources.AionianBible.org # File Copyright: Creative Commons Attribution No Derivative Works 4.0, 2018-2024 # File Generator: ABCMS (alpha) # File Accuracy: Contact publisher with corrections to file format or content # Publisher Name: Nainoia Inc # Publisher Contact: https://www.AionianBible.org/Publisher # Publisher Mission: https://www.AionianBible.org/Preface # Publisher Website: https://NAINOIA-INC.signedon.net # Publisher Facebook: https://www.Facebook.com/AionianBible # Bible Name: ラゲ訳「我主イエズスキリストの新約聖書」 # Bible Name English: Japanese Raguet-yaku 1910 # Bible Language: 日本語 # Bible Language English: Japanese # Bible Copyright Format: CC Attribution NoDerivatives 4.0, 2018-2024 # Bible Copyright Text: Public Domain # Bible Source: Emile Raguet of Belgium # Bible Source Version: 8/18/2017 # Bible Source Link: https://crosswire.org/sword/modules/ModInfo.jsp?modName=JapRaguet # Bible Source Year: 1910 # Bible Format: Aionian Glossary annotations to 265 verses # INDEX BOOK CHAPTER VERSE TEXT # # BOOK 040 MAT Matthew マタイの福音書 040 MAT 001 001 第一項 キリスト人性の系圖 アブラハムの裔なるダヴィドの裔イエズス、キリストの系圖。 040 MAT 001 002 アブラハムイザアクを生み、イザアクヤコブを生み、ヤコブユダと其兄弟等とを生み、 040 MAT 001 003 ユダタマルによりてファレスとザラとを生み、ファレスエスロンを生み、エスロンアラムを生み、 040 MAT 001 004 アラムアミナダブを生み、アミナダブナアソンを生み、ナアソンサルモンを生み、 040 MAT 001 005 サルモンラハブによりてボオズを生み、ボオズルトによりてオベドを生み、オベドイエッセを生み、イエッセダヴィド王を生み、 040 MAT 001 006 ダヴィド王ウリアの[妻]たりし者によりてサロモンを生み、 040 MAT 001 007 サロモンロボアムを生み、ロボアムアビアを生み、アビアアザを生み、 040 MAT 001 008 アザヨザファトを生み、ヨザファトヨラムを生み、ヨラムオジアを生み、 040 MAT 001 009 オジアヨアタムを生み、ヨアタムアカズを生み、アカズエゼキアを生み、 040 MAT 001 010 エゼキアマナッセを生み、マナッセアモンを生み、アモンヨジアを生み、 040 MAT 001 011 バビロンに移さるる頃ヨジアイエコニアと其兄弟等とを生み、 040 MAT 001 012 バビロンに移されたる後イエコニアサラチエルを生み、サラチエルゾロバベルを生み、 040 MAT 001 013 ゾロバベルアビユドを生み、アビユドエリアキムを生み、エリアキムアゾルを生み、 040 MAT 001 014 アゾルサドクを生み、サドクアキムを生み、アキムエリユドを生み、 040 MAT 001 015 エリユドエレアザルを生み、エレアザルマタンを生み、マタンヤコブを生み、 040 MAT 001 016 ヤコブマリアの夫ヨゼフを生み、此マリアよりキリストと稱するイエズス生れ給へり。 040 MAT 001 017 然れば歴代は、総てアブラハムよりダヴィドまで十四代、ダヴィドよりバビロンに移さるるまで十四代、バビロンに移されてよりキリストまで十四代[とす]。 040 MAT 001 018 第二項 ヨゼフとマリアとの婚姻及キリストの誕生 然てキリストの生れ給ひし次第は次の如し。其母マリアヨゼフに聘定せられしに、同居せざる前聖霊によりて懐胎せる事顕れしが、 040 MAT 001 019 夫ヨゼフ義人にして彼を訟ふる事を好まざれば、密に之を離別せんと思へり。 040 MAT 001 020 是等の事を思ひ回らす折しも、主の使彼が夢に現れて云ひけるは、ダヴィドの裔ヨゼフよ、汝の妻マリアを納るる事を懼るる勿れ、蓋彼に胎れるものは聖霊によれり。 040 MAT 001 021 彼一子を生まん、汝其名をイエズスと名くべし、其は自己が民を其罪より救ふべければなり、と。 040 MAT 001 022 総て此事の成りしは、主が曾て預言者を以て曰ひし事の成就せん為なり、 040 MAT 001 023 曰く「看よ童貞女懐胎して一子を生まん、其名はエンマヌエルと稱へられん」と。エンマヌエルとは我等と偕に在す神の義なり。 040 MAT 001 024 ヨゼフ睡より起きて、主の使より命ぜられし如くにして其妻を納れしが、 040 MAT 001 025 牀を偕にせずして家子を生むに至れり、而して其子の名をイエズスと名けたり。 040 MAT 002 001 第三項 博士等の参拝 斯てイエズス、ヘロデ王の時、ユデアのベトレヘムに生れ給ひしかば、折しも博士等東方よりエルザレムに來りて、 040 MAT 002 002 云ひけるは、生れたるユデア人の王は何處に在すぞ、即我等東方にて彼が星を見、之を拝みに來れり、と。 040 MAT 002 003 ヘロデ王之を聞きて狼狽へしが、エルザレムも亦挙りて然ありき。 040 MAT 002 004 王は司祭長と民間の律法學士とを悉く集めて、キリスト何處に生るべきかと問ひたるに、 040 MAT 002 005 彼等云ひけるは、ユデアのベトレヘムに、其は預言者の録して、 040 MAT 002 006 「ユダの地ベトレヘムよ、汝はユダの郡中に最も小き者には非ず、蓋我イスラエルの民を牧すべき君汝の中より出ん。」とあればなり、と。 040 MAT 002 007 其時ヘロデ密に博士等を召して、星の現れし時を聞匡し、 040 MAT 002 008 彼等をベトレヘムに遣るとて云ひけるは、往きて詳に孩兒の事を尋ね、其を見出さば我に告げよ、我も往きて之を拝まん、と。 040 MAT 002 009 彼等王の言を聴きて出行きけるに、折しも東方にて見たりし星彼等の先に立ち、終に孩兒の居る處に至りて其上に止れり。 040 MAT 002 010 彼等其星を見て甚喜び、 040 MAT 002 011 家に入りて孩兒の其母マリアと共に居るを見、平伏して之を拝し、寳箱を開きて黄金乳香没薬の禮物を献げたり。 040 MAT 002 012 斯てヘロデに返ること勿れとの示を夢に得て、他の途より己が國に歸れり。 040 MAT 002 013 第四項 聖家エジプトへ避難す 博士等の去りし後、折しも主の使ヨゼフの夢に現れて云ひけうるは、起きて孩兒と其母とを携へてエジプトに逃れ、我が汝に告ぐるまで彼處に居れ、其はヘロデ孩兒を殺さんとて之を索めんとすればなり、と。 040 MAT 002 014 ヨゼフ起きて孩兒と其母とを携へて夜エジプトに避け、 040 MAT 002 015 ヘロデの死するまで其處に居れり、是主より曾て預言者を以て云はれし事の成就せん為なり、曰く「我我子をエジプトより呼出せり」と。 040 MAT 002 016 時にヘロデ、博士等に欺かれしを見て大に怒り、人を遣はして博士等に聞きたりし時を度りて、ベトレヘム及其四方に在る二歳以下の男児を悉く殺せり。 040 MAT 002 017 斯て預言者エレミアに依りて云はれたる事成就せり、 040 MAT 002 018 曰く「ラマに聲あり、歎にして大なる叫なりけり、ラケル其子等を歎き、彼等の亡きに因り敢て慰を容れず」と。 040 MAT 002 019 第五項 エジプトよりの歸國 ヘロデ死せしかば、折しも主の使エジプトに於てヨゼフの夢に現れ、 040 MAT 002 020 云ひけるは、起きて孩兒と其母とを携へてイスラエルの地に往け、蓋孩兒の生命を索めし人々は既に死せり、と。 040 MAT 002 021 ヨゼフ起きて孩兒と其母とを携へ、イスラエルの地に至りしに、 040 MAT 002 022 アルケラオ其父ヘロデに継ぎてユデアを治むと聞き、彼處に往く事を懼れしが、た夢に告ありてガリレアの地方に避け、 040 MAT 002 023 ナザレトと云ふ街に至りて住めり。是預言者等によりて「彼はナザレト人と稱へられん」と云はれし事の成就せん為なり。 040 MAT 003 001 第一款 洗者ヨハネの先駆 其頃、洗者ヨハネ來りてユデアの荒野に教を宣べ、 040 MAT 003 002 云ひけるは、汝等改心せよ、天國は近づけり、と。 040 MAT 003 003 蓋是預言者イザヤによりて云はれし人なり、曰く「荒野に呼はる人の聲ありて云ふ、汝等主の道を備へ、其小径を直くせよ」と。 040 MAT 003 004 ヨハネは駱駝の毛衣を着、腰に皮帯を締め、蝗と野蜜とを常食と為し居たりき。 040 MAT 003 005 時にエルザレムユデアの全國ヨルダン[河]に沿へる全地方[の人]彼の許に出で、 040 MAT 003 006 己が罪を告白して、ヨルダンにて洗せられ居りしが、 040 MAT 003 007 多くのファリザイ人及サドカイ人の己に洗せられんとて來るを見て、ヨハネ是に云ひけるは、蝮の裔よ、來るべき怒を逃るる事を誰か汝等に誨へしぞ。 040 MAT 003 008 然れば改心の相當なる果を結べよ。 040 MAT 003 009 汝等、我等の父にアブラハムありと心の中に云はんとすること勿れ、蓋我汝等に告ぐ、神は是等の石よりアブラハムの為に子等を起すことを得給ふ。 040 MAT 003 010 斧既に樹の根に置かれたり、故に総て善き果を結ばざる樹は伐られて火に投入れらるべし。 040 MAT 003 011 我は改心の為に水にて汝等を洗すれども、我後に來り給ふ者は我よりも力あり、我は其履を執るにも足らず、彼は聖霊と火とにて汝等を洗し給ふべし。 040 MAT 003 012 彼の手に箕ありて其禾場を浄め、麦は倉に納め、糠は消えざる火にて焼き給ふべし、と。 040 MAT 003 013 第二款 キリスト自身の豫備 此時イエズス、ヨハネに洗せられんとて、ガリレアよりヨルダン[河]に來り給ひしかば、 040 MAT 003 014 ヨハネ辞して云ひけるは、我こそ汝に洗せらるべきに、汝我に來り給ふか。 040 MAT 003 015 イエズス答へて曰ひけるは、姑く其を許せ、斯く我等が正しき事を、悉く遂ぐるは當然なればなり、と。是に於てヨハネ是に許ししかば、 040 MAT 003 016 イエズス洗せられて直に水より上り給ひしが、折しも天彼の為に開け、神の霊鳩の如く降りて我上に來り給ふを見給へり、 040 MAT 003 017 折しも又天より聲ありて、「是ぞ我心を安んぜる我愛子なる」と云へり。 040 MAT 004 001 然てイエズス、惡魔に試みられん為、[聖]霊によりて荒野に導かれ給ひしが、 040 MAT 004 002 四十日四十夜断食し給ひしかば、後に飢ゑ給へり。 040 MAT 004 003 試むるもの近づきて、汝若神の子ならば、命じて此石を麪とならしめよ、と云ひければ、 040 MAT 004 004 イエズス答へて曰ひけるは、録して「人の活けるは麪のみによるに非ず、又神の口より出る総ての言に由る」とあり、と。 040 MAT 004 005 其時惡魔彼を携へて聖なる都に行き、[神]殿の頂に立たせて、 040 MAT 004 006 云ひけるは、汝若神の子ならば身を投げよ、其は録して「神汝の為に其使等に命じ給へり、汝の足の石に衝當らざる様、彼等手にて汝を支へん」とあればなり。 040 MAT 004 007 イエズス曰ひけるは、又録して「主たる汝の神を試むべからず」とあり、と。 040 MAT 004 008 惡魔又彼を携へて最高き山に行き、世の諸國と其榮華とを示して、 040 MAT 004 009 云ひけるは、汝若平伏して我を拝せば、是等のものを悉く汝に與へん。 040 MAT 004 010 其時イエズス曰ひけるは、サタン退け、蓋録して「汝の神たる主を拝し、是にのみ事ふべし」とあり、と。 040 MAT 004 011 是に於て惡魔彼を離れしが、折しも天使等近づきて彼に事へたり。 040 MAT 004 012 第一款 イエズス布教の初 第二項 イエズスのキリストたる事を證明すべき事實及談話 イエズスヨハネの囚はれしを聞き給ひしかば、ガリレアに避け、 040 MAT 004 013 ナザレトの街を去り、ザブロンとネフタリムとの境なる湖辺の地、カファルナウムに至りて住み給ひしが、 040 MAT 004 014 是預言者イザヤに託りて云はれし事の成就せん為なり、 040 MAT 004 015 曰く「ザブロンの地、ネフタリムの地、ヨルダンの彼方なる湖辺の道、異邦人のガリレア、 040 MAT 004 016 暗黒に坐せる人民大なる光を見、死の陰の地に坐せる人々の上に光出たり」と。 040 MAT 004 017 此時よりイエズス初て教を宣べ、「改心せよ、蓋天國は近づけり」と曰へり。 040 MAT 004 018 イエズスガリレアの湖辺を歩み給ふに、二人の兄弟、即ペトロと呼ばるるシモンと、其兄弟アンデレアとの湖に網打てるを見、――二人は漁師なりき―― 040 MAT 004 019 彼等に向ひて、我に從へ、我汝等をして人を漁る者とならしめん、と曰ひしかば、 040 MAT 004 020 彼等直に網を舍きて從へり。 040 MAT 004 021 イエズス此處より進み給ひて、又他に二人の兄弟、即ちゼベデオの子ヤコボと、其兄弟ヨハネとが、父ゼベデオと共に船にて網を補ふを見、之を召し給ひしに 040 MAT 004 022 彼等直に網と父とを舍きて從へり。 040 MAT 004 023 イエズス徧くガリレアを巡り、諸所の會堂にて教へ、[天]國の福音を宣べ、又民間の凡ての病、凡ての患を醫し給ひければ、 040 MAT 004 024 其名聲洽くシリアに播がり、患へる者、様々の病と苦とに罹れる者、惡魔に憑かれたるおの、癲癇癱瘋に悩める者を皆彼に差出しけるに、イエズス之を醫し給ひ、 040 MAT 004 025 ガリレアデカポリエルザレム、ユデア又はヨルダン[河]の彼方より、夥しき群衆來り從へり。 040 MAT 005 001 第二款 山上の説教 イエズス群衆を見て、山に登りて坐し給ひしかば、弟子等是に近づきけるに、 040 MAT 005 002 口を開きて、彼等に教へて曰ひけるは、 040 MAT 005 003 福なるかな心の貧しき人、天國は彼等の有なればなり。 040 MAT 005 004 福なるかな柔和なる人、彼等は地を得べければなり。 040 MAT 005 005 福なるかな泣く人、彼等は慰めらるべければなり。 040 MAT 005 006 福なるかな義に飢渇く人、彼等は飽かさるべければなり。 040 MAT 005 007 福なるかな慈悲ある人、彼等は慈悲を得べければなり。 040 MAT 005 008 福なるかな心の潔き人、彼等は神を見奉るべければなり。 040 MAT 005 009 福なるかな和睦せしむる人、彼等は神の子等と稱へらるべければなり。 040 MAT 005 010 福なるかな義の為に迫害を忍ぶ人、天國は彼等の有なればなり。 040 MAT 005 011 我が為に人々汝等を詛ひ、且迫害し、且僞りて、汝等に就きて所有る惡聲を放たん時、汝等は福なるかな、 040 MAT 005 012 歓躍れ、其は天に於る汝等の報甚多かるべければなり。蓋汝等より先に在りし預言者等も斯く迫害せられたり。 040 MAT 005 013 汝等は地の塩なり、塩若其味を失はば、何を以てか是に塩せん、最早用なく、外に棄てられて人に踏まるべきのみ。 040 MAT 005 014 汝等は世の光なり。山の上に建てたる街は隠るること能はず。 040 MAT 005 015 人は又燈を點して枡の下に置かず、家に在る凡ての物を照らさん為に、之を燭台の上に置く。 040 MAT 005 016 斯の如く、汝等の光は人の前に輝くべし、然らば人は汝等の善業を見て、天に在す汝等の父に光榮を歸し奉らん。 040 MAT 005 017 我律法若くは預言者を廃せんとて來れりと思ふこと勿れ、廃せんとて來りしには非ず、全うせんが為なり。 040 MAT 005 018 蓋我誠に汝等に告ぐ、天地の過ぐるまでは、律法より一點一画も廃らずして、悉く成就するに至るべし。 040 MAT 005 019 故に彼最も小き掟の一を廃し、且其儘人に教ふる者は、天國にて最小き者と稱へられん、然れど之を行ひ且教ふる者は、天國にて大なる者と稱へられん。 040 MAT 005 020 蓋我汝等に告ぐ、若汝等の義、律法學士ファリザイ人等の其に優るに非ずば、汝等天國に入らざるべし。 040 MAT 005 021 「殺す勿れ、殺す人は裁判せらるべし」と、古の人に云はれしは、汝等の聞ける所なり。 040 MAT 005 022 然れど我汝等に告ぐ、総て其兄弟を怒る人は裁判せらるべし、其兄弟を愚者よと云ふ人は衆議所の處分を受けん、狂妄者よと云ふ人は地獄の火に當るべし。 (Geenna g1067) 040 MAT 005 023 故に汝若禮物を祭壇に献ぐる時、其處に於て、何にもあれ兄弟に怨まるる事あるを思出さば、 040 MAT 005 024 其禮物を其處に、祭壇の前に措き、先往きて兄弟と和睦し、然る後に來りて其禮物を献げよ。 040 MAT 005 025 汝敵手と共に途に在る中に早く和解せよ、恐らくは敵手より判事に付され、判事より下役に付され、遂に監獄に入れられん、 040 MAT 005 026 我誠に汝に告ぐ、最終の一厘を還す迄は其處を出でざるべし。 040 MAT 005 027 「汝姦淫する勿れ」と古の人に云はれしは汝等の聞ける所なり。 040 MAT 005 028 然れど我汝等に告ぐ、総て色情を起さんとて婦を見る人は、既に心の中に之と姦淫したるなり。 040 MAT 005 029 若汝の右の目汝を躓かさば之を抉りて棄てよ、其は汝に取りて、五體の一の亡ぶるは、全身を地獄に投入れらるるに優ればなり。 (Geenna g1067) 040 MAT 005 030 若汝の右の手汝を躓かさば之を切りて棄てよ、其は汝に取りて、五體の一の亡ぶるは、全身の地獄に行くに優ればなり。 (Geenna g1067) 040 MAT 005 031 又「何人も妻を出さば是に離縁状を與ふべし」と云はれたる事あり。 040 MAT 005 032 然れど我汝等に告ぐ、総て私通の故ならで妻を出す人は、之をして姦淫せしむるなり、又出されたる婦を娶る人も姦淫するなり。 040 MAT 005 033 又「僞り誓ふ勿れ、誓ひたる事は主に果すべし」と古の人に云はれしは、汝等の聞ける所なり。 040 MAT 005 034 然れど我汝等に告ぐ、断じて誓ふ勿れ。天を指して[誓ふ勿れ]、其は神の玉座なればなり。 040 MAT 005 035 地を指して[誓ふ勿れ]、其は神の足台なればなり。エルザレムを指して[誓ふ勿れ]、其は大王の都なればなり。 040 MAT 005 036 汝の頭を指して誓ふ勿れ、其は一縷の髪だも、白く或は黒くすることを得ざればなり。 040 MAT 005 037 汝等唯、然り然り否々と云へ、是より過ぐる所は惡より出るなり。 040 MAT 005 038 又「目にて目を[償ひ]、歯にて歯を[償ふべし]」と云はれしは汝等の聞ける所なり。 040 MAT 005 039 然れど我汝等に告ぐ、惡人に抗ふ勿れ、人若し汝の頬を打たば、他の[頬]をも是に向けよ。 040 MAT 005 040 又汝を訟へて下着を取らんとする人には上着をも渡せ。 040 MAT 005 041 又汝を強て一千歩を歩ませんとする人あらば、尚二千歩を彼と共に歩め。 040 MAT 005 042 汝に乞ふ人に與へよ、汝に借らんとする人に身を背くること勿れ。 040 MAT 005 043 「汝の近き者を愛し、汝の敵を憎むべし」と云はれしは、汝等の聞ける所なり。 040 MAT 005 044 然れど我汝等に告ぐ、汝等の敵を愛し、汝等を憎む人を恵み、汝等を迫害し且讒謗する人の為に祈れ。 040 MAT 005 045 是天に在す汝等の父の子等たらん為なり、其は父は善人にも惡人にも日を照らし、義者にも不義者にも雨を降らし給へばなり。 040 MAT 005 046 汝等己を愛する人を愛すればとて、何の報をか得べき、税吏も然するに非ずや。 040 MAT 005 047 又己の兄弟等にのみ挨拶すればとて、何の勝れたる事をか為せる、異邦人も然するに非ずや。 040 MAT 005 048 故に汝等の天父の完全に在す如く、汝等も亦完全なれ。 040 MAT 006 001 人に見られんとて人の前に汝等の義を為さざる様慎め。然らずば天に在す汝等の父の御前に報を得じ。 040 MAT 006 002 然れば施を為すに當りて、僞善者が人に尊ばれんとて會堂及衢に為す如く、己が前に喇叭を吹くこと勿れ。我誠に汝等に告ぐ、彼等は既に其報を受けたり。 040 MAT 006 003 汝が施を為すに當りて、右の手の為す所、左の手之を知るべからず。 040 MAT 006 004 是汝の施の隠れん為なり。然らば隠れたるに見給ふ汝の父は汝に報い給ふべし。 040 MAT 006 005 又祈る時僞善者の如く為ること勿れ。彼等は人に見られんとて會堂に衢の隅に立ちて祈る事を好む。我誠に汝等に告ぐ、彼等は既に其報を受けたり。 040 MAT 006 006 汝は祈るに己が室に入りて戸を閉ぢ、隠れたるに在りて汝の父に祈れ、然らば隠れたるに見給ふ汝の父は汝に報い給ふべし。 040 MAT 006 007 又祈るに異邦人の如く繰言を為すこと勿れ、彼等は言の多きに由りて聴容れられんと思ふなり。 040 MAT 006 008 故に彼等に倣ふこと勿れ、其は汝等の父は、汝等の願はざる前に其要する所を知り給へばなり。 040 MAT 006 009 然れば汝等斯く祈るべし。天に在す我等の父よ、願はくは御名の聖と為られん事を、 040 MAT 006 010 御國の來らん事を、御旨の天に行はるる如く地にも行はれん事を。 040 MAT 006 011 我等の日用の糧を今日我等に與へ給へ。 040 MAT 006 012 我等が己に負債ある人を赦す如く、我等の負債をも赦し給へ。 040 MAT 006 013 我等を試に引き給ふことなく、却て惡より救ひ給へ、(アメン)と。 040 MAT 006 014 蓋汝等若人の罪を赦さば、汝等の天父も汝等の罪を赦し給ふべく、 040 MAT 006 015 汝等若人を赦さずば、汝等の父も汝等の罪を赦し給はざるべし。 040 MAT 006 016 汝等断食する時、僞善者の如く悲しき容を為すこと勿れ。即彼等は、断食する者と人に見えん為に其顔色を損ふなり。我誠に汝等に告ぐ、彼等は既に其報を受けたり。 040 MAT 006 017 汝は断食する時、頭に膏を附け且顔を洗へ、 040 MAT 006 018 是断食する者と人に見えずして、隠れたるに在す汝の父に見えん為なり、然らば隠れたるに見給ふ汝の父は汝に報い給ふべし。 040 MAT 006 019 汝等己の為に寳を地に蓄ふること勿れ、此處には錆と蠹と喰ひ壊り、盗人穿ちて盗むなり。 040 MAT 006 020 汝等己の為に寳を天に蓄へよ、彼處には錆も蠹も壊らず、盗人穿たず盗まざるなり。 040 MAT 006 021 其は汝の寳の在る處に心も亦在ればなり。 040 MAT 006 022 汝の身の燈は目なり。若し汝の目清くば全身明にならん、 040 MAT 006 023 汝の目惡くば全身暗からん。然れば汝の身に在る光すら暗黒ならば、暗黒其物は如何あるべきぞ。 040 MAT 006 024 誰も二人の主に兼事ふる事能はず、其は或は一人を憎みて一人を愛し、或は一人に從ひて一人を疎むべければなり。汝等は神と富とに兼事ふる事能はず、 040 MAT 006 025 故に我汝等に告ぐ、生命の為に何を食ひ、身の為に何を着んかと思煩ふ勿れ、生命は食物に優り、身は衣服に優るに非ずや。 040 MAT 006 026 空の鳥を見よ、彼等は撒く事なく、刈る事なく、倉に収むる事なきに、汝等の天父は之を養ひ給ふ、汝等は是よりも遥に優れるに非ずや。 040 MAT 006 027 汝等の中誰か、思煩ひて其生命に一肘だも加ふる事を得る。 040 MAT 006 028 又何とて衣服の為に思煩ふや、野の百合の如何にして育つかを看よ、働く事なく紡ぐ事なし、 040 MAT 006 029 然れども我汝等に告ぐ、サロモンだも、其榮華の極に於て、此百合の一ほどに装はざりき。 040 MAT 006 030 今日在りて明日炉に投入れらるる野の草をさへ、神は斯く装はせ給へば、况や汝等をや、信仰薄き者よ、 040 MAT 006 031 然れば汝等は、我等何を食ひ何を飲み何を着んかと云ひて思煩ふこと勿れ、 040 MAT 006 032 是皆異邦人の求むる所にして、汝等の天父は、是等の物皆汝等に要あるを知り給へばなり。 040 MAT 006 033 故に先神の國と其義とを求めよ、然らば是等の物皆汝等に加へらるべし。 040 MAT 006 034 然れば明日の為に思煩ふこと勿れ、明日は明日自、己の為に思煩はん、其日は其日の勞苦にて足れり。 040 MAT 007 001 人を是非すること勿れ、然らば汝等も是非せられじ、 040 MAT 007 002 其は人を是非したる如くに是非せられ、量りたる量にて亦量らるべければなり。 040 MAT 007 003 汝何ぞ兄弟の目に塵を見て、己が目に梁を見ざるや。 040 MAT 007 004 或は汝の目に梁あるに、何ぞ兄弟に向ひて、我をして汝の目より塵を除かしめよと云ふや。 040 MAT 007 005 僞善者よ、先己の目より梁を除け、然らば明に見えて、兄弟の目より塵をも除くべし。 040 MAT 007 006 聖物を犬に與ふること勿れ、又汝等の眞珠を豚の前に投ぐること勿れ、恐らくは足にて之を踏み、且顧みて汝等を噛まん。 040 MAT 007 007 願へ、然らば與へられん、探せ、然らば見出さん、叩け、然らば[戸を]開かれん、 040 MAT 007 008 其は総て願ふ人は受け、探す人は見出し、叩く人は[戸を]開かるべければなり。 040 MAT 007 009 或は汝等の中、誰か其子麪を乞はんに石を與へんや、 040 MAT 007 010 或は魚を乞はんに蛇を與へんや。 040 MAT 007 011 然れば汝等惡き者ながらも、善き賜を其子等に與ふるを知れば、况や天に在す汝等の父は、己に願ふ人々に善き物を賜ふべきをや。 040 MAT 007 012 然れば総て人に為されんと欲する事を、汝等も人に為せ、蓋律法と預言者とは其なり。 040 MAT 007 013 汝等窄き門より入れ、蓋亡に至る門は濶く、其路も広くして、是より入る人多し。 040 MAT 007 014 嗚呼生命に至る門窄く、其路も狭くして、之を見出す人少き哉。 040 MAT 007 015 汝等僞預言者を警戒せよ、彼等は羊の衣服を着て汝等に至れども、内は暴き狼なり、 040 MAT 007 016 其結ぶ果によりて彼等を知るべし。豈茨より葡萄を採り、薊より無花果を採る事あらんや。 040 MAT 007 017 斯の如く、総て善き樹は善き果を結び、惡き樹は惡き果を結ぶ、 040 MAT 007 018 善き樹は惡き果を結ぶ能はず、惡き樹は善き果を結ぶ能はず。 040 MAT 007 019 総て善き果を結ばざる樹は、伐られて火に投入れらるべし。 040 MAT 007 020 故に汝等其結ぶ果によりて彼等を知るべし。 040 MAT 007 021 我に主よ主よと云ふ人皆天國に入るには非ず、天に在す我父の御旨を行ふ人こそ天國に入るべきなれ。 040 MAT 007 022 彼日には、多くの人我に向ひて、主よ主よ、我等は、御名によりて預言し、且御名によりて惡魔を逐払い、且御名によりて多くの奇蹟を行ひしに非ずや、と云はんとす。 040 MAT 007 023 其時我彼等に宣言せん、我曾て汝等を知らず、惡を為す者よ我を去れ、と。 040 MAT 007 024 然れば総て我此言を聞き且之を行ふ人は、磐の上に其家を建てたる賢き人に比せられん、 040 MAT 007 025 雨降り河溢れ風吹きて其家を衝きたれども、倒れざりき、其は磐の上に基したればなり。 040 MAT 007 026 又総て我此言を聞きて之を行はざる人は、砂の上に其家を建てたる愚なる人に似ん、 040 MAT 007 027 雨降り河溢れ風吹きて其家を衝きたれば、倒れて其壊甚しかりき、と[教へ給へり。] 040 MAT 007 028 イエズス是等の言を宣畢り給ひければ、群衆其教に感嘆し居たり。 040 MAT 007 029 其は彼等の律法學士とファリザイ人との如くせずして、権威ある者の如くに教へ給へばなり。 040 MAT 008 001 第三款 ガリレアに於る種々の奇蹟 イエズス山を下り給ひしに、群衆夥しく從ひしが、 040 MAT 008 002 折しも、一人の癩病者來り、拝して云ひけるは、主よ、思召ならば我を潔くすることを得給ふ、と。 040 MAT 008 003 イエズス、手を伸べて彼に触れ、我意なり潔くなれ、と曰ひければ、其癩病直に潔くなれり。 040 MAT 008 004 イエズス之に曰ひけるは、慎みて人に語る勿れ、但往きて己を司祭に見せ、彼等への證據として、モイゼの命ぜし禮物を献げよ、と。 040 MAT 008 005 斯てイエズスカファルナウムに入り給ひしが、百夫長近づきて、 040 MAT 008 006 願ひて云ひけるは、主よ、我僕癱瘋にて家に臥し、甚く苦しめり、と。 040 MAT 008 007 イエズス、我往きて其を醫さん、と曰ひしかば、 040 MAT 008 008 百夫長答へて云ひけるは、主よ、我は不肖にして、主の我屋根の下に入り給ふに足らず、唯一言にて命じ給へ、然らば我僕痊えん。 040 MAT 008 009 蓋我も人の権下に立つ者ながら、部下に兵卒ありて、此に往けと云へば往き、彼に來れ[と云へば]來り、又我僕に是を為せ[と云へば]為すなり、と。 040 MAT 008 010 イエズス之を聞きて感嘆し、從へる者に曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、イスラエルの中にても、斯程の信仰に遇ひし事なし。 040 MAT 008 011 我汝等に告ぐ、多くの人東西より來りて、アブラハムイザアクヤコブと共に天國に坐せん、 040 MAT 008 012 然れど國の子等は外の暗に逐出されん、其處には痛哭と切歯とあらん、と。 040 MAT 008 013 斯てイエズス百夫長に向ひ、往け、汝の信ぜし如く汝に成れ、と曰ひければ僕即時に痊えたり。 040 MAT 008 014 イエズスペトロの家に入り給ひて、彼が姑の熱を病みて臥せるを見、 040 MAT 008 015 其手に触れ給ひしかば、熱其身を去り、起きて彼等に給仕したり。 040 MAT 008 016 日暮れて後、人々惡魔に憑かれたる者を多く差出ししが、イエズス惡魔を一言にて逐払い、病者をも悉く醫し給へり。 040 MAT 008 017 是預言者イザヤによりて云はれし事の成就せん為なり、曰く「彼は我等の患を受け、我等の病を負ひ給へり」と。 040 MAT 008 018 イエズス周圍に群衆の夥しきを見て、湖の彼方へ往かん事を命じ給ひしかば、 040 MAT 008 019 一人の律法學士近づきて、師よ、何處へ往き給ふとも我は從はん、と云ひしに、 040 MAT 008 020 イエズス是に曰ひけるは、狐は穴あり空の鳥は巣あり、然れど人の子は枕する處なし、と。 040 MAT 008 021 又弟子の一人、主よ、我が先往きて父を葬る事を允し給へ、と云ひしに、 040 MAT 008 022 イエズス曰ひけるは、我に從へ、死人をして其死人を葬らしめよ、と。 040 MAT 008 023 イエズス小舟に乗り給ひ、弟子等之に從ひしが、 040 MAT 008 024 折しも湖に大なる暴嵐起りて、小舟涛に蔽はるる程なるに、イエズスは眠り居給へり。 040 MAT 008 025 弟子等近づきて之を起し、主よ、我等を救ひ給へ、我等亡ぶ、と云ひければ、 040 MAT 008 026 イエズス彼等に曰ひけるは、何ぞ怖るるや、信仰薄き者よ、と。即起て風と湖とを戒め給ひしに、大凪となれり。 040 MAT 008 027 斯て人々感嘆して、是は何人ぞや、風も湖も是に從ふよ、と云へり。 040 MAT 008 028 イエズス湖の彼方なるゲラサ人の地に至り給ひしに、惡魔に憑かれたる者二人、墓より出でて迎へ來れり。豫てより其猛き事甚しく、誰も其途を過ぎ得ざる程なりしが、 040 MAT 008 029 忽叫びて云ひけるは、神の御子イエズスよ、我等と汝と何の関係かあらん、期未至らざるに、我等を苦しめんとて此處に來り給へるか、と。 040 MAT 008 030 然るに彼等を距る事遠からぬ處に、多くの豚の群物喰ひ居ければ、 040 MAT 008 031 惡魔等イエズスに願ひて云ひけるは、若我等を此處より逐払い給はば、豚の群の中に遣り給へ、と。 040 MAT 008 032 イエズス彼等に、往け、と曰ひしかば、彼等出でて豚に憑き、見る見る群皆遽しく、崖より湖に飛入りて水に死せり。 040 MAT 008 033 牧者等逃げて町に至り、一切の事と惡魔に憑かれたりし人々の事とを吹聴せしかば、 040 MAT 008 034 直に町挙りてイエズスを出迎へ、是を見るや其境を過ぎ給はん事を乞へり。 040 MAT 009 001 イエズス小舟に乗り、湖を渡りて己が町に至り給ひしに、 040 MAT 009 002 折しも人々、牀に臥せる癱瘋者を差出だしければ、イエズス彼等の信仰を見て癱瘋者に曰ひけるは、子よ、頼もしかれ、汝の罪赦さる、と。 040 MAT 009 003 折しも或律法學士等心の中に、彼は冒涜の言を吐けり、と謂ひしが、 040 MAT 009 004 イエズス彼等の心を見抜きて曰ひけるは、汝等何ぞ心に惡き事を思ふや。 040 MAT 009 005 汝の罪赦さると云ふと、起きて歩めと云ふと孰か易き。 040 MAT 009 006 然て、人の子地に於て罪を赦すの権あることを汝等に知らせん、とて癱瘋者に向ひ、起きよ、牀を取りて己が家に往け、と曰ひしかば、 040 MAT 009 007 彼起きて家に往けり。 040 MAT 009 008 群衆之を見て畏れ、斯る権能を人に賜ひたる神に光榮を歸したり。 040 MAT 009 009 イエズス此處を出で給ふ時、マテオと名くる人の収税署に坐せるを見て、我に從へ、と曰ひしかば彼起ちて從へり。 040 MAT 009 010 斯てイエズス其家に食に就き給ふ折しも、税吏罪人多く來りて、イエズス及弟子等と共に坐しければ、 040 MAT 009 011 ファリザイ人等見て弟子等に云ひけるは、汝等の師は何故税吏罪人と食を共にするぞ、と。 040 MAT 009 012 イエズス聞きて曰ひけるは、醫者を要するは健なる人に非ずして病める人なり。 040 MAT 009 013 汝等往きて「我が好むは憫なり、犠牲に非ず」とは何の謂なるかを學べ。夫我來りしは義人を召ぶ為に非ず、罪人を召ぶ為なり、と。 040 MAT 009 014 時にヨハネの弟子等、イエズスに近づきて云ひけるは、我等とファリザイ人とは屡断食するに、汝の弟子等は何故に断食せざるぞ。 040 MAT 009 015 イエズス彼等に曰ひけるは、新郎の介添、豈新郎の己等と共に在る間に哀しむを得んや、然れど新郎の彼等より奪はるる日來らん、其時には断食せん。 040 MAT 009 016 生布の片を以て古き衣服を補ぐ人は非ず、其は其片衣服を割きて、破益大なればなり。 040 MAT 009 017 又新しき酒を古き皮嚢に盛る者はあらず、然せば皮嚢破れ酒流れて、嚢も亦廃らん、新しき酒は新しき皮嚢に盛り、斯て兩ながら保つなり、と。 040 MAT 009 018 イエズス是等の事を語り給へる折しも、一人の司近づき拝して云ひけるは、主よ、我女今死せり、然れど來りて彼に按手し給へ、然らば活きん、と。 040 MAT 009 019 イエズス起ちて是に從ひ給ひ、弟子等も從行きけるに、 040 MAT 009 020 折しも血漏を患へること十二年なる女、後より近づきてイエズスの衣服の総に触れたり、 040 MAT 009 021 其は其衣服に触れだにせば我痊えん、と心に思ひ居たればなり。 040 MAT 009 022 イエズス回顧りて之を見給ひ、女よ、頼もしかれ、汝の信仰汝を醫せり、と曰ふや、女、即時に痊えたり。 040 MAT 009 023 イエズス司の家に至り、笛手と囂げる群衆とを見て、 040 MAT 009 024 汝等退け、女は死したるに非ず、寝たるなり、と曰ひければ、人々彼を哂へり。 040 MAT 009 025 群衆の出されし後、イエズス入りて其手を取り給ひしかば、女起きたり、 040 MAT 009 026 斯て此名聲洽く其地に播れり。 040 MAT 009 027 イエズス此處を去り給ふに、二人の瞽者、ダヴィドの裔よ、我等を憐み給へ、と叫びつつ從ひしが、 040 MAT 009 028 イエズス家に至り給ひし時、瞽者等近づきしかば、彼等に曰ひけるは、我之を汝等に為すことを得と信ずるか、と。彼等、主よ、然り、と答へければ、 040 MAT 009 029 イエズス手を其目に触れて、其信仰の儘に汝等に成れ、と曰ふや、 040 MAT 009 030 彼等の目開けたり。イエズス厳しく彼等を戒めて、人に知れざる様慎め、と曰ひしかど、 040 MAT 009 031 彼等出て、洽く其地にイエズスの噂を言弘めたり。 040 MAT 009 032 彼等の出でたる折しも、人々惡魔に憑かれたる一人の唖者をイエズスに差出ししかば、 040 MAT 009 033 惡魔逐払はれて唖者言ひ、群衆感嘆して、斯る事は曾てイスラエルの中に顕れし事なし、と云ひしかど、 040 MAT 009 034 ファリザイ人等は、彼が惡魔を逐払ふは惡魔の長に籍るなり、と云ひ居れり。 040 MAT 009 035 第四款 イエズス及使徒等のガリレア布教 イエズス諸の町村を歴巡り、其會堂に教を説き、[天]國の福音を宣べ、且諸の病、諸の患を醫し居給ひしが、 040 MAT 009 036 群衆を見て、其難みて牧者なき羊の如く臥せるを憐み給へり。 040 MAT 009 037 然て弟子等に曰ひけるは、収穫は多けれども働く者は少し、 040 MAT 009 038 故に働く者を其収穫に遣はさん事を、収穫の主に願へ、と。 040 MAT 010 001 イエズス己が十二の弟子を召集め、是に汚鬼等を逐払ひ、諸の病、諸の患を醫す権能を賜ひしが、 040 MAT 010 002 其十二使徒の名は、第一ペトロと云へるシモン、其兄弟アンデレア、 040 MAT 010 003 ゼベデオの子ヤコボ及其兄弟ヨハネ、フィリッポ及バルトロメオ、トマ及税吏マテオ、アルフェオの[子]ヤコボ及タデオ、 040 MAT 010 004 カナアンのシモン及イエズスを売りしイスカリオテのユダ是なり。 040 MAT 010 005 イエズス此十二人を遣はすとて、命じて曰ひけるは、汝等異邦人の道に往かず、サマリア人の町にも入らず、 040 MAT 010 006 寧イスラエルの家の迷へる羊に往け。 040 MAT 010 007 往きて天國は近づけりと宣教へよ。 040 MAT 010 008 病人を醫し、死人を蘇らせ、癩病人を淨くし、惡魔を逐払へ。價無しに受けたれば價無しに與へよ。 040 MAT 010 009 金銀又は銭を汝等の帯に持つこと勿れ、 040 MAT 010 010 旅嚢も二枚の下着も、沓も杖も亦同じ、其は働く人は其糧を受くるに價すればなり。 040 MAT 010 011 何れの町村に入るも、其中に相應しき人の誰なるかを尋ねて、出るまで其處に留まれ。 040 MAT 010 012 家に入る時、此家に平安あれかしと云ひて之を祝せよ、 040 MAT 010 013 其家果して是に値するものならば、汝等の[祈る]平安其上に臨まん、若し値せざるものならば、其平安汝等に歸らん。 040 MAT 010 014 総て汝等を承けず、汝等の言を聞かざる人に向ひては、其家又は町を出て足の塵を払へ。 040 MAT 010 015 我誠に汝等に告ぐ、審判の日に當りて、ソドマ人とゴモラ人との地は、此町よりも忍び易からん。 040 MAT 010 016 看よ、我が汝等を遣はすは、羊を狼の中に[入るるが]如し、故に蛇の如く敏く、鴿の如く素直なれ。 040 MAT 010 017 人に警戒せよ、其は汝等を衆議所に付し、又其諸會堂にて鞭つべければなり。 040 MAT 010 018 又我為に汝等官吏帝王の前に引かれて、彼等及異邦人に證となる事あるべし、 040 MAT 010 019 付さるる時、如何に又何を云はん、と案ずること勿れ、云ふべき事は其時汝等に賜はるべければなり。 040 MAT 010 020 蓋其語るは汝等に非ずして、父の霊の汝等の中に在して語り給ふなり。 040 MAT 010 021 然りながら兄弟は兄弟を死に付し、父は子を付し、子等は兩親に逆らひ、且之を殺さん、 040 MAT 010 022 又我名の為に、汝等凡ての人に憎まれん、然れど終まで堪忍ぶ人は救はるべし。 040 MAT 010 023 此町にて迫害せられなば他の町に遁れよ、我誠に汝等に告ぐ、人の子の來る迄に、汝等イスラエルの町々を盡さざるべし。 040 MAT 010 024 弟子は其師に優らず、僕は其主人に優らざるなり。 040 MAT 010 025 弟子としては其師の如く、僕としては其主人の如くなれば足れり。人々家父をベエルゼブブと名けたれば、况や其族をや。 040 MAT 010 026 然れは彼等を怖るる勿れ、其は蔽はれて顕れざるべきは無く、隠れて知れざるべきは無ければなり。 040 MAT 010 027 我が暗黒に於て汝等に云ふ事を、汝等光明に於て云へ、耳を當てて聞く事を屋根の上にて宣べよ。 040 MAT 010 028 又身を殺して魂を殺し得ざる者を怖るること勿れ、寧魂と身とを地獄に亡ぼし得る者を怖れよ。 (Geenna g1067) 040 MAT 010 029 二羽の雀は二銭にて売るに非ずや、然も汝等の父によらずしては、其一羽だも地に落つる事あらじ。 040 MAT 010 030 汝等は毛髪までも皆數へられたり、 040 MAT 010 031 故に怖るること勿れ、汝等は多くの雀に優れり。 040 MAT 010 032 然れば総ての人の前に我を宣言する人は、我も亦天に在す我父の御前に之を宣言すべく、 040 MAT 010 033 人の前に我を否む人は、我も亦天に在す我が父の御前に之を否むべし。 040 MAT 010 034 我地に平和を持來れりと思ふこと勿れ、我が持來れるは平和に非ずして刃なり。 040 MAT 010 035 我が來れるは、人を其父より、女を其母より、嫁を其姑より分つべきなり。 040 MAT 010 036 人の族は其仇となるべし。 040 MAT 010 037 我よりも父若くは母を愛する人は我に應はず、我よりも子若くは女を愛する人は我に應はず、 040 MAT 010 038 又己が十字架を取りて我に從はざる人は我に應はざるなり、 040 MAT 010 039 己が生命を保つ人は之を失ひ、我為に生命を失ふ人は之を保たん。 040 MAT 010 040 汝等を承くる人は我を承くるなり、我を承くる人は我を遣はし給ひし者を承くるなり。 040 MAT 010 041 預言者の名の為に預言者を承くる人は、預言者の報を受け、義人の名の為に義人を承くる人は、義人の報を受けん。 040 MAT 010 042 誰にもあれ、弟子の名の為に、冷水の一杯をも、此最小き者の一人に飲まする人は、我誠に汝等に告ぐ、其報を失ふことあらじ、[と宣へり]。 040 MAT 011 001 第五款 イエズス及洗者ヨハネ 斯てイエズス十二の弟子に命じ畢り給ひて、彼等の町々に教へ且説教せんとて、其處を去り給ひしが、 040 MAT 011 002 ヨハネは監獄に在りてキリストの業を聞きしかば、其弟子の二人を遣はして、 040 MAT 011 003 彼に云はしめけるは、來るべき者は汝なるか、或は我等の待てる者尚他に在るか、と。 040 MAT 011 004 イエズス彼等に答へて曰ひけるは、往きて汝等の聞き且見し所をヨハネに告げよ、 040 MAT 011 005 瞽者は見え、跛者は歩み、癩病者は潔くなり、聾者は聞え、死者は蘇り、貧者は福音を聞かせらる、 040 MAT 011 006 斯て我に就きて躓かざる人は福なり、と。 040 MAT 011 007 彼等の去るや、イエズスヨハネの事を群衆に語り出で給ひけるは、汝等何を見んとて荒野に出しぞ、風に動かさるる葦か。 040 MAT 011 008 然らば何を見んとて出しぞ、柔き物を着たる人か、看よ、柔き物を着たる人々は帝王の家に在り。 040 MAT 011 009 然らば何を見んとて出しぞ、預言者か、我汝等に告ぐ、然り、預言者よりも優れる者なり。 040 MAT 011 010 録して「看よ、我使を汝の面前に遣はさん、彼汝に先ちて汝の道を備ふべし」とあるは、彼が事なり。 040 MAT 011 011 我誠に汝等に告ぐ、婦より生れたる者の中に、洗者ヨハネより大なる者は未曾て起らず、然れど天國にて最小き人も、彼よりは大なり。 040 MAT 011 012 洗者ヨハネの日より今に至りて、天國は暴力に襲はれ、暴力の者之を奪ふ、 040 MAT 011 013 其は諸の預言者と律法との預言したるは、ヨハネに至る迄なればなり。 040 MAT 011 014 汝等若暁らんと欲せば、彼は來るべきエリアなり。 040 MAT 011 015 聴く耳を持てる人は聴け。 040 MAT 011 016 現代を誰に比へんか、恰も衢に坐せる童が友等に叫びて、 040 MAT 011 017 我等汝等の為に笛吹きたれども汝等踊らず、我等嘆きたれども汝等悲しまざりき、と云ふに似たり。 040 MAT 011 018 蓋ヨハネ來りて飲食せざれば、惡魔に憑かれたりと云はれ、 040 MAT 011 019 人の子來りて飲食すれば、看よ彼は食を貪り酒を飲む人にて、税吏及罪人の友なり、と云はる。然りながら智恵は其子等に義しとせられたり、と。 040 MAT 011 020 第六款 不信仰の報と信仰の報 然てイエズス、奇蹟の多く行はれたる町々の改心せざるによりて、之を責め始め給ひけるは、 040 MAT 011 021 禍なる哉汝コロザイン、禍なる哉汝ベッサイダ。蓋汝等の中に行はれし奇蹟、若チロとシドンとの中に行はれしならば、彼等は夙に改心して、荒き毛衣を纏ひ灰を蒙りしならん。 040 MAT 011 022 然れば我汝等に告ぐ、審判の日に於て、チロとシドンとは汝等よりも忍び易からん。 040 MAT 011 023 カファルナウムよ、汝も何ぞ天にまで上げられんや、當に地獄にまでも陥るべし。蓋汝の中に行はれし奇蹟、若ソドマに行はれしならば、彼は必ず今日まで猶遺りしならん。 (Hadēs g86) 040 MAT 011 024 然れば我汝等に告ぐ、審判の日に於て、ソドマの地は汝よりも忍び易からん、と。 040 MAT 011 025 其時イエズス復曰ひけるは、天地の主なる父よ、我汝を稱賛す、其は是等の事を學者智者に隠して、小き人々に顕し給ひたればなり。 040 MAT 011 026 然り父よ、斯の如きは御意に適ひし故なり。 040 MAT 011 027 一切の物は我父より我に賜はれり、父の外に子を知る者なく、子及子より肯て示されたらん者の外に、父を知る者なし。 040 MAT 011 028 我に來れ、総て勞苦して重荷を負へる者よ、我は汝等を回復せしめん。 040 MAT 011 029 我は柔和にして心謙遜なるが故に、汝等自我軛を取りて我に學べ、然らば汝等の魂に安息を得べし。 040 MAT 011 030 其は我が[負はする]軛は快く、荷は軽ければなり。 040 MAT 012 001 第一款 イエズスとファリザイ人 其頃、イエズス安息日に當りて[麦]畑を過ぎ給ひしが、弟子等飢ゑて穂を摘み食始めしかば、 040 MAT 012 002 ファリザイ人之を見てイエズスに向ひ、看よ、汝の弟子等安息日に為すべからざる事を為すぞ、と云ひしに、 040 MAT 012 003 イエズス曰ひけるは、ダヴィドが己及伴へる人々の飢ゑし時に為しし事を、汝等読まざりしか。 040 MAT 012 004 即彼は神の家に入り、司祭ならでは、彼も伴へる人々も食すべからざる、供の麪を食せしなり。 040 MAT 012 005 又、安息日に司祭等[神]殿にて安息を犯せども罪なし、と律法にあるを読まざりしか。 040 MAT 012 006 我汝等に告ぐ、[神]殿よりも大なるもの此處に在り。 040 MAT 012 007 汝等若「我が好むは憫なり、犠牲に非ず」とは何の謂なるかを知らば、罪なき人を罪せざりしならん、 040 MAT 012 008 其は人の子は亦安息日の主なればなり、と。 040 MAT 012 009 イエズス此處を去りて、彼等の會堂に至り給ひしに、 040 MAT 012 010 折しも隻手痿たる人あり。彼等イエズスを訟へんとて、安息日に醫すは可きか、と問ひしかば、 040 MAT 012 011 イエズス曰ひけるは、汝等の中一頭の羊有てる者あらんに、若其羊安息日に坑に陥らば、誰か之を取上げざらんや、 040 MAT 012 012 人の羊に優れること幾何ぞや。然れば安息日に善を為すは可し、と。 040 MAT 012 013 頓て其人に、手を伸べよ、と曰ひければ、彼伸ばしたるに、其手痊えて他と齊しくなれり。 040 MAT 012 014 斯てファリザイ人出でて、如何にしてかイエズスを亡ぼさんと謀り居るを、 040 MAT 012 015 イエズス知りて此處を去り給ひしが、多くの人從ひしかば、悉く彼等を醫し、 040 MAT 012 016 且我を言顕すこと勿れ、と戒め給へり。 040 MAT 012 017 是預言者イザヤによりて云はれし事の成就せん為なり、 040 MAT 012 018 曰く「是ぞ我選みし我僕、我心に能く適へる最愛の者なる、我彼の上に我霊を置けり。彼は異邦人に正義を告げん。 040 MAT 012 019 争はず叫ばず、誰も衢に其聲を聞かず、 040 MAT 012 020 正義を勝利に至らしむるまで、折れたる葦を断たず、煙れる麻を熄す事なからん、 040 MAT 012 021 又異邦人は彼の名を仰ぎ望まん」と。 040 MAT 012 022 時に一人、惡魔に憑かれて瞽ひ口唖なるもの差出されしを、イエズス醫し給ひて、彼言ひ且見るに至りしかば、 040 MAT 012 023 群衆皆驚きて、是ダヴィドの子に非ずや、と云へるを、 040 MAT 012 024 ファイリザイ人聞きて、彼が惡魔を逐払ふは、唯惡魔の長ベエルゼブブに籍るのみ、と云へり。 040 MAT 012 025 イエズス彼等の心を知りて曰ひけるは、総て分れ争ふ國は亡びん、又総て分れ争ふ町と家とは立たじ。 040 MAT 012 026 サタン若サタンを逐払はば、自分るるなり、然らば其國如何にしてか立つべき。 040 MAT 012 027 我若ベエルゼブブに籍りて惡魔を逐払ふならば、汝等の子等は誰に籍りて逐払ふぞ、然れば彼等は汝等の審判者となるべし。 040 MAT 012 028 然れど我若神の霊に籍りて惡魔を逐払ふならば、神の國は汝等に格れるなり。 040 MAT 012 029 又人先強き者を縛るに非ずんば、爭でか強き者の家に入りて其家具を掠むることを得ん、[縛りて]後こそ其家を掠むべけれ。 040 MAT 012 030 我に與せざる人は我に反し、我と共に歛めざる人は散らすなり。 040 MAT 012 031 故に我汝等に告ぐ、凡ての罪及冒涜は人に赦されん、然れど[聖]霊に對する冒涜は赦されざるべし。 040 MAT 012 032 又総て人の子に對して[冒涜の]言を吐く人は赦されん、然れど聖霊に對して之を吐く人は、此世、後世共に赦されざるべし。 (aiōn g165) 040 MAT 012 033 或は樹を善しとし其果をも善しとせよ、或は樹を惡しとし其果をも惡しとせよ、樹は其果によりて知らるればなり。 040 MAT 012 034 蝮の裔よ、汝等惡しければ、爭でか善きを云ふを得ん、口に語るは心に充てる所より出ればなり。 040 MAT 012 035 善き人は善き庫より善き物を出し、惡しき人は惡しき庫より惡しき物を出す。 040 MAT 012 036 我汝等に告ぐ、総て人の語りたる無益な言は、審判の日に於て之を糺さるべし。 040 MAT 012 037 其は汝其言によりて義とされ、又其言によりて罪せらるべければなり、と。 040 MAT 012 038 其時數人の律法學士及ファリザイ人、彼に答へて云ひけるは、師よ、我等汝の為す徴を見んと欲す、と。 040 MAT 012 039 イエズス答へて曰ひけるは、奸惡なる現代は徴を求むれども、預言者ヨナの徴の外は徴を與へられじ。 040 MAT 012 040 即ヨナが三日三夜魚の腹に在りし如く、人の子も三日三夜地の中に在らん。 040 MAT 012 041 ニニヴの人々は、審判の時現代と共に立ちて之を罪に定めん、彼等はヨナの説教によりて改心したればなり、見よ、ヨナに優れるもの茲に在り。 040 MAT 012 042 南方の女王は、審判の時現代と共に立ちて之を罪に定めん、彼はサロモンの智恵を聴かんとて地の極より來りたればなり、見よ、サロモンに優れるもの茲に在り。 040 MAT 012 043 汚鬼人より出でし時、荒れたる處を巡りて息を求むれども得ず、 040 MAT 012 044 是に於て、出でし我家に歸らんと云ひて、來りて其家の既に空き、掃清められ飾られたるを見るや、 040 MAT 012 045 乃往きて己よりも惡き七の惡鬼を携へ、偕に入りて此處に住む。斯て彼人の末は、前よりも更に惡くなり増る。極惡なる現代も亦斯の如くならん、と。 040 MAT 012 046 イエズス尚群衆に語り給へる折しも、母と兄弟等と、彼に物語せんとて外に立ちければ、 040 MAT 012 047 或人云ひけるは、看よ、汝の母、兄弟汝を尋ねて外に立てり、と。 040 MAT 012 048 イエズス己に告げし人に答へて曰ひけるは、誰か我母、誰か我兄弟なるぞ、と。 040 MAT 012 049 即手を弟子等の方に伸べて曰ひけるは、是ぞ我母我兄弟なる、 040 MAT 012 050 其は誰にもあれ、天に在す我父の御旨を行ふ人、即是我兄弟姉妹母なればなり、と。 040 MAT 013 001 第二款 天國の喩 其日イエズス家を出でて湖辺に坐し居給へるに、 040 MAT 013 002 群衆夥しく其許に集まりしかば、イエズス小舟に乗りて坐し給ひ、群衆皆濱に立ち居りしが、 040 MAT 013 003 喩を以て數多の事を彼等に語りて曰ひけるは、種撒く人撒きに出でしが、 040 MAT 013 004 撒く時或種は路傍に遺ちしかば、空の鳥來りて、之を啄めり。 040 MAT 013 005 或種は土少き磽地に遺ちしかば、土の浅きに由りて直に生出でたれど、 040 MAT 013 006 日出でて灼け、根なきに因りて枯れたり。 040 MAT 013 007 或種は茨の中に遺ちしかば、茨長ちて之を塞げり。 040 MAT 013 008 或種は沃土に遺ちて、或は百倍、或は六十倍、或は三十倍の實を結べり。 040 MAT 013 009 聴く耳を有てる人は聴け、と。 040 MAT 013 010 弟子等近づきて、何ぞ喩を以て彼等に語り給ふや、と云ひしかば、 040 MAT 013 011 答へて曰ひけるは、汝等は天國の奥義を知る事を賜はりたれども、彼等は賜はらざるなり。 040 MAT 013 012 夫有てる人は尚與へられて裕ならん、然れど有たぬ人は其有てる所をも奪はれん。 040 MAT 013 013 喩を以て彼等に語るは、彼等見れども見えず、聞けども聞えず、又暁らざるが故なり、と。 040 MAT 013 014 斯てイザヤの預言彼等に於て成就す、曰く「汝等は聞きて聞ゆれども暁らず、見て見ゆれども認らざらん。 040 MAT 013 015 其は目に見えず、耳に聞えず、心に暁らず、立歸りて我に醫されざらん為に、此民の心鈍くなりて、其耳は聞くに嬾く、其目は閉ぢたればなり」と。 040 MAT 013 016 汝等の目は福なり、見ゆればなり、汝等の耳も[福なり、]聞ゆればなり。 040 MAT 013 017 我誠に汝等に告ぐ、多くの預言者と義人とは、汝等の見る所を見んと欲せしかど見えず、汝等の聞く所を聞かんと欲せしかど聞えざりき。 040 MAT 013 018 然れば汝等種捲く播く人の喩を聞け、 040 MAT 013 019 総て人[天]國の言を聞きて暁らざる時は、惡魔來りて其心に播かれたるものを奪ふ、此路傍に播かれたるものなり。 040 MAT 013 020 磽地に播かれたるは、言を聞きて直に喜び受くれども、 040 MAT 013 021 己に根なく暫時のみにして、言の為に患難と迫害と起れば、忽に躓くものなり。 040 MAT 013 022 茨の中に播かれたるは、言を聞けども、此世の慮と財の惑と其言を塞ぎて、實らずなれるものなり。 (aiōn g165) 040 MAT 013 023 沃土に播かれたるは、言を聞きて暁り、實を結びて或は百倍、或は六十倍、或は三十倍を出すものなり、と。 040 MAT 013 024 イエズス又他の喩を彼等に提出でて曰ひけるは、天國は良き種を其畑に播きたる人に似たり。 040 MAT 013 025 人々の寝たる間に、其敵來りて麦の中に毒麦を播きて去りしが、 040 MAT 013 026 苗長ちて實りたるに、毒麦も現れしかば、 040 MAT 013 027 僕等近づきて家父に云ひけるは、主よ、良き種を畑に播きたるに非ずや、然れば毒麦は何によりてか生えたる。 040 MAT 013 028 彼云ひけるは、敵なる人之を為せり、と。僕等、我等往きて之を集めなば如何に、と云ひしに、 040 MAT 013 029 家父云ひけるは、否、恐らくは、汝等毒麦を集むるに、是と共に麦をも抜かん。 040 MAT 013 030 収穫まで兩ながら長て置け、収穫の時我刈る者に對ひて、先毒麦を集めて焚く為に之を束ね、麦をば我倉に収めよ、と云はん、と。 040 MAT 013 031 又他の喩を彼等に提出て曰ひけるは、天國は人の取りて其畑に播きたる芥種に似たり。 040 MAT 013 032 凡ての種の中最小きものなれども、長ちて後は凡ての野菜より大くして、空の鳥其枝に來りて棲む程の樹と成る、と。 040 MAT 013 033 又他の喩を彼等に語り給ひけるは、天國は麪酵に似たり、即婦之を取りて三斗の粉の中に隠せば悉く脹るるに至る、と。 040 MAT 013 034 イエズス総て是等の事を喩もて群衆に語り給ひしが、喩なしには語り給ふ事なかりき。 040 MAT 013 035 是預言者に託りて云はれたりし事の成就せん為なり、曰く「我喩を設けて口を開き、世の始より隠れたる事を告げん」と。 040 MAT 013 036 然て群衆を去らしめ、家に至り給ひしに、弟子等に近づきて、畑の毒麦の喩を我等に解き給へ、と云ひければ、 040 MAT 013 037 答へて曰ひけるは、良き種を撒く者は人の子なり、 040 MAT 013 038 畑は世界なり、良き種は[天]國の子等なり、毒麦は惡魔の子等なり、 040 MAT 013 039 之を撒きし敵は惡魔なり、収穫は世の終なり、刈る者は[天]使等なり、 (aiōn g165) 040 MAT 013 040 然れば毒麦の集められて火に焚かるる如く、此世の終にも亦然らん。 (aiōn g165) 040 MAT 013 041 人の子其使等を遣はし、彼等は其國より総て躓かする者と惡を為す者とを集めて、 040 MAT 013 042 火の窯に入れん。其處には痛哭と切歯とあらん。 040 MAT 013 043 其時義人等は父の國にて日の如く輝かん。聴く耳を有てる人は聴け。 040 MAT 013 044 天國は畑に蔵れたる寶の如し、見出せる人は之を秘し置きて喜つつ去り、其所有物を悉く売りて、其畑を購ふなり。 040 MAT 013 045 天國は又、美き眞珠を求むる商人の如し、 040 MAT 013 046 値高き眞珠一個を見出すや、往きて其所有物を悉く売りて、之を購ふなり。 040 MAT 013 047 天國は又、海に張りて種々の魚を集むる網の如し、 040 MAT 013 048 充ちたる時人之を引揚げ、濱に坐して良き魚を器に入れ、否き魚をば棄つるなり。 040 MAT 013 049 世の終に於て斯の如くなるべし、即[天]使等出でて、義人の中より惡人を分ち、 (aiōn g165) 040 MAT 013 050 之を火の窯に入れん、其處には痛哭と切歯とあらん。 040 MAT 013 051 汝等此事を皆暁りしか、と宣へるに、彼等然りと答へければ、 040 MAT 013 052 イエズス曰ひけるは、然れば天國の事を教へられたる凡ての律法學士は、新しきものと古きものとを其庫の中より出す家父に似たり、と。 040 MAT 013 053 第三款 處々への旅行。ファリザイ人の憎彌増す。 斯てイエズス此喩を宣ひ了り、其處を去りて、 040 MAT 013 054 故郷に至り、諸會堂にて教へ給へるに、人々感嘆して云ひけるは、彼は此智恵と奇蹟とを何處より得たるぞ、 040 MAT 013 055 彼は職人の子に非ずや、其母はマリアと呼ばれ、其兄弟はヤコボヨゼフシモンユダと呼ばるる[者等]に非ずや、 040 MAT 013 056 其姉妹も皆我等の中に居るに非ずや。然れば此凡ての事は何處より得來りしぞ、と。 040 MAT 013 057 遂に彼に関きて躓き居たりしに、イエズス曰ひけるは、預言者の敬はれざるは、唯其故郷、其家に於てのみ、と。 040 MAT 013 058 斯て彼等の不信仰に因りて、數多の奇蹟を其處に為し給ふこと能はざりき。 040 MAT 014 001 當頃分國の王ヘロデ、イエズスの名聲を聞きて、 040 MAT 014 002 其臣下に云ひけるは、是洗者ヨハネなり、死人の中より、蘇りたる者なれば、不思議彼の手に行はる、と。 040 MAT 014 003 蓋ヘロデ曾て、其兄弟[フィリッポ]の妻ヘロヂアデの事に由りてヨハネを捕へ、縛りて監獄に入れたりき。 040 MAT 014 004 其はヨハネ彼に向ひて、汝が彼婦を有つは可からず、と云ひたればなり。 040 MAT 014 005 斯て之を殺さんと欲せしかども、人民の彼を預言者と認め居れるを以て之に懼れたりき。 040 MAT 014 006 然てヘロデの誕生日に當りて、ヘロヂアデの女席上にて踊り、ヘロデの心に適ひしかば、 040 MAT 014 007 ヘロデ誓ひて、何物を求むるも之を與へんと約せり。 040 MAT 014 008 女は母に旨を含められて、洗者ヨハネの頭を盆に載せて茲に我に賜へ、と云ひしかば、 040 MAT 014 009 王心に憂ふれども、誓ひたるが為、且は列席せる人々の為、遂に之を與ふる事を命じ、 040 MAT 014 010 人を遣はして監獄にヨハネを刎ねたり、 040 MAT 014 011 斯て其頭盆に載せられて女に與へられしを、女母に持行きしが、 040 MAT 014 012 ヨハネの弟子等至り、其屍を取りて之を葬り、且往きてイエズスに告げたり。 040 MAT 014 013 イエズス之を聞き給ひて、小舟にて其處を去り、寂しき處に避け給ひしが、群衆之を聞きて、町々より徒歩にて從ひしかば、 040 MAT 014 014 出でて群衆の夥しきを見、之を憐みて其病者を醫し給へり。 040 MAT 014 015 日暮れんとする時、弟子等イエズスに近づきて云ひけるは、處は寂しく時は既に過ぎたり。邑々に往きて己が食物を買はん為に、群衆をして去らしめ給へ、と。 040 MAT 014 016 イエズス彼等に向ひ、人々の往くを要せず、汝等是に食を與へよ、と曰ひしかば、 040 MAT 014 017 彼等答へけるは、我等が此處に有てるは五の麪と二の魚とのみ。 040 MAT 014 018 イエズス彼等に曰ひけるは、其を我に持來れ、と。 040 MAT 014 019 斯て命じて群衆を草の上にすわらせ、五の麪と二の魚とを取り、天を仰ぎて祝し、擘きて其麪を弟子等に與へ給ひ、弟子等又之を群衆に與へしかば、 040 MAT 014 020 皆食して飽足れり。殘を拾ひて屑十二の筐に満ちしが、 040 MAT 014 021 食せし者の數は、婦女と幼童とを除きて五千人なりき。 040 MAT 014 022 イエズス直に弟子等を強ひて小舟に乗らしめ、自群衆を去らしむる間に、先ちて湖の彼方へ往かしめ給ひしが、 040 MAT 014 023 群衆を去らしめて後、獨祈らんとて山に登り、日暮れて獨其處に居給へり。 040 MAT 014 024 然て小舟は湖の眞中にて、逆風の為波に漂ひてありしが、 040 MAT 014 025 夜の三時頃イエズスの湖の上を歩みて彼等に至り給ひければ、 040 MAT 014 026 彼等湖の上を歩み給ふを見て心騒ぎ、怪物なりとて怖れ叫べり。 040 MAT 014 027 イエズス直に言を出して、頼もしかれ、我なるぞ、怖るること勿れ、と曰ひしかば、 040 MAT 014 028 ペトロ答へて云ひけるは、主よ、汝ならば水を踏みて汝に至る事を我に命じ給へ、と。 040 MAT 014 029 イエズス、來れと曰ひけるに、ペトロ小舟より下り、イエズスに至らんとて水の上を歩み居りしが、 040 MAT 014 030 風の強きを見て懼れ、沈まんとせしかば、叫びて、主よ我を救ひ給へ、と云へり。 040 MAT 014 031 イエズス直に手を伸べ、之を捉へて曰ひけるは、信仰薄き者よ、何故に疑ひしぞ、と。 040 MAT 014 032 即共に小舟に乗りしに、風凪ぎたり。 040 MAT 014 033 小舟に居合せし人々近づきて、汝は實に神の子なり、と云ひつつイエズスを禮拝せり。 040 MAT 014 034 遂に渡りてゲネザルの地に至りしに、 040 MAT 014 035 土地の人々イエズスを認めて、其全地方に人を遣はして、凡ての病者を是に差出し、 040 MAT 014 036 其衣服の総にだも触れんことを願ひたりしが、触れたる者悉く痊えたり。 040 MAT 015 001 時に、エルザレムより律法學士とファリザイ人と來り、イエズスに近づきて云ひけるは、 040 MAT 015 002 汝の弟子等は何故に古人の傳を犯すぞ。蓋麪を食する時に手を洗はざるなり、と。 040 MAT 015 003 答へて曰ひけるは、汝等も亦己が傳の為に神の掟を犯すは何ぞや、蓋神曰く、 040 MAT 015 004 「父母を敬へ。又父或は母を詛ふ人は殺さるべし」と。 040 MAT 015 005 然るに汝等は云ふ、誰にても父或は母に向ひて、我献物は皆汝の為ならんとだに云へば、 040 MAT 015 006 其父或は母を敬はずして可なりと、斯て汝等は己が傳の為に神の掟を空しくせり。 040 MAT 015 007 僞善者よ、イザヤは汝等に就きて能く預言して、 040 MAT 015 008 云らく「此人民は唇に我を敬へども、其心は我に遠ざかり、 040 MAT 015 009 人の訓戒を教へて徒に我を尊ぶなり」と。 040 MAT 015 010 イエズス群衆を召集めて曰ひけるは、 040 MAT 015 011 汝等聞きて暁れ、 040 MAT 015 012 口に入る物人を汚すに非ず、口より出づる者こそ人を汚すなれ、と。其時弟子等近づきて云ひけるは、ファリザイ人が此言を聞きて躓けるを知り給ふか。 040 MAT 015 013 イエズス答へて曰ひけるは、総て我天父の植ゑ給はざる植物は抜かるべし、 040 MAT 015 014 汝等彼人々を措け、彼等は瞽者にして瞽者の手引なり、瞽者若瞽者を手引せば二人とも坑に陥るべし、と。 040 MAT 015 015 ペトロ是に答へて、此喩を我等に釈き給へ、と云ひしかば、 040 MAT 015 016 イエズス曰ひけるは、汝等猶智恵なき者なるか、 040 MAT 015 017 総て口に入る物は腹に至りて厠に落つと暁らざるか、 040 MAT 015 018 然れど口より出づる物は、心より出でて人を汚すなり、 040 MAT 015 019 即ち惡念人殺姦淫私通偸盗僞證冒涜は心より出づ、 040 MAT 015 020 是等こそ人を汚すものなれ、然れど手を洗はずして食する事は人を汚さざるなり、と。 040 MAT 015 021 イエズス此處を去りて、チロとシドンとの地方に避け給ひしに、 040 MAT 015 022 折しもカナアンの或婦其地方より出で、叫びて、主よ、ダヴィドの子よ、我を憫み給へ、我が女甚く惡魔に苦しめらる、と云へるに、 040 MAT 015 023 イエズス一言も答へ給はざれば、弟子等近づきて、彼婦我等の後に叫ぶ、彼を去らしめ給へ、と請へども、 040 MAT 015 024 イエズス答へて、我は唯イスラエルの家の迷へる羊に遣はされしのみ、と曰へり。 040 MAT 015 025 然るに婦來り禮拝して、主よ、我を助け給へ、と云ひしに、 040 MAT 015 026 答へて、子等の麪を取りて犬に投與ふるは可からず、と曰ひしかば、 040 MAT 015 027 婦云ひけるは、主よ、然り、然れども子犬も其主人の食卓より落つる屑を食ふなり、と。 040 MAT 015 028 イエズス遂に彼に答へて、嗚呼婦よ、大なる哉汝の信仰、望める儘に汝に成れと、曰ひければ、其女即時に痊えたり。 040 MAT 015 029 イエズス此處を過ぎて、ガリレアの湖辺に至り、山に登りて坐し給ひければ、 040 MAT 015 030 夥しき群衆あり、唖者瞽者跛者不具者其外多くの者を携へて彼に近づき、其足下に放置きしに、イエズス是等を醫し給へり。 040 MAT 015 031 然れば群衆は唖者の言ひ、跛者の歩み、瞽者の見ゆるを見て感嘆し、光榮をイスラエルの神に歸し奉れり。 040 MAT 015 032 時にイエズス、弟子等を召集めて曰ひけるは、我[此]群衆を憐む、蓋忍びて我と共に居る事既に三日にして食すべき物なし、我之を空腹にして去らしむるを好まず、恐らくは途にて倒れん、と。 040 MAT 015 033 弟子等云ひけるは、然りとて此荒野にて、斯程の群衆を飽かすべき麪を、我等何處よりか求め得ん。 040 MAT 015 034 イエズス曰ひけるは、汝等幾個の麪をか有てる、と。答へて、七と少しの小魚とあり、と云ひしかば、 040 MAT 015 035 イエズス命じて群衆を地に坐らせ、 040 MAT 015 036 七の麪と其魚とを取り、謝して擘き、弟子等に與へ給ひ、弟子等之を人民に與へ、 040 MAT 015 037 皆食して飽足れり。殘の屑を拾ひて七の筐に満ちしが 040 MAT 015 038 食せし者は、婦女と幼童とを除きて四千人なりき。 040 MAT 015 039 イエズス群衆を去らしめ、小舟に乗りてマゲダンの地方に至り給へり。 040 MAT 016 001 ファリザイ人とサドカイ人と、イエズスを試みんとて近づき、天よりの徴を示されん事を請ひしかば、 040 MAT 016 002 答へて曰ひけるは、汝等夕暮には、空紅ければ、晴天ならんと云ひ、 040 MAT 016 003 朝には、空曇りて赤味あれば、今日暴風あらんと云ふ。 040 MAT 016 004 然れば空の景色を見分くる事を知りて、時の徴を知る事を得ざるか。奸惡なる現代は徴を求むれども、預言者ヨナの徴の外には徴を與へられじ、と。遂に彼等を離れて去り給へり。 040 MAT 016 005 弟子等湖の彼方に至りしに、麪を携ふる事を忘れたり。 040 MAT 016 006 イエズス彼等に向ひ、慎みてファリザイ人サドカイ人の麪酵に用心せよ、と曰ひしかば、 040 MAT 016 007 彼等案じ合ひて、我等が麪を携へざりし故ならん、と云へるを、 040 MAT 016 008 イエズス悟りて曰ひけるは、信仰薄き者よ、何ぞ麪を有たぬ事を案じ合へる。 040 MAT 016 009 未暁らざるか、五の麪を五千人に分ちて、尚幾筐を拾ひ、 040 MAT 016 010 又七の麪を四千人に分ちて、尚幾筐を拾ひしを記憶せざるか 040 MAT 016 011 ファリザイ人サドカイ人の麪酵に用心せよ、と汝等に云ひしは、麪の事に非ざるものを、何ぞ暁らざる、と。 040 MAT 016 012 是に於て彼等、イエズスの用心すべしと曰ひしは麪の酵に非ずして、ファリザイ人サドカイ人の教なる事を暁れり。 040 MAT 016 013 第四款 ガリレアに於るイエズス布教の盛時 イエズスフィリッポのカイザリア地方に至り、弟子等に問ひて、人々は人の子を誰なりと云ふか、と曰ひしかば、 040 MAT 016 014 彼等云ひけるは、或人は洗者ヨハネなりと云ひ、或人はエリアなりと云ひ、或人はエレミア若くは預言者の一人なり[と云ふ]、と。 040 MAT 016 015 イエズス彼等に曰ひけるは、然るに汝等は我を誰なりと云ふか、 040 MAT 016 016 シモンペトロ答へて、汝は活ける神御子キリストなり、と云ひしに、 040 MAT 016 017 イエズス答へて曰ひけるは、汝は福なり、ヨナの子シモン、其は之を汝に示したるは血肉に非ずして、天に在す我父なればなり。 040 MAT 016 018 我も亦汝に告ぐ、汝は磐なり、我此磐の上に我教會を建てん、斯て地獄の門是に勝たざるべし。 (Hadēs g86) 040 MAT 016 019 我尚天國の鍵を汝に與へん、総て汝が地上にて繋がん所は、天にても繋がるべし、又総て汝が地上にて釈かん所は、天にても釈かるべし。 040 MAT 016 020 然て我がイエズス、キリストたる事を誰にも語ること勿れ、と弟子等を戒め給へり。 040 MAT 016 021 此時よりイエズス、己のエルザレムに往きて、長老律法學士司祭長等より多くの苦を受け、而して殺され、而して三日目に復活すべき事を、弟子等に示し始め給ひしかば、 040 MAT 016 022 ペトロイエズスを呼退けて、諌め出でて云ひけるは、主よ、然らざるべし、此事御身上に在るまじ、と。 040 MAT 016 023 イエズス顧みてペトロに曰ひけるは、サタンよ退け、汝我を躓かせんとす、其は汝が味へるは、神の事に非ずして人の事なればなり、と。 040 MAT 016 024 時にイエズス弟子等に曰ひけるは、人若我後に跟きて來らんと欲せば、己を棄て、己が十字架を取りて我に從ふべし、 040 MAT 016 025 其は己が生命を救はんと欲する人は之を失ひ、我為に生命を失ふ人は之を得べければなり。 040 MAT 016 026 人全世界を贏くとも、若其生命を失はば何の益かあらん、又人何物を以てか其魂に易えん。 040 MAT 016 027 蓋人の子は、其父の光榮の衷に、其使等と共に來らん、其時人毎に其行に從ひて報ゆべし。 040 MAT 016 028 我誠に汝等に告ぐ、茲に立てる者の中、人の子が其國を以て來るを見るまで死なざるもの數人あり、と。 040 MAT 017 001 六日の後イエズス、ペトロとヤコボと其兄弟ヨハネとを別に、高き山に連行き給ひしに、 040 MAT 017 002 彼等の前にて御容變り、御顔は日の如く輝き、其衣服は雪の如く白くなれり。 040 MAT 017 003 折しもモイゼとエリアと、彼等に現れてイエズスと語り居りしが、 040 MAT 017 004 ペトロ答へてイエズスに云ひけるは、主よ、善哉我等が此處に居る事。思召ならば、此處に三の廬を造り、一は汝の為、一はモイゼの為、一はエリアの為にせん、と。 040 MAT 017 005 彼尚語れるに、折しも輝ける雲彼等を蔽ひ、雲より聲して曰はく、「是ぞ能く我心を安んぜる我愛子なる、是に聴け」、と。 040 MAT 017 006 弟子等聴きつつ倒伏し、懼るる事甚しかりき。 040 MAT 017 007 イエズス近づきて彼等に触れ、起きよ、懼るること勿れ、と曰ひしかば、 040 MAT 017 008 彼等目を翹げしに、イエズスの外誰をも見ざりき。 040 MAT 017 009 彼等が山を下る時、イエズス是を戒めて、人の子死人の中より蘇る迄は、汝等が見し事を誰にも語ること勿れ、と曰ひしに、 040 MAT 017 010 弟子等問ひて云ひけるは、然らばエリア先に來るべし、と律法學士等の云へるは何ぞや。 040 MAT 017 011 答へて曰ひけるは、實にエリアは來りて萬事を改むべし。 040 MAT 017 012 但我汝等に告ぐ、エリアは既に來れり、然れど人々之を識らず、而も縦に遇へり。斯の如く、人の子も亦彼等より苦を受けんとす、と。 040 MAT 017 013 是に於て弟子等、是洗者ヨハネを斥して曰ひしものなる事を暁れり。 040 MAT 017 014 イエズス群衆の處に來り給ひしに、或人是に近づき、前に跪きて云ひけるは、 040 MAT 017 015 主よ、我子を憐み給へ、癲癇にて屡火の中に倒れ、苦しむこと甚し、 040 MAT 017 016 之を汝の弟子等に差出したれど、彼等は醫すこと能はざりき、と。 040 MAT 017 017 イエズス答へて、嗚呼不信邪惡の代なる哉。我何時まで汝等と共に居らんや、何時まで汝等を忍ばんや。彼を我に携へ來れ、と曰ひて、 040 MAT 017 018 惡魔を戒め給ひしかば、惡魔出でて子は即時に痊えたり。 040 MAT 017 019 時に弟子等竊にイエズスに近づきて、我等が之を逐出す能はざりしは何故ぞ、と云ひしに、 040 MAT 017 020 イエズス曰ひけるは、汝等の不信仰に由れり。我誠に汝等に告ぐ、汝等若芥種ほどの信仰だにあらば、此山に向ひて、此處より彼處に移れと云はんに、山移らん、斯て汝等に能はざる事なからん。 040 MAT 017 021 然れど此類は、祈祷と断食とに由らざれば逐出されざるなり、と。 040 MAT 017 022 弟子等ガリレアに居れるに、イエズス曰ひけるは、人の子は人々の手に付されんとす、 040 MAT 017 023 彼等は之を殺すべく、斯て三日目に蘇るべし、と。弟子等憂ふる事甚しかりき。 040 MAT 017 024 彼等カファルナウムに來りし時、二ドラクマ銀貨を取立つる人々ペトロに近づき、汝等の師は二ドラクマ銀貨を納めざるか、と云ひしかばペトロ、 040 MAT 017 025 納む、と云ひしが、頓て家に入りしに、イエズス先ちて之に曰ひけるは、シモンよ汝如何に思ふぞ、世の帝王は、貢又は税を誰より取るぞ、己が子等よりか、他人よりか、と。 040 MAT 017 026 ペトロ、他人より取るなり、と云ひしに、イエズス曰ひけるは、然らば子等は自由なり。 040 MAT 017 027 然れど彼等を躓かせざる為に、汝湖に往きて釣を垂れよ、さて初に上る魚を取りて其口を開かば、スタテル銀貨を得べし、之を取りて我と汝との為に彼等に納めよ、と。 040 MAT 018 001 其時弟子等、イエズスに近づきて云ひけるは、天國にて大なる者は誰なりと思ひ給ふか、と。 040 MAT 018 002 イエズス一人の幼兒を召寄せ、彼等の眞中に立たせて、 040 MAT 018 003 曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、汝等若翻りて幼兒の如くに成らずば、天國に入らざるべし、 040 MAT 018 004 然れば総て此幼兒の如く自謙る人は、天國にて大なる者なり、 040 MAT 018 005 又我名の為に斯の如き一人の幼兒を承くる人は、我を承くる者なり。 040 MAT 018 006 然れど我を信ずる此最小き者の一人を躓かする人は、驢馬挽磨を頚に懸けられ、海の深處に沈めらるるこそ彼に益あるなれ。 040 MAT 018 007 躓あるが為に世は禍なる哉。躓は來らざるを得ざれども、躓を來す人は禍なる哉。 040 MAT 018 008 然れば若汝の手或は足汝を躓かすならば、之を切りて棄てよ、隻手或は隻足にて生命に入るは、兩手或は兩足ありて永遠の火に投入れらるるより、汝に取りて勝れり。 (aiōnios g166) 040 MAT 018 009 又若汝の眼汝を躓かすならば、之を抉りて棄てよ、隻眼にて生命に入るは、兩眼ありて地獄の火に投入れらるるより、汝に取りて勝れり。 (Geenna g1067) 040 MAT 018 010 汝等慎みて、此最小き者の一人をも軽んずること勿れ、我汝等に告ぐ、彼等の[天]使等天に在りて、天に在す我父の御顔を常に見るなり。 040 MAT 018 011 蓋人の子は失せたる者を救はんとて來れり。 040 MAT 018 012 汝等之を何とか思へる、百頭の羊を有てる者、若其一頭を失はば、九十九頭を山に措き、往きて其迷へるものを尋ぬるに非ずや。 040 MAT 018 013 然て之を見出すに至らば、我誠に汝等に告ぐ、迷はざる九十九頭の羊の上よりも、尚此一頭の上を喜ぶなり。 040 MAT 018 014 斯の如く、此最小き者の一人にても、其亡ぶるは、天に在す汝等の父の御旨にあらざるなり。 040 MAT 018 015 若汝の兄弟汝に罪を犯さば、往きて汝と彼と相對して彼を諌めよ、若汝に聴きなば汝兄弟を得たるべし。 040 MAT 018 016 汝に聴かずば、二三の證人の口によりて事の凡て定らん為に、一二人を伴へ、 040 MAT 018 017 若是等に聴かずば教會に告げよ、教會にも聴かずば、汝に取りて異邦人税吏の如き者と見視做すべし。 040 MAT 018 018 我誠に汝等に告ぐ、総て汝等が地上にて繋がん所は、天にても繋がるべし、又総て汝等が地上にて釈かん所は、天にても釈かるべし。 040 MAT 018 019 我更に汝等に告ぐ、若汝等の中二人地上にて同意せば、何事を願ふとも、天に在す我父より賜はるべし。 040 MAT 018 020 蓋我名を以て二三人相集れる處には、我其中に在り、と。 040 MAT 018 021 時にペトロイエズスに近づきて云ひけるは、主よ、我兄弟の我に罪を犯すを、幾度か宥すべき、七度までか。 040 MAT 018 022 イエズス曰ひけるは、我汝に七度までとは云はず、七度を七十倍するまでせよ。 040 MAT 018 023 然れば天國は、其臣下に會計せしめんとせる王の如し、 040 MAT 018 024 會計を始めしに、王に一萬タレントの負債ある者差出されしが、 040 MAT 018 025 返す術なき儘に、主君は彼と、其妻子と凡ての所有物とを売りて還す事を命ぜり。 040 MAT 018 026 然るに其臣下平伏して願ひけるは、暫く我を忍容し給へ、我悉く返済せん、と。 040 MAT 018 027 主君其臣下を憐みて之を許し、其負債をも免せり。 040 MAT 018 028 然て彼臣下出でて、己に百デナリオの負債ある、一人の同僚に遇ひしかば、負債を還せと云ひつつ、執へて其喉を扼むるに、 040 MAT 018 029 同僚平伏して、姑く我を忍容し給へ、我悉く返済せん、と願へども、 040 MAT 018 030 彼肯ぜずして去り、負債を還すまで之を監獄に入れたり。 040 MAT 018 031 同僚等は、其顛末を見て甚く憂ひ、來りて事の次第を悉く主君に語りしかば、 040 MAT 018 032 主君彼を召して云ひけるは、汝兇惡の臣、汝の願に因りて、我悉く負債を汝に免せり、 040 MAT 018 033 然れば我が汝を憐みし如く、汝も亦同僚を憐むべかりしに非ずや、と。 040 MAT 018 034 斯て主君怒りて、負債を盡く還すまで彼を刑吏に付せり。 040 MAT 018 035 汝等若各心より己が兄弟を宥さずば、我が天父も亦、汝等に斯の如く為し給ふべし。 040 MAT 019 001 第四項 イエズスエルザレムへの最後の旅行 是等の談を畢りて、イエズス遂にガリレアを去り、ヨルダン[河]の向なるユデアの境に至り給ひしが、 040 MAT 019 002 群衆夥しく之に從ひければ、其處にて彼等を醫し給へり。 040 MAT 019 003 ファリザイ人近づきて、彼を試みて云ひけるは、如何なる理由の下にも、人は其妻を出すを得べきか。 040 MAT 019 004 イエズス答へて曰ひけるは、汝等読まざりしか、即元始に人を造り給ひしもの、之を男女に造りて曰はく、 040 MAT 019 005 「此故に、人は父母を離れて、其妻に就き兩人一體と成るべし」と、 040 MAT 019 006 然れば既に二人に非ずして一體なり、故に神の配せ給ひしもの、人之を分つべからず、と。 040 MAT 019 007 ファリザイ人云ひけるは、然らば離縁状を與へて妻を出すべし、とモイゼの命ぜしは何ぞや。 040 MAT 019 008 答へて曰ひけるは、モイゼは汝等の心の頑固なるが為に、妻を出す事を汝等に許したれど、元始より然はあらざりき。 040 MAT 019 009 即我汝等に告ぐ、総て私通の故ならで其妻を出し、他の女を娶る人は姦淫するなり、又出されたる女を娶る人も姦淫するなり、と。 040 MAT 019 010 弟子等イエズスに向ひ、若人の妻に於る事斯の如くば、娶らざるに若ず、と云ひしかば、 040 MAT 019 011 イエズス曰ひけるは、人皆此言を肯容るるには非ず、[肯容るるは]賜はりたる者のみ。 040 MAT 019 012 即母の胎内より生れながらの閹者あり、人より為られたる閹者あり、又天國の為に自ら作せる閹者あるなり。肯容るるを得る人は肯容るべし、と。 040 MAT 019 013 時に按手して祈られんが為、孩兒等イエズスに差出されしが、弟子等之を拒みければ、 040 MAT 019 014 イエズス彼等に曰ひけるは、孩兒等を容せ、其我に來るを禁ずること勿れ、天國は斯の如き人の為なればなり、と。 040 MAT 019 015 斯て彼等に按手し給ひ、さて此處を去り給へり。 040 MAT 019 016 折しも一人[の青年]イエズスに近づきて云ひけるは、善き師よ、我永遠の生命を得んには、如何なる善き事をか為すべき。 (aiōnios g166) 040 MAT 019 017 イエズス曰ひけるは、何ぞ善を我に問ふや、善き者は獨のみ、即神なり。但汝若生命に入らんと欲せば掟を守れ、と。 040 MAT 019 018 彼、何れ[の掟]ぞや、と云ひしにイエズス曰ひけるは、汝人を殺す勿れ、姦淫する勿れ、偸盗する勿れ、僞證する勿れ、 040 MAT 019 019 汝の父母を敬へ、又汝の近き者を己の如く愛せよ、と。 040 MAT 019 020 青年云ひけるは、是皆我幼年より守りし所、猶我に缼けたるは何ぞや。 040 MAT 019 021 イエズス曰ひけるは、汝若完全ならんと欲せば、往きて有てる物を売り、之を貧者に施せ、然らば天に於て寳を得ん、而して來りて我に從へ、と。 040 MAT 019 022 此言を聞くや青年憂ひて去れり、是多くの財産を有てる者なればなり。 040 MAT 019 023 イエズス弟子等に曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、富者は天國に入り難し、 040 MAT 019 024 又汝等に告ぐ、駱駝が針の孔を通るは、富者の天國に入るよりも易し、と。 040 MAT 019 025 弟子等聞きて甚怪しみ、然らば誰か救はるるを得ん、と云ひければ、 040 MAT 019 026 イエズス彼等を凝視めつつ曰ひけるは、是人に於ては能はざる所なれども、神に於ては何事も能はざる所なし、と。 040 MAT 019 027 其時ペトロ答へて云ひけるは、然て我等は一切を棄てて汝に從へり、然れば何を得べきぞ、と。 040 MAT 019 028 イエズス彼等に曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、我に從ひたる汝等は、世革りて人の子其光榮の座に坐せん時、汝等も十二の座に坐して、イスラエルの十二族を審くべし。 040 MAT 019 029 又総て我名の為に、或は家、或は兄弟、或は姉妹、或は父、或は母、或は妻、或は子等、或は田畑を離るる人は百倍を受け、且永遠の生命を得べし。 (aiōnios g166) 040 MAT 019 030 但多く、先なる人は後になり、後なる人は先にならん。 040 MAT 020 001 天國は恰、家父朝早く出でて、其葡萄畑の為に働く者を雇うが如し。 040 MAT 020 002 彼働く者に一日一デナリオの約束を為して、之を葡萄畑に遣はししが、 040 MAT 020 003 又九時頃出でて、空しく市場に立てる他の人々を見て、 040 MAT 020 004 汝等も我葡萄畑に往け、正當の物を與へん、と云ひければ彼等即往けり。 040 MAT 020 005 然て十二時と三時頃と出でて、又同じ様に為ししが、 040 MAT 020 006 五時頃又出でて、他の立てる人々に遇ひて、何ぞ終日空しく此處に立てる、と云ひしに、 040 MAT 020 007 彼等、雇ふ人なき故なり、と云ひしかば、彼、汝等も我葡萄畑に往け、と云へり。 040 MAT 020 008 然るに日没に至りて、葡萄畑の主其會計役に向ひ、働く者を呼びて、後の者より始め、先の者に至るまで賃金を與へよ、と云ひしかば、 040 MAT 020 009 五時頃來りし者至りて、各一デナリオを受けたり。 040 MAT 020 010 先の者も亦來りて、我等は多く受くるならんと思ひしに、同じく各一デナリオを受けたれば、 040 MAT 020 011 之を受け取りつつ家父に向ひて呟き、 040 MAT 020 012 彼人々は一時働きしのみなるに、汝は終日の勞苦と暑氣とを忍びし我等と均しく之をあ遇へり、と云ひければ、 040 MAT 020 013 家父其一人に答へて、友よ、我汝に不義を為すに非ず、汝は銀一枚にて我に約せしにあらずや、 040 MAT 020 014 汝の分を取りて往け。我は此後の者にも、亦汝と齊しく與へんと欲す。 040 MAT 020 015 抑又我が欲する所を為すは善からざるか、我が善ければとて汝の目惡きか、と云ひしが、 040 MAT 020 016 斯の如く後の人は先になり、先の人は後にならん。夫召されたる人は多けれども、選まるる人は少し、と。 040 MAT 020 017 イエズスエルザレムに上り給ふに、竊に十二人の弟子を呼寄せて曰ひけるは、 040 MAT 020 018 今や我等エルザレムに上る、然て人の子は司祭長律法學士等に付されん、彼等は之を死罪に處し、 040 MAT 020 019 又異邦人に付して弄らしめ、且鞭たしめ、且十字架に釘けしめん、斯て三日目に蘇るべし、と。 040 MAT 020 020 時にゼベデオの子等の母、其子等と共にイエズスに近づき、禮拝して何事かを願はんとしければ、 040 MAT 020 021 イエズス、何を望むか、と曰ひしに彼云ひけるは、此我二人の子を、御國に於て一人は汝の右に、一人は左に坐すべく命じ給へ。 040 MAT 020 022 イエズス答へて曰ひけるは、汝等は願ふ所を知らず、汝等我が飲まんとする杯を飲み得るか、と。彼等得るなり、と云ひしかば、 040 MAT 020 023 イエズス彼等に曰ひけるは、汝等實に我杯を飲まん、然れど我右左に坐するは、我が汝等に與ふべきに非ず、我父より備へられたる人々にこそ與ふべきなれ、と。 040 MAT 020 024 斯て十人の弟子之を聞きて、二人の兄弟を憤りければ、 040 MAT 020 025 イエズス彼等を呼寄せて曰ひけるは、異邦人の君主が人を司り、大なる者人の上に権を振ふは汝等の知る所なり。 040 MAT 020 026 汝等の中には然あるべからず、汝等の中に大ならんと欲する人は、却て汝等の僕となるべし、 040 MAT 020 027 又汝等の中に第一の者たらんと欲する人は、汝等の奴隷となるべし。 040 MAT 020 028 是恰も人の子の來れるは仕へらるる為に非ずして、却て仕へん為、且衆人の贖として生命を棄てん為なるが如し。 040 MAT 020 029 一行エリコを出づる時、群衆夥しくイエズスに從ひしが、 040 MAT 020 030 折しも路傍に坐せる二人の瞽者、イエズスの過ぎ給ふを聞き、主よ、ダヴィドの裔よ、我等を憐み給へ、と叫びければ、 040 MAT 020 031 群衆彼等を拒みて黙せしめんとすれども、彼等益叫びて、主よ、ダヴィドの裔よ、我等を憐み給へ、と云ひ居れり。 040 MAT 020 032 イエズス立止り、彼等を呼びて曰ひけるは、我汝等に何を為さん事を欲するか、と。 040 MAT 020 033 彼等、主よ我等が目の開かれん事を、と云ひしに、 040 MAT 020 034 イエズス彼等を憐みて其目に触れ給ひしかば、彼等の目忽見えて、イエズスに從へり。 040 MAT 021 001 第一項 イエズスエルザレムに歓迎せられ給ふ イエズスの一行エルザレムに近づき、橄欖山の麓なるベトファゲに至りし時、イエズス二人の弟子を遣はさんとして、 040 MAT 021 002 曰ひけるは、汝等向の邑に往け、然らば直に繋げる牝驢馬の其子と共に居るに遇はん、其を解きて我に牽來れ。 040 MAT 021 003 若人ありて汝等に語はば、主之を要すと云へ、然らば直に許すべし、と。 040 MAT 021 004 総て此事の成れるは、預言者によりて云はれし事の成就せん為なり、 040 MAT 021 005 曰く「シオンの女に云へ、看よ汝の王柔和にして、牝驢馬と其子なる小驢馬とに乗りて汝に來る」と。 040 MAT 021 006 弟子等往きてイエズスの命じ給ひし如くに為し、 040 MAT 021 007 牝驢馬と其子とを牽來り、己が衣服を其上に敷き、イエズスを是に乗せたるに、 040 MAT 021 008 群衆夥しく己が衣服を道に敷き、或人々は樹の枝を伐りて道に敷きたり。 040 MAT 021 009 先に立ち後に從へる群衆呼はりて、ダヴィドの裔にホザンナ。主の名によりて來るものは祝せられ給へ。最高き處までホザンナと云ひ居れり。 040 MAT 021 010 斯てイエズスエルザレムに入り給ひしに、是は抑誰なるぞ、と町挙りて動揺きけるが、 040 MAT 021 011 人民は、是ガリレアのナザレトより出でたる預言者イエズスなり、と云ひ居れり。 040 MAT 021 012 第二項 エルザレムに於るイエズスの所業 イエズス神殿に入り給ひて、殿内にて売買する人を悉く遂出だし、兩替屋の案と鳩売る人々の腰掛とを倒して、 040 MAT 021 013 彼等に曰ひけるは、録して「我家は祈の家と稱へらるべし」とあるに、汝等は之を強盗の巣窟と為せり、と。 040 MAT 021 014 斯て瞽者跛者等、神殿にてイエズスに近づきしかば、是等を醫し給へり。 040 MAT 021 015 然るに司祭長律法學士等、イエズスの為し給へる奇蹟と、ダヴィドの裔にホザンナと殿内に呼はる兒等とを見て憤り、 040 MAT 021 016 彼に向ひて云ひけるは、汝彼等の云ふ所を聞くや、と。イエズス是に曰ひけるは、然り「孩兒と乳兒との口に賛美を全うし給へり」とあるを汝等曾て読まざりしか、と。 040 MAT 021 017 斯て彼等を離れ、街を出でてベタニアに往き、其處に宿り給へり。 040 MAT 021 018 明朝街に返る時飢ゑ給ひしが、 040 MAT 021 019 路傍に一本の無花果樹を見て其の下に至り給ひしに、葉の外に何物をも見ざりしかば、是に向ひて、汝何時までも果らざれ、と曰ひしに、無花果樹忽ち枯れたり。 (aiōn g165) 040 MAT 021 020 弟子等見て感嘆し、如何にして速に枯れたるぞ、と云ひしに、 040 MAT 021 021 イエズス答へて曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、汝等若信仰ありて躊躇せずば、啻に之を無花果樹に為すべき耳ならず、假令此山に向ひて、汝自抜けて海に入れと云ふとも亦然成らん。 040 MAT 021 022 総て祈りの中に信じて求むる事は、汝等悉く之を受けん、と。 040 MAT 021 023 イエズス神殿に至りて教へつつ居給ひけるに、司祭長及民間の長老等、近づきて云ひけるは、汝何の権を以て是等の事を為すぞ、又誰か此権を汝に與へしぞ。 040 MAT 021 024 イエズス答へて曰ひけるは、我も一言汝等に問はん、汝等之を語らば、我も亦何の権を以て之を行ふかを汝等に告げん。 040 MAT 021 025 ヨハネの洗禮は何處よりなりしぞ、天よりか将人よりか、と。彼等相共に慮りて、 040 MAT 021 026 若天よりと云はば、何故に彼を信ぜざりしかと云はるべく、若人よりと云はば、人皆ヨハネを預言者とせると以て民衆に憚りありとし、 040 MAT 021 027 終にイエズスに答へて、我等之を知らず、と云ひしかば、イエズス亦曰ひけるは、我も何の権を以て是等の事を行ふかを汝等に告げず。 040 MAT 021 028 汝等之を如何に思ふぞ。或人二人の子ありしが、長男に近づきて、子よ、今日我葡萄畑に往きて働け、と云ひけるに、 040 MAT 021 029 彼答へて、否と云ひしも、遂に後悔して往きたり。 040 MAT 021 030 又次男に近づきて同じ様に云ひけるに、彼答へて、父よ我往く、と云ひしも遂に往かざりき。 040 MAT 021 031 此二人の中孰か父の旨を成したるぞ、と。彼等長男なりと云ひしかば、イエズス曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、税吏と娼妓とは汝等よりも先に神の國に入らん。 040 MAT 021 032 其はヨハネ義の道を以て汝等に來りしに、汝等彼を信ぜず、税吏と娼妓とは却て彼を信じたりしを、汝等之を見ても猶後悔せず、終に彼を信ぜざりければなり。 040 MAT 021 033 又一の喩を聞け、或家父葡萄畑を作りて籬を繞らし、中に酪穴を堀り、物見台を建て、之を小作人等に貸して遠方へ旅立ちしが、 040 MAT 021 034 果時近づきしかば、其果を受取らせんとて、僕等を小作人の許に遣はししに、 040 MAT 021 035 小作人其僕を捕へて、一人を殴ち、一人を殺し、一人に石を投付けたり。 040 MAT 021 036 更に他の僕等を先よりも多く遣はししに、彼等之をも同じ様に遇へり。 040 MAT 021 037 終に、我子をば敬ふならんとて、其子を遣はししに、 040 MAT 021 038 小作人此子を見て語合ひけるは、是相続人なり、來れかし之を殺さん、而して我等其家督を獲ん、と。 040 MAT 021 039 斯て其子を捕へ、葡萄畑より逐出して殺せり。 040 MAT 021 040 然れば葡萄畑の主來らん時、此小作人等を如何に處置すべきか。 040 MAT 021 041 彼等云ひけるは、惡人を容赦なく亡ぼし、季節に果を納むる他の小作人に其葡萄畑を貸さん。 040 MAT 021 042 イエズス彼等に曰ひけるは、汝等曾て聖書に於て読まざりしか、「家を建つるに棄てられたる石は隅の首石となれり、是主の為し給へる事にて、我等の目には不思議なり」とあり。 040 MAT 021 043 然れば我汝等に告ぐ、神の國は汝等より奪はれ、其果を結ぶ人民に與へらるべし。 040 MAT 021 044 凡此石の上に墜つる人は砕けん、又此石誰の上に隕つるも之を微塵にせん、と。 040 MAT 021 045 司祭長ファリザイ人等イエズスの喩を聞きて、其己等を斥して曰へるを暁り、 040 MAT 021 046 之を捕へんと謀りしが、群衆彼を預言者とせるを以て之を懼れたり。 040 MAT 022 001 イエズス答へて、又喩を以て語り曰ひけるは、 040 MAT 022 002 天國は恰其子の為に婚筵を開ける王の如し。 040 MAT 022 003 彼婚筵に招きたる人々を召ばんとて、僕等を遣はしたるに、彼等肯て來らざれば、 040 MAT 022 004 復他の僕等を遣はすとて云ひけるは、招きたる人々に告げて、看よ我既に我が饗筵の準備を為せり、我牛と肥たる畜と、屠られて悉く具はれり、婚筵に臨まれよ、と云へ、と。 040 MAT 022 005 然れども彼等之を顧みず、一人は己が作家に、一人は己が商売に往き、 040 MAT 022 006 其他は僕等を捕へ甚く辱めて殺ししかば、 040 MAT 022 007 王之を聞きて怒り、軍勢を遣はして彼殺人等を亡ぼし、其街を焼払へり。 040 MAT 022 008 時に王其僕等に云ひけるは、婚筵既に備はりたれども、招かれし人々は[客となるに]堪へざりし故、 040 MAT 022 009 衢に往きて総て遇ふ人を婚筵に招け、と。 040 MAT 022 010 僕等途々に出でて、遇ふ人を善きも惡きも悉く集めしかば、客は婚筵の場に満ちたり。 040 MAT 022 011 王客を見んとて入來り、一人婚禮の服を着けざる者あるを見て是に向ひ、 040 MAT 022 012 友よ、如何ぞ婚禮の服を着けずして、此處に入りしや、と云ひけるに、彼黙然たりき。 040 MAT 022 013 王遂に給仕等に云ひけるは、彼の手足を縛りて之を外の暗に投出だせ、其處には痛哭と切歯とあらん、と。 040 MAT 022 014 夫召されたる人は多けれども、選まるる人は少し、と。 040 MAT 022 015 此時ファリザイ人等出でて、イエズスの詞後を捉へんと相謀り、 040 MAT 022 016 己が弟子等をヘロデの党と共に遣はして、云はせけるは、師よ、汝が眞實にして、眞理によりて神の道を教へ、且人に依怙贔屓せざるを以て誰にも憚らざるは、我等の知れる所なり。 040 MAT 022 017 然ればセザルに貢を納むるは可や否や、思ふ所を我等に告げよ、と。 040 MAT 022 018 イエズス彼等の狡猾を知りて曰ひけるは、僞善者よ、何ぞ我を試むる。 040 MAT 022 019 貢の貨を我に見せよ、と。彼等デナリオを差出だしたるに、 040 MAT 022 020 イエズス曰ひけるは、此像と銘とは誰のなるか、と。 040 MAT 022 021 彼等セザルのなりと云ふ。時にイエズス曰ひけるは、然らばセザルの物はセザルに歸し、神の物は神に歸せ、と。 040 MAT 022 022 彼等聞きて感嘆し、イエズスを離れて去れり。 040 MAT 022 023 復活なしと主張せるサドカイ人等、此日イエズスに近づき、問ひて、 040 MAT 022 024 云ひけるは、師よ、モイゼ曰く、「人若子なくして死なば、其兄弟彼が妻を娶りて、兄弟の為に子を挙ぐべし」と、 040 MAT 022 025 然るに我等の中七人の兄弟ありしに、兄妻を娶りて死し、子なかりしかば、其妻を弟に遺ししが、 040 MAT 022 026 其第二第三より第七まで同じ様にして、 040 MAT 022 027 最後に婦も亦死せり。 040 MAT 022 028 然れば復活の時に當りて、此婦は七人の中誰の妻たるべきか、其は皆彼を娶りたればなり。 040 MAT 022 029 イエズス答へて曰ひけるは、汝等聖書をも神の力をも知らずして誤れり。 040 MAT 022 030 復活の時、人は娶らず嫁がず、天に於る神の使等の如くならん。 040 MAT 022 031 死人の復活に就きては、汝等神より云はれし所を読まざりしか。 040 MAT 022 032 即汝等に曰はく、「我はアブラハムの神、イザアクの神、ヤコブの神なり」と。死者の神には非ず、生者の[神]にて在す、と。 040 MAT 022 033 群衆之を聞きて、其教を感嘆せり。 040 MAT 022 034 然てファリザイ人等、イエズスがサドカイ人を閉口せしめ給ひしを聞きて相集まりしが、 040 MAT 022 035 中に一人の律法學士イエズスを試みて問ひけるは、 040 MAT 022 036 師よ律法に於て大なる掟は何れぞや。 040 MAT 022 037 イエズス曰ひけるは、「汝、心を盡し、霊を盡し、意を盡して汝の神にて在す主を愛すべし」、 040 MAT 022 038 是最大なる第一の掟なり。 040 MAT 022 039 第二も亦是に似たり、「汝の近き者を己の如く愛すべし」。 040 MAT 022 040 凡ての律法と預言者とは此二の掟に據るなり。 040 MAT 022 041 ファリザイ人の集れるに、イエズス問ひて、 040 MAT 022 042 曰ひけるは、汝等キリストに就きて如何に思ふぞ、誰の子なるか、と。彼等、ダヴィドの子なり、と云ひければ、 040 MAT 022 043 イエズス曰ひけるは、然らばダヴィド[聖]霊によりて彼を主と稱ふるは如何、 040 MAT 022 044 曰く「主我主に曰へらく、我汝の敵を汝の足台と為すまで、我右に坐せよ」と、 040 MAT 022 045 然ればダヴィド彼を主と稱ふるに、彼爭でか其子ならんや、と。 040 MAT 022 046 皆誰一言もイエズスに答ふること能はず、此日より復敢て問ふ者なかりき。 040 MAT 023 001 其時イエズス群衆と弟子とに語りて、 040 MAT 023 002 曰ひけるは、律法學士とファリザイ人とはモイゼの講座に坐せり。 040 MAT 023 003 然れば彼等の汝等に云ふ所は、悉く守りて行へ、然れど彼等の行に倣ひて行ふこと勿れ、彼等は言ひて而も行はざればなり。 040 MAT 023 004 即彼等は、重く擔ひ難き荷を括りて人の肩に載すれど、己が指先にて之を動かす事をすら否む。 040 MAT 023 005 其凡ての行は人に見られん為にして、即其経牌を闊くし、其繸を大くす。 040 MAT 023 006 また宴席にては上席、會堂にては上座、 040 MAT 023 007 衢にては人の敬禮、又ラビと呼ばるる事を好む。 040 MAT 023 008 汝等はラビと呼ばるる事勿れ、汝等の師は一個にして、汝等は皆兄弟なればなり。 040 MAT 023 009 又地上の人を汝等の父と稱ふること勿れ、汝等の父は天に在す一個のみなればなり。 040 MAT 023 010 又指導師と稱へらるること勿れ、汝等の指導師は一個にして、即キリストなればなり。 040 MAT 023 011 汝等の中最大なる者は汝等の僕となるべし。 040 MAT 023 012 自驕る人は下げられ、自遜る人は上げらるべし。 040 MAT 023 013 禍なる哉汝等、僞善なる律法學士、ファリザイ人等よ、其は人の前に天國を閉ぢ じて、己も入らず、入りつつある人々をも入らしめざればなり。 040 MAT 023 014 禍なる哉汝等、僞善なる律法學士ファリザイ人等よ、其は長き祈を唱へて、寡婦等の家を食盡せばなり。汝等は是に由りて最厳しき審判を受けん。 040 MAT 023 015 禍なる哉汝等、僞善なる律法學士ファリザイ人等よ、其は一人の信者を作らんとて海陸を歴巡り、既に作れば、之を己に倍せる地獄の子と為せばなり。 (Geenna g1067) 040 MAT 023 016 禍なる哉汝等、瞽者なる手引よ、汝等は云ふ、「総て人[神]殿を指して誓ふは事にも非ず、[神]殿の黄金を指して誓はば果さざるべからず」と。 040 MAT 023 017 愚にして瞽なる者ども哉、孰か大なるぞ、黄金か、将黄金を聖ならしむる[神]殿か。 040 MAT 023 018 [汝等は又云ふ]「総て人祭壇を指して誓ふは事にも非ず、其上なる供物を指して誓はば果さざるべからず」と。 040 MAT 023 019 瞽者等よ、孰れか大なるぞ、供物か、将供物を聖ならしむる祭壇か。 040 MAT 023 020 然れば祭壇を指して誓ふ人は、祭壇と総て其上なる物とを指して誓ふなり。 040 MAT 023 021 又総て[神]殿を指して誓ふ人は、[神]殿と其中に住み給ふものとを指して誓ふなり。 040 MAT 023 022 又天を指して誓ふ人は、神の玉座と其上に坐し給ふ者とを指して誓ふなり。 040 MAT 023 023 禍なる哉汝等、僞善なる律法學士ファリザイ人等よ、汝等は薄荷茴香馬芹の十分の一を納めて、而も律法に於て尚重大なる、正義と慈悲と忠實とを遺せり、此事等を為してこそ彼の事をも怠らざるべかりしなれ。 040 MAT 023 024 蝐蠉を濾出だして駱駝を呑む瞽者なる手引等よ。 040 MAT 023 025 禍なる哉汝等、僞善なる律法學士ファリザイ人等よ、其は杯と盤との外を淨めて、内は貪と汚とに充ちたればなり。 040 MAT 023 026 汝瞽者なるファリザイ人よ、先杯と盤との内を淨めよ、然らば外も淨くなるべし。 040 MAT 023 027 禍なる哉汝等、僞善なる律法學士ファリザイ人等よ、其は白く塗りたる墓に似たればなり。外は人に麗しく見ゆれども、内は死人の骨と諸の汚とに充てり。 040 MAT 023 028 斯の如く、汝等も外は義人の如く人に見ゆれども、内は僞善と不義とに充てり。 040 MAT 023 029 禍なる哉汝等、僞善なる律法學士ファリザイ人等よ、汝等は預言者等の墓を建て、義人等の記念碑を飾りて、 040 MAT 023 030 曰く、「我等若先祖の時代に在りしならば、預言者等の血[を流す]に與せざりしものを」と。 040 MAT 023 031 斯て汝等は、預言者等を殺しし人の子孫たる事を自證するなり。 040 MAT 023 032 然らば汝等も先祖の量を盈たせよ。 040 MAT 023 033 蛇等よ、蝮の裔よ、汝等爭でか地獄の宣告を遁れん。 (Geenna g1067) 040 MAT 023 034 然れば看よ、我汝等に預言者、智者、律法學士等を遣はせども、汝等は其或者を殺し、十字架に釘け、或者を汝等の會堂に鞭ちて、街より街に遂迫めん。 040 MAT 023 035 斯て義人アベルの血より、汝等が[神]殿と祭壇との間にて殺ししパラキアの子ザカリアの血に至る迄、総て地上に流されたる義しき血は、汝等の上に歸すべし。 040 MAT 023 036 我誠に汝等に告ぐ、此事皆現代の上に歸すべし。 040 MAT 023 037 エルザレムよ、エルザレムよ、預言者等を殺し、且汝に遣はされたる人々に石を擲つ者よ、我牝鶏の其雛を翼の下に集むる如く、汝の子等を集めんとせしこと幾度ぞや、然れど、汝之を否めり。 040 MAT 023 038 看よ、汝等の家は荒廃れて汝等に遺されん。 040 MAT 023 039 我汝等に告ぐ、汝等「主の名によりて來る者は祝せられ給へ」と云ふ迄は、今より我を見ざるべし、[と語り給へり]。 040 MAT 024 001 第三項 イエズスエルザレムの滅亡等を豫言し給ふ イエズス[神]殿を出でて往き給ひけるに、弟子等[神]殿の構造を示さんとて近づきしかば、 040 MAT 024 002 答へて曰ひけるは、汝等此一切の物を見るか、我誠に汝等に告ぐ、此處には一の石も崩れずして石の上に遺されじ、と。 040 MAT 024 003 斯て橄欖山に坐し給へるに、弟子等竊に近づきて云ひけるは、此事等のあらんは何時なるぞ、又汝の再臨と世の終との兆は何なるぞ。 (aiōn g165) 040 MAT 024 004 イエズス答へて曰ひけるは、汝等人に惑はされじと注意せよ、 040 MAT 024 005 其は多くの人我名を冒し來りて、我はキリストなりと云ひて、多くの人を惑はすべければなり。 040 MAT 024 006 即汝等戰闘と戰闘の風説を聞かん、而も慎みて心を騒がす事勿れ、是等の事蓋あるべし、然れど終は未至らざるなり。 040 MAT 024 007 即民は民に、國は國に立逆らひ、又疫病飢饉地震處々にあらん、 040 MAT 024 008 是皆苦の初なり。 040 MAT 024 009 其時人々汝等を困難に陥入れ、又死に處し、汝等我名の為に萬民に憎まれん。 040 MAT 024 010 其時多くの人躓きて、互に反應し互に憎み、 040 MAT 024 011 又僞預言者多く起りて、多くの人を惑はさん、 040 MAT 024 012 且不義の溢れたるによりて、多數の人の愛冷えん、 040 MAT 024 013 然れど終まで耐忍ぶ人は救はるべし。 040 MAT 024 014 [天]國の此福音は、萬民に證として全世界に宣傳へられん、斯て後終は至るべし。 040 MAT 024 015 然れば汝等、預言者ダニエルに託りて告げられし「最憎むべき荒廃」が聖所に厳然たるを見ば、 040 MAT 024 016 読む人悟るべし。其時ユデアに居る人は山に遁るべし、 040 MAT 024 017 屋根に居る人は、其家より何物をか取出ださんとて下るべからず、 040 MAT 024 018 畑に居る人は、其上着を取らんとて歸るべからず。 040 MAT 024 019 其日に當りて懐胎せる人、乳を哺まする人は禍なる哉。 040 MAT 024 020 汝等の遁ぐる事の、或は冬、或は安息日に當らざらん事を祈れ。 040 MAT 024 021 其時には、世の始より曾て無く、又後にも有るまじき程の、大なる患難あるべければなり。 040 MAT 024 022 其日若縮められずば、救はるる人なからん、然れど其日は、選まれたる人々の為に縮めらるべし。 040 MAT 024 023 其時若人ありて汝等に、「看よキリストは此處に在り、彼處に在り」と云ふとも信ずること勿れ、 040 MAT 024 024 其は僞キリスト及僞預言者起りて、大なる徴と奇蹟とを行ひ、能ふべくんば選まれたる人々をさへも惑はさんとすべければなり。 040 MAT 024 025 我預之を汝等に告げたるぞ。然れば汝等假令、「看よキリストは荒野に在り」と云はるとも出ること勿れ、 040 MAT 024 026 「看よ奥室に在り」と云はるとも信ずること勿れ、 040 MAT 024 027 其は電光の東より出て西にまで見ゆる如く、人の子の來るも亦然るべければなり。 040 MAT 024 028 総て屍の在る處には鷲も亦集らん。 040 MAT 024 029 此日々の患難の後、直に日晦み、月其光を與へず、星天より隕ち、天の能力総て動揺せん。 040 MAT 024 030 其時人の子の徴空に現れん。其時又地の民族悉く哭き、人の子が大なる能力と威光とを以て空の雲に乗り來るを見ん。 040 MAT 024 031 彼聲高き喇叭を持てる己が天使等を遣はし、天の此涯まで、四方より其選まれし人々を集めしめん。 040 MAT 024 032 汝等無花果樹より喩を學べ、其枝既に柔ぎて葉の生ずる時、汝等は夏の近きを知る。 040 MAT 024 033 斯の如く、此一切の事を見ば、既に門に近しと知れ。 040 MAT 024 034 我誠に汝等に告ぐ、是等の事の皆成る迄は、現代は過ぎざらん。 040 MAT 024 035 天地は過ぎん、然れど我言は過ぎざるべし。 040 MAT 024 036 其日其時をば何人も知らず、天使すらも知らず、知り給へるは唯父獨のみ。 040 MAT 024 037 ノエの日に於る如く、人の子の來るも亦然らん。 040 MAT 024 038 即洪水の前の頃、ノエの方舟に入る其日までも、人々飲み食ひ娶り嫁ぎして、 040 MAT 024 039 洪水來りて悉く彼等を引浚ふまで知らざりし如く、人の子の來るも亦然らん。 040 MAT 024 040 其時二人畑に在らんに、一人は取られ一人は遺されん。 040 MAT 024 041 二人の女磨を挽き居らんに、一人は取られ一人は遺されん。 040 MAT 024 042 然れば汝等警戒せよ、汝等の主の來り給ふは何れの時なるかを知らざればなり。 040 MAT 024 043 汝等之を知れ、家父若盗賊の來るべき時を知らば、必警戒して其家を穿たせじ。 040 MAT 024 044 然れば汝等も用意してあれ、汝等の知らざる時に人の子來るべければなり。 040 MAT 024 045 時に應じて糧を其僕等に與へさせんとて、主人が彼等の上に立てたる、忠誠怜悧なる僕を誰と思ふぞ。 040 MAT 024 046 其主人の來らん時、然するを見出されたる僕は福なり。 040 MAT 024 047 我誠に汝等に告ぐ、主人は其凡ての所有を是に宰らしめん。 040 MAT 024 048 然れど若彼惡しき僕、心の中に「主人の來ること遅し」と謂ひて、 040 MAT 024 049 其同輩に殴掛り、酒徒と酒食を共にせば、 040 MAT 024 050 其僕の主人、彼が思はざる日、知らざる時に來りて、 040 MAT 024 051 之を處罰し、其報を僞善者と同じうすべし、其處には痛哭と切歯とあらん。 040 MAT 025 001 其時天國は、十人の處女面々燈を執りて新郎と新婦とを迎へに出たる如くならん。 040 MAT 025 002 其中五人は愚にして五人は賢し、 040 MAT 025 003 愚なる五人は燈を執りて油を携へざるに、 040 MAT 025 004 賢きは燈と共に油を器に携へたり。 040 MAT 025 005 新郎遅かりければ、皆假寝して眠りたりしが、 040 MAT 025 006 夜中に「すわ新郎來たるぞ、出迎へよ」との聲ありしかば、 040 MAT 025 007 處女皆起きて其燈を整へたり。 040 MAT 025 008 愚なるが賢きに云ひけるは、汝等の油を我等に分て、我等の燈滅ゆ、と。 040 MAT 025 009 賢きが答へて云ひけるは、恐らくは我等と汝等とに足らじ、寧売者に往きて自の為に買へ、と。 040 MAT 025 010 彼等が買はんとて往ける間に、新郎來りしかば、用意してありし者等は、彼と共に婚筵に入り、然て門は鎖されたり。 040 MAT 025 011 軈て他の處女等も來りて、主よ主よ、我等に開き給へ、と云ひ居れども、 040 MAT 025 012 彼答へて、我誠に汝等に告ぐ、我は汝等を知らず、と云へり。 040 MAT 025 013 然れば警戒せよ、汝等は其日其時を知らざればなり 040 MAT 025 014 [天國は]即或人遠く旅立たんとして、其僕等を召び、是に我所有を渡せるが如し。 040 MAT 025 015 一人には五タレント、一人に二タレント、一人には一タレントを、各其器量に應じて渡し、然て直に出立せしが、 040 MAT 025 016 五タレントを受けし者は、往きて之を以て取引して、外に五タレントを贏け、 040 MAT 025 017 二タレントを受けし者も同じ様にして、外に二タレントを贏けしに、 040 MAT 025 018 一タレントを受けし者は、往きて地を掘り主人の金を蔵し置けり。 040 MAT 025 019 久しうして後、此僕等の主人來りて彼等と計算せしが、 040 MAT 025 020 五タレントを受けし者近づきて、別に五タレントを差出して云ひけるは、主君よ、我に五タレントを渡し給ひしが、看よ別に又五タレントを贏けたり、と。 040 MAT 025 021 主人云ひけるは、宜し、善にして忠なる僕よ、汝些少なる物に忠なりしにより、我汝に多くの物を宰らしめん、汝の主人の喜に入れよ、と。 040 MAT 025 022 二タレントを受けし者も亦近づきて云ひけるは、主君よ、我に二タレントを渡し給ひしが、看よ別に又二タレントを贏けたり、と。 040 MAT 025 023 主人云ひけるは、宜し善にして忠なる僕よ、汝些少なる物に忠なりしにより、我汝に多くの物を宰らしめん、汝の主人の喜に入れよ、と。 040 MAT 025 024 一タレントを受けし者も亦近づきて云ひけるは、主君よ、我汝の厳しき人にして、播かざる處より穫り、散らさざる處より聚むるを知り、 040 MAT 025 025 懼れて、往きて汝のタレントを地に蔵し置けり、看よ汝己が物を有す、と。 040 MAT 025 026 主人答へて云ひけるは、惡くして懶惰なる僕よ、汝我播かざる處より穫り、散らさざる處より聚むるを知りたれば、 040 MAT 025 027 我金を兩替屋に預くべかりき、然らば我來りて、我有を利子と共に受けしならん。 040 MAT 025 028 然れば汝等。此者より其タレントを取りて、十タレントを有てる者に與へよ、 040 MAT 025 029 蓋総て有てる人は與へられて裕ならん、然れど有たぬ人は、其有てりと思はるる所までも奪はれん、 040 MAT 025 030 無益なる僕を外の暗に投出せ、其處には痛哭と切歯と在らん、と。 040 MAT 025 031 人の子己が威光を以て諸の[天]使を從へて來らん時、其威光の座に坐せん。 040 MAT 025 032 斯て萬民を其前に集め、彼等を別つこと、恰牧者が羊と牡山羊とを別つが如く、 040 MAT 025 033 羊を右に、牡山羊を左に置かん。 040 MAT 025 034 時に王は其右に居る者に云はん、來れ、我父に祝せられたる者よ、世界開闢より汝等の為に備へられたる國を得よ。 040 MAT 025 035 其は我が飢ゑしに汝等は食せしめ、我が渇きしに汝等飲ましめ、我が旅人なりしに汝等宿らせ、 040 MAT 025 036 裸なりしに着せ、病みたりしに訪ひ、監獄に在りしに來りたればなり、と。 040 MAT 025 037 此時義人等彼に答へて云はん、主よ、我等何時飢ゑ給ふを見て主に食せしめ、渇き給ふを[見て]主に飲ましめ、 040 MAT 025 038 何時旅人に在せるを見て主を宿らせ、又裸に在るを[見て]主に着せしぞ、と。 040 MAT 025 039 又何時病み給ひ或は監獄に居給ふを見て主に至りしぞ、と。 040 MAT 025 040 王答へて彼等に云はん、我誠に汝等に告ぐ、汝等が我此最小き兄弟の一人に為したる所は、事毎に即我に為ししなり、と。 040 MAT 025 041 斯て左に居る者にも亦云はん、詛はれたる者よ、我を離れて、惡魔と其使等との為に備へられたる永遠の火に[入れ]。 (aiōnios g166) 040 MAT 025 042 其は我が飢ゑしに汝等は食せしめず、我が渇きしに汝等飲ましめず、 040 MAT 025 043 我が旅人なりしに汝等宿らせず、裸なりしに汝等着せず、病み又監獄に在りしに汝等訪はざりし故なり、と。 040 MAT 025 044 此時彼等も王に答へて云はん、主よ、我等何時主の飢ゑ、或は渇き、或は旅人たり、或は裸なり、或は病み、或は監獄に居給ふを見て主に事へざりしぞ、と。 040 MAT 025 045 此時王彼等に答へて云はん、我誠に汝等に告ぐ、汝等が此最小き者の一人に為さざりし所は、事毎に即我に為さざりしなり、と。 040 MAT 025 046 斯て是等の人は永遠の刑罰に入り、義人は永遠の生命に入るべし、と。 (aiōnios g166) 040 MAT 026 001 第四項 敵等イエズスの死刑を謀る イエズス総て此談を畢り給ひて、弟子等に曰ひけるは、 040 MAT 026 002 汝等の知れる如く、二日の後は過越の祝行はれん。然て人の子は十字架に釘けられん為に付さるべし、と。 040 MAT 026 003 其時司祭長、民間の長老等、カイファと云へる司祭長の庭に集り、 040 MAT 026 004 詭りてイエズスを捕へて殺さんと謀りしが、 040 MAT 026 005 云へらく、祝日には之を為すべからず、恐らくは騒動人民の中に起らん、と。 040 MAT 026 006 然てイエズスベタニアにて、癩病者シモンの家に居給ひけるに、 040 MAT 026 007 或女値高き香油を盛りたる器を持ちてイエズスに近づき、食に就き居給へる頭に注ぎしが、 040 MAT 026 008 弟子等之を見て憤り、其費は何の為ぞ、 040 MAT 026 009 是は高く売りて貧者に施すを得たりしものを、と云ひけるを、 040 MAT 026 010 イエズス知りて彼等に曰ひけるは、何ぞ此女を累はすや、彼は我に善行を為せり。 040 MAT 026 011 蓋貧者は常に汝等と共に居れども、我は常に居らず。 040 MAT 026 012 此女が此香油を我身に注ぎしは、我を葬らんとて為したるなり。 040 MAT 026 013 我誠に汝等に告ぐ、全世界何國にもあれ、此福音の宣傳へられん處には、此女の為しし事も、其記念として語らるるべし、と。 040 MAT 026 014 時に十二人の一人イスカリオテのユダと云へる者、司祭長等の許に往きて、 040 MAT 026 015 汝等我に何を與へんとするか、我汝等に彼を付さん、と云ひしに、彼等銀三十枚を約せしかば、 040 MAT 026 016 ユダ此時よりイエズスを付さんとして、機を窺ひ居たり。 040 MAT 026 017 第五項 最終の晩餐 無酵麪の祝の日、弟子等イエズスに近づきて云ひけるは、我等が汝の為に備ふる過越の食事は何處ならん事を望み給ふか。 040 MAT 026 018 イエズス曰ひけるは、汝等街に往き、某の許に至りて、師曰く、我時近づけり、我弟子と共に汝の家に過越を行はんとす、と云へと。 040 MAT 026 019 弟子等イエズスに命ぜられし如くにして、過越の備を為せり。 040 MAT 026 020 夕暮に及びて、イエズス十二弟子と共に食に就き給ひしが、 040 MAT 026 021 彼等の食しつつある程に曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、汝等の中一人我を付さんとす、と。 040 MAT 026 022 彼等甚だ憂ひて、主よ、其は我なるかと、各云出でしに、 040 MAT 026 023 イエズス答へて曰ひけるは、我と共に鉢に手を附くる者我を付さん。 040 MAT 026 024 抑人の子は、己に就きて録されたる如く逝くと雖、人の子を付す者は禍なる哉、生れざりしならば、寧彼に取りて善かりしものを、と。 040 MAT 026 025 イエズスを売りしユダ答へて、ラビ其は我なるか、と云ひしにイエズス、汝の云へるが如し、と曰へり。 040 MAT 026 026 一同晩餐しつつあるに、イエズス麪を取り、祝して之を擘き、弟子等に與へて曰ひけるは、汝等取りて食せよ、是我體なりと。 040 MAT 026 027 又杯を取りて謝し、彼等に與へて曰ひけるは、汝等皆是より飲め。 040 MAT 026 028 是罪を赦されんとて衆人の為に流さるべき、新約の我血なり。 040 MAT 026 029 我汝等に告ぐ、我父の國にて共に汝等と共に新なるものを飲まん日までは、我今より此葡萄の液を飲まじ、と。 040 MAT 026 030 斯て賛美歌を誦へ畢り、皆橄欖山に出行きけるに、 040 MAT 026 031 イエズス曰ひけるは、今夜汝等皆我に就きて躓かん、其は録して「我牧者を撃たん、斯て群の羊散らん」とあればなり。 040 MAT 026 032 然れど我蘇りて後、汝等に先ちてガリレアに往かん。 040 MAT 026 033 ペトロ答へて云ひけるは、假令人皆汝に就きて躓くとも、我は何時も躓かじ。 040 MAT 026 034 イエズス答へて曰ひけるは、我誠に汝に告ぐ、今夜鶏鳴く前に、汝三度我を否まん。 040 MAT 026 035 ペトロ云ひけるは、假令汝と共に死すべくとも、我汝を否まじと。弟子等皆同じ様に云へり。 040 MAT 026 036 第六項 ゲッセマニに於るイエズス 斯てイエズス彼等と共にゲッセマニと云へる田家に至り、弟子等に向ひて、我が彼處に往きて祈る間汝等此處に坐せよ、と曰ひ、 040 MAT 026 037 ペテロとゼベデオの二人の子とを携へて、憂悲み出で給へり。 040 MAT 026 038 然て彼等に曰ひけるは、我魂死ぬばかりに憂ふ、汝等此處に留まりて我と共に醒めて在れ、と。 040 MAT 026 039 然て少しく進み行き、平伏して祈りつつ曰ひけるは、我父よ、若能ふくば、此杯我より去れかし、然れど我意の儘にとには非ず思召の如くになれ、と。 040 MAT 026 040 斯て弟子等の許に至り、彼等の眠れるを見てペトロに曰ひけるは、斯も汝等、一時間を我と共に醒め居る能はざりしか、 040 MAT 026 041 誘惑に入らざらん為に醒めて祈れ、精神は逸れども肉身は弱し、と。 040 MAT 026 042 再行きて祈り曰ひけるは、我父よ、此杯我之を飲まずして去る能はずば、思召成れかし、と。 040 MAT 026 043 又再至りて彼等の眠れるを見給へり、蓋彼等の目疲れたるなり。 040 MAT 026 044 又彼等を離れて行き、三度目に同じ言を唱へて祈り給ひしが、 040 MAT 026 045 頓て弟子等に至りて曰ひけるは、今は早眠りて息め、すは時は近づけり、人の子罪人に付されんとす。 040 MAT 026 046 起きよ、行かん、看よ、我を付す者近づけり、と。 040 MAT 026 047 第七項 イエズス捕へられ給ふ 尚語り給へるに、折しも十二人の一人なるユダ來り、又司祭長民間の長老等より遣はされた大群衆、剣と棒とを持ちて是に伴へり。 040 MAT 026 048 イエズスを売りしもの彼等に合圖を與へて、我が接吻する所の人其なり、彼を捕へよ、と云ひしが、 040 MAT 026 049 直にイエズスに近づき、ラビ安かれ、と云ひて接吻せり。 040 MAT 026 050 イエズス彼に曰ひけるは、友よ、何の為に來れるぞ、と。時に人々近づきて、イエズスに手を掛けて之を捕へたり。 040 MAT 026 051 折しも、イエズスと共に在りし者の一人、手を伸べて剣を抜き、司祭長の僕を撃ちて其耳を斬落しかば、 040 MAT 026 052 イエズス是に曰ひけるは、汝の剣を鞘に収めよ、其は総て剣を把る者は剣にて亡ぶべければなり。 040 MAT 026 053 我我父に求め得ずと思ふか、父は必直に十二隊にも餘れる天使を我に賜ふべし。 040 MAT 026 054 若然らば、斯あるべしと云へる聖書の言、争でか成就せん、と。 040 MAT 026 055 同時にイエズス群衆に曰ひけるは、汝等強盗に向ふ如く、剣と棒とを持ちて我を捕へに出來りしか、我日々[神]殿にて汝等の中に坐して教へ居りしに、汝等我を捕へざりき。 040 MAT 026 056 然れど、総て此事の成れるは預言者等の書の成就せん為なり、と。此時弟子等皆イエズスを舍きて遁去れり。 040 MAT 026 057 第八項 イエズスカイファの家に引かれ給ふ イエズスを捕へたる人々、既に律法學士長老等の相集り居たる、司祭長カイファの家に引行きしが、 040 MAT 026 058 ペトロ遥にイエズスに從ひて司祭長の庭まで至り、事態を見んとて内に入り、僕等と共に坐し居たり。 040 MAT 026 059 司祭長等と凡ての議員とは、イエズスを死に處せんとて、是に對する僞證を求め、 040 MAT 026 060 許多の僞證人來りたれども猶之を得ざりしが、終に二人の僞證人來りて 040 MAT 026 061 云ひけるは、此人「我は神殿を毀ちて三日の後再之を建直す事を得」と云へり、と。 040 MAT 026 062 司祭長起ちてイエズスに向ひ、此人々の汝に對して證する所に、汝は何をも答へざるか、と云ひしも、 040 MAT 026 063 イエズス黙し居給へば、司祭長云ひけるは、我活ける神によりて汝に命ず、汝は神の子キリストなるか、我等に告げよ。 040 MAT 026 064 イエズス曰ひけるは、汝の云へるが如し、然れども我汝等に告ぐ、此後汝等、人の子が全能に坐す神の右に坐して、空の雲に乗り來るを見るべし、と。 040 MAT 026 065 此時、司祭長己が衣服を裂きて云ひけるは、彼冒涜の言を出せり。我等何ぞ尚證人を要せん、汝等今冒涜の言を聞きて 040 MAT 026 066 如何に思ふぞ、と。彼等答へて、其罪死に至る、と云へり。 040 MAT 026 067 是に於て下役等イエズスの御顔に唾し、拳にて打ち、或者は平手にて御顔を擲きて云ひけるは、 040 MAT 026 068 キリストよ、汝を批てる者の誰なるかを我等に預言せよ、と。 040 MAT 026 069 然てペトロ外にて庭に坐し居たるに、一人の下女是に近づき、汝もガリレアのイエズスと共に居りき、と云ひしかば、 040 MAT 026 070 彼衆人の前にて之を否み、我汝の云ふ所を知らず、と云へり。 040 MAT 026 071 門を出る時、又他の下女之を見て、居合す人々に向ひ、是もナザレトのイエズスと共に居りき、と云ひたるに、 040 MAT 026 072 彼又誓ひて、我彼人を知らず、と否めり。 040 MAT 026 073 暫時ありて、側なる人々近づきてペトロに云ひけるは、汝も確に彼等の一人なり、汝の方言までも汝を顕せり、と。 040 MAT 026 074 是に於て彼、其人を知らず、とて詛ひ且誓ひ始めしかば、忽ちにして鶏鳴けり。 040 MAT 026 075 斯てペトロ、イエズスが鶏鳴く前に汝三度我を否まんと曰ひし言を思出し、外に出でて甚く泣けり。 040 MAT 027 001 第九項 イエズスピラトの前に出廷し給ふ 黎明に及びて、司祭長民間の長老等、皆イエズスを死に處せんと協議し、 040 MAT 027 002 縛りて之を召連れ、総督ポンショ、ピラトに付せり。 040 MAT 027 003 時にイエズスを付ししユダ、其宣告せられ給ひしを見て後悔し、三十枚の銀貨を司祭長長老等に齎して之を返し、 040 MAT 027 004 我無罪の血を売りて罪を犯せり、と云ひしかば彼等云ひけるは、我等に於て何かあらん、汝自見るべし、と。 040 MAT 027 005 ユダ銀貨を[神]殿の内に投棄てて去りしが、往きて縄を以て自縊れたり。 040 MAT 027 006 司祭長等、其銀貨を取りて云ひけるは、是血の値なれば賽銭箱に入るべからず、と。 040 MAT 027 007 即ち協議して、是にて陶匠の畑を買ひ、旅人の墓地に充てたり。 040 MAT 027 008 故に此畑、今日までもハケルダマ、即ち血の畑と呼ばれたり。 040 MAT 027 009 是に於て預言者エレミアによりて云はれし事成就せり、曰く「彼等はイスラエルの子等に評價られしものの値なる銀貨三十枚を取り、 040 MAT 027 010 陶匠の畑の為に與へたり、主の我に示し給へる如し」と。 040 MAT 027 011 然てイエズス、総督の前に出廷し給ひしに、総督問ひて云ひけるは、汝はユデア人の王なるか。イエズス曰ひけるは、汝の云へるが如し、と。 040 MAT 027 012 斯て司祭長、長老等より訴へられ給へども、何事をも答へ給はざりければ、 040 MAT 027 013 ピラト是に云ひけるは、彼等が汝に對して如何に大なる證言を為すかを聞かざるか、と。 040 MAT 027 014 イエズス一言も是に答へ給はざりしかば、総督感嘆する事甚しかりき。 040 MAT 027 015 茲に、祭日に當りて総督が人民の欲する所の囚人一個を釈すの例ありしが、 040 MAT 027 016 折しもバラバと云へる名高き囚人あるにより、 040 MAT 027 017 ピラト彼等の集りたるに、汝等は我誰を釈さん事を欲するか、バラバかキリストと云へるイエズスか、と云へり。 040 MAT 027 018 其は人が妬によりてイエズスを付ししを知ればなり。 040 MAT 027 019 然て総督法廷に坐しけるに、其妻人を遣はして云ひけるは、汝此義人に係はること勿れ、蓋我今日夢の中に、彼の為に多く苦しめり、と。 040 MAT 027 020 司祭長、長老等人民に向ひ、バラバを乞ひてイエズスを亡ぼさん事を勧めしが、 040 MAT 027 021 総督答へて、汝等は二人の中何れを釈されん事を望むか、と云ひしに彼等、バラバを、と云ひしかば、 040 MAT 027 022 ピラト云ひけるは、然らばキリストと云へるイエズスを我如何に處分せんか。 040 MAT 027 023 皆曰く、十字架に釘けよ、と。総督、彼何の惡を為ししか、と云ひたれど彼等益叫びて、十字架に釘けよ、と云ひ居たり。 040 MAT 027 024 ピラト其何の効もなく却て騒動の彌増すを見て、水を取り、人民の前に手を洗ひて云ひけるは、此義人の血に就きて我は罪なし、汝等自ら見るべし、と。 040 MAT 027 025 人民皆答へて、其血は我等と我等の子等との上に[被れかし]、と云ひしかば、 040 MAT 027 026 総督バラバを彼等に釈し、イエズスをば鞭たせて十字架に釘けん為彼等に付せり。 040 MAT 027 027 然て総督の兵卒等、イエズスを役所に引取り、全隊を其許に呼集め、 040 MAT 027 028 其衣服を褫ぎて赤き袍を着せ、 040 MAT 027 029 茨の冠を編みて其頭に冠らせ、右の手に葦を持たせ、其前に跪きて、ユデア人の王よ安かれ、と云ひて嘲り、 040 MAT 027 030 又是に唾吐きかけ、葦を取りて其頭を打ち居れり。 040 MAT 027 031 第十項 十字架上の犠牲 イエズスを嘲弄して後、其袍を褫ぎて原の衣服を着せ、十字架に釘けんとて引行きしが、 040 MAT 027 032 街を出る時、シモンと名くるシレネ人に遇ひしかば、強て是に其十字架を擔はせたり。 040 MAT 027 033 斯てゴルゴタ即ち髑髏と云へる處に至り、 040 MAT 027 034 胆を和ぜたる葡萄酒をイエズスに飲ませんとせしに、之を嘗め給ひて、飲む事を肯じ給はざりき。 040 MAT 027 035 彼等イエズスを十字架に釘けて後、籤を抽きて其衣服を分ちしが、是預言者に託りて云はれし事の成就せん為なり。曰く「彼等互に我衣服を分ち、我下着を抽鬮にせり」と。 040 MAT 027 036 彼等復坐してイエズスを守り居りしが、 040 MAT 027 037 其頭の上に、是ユデア人の王イエズスなり、と書きたる罪標を置けり。 040 MAT 027 038 然て是と共に二人の強盗、一人は其右に、一人は其左に十字架に釘けられしが、 040 MAT 027 039 往來の人イエズスを罵り、首を振りて、 040 MAT 027 040 噫汝神殿を毀ちて三日の中に之を建直す者よ、自を救へ、若神の子ならば十字架より下りよ、と云ひ居たり。 040 MAT 027 041 司祭長等も亦、律法學士、長老等と共に同じく嘲りて云ひけるは、 040 MAT 027 042 彼は他人を救ひしに自を救ふ能はず、若イスラエルの王ならば、今十字架より下るべし、然らば我等彼を信ぜん。 040 MAT 027 043 彼は神を頼めり、神若彼を好せば今救ひ給ふべし、其は「我は神の子なり」と云ひたればなり、と。 040 MAT 027 044 イエズスと共に十字架に釘けられたる強盗等も、同じ様に罵り居たり。 040 MAT 027 045 斯て十二時より三時まで、地上徧く黒暗となりしが、 040 MAT 027 046 三時頃、イエズス聲高く呼はりて曰ひけるは、エリ、エリ、ラマ、サバクタニ、と。是即、我神よ、我神よ、何ぞ我を棄て給ひしや、の義なり。 040 MAT 027 047 其處に立てる者の中、或人々之を聞きて、彼エリアを呼ぶよ、と云ひ居りしが、 040 MAT 027 048 軈て其中の一人走行き、海綿を取りて酢を含ませ、葦に附けて彼に飲ませんとせるに、 040 MAT 027 049 他の人、措け、エリア來りて彼を救ふや否やを見ん、と云ひ居たり。 040 MAT 027 050 イエズス復聲高く呼はりて息絶え給へり。 040 MAT 027 051 折しも[神]殿の幕、上より下まで二に裂け、地震ひ、盤破れ、 040 MAT 027 052 墓開け、眠りたる聖人の屍多く起上りしが、イエズスの復活の後、 040 MAT 027 053 墓を出でて聖なる都に至り、多くの人に現れたり。 040 MAT 027 054 百夫長及是と共にイエズスを守れる人々、地震と起れる事とを見て甚怖れ、彼は實に神の子なりき、と云へり。 040 MAT 027 055 然て此處に、ガリレアよりイエズスに從ひて事へつつありし多くの婦人、立離れて居りしが、 040 MAT 027 056 マグダレナ、マリアと、ヤコボ、ヨセフの母なるマリアと、ゼベデオの子等の母と其中に在りき。 040 MAT 027 057 日暮に及びて、アリマテアの富者ヨゼフと云へる者來り、己もイエズスの弟子なりければ、 040 MAT 027 058 ピラトに至りてイエズスの屍を乞ひたるに、ピラト之を付す事を命ぜしかば、 040 MAT 027 059 ヨゼフ屍を取りて浄き布に包み、 040 MAT 027 060 磐に鑿りたる新しき墳に納め、其の墳の入口に大なる石を転ばして去れり。 040 MAT 027 061 マグダレナ、マリアと他のマリアとは其處に在りて、墳に向ひて坐し居たり。 040 MAT 027 062 翌日、即ち用意日の次の日、司祭長ファリザイ人等、ピラトの許に集ひ至りて 040 MAT 027 063 云ひけるは、君よ、我等思出したり、彼僞者尚存命せし時、我三日の後復活せんと云ひしなり。 040 MAT 027 064 然れば命じて三日目まで墳を守らせよ、恐らくは其の弟子等來りて之を盗み、死より復活せりと人民に云はん、然らば後の惑は前よりも甚しかるべし、と。 040 MAT 027 065 ピラト彼等に向ひ、汝等に番兵あり、往きて思ふ儘に守れと云ひければ、 040 MAT 027 066 彼等往きて石に封印し、番兵に墳を守らせたり。 040 MAT 028 001 斯て安息日の終、即ち一週の首の黎明に、マグダレナ、マリアと他のマリアと、墓を見んとて至りしに、 040 MAT 028 002 折しも大地震あり、即ち主の使天より降り、近づきて石を転ばし退け、然て其上に坐せしが、 040 MAT 028 003 其容は電光の如く、其衣服は雪の如し。 040 MAT 028 004 番兵等怖れ慄きて死人の如くなれり。 040 MAT 028 005 天使婦人等に答へて云ひけるは、汝等懼るること勿れ、蓋我汝等が十字架に釘けられ給ひしイエズスを尋ぬるを知れり。 040 MAT 028 006 彼は此處に在さず、即ち曰ひし如く復活し給へり。來りて主の置かれ給ひたりし處を見、 040 MAT 028 007 且疾く往きて弟子等に其復活し給ひし事を告げよ。彼は汝等に先ちて既にガリレアに往き給ふ、汝等彼處に之を見るべし[と云へ]、我預之を汝等に告げたるぞ、と。 040 MAT 028 008 婦人等畏と大なる喜とを懐きて速に墓を去り、弟子等に告げんとて走れり。 040 MAT 028 009 折しもイエズス彼等に行遇ひ、安かれ、と曰ひければ、彼等近づきて御足を抱き、之を禮拝せり。 040 MAT 028 010 時にイエズス彼等に曰ひけるは、懼るること勿れ、往きて我兄弟等にガリレアに往けと告げよ、彼等彼處に我を見るべし、と。 040 MAT 028 011 婦人等の去りし折しも番兵の中數人の者市に至り、有りし事を悉く司祭長等に告げしかば、 040 MAT 028 012 彼等は長老等と相集りて協議し、金を多く兵卒等に與へて、 040 MAT 028 013 云ひけるは、汝等斯く云へ、彼の弟子等夜來りて、我等の眠れる中に彼を盗めりと。 040 MAT 028 014 此事若総督に聞えなば、我等彼を説きて汝等を無事ならしめん、と。 040 MAT 028 015 番兵等金を取りて、云含められし如くにしたれば、此談は今日に至るまでもユデア人の中に広まれり。 040 MAT 028 016 斯て十一の弟子ガリレアに往き、イエズスの彼等に命じ給ひし山に[至り]、 040 MAT 028 017 イエズスを見て禮拝せり。然れど疑ふ者もありき。 040 MAT 028 018 イエズス近づきて彼等に語りて曰ひけるは、天に於ても地に於ても、一切の権能は我に賜はれり。 040 MAT 028 019 故に汝等往きて萬民に教へ、父と子と聖霊との御名によりて是に洗禮を施し、 040 MAT 028 020 我が汝等に命ぜし事を悉く守るべく教へよ。然て我は世の終まで日々汝等と偕に居るなり、と。 (aiōn g165) # # BOOK 041 MAR Mark マルコの福音書 041 MAR 001 001 第一項 キリストの先駆者 神の御子イエズス、キリストの福音の始。 041 MAR 001 002 預言者イザヤ[の書]に録して、「看よ我わが使を汝の面前に遣はさん、彼汝の前に汝の道を備ふべし。 041 MAR 001 003 荒野に呼はる人の聲ありて、曰く、汝等主の道を備へよ、其徑を直くせよ」とあるが如く、 041 MAR 001 004 ヨハネ荒野に在りて洗し、且罪を赦されん為に、改心の洗禮を受けん事を宣教へしが、 041 MAR 001 005 ユデアの全地方及エルザレムの人、皆彼の許に出來り、己が罪を告白して、ヨルダン[河]にて彼に洗せられ居たりき。 041 MAR 001 006 ヨハネは駱駝の毛織を着、腰に皮帯を締め、蝗と野蜜とを食し居りしが、宣教して云ひけるは、 041 MAR 001 007 我よりも力ある者我後に來り給ふ。我は屈みて、其履の紐を解くにも堪へず、 041 MAR 001 008 我は水にて汝等を洗したれども、彼は聖霊にて汝等を洗し給ふべし、と。 041 MAR 001 009 斯て當時イエズス、ガリレアのナザレトより來り、ヨルダン[河]にてヨハネに洗せられ給ひしが、 041 MAR 001 010 軈て水より上り給ふや、天開け、[聖]霊鳩の如く降りて、我上に止り給ふを見給へり。 041 MAR 001 011 又天より聲して[曰く]、汝は我愛子なり、我汝に因りて心を安んぜり、と。 041 MAR 001 012 [聖]霊直に彼を荒野に往かしめ給ひしが、 041 MAR 001 013 四十日四十夜荒野に在りて、サタンに試みられ、野獣と共に居給ひ、天使等彼に事へ居たり。 041 MAR 001 014 第二項 キリストの宣教の初 ヨハネの囚はれし後、イエズス、ガリレアに至り、神の國の福音を宣傳へて、 041 MAR 001 015 曰ひけるは、期は満ちて神の國は近づけり、汝等改心して福音を信ぜよ、と。 041 MAR 001 016 斯てガリレアの湖辺を過ぎ給ふに、シモンと其兄弟アンデレアとが湖に網打てるを見て、――即ち漁師なりき―― 041 MAR 001 017 イエズス彼等に向ひ、我に從へ、我汝等を人を漁る者と成らしめん、と曰ひしかば、 041 MAR 001 018 彼等直に網を舍きて從へり。 041 MAR 001 019 尚少しく進み給ひて、ゼベデオの子ヤコボと其兄弟ヨハネとが、亦船の中に網を補ひつつ居るを見て、 041 MAR 001 020 直に彼等を召し給ひしに、彼等其父ゼベデオを、雇人と共に船に舍きて從へり。 041 MAR 001 021 [一同]カファルナウムに入りしが、イエズス軈て安息日毎に會堂に入りて教へ給ひければ、 041 MAR 001 022 人其教に驚き居たり。其は律法學士等の如くせずして、権威ある者の如くに教へ給へばなり。 041 MAR 001 023 然るに惡鬼に憑かれたる人、其會堂に在りしが、呼はりて、 041 MAR 001 024 云ひけるは、ナザレトのイエズスよ、我等汝と何の関係かあらん、我等を亡ぼさんとて來り給へるか、我汝の誰なるかを知れり、即ち神の聖なる者なり、と。 041 MAR 001 025 イエズス之を責めて、汝黙して其人より出でよ、と曰ひしに、 041 MAR 001 026 汚鬼其人を抅攣けさせ、聲高く叫びつつ出去れり。 041 MAR 001 027 斯て人皆恐入りて、是は何事ぞ、何等の新しき教ぞ。彼は権威を以て汚鬼等にすら命じ給へば、彼等之に從ふよ、と互に僉議するに至りければ、 041 MAR 001 028 イエズスの名聲、忽ガリレアの全地方に播がれり。 041 MAR 001 029 彼等軈て會堂を出で、ヤコボヨハネと共に、シモンとアンデレアとの家に至りしが、 041 MAR 001 030 シモンの姑、熱を患ひて臥し居ければ、直に其事をイエズスに白したるに、 041 MAR 001 031 近づきて其手を取り、之を起し給ひしかば、熱立所に去りて彼婦彼等に給仕したり。 041 MAR 001 032 夕暮に至り日没りて後、人々病める者及惡魔に憑かれたる者を、悉くイエズスの許に齎し、 041 MAR 001 033 街の人挙りて門に集り居たりしが、 041 MAR 001 034 イエズス様々の病を患へる人を多く醫し、又惡魔を多く逐出して、言ふことを許し給はざりき、其は彼等イエズスを知ればなり。 041 MAR 001 035 イエズス未明に起出で、寂しき處に至りて祈り居給へるを、 041 MAR 001 036 シモン及共に居りし人々後を慕ひ行きて、 041 MAR 001 037 是に遇ひしかば、人皆汝を尋ぬ、と云ひしに、 041 MAR 001 038 イエズス彼等に曰ひけるは、我等比鄰の村落市街へ往かん、彼處にも亦宣教すべし、我は是が為に來りたればなり、と。 041 MAR 001 039 斯て處々の會堂及ガリレア一般に宣教し、且惡魔を逐払ひ居給へり。 041 MAR 001 040 時に一個の癩病者イエズスの許に來り、跪きて願ひ云ひけるは、思召ならば我を潔くする事を得給ふ、と。 041 MAR 001 041 イエズス之を憫み給ひ、手を伸べ、是に触れて曰ひけるは、我意なり、潔くなれ、と。 041 MAR 001 042 之を曰ふや、癩病直に彼を去りて彼潔くなれり。 041 MAR 001 043 イエズス之を戒め給ひ、 041 MAR 001 044 汝慎みて人に語ること勿れ、但往きて己を司祭に見せ、潔くなりたる為に、彼等への證據として、モイゼの命ぜしものを献げよ、と曰ひて、直に彼を去らしめ給へり。 041 MAR 001 045 然れども彼出でて其事を語り、言弘め始めしかば、イエズス最早顕然に町に入り難く成りて、外の寂しき處に居給ひしが、人々八方より其許に集ひ來り居たり。 041 MAR 002 001 第三項 人々イエズスに反抗し始む 數日の後、イエズス復カファルナウムに入り給ひしが、 041 MAR 002 002 家に居給ふ事聞えしかば、人々夥しく集り來り、門口すら隙間もなき程なるに、イエズス彼等に教を宣べ居給へり。 041 MAR 002 003 茲に人々、四人に舁かれたる一個の癱瘋者を齎ししが、 041 MAR 002 004 群衆の為に之をイエズスに差出だすこと能はざれば、居給ふ處の屋根を剥ぎて之を開き、癱瘋者の臥せる床を吊下せり。 041 MAR 002 005 イエズス彼等の信仰を観て、癱瘋者に向ひ、子よ、汝の罪赦さる、と曰ひしかば、 041 MAR 002 006 或律法學士等其處に坐し居て、心に思ひけるは、 041 MAR 002 007 彼何ぞ斯の如く云ふや、是冒涜するなり、神獨の外、誰か罪を赦すことを得んや、と。 041 MAR 002 008 イエズス彼等の斯く思へるを直に其心に知りて曰ひけるは、何為ぞ然る思ひを心に懐ける。 041 MAR 002 009 癱瘋者に汝の罪赦さると云ふと、起きて床を取りて歩めと云ふと、孰か易き。 041 MAR 002 010 然て汝等をして、人の子地に於て罪を赦すの権あることを知らしめん、とて癱瘋者に向ひ、 041 MAR 002 011 我汝に命ず、起きよ、床を取りて己が家に往け、と曰ひしに、 041 MAR 002 012 彼忽ち起きて床を取り、衆人見る目前を過行きしかば、皆感嘆に堪へず、神に光榮を歸し、我等曾て斯の如き事を見ざりき、と云ふに至れり。 041 MAR 002 013 イエズス又湖辺に出で給ひしに、群衆挙りて來りければ、彼等を教へ居給ひしが、 041 MAR 002 014 通りがけに、アルフェオの子レヴィが収税署に坐せるを見て、我に從へ、と曰ひしかば、彼起ちて從へり。 041 MAR 002 015 斯て彼の家にて食に就き給ひければ、多くの税吏と罪人とは、イエズス及其弟子等と共に列席したり、蓋イエズスに從へる者既に多かりき。 041 MAR 002 016 律法學士ファリザイ人等、イエズスが税吏及罪人と共に食し給ふを見て、其弟子等に曰ひけるは、汝等の師は何故税吏罪人と共に飲食するぞ、と。 041 MAR 002 017 イエズス之を聞きて彼等に曰ひけるは、壮健なる者は醫者を要せず、病ある者こそ[之を要するなれ]、即我が來りしは義人を召ぶ為に非ずして、罪人を[召ぶ為なり]、と。 041 MAR 002 018 ヨハネの弟子等とファリザイ人とは断食したりければ、來りてイエズスに云ひけるは、ヨハネとファリザイ人との弟子は断食するに、汝の弟子は何故に断食せざるぞ、と。 041 MAR 002 019 イエズス彼等に曰ひけるは、新郎の己等と共に在る間、介添争でか断食することを得ん。新郎の共に在る間は彼等断食することを得ず。 041 MAR 002 020 然れど新郎の彼等の中より取去らるる日來らん、其日には断食せん。 041 MAR 002 021 新布の片を古き衣服に補ぐ人はあらず、然せば其新しき補は却て古き物を引裂きて、破綻は大いなるべし。 041 MAR 002 022 又新しき酒を古き皮嚢に盛る人はあらず、若然せば酒は皮嚢を裂きて流れ、皮嚢も亦廃らん、新しき酒は新しき皮嚢にこそ盛るべけれ、と。 041 MAR 002 023 主又、安息日に當りて、麦畑を過り給へるに、弟子等歩みつつ穂を摘始めしかば、 041 MAR 002 024 ファリザイ人イエズスに向ひ、看よ、彼等が安息日に為すべからざる事を為せるは何ぞや、と云ひければ、 041 MAR 002 025 イエズス曰ひけるは、ダヴィドが急に迫りて、己も伴へる人々飢ゑし時に為しし事を、汝等読まざりしか、 041 MAR 002 026 即如何にして、大司祭アビアタルの時、神に家に入りて、司祭等の外は食すべからざる供の麪を食し、伴へる人々にも與へしかを。 041 MAR 002 027 又曰ひけるは、安息日は人の為に設けられて、人は安息日の為に造られず、 041 MAR 002 028 然れば人の子は亦安息日の主たるなり、と。 041 MAR 003 001 イエズス又會堂に入り給ひしに、隻手痿えたる人其處に居りければ、 041 MAR 003 002 ファリザイ人イエズスを訟へんとて、彼が安息日に醫すや否やを窺ひ居りしが、 041 MAR 003 003 イエズス手痿えたる人に向ひて、眞中に立て、と曰ひ、 041 MAR 003 004 又彼等に向ひて、安息日に善を為すは可きか、惡を為すは可きか、人を救ふは可きか、之を亡ぼすは可きか、と曰ひしに、彼等黙然たりき。 041 MAR 003 005 イエズス彼等が心の頑固なるを憂ひ、怒を含みて視廻しつつ彼人に、手を伸べよ、と曰ひければ、彼伸べて、其手痊えたり。 041 MAR 003 006 然るにファリザイ人は、出でて直に、如何にしてかイエズスを亡ぼさんと、ヘロデの徒と共に協議したり。 041 MAR 003 007 イエズス、弟子等と共に湖の方に避け給ひしに、群衆夥しくガリレア及びユデアより、 041 MAR 003 008 又エルザレム、イデュメア、ヨルダン[河]の彼方より[來りて]從ひ、且チロとシドンとの地方よりも、イエズスの行ひ給へる事を聞きて、人々夥しく其許に來りしかば、 041 MAR 003 009 イエズス群衆に擠迫られざらん為に、小舟を我用に備へ置かん事を弟子等に命じ給へり。 041 MAR 003 010 蓋許多の人を醫し給ふに因り、病ある者は皆彼に触れんとて跳付く程なりき。 041 MAR 003 011 汚鬼等もイエズスを見る時は、其前に平伏し、叫びて、 041 MAR 003 012 汝は神の子なり、と云ひ居ければ、イエズス己を顕すなと、厳しく戒め居給へり。 041 MAR 003 013 第四項 使徒の選定より第一の派遣までの事實 斯てイエズス山に登り、好み給へる人々を召し給ひしに、彼等來りしかば、 041 MAR 003 014 十二人を立てて己と共に居らしめ、且宣教に遣はさんとて、 041 MAR 003 015 是に與ふるに、病を醫し、惡魔を逐払ふ権能を以てし給へり。 041 MAR 003 016 即シモン、之をペトロと名け、 041 MAR 003 017 ゼベデオの子ヤコボと、ヤコボの兄弟ヨハネ、是等をボアゲルネス即雷の子と名け給へり。 041 MAR 003 018 またアンデレア、フィリッポ、バルトロメオ、マテオ、トマ、アルフェオの子ヤコボ、タデオ、カナアンのシモン、 041 MAR 003 019 及イエズスを売りしイスカリオテのユダなりき。 041 MAR 003 020 彼等家に至りしに、群衆再集りしかば、麪を食する事だに得ざりしが、 041 MAR 003 021 イエズスの親族之を聞き、彼狂せりと云ひて、之を捕へん為に出來れり。 041 MAR 003 022 又エルザレムより下りし律法學士等も、彼ベエルゼブブに憑かれたり、其惡魔を逐払ふは惡魔の長に籍るなり、と云ひ居たり。 041 MAR 003 023 イエズス彼等を呼集めて、喩を以て曰ひけるは、サタン争でかサタンを逐払ふを得んや。 041 MAR 003 024 國自ら分れ争ふ時は、其國立つ能はず、 041 MAR 003 025 家自ら分れ争ふ時は、其家立つ能はず、 041 MAR 003 026 サタン若己に起ち逆らはば、是自ら分れ争ふもの、立つ能はずして、却て亡ぶべし。 041 MAR 003 027 如何なる人も、剛き者の家に入りて其家具を掠めんには、先剛き者を縛らざれば能はず、[縛りて後]其家を掠むべし。 041 MAR 003 028 我誠に汝等に告ぐ、人の子等が一切の罪、及冒涜せし其冒涜は赦されん、 041 MAR 003 029 然れども聖霊を冒涜せし者は永遠に赦を得ず、永遠の罪に服すべし、と。 (aiōn g165, aiōnios g166) 041 MAR 003 030 斯く曰ひしは人々、彼汚鬼に憑かれたり、と云ひ居ればなり。 041 MAR 003 031 時にイエズスの母と兄弟等と、來りて外に立ち、人を遣はして彼を呼ばしめしに、 041 MAR 003 032 群衆彼を環りて坐し居たりけるが、人々彼に告げて、看よ、汝の母と兄弟等と外に在りて汝を尋ぬ、と云ひしかば、 041 MAR 003 033 イエズス彼等に答へて曰ひけるは、誰か我が母、我が兄弟なるぞ、と。 041 MAR 003 034 又己が周圍に坐せる人々を視廻しつつ曰ひけるは、是ぞ我母、我兄弟なる、 041 MAR 003 035 其は神の御旨を行ふ人は、是我兄弟、我姉妹、我母なればなり、と。 041 MAR 004 001 然て再び湖辺にて教へ始め給ひしが、群衆夥しく其許に集りしかば、イエズスは湖に泛べる船に乗りて座し給ひ、群衆は、皆岸に沿ひて陸に居れり。 041 MAR 004 002 斯て喩を以て多くの事を教へ給ひしが、其教の中に曰ひけるは、 041 MAR 004 003 汝等聴け。種播く者播かんとて出でしが、 041 MAR 004 004 播く時、或種は路傍に落ちしかば、空の鳥來りて之を啄めり。 041 MAR 004 005 或種は土少き磽地に落ちしに、土の深からざるによりて直に萌出でたれども、 041 MAR 004 006 日出づるや灼けて、根なきが故に枯れたり。 041 MAR 004 007 或種は茨の中に落ちしに、茨長ちて之を蔽塞ぎたれば、果を結ばざりき。 041 MAR 004 008 或種は沃壌に落ちしかば、穂出でて實り立ち、一は三十倍、一は六十倍、一は百倍を生じたり。 041 MAR 004 009 又曰ひけるは、聞く耳を有てる人は聞け、と。 041 MAR 004 010 イエズス獨居給ふ時、共に在りし十二人、此喩を問ひしかば、 041 MAR 004 011 彼等に曰ひけるは、汝等は神の國の奥義を知る事を賜はりたれど、外の人は何事も喩を以てせらる、 041 MAR 004 012 彼等は見て見ゆれども認らず、聞きて聞ゆれども暁らず、是立還りて其罪を赦さるる事なからん為なり。 041 MAR 004 013 又彼等に曰ひけるは、汝等此喩を知らざるか、然らば如何にしてか、諸の喩を暁らん。 041 MAR 004 014 種捲く者は言を捲くなり、 041 MAR 004 015 言捲かるる時路傍に落ちたるものは、人之を聞きたるにサタン忽來りて其心に捲かれたる言を奪ふものなり。 041 MAR 004 016 磽地に捲かれたるものは、同じく言を聞き、直に喜びて之を受くれども、 041 MAR 004 017 己に根なく、暫時のみにして、軈て言の為に、困難と迫害と起れば、忽躓くものなり。 041 MAR 004 018 又茨の中に撒かれたるものあり、是等は言を聞くと雖、 041 MAR 004 019 此世の心勞、富の惑、其他の諸欲入來りて、言を蔽塞ぎ、遂に實らざるに至る。 (aiōn g165) 041 MAR 004 020 沃壌に撒かれたるものは、言を聞きて之を受け、或いは三十倍或は六十倍或は百倍の果を結ぶものなり。 041 MAR 004 021 又彼等に曰ひけるは、燈を持來るは、枡の下或は寝台の下に置かん為なるか、燭台の上に載せん為に非ずや、 041 MAR 004 022 即何事も隠されて顕れざるはなく、密にせられて遂に公に出でざるはなし。 041 MAR 004 023 聞く耳を有てる人は聞け。 041 MAR 004 024 又彼等に曰ひけるは、汝等聞く所を慎め。汝等の量りたる量にて自らも量られ、而も更に加へられん、 041 MAR 004 025 其は有てる人は尚與へられ、有たざる人は其有てる所をも奪はるべければなり。 041 MAR 004 026 又曰ひけるは、神の國は、恰人が地に種を蒔くが如し。 041 MAR 004 027 夜晝寝起して知らざる間に、其種萌出でて生長す、 041 MAR 004 028 即地は自然に果を生じ、先苗、次に穂、次に穂に充てる麦を生じ、 041 MAR 004 029 既に實りて収穫の時至れば、直に鎌を入るるなり。 041 MAR 004 030 又曰ひけるは、我等神の國を何に擬へ、如何なる譬を以て喩へんか。 041 MAR 004 031 是一粒の芥種の如し。地に播かるる時は地上の有ゆる種よりも小けれども、 041 MAR 004 032 播かれたる後は育ちて、長ちて萬の野菜より大きく、大いなる枝を生じて、空の鳥其蔭に栖むを得るに至る、と。 041 MAR 004 033 イエズスは、人々の聞き得るに應じて、斯る多くの喩を以て教を語り給ひ、 041 MAR 004 034 喩なくして人に語り給ふ事あらざりしが、弟子等には何事をも、別に解釈し居給へり。 041 MAR 004 035 其日、暮に及びて、イエズス弟子等に、我等彼方の岸に渡らん、と曰ひしかば、 041 MAR 004 036 彼等は群衆を去らしめ、イエズスを船に居給へる儘に乗せ往き、他の船等も是に伴ひたりき。 041 MAR 004 037 時に大風起りて、浪は船に打入り、船中に満つるに至りしが、 041 MAR 004 038 イエズスは艫の方に枕して寝ね給へるを、弟子等呼起して云ひけるは、師よ、我等の亡ぶるを顧み給はざるか、と。 041 MAR 004 039 イエズス起きて風を戒め、又海に向ひて、黙せよ、静まれ、と曰ひしかば、風息みて大凪となれり。 041 MAR 004 040 又彼等に曰ひけるは、汝等何故に怖るるぞ、未信仰を有たざるか、と。 041 MAR 004 041 彼等怖るる事甚しく、是は何人ぞや、風も湖もこれに從ふよ、と語合ひ居たり。 041 MAR 005 001 然て湖を渡りてゲラサ人の地に至りしが、 041 MAR 005 002 イエズス船より出で給ふや、汚鬼に憑かれたる人、墓より出でて來り迎ふ。 041 MAR 005 003 此人墓を住處とし、鎖を以てすら、誰も之を繋ぎ得ず、 041 MAR 005 004 即數次桎と鎖とを以て繋がれたりしも、鎖を断り桎を摧きて、誰も之を制し得る者なかりき。 041 MAR 005 005 斯て絶えず叫び、且自ら石もて傷けつつ、夜晝墓と山の中に居りしが、 041 MAR 005 006 遥にイエズスを見て、走り寄りて禮拝し、 041 MAR 005 007 聲高く呼はり云ひけるは、最高き神の御子イエズスよ、我と汝と何の關係かあらん。我神によりて希ふ、我を苦しむること勿れ、と。 041 MAR 005 008 其はイエズス是に向ひて、汚鬼、斯人より出よ、と曰へばなり。 041 MAR 005 009 イエズス、汝の名は何ぞ、と問ひ給ひしに、彼、我名は軍団なり、我等は數多ければなり、と云ひて、 041 MAR 005 010 己を此地より逐払ひ給はざらん事を、切に願ひ居たり。 041 MAR 005 011 然て此處に豚の大いなる群、山辺に在りて草を食み居りしが、 041 MAR 005 012 [惡]鬼等希ひて、我等を遣りて豚の中に入ることを得させ給へ、と云ひければ、 041 MAR 005 013 イエズス直に之を允し給ひしに、汚鬼等出でて、豚の中に入り、凡二千頭計の群、勢凄じく湖に飛入りて、湖の中に溺死せり。 041 MAR 005 014 此豚を牧ひ居りし者等、遁げて、町に田舎に吹聴したれば、人々事の顛末を見んとて出でしが、 041 MAR 005 015 イエズスの許に來りて、彼惡魔に悩まされし人の、既に衣服を着、心確にして坐せるを見て、怖れたり。 041 MAR 005 016 又見たりし者、彼惡魔に憑かれたりし人に成されたる次第と、豚の事とを告げしかば、 041 MAR 005 017 彼等イエズスに其境を去り給はん事を願出でたり。 041 MAR 005 018 イエズス、船に乗り給ふ時、彼惡魔に悩まされし人、伴はん事を願出でたれど、 041 MAR 005 019 イエズス之を容れずして曰ひけるは、汝の家汝の親戚に至りて、主が汝の身に如何ばかり大いなる事をなし、[如何に]汝を憐み給ひしかを彼等に告げよ、と。 041 MAR 005 020 彼即去りて、イエズスの己に為し給ひし事の如何ばかり大いなるかを、デカポリに言弘め始めしかば、人皆感嘆したり。 041 MAR 005 021 イエズス復船にて湖を渡り給ひしかば、群衆夥しく其許に集りしが、湖辺に居給ふ折しも、 041 MAR 005 022 會堂の司の一人なる、ヤイロと云へる者出來り、イエズスを見るや、足下に平伏して、 041 MAR 005 023 我女死に垂とす、助かりて活くる様、來りて是に按手し給へ、と切に希ひければ、 041 MAR 005 024 イエズス彼と共に往き給ふに、群衆夥しく從ひて擠迫り居たり。 041 MAR 005 025 茲に十二年血漏を患へる婦ありて、 041 MAR 005 026 曾て數多の醫師に係りて様々に苦しめられ、有てる物を悉く費したれど、何の効もなく、却て益惡しかりしに、 041 MAR 005 027 イエズスの事を聞きしかば、雑沓の中を後より來りて、其衣服に触れたり。 041 MAR 005 028 是は其衣服にだに触れなば癒ゆべし、と謂ひ居たればなり。 041 MAR 005 029 斯て出血忽ちに歇みて、婦は病の癒えたるを身に感じたり。 041 MAR 005 030 イエズス直に己より霊能の出でしを覚り給ひ、群衆を顧みて、誰か我衣服に触れしぞ、と曰ふや、と。 041 MAR 005 031 弟子等云ひけるは、群衆の汝に擠迫るを見ながら猶誰か我に触りしぞ、と曰ふや、と。 041 MAR 005 032 イエズス之を為しし人を見んとて視廻し給へば、 041 MAR 005 033 婦は我が身に成りたる事を知りて、恐れ慄きつつ來り、御前に平伏して、具に實を告げたり。 041 MAR 005 034 イエズス是に曰ひけるは、女よ、汝の信仰、汝を救へり、安んじて往け、汝の病癒えてあれかし、と。 041 MAR 005 035 尚語り給ふ中に、會堂の司の家より人來りて云ひけるは、汝の女死せり。何ぞ尚師を煩はすや、と。 041 MAR 005 036 イエズス其告ぐる所を聞きて、會堂の司に曰ひけるは、恐るること勿れ、唯信ぜよ、と。 041 MAR 005 037 而してペトロとヤコボとヤコボの兄弟ヨハネとの外、誰にも随行を許さずして、 041 MAR 005 038 會堂の司の家に至り給ひしが、其騒甚しく、人々泣き、且太く嘆きつつ居るを見て、 041 MAR 005 039 イエズス内に入り給ひ、汝等何ぞ騒ぎ且泣くや、女は死にたるに非ず、寝たるなり、と曰へば、 041 MAR 005 040 人々之を哂ひ居たり。然れど人を皆外に出し、女の父母と己が從者とを連れて、女の臥せる處に入り、 041 MAR 005 041 女の手を取りて、タリタクミ、と曰へり、訳して、女よ、我汝に命ず、起きよ、の義なり。 041 MAR 005 042 女直に起きて歩めり、年は十二歳なりき。人々愕然として甚く驚きしが、 041 MAR 005 043 イエズス此事を誰にも知らすべからずと厳しく戒め、食物を女に與へん事を命じ給へり。 041 MAR 006 001 イエズス、此處を去りて我故郷に至り給ひ、弟子等是に從ひいたりしが、 041 MAR 006 002 安息日に當り會堂にて教を説始め給ひしかば、聞く人多く其教に驚きて云ひけるは、彼は是等の事を何處より得たるぞ、其授けられたる智恵と、其手に行はるる斯ばかりの奇蹟とは、如何なるものぞ。 041 MAR 006 003 彼はマリアの子にして、ヤコボ、ヨゼフ、ユダ及びシモンの兄弟たる職工にあらずや、其姉妹等も我等と共に此處に在るに非ずや、と。斯て遂に彼に躓き居たり。 041 MAR 006 004 イエズス彼等に曰ひけるは、預言者の敬はれざるは唯其故郷、其家、其親戚の中に於てのみ、と。 041 MAR 006 005 然れば此處にては、少數の病者を按手して醫し給ひし外、何等の奇蹟をも為し得給はず、 041 MAR 006 006 彼等の不信仰に驚き、其辺の邑々を巡りて教へ居給へり。 041 MAR 006 007 イエズス十二人を呼びて、之を二人づつ遣はすに臨み、汚鬼等[に對する]の権能を授け、 041 MAR 006 008 且途中杖の外に何物をも携へざる事、旅嚢、麪又は帯に銭を持つまじき事、 041 MAR 006 009 普通の履物を穿くも、二枚の下着を着まじき事を命じ、 041 MAR 006 010 然て彼等に曰ひけるは、何處にても、或家に入らば、其地を去るまで其處に留れ。 041 MAR 006 011 又総て汝等を承けず、汝等に聴かざる者あらば、其處を立去りて、彼等への證據として足の塵を払え、と。 041 MAR 006 012 斯て弟子等出でて改心すべきことを人々に説教し、 041 MAR 006 013 許多の惡魔を逐払ひ、注油して多くの病者を醫し居たり。 041 MAR 006 014 第五項 イエズスガリレアを巡り給ふ 斯てイエズスの名顕れしかば、ヘロデ王聞きて、洗者ヨハネは死者の中より蘇りたり、故に奇蹟彼に行はるるなり、と云へるに、 041 MAR 006 015 或人々は、是エリアなりと云ひ、又或人々は、預言者なり、預言者の一人の如し、と云へば、 041 MAR 006 016 ヘロデ之を聞きて我が馘りし彼ヨハネは、死者の中より蘇りたり、と云へり。 041 MAR 006 017 蓋ヘロデ曾て其兄弟フィリッポの妻ヘロヂアデを娶りたれば、彼が為に人を遣はしてヨハネを捕へ、監獄に繋ぎたりき。 041 MAR 006 018 其はヨハネヘロデに向ひ、汝兄弟の妻を納るるは可からず、と云ひ居たればなり。 041 MAR 006 019 然ればヘロヂアデ彼を恨みて殺さんと欲すれども、能はざりき、 041 MAR 006 020 是ヘロデはヨハネの義人たり聖人たるを知りて、之を畏れ且護り、是に聴きて多くの事を行ひ、好みて彼に聴き居たるを以てなり。 041 MAR 006 021 斯て便宜好き日來り、ヘロデ、大官、千夫長及ガリレアの貴族等を招待して誕生日の饗宴を開きしが、 041 MAR 006 022 彼ヘロヂアデの女入來りて踊を為し、ヘロデ及列席の人々の意に適ひしかば、王女に云ひけるは、欲しきものを我に求めよ、我必之を與へん、と。 041 MAR 006 023 又誓ひて曰く、何事を求むるも、例へば我國の半にても、我之を汝に與へん、と。 041 MAR 006 024 其時女出でて、我何を求むべきか、と母に云ひしに、彼、洗者ヨハネの頭を、と云ひければ、 041 MAR 006 025 女直に王の許に急ぎ行き、洗者ヨハネの頭を盆に載せて、速に我に賜はん事を欲す、と云へり。 041 MAR 006 026 王憂ひしかど、誓に對し且は列席の人々に對して女に否む事を欲せず、 041 MAR 006 027 刑吏を遣はし、ヨハネの頭を盆に載せて持來る事を命ぜり。刑吏監獄にヨハネを馘り、 041 MAR 006 028 其頭を盆に載せ齎して、女に與へしかば、女は之を母に與へたり。 041 MAR 006 029 ヨハネの弟子等聞きて來り、其屍を取りて墓に葬れり。 041 MAR 006 030 然て使徒等イエズスの許に集り、総ての為しし事、教へし事を告げしかば、 041 MAR 006 031 イエズス彼等に向ひ、別に寂しき處に來りて暫し休め、と曰へり。其は往來する人多くして、食する暇だにあらざればなり。 041 MAR 006 032 斯て船に乗りて、別に寂しき處に往けり。 041 MAR 006 033 彼等の往くを見て、多くの人之を知り、凡ての町より徒歩にて彼等に先ちて、彼處に馳集りしが、 041 MAR 006 034 イエズス出でて群衆の夥しきを見給ひ、其牧者なき羊の如くなるを憫み、多くの事を教へ始め給へり。 041 MAR 006 035 日既に暮れかかりしかば、弟子等近づきて云ひけるは、處は寂しく時は既に遅し。 041 MAR 006 036 人々を還し、四辺の田家及邑に往きて面々に食物を買ふことを得しめ給へ、と。 041 MAR 006 037 イエズス答へて、汝等是に食物を與へよ、と曰ひしかば、彼等云ひけるは、我等往きて二百デナリオにて麪を沽ひ、彼等に食せしめんか、と。 041 MAR 006 038 イエズス、汝等幾個の麪をか有てる、往きて見よ、と曰ひしに、彼等尋ね知りて、五個と二尾の魚とあり、と云へり。 041 MAR 006 039 斯て命じて、人々を皆青草の上に組々に坐せしめ給ひ、 041 MAR 006 040 人々百人五十人づつ坐したるに、 041 MAR 006 041 イエズス五個の麪と二尾の魚とを取り、天を仰ぎて祝し、麪を擘きて弟子等に與へ、之を人々の前に置かしめ、又二尾の魚を一同に分ち給ひしかば、 041 MAR 006 042 皆食して飽足れり。 041 MAR 006 043 殘れる屑を拾ひしに、魚を併せて十二の筐に満ちしが、 041 MAR 006 044 食せし男子は五千人なりき。 041 MAR 006 045 イエズス直に弟子等を強て船に乗らしめ、己が人民を去らしむる間に湖を渡り、先ちてベッサイダへ赴かしめ給ひ、 041 MAR 006 046 人を去らしめて後、祈らんとて山に往き給へり。 041 MAR 006 047 夜更けて船は湖の中央に在り、イエズスは獨陸に居給ひしが、 041 MAR 006 048 イエズス弟子等の逆風の為に漕ぎ悩めるを見給ひ、朝の三時頃湖の上を歩みて彼等に至り、行過ぎんとし給ひしに、 041 MAR 006 049 弟子等其湖の上を歩み給ふを見るや、怪物ならんと思ひて叫出せり。 041 MAR 006 050 其は皆彼を見て心擾ぎたればなり。イエズス直に言を出して、頼もしかれ、我なるぞ、懼るること勿れ、と曰ひ、 041 MAR 006 051 船に乗りて彼等に至り給ひしに、風止みたれば、彼等愈益心の中に驚きたり。 041 MAR 006 052 其は彼等の心頑固にして、彼の麪の事を暁らざりければなり。 041 MAR 006 053 航りて、ゲネザレトの地に至り、岸に船を着けしが、 041 MAR 006 054 船より出づるや、人々忽イエズスを認めて、 041 MAR 006 055 其全地方を馳廻り、イエズスの居給ふと聞く處に、病る者を床の儘に舁きて、何處までも廻り始めたり。 041 MAR 006 056 斯て至る處、或は邑、或は街、或は田家に、人々病者を衢に置き、彼の衣服の総にだも触れん事を願ひ居りしが、触るる人は悉く醫されつつありき。 041 MAR 007 001 ファリザイ人及數人の律法學士エルザレムより來りて、イエズスの許に集まりしが、 041 MAR 007 002 弟子の中なる數人の、常の手即ち洗はざる手にて麪を食するを見て、之を咎めたり。 041 MAR 007 003 是ファリザイ人及凡てのユデア人は、古人の傳を守りて、屡手を洗はざれば食せず、 041 MAR 007 004 又市より來る時は、身を洗はざれば食せず、其外杯、土器、銅器、牀の洗清め等、守るべき事多く傳へられたればなり。 041 MAR 007 005 ファリザイ人、律法學士等イエズスに問ひけるは、汝の弟子等は何ぞ古人の傳に從ひて歩まず、常の手にて麪を食するや。 041 MAR 007 006 答へて曰ひけるは、善哉イザヤが僞善なる汝等に就きて預言したる事、録して「此民は唇にて我を尊べども、其心は我に遠ざかれり。 041 MAR 007 007 人の訓戒を教へて、空しく我を尊ぶなり」とあるに違はず。 041 MAR 007 008 即汝等は神の掟を棄てて人の傳を守り、土器、杯等の洗清め、又然る類の事を多く行ふなり、と。 041 MAR 007 009 又彼等に曰ひけるは、汝等は己が傳を守らんとて、能くも神の掟を廃せるよ。 041 MAR 007 010 即モイゼ曰く、「汝の父母を敬へ」と、又曰く「父若くは母を詛う人は死すべし」と。 041 MAR 007 011 然るを汝等は云ふ、人もし父若くは母に向ひて、総て我よりするコルバン、即献物は、汝に益とならんと云はば足れり、と。 041 MAR 007 012 而して其外は何事をも父若くは母に為すを容さず。 041 MAR 007 013 斯く己の傳へし傳によりて神の言を廃し、又然る類の事を多く行ふなり、と。 041 MAR 007 014 イエズス再群衆を呼集めて、曰ひけるは、皆我に聞きて暁れ。 041 MAR 007 015 外より人に入る物は、何物も人を汚す能はず、人より出づる物こそ人を汚すなれ。 041 MAR 007 016 聞く耳を有てる人は聞け、と。 041 MAR 007 017 然てイエズス、群衆を離れて家に入り給ひしに、弟子等此喩の事を問ひければ、 041 MAR 007 018 彼等に曰ひけるは、汝等も然までに無智なるか。総て外より人に入る物は、之を汚す能はざることを暁らざるか。 041 MAR 007 019 是其心に入るに非ずして、腹に下り、総て食物を浄めて厠に出づればなり、と。 041 MAR 007 020 又曰ひけるは、人より出づる物こそ人を汚すなれ。 041 MAR 007 021 即人の心の内より出づるは、惡念姦淫私通殺人 041 MAR 007 022 偸盗貪婪狡猾詐僞猥褻惡視冒涜傲慢愚痴にして、 041 MAR 007 023 是等一切の惡事は、内より出でて人を汚すなり、と。 041 MAR 007 024 イエズス此處を去りて、チロとシドンとの地方に行き、家に入りて、誰をも見ざらん事を欲し給ひたれど、得隠れ給はざりき。 041 MAR 007 025 即ち汚鬼に憑かれたる女を持てる一人の婦、イエズスの事を聞くと等しく入來りて、足下に平伏せり。 041 MAR 007 026 此婦はシロフェニシアに生まれたる異邦人にして、我女より惡魔を逐払ひ給はん事を願ひ出でけるに、 041 MAR 007 027 イエズス曰ひけるは、先兒等をして飽足らしめよ。兒等の麪を取りて犬に投與ふるは善き事に非ず、と。 041 MAR 007 028 婦答へて、主よ、然り、然れど狗兒も、食卓の下に、兒等の遺片を食ふなり、と云ひしに、 041 MAR 007 029 イエズス曰ひけるは、此言によりて往け、惡魔汝の女より出でたり、と。 041 MAR 007 030 婦家に歸りて見れば、女は牀に横はりて、惡魔は既に立去りたりき。 041 MAR 007 031 イエズス又チロの地方を出で、シドンを経てデカポリ地方の中央を過り、ガリレアの湖に至り給ひしに、 041 MAR 007 032 人々唖にして聾なる者をイエズスに連れ來り、是に按手し給はん事を願ひければ、 041 MAR 007 033 イエズス之を群衆の中より呼取りて、指を其耳に入れ、唾して其舌に触れ、 041 MAR 007 034 天を仰ぎて歎じ、エフフェタ、と曰へり、即開けよの義なり。 041 MAR 007 035 忽にして其耳開け、舌の縺解けて言ふこと正しかりき。 041 MAR 007 036 イエズス之を人に語る事を彼等に戒め給ひしかど、戒め給ふほど、人は益言弘め、 041 MAR 007 037 益感嘆して、善くこそ何事をも為し給ひつれ、聾を聞えしめ、唖を言はしめ給へり、と云ひ居たり。 041 MAR 008 001 其時復群衆夥しくして、食すべきものあらざりしかば、イエズス弟子等を呼集めて曰ひけるは、 041 MAR 008 002 我此群衆を憫む。夫既に三日を我と共に過して今や食すべき物なし。 041 MAR 008 003 彼等を空腹にして家に歸らしめば、中には遠方より來れる人々あり、途にて倒るべし、と。 041 MAR 008 004 弟子等答へけるは、此荒野にて、誰か何處より麪を得て彼等を飽かしめ得べき、と。 041 MAR 008 005 イエズス、汝等幾個の麪をか有てる、と問ひ給ふに、七個と云ひしかば、 041 MAR 008 006 イエズス命じて群衆を地に坐らせ、七個の麪を取り、謝して之を擘き、人々の前に供へしめんとて弟子等に與へ給ひしかば、彼等之を群衆の前に供へたり。 041 MAR 008 007 又少しの小魚ありけるを、イエズス之をも祝し給ひ、命じて人々の前に供へしめ給ひしかば、 041 MAR 008 008 人々食して飽足り、殘の屑七筐を拾へり。 041 MAR 008 009 食せし者は凡四千人なりしが、イエズスさて彼等を去らしめ給へり。 041 MAR 008 010 斯て直に弟子等と共に船に乗りて、ダルマヌタ地方に至り給ひしに、 041 MAR 008 011 ファリザイ人等出でて論じかかり、イエズスを試みて天よりの徴を求めければ、 041 MAR 008 012 イエズス心の中に歎じて曰ひけるは、現代の人は何ぞ徴を求むるや、我誠に汝等に告ぐ、現代の人豈徴を與へられんや、と。 041 MAR 008 013 軈て彼等を去らしめ、復船に乗りて湖の彼方に至り給へり。 041 MAR 008 014 時に弟子等麪を携ふる事を忘れて、船中唯一個の麪あるのみなりしが、 041 MAR 008 015 イエズス彼等に命じて、汝等慎みて、ファリザイ人の麪酵と、ヘロデの麪酵とに用心せよ、と曰ひしかば、 041 MAR 008 016 彼等、是我等が麪を有たざる故ならん、とて案じ合ひけるを、 041 MAR 008 017 イエズス知りて曰ひけるは、汝等何ぞ麪を有たざる事を案ずるや、未知らず暁らざるか、汝等の心猶盲なるか、 041 MAR 008 018 目ありて見えず、耳ありて聞こえざるか、又記憶せざるか。 041 MAR 008 019 即我五個の麪を五千人に擘與へし時、汝等屑の満ちたる筐幾許を取収めしぞ、と。彼等十二と云ひしに、 041 MAR 008 020 又[曰ひけるは、]七個の麪を四千人に擘與へし時、幾筐の屑を取収めしぞと、彼等、七と云ひしかば、 041 MAR 008 021 イエズス何ぞ未だ暁らざる、と曰へり。 041 MAR 008 022 一行ベッサイダに至りしに、人々一個の瞽者をイエズスに連來りて、是に触れ給はん事を願ひければ、 041 MAR 008 023 イエズス、瞽者の手を執りて之を邑外に導き、其目に唾して是に按手し、見ゆる物ありや、と問ひ給ひしに、 041 MAR 008 024 彼瞠りて、我人々の歩むを見るに、樹の如くなり、と云へり。 041 MAR 008 025 軈て復其目に按手し給ひしに、目漸く開け、遂に回復して、凡ての物明に見ゆるに至れり。 041 MAR 008 026 イエズス彼を其家に歸らしめて曰ひけるは、己が家に往け、邑に入る事なく、誰にも告ぐること勿れ、と。 041 MAR 008 027 第六項 イエズス弟子等に己が受難を預期せしめ給ふ イエズス弟子等と共にフィリッポのカイザリアの邑々に出行き給ひしが、途中弟子等に問ひて、人々我を誰とか云へる、と曰ひしに、 041 MAR 008 028 彼等答へて、[或人々は]洗者ヨハネ、或人々はエリア、或人々は預言者の一人の如しと云ふ、と云ひしかば、 041 MAR 008 029 イエズス彼等に曰ひけるは、然て汝等は我を誰なりと云ふか、と。ペトロ答へて、汝はキリストなりと云ひけるを、 041 MAR 008 030 イエズス我事を誰にも告ぐること勿れ、と厳しく戒め給へり。 041 MAR 008 031 又人の子が多くの苦を受け、長老、司祭長、律法學士等に排斥せられ、終に殺されて、三日の後復活すべき事を彼等に教へ始め給ひしが、 041 MAR 008 032 其事を公に語り給ひければ、ペトロ彼を拔きて諌出でけるを、 041 MAR 008 033 イエズス顧みて弟子等を見廻し給ひ、ペトロを譴責して曰ひけるは、サタンよ、退け、汝の味へるは神の事に非ずして人の事なればなり、と。 041 MAR 008 034 イエズス群衆と弟子等とを呼集めて、是に曰ひけるは、人若我に從はんと欲せば、己を棄て、己が十字架を取りて、我に從ふべし。 041 MAR 008 035 其は己が生命を救はんと欲する人は之を失ひ、我及福音の為に生命を失ふ人は、之を救ふべければなり。 041 MAR 008 036 人全世界を贏くとも、若其生命を損せば、何の益かあらん。 041 MAR 008 037 又人何を以てか其生命に易へんや。 041 MAR 008 038 蓋奸惡なる現代に於て、我及我言を愧ぢたる人をば、人の子も己が父の光榮を以て、聖なる天使等を從へて來らん時之を愧づべし、と。 041 MAR 009 001 又彼等に曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、神の國が権威を以て來るを見るまで、死を味はざるべき人々、此處に立てる者の中に在り、と。 041 MAR 009 002 六日の後イエズス、ペトロヤコボヨハネのみを別に從へて、高き山に導き給ひしに、彼等の前にて御容變り、 041 MAR 009 003 衣服は輝きて純白なる事雪の如く、地上の布晒人の為し得ざる程なりき。 041 MAR 009 004 時にエリアモイゼと共に彼等に現れて、イエズスと語り居りしが、 041 MAR 009 005 ペトロ答へて、イエズスに云ひけるは、ラビ、善哉我等が此處に居る事。我等三個の廬を作り、一は汝の為、一はモイゼの為、一はエリアの為にせん、と。 041 MAR 009 006 蓋彼は其云ふ所を知らざりき、其は皆甚く懼れ居たればなり。 041 MAR 009 007 斯て一叢の雲彼等を立覆ひ、聲雲の中より來りて曰はく、是ぞ我最愛の子なる、是に聴け、と。 041 MAR 009 008 彼等は直に見廻しけるに、イエズスと己等との外、復誰をも見ざりき。 041 MAR 009 009 イエズス彼等が山を下る時、人の子死者の中より復活するまでは、其見しことを人に語るな、と戒め給ひしかば、 041 MAR 009 010 彼等之を守りしが、死者の中より復活する迄とは何事ぞ、と論じ合ひたり。 041 MAR 009 011 斯てイエズスに問ひて、然らばエリア先に來るべしとファリザイ人律法學士等の云へるは何ぞや、と云ひければ、 041 MAR 009 012 答へて曰ひけるは、エリア先に來りて萬事を回復すべし、又人の子に就きては、多くの苦難を受け且蔑にせらるべし、と録されたる如く、 041 MAR 009 013 我汝等に告ぐ、エリアも既に來れり、且人々縦に彼を遇ひし事、彼に就きて録されたるに違はず、と。 041 MAR 009 014 イエズス弟子等の許に來り見給ひしに、夥しき群衆彼等を圍み、律法學士等彼等と論じ居りしが、 041 MAR 009 015 人民は直にイエズスを見て、皆驚き恐れ、馳寄りて敬禮せり。 041 MAR 009 016 イエズス律法學士等に向ひ、何を論じ合へるぞ、と曰ひしに、 041 MAR 009 017 群衆の中より一人答へて云ひけるは、師よ、我唖なる惡鬼に憑かれたる我子を汝に齎したるが、 041 MAR 009 018 惡鬼に憑かるれば、何處にもあれ、投げ倒されて泡を噴き、歯を切り、五體強る。之を追出さん事を汝の弟子等に請ひたれど能はざりき、と。 041 MAR 009 019 イエズス彼等に答へて曰ひけるは、嗚呼信仰なき時代なる哉、我何時まで汝等と共に居らんや、何時まで汝等を忍ばんや。其を我に携へ來れ、と。 041 MAR 009 020 即携へ來りしが、彼イエズスを見るや、直に惡鬼の為に痙攣を起し、地に倒されて泡を噴きつつ臥転びたり。 041 MAR 009 021 イエズス其父に向ひ、彼に此事の起れるは、何時頃よりぞ、と問ひ給ひしに、 041 MAR 009 022 父云ひけるは、幼少の時よりなり、而して惡鬼之を殺さんと、屡火に水に投げ入れたり。汝若為べき様もあらば、我等を憫みて助け給へ、と。 041 MAR 009 023 イエズス是に曰ひけるは、汝若信ずることを得ば、信ずる人には何事も能はざるなし、と。 041 MAR 009 024 子の父、忽涙と共に呼はりて云ひけるは、主よ、我は信ず、我信仰を扶け給へ、と。 041 MAR 009 025 イエズス群衆の馳集るを見て汚鬼を責め、唖にして聾なる惡鬼よ、我汝に命ず、此人より立去りて、再入ること勿れ、と曰ひしに、 041 MAR 009 026 惡鬼叫びつつ彼を痙攣せしめて出去れり。然て彼は死人の如くに成りしかば、死せりと云ふ人多かりしが、 041 MAR 009 027 イエズス其手を執りて起し給ひければ、彼立上れり。 041 MAR 009 028 イエズス家に入り給ひしに、弟子等竊に、我等が之を逐出すこと能はざりしは何故ぞ、と問ひしかば、 041 MAR 009 029 イエズス彼等に曰ひけるは、斯る類は、祈祷と断食とによらでは、如何にしても逐出すこと能はざるなり、と。 041 MAR 009 030 斯て此處を去りて一行ガリレアを過りしが、イエズス誰にも知られざらん事を欲し給ひ、 041 MAR 009 031 弟子等に教へて、人の子は人の手に売れ、是に殺され、殺されて三日目に復活すべし、と曰ひしかども、 041 MAR 009 032 彼等其言を暁らず、又問ふ事をも憚り居たりき。 041 MAR 009 033 彼等カファルナウムに至りて家に居りしに、イエズス問ひて、汝等途々何を論じたりしぞ、と曰へば、 041 MAR 009 034 彼等黙然たりき、是は己等の中に最大いなる者は誰ぞ、と道すがら相争ひたればなり。 041 MAR 009 035 イエズス坐して十二人を呼び、是に曰ひけるは、人若第一の者たらんと欲せば一同の後と成り、一同の召使と成るべし、と。 041 MAR 009 036 然て一人の幼兒を取りて彼等の中に置き、之を抱きて彼等に曰ひけるは、 041 MAR 009 037 誰にもあれ、我名の為に、斯る幼兒の一人を承くる人は、我を承くる者なり、又誰にもあれ、我を承くる人は、我を承くるには非ずして、我を遣はし給ひし者を承くるなり。 041 MAR 009 038 ヨハネ答へて云ひけるは、師よ、我等に從はざる一人が、汝の名を以て惡魔を逐払ふを見たれば、我等之を禁じたりき。 041 MAR 009 039 イエズス曰ひけるは、禁ずること勿れ、其は我名を以て奇蹟を行ひながら、直に我を謗り得る者あらざればなり。 041 MAR 009 040 即汝等に反せざる人は、汝等の為にする者なり。 041 MAR 009 041 汝等がキリストに属する者なればとて、我名の為に一杯の水を飲まする人あらば、我誠に汝等に告ぐ、彼は其報を失はじ。 041 MAR 009 042 又我を信ずる此小き者の一人を躓かする人は、驢馬の挽く磨を頚に懸けられて海に投入れらるる事、寧彼に取りて優れり。 041 MAR 009 043 若汝の手汝を躓かさば之を切れ、不具にて生命に入るは、兩手ありて地獄の滅えざる火に往くより、汝に取りて優れり、 (Geenna g1067) 041 MAR 009 044 彼處には其蛆は死なず、火は滅えざるなり。 041 MAR 009 045 若汝の足汝を躓かさば之を切れ、片足にて永遠の生命に入るは、兩足ありて滅えざる火の地獄に投入れらるるより、汝に取りて優れり。 (Geenna g1067) 041 MAR 009 046 彼處には其蛆は死なず、火は滅えざるなり。 041 MAR 009 047 若汝の目汝を躓かさば、之を抉去れ、片目にて神の國に入るは、兩目ありて火の地獄に投入れらるるより、汝に取りて優れり、 (Geenna g1067) 041 MAR 009 048 彼處には其蛆は死なず、火は滅えざるなり。 041 MAR 009 049 各火を以て醃けられ、犠牲は各塩を以て醃けられん。 041 MAR 009 050 塩は善き物なり、然れど塩若其味を失はば、何を以てか是に醃せんや。汝等の心に塩あれ、汝等の間に平和あれ、[と曰へり]。 041 MAR 010 001 第七項 イエズスペレア地方に留り遂にエルサレムに赴き給ふ イエズス此處を立出でて、ヨルダン[河]の彼方なるユデアの境に至り給ひしに、群衆復其許に集りければ、例の如く復彼等を教へ居給へり。 041 MAR 010 002 時にファリザイ人等近づきて之を試み、人其妻を出すは可か、と問ひしに、 041 MAR 010 003 イエズス答へて、モイゼは汝等に何を命ぜしぞ、と曰ひしかば、 041 MAR 010 004 彼等云ふ、モイゼは離縁状を書きて妻を出す事を許せり。 041 MAR 010 005 イエズス彼等に答へて曰ひけるは、彼は汝等の心の頑固なるによりてこそ、彼掟を汝等に書與へつれ。 041 MAR 010 006 然れど開闢の初に、神は人を男女に造り給へり、 041 MAR 010 007 此故に人は父母を離れて其妻に合し、 041 MAR 010 008 兩人一體となるべし。然れば既に二人に非ずして一體なり。 041 MAR 010 009 故に神の合せ給ひし所、人之を分つべからず、と。 041 MAR 010 010 弟子等家に於て、復同じ事に就きて問ひしかば、 041 MAR 010 011 彼等に曰ひけるは、誰にても妻を出して他に娶るは、是彼女に對して姦淫を行ふなり。 041 MAR 010 012 又妻其夫を棄てて他に嫁ぐは、是姦淫を行ふなり、と。 041 MAR 010 013 時にイエズスの是に触れ給はん為に、人々幼兒等を差出したるに、弟子等其差出す人を叱りければ、 041 MAR 010 014 イエズス之を見て憤り給ひ、彼等に曰ひけるは、幼兒等の我に來るを容せ、之を禁ずること勿れ、神の國は斯の如き人の為なればなり。 041 MAR 010 015 我誠に汝等に告ぐ、総て幼兒の如くに神の國を承けざる人は、竟にに是に入らじ、と。 041 MAR 010 016 斯て幼兒等を抱き、按手して之を祝し居給へり。 041 MAR 010 017 イエズス途に出で給ひしに、一人馳來り、其前に跪きて、善き師よ、永遠の生命を得んには、我何を為すべきか、と問ひければ、 (aiōnios g166) 041 MAR 010 018 イエズス是に曰ひけるは、何ぞ我を善きと云ふや、神獨の外に善きものなし、 041 MAR 010 019 汝は掟を知れり、姦淫する勿れ、殺す勿れ、盗む勿れ、僞證する勿れ、害する勿れ、汝の父母を敬へ、と是なり、と。 041 MAR 010 020 彼答へて、師よ、我幼年より悉く之を守れり、と云ひしかば、 041 MAR 010 021 イエズス是に目を注ぎ、寵みて曰ひけるは、汝尚一を缼けり、往きて有てる物を悉く売り之を貧者に施せ、然らば天に於て寳を得ん、而して來りて我に從へ、と。 041 MAR 010 022 彼此言に悲み憂ひつつ去れり。其は多くの財産を有てる者なればなり。 041 MAR 010 023 イエズス見廻しつつ弟子等に、難い哉金を有てる人の神の國に入る事、と曰ひければ、 041 MAR 010 024 弟子等此言に驚きしかば、イエズス又答へて曰ひけるは、小子よ、難い哉金を恃める人の神の國に入る事。 041 MAR 010 025 富者が神の國に入るよりも、駱駝が針の孔を通るは易し、と。 041 MAR 010 026 彼等愈怪しみて語合ひけるは、然らば誰か救はるることを得ん、と。 041 MAR 010 027 イエズス彼等に目を注ぎつつ曰ひけるは、其は人に於て能はざる所なれども、神に於ては然らず、神に於ては何事も能はざる所なし、と。 041 MAR 010 028 ペトロイエズスに向ひて、然て我等は一切を棄てて汝に從ひたり、と云出でたるに、 041 MAR 010 029 イエズス答へて曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、総て我為また福音の為に、或は家、或は兄弟、或は姉妹、或は父、或は母、或は子等、或は田畑を離るる人は、 041 MAR 010 030 誰にてもあれ、百倍程を受けざるはなし、即今此世にては、家、兄弟、姉妹、母、子等、田畑を迫害と共に[受け、]後の世にては、永遠の生命を受けざるはなし。 (aiōn g165, aiōnios g166) 041 MAR 010 031 但多く先なる人は後になり、後なる人は先になるべし、と。 041 MAR 010 032 エルザレムに上る途中、イエズス弟子等に先ち給ふを、彼等驚き且怖れつつ從ひ居りしに、イエズス再十二人を近づけて、己に起るべき事を語出で給ひけるは、 041 MAR 010 033 看よ、我等エルザレムに上る。斯て人の子は司祭長、律法學士、長老等に売られ、彼等は之を死罪に處し、異邦人に付し、 041 MAR 010 034 且之を弄り、之に唾し、之を鞭ちて殺さん、而して三日目に復活すべし、と。 041 MAR 010 035 時に、ゼベデオの子ヤコボとヨハネとイエズスに近づきて云ひけるは、師よ、望むらくは、我等の願ふ所を、何事にもあれ我等に為し給はん事を、と。 041 MAR 010 036 イエズス、我が汝等に何を為さん事を願ふぞ、と曰ひければ、 041 MAR 010 037 彼等汝の光榮の中に一人は其右、一人は其左に坐することを我等に得させ給へ、と云ひしに、 041 MAR 010 038 イエズス曰ひけるは、汝等は願ふ所を知らず、汝等我が飲む杯を飲み、我が洗せらるる洗禮にて洗せられ得るか、と。 041 MAR 010 039 彼等、我等は得、と云ひしに、イエズス曰ひけるは、汝等實に我が飲む杯を飲まん、又我が洗せらるる洗禮にて洗せられん、 041 MAR 010 040 然れど我が右或は左に坐するは、我が汝等に得さすべき事に非ず、待設けられたる人々に得さすべきなり、と。 041 MAR 010 041 十人の者之を聞きて、大いにヤコボとヨハネとを憤り始めければ、 041 MAR 010 042 イエズス彼等を呼びて曰ひけるは、異邦人を司ると見ゆる人が之に主となり、又其君たる人が権を其上に振ふは、汝等の知れる所なり。 041 MAR 010 043 然れど汝等の中に於ては然らず、却て誰にもあれ、大いならんと欲する者は汝等の召使となり、 041 MAR 010 044 誰にもあれ、汝等の中に第一の者たらんと欲する者は一同の僕となるべし。 041 MAR 010 045 即人の子の來れるも、仕へらるる為に非ず、却て仕へん為、且衆人の贖として生命を與へん為なり、と。 041 MAR 010 046 斯て皆エリコに至りしが、イエズス弟子等と夥しき群衆を伴ひてエリコを出で給ふ時、チメオの子なる瞽者バルチメオ、路傍に坐して施を乞ひ居りしに、 041 MAR 010 047 是ナザレトのイエズスなりと聞くや、叫び出でてダヴィドの子イエズスよ、我を憫み給へ、と云ひければ、 041 MAR 010 048 多くの人彼を叱りて黙せしめんとすれども、彼益激しく、ダヴィドの子よ、我を憫み給へ、と呼はり居たり。 041 MAR 010 049 イエズス立止りて、彼を呼ぶ事を命じ給ひしかば、人々瞽者を呼びて、心安かれ、起て、汝を召し給ふぞ、と云ふや、 041 MAR 010 050 瞽者上着を抛棄て、躍揚りて御許に至りしが、 041 MAR 010 051 イエズス答へて、我に何を為られん事を欲するぞ、と曰ひしに瞽者は、ラッボニ、我目の見えん事を、と云へり。 041 MAR 010 052 イエズス之に向ひて、往け、汝の信仰汝を救へり、と曰ひしかば、彼忽見る事を得て途中までイエズスに從ひ行けり。 041 MAR 011 001 第一項 イエズスエルサレムにて歓迎せられ給ふ 一行橄欖山の下にて、エルザレムとペッファゼとベタニアとに近づける時、イエズス二人の弟子を遣はし給ふとて、 041 MAR 011 002 之に曰ひけるは、向の邑に往け、然て其處に入らば、直に未人の乗らざる小驢馬の繋がれたるに遭はん、其を解きて牽來れ。 041 MAR 011 003 若人ありて、何を為すかと云はば、主之を要す、と云へ、然らば直に其を此處に遣はさん、と。 041 MAR 011 004 弟子等往きて、門前の辻に小驢馬の外に繋がれたるに遇ひて、之を解きけるに、 041 MAR 011 005 其處に立てる人々の中に、汝等小驢馬を解きて何とかする、と云ふ者ありければ、 041 MAR 011 006 弟子等イエズスの命じ給ひし如く云ひしに、人々之を容せり。 041 MAR 011 007 斯て小驢馬をイエズスの許に牽來り、己が衣服を其上に被けしかば、イエズス之に乗り給へり。 041 MAR 011 008 多くの人己が衣服を道に鋪き、或人々は樹より枝を伐落して道に鋪きたりしが、 041 MAR 011 009 先に立ち後に從ふ人々呼はりて、ホザンナ、 041 MAR 011 010 主の名によりて來れる者は祝せられ給へ、我等の父ダヴィドの來る國は祝せられよ、最高き處にホザンナ、と云ひ居たり。 041 MAR 011 011 第二項 イエズス審判権を示し給ふ イエズスエルザレムに入り、[神]殿に至りて徧く見廻し給ひしに、時既に夕暮なりしかば、十二人と共にベタニアに出で給へり。 041 MAR 011 012 翌日一同ベタニアを出づる時、イエズス飢ゑ給ひしが、 041 MAR 011 013 遥に葉ある無花果樹を見て、是に何をか見出だす事もやと、其處に至り給ひしに、葉の外に何をも見出だし給はざりき。其は無花果の期にあらざればなり。 041 MAR 011 014 イエズス是に言ひて、今より後何時までも汝の實を食ふ人あらざれ、と曰ひしを弟子等聞きたりき。 (aiōn g165) 041 MAR 011 015 一同エルザレムに至り、イエズス神[殿]に入り給ひて、殿内に売買する人々を逐出し始め、兩替屋の案と鴿売る人々の榻とを倒し給ひ、 041 MAR 011 016 器を携へて[神]殿を通る事を何人にも許し給はず、 041 MAR 011 017 彼等に教へて曰ひけるは、録して「我家は萬民に祈の家と稱へられん」とあるにあらずや、然るに汝等之を強盗の巣窟と為せり、と。 041 MAR 011 018 司祭長律法學士等之を聞き、如何にしてかイエズスを亡ぼさんと相謀り居たり、其は群衆挙りて其教を感嘆するによりて、彼を怖れたればなり。 041 MAR 011 019 夕暮にはイエズス市より出で給ひしが、 041 MAR 011 020 朝弟子等通りかかりて、彼無花果樹の根より枯れたるを見しかば、 041 MAR 011 021 ペトロ思出して、ラビ看給へ、詛ひ給ひし無花果樹枯れたり、と云ひしに、 041 MAR 011 022 イエズス答へて曰ひけるは、神を信仰せよ、 041 MAR 011 023 我誠に汝等に告ぐ、誰にてもあれ此山に向ひ、汝抜けて海に投ぜよと云ひて、其心に逡巡がず、我が云ふ所は何にても成るべしと信ぜば、其事必成らん。 041 MAR 011 024 故に我汝等に告ぐ、汝等何事をも祈りて求むれば悉く得べしと信ぜよ、然らば其事必汝等に成らん。 041 MAR 011 025 又祈らんとて立つ時、人に對して恨あらば之を宥せ、是天に在す汝等の父も汝等の罪を赦し給はん為なり。 041 MAR 011 026 汝等若宥さずば、天に在す汝等の父も汝等の罪を赦し給はじ、と。 041 MAR 011 027 一同再エルザレムに至りしが、イエズス[神]殿の内を歩み給ふ時、司祭長、律法學士、長老等近づきて、 041 MAR 011 028 云ひけるは、汝何の権を以て是等の事を為すぞ、又是等の事を為すべく、誰か、此権を汝に授けしぞ。 041 MAR 011 029 イエズス答へて曰ひけるは、我も一言汝等に問はん、我に答へよ、然らば、我何の権を以て是等の事を為すかを告げん。 041 MAR 011 030 ヨハネの洗禮は天よりせしか、人よりせしか、我に答へよ、と。 041 MAR 011 031 彼等心に慮りけるは、天よりと云はんか、然らば何ぞ彼を信ぜざりしと云はれん、 041 MAR 011 032 人よりと云はんか、人民に憚る所ありと。其は皆ヨハネを眞に預言者と認めたればなり。 041 MAR 011 033 斯てイエズスに答へて、我等之を知らず、と云ひしかば、イエズス答へて、我も何の権を以て此事等を為すかを汝等に告げず、と曰へり。 041 MAR 012 001 イエズス、喩を以て彼等に語出で給ひけるは、或人葡萄畑を造りて、籬を環らし、酒醡を堀り、物見台を設け之を小作人に貸して遠方へ旅立ちしが、 041 MAR 012 002 季節に至り、小作人より葡萄畑の果を受取らしめんとて、一人の僕を彼等に遣はししに、 041 MAR 012 003 小作人等之を捕へて打ち、空手にて逐歸せり。 041 MAR 012 004 再他の僕を遣はししに、彼等又其頭を傷け、大に之を辱めたり。 041 MAR 012 005 更に他の僕を遣はししに、彼等之をも殺し、尚其他數人の[使]をも、或は打ち或は殺せり。 041 MAR 012 006 爰に尚一人の最愛の子ありければ、彼等我子をば敬ふならん、とて最後に之をも遣はししに、 041 MAR 012 007 小作人等語合ひけるは、是相続人なり、いざ來れかし彼を殺さん、然らば家督は我等の有と成るべし、と。 041 MAR 012 008 乃ち捕へて之を殺し、葡萄畑の外に擲てり。 041 MAR 012 009 然れば葡萄畑の主如何に之を處分せんか。彼は當に來りて、小作人等を打亡ぼし、葡萄畑を他人に貸與ふべし。 041 MAR 012 010 汝等未此[聖]書を読まざるか、即「家を建つる人々の棄てし石は、隅の首石と為られたり。 041 MAR 012 011 是は主の手に為されし事にて、我等の目には不思議なり」とあるなり、と。 041 MAR 012 012 司祭長律法學士等は、イエズスが己等を斥して此喩を語り給ひし事を悟りたれば、之を捕へんと謀りたりしも、群衆を懼れたり。斯て遂に彼を舍きて去りしが、 041 MAR 012 013 言質を捉へん為に、ファリザイ人とヘロデの徒との中より、或人々をイエズスの許に遣はししに、彼等至りて是に云ひけるは、師よ、汝が眞實にして誰をも憚らざることは我等之を知る、其は人の面を見ず、眞理によりて神の道を教へ給へばなり。 041 MAR 012 014 セザルには税を納むべきか、又は之を納めざるべきか、と。 041 MAR 012 015 イエズス彼等の狡猾を知りて、汝等何ぞ我を試むるや。デナリオを持來りて我に見せよ、と曰ひしかば、 041 MAR 012 016 彼等之を齎せり。然て曰ひけるは、此像と銘とは誰のなるぞ、と。彼等セザルのなりと云ひしに、 041 MAR 012 017 イエズス答へて、然らばセザルの物はセザルに還し、神の物は神に還せ、と曰ひしかば、彼等大いにイエズスを感歎し居たり。 041 MAR 012 018 復活なしと主張せるサドカイ人等、イエズスの許に至り、問ひて云ひけるは、 041 MAR 012 019 師よ、モイゼの我等に書殘しし所によれば、若人の兄弟死して妻を後に遺し、子を遺さざる時は、其兄弟彼が妻を娶りて兄弟の為に子を挙ぐべし、とあり。 041 MAR 012 020 然るに兄弟七人ありて、兄妻を娶り子を遺さずして死し、 041 MAR 012 021 其次の者之を娶りて亦子を遺さずして死し、第三の者も亦斯の如くにして、 041 MAR 012 022 七人同じ様に之を娶りしかど、子を遺さず、最後に婦も亦死せり。 041 MAR 012 023 斯て復活の時彼等復活せば、彼婦は誰の妻となるべきか、其は七人皆之を娶りたればなり、と。 041 MAR 012 024 イエズス答へて曰ひけるは、汝等は聖書をも神の能力をも知らざるが故に誤れるに非ずや。 041 MAR 012 025 蓋死者の中より復活したらん時には、娶らず嫁がず天に於る天使等の如し。 041 MAR 012 026 汝等死者の復活する事に就きては、モイゼの書中、荊棘の篇に神が彼に曰ひし所を読まざりしか、即曰へらく「我はアブラハムの神、イザアクの神ヤコブの神なり」と、 041 MAR 012 027 死者の神には非ず、生者の神にて在す。然れば汝等大いに誤れり、と。 041 MAR 012 028 一人の律法學士は、サドカイ人等の論じ合へるを聞き、イエズスの善く彼等に答へ給ひしを見て、是に近づき、凡ての掟の中、第一なるものは孰ぞ、と問ひしに、 041 MAR 012 029 イエズス答へて曰ひけるは、凡ての掟の中第一なるものは即、「イスラエルよ聴け、主なる汝の神は唯一の神なり。 041 MAR 012 030 汝の心を盡し、魂を盡し、意を盡し、盡して能力を盡して、主なる汝の神を愛すべし」と、是第一の掟なり。 041 MAR 012 031 第二も是に同じく、「汝の近き者を己の如く愛すべし」と是なり。是等より大いなる掟は他に在る事なし、と。 041 MAR 012 032 律法學士云ひけるは、善し、師よ、汝の曰へる所は眞なり。實に神は唯一にして、彼の外他の[神]なし。 041 MAR 012 033 又心を盡し、智恵を盡し、魂を盡し、力を盡して之を愛すべし、又近き者を己の如く愛するは、凡ての燔祭及犠牲に優れり、と。 041 MAR 012 034 イエズス彼が賢く答へしを見て、汝は神の國に遠からず、と曰ひしが、此後敢てイエズスに問ふ者なかりき。 041 MAR 012 035 イエズス[神]殿に於て教へつつ居給ひし時、答へて曰ひけるは、律法學士等は如何ぞキリストをダヴィドの子なりと云ふや。 041 MAR 012 036 蓋ダヴィド聖霊によりて自ら曰く「主我主に曰へらく、我汝の敵を汝の足台と為すまで、我右に坐せよ」と。 041 MAR 012 037 斯くダヴィド自らキリストを主と稱ふるに、是如何にして其子ならんや、と。夥しき群衆、欣びて之を聞けり。 041 MAR 012 038 イエズス教を説きて人々に曰ひけるは、律法學士等に用心せよ、彼等は長き袍を着歩く事、衢にて敬禮せらるる事、 041 MAR 012 039 會堂にて上座を占むる事、宴席にて上席に着く事を好み、 041 MAR 012 040 長き祈に託けて寡婦等の家を食盡すなり。彼等は一入長き審判を受くべし、と。 041 MAR 012 041 イエズス、賽銭箱の向に坐して、群衆の銭を投入るる状を眺め居給へるに、富者の多くは多分に投入れたりしが、 041 MAR 012 042 一人の貧しき寡婦來りて、二ミスタ即三厘計を入れしかば、 041 MAR 012 043 イエズス弟子等を呼集めて曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、此貧しき寡婦は、賽銭箱に投入れたる凡ての人よりも多く入れたり。 041 MAR 012 044 其は凡ての人は、其餘れる中より入れしに、此婦は其乏しき中より、総て有てる物、己が生計の料を悉く入れたればなり、と。 041 MAR 013 001 第三項 エルサレムの滅亡等の預言 イエズス[神]殿を出で給ふに、弟子の一人、師よ、視給へ、此石は如何に、此構造は如何に、と云ひしかば、 041 MAR 013 002 イエズス答へて曰ひけるは、此一切の大建築を見るか、一の石も崩れずして石の上に遺されじ、と。 041 MAR 013 003 イエズス橄欖山に於て、[神]殿に向ひて坐し給へるに、ペトロヤコボヨハネアンデリア特に是に問ひけるは、 041 MAR 013 004 此事等は何時あるべきぞ。而して事の皆果され始めん時に、如何なる兆あるべきぞ、我等に告げ給へ、と。 041 MAR 013 005 イエズス答へて彼等に曰ひけるは、汝等人に惑はされじと注意せよ。 041 MAR 013 006 其は多くの人我名を冒し來りて、我はキリストなりと云ひて、多くの人を惑はすべければなり。 041 MAR 013 007 汝等戰争及戰争の噂を聞きて懼るる勿れ、此事等は蓋有るべし、然れど終は未至らざるなり。 041 MAR 013 008 即民は民に、國は國に起逆ひ、地震飢饉處々にあらん、是等は苦の始なり。 041 MAR 013 009 汝等自省みよ、蓋人々汝等を衆議所に付し、汝等は諸會堂にて鞭たれ、我為に證據として、総督と王侯との前に立たんとす。 041 MAR 013 010 然て福音は先萬民に宣傳へられるべし。 041 MAR 013 011 人々汝等を引きて付さん時、何を云はんかと預案ずること勿れ、唯其時汝等に賜はらん事を云へ、其は言ふ者は汝等に非ずして聖霊なればなり。 041 MAR 013 012 兄弟は兄弟を、父は子を死に付し、子等は兩親に立逆ひ、且之を殺さん。 041 MAR 013 013 汝等我名の為に凡ての人に憎まれん。然れど終まで耐忍ぶ人は救はるべし。 041 MAR 013 014 汝等「最憎むべき荒廃」の、立つべからざる處に厳然たるを見ば、読む人は悟るべし。其の時ユデアに居る人々は山に遁るべし、 041 MAR 013 015 屋の上に居る人は家の内に下り、家より何物をか取出さんとて内に入るべからず。 041 MAR 013 016 畑に居る人は其上衣を取らんとて歸るべからず。 041 MAR 013 017 其日に當りて懐胎せる人、乳を哺する人は禍なる哉。 041 MAR 013 018 此事の冬に起らざらん事を祈れ。 041 MAR 013 019 其は其日に際して、神が[萬物を]創造し給ひし開闢の始より今に至るまで曾て有らず、後にも復有らざらん程の難あるべければなり。 041 MAR 013 020 主若其日を縮め給はずは、救はるる人なからん。然れど特に選み給ひし、選まれたる人々の為に、其日を縮め給へり。 041 MAR 013 021 其時汝等に向ひて、看よキリスト此處に在り、看よ彼處に在り、と云ふ者ありとも之を信ずること勿れ。 041 MAR 013 022 其は僞キリスト、僞預言者等起りて、能ふべくば、選まれたる人々をさへ惑はさんとて、大いなる徴と不思議なる業とを為すべければなり。 041 MAR 013 023 然れば汝等省みよ。我預め一切を汝等に告げたるぞ。 041 MAR 013 024 其時、斯る患難の後、日晦み、月其光を與へず、 041 MAR 013 025 空の星隕ち、天に於る能力動揺せん、 041 MAR 013 026 其時人々は、人の子が大いなる権力と榮光とを以て、雲に乗り來るを見ん。 041 MAR 013 027 時に彼其使等を遣はし、地の極より天の極まで、四方より其選まれたる人を蒐集めしめん。 041 MAR 013 028 汝等無花果樹より喩を學べ、其枝既に柔ぎて葉を生ずれば、夏の近きを知る。 041 MAR 013 029 斯の如く、此事等の成るを見ば、汝等亦其近くして門に至れるを知れ。 041 MAR 013 030 我誠に汝等に告ぐ、此事等の皆成るまでは現代は過ぎざらん。 041 MAR 013 031 天地は過ぎん、然れど我言は過ぎざるべし。 041 MAR 013 032 其日其時をば、天に於る天使等も、子も、何人も知らず、唯父のみ[之を知り給ふ]。 041 MAR 013 033 汝等注意し、警戒し、且祈祷せよ、蓋期の何時なるかを知らざればなり。 041 MAR 013 034 其は恰も人、其家を去りて遠方に旅立つに當り、僕等に命じて、各其務を頒ち充て、門番には警戒する事を命じたるが如し。 041 MAR 013 035 然れば汝等警戒せよ、家の主の來るは何時なるべきか、夕暮なるか夜半なるか、将鷄鳴く頃なるか朝なるか、之を知らざればなり。 041 MAR 013 036 恐くは、彼遽に來りて汝等の寝ねたるを見ん。 041 MAR 013 037 我汝等に云ふ所を凡ての人に云ふ、警戒せよ[、と曰へり]。 041 MAR 014 001 第四項 イエズスの受難の預備 然て過越と無酵麪との祝、最早二日の後にあるべければ、司祭長律法學士等、如何に詭りてかイエズスを捕へ且殺すべき、と相謀りたりしが、 041 MAR 014 002 「祝日には之を為すべからず、恐くは人民の中に騒動起らん」と云ひ居たり。 041 MAR 014 003 イエズスベタニアに在りて、癩病者シモンの家にて食卓に就き給へるに、一人の女、價高き穂ナルドの香油を盛りたる器を持ちて來り、其器を破りて彼が頭に注ぎしかば、 041 MAR 014 004 或人々心に憤りて、何の為に香油を斯は費したるぞ、 041 MAR 014 005 此香油は三百デナリオ以上に売りて、貧者に施し得たりしものを、と云ひて、身顫しつつ此女を怒りたるに、 041 MAR 014 006 イエズス曰ひけるは、此女を措け、何ぞ之を累はすや。彼は我に善業を為ししなり。 041 MAR 014 007 其は貧者は常に汝等の中に在れば、随時に之を恵むことを得べけれど、我は常に汝等の中に居らざればなり。 041 MAR 014 008 此女は、其力の限を為して、葬の為に預め我身に油を注ぎたるなり。 041 MAR 014 009 我誠に汝等に告ぐ、全世界何處にもあれ、福音の宣傳へられん處には、此女の為しし事も其記念として語らるべし、と。 041 MAR 014 010 時に十二人の一人なるイスカリオテのユダ、イエズスを司祭長等に売らんとて、彼等の許に至りしが、 041 MAR 014 011 彼等之を聞きて喜び、金を與へんと約せしかば、ユダ如何にして機好くイエズスを付さんかと、企み居たり。 041 MAR 014 012 斯て無酵麪の祝の首の日、即過越[の羔]を屠る日、弟子等イエズスに向ひ、我等が何處に往きて過越の食を汝の為に備へん事を欲し給ふか、と云ひしかば、 041 MAR 014 013 イエズス二人の弟子を遣はすとて、是に曰ひけるは、市に行け、然らば水瓶を肩にせる人汝等に遇はん、其後に從ひて行き、 041 MAR 014 014 何處にもあれ、彼が入る家の主に向ひて云へ、師曰く、我が弟子と共に過越を食すべき席は何處なるぞ、と。 041 MAR 014 015 然らば、彼既に整えたる大なる高間を汝等に示さん、其處にて我等の為に備へよ、と。 041 MAR 014 016 弟子等出でて市に至りしに、遇ふ所イエズスの曰ひし如くなりしかば、食事の準備を為せり。 041 MAR 014 017 夕暮に及びて、イエズス十二人と共に至り、 041 MAR 014 018 一同席に着きて食しつつあるに、イエズス曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、汝等の中一人、我と共に食するもの、我を付さんとす、と。 041 MAR 014 019 彼等憂ひて、各我なるかと云出でしに、 041 MAR 014 020 イエズス彼等に曰ひけるは、十二人の一人にして、我と共に手を鉢に着くるもの、即是なり。 041 MAR 014 021 抑人の子は、己に就きて録されたる如く逝くと雖、人の子を付す者は禍なる哉、此人生れざりしならば、寧其身に取りて善かりしものを、と。 041 MAR 014 022 弟子等の食するに、イエズス麪を取り、祝して之を擘き、彼等に與へて曰ひけるは、取れよ汝等、是我體なり、と。 041 MAR 014 023 又杯を取り、謝して彼等に與へ給ひ、皆之を以て飲みしが、 041 MAR 014 024 イエズス彼等に曰ひけるは、是衆人の為に流さるべき新約の我血なり。 041 MAR 014 025 我誠に汝等に告ぐ、神の國にて、汝等と共に新なるものを飲まん日までは、我今より復此葡萄の液を飲まじ、と。 041 MAR 014 026 斯て賛美歌を誦へ畢り、彼等橄欖山に出行きしが、 041 MAR 014 027 イエズス曰ひけるは、汝等皆今夜我に就きて躓かん、其は録して「我牧者を撃たん、斯て羊散らされん」とあればなり、 041 MAR 014 028 然れど我復活したる後、汝等に先だちてガリレアに往かん、と。 041 MAR 014 029 ペトロイエズスに向ひ、假令皆汝に就きて躓くとも、我は然らず、と云へるを、 041 MAR 014 030 イエズス曰ひけるは、我誠に汝に告ぐ、汝、今日今夜、鶏二次鳴く前に、必ず三次我を否まん、と。 041 MAR 014 031 彼尚言張りて、假令汝と共に死すとも、我は汝を否まじ、と云ひければ、一同も亦齊しく云ひ居たり。 041 MAR 014 032 第五項 イエズスの御受難 彼等ゲッセマニと云へる田舎家に至るや、イエズス弟子等に向ひ、我が祈る間、汝等此處に坐せよ、と曰ひて、 041 MAR 014 033 ペトロとヤコボとヨハネとを随へ行き給ひしに、畏れ且忍びがたくなりて、 041 MAR 014 034 彼等に曰ひけるは、我魂死ぬばかりに憂ふ。汝等此處に留りて醒めて在れ、と。 041 MAR 014 035 斯て少しく進みて、地に平伏し、叶ふべくば己より此時の去らん事を祈り給ひしが、 041 MAR 014 036 又曰ひけるは、アバ、父よ、汝は総て能はざる事なし、此杯を我より去らしめ給へ、然れど我が思ふ所の如くにはあらで、思召す儘なれかし、と。 041 MAR 014 037 斯て來り給ひて、弟子等の眠れるを見、ペトロに曰ひけるは、シモン汝眠れるか、我と共に一時間を醒め居る能はざりしか。 041 MAR 014 038 汝等誘惑に入らざらん為に醒めて祈れ、精神は逸れども肉身は弱し、と。 041 MAR 014 039 復往きて、同じ詞を以て祈り給ひしが、 041 MAR 014 040 復返りて弟子等の眠れるを見給へり。蓋彼等の目疲れて、イエズスに如何に答ふべきかを知らざりしなり。 041 MAR 014 041 三度目に來りて彼等に曰ひけるは、今は早眠りて息め、事足れり、時は來れり、今や人の子罪人の手に付されんとす、 041 MAR 014 042 起きよ、我等往かん、すは我を付さんとするもの近づけり、と。 041 MAR 014 043 イエズス尚語り給ふに、十二人の一人なるイスカリオテのユダ來り、司祭長律法學士長老等の許より來れる夥しき群衆剣棒などを持ちて之に伴へり。 041 MAR 014 044 イエズスを売りたる者、曾て彼等に合圖を與へて、我が接吻する所の人其なり、捕へて確と引行け、と云ひいたりしが、 041 MAR 014 045 來りて直にイエズスに近づき、ラビ安かれ、と云ひて接吻せしかば、 041 MAR 014 046 彼等イエズスに手を掛けて、之を捕へたり。 041 MAR 014 047 側に立てる者の一人、剣を抜き、大司祭の僕を撃ちて其耳を切落ししが、 041 MAR 014 048 イエズス答へて群衆に曰ひけるは、汝等強盗に[向ふ]如く、剣と棒とを持ちて我を捕へに出來りしか、 041 MAR 014 049 我日々に[神]殿に於て、汝等の中に在りて教へたりしに、汝等我を捕へざりき。但是[聖]書の成就せん為なり、と。 041 MAR 014 050 時に、弟子等彼を舍きて、皆遁去れり。 041 MAR 014 051 一人の青年肌に広布を纏ひたる儘イエズスに從ひたりしが、人々之をも捕へしかば、 041 MAR 014 052 広布を抛棄て、裸にて逃れ去れり。 041 MAR 014 053 斯て彼等、イエズスを大司祭の許に引行きしに、司祭律法學士長老等、皆此處に集りしが、 041 MAR 014 054 ペトロ遥にイエズスに從ひて、大司祭の中庭までも入込み、僕等と共に坐して火に燠り居れり。 041 MAR 014 055 大司祭等及議會挙りて、イエズスを死に付さんとし、之が證據を求むれども、得ざりき。 041 MAR 014 056 蓋數多の人、彼に對して僞證すれども、其證據一致せず、 041 MAR 014 057 又或者等起ちて彼に對して僞證し、 041 MAR 014 058 彼は手にて造れるこの[神]殿を毀ち、三日の中に別に手にて造らざるものを建てんと云へるを、我等聞けり、と云ひしも、 041 MAR 014 059 彼等の證言一致せざりき。 041 MAR 014 060 大司祭眞中に立上り、イエズスに問ひて、彼等より咎めらるる所に對して、汝は何事をも答へざるか、と云ひたれど、 041 MAR 014 061 イエズス黙然として、一言も答へ給はず、大司祭再問ひて、汝は祝すべき神の子キリストなるか、と云ひしかば、 041 MAR 014 062 イエズス是に曰ひけるは、然り、而して汝等、人の子が全能に在す神の右に坐して、空の雲に乗り來るを見ん、と。 041 MAR 014 063 茲に於て大司祭己が衣服を裂き、我等何ぞ尚證人を求めんや。 041 MAR 014 064 汝等は冒涜の言を聞けり。之を如何に思へるぞ、と云ひしに一同、イエズスの罪死に當ると定めたり。 041 MAR 014 065 斯て或者等はイエズスに唾し、御顔を覆ひ、預言せよ、と云ひて、拳にて撃ちなどし始め、僕等は平手にて之を打ち居たり。 041 MAR 014 066 然てペトロは下なる庭に居りしが、大司祭の下女の一人來りて、 041 MAR 014 067 ペトロの火に燠れるを見しかば、之を熟視めて、汝もナザレトのイエズスと共に在りき、と云ひたるに、 041 MAR 014 068 彼否みて、我は知らず、汝の云ふ所を解せず、と云ひしが、軈て庭の前に出行きしに、鶏鳴けり。 041 MAR 014 069 又或下女彼を見て、側に立てる人々に向ひ、此人は彼等の徒なり、と云出でけるを、 041 MAR 014 070 ペトロ又否めり。暫時ありて、傍に立てる人々又ペトロに向ひ、汝は實に彼等の徒なり、齊しくガリレア人なれば、と云ひしかば、 041 MAR 014 071 ペトロ詛ひ且誓出でて、我汝等の云へる彼人を知らず、と云ひしが、 041 MAR 014 072 忽鶏二次鳴けり。斯てペトロ、鶏二次鳴く前に汝三次我を否まん、とイエズスの曰ひたりし御言を思出でて、泣出せり。 041 MAR 015 001 天明けて直に、大司祭等は、律法學士長老等及全議會と謀りてイエズスを縛り、召連れてピラトに付ししが、 041 MAR 015 002 ピラトイエズスに向ひ、汝はユデア人の王なるか、と問ひしに、答へて、汝の云へる[如し]、と曰へり。 041 MAR 015 003 斯て大司祭等數多の事を以て訟へければ、 041 MAR 015 004 ピラト復イエズスに問ひて、汝は何をも答へざるか、彼等の汝を訟ふる事柄の如何ばかりなるかを看よ、と云ひしも、 041 MAR 015 005 イエズス尚何をも答へ給はざりしかば、ピラトは之を感嘆し居たり。 041 MAR 015 006 然て祭日に當り、総督が、人々の乞ふ所の囚人一個を、彼等に釈すの例ありしが、 041 MAR 015 007 茲に一揆の時人を殺して、一揆の者等と共に入獄したるバラバといへる者ありき。 041 MAR 015 008 群衆出頭して例の如く為られん事を願出でしに、 041 MAR 015 009 ピラト答へて、汝等、ユデア人の王を我より釈されん事を欲するか、と云へり。 041 MAR 015 010 是大司祭等が嫉によりて之を付したることを知ればなり。 041 MAR 015 011 然るに大司祭等、寧バラバを己等に釈さしむべく、群衆を唆ししかば、 041 MAR 015 012 ピラト又答へて、然らばユデア人の王を我が如何に處分せん事を欲するか、と云ひしに、 041 MAR 015 013 彼等又、十字架に釘けよ、と叫びたり。 041 MAR 015 014 ピラト、彼は何の惡を為ししぞ、と云ひたれど、彼等益々、彼を十字架に釘けよ、と叫び居たり。 041 MAR 015 015 ピラト人民を満足せしめんと欲して、バラバを彼等に釈し、イエズスをば鞭ちて後、十字架に釘けん為に引行せり。 041 MAR 015 016 是に於て兵卒等、イエズスを廰の中庭に引出だして、全隊を呼集め、 041 MAR 015 017 イエズスに赤き袍を着せ、茨の冠を編みて冠らせ、 041 MAR 015 018 ユデア人の王よ安かれ、と云ひて、禮し始め、 041 MAR 015 019 尚葦もて其頭を撃ち、唾吐きかけ、跪きて拝し居たり。 041 MAR 015 020 嘲弄して後、赤き袍を褫ぎて、原の衣服を着せ、十字架に釘けんとて引出ししが、 041 MAR 015 021 一個のシレネ人、名をシモンと呼びて、アレキサンデルとルフォとの父なるもの、田舎より來りて通りかかりければ、強て是に其十字架を負はせ、 041 MAR 015 022 イエズスを、ゴルゴタと云ふ處に引行けり。ゴルゴタは(カルヴァリオ)即髑髏の處と訳せらる。 041 MAR 015 023 又没薬を和ぜたる葡萄酒を、イエズスに飲ましめんとしたれど、受け給はざりき。 041 MAR 015 024 斯て之を十字架に釘くるや、誰が何を取るべきと、籤を抽きて其衣服を分てり。 041 MAR 015 025 九時頃イエズスを十字架に釘けしが、 041 MAR 015 026 其罪標にはユデア人の王と記されたりき。 041 MAR 015 027 是と共に二人の強盗、一人は其右に、一人は其左に十字架に釘けられたり。 041 MAR 015 028 斯て[聖]書に、「彼は罪人に列せられたり」とある事成就せり。 041 MAR 015 029 往來の人々イエズスを罵り、首を揺りて云ひけるは、吁神殿を毀ちて三日の内に建直す者よ、 041 MAR 015 030 十字架より下りて自らを救へ、と。 041 MAR 015 031 大司祭等も亦同じく嘲りて、律法學士等と語合ひけるは、彼は他人を救ひしに、自らを救ふ能はず。 041 MAR 015 032 イスラエルの王キリスト、今十字架より下りよ、然らば我等見て信ぜん、と。共に十字架に釘けられたる者等も、亦之を罵り居たり。 041 MAR 015 033 十二時に至り、地上徧く暗黒となりて三時に及びしが、 041 MAR 015 034 時にイエズス、聲高く呼はりて、エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニと曰へり。是は、我神我神、曷ぞ我を棄て給ひしや、と云ふ義なり。 041 MAR 015 035 傍に立てる人々の中、或者等聞きて、エリアを呼ぶよ、と云ひけるに、 041 MAR 015 036 一人走り行きて、酢を海綿に含ませ、葦に附けて飲ましめつつ、措け、エリア來りて彼を下すや否やを見ん、と云ひけるが、 041 MAR 015 037 イエズス聲高く呼はりて、息絶え給へり。 041 MAR 015 038 時に[神]殿の幕上より下まで二に裂けしが、 041 MAR 015 039 イエズスの對面に立てる百夫長、斯く呼はりて息絶え給ひしを見て云ひけるは、實に此人は神の子なりき、と。 041 MAR 015 040 又遥に眺め居たりし婦人等ありて、其中にはマグダレナ、マリア及小ヤコボとヨゼフとの母マリア、並にサロメありき。 041 MAR 015 041 彼等はイエズスのガリレアに居給ひし時、從ひて事へ居りしが、此外にイエズスと共にエルザレムに上りたりし婦人も多く居たりき。 041 MAR 015 042 夕暮に及びて、安息日の前なる用意日なれば、 041 MAR 015 043 頭立ちたる議員アリマテアのヨゼフ來り、己も神の國を待てる者なれば、憚らずしてピラトの許に至り、イエズスの屍を求めしが、 041 MAR 015 044 ピラトはイエズス最早死亡したりやと訝り、百夫長を召して、既に死したりやと問ひ、 041 MAR 015 045 百夫長より聞知りて後、ヨゼフに其屍を與へたり。 041 MAR 015 046 ヨゼフ布を買ひて、イエズスを下して其布に包み、岩に鑿りたる墓に納め、其墓の入口に石を転ばし置けり。 041 MAR 015 047 マグダレナ、マリアとヨゼフの[母]マリアとは、イエズスの置かれ給ふ處を眺め居たりき。 041 MAR 016 001 安息日過ぎて後マグダレナ、マリアとヤコボの母マリアとサロメと往きて、イエズスに塗らんとて香料を買ひ、 041 MAR 016 002 一週の首の日に、朝早く出でて日既に昇れる頃墓に至り、 041 MAR 016 003 誰か我等の為に墓の入口より石を転ばし退くべき、と互いに云ひ居りしが、 041 MAR 016 004 目を翔げて見れば、石は既に取除きてあり、其は甚だ巨いなるものなりき。 041 MAR 016 005 斯て墓に入るに及びて、右の方に白き衣服を着たる少年の坐せるを見て、驚怖れしかば、 041 MAR 016 006 彼婦人達に云ひけるは、怖るること勿れ。汝等は十字架に釘けられ給ひしナザレトのイエズスを尋ぬれども、彼は復活し給ひて、此處には在さず。其置かれ給ひし處を見よ。 041 MAR 016 007 但往きて、其弟子等とペテロとに至り、彼は汝等に先ちてガリレアに往き給ひ、曾て汝等に曰ひし如く、汝等彼處にて彼を見ん、と告げよ、と。 041 MAR 016 008 婦人等怖れ戰きつつ墳より逃出でしが、恐怖の為に何事をも人に語らざりき。 041 MAR 016 009 (note: The most reliable and earliest manuscripts do not include Mark 16:9-20.) 然てイエズスは一週の首の日の朝復活し給ひて、先マグダレナ、マリアに現れ給ひしが、是曾て七個の惡魔を其身より逐出されし婦なり。 041 MAR 016 010 彼往きて、イエズスと偕に在りし人々の哀哭きつつあるに告げしかど、 041 MAR 016 011 彼等之を聞きて、イエズスが活きて此婦に見え給ひし事を信ぜざりき。 041 MAR 016 012 其後彼等の中の二人、田舎に往かんとして歩む途中、イエズス異なる姿にて現れ給ひしを、 041 MAR 016 013 彼等往きて他の人々に告げしかど、亦之をも信ぜざりき。 041 MAR 016 014 最後にイエズス、彼十一人の會食せるに現れ給ひ、己が復活し給へるを見たる人々の言を信ぜざりしを以て、彼等の不信仰と、心の頑固なる事を咎め給へり。 041 MAR 016 015 斯て之に曰ひけるは、汝等、全世界に往きて、凡ての被造物に福音を宣べよ。 041 MAR 016 016 信じ且洗せらるる人は救はれ、信ぜざる人は罪に定められん。 041 MAR 016 017 然て信ずる人々には是等の徴伴はん、即ち彼等は我名によりて惡魔を逐払ひ、新しき言語を話し、 041 MAR 016 018 蛇を捕へ、死毒を飲むも身に害なく、病人に按手せば其病癒えん、と。 041 MAR 016 019 彼等に語り給ひて後、主イエズス天に上げられ給ひて、神の右に坐し給ふ。 041 MAR 016 020 弟子等は出立して、徧く教を宣べしが、主力を加へ給ひて、伴へる徴によりて言を證し給ひたりき。 # # BOOK 042 LUK Luke ルカの福音書 042 LUK 001 001 我等の中に成立ちし事の談を、初より親しく目撃して教の役者たりし人々の 042 LUK 001 002 我等に言傳へし如く書列ねんとて、多くの人既に着手せるが故に、 042 LUK 001 003 貴きテオフィロよ、我も凡ての事を最初より詳しく取調べて、順序よく汝に書贈るを善と思へり。 042 LUK 001 004 是汝をして教へられし教の確實なるを暁らしめん為なり。 042 LUK 001 005 第一款 洗者ヨハネ誕生の次第 第一篇 キリスト御幼年及私生活 第一項 キリスト降誕の豫備 抑ユデアの王ヘロデの時、アビアの班にザカリアと云へる司祭あり。其妻はアアロンの裔なる女にて、名をエリザベトと云へり。 042 LUK 001 006 二人ながら神の御前に義しき人にして、主の凡ての禁令と規律とを過なく履行ひ居たりしが、 042 LUK 001 007 エリザベトは石女なれば、彼等に子なくして、二人とも年老いたりき。 042 LUK 001 008 然るにザカリア其班の順によりて、神の御前に司祭の務を行ひけるに、 042 LUK 001 009 司祭職の慣例に從ひ、籤を抽きて、主の殿に入り、香を焼く事を得たり。 042 LUK 001 010 香を焼く時に當り、人民群集して、皆外にて祈り居けるに、 042 LUK 001 011 主の使、香台の右に立ちてザカリアに現れしかば、 042 LUK 001 012 ザカリア之を見て心騒ぎ、且恐ろしさに撲たれたり。 042 LUK 001 013 天使之に云ひけるは、懼るる事勿れザカリア、蓋汝の祈聴容れられたり。妻エリザベト汝に一子を生まん、汝其名をヨハネと名くべし。 042 LUK 001 014 而して汝には喜に堪へざる事となり、多くの人も亦其誕生に由りて喜ばん。 042 LUK 001 015 即ち彼は主の御前に偉大にして、葡萄酒と酔ふ物とを飲まず、母の胎内より既に聖霊に満たされん。 042 LUK 001 016 又イスラエルの多くの子を、主たる其神に歸らしめ、 042 LUK 001 017 エリアの精神と能力とを以て主の先に往かん、是主の為に完全なる人民を備へんとて、先祖の心を子孫に立歸らせ、不信者を義人の知識に立歸らせん為なり、と。 042 LUK 001 018 ザカリア、天使に云ひけるは、我何に據りてか此事あるを知るべき。蓋我は老人にして、妻も亦年老いたればなり。 042 LUK 001 019 天使答へて云ひけるは、我は神の御前に立つガブリエルにして、我が遣はされたるは、汝に語りて是等の福音を告げん為なり。 042 LUK 001 020 看よ、時期至りて成就すべき我言を信ぜざりしにより、汝は唖となりて、此事の成る日まで言ふこと能はじ、と。 042 LUK 001 021 人民はザカリアを待ちつつ、其殿内に滞るを怪しみたりしが、 042 LUK 001 022 出づるに及びて言ふ能はざれば、人々彼が殿内にて幻影を見し事を暁れり。彼は手眞似するのみにて、唖は其儘なりしが、 042 LUK 001 023 遂に其務の日數満ちて己が家に歸りしに、 042 LUK 001 024 日ならずして妻エリザベト懐胎せしかば、隠るる事五箇月にして、 042 LUK 001 025 云へらく、主は人々の間に我が恥を雪がしめんとて、我を顧み給ひたる日に斯も我に為し給ひしなり、と。 042 LUK 001 026 第二款 マリア天使の告を蒙る 然て六月目に當り、天使ガブリエルガリレアのナザレトと云へる町に、 042 LUK 001 027 ダヴィド家のヨゼフと名る人の聘定せし童貞女に神より遣されしが、其童貞女名をマリアと云へり。 042 LUK 001 028 天使彼の許に入來りて云ひけるは、慶たし、恩寵に満てる者よ、主汝と共に在す。汝は女の中にて祝せられたる者なり、と。 042 LUK 001 029 マリア之を見て其言に由りて大いに心騒ぎ此祝詞は如何なるものぞ、と案じ居るを、 042 LUK 001 030 天使云ひけるは、懼るる事勿れマリア、汝神の御前に恩寵を得たればなり、 042 LUK 001 031 然て汝懐胎して一子を生まん、其名をイエズスと名くべし。 042 LUK 001 032 彼は偉大にして、最高き者の子と稱へられん。又主なる神之に其父ダヴィドの玉座を賜ひて、 042 LUK 001 033 ヤコブの家を限なく治め、其治世は終なかるべし、と。 (aiōn g165) 042 LUK 001 034 マリア天使に云ひけるは、我夫を知らざるに、如何にしてか此事あるべき。 042 LUK 001 035 天使答へて曰く、聖霊汝に臨み給ひ、最高き者の能力の蔭汝を覆はん、故に汝より生るべき聖なるものは神の子と稱へらるべし。 042 LUK 001 036 夫汝の親族エリザベトすら、老年ながら一子を懐胎せり、斯て石女と呼ばれたる者今既に六月目なり。 042 LUK 001 037 蓋何事も神には能はざる所あらじ、と。 042 LUK 001 038 マリア云ひけるは、我は主の御召使なり、汝の言の如く我に成れかし、と。是に於て天使彼を去れり。 042 LUK 001 039 第三款 マリア エリザベトを訪問す。 日ならずして、マリア立ちて山地なるユダの町に急行きしが、 042 LUK 001 040 ザカリアの家に入りて、エリザベトに挨拶せしに、 042 LUK 001 041 エリザベト、マリアの挨拶を聞くや、其子は胎内にて躍り、エリザベトは聖霊に満たされ、 042 LUK 001 042 聲高く呼はりて云ひけるは、汝は女の中にて祝せられたり、御胎内の御子も祝せられ給ふ。 042 LUK 001 043 我何によりて我主の母の來臨を辱うしたるぞ。 042 LUK 001 044 抑汝が挨拶の聲我耳に響くや、子喜びて我胎内に躍れり。 042 LUK 001 045 福なる哉信ぜし者。是主より云はれし事必ず成就すべければなり、と。 042 LUK 001 046 マリア云ひけるは、我魂主を崇奉り、 042 LUK 001 047 我精神我救主にて在す神に由て喜びに堪へず、 042 LUK 001 048 其は其御召使の賤しきを顧み給ひたればなり。蓋看よ今より萬代迄も、人我を福なる者と稱へん、 042 LUK 001 049 全能にて在す者、我に大事を為し給ひたればなり。聖なる哉其御名。 042 LUK 001 050 其矜恤は代々之を畏るる人々の上に在り。 042 LUK 001 051 自ら御腕の権能を現し、己が心の念に驕れる人々を打散らし、 042 LUK 001 052 権力ある者を其座より下し、賎しき者をば高め、 042 LUK 001 053 飢ゑたる者を佳物に飽かせ、富める者をば手を空しうして去らしめ給へり。 042 LUK 001 054 御矜恤を忘れず、其僕イスラエルを引受け給ひ、 042 LUK 001 055 我等の先祖に曰ひし如く、アブラハムにも其子孫にも、世々に限なく及ぼし給はん、と。 (aiōn g165) 042 LUK 001 056 斯てマリア、エリザベトと共に留る事凡三月にして、己が家に歸れり。 042 LUK 001 057 然てエリザベト、産期満ちて男子を生みしが、 042 LUK 001 058 隣人親戚等、主の之に大いなる恵を賜ひし事を聞きて、祝賀し居たり。 042 LUK 001 059 八日目に至り、人々其子に割禮を施さんとて來り、父の名によりてザカリアと名けんとせしに、 042 LUK 001 060 母答へて、然るべからず、ヨハネと名くべし、と云ひしかば、 042 LUK 001 061 人々、汝の親戚の中に、此名を付けられたる者なしとて、 042 LUK 001 062 父に手眞似して、何と名づけんと欲するぞ、と問ひけるに、 042 LUK 001 063 ザカリア書板を求めて、其名はヨハネなりと記したれば、皆感嘆したりしが、 042 LUK 001 064 軈てザカリアの口開け、舌解け、言ひて神を祝し奉れり。 042 LUK 001 065 斯て隣人皆懼を懐き、此凡ての事ユデアの山里に徧く言弘められしかば、 042 LUK 001 066 聞く人皆之を記憶に止めて、此子は如何なる者に成らんと思ふか、と言合へり、蓋主の御手彼と共に在りき。 042 LUK 001 067 斯て其父ザカリア聖霊に満たされ、預言して云ひけるは、 042 LUK 001 068 祝すべき哉、イスラエルの神在す主。其は親ら臨て其民の贖を為し、 042 LUK 001 069 其僕ダヴィドの家に於て、救の角を我等の為に與し給ひたればなり。 042 LUK 001 070 是古より聖なる預言者等の口に籍りて語り給ひし如く、 (aiōn g165) 042 LUK 001 071 我等の敵より、又総ての我等を憎む者の手より我等を救ひ給ひ、 042 LUK 001 072 我等の先祖に矜恤を垂れて、其聖約を記憶し給はん為なり。 042 LUK 001 073 而して是我等に賜はんと、我父アブラハムに誓ひ給ひし誓なり。 042 LUK 001 074 然れば我等の敵の手より救はれて、怖なく主に事へ奉り、 042 LUK 001 075 聖と義とに於て生涯主の御前に侍らん。 042 LUK 001 076 孩兒よ、汝は最高き者の預言者と稱へられん。其は主の面前に先ちて其道を備へ、 042 LUK 001 077 其民に罪を赦さるべき救霊の知識を與ふべければなり。是我神の慈悲の腸に由れり。 042 LUK 001 078 是が為に旭日は上より我等に臨み給ひて、 042 LUK 001 079 暗黒及死の蔭に坐せる人々を照らし、我等の足を平安の道に導かんとし給ふ、と。 042 LUK 001 080 斯て孩兒成長し、精神愈強健にして、イスラエルに顕るる日まで荒野に居れり。 042 LUK 002 001 第二項 イエズスキリストの御降誕 其頃、天下の戸籍を取調ぶべしとの詔、セザル、オグストより出しが、 042 LUK 002 002 此戸籍調は、シリノがシリアの総督たりし時に始めたるものなり。 042 LUK 002 003 斯て人皆名を届けんとて、各其故郷に至りけるに、 042 LUK 002 004 ヨゼフもダヴィド家に属し且其血統なれば、 042 LUK 002 005 既に懐胎せる聘定の妻マリアと共に名を届けんとて、ガリレアのナザレト町よりユデアのベトレヘムと云へるダヴィドの町に上れり。 042 LUK 002 006 其處に居りし程に、マリア産期満ちて、 042 LUK 002 007 家子を生み、布に包みて馬槽に臥させ置きたり。是、旅舎に彼等の居る所なかりし故なり。 042 LUK 002 008 然るに此地方に牧者等ありて、夜中交代して己が群を守り居りしが、 042 LUK 002 009 折しも主の使其傍に立ちて、神の榮光彼等を環照らしたれば、彼等大いに懼れたり。 042 LUK 002 010 天使彼等に云ひけるは、懼るる事勿れ、其は我人民一般に及ぶべき大いなる喜の福音を汝等に告ぐればなり。 042 LUK 002 011 蓋今日ダヴィドの町に於て、汝等の為に救主生れ給へり、是主たるキリストなり。 042 LUK 002 012 汝等之を以て徴とせよ、即ち布にて包まれ、馬槽に置かれたる嬰兒を見るべし、と。 042 LUK 002 013 忽ち夥しき天軍天使に加はりて、神を賛美し、 042 LUK 002 014 「最高き處には神に光榮、地には御好意の人々に平安」と唱へたり。 042 LUK 002 015 天使等天に去りて後、牧者等云ひけるは、将我等ベトレヘムまで行き、主の我等に示し給へる事の次第を見ん、と。 042 LUK 002 016 乃ち急ぎ至りて、マリアとヨゼフと馬槽に置かれたる孩兒とに遇へり。 042 LUK 002 017 然て面りに見て、此孩兒に就きて云はれし事を知らせければ、 042 LUK 002 018 聞ける人皆牧者等より云はるる事を不思議に思ひしが、 042 LUK 002 019 マリアは是等の事を悉く心に納めて考合せ居たり。 042 LUK 002 020 斯て牧者等は、己に云はれしに違はず、見聞せし一切の事に就きて、神に光榮を歸し、且賛美し奉りつつ歸れり。 042 LUK 002 021 孩兒の割禮を授かるべき八日目に至りて、未胎内に孕らざる前に天使より云はれし如く、名をイエズスと呼ばれ給へり。 042 LUK 002 022 第三項 キリスト御幼年 然てモイゼの律法の儘に、マリアが潔の日數満ちて後、[兩親]孩兒を主に献げん為、携へてエルザレムに往けり。 042 LUK 002 023 是主の律法に録して「総て初に生るる男子は、主の為に聖なる者と稱へらるべし」とあるが故にして、 042 LUK 002 024 又主の律法に云はれたる如く、山鳩一雙か、鴿の雛二羽かを犠牲に献げん為なりき。 042 LUK 002 025 折しもエルザレムに、シメオンと云へる人あり。義人にして神を畏敬し、イスラエル[の民]の慰められん事を待ちて、聖霊の居給ふ所となり、 042 LUK 002 026 聖霊より、主のキリストを見ざるうちは、死せざる事を示されたりしが、 042 LUK 002 027 [聖]霊によりて、[神]殿に至りしに、恰も彼兩親孩兒イエズスを携へ、是が為に律法の慣例に從ひて行はんとて來りければ、 042 LUK 002 028 シメオン孩兒を抱き、神を祝し奉りて云ひけるは、 042 LUK 002 029 主よ、今こそ御言に從ひて僕を安樂に逝かしめ給ふなれ、 042 LUK 002 030 其は我目主の救を見たればなり。 042 LUK 002 031 是ぞ主が萬民の前に備へ給ひし者にして、 042 LUK 002 032 異邦人を照らすべき光、主の民たるイスラエルの光榮なる、と。 042 LUK 002 033 イエズスの父母は、孩兒に就きて云はれたる事を驚嘆したりしが、 042 LUK 002 034 シメオン彼等を祝して、母マリアに云ひけるは、此子は、是イスラエルに於て、多くの人の堕落と復活との為に置かれ、且反抗を受くる徴に立てられたり、 042 LUK 002 035 汝の魂も剣にて刺貫かるべく、而して多くの心の念顕るべし、と。 042 LUK 002 036 又アゼル族なるファヌエルの女に、名はアンナ[と云ひて]、既に至極の老年に及べる女預言者あり。處女の時より七年の間、夫と共に在りしに、 042 LUK 002 037 寡婦となりて、齢八十四に至り、[神]殿を離れず、断食と祈祷とを以て晝夜奉事し居りしが、 042 LUK 002 038 是も同時に來りて、主を稱賛し、エルザレムに於て、贖罪を待てる人々に孩兒の事を語り居たりき。 042 LUK 002 039 [兩親は]主の律法の儘に何事をも果し、ガリレアのナザレトなる己が町に歸りしが、 042 LUK 002 040 孩兒漸く成長して、智恵に満ち、精神の力彌増し給ひ、神の恩寵其上に在りき。 042 LUK 002 041 然て過越の大祝日には、兩親年毎にエルザレムに往き居りしが、 042 LUK 002 042 イエズス十二歳になり給ひし時、兩親祝日の慣例の儘にエルザレムに上りしに、 042 LUK 002 043 祝日過ぎて歸る時、幼きイエズスはエルザレムに留り給へり。兩親は之を知らず、 042 LUK 002 044 道連の中に在らんと思ひつつ、一日路を往き、然て親族知己の中を求めたれども、逢はざりしかば、 042 LUK 002 045 尋ねつつエルザレムに立歸りしに、 042 LUK 002 046 三日目に、イエズスが[神]殿にて學者の中に坐し、彼等に聞き且問ひ居給へるを見付けたり。 042 LUK 002 047 聞く人皆其智恵と應答とに驚き居たりしが、 042 LUK 002 048 兩親は之を見て感嘆せり。斯て母はイエズスに向ひ、子よ、何故我等に斯る事を為ししぞ。看よ、汝の父と我とは憂ひつつ汝を尋ね居たり、と云ひければ、 042 LUK 002 049 イエズス曰ひけるは、何ぞ我を尋ねたるや。我は我父の事を務むべきを知らざりしか、と。 042 LUK 002 050 兩親は此語給ひし御言を暁らざりき。 042 LUK 002 051 然てイエズス彼等と共に下り、ナザレトに至りて彼等に從ひ居給ひしが、母は此総ての事を心に納め居たりき。 042 LUK 002 052 斯てイエズス智恵も齢も、神と人とに於る寵愛も次第に彌増し居給へり。 042 LUK 003 001 第一款 洗者ヨハネの先駆 チベリオ、セザルの在位の十五年、ポンシオ、ピラトはユデアの総督たり、ヘロデはガリレア分國の王たり、其兄弟フィリッポはイチュレア及トラコニト地方分國の王たり、リサニアはアビリナ分國の王たり、 042 LUK 003 002 アンナとカイファとは司祭長たりし時、ザカリアの子ヨハネ、荒野に在りて主の御言を蒙り、 042 LUK 003 003 ヨルダン[河]の全地方を巡りて、罪の赦を得させん為に、改心の洗禮を宣傳へたり。 042 LUK 003 004 預言者イザヤの言の書に録して「荒野に呼はる者の聲ありて曰く、汝等主の道を備へ、其徑を直くせよ。 042 LUK 003 005 凡ての谷は填められ、凡ての山丘は坦され、曲れるは直くせられ、険しき處は平なる路となり、 042 LUK 003 006 人皆神の救を見ん」とあるに違はず。 042 LUK 003 007 然てヨハネ、己に洗せられんとて出來れる群衆に云ひけるは、蝮の裔よ、來るべき怒を遁るる事を、誰か汝等に教へしぞ。 042 LUK 003 008 然れば改心の相當なる果を結べよ。又我等の父にアブラハム在りと云はんとすること勿れ。蓋我汝等に告ぐ、神は是等の石よりアブラハムの為に子等を起すことを得給ふ。 042 LUK 003 009 既に斧樹の根に置かれたり。故に総て善き果を結ばざる樹は、伐られて火に投入れらるべし、と。 042 LUK 003 010 群衆ヨハネに問ひて、然らば我等何を為すべきぞ、と云ひければ、 042 LUK 003 011 彼答へて、二枚の肌着を有てる人は有たぬ人に與へよ、食物を有てる人も同じ様にせよ、と云ひ居たり。 042 LUK 003 012 又税吏ありて、洗せられんとて來り、師よ、我等何を為すべきぞ、と云ひしかば、 042 LUK 003 013 ヨハネ彼等に向ひ、汝等は定まりたる物の外、何をも取ること勿れ、と云へり。 042 LUK 003 014 兵卒も亦之に問ひて、我等は何を為すべきぞ、と云へば、ヨハネ彼等に向ひ、汝等は、誰をも悩ますこと勿れ、又讒訴すること勿れ、己が給料を以て足れりとせよ、と云へり。 042 LUK 003 015 人民は待佗びて、ヨハネを或はキリストならんと、皆心に推量りつつありければ、 042 LUK 003 016 ヨハネ答へて人々に云ひけるは、實に我は水にて汝等を洗す、然れど我に優りて力或もの将に來らんとす、我は其履の紐を解くにも足らず。彼は聖霊と火とにて汝等を洗し給ふべし。 042 LUK 003 017 彼の手に箕ありて其禾場を潔め、麦は倉に収め、殻は滅えざる火にて焼き給ふべし、と。 042 LUK 003 018 ヨハネ尚多くの事を人に教へて、福音を宣べ居たり。 042 LUK 003 019 然れど分國の王ヘロデ、其兄弟の妻ヘロヂァデの事に就き、又自ら為せる凡ての惡事に就きてヨハネに諌められければ、 042 LUK 003 020 諸の惡事に今一を加へてヨハネを監獄に閉籠めたりき。 042 LUK 003 021 第二款 イエズス自身の準備 人民挙りて洗せらるる時、イエズスも洗せられて祈り給ふに、天開け、 042 LUK 003 022 聖霊形に顕れて、鴿の如くイエズスの上に降り給ひ、又天より聲して、汝は我愛子なり、我汝によりて心を安んぜり、と曰へり。 042 LUK 003 023 イエズス齢凡三十にして[聖役を]始め給ひ、人にはヨセフの子と思はれ居給ひしが、ヨセフの父はヘリ、其父はマタト、 042 LUK 003 024 其父はレヴィ、其父はメルキ、其父はヤンネ、其父はヨゼフ、 042 LUK 003 025 其父はマタチヤ、其父はアモス、其父はナホム、其父はヘスリ、其父はナッゲ、 042 LUK 003 026 其父はマハト、其父はマタチヤ、其父はセメイ、其父はヨゼフ、其父はユダ、 042 LUK 003 027 其父はヨハンナ、其父はレサ、其父はゾロバベル、其父はサラチエル、其父はネリ、 042 LUK 003 028 其父はメルキ、其父はアッヂ、其父はコサン、其父はエルマダン、其父はヘル、 042 LUK 003 029 其父はイエズ、其父はエリエゼル、其父はヨリム、其父はマタト、其父はレヴィ、 042 LUK 003 030 其父はシメオン、其父はユダ、其父はヨセフ、其父はヨナ、其父はエリヤキム、 042 LUK 003 031 其父はメレヤ、其父はメンナ、其父はマタタ、其父はナタン、其父はダヴィド、 042 LUK 003 032 其父はイエッセ、其父はオベド、其父はボオズ、其父はサルモン、其父はナアッソン、 042 LUK 003 033 其父はアミナダブ、其父はアラム、其父はエスロン、其父はファレス、其父はユダ、 042 LUK 003 034 其父はヤコブ、其父はイザアク、其父はアブラハム、其父はタレ、其父はナコル、 042 LUK 003 035 其父はサルグ、其父はラガウ、其父はファレグ、其父はヘベル、其父はサレ、 042 LUK 003 036 其父はカイナン、其父はアルファクサド、其父はセム、其父はノエ、其父はラメク、 042 LUK 003 037 其父はマチュサレ、其父はエノク、其父はヤレド、其父はマラレエル、其父はカイナン、 042 LUK 003 038 其父はヘノス、其父はセト、其父はアダム、其父は神なり。 042 LUK 004 001 イエズス、聖霊に満ちてヨルダン[河]より歸り、聖霊によりて荒野に導かれ、 042 LUK 004 002 四十日の間[留りて]惡魔に試みられ居給ひしが、此間何をも食し給はず、日數満ちて飢ゑ給へり。 042 LUK 004 003 惡魔イエズスに向ひ、汝若神の子ならば、此石に命じて麪とならしめよ、と云ひしかば、 042 LUK 004 004 イエズス答へ給ひけるは、録して「人の活くるは、麪のみに由らず、又神の凡ての言に由る」とあり、と。 042 LUK 004 005 惡魔之を高き山に携へ行き、寸時に世界の國々を示して、 042 LUK 004 006 云ひけるは、我此所有権力と國々の榮華とを汝に與へん。蓋是等のもの我に任せられて、我は我が好む者に之を與ふ。 042 LUK 004 007 故に汝若我前に禮拝せば、是等悉く汝の有と成るべし。 042 LUK 004 008 イエズス答へて曰ひけるは、録して「汝の神たる主を拝し、是にのみ事へよ」とあり、と。 042 LUK 004 009 惡魔又イエズスをエルサレムに携へ、[神]殿の頂に立たせて云ひけるは、汝若神の子ならば、此處より身を投げよ、 042 LUK 004 010 其は録して「神其使等に命じて、汝を守らせ給ひ、 042 LUK 004 011 汝の足の石に突當らざる様、彼等手にて汝を支へん」とあればなり。 042 LUK 004 012 イエズス答へ給ひけるは、録して「汝の神たる主を試むべからず」とあり、と。 042 LUK 004 013 凡ての試終りて、惡魔一時イエズスを離れたり。 042 LUK 004 014 第一款 十二使徒選定以前の事實 第二項 イエズスガリレアに布教し給ふ イエズス[聖]霊の能力によりてガリレアに歸り給ひしに、其名聲全地方に広まり、 042 LUK 004 015 所々の會堂にて教へ給ひ、凡ての人に崇められ給ひつつありき。 042 LUK 004 016 然て曾て育てられ給ひしナザレトの地に至り、安息日に當りて例の如く會堂に入り、読まんとて立ち給ひしに、 042 LUK 004 017 預言者イザヤの書を付され、之を開きて次の如く録されたる處に見當り給へり。 042 LUK 004 018 「主の霊我上に在せば、我に注油して遣はし給ひ、貧者に福音を宣べしめ、心の砕けたるたる人を醫さしめ、 042 LUK 004 019 虜には免を、瞽者には見ゆる事を告げしめ、壓へられたる人を解きて自由ならしめ、主の喜ばしき年及報の日を告げしめ給ふ」と。 042 LUK 004 020 イエズス書を巻きて役員に還し、然て坐し給ひしかば、堂内の人皆之に注目し居たり。 042 LUK 004 021 イエズス先彼等に向ひて、此書は今日汝等の耳に成就せり、と説出し給ひしかば、 042 LUK 004 022 人皆彼を證明し、其口より出づる麗しき言に驚きて、是ヨゼフの子に非ずや、と云ひければ、 042 LUK 004 023 イエズス彼等に曰ひけるは、汝等必ず我に、醫者自らを醫せとの諺を引きて、汝がカファルナウムにて為せりと我等の聞ける程の事を、己が故郷なる此處にも為せ、と云はん、と。 042 LUK 004 024 又曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、預言者にして、其故郷に歓迎せらるる者はあらず。 042 LUK 004 025 我誠に汝等に告ぐ、エリアの時、三年六箇月の間、天閉ぢて全地上に大飢饉ありしに、イスラエルの中に多くの寡婦ありしかど、 042 LUK 004 026 エリアは其中の一人にも遣はされず、唯シドンのサレプタの一人の寡婦にのみ遣はされたり、 042 LUK 004 027 又預言者エリゼオの時、イスラエルの中に多くの癩病者ありしかど、シリア人ナアマンの外は、其中一人も潔くせられざりき、と。 042 LUK 004 028 堂内の人々之を聞きて、皆怒に堪へず、 042 LUK 004 029 起ちてイエズスを町より逐出し、其町の立てる山の断崖に連行き、投落さんとせしかども、 042 LUK 004 030 イエズスは彼等の中を通りて歩み居給へり。 042 LUK 004 031 斯てガリレアの町なるカファルナウムに下り、安息日毎に教へ給ひけるに、 042 LUK 004 032 其語り給ふ所権威を帯びたるにより、人々其教に驚き居たり。 042 LUK 004 033 茲に會堂の内に汚鬼に憑かれたる人ありて、聲高く叫びて云ひけるは、 042 LUK 004 034 ナザレトのイエズスよ、我等を措け、我等と汝と何の関係かあらん。我等を亡さんとて來り給へるか。我汝の誰なるかを知れり、即神の聖なる者なり、と。 042 LUK 004 035 イエズス之を責めて、黙せよ、此人より出でよ、と曰ひしかば、惡鬼其人を中央に投倒し、少しも害を加へずして彼より出でたり。 042 LUK 004 036 是に於て人々大に驚き怖れ、是は何事ぞ、彼権威と能力とを以て汚鬼等に命じ給へば、即ち出づるよ、と語合ひ、 042 LUK 004 037 イエズスの名聲、彼地方到處に広まり行きたり。 042 LUK 004 038 イエズス會堂を立出でて、シモンの家に入り給ひしに、シモンの姑重き熱を煩ひ居りしを、 042 LUK 004 039 人々彼の為に願ひければ、イエズス其傍に立ちて熱に命じ給ふや、熱去りて、彼直に起きて彼等に給仕したり。 042 LUK 004 040 日没りて後、種々の患者を有てる人々、皆之をイエズスの許に連來りければ、一々按手して之を醫し居給へり。 042 LUK 004 041 又惡魔多くの人より出でて、叫びつつ、汝は神の子なり、と云ひければ、イエズス之を誡めて、言ふ事を許し給はざりき、蓋惡魔は其キリストたる事を知ればなり。 042 LUK 004 042 夜明けて後、イエズス出でて寂しき處に往き給ひしに、群衆尋ねて其許に至り、己等を離れざらしめんとて引止めければ、 042 LUK 004 043 イエズス彼等に曰ひけるは、我は又他の町にも神の國の福音を宣傳へざるべからず、我は是が為に遣はされたればなり、と。 042 LUK 004 044 斯てガリレアの諸會堂にて説教しつつ居給へり。 042 LUK 005 001 然て群衆神の御言を聞かんとて押迫りければ、イエズスゲネザレトの湖の辺に立ち給へるに、 042 LUK 005 002 二艘の船の岸に繋れるを見給へり。漁師は既に下りて、網を洗ひ居りしが、 042 LUK 005 003 イエズス、シモンの船なる一艘に乗り、請ひて少しく岸を離れしめ、坐して船中より群衆に教へ居給ひき。 042 LUK 005 004 語終へ給ひて、シモンに向ひ、沖に乗出し網を下して漁れ、と曰ひしかば、 042 LUK 005 005 シモン答へて云ひけるは、師よ、我等終夜働きて何をも獲ざりき、然れど仰せによりて我は網を下さん、とて、 042 LUK 005 006 其如く為したるに、取籠めたる魚甚だ多く、網将に裂けんとしければ、 042 LUK 005 007 來り扶けしめんとて、他の船なる仲間を麾きしかば、彼等來りて二艘の船に魚を満載し、殆沈まんばかりになれり。 042 LUK 005 008 シモン、ペトロ之を見て、イエズスの足下に平伏し、主よ、我は罪人なれば、我より遠ざかり給へ、と云へり。 042 LUK 005 009 其は、彼も共に居る者も皆、漁りたる魚の夥しきに驚きたればなり。 042 LUK 005 010 シモンの友なる、ゼベデオの子ヤコボとヨハネとも亦其中に在りき。斯てイエズス、シモンに向ひ、懼るること勿れ、汝今より人を生捕る者とならん、と曰ひしかば、 042 LUK 005 011 彼等船を岸に寄せ、一切を措きてイエズスに從へり。 042 LUK 005 012 イエズス或町に居給へる時、全身に癩を病める人ありて、イエズスを見るよ、平伏して願ひ、主よ、思召ならば我を潔くすることを得給ふ、と云ひしに、 042 LUK 005 013 イエズス、手を伸べて之に触れ給ひ、我意なり潔くなれ、と曰ふや、癩直に其身を去れり。 042 LUK 005 014 イエズス之を誰にも語らざるよう誡めて、然て、[曰ひけるは]但往きて己を司祭に見せ、潔くなりたる為に、彼等への證據として、モイゼの命ぜし如く献物を為せ、と。 042 LUK 005 015 然るにイエズスの名聲益広がりて、群衆夥しく是に聞き、且病を醫されんとて、集ひ來りければ、 042 LUK 005 016 荒野に避けて祈り居給へり。 042 LUK 005 017 一日イエズス坐して教へ給ひけるに、ガリレア、ユデアの凡ての村落、及びエルザレムより來りしファリザイ人、律法學士等も坐し居たりしが、主の能力人を醫す為に現れつつありき。 042 LUK 005 018 折しも人々、癱瘋を病める人を床にて舁來り、内に入れてイエズスの御前に置んと力むれども、 042 LUK 005 019 群衆の為に入るべき路を得ず、屋上に昇り瓦を剥ぎて、其人を床の儘、イエズスの御前に眞中に吊下せり。 042 LUK 005 020 イエズス、彼等の信仰を見て。人よ、汝の罪赦さる、と曰ひしかば、 042 LUK 005 021 律法學士ファリザイ人等考始めて、云ひけるは、此冒涜の言を出すは誰ぞ。神獨りの外、誰か罪を赦すことを得んや、と。 042 LUK 005 022 イエズス彼等の思ふ所を知り、答へて曰ひけるは、汝等心に何を考ふるぞ。 042 LUK 005 023 汝の罪赦さると云ふと、起きて歩めと云ふと、孰か易き。 042 LUK 005 024 然て人の子地に於て罪を赦すの権ある事を汝等に知らしめん、とて癱瘋の人に向ひ、我汝に命ず、起きよ、床を取りて己が家に歸れ、と曰ひしかば、 042 LUK 005 025 其人直に彼等の前に起上り、己が臥居たりし床を取りて、神に光榮を歸しつつ、家に歸りしが。 042 LUK 005 026 人皆驚入りて、神に光榮を歸し奉り、又懼れ畏みて、我等今日眞に不思議なる事を見たり、と云ひ居たり。 042 LUK 005 027 其後イエズス出でて、レヴィと名くる税吏が収税署に坐せるを見て、我に從へ、と曰ひしかば、 042 LUK 005 028 彼一切を措き、起ちて從へり。 042 LUK 005 029 斯てレヴィ自宅に於てイエズスの為に大なる饗筵を設けしに、税吏など夥しく彼等と席を同じうしければ、 042 LUK 005 030 ファリザイ人及び其徒なる律法學士等呟きて、イエズスの弟子等に向ひ、汝等は何故に税吏罪人と飲食を共にするぞ、と云ひけるに、 042 LUK 005 031 イエズス答へて曰ひけるは、醫者を要するは、壮健なる人に非ずして病める人なり、 042 LUK 005 032 我が來りしは義人を招ぶ為に非ず、罪人を招びて改心せしめん為なり、と。 042 LUK 005 033 彼等イエズスに云ひけるは、ヨハネの弟子等は數次断食し又祈祷し、ファリザイ人のも亦然するに、汝の者等は何故に飲食するぞ、と。 042 LUK 005 034 イエズス彼等に曰ひけるは、汝等豈新郎の朋友をして、其新郎と共に居る間に断食せしむるを得んや。 042 LUK 005 035 然れど新郎彼等より奪はるる日來るべく、其日には断食すべし、と。 042 LUK 005 036 イエズス又彼等に喩を語り給ひけるは、新しき衣服を裂取りて、古き衣服に補ぐ人はあらず、若然する時は、新しき物を破り、且新しき衣服より取れる布片は古き物に似合はず。 042 LUK 005 037 又新しき酒を古き皮嚢に盛る人はあらず、若然せば、新しき酒は古き皮嚢を裂き、且流出でて皮嚢も亦廃らん。 042 LUK 005 038 新しき酒は新しき皮嚢に盛るべく、然てこそ兩ながら保つなれ。 042 LUK 005 039 又古き酒を飲みながら直に新しき酒を望む人はあらず、誰も古きを善しと云へばなり、と。 042 LUK 006 001 過越祭の二日目の後、初の安息日に、イエズス麦畑を過り給ふ時、弟子等穂を摘み、手に揉みて食しければ、 042 LUK 006 002 ファリザイの或人々彼等に云ひけるは、何ぞ安息日に為すべからざる事を為せるや。 042 LUK 006 003 イエズス答へて曰ひけるは、ダヴィドが己及伴へる人々の飢ゑし時為しし事を、汝等読まざりしか。 042 LUK 006 004 即彼神の家に入り、司祭等の外は食すべからざる供の麪を取りて食し、伴へる人々にも與へしなり、と。 042 LUK 006 005 又彼等に曰ひけるは、人の子は亦安息日の主たるなり、と。 042 LUK 006 006 又他の安息日に當り、イエズス會堂に入りて教へ給へるに、右の手萎えたる人其處に居りければ、 042 LUK 006 007 律法學士、ファリザイ人等、イエズスを訟ふる廉を見出さん為に、彼安息日に醫すやと窺ひ居りしが、 042 LUK 006 008 イエズス其心を知りて、手萎えたる人に、起きて眞中に立て、と曰ひければ、彼起きて立てり。 042 LUK 006 009 イエズス彼等に向ひ、我汝等に問はん、安息日に許さるるは善を為す事か、惡を為す事か、生命を救ふ事か、之を亡ぼす事か、と曰ひて、 042 LUK 006 010 一同を見廻らし給ひ、彼人に、手を伸べよ、と曰ひしかば、彼伸べて其手痊えたり。 042 LUK 006 011 然るに彼等が愚を極めたるや、如何にしてイエズスを處分せんかと語合ひ居たり。 042 LUK 006 012 第二款 十二使徒選定後の事實 其頃イエズス祈らんとて山に登り、終夜祈祷し居給ひしが、 042 LUK 006 013 天明に至りて弟子等を招び、其中より十二人を選みて、更に之を使徒と名け給へり。 042 LUK 006 014 即ちペトロと名け給へるシモンと其兄弟アンデレア、ヤコボとヨハネ、フィリッポとバルトロメオ、 042 LUK 006 015 マテオとトマ、アルフェオの子ヤコボとゼロテと云へるシモン、 042 LUK 006 016 ヤコボの兄弟ユダと謀叛人となりしイスカリオテのユダとなり。 042 LUK 006 017 イエズス、是等と共に下りて平かなる處に立ち給ひしが、弟子の一群と共に又夥しき群衆あり。是イエズスに聴き且病を醫されんとて、ユデアの全地方、エルザレム及びチロとシドンとの湖辺より來れるものなり。 042 LUK 006 018 斯て汚鬼に悩まさるる人々醫され、 042 LUK 006 019 群衆皆イエズスに触れんと力め居たり、其は霊能彼の身より出でて、凡ての人を醫せばなり。 042 LUK 006 020 イエズス弟子等の方に目を翹げて曰ひけるは、福なる哉汝等貧しき人、其は神の國は汝等の有なればなり。 042 LUK 006 021 福なる哉汝等今飢うる人、其は飽かさるべければなり。福なる哉汝等今泣く人、其は笑ふべければなり。 042 LUK 006 022 福なる哉汝等、人の子の為に憎まれ、遠ざけられ、罵られ、其名は惡しとして排斥せらるる時、 042 LUK 006 023 其日には歓び躍れ、其は汝等の報天に於て大いなればなり。即ち彼等の先祖は預言者等に斯く為したりき。 042 LUK 006 024 然れども、汝等富める人は禍なる哉、其は今己が慰を有すればなり。 042 LUK 006 025 汝等飽足れる人は禍なる哉、其は飢うべければなり。汝等今笑ふ人は禍なる哉、其は嘆き且泣くべければなり。 042 LUK 006 026 汝等人々に祝せらるる時は禍なる哉、即ち彼等の先祖は僞預言者等に斯く為したりき。 042 LUK 006 027 然れば我、聴聞する汝等に告ぐ、汝等の敵を愛し、汝等を憎む人を恵み、 042 LUK 006 028 汝等を詛ふ人を祝し、汝等を讒する人の為に祈れ、 042 LUK 006 029 人汝の頬を打たば、是に他の頬をも向けよ。又汝の上衣を奪ふ人には、下衣をも拒むこと勿れ。 042 LUK 006 030 総て汝に求むる人に與へよ、又汝の物を奪ふ人より取戻すこと勿れ。 042 LUK 006 031 汝等が人に為られんと欲する所を、汝等も其儘人に行へ、 042 LUK 006 032 己を愛する人を愛すればとて、汝等に何の酬かあらん、蓋罪人も猶己を愛する人を愛するなり。 042 LUK 006 033 又汝等に恵む人を恵めばとて、汝等に何の酬かあらん、蓋罪人も猶之を為すなり。 042 LUK 006 034 又受くる所あらんことを期して人に貸せばとて、汝等に何の酬かあらん、蓋罪人も猶均しき物を受けんとて、罪人に貸すなり。 042 LUK 006 035 然れど汝等は己が敵を愛し、又報を望まずして貸し、且恵め、然らば汝等の報大いにして、最高き者の子たるべし、其は恩を知らざる者、惡き者の上にも仁慈に在せばなり。 042 LUK 006 036 然れば汝等も亦慈悲あること、汝等の父の慈悲に在す如くなれ。 042 LUK 006 037 人を是非すること勿れ、然らば汝等も是非せられじ。人を罪すること勿れ、然らば汝等も罪せられじ。宥せ、然らば汝等も宥されん。 042 LUK 006 038 與へよ、然らば汝等も與へられん。即ち量を善くし、壓入れ、揺入れ、溢るる迄にして、汝等の懐に入れられん。其は己が量りたる所の量にて、己も亦量らるべければなり。 042 LUK 006 039 然てイエズス喩を彼等に語り給ひけるは、瞽者は瞽者を導き得るか、二人ながら坑に陥るに非ずや。 042 LUK 006 040 弟子は師に優らず、誰にもあれ、己が師の如くならば完全なるべし。 042 LUK 006 041 汝何ぞ兄弟の目に塵を見詰めて、己が目に在る梁を省みざる、 042 LUK 006 042 又己が目の梁を見ずして、争でか兄弟に向ひて、兄弟よ、我をして汝の目より塵を除かしめよ、と言ふを得んや。僞善者よ、先己が目より梁を除け、然らば目明にして、兄弟の目より塵を除くを得べし。 042 LUK 006 043 惡き果を結ぶは善き樹に非ず、又善き果を結ぶは惡き樹に非ず、 042 LUK 006 044 即ち樹は各其果によりて知らる。茨より無花果を採らず、藪覆盆子より葡萄を取らざるなり。 042 LUK 006 045 善き人は其心の善き庫より善き物を出し、惡き人は惡き庫より惡き物を出す。口に語るは心に溢れたる所より出づればなり。 042 LUK 006 046 汝等、主よ主よ、と呼びつつ、我が言ふ事を行はざるは何ぞや。 042 LUK 006 047 総て我に來りて、我言を聞き且行ふ人の誰に似たるかを汝等に示さん。 042 LUK 006 048 即ち彼は家を建つるに地を深く掘りて基礎を岩の上に据ゑたる人の如し。洪水起りて激流其家を衝けども、之を動かす能はず、其は岩の上に基したればなり。 042 LUK 006 049 然れど聞きて行はざる人は、基礎なくして土の上に家を建てたる人の如し、激流之を衝けば、直に倒れて其家の壊甚し、と。 042 LUK 007 001 イエズス其凡ての言を人民に説き聞かせ畢りて、カファルナウムに入り給ひしが、 042 LUK 007 002 或百夫長、己が重んぜる僕の病みて死するばかりなれば、 042 LUK 007 003 イエズスの事を聞くや、ユデア人の長老等を遣はし、來りて其僕を醫し給はん事を請はしめたり。 042 LUK 007 004 彼等イエズスの許に詣りて切に願ひ、彼人は之を為し給ふに堪へたる者なり、 042 LUK 007 005 其は我が國民を愛し、我等の為に自ら會堂を建てたればなり、と云ひければ、 042 LUK 007 006 イエズス彼等と共に往き給ひ、既に其家に遠からずなり給へる時、百夫長朋輩を遣はして云はしめけるは、主よ、自ら煩はし給ふこと勿れ、其は我不肖にして、主の我屋根の下に入り給ふに足らざればなり。 042 LUK 007 007 故に我身も御前に詣るに堪へずと思へり。然りながら唯一言にて命じ給へ、然らば我僕痊えん。 042 LUK 007 008 蓋我も人の権下に立つ者ながら、部下に兵卒ありて、此に往けと云へば往き、彼に來れと云へば來り、又我僕に之を為せと云へば為すなり、と。 042 LUK 007 009 イエズス之を聞きて感嘆し、從へる群衆を顧みて曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、イスラエルの中にても、斯程の信仰に逢ひし事なし、と。 042 LUK 007 010 斯て遣はされし人々家に歸りて見れば、病みたりし僕既に痊えたりき。 042 LUK 007 011 其後イエズスナイムと云へる町に往き給ふに、弟子等も夥しき群衆も共に往きてありしが、 042 LUK 007 012 町の門に近づき給ふ時、折しも舁出さるる死人あり。是は其母の獨子にて、母は寡婦なり、町の人夥しく之に伴ひ居たり。 042 LUK 007 013 主此寡婦を見給ふや哀れを感じ給ひて、泣くこと勿れ、と曰ひつつ、 042 LUK 007 014 近づきて棺に手を觸れ給ひしかば、舁ける人々立止れり。 042 LUK 007 015 イエズス、若者よ、我汝に命ず、起きよ、と曰ふや、死したる者起返りて言ひ始めけるを、其母に與へ給ひしかば、 042 LUK 007 016 人々皆懼を懐き、光榮を神に歸して云ひけるは、大いなる預言者我等の中に起れり、神は其民を顧み給へるなり、と。 042 LUK 007 017 斯て此噂ユデア一般及凡て其周圍の地方に弘まれり。 042 LUK 007 018 ヨハネの弟子等、此一切の事を己が師に告げしかば、 042 LUK 007 019 ヨハネ其弟子の二人を呼びて、來るべき者は汝なるか、或は我等の待つ者は尚外に在るか、と云ひてイエズスに遣はしければ、 042 LUK 007 020 彼等イエズスの許に至りて云ひけるは、洗者ヨハネ我等を汝に遣はして、來るべき者は汝なるか或は我等の待つ者尚外に在るかと云ふ、と。 042 LUK 007 021 當時イエズスは、多くの人を病と傷と惡鬼とより醫し、且多くの瞽者に視力を與へ給ひしが、 042 LUK 007 022 答へて使に曰ひけるは、汝等見聞せし事を、往きてヨハネに告げよ、即ち瞽者は見え、跛者は歩み、癩病者は潔く成り、聾者は聞え、死者は蘇り、貧者は福音を聞かせらる、 042 LUK 007 023 総て我に就きて躓かざる人は福なり、と。 042 LUK 007 024 ヨハネの使去りて後、イエズスヨハネの事を群衆に語出で給ひけるは、汝等何を見んとて荒野に出でしぞ、風に揺かさるる葦か、 042 LUK 007 025 然らば何を見んとて出でしぞ、柔き衣服を着たる人か、看よ、値高き衣服を着て樂しく暮す人々は、帝王の家に在り、 042 LUK 007 026 然らば何を見んとて出でしぞ、預言者か、我汝等に告ぐ、然り預言者よりも優れる者なり、 042 LUK 007 027 録して「看よ、我使を汝の面前に遣はさん、彼汝に先ちて汝の道を備ふべし」とあるは彼の事なり。 042 LUK 007 028 即ち我汝等に告ぐ、婦より生れたる者の中に、洗者ヨハネより大なる預言者はあらず、然れど神の國にて最小き人も彼より大いなり。 042 LUK 007 029 彼に聞ける総ての人民税吏までも、ヨハネの洗禮を受けて神を義しとせり、 042 LUK 007 030 然れどファリザイ人、律法學士等は彼に洗せられずして、己に於る神の御旨を軽んぜり、と。 042 LUK 007 031 主又曰ひけるは、然れば我現代の人を誰にか擬へん、彼等は、誰に似たるぞや、 042 LUK 007 032 恰童等が衢に坐して語合ひ、我等、汝等の為に笛吹きたれども、汝等踊らず、汝等の為に嘆きたれども、汝等泣かざりき、と云へるに似たり。 042 LUK 007 033 即ち洗者ヨハネ來りて、麪を食せず酒を飲まざれば、汝等、彼は惡魔に憑かれたりと云ひ、 042 LUK 007 034 人の子來りて飲食すれば、彼は食を嗜み酒を飲み、税吏と罪人との友たり、と云ふ。 042 LUK 007 035 然りながら、智恵は其凡ての子に義しとせられたり、と。 042 LUK 007 036 爰に一人のファリザイ人、イエズスに會食せん事を請ひければ、其ファリザイ人の家に入りて、食卓に就き給ひしが、 042 LUK 007 037 折しも其町に罪人なる一個の婦ありて、イエズスがファリザイ人の家にて食卓に就き給へるを聞くや、香油を盛りたる器を持來り、 042 LUK 007 038 イエズスの足下にて其後に立ち、御足を次第に涙にて濡し、己が髪毛にて之を拭ひ、且御足に接吻し且香油を注ぎければ、 042 LUK 007 039 イエズスを招きたるファリザイ人、之を見て心の中に云ひけるは、彼は果して預言者ならば、己に觸るる婦の誰にして如何なる人なるかを、能く知れるならん、彼婦は罪人なるものを、と。 042 LUK 007 040 イエズス答へて、シモンよ、我汝に云ふ事あり、と曰ひければ、彼、師よ、仰せられよ、と云ふに、 042 LUK 007 041 [曰ひけるは]、或債主に二人の負債者あり、一人は五百デナリオ、一人は五十デナリオの負債あるを、 042 LUK 007 042 還すべき由なければ、債主二人を共に免せり、斯て債主を最も愛せん者は孰れなるぞ、と。 042 LUK 007 043 シモン答へて、我思ふに其は多くを免されたる者ならん、と云ひしに、イエズス、汝善く判断せり、と曰ひ、 042 LUK 007 044 然て婦を顧みてシモンに曰ひけるは、此婦を見るか、我汝の家に入りしに、汝は我足の水を與へざりしを、此婦は涙を以て我足を濡し、己が髪毛を以て之を拭へり。 042 LUK 007 045 汝は我に接吻せざりしに、此婦は入來りてより絶えず我足に接吻せり。 042 LUK 007 046 汝は油を我頭に注がざりしに、此婦は香油を我足に注げり。 042 LUK 007 047 此故に我汝に告ぐ、此婦は多く愛したるが故に、多くの罪を赦さるるなり、赦さるる事少き人は愛する事少し、と。 042 LUK 007 048 斯て彼婦に向ひ、汝の罪赦さる、と曰ひしかば、 042 LUK 007 049 食卓を共にせる人々、心の中に言出でけるは、彼何人なれば罪をも赦すぞ、と。 042 LUK 007 050 イエズス婦に向ひて、汝の信仰汝を救へり、安んじて往け、と曰へり。 042 LUK 008 001 其後イエズス、説教し且神の國の福音を宣べつつ、町々村々を巡廻し給ひければ、十二使徒之に伴ひ、 042 LUK 008 002 又曾て惡鬼を逐払はれ、病を醫されたる數人の婦人、即ち七の惡魔の其身より出でたる、マグダレナと呼ばるるマリア、 042 LUK 008 003 ヘロデの家令クサの妻ヨハンナ及スザンナ、其他多くの婦人ありて、己が財産を以て彼等に供給し居たり。 042 LUK 008 004 然て夥しき人、町々よりイエズスの許に走集りければ、イエズス喩を以て語り給ひけるは、 042 LUK 008 005 種播く人其種を播きに出でしが、播く時或者は路傍に落ちしかば、踏着けられ、空の鳥之を啄めり。 042 LUK 008 006 或者は石の上に落ちしかば、生出たれど、潤なきに由りて枯れたり。 042 LUK 008 007 或者は茨の中に落ちしかば、茨共に長ちて之を蔽塞げり。 042 LUK 008 008 或者は沃壌に落ちしかば、生出でて百倍の實を結べり、と。イエズス此事を曰ひて、聞く耳を有てる人は聞け、と呼はり居給へり。 042 LUK 008 009 弟子等、此喩を如何にと問ひしに、 042 LUK 008 010 曰ひけるは、汝等は神の國の奥義を知る事を賜はりたれど、他の人は喩を以てせらる、是は彼等が見つつ視えず、聞きつつ暁らざらん為なり。 042 LUK 008 011 此喩は斯の如し、種は神の御言なり、 042 LUK 008 012 路傍の者は聞く人々にして、彼等の信じて救はれざらん為、後に惡魔來りて言を其心より奪ふなり。 042 LUK 008 013 石の上の者は、聞く時に喜びて言を受くれど、己に根無く、暫く信じて、誘の時には退く人々なり。 042 LUK 008 014 茨の中に落ちしは、聞きたる後、往く往く世の慮と富と快樂とに蔽塞がれて、實を結ばざる人々なり。 042 LUK 008 015 然るに沃壌に落ちしは、善良なる心にて、言を聞きて之を保ち、忍耐を以て實を結ぶ人々なり。 042 LUK 008 016 誰も燈を點して、器を以て之を覆ひ、或は寝台の下に置く者はあらず、入來る者に明を見せん為に、之を燭台の上に置く。 042 LUK 008 017 蓋秘して露れざるはなく、隠れて遂に知れず公にならざるはなし。 042 LUK 008 018 此故に汝等聞方に注意せよ。其は有てる人は尚與へられ、有たぬ人は其有てりと思ふ物をも奪はるべければなり、と。 042 LUK 008 019 然てイエズスの母、兄弟、逢はんとて來りしかど、群衆の為に近づくこと能はざりしかば、 042 LUK 008 020 汝の母、兄弟汝に逢はんとて外に立てり、と告ぐる者ありしに、 042 LUK 008 021 イエズス答へて人々に曰ひけるは、神の御言を聴き且行ふ人、是我母、兄弟なり、と。 042 LUK 008 022 一日イエズス、弟子等と共に小舟に乗り給ひしに、我等湖の彼方に渡らん、と曰ひて軈て乗出せり。 042 LUK 008 023 斯て渡る間にイエズス眠り給ひしが、暴風湖に吹下し來り、水舟に充ちて危かりければ、 042 LUK 008 024 弟子等近づきて、師よ、我等亡ぶ、と云ひつつイエズスを覚ましたるに、起きて風と怒涛とを戒め給ひしかば、波風息みて凪となれり。 042 LUK 008 025 然て、汝等の信仰何處に在る、と曰ひければ、彼等且怖れ且感嘆して、是を誰と思ふぞ、風も湖も、命じ給へば是に從ふよ、と云合へり。 042 LUK 008 026 又ガリレアに對へるゲラサ人の地方に渡りて、 042 LUK 008 027 上陸し給ひしに、一箇の人ありて之を迎へたり。彼惡魔に憑かれたる事既に久しくして、衣服をも着ず家にも住まず、墓にのみ居りしが、 042 LUK 008 028 イエズスを見るや御前に平伏し、聲高く叫びて、最高き神の御子イエズスよ、我と汝と何の関係かあらん。願くは我を苦しむること勿れ、と云へり。 042 LUK 008 029 是イエズス惡鬼に、此人より出でよ、と命じ給へばなり。蓋彼惡鬼に執へらるる事既に久しく、鎖にて縛られ、桎にて護らるるも、繋を破り、惡魔に駆られて、荒野に往き居たりき。 042 LUK 008 030 イエズス之に問ひて、汝の名は何ぞ、と曰ひしに彼、軍団なり、と云へり、其は之に入りたる惡魔多ければなり。 042 LUK 008 031 然てイエズスの命じて底なき淵に往かしめ給はざらん事を請ひたりしが、 (Abyssos g12) 042 LUK 008 032 其處に多くの豚の群、山にて草を食み居しかば、惡魔等其豚に入るを允されん事を請ひけるに、イエズス之を允し給ひければ、 042 LUK 008 033 惡魔等其人より出でて豚に入り、其群周章しく崖より湖に飛入りて溺死せり。 042 LUK 008 034 牧者等其成行を見るや迯往きて、町に村に吹聴せしかば、 042 LUK 008 035 人々事の様を見んとて出でしが、イエズスの許に來り、彼惡魔の出でたりし人の、既に衣服を纏ひ心確にして、イエズスの足下に坐せるを見て怖れたり。 042 LUK 008 036 斯て見し人々も亦、惡魔憑の救はれし次第を誰彼に告げしかば、 042 LUK 008 037 ゲラサ地方の人民挙りて、己等より立去り給はん事をイエズスに請へり、是大いに怖れたればなり。然てイエズス船に乗りて歸り給ひしに、 042 LUK 008 038 惡魔の離れし男伴はん事を願ひしかど、イエズス之を去らして曰ひけるは、 042 LUK 008 039 己が家に歸りて、神が如何ばかり大いなる事を汝に為し給ひしかを告げよ、と。斯くて彼は普く町を廻りて、イエズスの如何ばかり大いなる事を己に為し給ひしか言弘めたり。 042 LUK 008 040 イエズス歸り給ひしに、人皆待居たりければ、群衆之を歓迎せり。 042 LUK 008 041 折しも名をヤイロと云える人來り、會堂の司なりしが、イエズスの足下に平伏して、己が家に入り給はん事を請へり、 042 LUK 008 042 其は己に十二歳ばかりの獨女ありて、将に死なんとすればなり。イエズス往き給ふ途にて、群衆に押蹙られ給へる中に、 042 LUK 008 043 十二年來血漏を患へる一人の女、曾て醫者の為に悉く其財産を費したれども、誰の手にも醫され得ざりしが、 042 LUK 008 044 後より近づきてイエズスの衣服の総に觸れしかば、其の出血忽止れり。 042 LUK 008 045 イエズス、我に觸れし者は誰ぞ、と曰へば皆否めるを、ペトロ及び之に伴ひたる人々云ひけるは、師よ、群衆押蹙りて汝を煩はすに、猶誰か我に觸れし、と曰ふか。 042 LUK 008 046 イエズス曰ひけるは、我に觸れし者あり、我霊能の我身より出でたるを覚ゆればなり、と。 042 LUK 008 047 女其隠れざりしを見て慄きつつ、來りてイエズスの足下に平伏し、其觸れし理由と直に痊えたる次第とを公衆の前に明しければ、 042 LUK 008 048 イエズス之に曰ひけるは、女よ汝の信仰汝を救へり、安んじて往け、と。 042 LUK 008 049 言未了らざるに、人會堂の司の許に來り、汝の女死せり、師を煩わすこと勿れ、と云ひしに、 042 LUK 008 050 イエズス此言を聞きて女の父に答へ給ひけるは、懼るること勿れ、唯信ぜよ、然らば彼助かるべし、と。 042 LUK 008 051 斯て其家に至り給ひて、ペトロ、ヤコボ、ヨハネ及び女の父母の外、共に入る事を誰にも許し給はず、 042 LUK 008 052 人皆女の為に泣き且歎き居れるを、泣く勿れ、女は死したるに非ず、寝ねたるなり、と曰ひしに、 042 LUK 008 053 人々は彼の死したるを知りて、之を嘲笑ひ居たり。 042 LUK 008 054 然るにイエズス、女の手を取り、呼はりて、女起きよ、と曰へば、 042 LUK 008 055 其霊還りて女直に起きしかば、之に食物を與ふる事を命じ給へり。 042 LUK 008 056 兩親は甚く驚きしが、成りし事を誰にも語るな、とイエズス戒め給へり。 042 LUK 009 001 斯て十二使徒を呼集めて、諸の惡魔を逐ひ病を醫す能力と権利とを授け給ひ、 042 LUK 009 002 神の國の事を宣べ、且病者を醫す為に遣はさんとして、 042 LUK 009 003 曰ひけるは、汝等途に在りて何物をも携ふること勿れ、杖、嚢、麪、金、及二枚の下衣を有つこと勿れ。 042 LUK 009 004 何れの家に入るも是に留りて、其處より出去ること勿れ。 042 LUK 009 005 総て汝等を承けざる人あらば、其町を去り、彼等に對する證據として、己が足の塵までも払え、と。 042 LUK 009 006 斯て十二使徒出立して村々を巡廻し、到處に福音を宣べ、病者を醫し居たり。 042 LUK 009 007 時に分國の王ヘロデ、イエズスによりて行はるる凡ての事を聞きて疑惑へり。其は或人々はヨハネ死者の中より復活したりと謂ひ、 042 LUK 009 008 或人々はエリア現れたりと謂ひ、或人々は古の預言者の一人復活したりと謂へばなり。 042 LUK 009 009 斯てヘロデ云ひけるは、ヨハネは我既に馘りしものを、斯る事の聞ゆる彼人は誰なるぞ、とてイエズスを見ん事を求め居たり。 042 LUK 009 010 使途等歸りて、面々が行ひし一切の事を告げければ、イエズス彼等を從へて、別にベッサイダ附近なる寂しき處に退き給ひしに、 042 LUK 009 011 群衆之を知りて其跡を慕ひしかば、イエズス之を接けて神の國の事を語り、治療を要する人を醫し居給へり。 042 LUK 009 012 日既に昃きしかば、十二[使徒]近づきて云ひけるは、我等は斯る寂しき處に居るなれば、群衆を解散して、周圍の村及び田家に宿らせ、且は食物を索めしめ給へ、と。 042 LUK 009 013 然るにイエズス彼等に向ひ、汝等之に食物を與へよ、と曰ひしかば、彼等云ひけるは、我等の五の麪と二の魚とあるのみ。或は往きて此凡ての群衆の為に食物を買はんか、と。 042 LUK 009 014 然て居合せたる男子五千人許なりしが、イエズス、人々を五十人宛、組々に坐せしめよ、と弟子等に曰ひければ、 042 LUK 009 015 彼等其如くにして、悉く坐せしめたり。 042 LUK 009 016 イエズス五の麪と二の魚とを取り、天を仰ぎて之を祝し、擘きて弟子等に分ち、群衆の前に置かしめ給ひしかば、 042 LUK 009 017 皆食して飽足りしが、食餘したる物を拾ひて屑十二筐ありき。 042 LUK 009 018 イエズス獨祈り居給ひけるに、弟子等と共に居りしが、問ひて曰ひけるは、群衆我を誰と言ふぞ、と。 042 LUK 009 019 彼等答へて云ひけるは、人々或は洗者ヨハネなりと謂ひ、或はエリアなりと謂ひ、或は古の預言者の一人の復活したるなりと謂ふ、と。 042 LUK 009 020 イエズス彼等に曰ひけるは、汝等は我を誰と謂ふか、と。シモン、ペトロ答へて、神のキリストなり、と云ひしかば、 042 LUK 009 021 イエズス厳しく彼等を戒め、誰にも之を語らざる様命じて、 042 LUK 009 022 曰ひけるは、人の子は様々に苦しめられ、且長老、司祭長、律法學士等に排斥せられ、然て殺され、而して三日目に復活すべし、と。 042 LUK 009 023 又一同に對ひて曰ひけるは、人若わが後に來らんと欲せば、己を棄て、日々己が十字架を取りて我に從ふべし。 042 LUK 009 024 其は己が生命を救はんと欲する人は之を失ひ、我為に生命を失ふ人は之を救ふべければなり。 042 LUK 009 025 即ち人假令全世界を贏くとも、若己を失ひ己を害せば、何の益かあらん。 042 LUK 009 026 蓋我と我言とを愧づる人をば、人の子も亦己と父と聖使等との威光を以て來らん時彼を愧づべし。 042 LUK 009 027 然れど我誠に汝等に告ぐ、此處に立てる者の中に、神の國を見るまで死を味ははざらん人々あり、と。 042 LUK 009 028 是等の御言の後八日ばかりを経て、イエズスペトロとヤコボとヨハネとを從へ、祈らんとて山に登り給ひしに、 042 LUK 009 029 祈り給ふ間に、御顔の容變り、衣服は白くなりて輝けり。 042 LUK 009 030 折しも二個の人ありてイエズスと共に語り居りしが、是モイゼとエリアとにして、 042 LUK 009 031 威光を帯びて現れつつ、イエズスが将にエルザレムに於て遂げんとし給ふ逝去の事を語り居れり。 042 LUK 009 032 ペトロ及び共に居る人々、耐へずして眠りたりしに、其覚むるや、イエズスの榮光と、共に立てる二人とを見たり。 042 LUK 009 033 然て其二人イエズスを離れければ、ペトロ言ふ所を知らずして、イエズスに云ひけるは、師よ、善哉我等が此處に居る事、我等三の廬を造り、一は汝の為、一はモイゼの為、一はエリアの為にせん、と。 042 LUK 009 034 斯く語り居る程に、一叢の雲起りて彼等を覆ひしかば、弟子等雲に入る時懼を懐けり。 042 LUK 009 035 斯て聲雲の中より響きて曰く、「是ぞ我愛子なる、之に聴け」と。 042 LUK 009 036 此聲の響ける時、唯イエズス獨のみ見え給ひしが、弟子等は黙して、其見たりし事を當時誰にも語らざりき。 042 LUK 009 037 翌日彼等山を下る時、群衆夥しく來迎へしが、 042 LUK 009 038 折しも一個の人、群衆の中より呼はりて云ひけるは、師よ、希くは我子を眷み給へ、其は我獨子なるものを、 042 LUK 009 039 あはれや惡鬼之に憑けば、俄に叫びて投倒し、且泡吹かせ抅攣させ、砕くるばかりにして漸くに立去る。 042 LUK 009 040 我汝の弟子等に、之を逐払ふ事を請ひしかど、能はざりき。 042 LUK 009 041 イエズス答えて曰ひけるは、吁嗟信仰なき邪の代なる哉、我何時まで汝等と共に居りて汝等を忍ばんや。其子を此處に連來れ、と。 042 LUK 009 042 斯て彼近づきけるに、惡魔之を倒して抅攣させしかば、 042 LUK 009 043 イエズス汚鬼を叱り、子を醫して其父に還し給へり。 042 LUK 009 044 是に於て人皆神の大能に驚き、イエズスの為し給へる凡ての事を感嘆しければ、イエズス弟子等に向ひ、汝等此言を耳に蔵めよ、蓋人の子は人々の手に付さるる事あらん、と曰ひしが、 042 LUK 009 045 彼等此言を解せず、而も彼等が暁らざらん為に、之に對して隠されしかば、此言に就きてイエズスに問ふ[事を畏れ居たり。 042 LUK 009 046 爰に、己等の孰が最大いなるか、との考彼等の中に起りしかば、 042 LUK 009 047 イエズス其心に慮る所を見貫き給ひ、一人の孩兒を取りて己が側に立たせ、 042 LUK 009 048 彼等に曰ひけるは、誰にてもあれ、我名の為に此孩兒を承くる人は、我を承くるなり、又我を承くる人は、我を遣はし給ひしものを承くるなり、即ち汝等一同の中に於て最小き者は、是最大いなる者なり、と。 042 LUK 009 049 ヨハネ答へて、師よ、汝の名を以て惡魔を逐払う者あるを見しが、我等と共に從はざる者なれば、我等之を禁じたり、と云ひければ、 042 LUK 009 050 イエズス之に曰ひけるは、禁ずること勿れ、汝等に反せざる人は汝等の為にする者なればなり、と。 042 LUK 009 051 第一項 旅行の始の事實 第三篇 イエズスエルザレムへの最後の旅行 イエズスが此世より取られ給ふべき日數満ちんとしければ、エルザレムに往くべく御顔を堅め、 042 LUK 009 052 先數人の使を遣はし給ひしかば、彼等往きてイエズスの為に準備せんとて、サマリアの或町に入りしかど、 042 LUK 009 053 イエズスの御顔エルザレムに向へるによりて、人々之を承けざりき。 042 LUK 009 054 然ればヤコボとヨハネと二人の弟子之を見て、主よ、我等今命じて天より火を下し、彼等を焼亡ぼさしめば如何に、と云ひければ、 042 LUK 009 055 イエズス顧みて、叱りて曰ひけるは、汝等は如何なる精神なるかを自ら知らざるなり、 042 LUK 009 056 人の子の來りしは、魂を亡ぼさん為に非ず、之を救はんが為なり、と。斯て一同他の村に往けり。 042 LUK 009 057 一行路を歩める時、或人イエズスに向ひ、何處にもあれ、往き給ふ處に我は從はん、と云ひしかば、 042 LUK 009 058 イエズス之に曰ひけるは、狐は穴あり、空の鳥は巣あり、然れど人の子は枕する處なし、と。 042 LUK 009 059 然るに又一人に向ひて、我に從へ、と曰ひしかば彼、主よ、先往きて父を葬る事を我に允し給へと云ひけるに、 042 LUK 009 060 イエズス曰ひけるは、死人をして其死人を葬らしめ、汝は往きて神の國を告げよ、と。 042 LUK 009 061 又一人が云ひけるは、主よ、我汝に從はん、然れど先我家に在る物を處置する事を允し給へ。 042 LUK 009 062 イエズス曰ひけるは、手を犂に着けて尚後を顧みる人は、神の國に適せざる者なり、と。 042 LUK 010 001 其後主又七十二人を指名して、己が至らんとする町々處々に、先二人づつ遣はさんとして、 042 LUK 010 002 曰ひけるは、収穫は多けれども働く者は少し、故に働く者を其収穫に遣はさん事を、収穫の主に願へ。 042 LUK 010 003 往け、我が汝等を遣はすは、羔を狼の中に入るるが如し、 042 LUK 010 004 汝等、財布、旅嚢、履を携ふること勿れ、途中にて誰にも挨拶を為すこと勿れ。 042 LUK 010 005 何れの家に入るも、先此家に平安あれかしと言へ、 042 LUK 010 006 若し其處に平安の子あらば、汝等の祈る平安は其上に留らん、然らずば汝等の身に歸らん。 042 LUK 010 007 同じ家に留りて、其内に在合はする物を飲食せよ、是働く者は其報を受くるに値すればなり。家より家に移ること勿れ、 042 LUK 010 008 又何れの町に入るとも、人々汝等を承けなば、汝等に供せらるる物を食し、 042 LUK 010 009 其處にある病人を醫し、人々に向ひて、神の國は汝等に近づけり、と言へ。 042 LUK 010 010 何れの町に入るとも、人々汝等を承けずば、其衢に出でて斯く云へ、 042 LUK 010 011 汝等の町にて我等に附きし塵までも、我等は汝等に向ひて払うぞ、然りながら神の國の近づきたるを知れ、と。 042 LUK 010 012 我汝等に告ぐ、彼日には、ソドマはかの町よりも恕さるる事あらん。 042 LUK 010 013 禍なる哉汝コロザイン、禍なる哉汝ベッサイダ、其は若汝等の中に行はれし奇蹟、チロとシドンとの中に行はれしならば、彼等は早く改心して、荒き毛衣を纏ひて灰に坐せしならん。 042 LUK 010 014 然れば審判に當りて、チロとシドンとは汝等よりも恕さるる事あらん。 042 LUK 010 015 又カファルナウムよ、汝も地獄にまで沈めらるべし、天にまでも上げられたるものを。 (Hadēs g86) 042 LUK 010 016 抑汝等に聴く人は我に聴き、汝等を軽んずる人は我を軽んじ、我を軽んずる人は我を遣はし給ひしものを軽んずるなり、と。 042 LUK 010 017 斯て七十二人、喜びつつ歸來り、主よ、汝の名に由りて、惡魔すらも我等に歸服す、と云ひしかば、 042 LUK 010 018 イエズス彼等に曰ひけるは、我サタンが電光の如く天より落つるを見つつありき。 042 LUK 010 019 看よ我汝等に、蛇、蠍、並に敵の一切の勢力を蹂躙るべき権能を授けたれば、汝等を害する者はあらじ、 042 LUK 010 020 然りながら、鬼神の汝等に服するを喜ぶこと勿れ、寧汝等の名の天に録されたるを喜べ、と。 042 LUK 010 021 其時イエズス、聖霊によりて喜悦して曰ひけるは、天地の主なる父よ、我汝を稱賛す、其は是等の事を學者、智者に隠して、小き人々に顕し給ひたればなり。然り父よ、斯の如きは御意に適ひし故なり。 042 LUK 010 022 一切の物は我父より我に賜はりたり、父の外に、子の誰なるかを知る者なく、子及び子が肯て示したらん者の外に、父の誰なるかを知る者なし、と。 042 LUK 010 023 斯て弟子等を顧みて曰ひけるは、汝等の見る所を視る目は福なる哉。 042 LUK 010 024 蓋我汝等に告ぐ、多くの預言者及び帝王は、汝等の視る所を視んと欲せしかど視ることを得ず、汝等の聞く所を聞かんと欲せしかど聞くことを得ざりき、と。 042 LUK 010 025 折しも一人の律法學士立上り、イエズスを試みんとして云ひけるは、師よ、我何を為してか永遠の生命を得べき。 (aiōnios g166) 042 LUK 010 026 イエズス之に曰ひけるは、律法に何と録したるぞ、汝其を何と読むぞ、と。 042 LUK 010 027 彼答へて、汝の心を盡し、魂を盡し、力を盡し、精神を盡して汝の神たる主を愛し、又汝の近き者を己の如く愛すべし、と云ひしに、 042 LUK 010 028 汝の答正し、之を行へ、然らば汝活くることを得ん、と曰へり。 042 LUK 010 029 然るに彼自ら弁ぜんと欲してイエズスに向ひ、我近き者とは誰ぞ、と云ひしかば、 042 LUK 010 030 イエズス答へて、或人エルザレムよりエリコに下る時、強盗の手に陥りしが、彼等之を剥ぎて傷を負はせ、半死半生にして棄去れり。 042 LUK 010 031 偶一人の司祭、同じ道を下れるに、之を見て過行き、 042 LUK 010 032 又一人のレヴィ人も、其所に來合せて之を見しかど、同じ様に過行けり。 042 LUK 010 033 然るに一人のサマリア人、旅路を辿りつつ彼の側に來りけるが、之を見て憐を催し、 042 LUK 010 034 近づきて油と葡萄酒とを注ぎ、其傷を繃帯して己が馬に乗せ、宿に伴ひて看護せり。 042 LUK 010 035 然て翌日デナリオ銀貨二枚を取り出して宿主に予へ、此人を看護せよ、此上に費したらん所は、我歸る時汝に償ふべし、と云へり。 042 LUK 010 036 此三人の中、彼強盗の手に陥りたる人に近かりしと汝に見ゆる者は孰ぞ、と曰ひけるに、 042 LUK 010 037 律法學士、彼人に憫を加へたる者是なり、と云ひしかばイエズス、汝も往きて斯の如くせよ、と曰へり。 042 LUK 010 038 斯て皆往きけるに、イエズス或村に入り給ひしを、マルタと名くる女自宅にて接待せり。 042 LUK 010 039 彼女にマリアと名くる姉妹ありて、是も主の足下に坐して御言を聴き居たるに、 042 LUK 010 040 マルタは饗應の忙しさに取紛れたりしが、立止りて云ひけるは、主よ、我姉妹の我一人を遺して饗應さしむるを意とし給はざるか、然れば命じて我を助けしめ給へ、と。 042 LUK 010 041 主答へて曰ひけるは、マルタマルタ、汝は様々の事に就きて思煩ひ心を騒がすれども、 042 LUK 010 042 必要なるは唯一、マリアは最良の部分を選めり、之を奪はるまじきなり、と。 042 LUK 011 001 斯てイエズス、或處にて祈り給へるに、其終り給ふや、弟子の一人云ひけるは、主よ、ヨハネも其弟子に教へし如く、我等に祈る事を教へ給へ、と。 042 LUK 011 002 イエズス彼等に曰ひけるは、汝等祈る時に斯く言へ、父よ、願はくは御名の聖とせられん事を、御國の來らん事を、 042 LUK 011 003 我等の日用の糧を、日々我等に與へ給へ、 042 LUK 011 004 我等も総て己に負債ある人を免すに由り、我等の罪を免し給へ、我等を試に引き給ふこと勿れ、と。 042 LUK 011 005 又曰ひけるは、汝等の中友を有てる者、夜中に其許に往き、友よ、我に三の麪を貸せ、 042 LUK 011 006 我一個の友人旅路を我許に來れるに、之に供すべき物なければ、と言はんに、 042 LUK 011 007 彼内より答へて、我を煩はすこと勿れ、戸は既に閉ぢ、我子等我と共に床に在れば、起きて汝に與ふることを得ず、と言ふ事あらんか、 042 LUK 011 008 然るを猶叩きて止まざる時は、我汝等に告ぐ、彼人假令己が友なればとては起きて與へざるも、其煩はしさの為に起きて、其の要する程の物を與ふるならん。 042 LUK 011 009 我も汝等に告ぐ、願へ、然らば與へられん、探せ、然らば見出さん、叩け、然らば[戸を]開かれん、 042 LUK 011 010 其は総て願ふ人は受け、探す人は見出し、叩く人は[戸を]開かるべければなり。 042 LUK 011 011 汝等の中誰か父に麪を乞はんに其父石を與へんや、或は魚を[乞はんに]其代に蛇を與へんや、 042 LUK 011 012 或は卵を乞はんに蠍を與へんや、 042 LUK 011 013 然れば汝等惡き者ながらも、善き賜を其子等に與ふるを知れば、况や天に在す汝等の父は、己に願ふ人々に善良なる霊を賜ふべきをや、と。 042 LUK 011 014 イエズス惡魔を逐出し給ふに、其人唖なりしが、既に惡魔を逐出し給ふや唖言ひしかば、群衆感嘆せり。 042 LUK 011 015 然れど其中の或人々は、彼が惡魔を逐出すは惡魔の長ベエルゼブブに依るなり、と謂ひ、 042 LUK 011 016 又他の人は、イエズスを試みんとて、天よりの徴を之に求め居たり。 042 LUK 011 017 イエズス其心を見抜きて彼等に曰ひけるは、総て自ら分れ争ふ國は亡び、[分れ争ふ]家と家とも亦倒るべし、 042 LUK 011 018 サタン若自ら分れ争はば、其國如何にしてか立つべき、蓋汝等は謂ふ、我ベエルゼブブに由りて惡魔を逐出すと。 042 LUK 011 019 我若ベエルゼブブに由りて惡魔を逐出すならば、汝等の子等は誰に由りて之を逐出すぞ、然らば彼等は汝等の審判者となるべし。 042 LUK 011 020 然れど我若神の指を以て惡魔を逐出すならば、神の國は眞に汝等に來れるなり。 042 LUK 011 021 強き者武装して其住所を守る時は、其有てる物安全なりと雖、 042 LUK 011 022 若彼より強き者襲來りて彼に勝たば、悉く其恃める武器を奪ひて、其捕獲物を分たん。 042 LUK 011 023 我と共に在らざる人は我に反し、我と共に集めざる人は散らすなり。 042 LUK 011 024 汚鬼人より出でし時、荒れたる處を巡りて安息を求むれども得ず、曰く、出でし我家に歸らん、と。 042 LUK 011 025 即ち來りて其家の掃清められ飾られたるを見るや、 042 LUK 011 026 往きて己よりも惡き七の惡鬼を携へ、共に入りて此處に住む、斯て其人の末は前よりも更に惡くなるなり、と。 042 LUK 011 027 此事等の事を曰へるに、或女群衆の中より聲を揚げて、福なる哉汝を孕しし胎よ、汝の吮ひし乳房よ、と云ひしかば、 042 LUK 011 028 イエズス曰ひけるは、寧ろ福なる哉、神の言を聴きて之を守る人々よ、と。 042 LUK 011 029 然て群衆馳集りければ、イエズス語出で給ひけるは、現代は邪惡の代にして、徴を求むれども、預言者ヨナの徴の外は徴を與へられじ、 042 LUK 011 030 即ちヨナがニニヴ人に徴となりし如く、人の子の現代に於るも亦然り。 042 LUK 011 031 南方の女王は、審判に當りて、現代の人と共に立ちて之を罪に定めん、彼は地の極より、サロモンの智恵を聴かんとて來りたればなり、看よ、サロモンに優れるもの茲に在り。 042 LUK 011 032 ニニヴ人は審判に當りて現代の人と共に立ちて之を罪に定めん、彼等はヨナの説教によりて改心したればなり、看よ、ヨナに優れるもの茲に在り。 042 LUK 011 033 燈を點して、隠れたる處又は桝の下に置く者はあらず、入來る人に明を見せん為に之を燭台の上に置く。 042 LUK 011 034 汝の身の燈は目なり、其目にして善くば、全身明かなるべく、若惡しくば其身も亦暗かるべし。 042 LUK 011 035 此故に、汝に在る明の闇にならざる様心せよ、 042 LUK 011 036 汝の全身明かにして闇の處なくば、全體明かにして輝ける燈に照らさるる如くならん、と[語り給へり]。 042 LUK 011 037 イエズス語り給へる中に、一人のファリザイ人、己が家にて食し給はんことを請ひしかば、入りて食に就き給ひしが、 042 LUK 011 038 イエズス食前に身を洗ひ給はざりしを、此人見て訝りければ、 042 LUK 011 039 主之に曰ひけるは、偖も汝等ファリザイ人は、杯と皿との外部を淨むれど、汝等の内部は盗と不義とに満てり。 042 LUK 011 040 愚なる者等よ、外部を造り給ひし者は、亦内部をも造り給ひしに非ずや。 042 LUK 011 041 然りながら餘れる物を施せ、然らば一切の物直に汝等の為に淨めらるべし。 042 LUK 011 042 然れど禍なる哉汝等ファリザイ人、其は薄荷、荃蓀、其他一切の野菜の十分の一を納むれど、義と神を愛する事とを措けばなり、是等を為してこそ彼等をも怠らざるべかりしなれ。 042 LUK 011 043 禍いなる哉汝等ファリザイ人、其は會堂にては上座を、衢にては敬禮を好めばなり。 042 LUK 011 044 禍なる哉汝等、蓋露れざる墓に似て、上を歩む人々之を知らざるなり、と。 042 LUK 011 045 律法學士の一人之に答へて、師よ、斯く言ひては、我等にも侮辱を加ふるなり、と云ひしかば、 042 LUK 011 046 イエズス曰ひけるは、汝等も禍なる哉律法學士、其は人々には擔ひ得ざる荷を負はすれど、自らは指一だも其荷に觸れざればなり。 042 LUK 011 047 禍なる哉汝等、預言者等の墓標を建つる者、之を殺ししは汝等の先祖にして、 042 LUK 011 048 汝等自ら其先祖の所為に同意する事を證す、其は彼等之を殺したるに汝等其墓を建つればなり。 042 LUK 011 049 是によりて亦神の智恵曰はく、「我彼等に預言者及び使徒等を遣はさんに、彼等は其中の者を殺し、又は迫害せん」と。 042 LUK 011 050 然れば世界開闢以來、流されたる凡ての預言者の血、 042 LUK 011 051 即ちアベルの血より祭壇と神殿との間に倒れしザカリアの血に至るまで、現代は其罪を問はれん、我誠に汝等に告ぐ、現代は斯の如く罪を問はるべし。 042 LUK 011 052 禍いなる哉汝等律法學士、其は知識の鍵を奪取りて、自らも入らず、入らんとする人々をも拒みたればなり、と。 042 LUK 011 053 是等の事を曰ふ中に、ファリザイ人、律法學士等甚しく憤出でて、様々の事を以て閉口せしめんとし、 042 LUK 011 054 イエズスを訟へんとして陰謀を廻らし、其口より何事をか捉へんとせり。 042 LUK 012 001 其時夥しき群衆、周圍に立ち居て踏合ふ計なるに、イエズス弟子等に語出で給ひけるは、ファリザイ人等の麪酵に用心せよ、是僞善なり。 042 LUK 012 002 蔽はれたる事に顕れざるべきはなく、隠れたる事に知れざるべきはなし、 042 LUK 012 003 其は汝等の暗黒にて言ひし事は光明に言はれ、室内にて囁きし事は屋根にて宣べらるべければなり。 042 LUK 012 004 然れば我わが友たる汝等に告ぐ、肉體を殺して其後に何をも為し得ざる者を懼るること勿れ。 042 LUK 012 005 爰に汝等の懼るべき者を示さん、即ち殺したる後地獄に投入るる権能ある者を懼れよ、然り、我汝等に告ぐ、之を懼れよ。 (Geenna g1067) 042 LUK 012 006 五羽の雀は四銭にて売るに非ずや、然るに其一羽も、神の御前に忘れらるる事なし。 042 LUK 012 007 汝等の髪毛すら皆算へられたり、故に懼るること勿れ、汝等は多くの雀に優れり。 042 LUK 012 008 我汝等に告ぐ、総て人々の前にて我を宣言する者は、人の子も亦神の使等の前にて之を宣言せん。 042 LUK 012 009 然れど人々の前にて我を否む者は、神の使等の前にて否まるべし。 042 LUK 012 010 又総て人の子を譏る人は赦されん、然れど聖霊に對して冒涜したる人は赦されじ。 042 LUK 012 011 人々汝等を會堂に、或は官吏、権力者の前に引かん時、如何に又は何を答へ、又は何を言はんかと思煩ふこと勿れ、 042 LUK 012 012 言ふべき事は、其時に當りて、聖霊汝等に教へ給ふべければなり、と。 042 LUK 012 013 斯て群衆の中より、或人イエズスに向ひ、師よ、我兄弟に命じて、家督を我と共に分たしめ給へ、と云ひしかば、 042 LUK 012 014 イエズス之に曰ひけるは、人よ、汝等の上の判事又は分配者として、誰か我を定めしぞ、と。 042 LUK 012 015 斯て人々に曰ひけるは、慎みて凡ての貪欲に用心せよ、其は人の生命は所有物の豊なるに因らざればなり、と。 042 LUK 012 016 又彼等に喩を語りて曰ひけるは、或富者の畑豊かに實りければ、 042 LUK 012 017 其人心の中に考へけるは、我産物を積むべき處なきを如何にせんと。 042 LUK 012 018 遂に謂へらく、我は斯為べし、即ち我倉を毀ち、更に大いなる物を建てて、其處に我産物と財貨とを積まん、 042 LUK 012 019 而して我魂に向ひ、魂よ、多年の用意に蓄へたる財産數多あれば、心を安んじ、飲食して樂しめ、と言はん、と。 042 LUK 012 020 然れど神は彼に曰はく、愚者よ、汝の魂は今夜呼還されんとす、然らば備へたる物は誰が物と為るべきぞ、と。 042 LUK 012 021 己の為に寳を積みて、神の御前に富まざる人は斯の如き者なり、と。 042 LUK 012 022 又弟子等に曰ひけるは、然れば我汝等に告ぐ、生命の為に何をか食ひ身の為に何をか着ん、と思煩ふこと勿れ、 042 LUK 012 023 生命は食物に優り、身は衣服に優れり。 042 LUK 012 024 烏を鑑みよ、播く事なく刈る事なく、倉をも納屋をも有たざれども、神は之を養ひ給ふなり、汝等烏に優ること幾何ぞや。 042 LUK 012 025 汝等の中誰か工夫して己が寿命に一肘だも加ふることを得んや、 042 LUK 012 026 然れば斯く最小き事すらも能はざるに、何ぞ其他の事を思煩ふや。 042 LUK 012 027 百合の如何に長つかを鑑みよ。働く事なく紡ぐ事なし、然れども我汝等に言う、サロモンだも其榮華の極に於て、彼百合の一ほどに粧はざりき。 042 LUK 012 028 今日野に在りて明日炉に投入れらるる草をさへ、神は斯く粧はせ給へば、况や汝等をや、信仰薄き者等哉。 042 LUK 012 029 汝等も、何をか食ひ何をか飲まんと求むること勿れ、又大望を起すこと勿れ、 042 LUK 012 030 蓋世の異邦人は、此一切の物を求むれども、汝等の父は汝等の之を要することを知り給へばなり。 042 LUK 012 031 然れば先神の國と、其義とを求めよ、然らば此一切の物は汝等に加へらるべし。 042 LUK 012 032 小き群よ、懼るること勿れ、汝等に國を賜ふ事は、汝等の父の御意に適ひたればなり。 042 LUK 012 033 汝等の所有物を売りて施を行へ、己の為に古びざる金嚢を造り、匱きざる寳を天に蓄へよ、彼處には盗人も近づかず、蠹も壊はざるなり。 042 LUK 012 034 是汝等の寳の在る處には、心も亦在るべければなり。 042 LUK 012 035 汝等腰に帯して手に燈あるべし。 042 LUK 012 036 又恰も、主人婚莚より還來りて門を叩かば直に開かん、と待受くる人の如くに為よ。 042 LUK 012 037 主人の來る時に醒めたるを見らるる僕等は福なり、我誠に汝等に告ぐ、主人自ら帯して此僕等を食に就かせ、通ひて彼等に給仕せん。 042 LUK 012 038 主人十二時までに來るも三時までに來るも、僕等の斯の如きを見ば、彼等は福なり。 042 LUK 012 039 汝等知るべし、家父若盗人の來るべき時を知らば必ず警戒して其家を穿たしめじ。 042 LUK 012 040 汝等も亦用意してあれ、人の子は汝等の思はざる時に來るべければなり、と。 042 LUK 012 041 ペトロ、イエズスに向ひ、主よ、此喩を曰ふは、我等の為にか、凡ての人の為にもか、と云ひしかば、 042 LUK 012 042 主曰ひけるは、時に應じて家族に麦を程よく分與へしめんとて、戸主が其家族の上に立つる、忠義にして敏き執事は誰なるか、 042 LUK 012 043 主人の來る時に斯く行へるを見らるる僕は福なり。 042 LUK 012 044 我誠に汝等に告ぐ、主人は己が有てる一切の物を之に掌らしめん。 042 LUK 012 045 もし彼僕心の中に、我主人の來る事遅しと謂ひて、下男、下女を打擲き、飲食して酔始めんか、 042 LUK 012 046 期せざる日、知らざる時に、彼僕の主人來りて之を罰し、其報を不忠者と同じくせん。 042 LUK 012 047 又其主人の意を知りて用意せず、主人の意に從ひて行はざる僕は、鞭たるる事多からん。 042 LUK 012 048 然れども、知らずして鞭たるべき事を為したる者は、打たるる事少かるべし、総て多く與へられたる人は多く求められ、委托したる事多ければ催促する事も多かるべし。 042 LUK 012 049 我は地上に火を放たんとて來れり、其燃ゆる外には何をか望まん。 042 LUK 012 050 然るに我には我が受くべき洗禮あり、其が為遂げらるるまで、我が思逼れる事如何許ぞや。 042 LUK 012 051 汝等は、我地上に平和を持來れりと思ふか、我汝等に告ぐ、否却つて分離なり。 042 LUK 012 052 蓋今より後、一家に五人あらば、三人は二人に、二人は三人に對して分れん、 042 LUK 012 053 即ち父は子に、子は父に、母は女に、女は母に、姑は嫁に、嫁は姑に對して分るる事あらん、と。 042 LUK 012 054 イエズス又群衆に曰ひけるは、汝等西より雲起るを見れば直に雨來らんと謂ふ、既にして果して然り。 042 LUK 012 055 又南風吹くを見れば暑くなるべしと謂ふ、既にして果して然り。 042 LUK 012 056 僞善者よ、汝等は天地の有様を見分くる事を知れるに、如何ぞ今の時を見分けざる、 042 LUK 012 057 如何ぞ義しき事を自ら見定めざる。 042 LUK 012 058 汝等敵手と共に官吏の許に往く時、途中にて彼に赦されん事を力めよ。恐らくは汝を判事の許に引き、判事は下役に付し、下役は監獄に入れん、 042 LUK 012 059 我汝に告ぐ、最終の一厘までも還さざる中は、汝其處を出でざるべし、と。 042 LUK 013 001 恰も其時人ありて、ピラトが數人のガリレア人の血を彼等の犠牲に混へし事を告げしかば、 042 LUK 013 002 イエズス答へて曰ひけるは、汝等は、彼ガリレア人が斯る目に遇ひたればとて、凡てのガリレア人に優りて罪深かりしと思ふか。 042 LUK 013 003 我汝等に告ぐ、然らず、然れど改心せずば、汝等も皆同じく亡ぶべし。 042 LUK 013 004 又シロエに於て倒れたる塔の為に壓殺されし彼十八人も、エルザレムに住める凡ての人に優りて負債ありしと思ふか。 042 LUK 013 005 我汝等に告ぐ、然らず、然れど若改心せずば汝等も皆同じく亡ぶべし、と。 042 LUK 013 006 イエズス又喩を語り給ひけるは、或人其葡萄畑に無花果樹を植ゑたりしが、來りて其果を求めたれど得ざりしかば、 042 LUK 013 007 葡萄畑の小作人に云ひけるは、我來りて此無花果樹に果を求むれど得ざる事已に三年なり、然れば之を伐倒せ、何ぞ徒に地を塞ぐや、と。 042 LUK 013 008 小作人答へて、主よ、今年も之を容し給へ。我其周圍を堀りて肥料を施しなば、 042 LUK 013 009 或は果を結ぶ事もあらん、若し無くば其後伐倒し給ふべし、と云へり、と。 042 LUK 013 010 安息日に當りて、イエズス彼等の會堂にて教へ給ひけるに、 042 LUK 013 011 折しも十八年以來癈疾の鬼に憑かれ、屈まりて少しも仰ぎ見ること能はざる女あり。 042 LUK 013 012 イエズス見て之を呼近づけ給ひ、女よ、汝は其癈疾より救はれたるぞ、と曰ひて之に按手し給ひしかば、 042 LUK 013 013 女直に伸びて神に光榮を歸し居たり。 042 LUK 013 014 然るに會堂の司、イエズスの安息日に醫し給ひしを憤り、答へて群衆に向ひ、働くべき日六日あり、然れば其間に來りて醫されよ、安息日には為すべからず、と云ひければ、 042 LUK 013 015 主答へて曰ひけるは、僞善者等よ、汝等各安息日に當りて、己が牛或は驢馬を、芻槽より解放ちて、水飼ひに牽行くに非ずや。 042 LUK 013 016 然るを此十八年間サタンに繋がれたる、アブラハムの女は、其繋を安息日に解かるべからざりしか、と。 042 LUK 013 017 イエズス此事等を曰ひけるに、反對せる者等皆赤面し、人民挙りて、イエズスの手に成さるる光榮ある凡ての事を喜び居たり。 042 LUK 013 018 乃ち曰ひけるは、神の國は何にか似たる、我之を何にか擬へん、 042 LUK 013 019 恰も一粒の芥種の如し、人之を取りて其畑に播きたれば、長ちて大木と成り、空の鳥其枝に息めり、と。 042 LUK 013 020 又曰ひけるは、我神の國を何にか擬へん、 042 LUK 013 021 恰も麪酵の如し、女之を取りて三斗の粉の中に蔵せば、終に悉く膨るるに至る、と。 042 LUK 013 022 第二項 旅行中の他の事實 斯てイエズス、町村を教へつつ過ぎてエルザレムへ旅し給ふに、 042 LUK 013 023 或人、主よ、救はるる者は少きか、と云ひしかば、人々に曰ひけるは、 042 LUK 013 024 狭き門より入る事を努めよ、蓋我汝等に告ぐ、多くの人入る事を求むべけれども、而も能はざるべし。 042 LUK 013 025 家父既に入りて門を閉ぢたらん時には、汝等外に立ちて、主よ、我等に開き給へ、と云ひつつ門を叩き始むべけれど、彼答へて、我汝等が何處の者なるかを知らず、と云はん。 042 LUK 013 026 汝等其時、我等は汝の御前にて飲食し、汝は我等の衢にて教へ給ひしなり、と云はんとすべし。 042 LUK 013 027 然れども彼汝等に向ひ、我汝等が何處の者なるかを知らず、惡を為す輩よ、悉く我より去れ、と云はん。 042 LUK 013 028 斯て汝等、アブラハム、イザアク、ヤコブ及び一切の預言者は神の國に在りながら、己等のみ逐出さるるを見ば、其處に痛哭と切歯とあらん。 042 LUK 013 029 又東西南北より來りて、神の國の席に着く人々あらん。 042 LUK 013 030 斯て看よ、後なる人は先になり、先なる人は後にならん、と。 042 LUK 013 031 同じ日に、ファリザイ人數人近づきてイエズスに向ひ、ヘロデ汝を殺さんとす、出でて此處を去れ、と云ひしかば、 042 LUK 013 032 彼等に向ひて曰ひけるは、往きて彼狐に告げよ、看よ、今日も明日も、我惡魔を逐払ひ、人々を醫し、而して三日目に我事畢るべし、 042 LUK 013 033 然れども、今日も明日も其次の日も、我は歩まざる可らず、其はエルザレムの外に斃るるは、預言者たる者に取りて相應しからざればなり、と。 042 LUK 013 034 エルザレムよ、エルザレムよ、預言者等を殺し、汝に遣はされたる人々に石を擲つ者よ、恰も鳥が巣雛を翼の下に[集むる]如く、我が汝の子等を集めんとせし事幾度ぞや、然れど汝之を肯ぜざりき。 042 LUK 013 035 看よ、汝等の家は荒廃れて汝等に遺らん、我汝等に告ぐ、主の御名によりて來るもの祝せられよかし、と汝等の唱へん時至るまで、汝等我を見る事なかるべし、と。 042 LUK 014 001 イエズス安息日に麪を食せんとて、ファリザイ人の長だちたる或者の家に入り給ひしかば、彼等之を窺ひ居たり、 042 LUK 014 002 折しも水腫に罹れる人御前に居りければ、 042 LUK 014 003 イエズス答へて律法學士とファリザイ人とに向ひ、安息日に醫すは可きか、と曰ひしに、 042 LUK 014 004 彼等黙然たりしかば、イエズス彼を執へて醫し、さて之を去らしめて、 042 LUK 014 005 彼等に答へて曰ひけるは、汝等の中己が驢馬或は牛の井に陥ちたるものあらんに、安息日なりとも、誰か速に之を引上げざらんや、と。 042 LUK 014 006 彼等は之に對して、答ふること能はざりき。 042 LUK 014 007 又招かれたる人々の上席を擇む状態を見て、彼等に喩を語りて曰ひけるは、 042 LUK 014 008 汝婚莚に招かれたる時、上席に着くこと勿れ、恐らくは汝よりも尊き人の招かれたらんに、 042 LUK 014 009 汝と彼とを招きたる人來りて汝に向ひ、請ふ此客に席を譲れと云はん、然らば汝赤面して末席に着くに至るべし。 042 LUK 014 010 然れば招かれたる時、往きて末席に着け、然らば招きたる人來りて、友よ上に進めと云はん。斯て汝、列席せる人々の前に面目あるべし。 042 LUK 014 011 蓋総て自ら驕る人は下げられ、自ら遜る人は上げらるべし、と。 042 LUK 014 012 イエズス又己を招きたる人に曰ひけるは、汝午餐又は晩餐を設くる時、朋友、兄弟、親族、富める隣人を招くこと勿れ、恐らくは彼等も亦汝を招きて汝に報とならん。 042 LUK 014 013 さて饗筵を設けば、貧窮、廃疾、跛、瞽なる人を招け、 042 LUK 014 014 彼等は汝に報ゆべき由なくして、汝福なるべし。其は義人の復活の時に報いらるべければなり、と。 042 LUK 014 015 列席者の一人、之を聞きてイエズスに云ひけるは、神の國にて麪を食せん人は福なる哉、と。 042 LUK 014 016 イエズス之に曰ひけるは、或人大いなる晩餐を設けて、多くの人を招待せしが、 042 LUK 014 017 晩餐の時刻に至りて僕を遣はし、最早萬事整ひたれば來られよ、と招かれたる人々に云はしめしに、 042 LUK 014 018 彼等皆一同に辞り出でたり。初の者は、我小作場を買ひたれば往きて見ざるべからず、請ふ我を容せ、と云ひ、 042 LUK 014 019 次の者は、我五軛の牛を買ひたれば往きて試みんとす、請ふ我を容せ、と云ひ、 042 LUK 014 020 又一人は、我妻を娶りたるが故に往くこと能はず、と云ひしかば、 042 LUK 014 021 僕歸りて其次第を主人に告げしに、家父怒りて僕に云ひけるは、速に町の衢と辻とに往きて、貧窮、廃疾、瞽、跛なる人々を此處に伴ひ來れ、と。 042 LUK 014 022 僕軈て、主よ命じ給ひし如くに為しかど尚空席あり、と云ひしかば、 042 LUK 014 023 其時主人僕に云ひけるは、汝道及籬の下に往き、人を強ひて、我家に盈つるまで入らしめよ、と。 042 LUK 014 024 我汝等に告ぐ、彼招かれたる者の中、一人も我晩餐を味はじ、と。 042 LUK 014 025 群衆夥しくイエズスに伴ひければ、顧みて曰ひけるは、人我に來りて、 042 LUK 014 026 其父母、妻子、兄弟、姉妹、己が生命までも憎むに非ざれば、我弟子たること能はず、 042 LUK 014 027 又己が十字架を擔ひて我に從はざる人は、我弟子たること能はず。 042 LUK 014 028 汝等の中誰か、塔を建てんと欲して、先坐して之に要する費用を測り、有てる物の之を成就するに足れりや否やを計へざらんや、 042 LUK 014 029 若礎を定めたる後成就すること能はずば、見る者之を嘲り出でて、 042 LUK 014 030 此人は建て始めて成就すること能はざりき、と云はん。 042 LUK 014 031 又如何なる王か、出でて他の王と戰を交へんとするに當り、先坐して、二萬を率ゐ來る者に、能く我一萬を以て對ふことを得べきか、と、慮らざらんや、 042 LUK 014 032 若得べからずば敵の尚遠き間に、使節を遣はして講和を求むべし。 042 LUK 014 033 之と齊しく汝等の中、其有てる物を悉く見限らざる者は、誰にてもあれ我弟子たること能はず。 042 LUK 014 034 塩は善き物なり、然れど塩若其味を失はば、何を以てか之に塩せん、 042 LUK 014 035 土地にも肥料にも益なくして、外に棄てられんのみ、聞く耳を有てる人は聞け、と。 042 LUK 015 001 時に税吏、罪人等、イエズスに聴かんとて近づきければ、 042 LUK 015 002 ファリザイ人、律法學士等呟きて、此人は罪人を接けて共に食するよ、と云ひ居たりしかば、 042 LUK 015 003 イエズス彼等に喩を語りて曰ひけるは、 042 LUK 015 004 汝等の中誰か、百頭の羊ありて其一頭を失ひたらんに、九十九頭を野に舍きて其失せたるものを見出すまで尋ねざらんや。 042 LUK 015 005 然て之を見出さば、喜びて己が肩に乗せ、 042 LUK 015 006 家に歸りて朋友隣人を呼集め、我失せたりし羊を見出したれば我と共に喜べ、と云はん、 042 LUK 015 007 我汝等に告ぐ、斯の如く、改心する一個の罪人の為には、改心を要せざる九十九の義人の為よりも、天に於て喜あるべし。 042 LUK 015 008 又如何なる女か、ダラクマ十枚ありて其一枚を失ひたらんに、燈を點し、家を掃きて見出すまで能く探さざらんや。 042 LUK 015 009 然て見出さば、己の朋友隣人を呼集めて、我が失ひたりしダラクマを見出したれば我と共に喜べ、と云はん。 042 LUK 015 010 我汝等に告ぐ、斯の如く、改心する一個の罪人の為には、神の使等の前に喜びあるべし、と。 042 LUK 015 011 又曰ひけるは、或人二人の子ありしが、 042 LUK 015 012 次男なるもの父に向ひ、父よ、我に充てらるべき分の財産を我に賜へ、と云ひしかば、父は子等に財産を分てり。 042 LUK 015 013 然て幾日も経ざるに、次男は一切を掻集めて遠國へ出立し、彼處にて放蕩なる生活に財産を浪費せり。 042 LUK 015 014 既に一切を費して後、彼地方に大飢饉起りしかば、彼も漸く乏しくなり、 042 LUK 015 015 其地方の或人の許に至りて之に縋りしに、其人之を己が小作場に遣りて豚を牧はせたり。 042 LUK 015 016 斯て豚の食ふ豆莢もて己が腹を充たさん事を望み居たりしかど、之を與ふる者なかりき。 042 LUK 015 017 軈て自省みて云ひけるは、我父の家には麪に餍ける傭人幾許かあるに、我は此處にて飢死なんとす。 042 LUK 015 018 起ちて我父の許に至り、父よ、我は天に對しても汝の前にも罪を犯せり、 042 LUK 015 019 我は最早汝の子と呼ばるるに足らず、願はくは我を汝の傭人の一人と視做し給へ、と云はん、と。 042 LUK 015 020 即ち起ちて父の許を指して行きしが、未だ程遠かりけるに、父は之を見て憫を感じ、趨往きて其頚を抱き、之に接吻せり。 042 LUK 015 021 子は、父よ、我は天に對しても汝の前にも罪を犯せり、我は最早汝の子と呼ばるるに足らず、と云ひしかど、 042 LUK 015 022 父は僕等に向ひ、疾く最上の服を取來りて之に着せ、其手に指輪を嵌め、足に履を穿かせよ、 042 LUK 015 023 又肥えたる犢を牽來りて屠れ、我等會食して樂しまん、 042 LUK 015 024 其は此我子死したるに蘇り、失せたるに見出されたればなり、と云ひて宴を開けり。 042 LUK 015 025 然るに長男は畑に居たりしが、歸來りて家に近づく時、奏樂舞踏の物音聞えしかば、 042 LUK 015 026 僕の一人を呼びて、是は何事ぞと問ひしに、 042 LUK 015 027 僕云ひけるは、汝の弟來れり、之を恙なく迎へたるにより、汝の父肥えたる犢を屠りたるなり、と。 042 LUK 015 028 長男憤りて家に入る事を肯ぜざりしかば、父出でて懇に請出でけるに、 042 LUK 015 029 彼答へて云ひけるは、看よ、我は多年汝に事へ、未曾て汝の命に背きし事なきに、一疋の小山羊だも、朋友と共に會食せん為に、汝より與へられし事なし、 042 LUK 015 030 然るを娼妓等と共に財産を食盡したる、彼汝の子來るや、汝は之が為に肥えたる犢を屠れり、と。 042 LUK 015 031 父之に謂ひけるは、子よ、汝は恒に我と共に居りて、我物は皆汝の物なり、 042 LUK 015 032 然れども汝の弟は、死したるに蘇り、失せたるに見出されたれば、我等愉快を盡して喜ばざるを得ざりしなり、と。 042 LUK 016 001 イエズス又弟子等に曰ひけるは、或富豪に一人の家令ありしが、主人の財産を浪費せりとて、訟出でられしかば、 042 LUK 016 002 主人彼を召び、我が汝に就きて聞く所は是何事ぞや、汝最早家令たるを得ざれば、家令たりし時の會計を差出せ、と云ひしに、 042 LUK 016 003 家令心の中に謂ひけるは、我主人家令の職を我より褫へる上は、我何を為すべきぞ、耕す事は叶はず、乞食するは羞し、 042 LUK 016 004 家令を罷められたる後、人々の家に承けられん為には、為すべき様こそあれ、とて、 042 LUK 016 005 主人に負債ある人々を呼集めて、初の一人に云ひけるは、我主人に對する汝の負債は幾許ぞ、と。 042 LUK 016 006 彼、油百樽なり、と云ひしに、家令云ひけるは、汝の證書を取り、早く坐して五十と書け、と。 042 LUK 016 007 又次の者に云ひけるは、汝の負債は幾許ぞと、彼、麦百石なりと云ひしに、家令云ひけるは、汝の證書を取りて八十と書け、と。 042 LUK 016 008 然るに主人、此不正なる家令を誉めて、其手段を巧なりとせり。蓋此世の子等は互に光の子等よりも巧なればなり。 (aiōn g165) 042 LUK 016 009 我も亦汝等に告ぐ、汝等不正の富を以て友人を作り、息絶えし後、汝等に永遠の住處に承入れしむべく為よ。 (aiōnios g166) 042 LUK 016 010 抑小事に忠なる人は大事にも亦忠なり、小事に不正なる人は大事にも亦不正なり。 042 LUK 016 011 然れば汝等若し不正の富に於て忠ならざりせば、誰か眞の富を汝等に托せん。 042 LUK 016 012 又他人の物に於て忠ならざりせば、誰か汝等の物を汝等に與へん。 042 LUK 016 013 一人の僕は二人の主に兼事ふること能はず、或は一人を憎みて一人を愛し、或は一人に從ひて一人を疎むべければなり。汝等は神と富とに兼事ふること能はず、[と宣へり]。 042 LUK 016 014 然るに貪欲なるファリザイ人等、此始終の事を聞きて嘲りければ、 042 LUK 016 015 イエズス彼等に曰ひけるは、汝等は人の前に自ら義とする者なり、然れど神は汝等の心を知り給ふ、蓋人に取りて高き者は、神の御前に憎むべき者なり。 042 LUK 016 016 律法と預言者等とはヨハネを限とす、其時より神の國は宣傳へられ、人皆力を盡して之に到らんとす。 042 LUK 016 017 天地の廃るは、律法の一画の墜つるよりは易し。 042 LUK 016 018 総て妻を出して他に娶る人は姦淫を行ふ者なり、又夫より出されたる婦を娶る人は姦淫を行ふ者なり。 042 LUK 016 019 曾て一人の富豪あり、緋色の布と亜麻布とを纏ひ、日々奢り暮らしたるに、 042 LUK 016 020 又ラザルと云へる一人の乞食あり、全身腫縻れて富豪の門前に偃し、 042 LUK 016 021 其食卓より落つる屑に飽足らん事を欲すれども與ふる人なく、而も犬等來りて其腫物を舐り居たり。 042 LUK 016 022 然るに乞食死にければ、天使に携へられてアブラハムの懐に至りたるに、富豪も亦死して地獄に葬られしが、 (Hadēs g86) 042 LUK 016 023 苦痛の中に在りて、目を翹げて、遥にアブラハムと其懐なるラザルとを見、 042 LUK 016 024 叫びて云ひけるは、父アブラハムよ、我を憫みてラザルを遣はし、其指先を水に浸して我舌を冷させ給へ、我は此焔の中に甚く苦しめるを、と。 042 LUK 016 025 アブラハム之に云ひけるは、子よ、汝が存命の間善き物を受け、ラザルが同じ間に惡き物を受けしを記憶せよ、然ればこそ今彼は慰められて汝は苦しむなれ。 042 LUK 016 026 加之、我等と汝等との間には大いなる淵の定置かれたれば、此處より汝等の處へ渡らんと欲するも叶はず、其處より此處に移る事も叶はざるなり、と。 042 LUK 016 027 富豪又云ひけるは、然らば父よ、希はくはラザルを我父の家に遣はし、 042 LUK 016 028 我に兄弟五人あれば、彼等も亦此苦悩の處に來らざる様、之に證明せしめ給へ、と。 042 LUK 016 029 アブラハム之に云ひけるは、モイゼと預言者等とあれば、彼等は之に聴くべきなり、と。 042 LUK 016 030 富豪、否父アブラハムよ、然れど若死者の中より至る者あらば、彼等改心すべし、と云ひければ、 042 LUK 016 031 アブラハム之に向ひて、若モイゼと預言者等とに聴かざる彼等ならば、假令死者の中より復活すとも信ぜざるべし、と云へり、と。 042 LUK 017 001 イエズス弟子等に曰ひけるは、躓きは來らざるを得ず、然れど之を來す人は禍なる哉、 042 LUK 017 002 石磨を頚に懸けられて海に投入れらるるは、此小き者の一人を躓かするよりは、寧彼に取りて優れり。 042 LUK 017 003 汝等自ら注意せよ。若汝の兄弟汝に罪を犯さば之を諌めよ、而して若改心せば之を宥せ、 042 LUK 017 004 一日に七度汝に罪を犯して、一日に七度改心すと云ひつつ汝に立ち返らば之を宥せ、と。 042 LUK 017 005 使徒等、願くは我等の信仰を増し給へ、と主に云ひしかば、 042 LUK 017 006 主曰ひけるは、汝等若芥一粒程の信仰だにあらば、此桑の樹に向ひて、抜けて海に移り樹て、と云はんに、必ず汝等に順はん。 042 LUK 017 007 汝等の中誰か、僕の耕し或は牧して畑より還れる時、之に向ひて、直に往きて食せよ、と云ふ者あらんや。 042 LUK 017 008 却て我夕餉を支度し、我が飲食する中、帯して我に給仕せよ、さて後に汝飲食すべしと言ふに非ずや。 042 LUK 017 009 命ぜし事を為したればとて、主人は彼僕に感謝するか、 042 LUK 017 010 我思ふに然らず。斯の如く、汝等も命ぜられし事を悉く為したらん時、我等は無益の僕なり、為すべき事を為したる耳と言へ、と。 042 LUK 017 011 第三項 旅行の終 イエズスエルザレムへ赴き給ふとて、サマリアとガリレアとの中程を通り給ひしが、 042 LUK 017 012 或村に入り給ふ時、十人の癩病者之を迎へて、遥に立止り、 042 LUK 017 013 聲を揚げて云ひけるは、師イエズスよ、我等を憫み給へ、と。 042 LUK 017 014 イエズス之を見給ふや、汝等往きて己を司祭等に見せよ、と曰ひしかば、彼等往く程に、途中にて潔くなれり。 042 LUK 017 015 其中の一人己の潔くなりたるを見るや、聲高く神に光榮を歸しつつ還來り、 042 LUK 017 016 イエズスの足下に平伏して感謝せしが、是サマリア人なりき。 042 LUK 017 017 イエズス答へて曰ひけるは、潔くなりし者は十人に非ずや、其九人は何處にか居る、 042 LUK 017 018 此異邦人の外は、立還りて神に光榮を歸し奉れる者見えざるなり、と。 042 LUK 017 019 即ち之に曰ひけるは、立ちて往け、蓋汝の信仰汝を救へり、と。 042 LUK 017 020 神の國は何時來るべきかと、ファリザイ人に問はれし時、イエズス答へて曰ひけるは、神の國は目に見えて來るものに非ず、 042 LUK 017 021 又、看よ、此處に在り彼處にありと云ふべきにも非ず、神の國は即ち汝等の中に在ればなり、と。 042 LUK 017 022 又弟子等に曰ひけるは、汝等が人の子の一日を見んと欲する日來らん、然れど之を見ざるべし。 042 LUK 017 023 又人は、看よ此處に在り彼處に在り、と云はんも、往くこと勿れ、從ふこと勿れ、 042 LUK 017 024 其は電光の閃きて空の極より極に光る如く、人の子も其日に當りて然あるべければなり。 042 LUK 017 025 然れど豫め多くの苦を受け、且此時代の人に棄てられざるべからず。 042 LUK 017 026 ノエの日に起りし如く、人の子の日にも亦然あらん、 042 LUK 017 027 即ちノエが方舟に入る日まで、人々飲食し、妻を娶り、娶せられ居りしが、洪水來りて悉く彼等を亡ぼせり。 042 LUK 017 028 又ロトの日に起りし如くならん、即ち人々飲食し、売買し、植ゑ、建てなど為し居りしが、 042 LUK 017 029 ロトがソドマより出でし日には、天より火と硫黄と降りて、彼等を悉く亡ぼせり。 042 LUK 017 030 人の子の現るべき日にも亦斯の如くなるべし。 042 LUK 017 031 其時人屋根に居りて器具家の内に在らば、之を取らんとて下るべからず、畑に居る人も亦同じく歸るべからず。 042 LUK 017 032 ロトの妻の事を憶へ。 042 LUK 017 033 総て己が生命を救はんと欲する人は之を失ひ、失はん人は之を保たん。 042 LUK 017 034 我汝等に告ぐ、彼夜には二人一個の寝牀に居らんに、一人は取られ一人は遺されん、 042 LUK 017 035 二人の婦共に磨挽き居らんに、一人は取られ一人は遺されん、二人の男畑に居らんに、一人は取られ一人は遺されん、と。 042 LUK 017 036 弟子等答へて、主よ、何處ぞ、と云ひしかば、 042 LUK 017 037 何處にもあれ、屍の在らん處に鷲も亦集るべし、と曰へり。 042 LUK 018 001 イエズス又、人常に祈りて倦まざるべしとて、彼等に喩を語りて曰ひけるは、 042 LUK 018 002 或町に神をも畏れず人をも顧みざる一人の判事ありしが、 042 LUK 018 003 又其町に一人の寡婦ありて、彼に詣り、我に仇する人を處分し給へ、と云ひ居たりしを、 042 LUK 018 004 彼久しく肯ぜざりしかど、其後心の中に謂へらく、我は神をも畏れず人をも顧みざれど、 042 LUK 018 005 彼寡婦の我に煩はしければ、之が為に處分せん、然せずば、最後には來りて我を打たん、と。 042 LUK 018 006 主又曰ひけるは、汝等彼不義なる判事の謂へる事を聞け。 042 LUK 018 007 神は何為ぞ、其選み給へる人々の晝夜己に呼はるを處分せずして、其苦しめらるるを忍び給はんや。 042 LUK 018 008 我汝等に告ぐ、神は速に彼等の為に處分し給ふべし。然りながら人の子の來らん時、世に信仰を見出すべきか、と。 042 LUK 018 009 又己を義人として自ら恃み、他を蔑にせる人々に向ひて、次の喩を語り給へり。 042 LUK 018 010 二人の人祈らんとて[神]殿に昇りしに、一人はファリザイ人、一人は税吏なりしが、 042 LUK 018 011 ファリザイ人立ちて心の中に祈りけるは、神よ、我は他の人の窃盗者、不正者、姦淫者なるが如くならず、又此税吏の如くにも非ざる事を、汝に感謝し奉る。 042 LUK 018 012 我は一週間に二回断食し、全歳入の十分の一を納むるなり、と。 042 LUK 018 013 然るに税吏は遥に立ちて、目を天に翹ぐる事だにも敢てせず、唯胸を打ちて、神よ、罪人なる我を憫み給へ、と云ひ居たり。 042 LUK 018 014 我汝等に告ぐ、此人は、彼人よりも義とせられて、己が家に降り往けり。蓋総て自ら驕る人は下げられ、自ら遜る人は上げらるべし、と。 042 LUK 018 015 時に人々又、イエズスに觸れしめんとて、孩兒を携へ來りしを、弟子等見て叱りけるに、 042 LUK 018 016 イエズス孩兒を呼寄せて曰ひけるは、子等の我に來るを容して、之を禁ずること勿れ、神の國は斯の如き人の有なればなり。 042 LUK 018 017 我誠に汝等に告ぐ、誰にても孩兒の如く神の國を承くるにあらずば之に入らじ、と。 042 LUK 018 018 一人の重立ちたる者イエズスに問ひて、善き師よ、我何を為してか永遠の生命を得べき、と云ひしかば、 (aiōnios g166) 042 LUK 018 019 イエズス曰ひけるは、何ぞ我を善きと謂ふや、神獨りの外に善きものはあらず。 042 LUK 018 020 汝は掟を知れり、即ち殺す勿れ、姦淫する勿れ、盗する勿れ、僞證する勿れ、汝の父母を敬へ、と是なり、と。 042 LUK 018 021 彼、我幼年より悉く之を守れり、と云ひしに、 042 LUK 018 022 イエズス之を聞きて曰ひけるは、汝尚一を缼けり、悉く汝の有てる物を売りて、之を貧者に施せ、然らば天に於て寶を得ん、然して後來りて我に從へ、と。 042 LUK 018 023 之を聞きて彼甚く悲しめり、其は富豪なればなり。 042 LUK 018 024 イエズス彼が悲しむを見て曰ひけるは、富める者の神の國に入るは如何に難きぞや、 042 LUK 018 025 蓋駱駝が針の孔を通るも、富者が天國に入るよりは易し、と。 042 LUK 018 026 之を聞ける人々、然らば誰か救はるうことを得ん、と云ひたるに、 042 LUK 018 027 イエズス曰ひけるは、人に叶はざる事も神には叶ふものぞ、と。 042 LUK 018 028 其時ペトロ、然て我等は一切を棄てて汝に從ひたり、と云ひしかば、 042 LUK 018 029 イエズス彼等に曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、誰にもあれ神の國の為に、或は家、或は兩親、或は兄弟、或は妻、或は子供を離るる人の、 042 LUK 018 030 此世にて更に多くの物を受け、後の世に永遠の生命を受けざるはなし、と。 (aiōn g165, aiōnios g166) 042 LUK 018 031 斯てイエズス十二人を携へて之に曰ひけるは、我等今度エルザレムに上る、人の子の就きて預言者等の手に録されたる事は悉く成就せん。 042 LUK 018 032 即ち彼は異邦人に付され、弄られ、辱められ、唾せられ、 042 LUK 018 033 然て鞭ちたる後、彼等之を殺さん、而して三日目に復活すべし、と。 042 LUK 018 034 十二人は此事等少も解せざりき、蓋此言彼等に隠されて、其言はるる所を暁らざりしなり。 042 LUK 018 035 イエズスエリコに近づき給ふ時、一人の瞽者路傍に坐して施を乞ひ居りしが、 042 LUK 018 036 群衆の過るを聞きて、是は何事ぞと問ひけるに、 042 LUK 018 037 人々ナザレトのイエズスの過ぎ給ふ由を告げしかば、 042 LUK 018 038 彼叫びて、ダヴィドの子イエズスよ、我を憫み給へ、と云へり。 042 LUK 018 039 先てる人々之を叱りて黙せしめんとすれども、彼益、ダヴィドの子よ、我を憫み給へ、と叫び居ければ、 042 LUK 018 040 イエズス立止り、命じて之を連來らしめ給ひ、其近づきし時之に問ひて、 042 LUK 018 041 我が汝に何を為さん事を欲するぞ、と曰ひしに彼、主よ、見えしめ給はん事を、と云へり。 042 LUK 018 042 イエズス曰ひけるは、見えよ、汝の信仰汝を救へり、と。 042 LUK 018 043 彼忽ち見え、神に光榮を歸しつつイエズスに從ひたりしが、民衆之を見て、挙りて神に光榮を歸し奉れり。 042 LUK 019 001 イエズスエリコに入りて歩行き給ふに、 042 LUK 019 002 折しもザケオと云へる人あり、即ち税吏の長にして、而も富豪なりしが、 042 LUK 019 003 イエズスの何人なるかを見んとすれど、丈低くして群衆の為に見得ざりければ、 042 LUK 019 004 見ゆる様にと、前に趨行きて桑葉無花果樹に上れり、其處をば通り給ふべければなり。 042 LUK 019 005 イエズス其所に至りて目を翹げ、彼を見て曰ひけるは、ザケオ急ぎ下りよ、今日我汝の家に宿らざるべからず、と。 042 LUK 019 006 彼急ぎ下りて歓迎せしかば、 042 LUK 019 007 衆人之を見て、イエズス罪人の客となれり、と呟きければ、 042 LUK 019 008 ザケオ立ちて主に云ひけるは、主看給へ、我は我財産の半を貧者に施し、若人を損害せし事あらば、償ふに四倍を以てせんとす、と。 042 LUK 019 009 イエズス之に曰ひけるは、此家今日救を得たり、其は此人もアブラハムの子なればなり。 042 LUK 019 010 蓋人の子の來りしは、亡びたる者を尋ねて救はん為なり、と。 042 LUK 019 011 人々之を聞きつつ居りしに、イエズス之に加へて一の喩を語り給へり、是身は既にエルザレムに近く、又彼等が神の國直に現るべしと思ひ居れるを以てなり。 042 LUK 019 012 乃ち曰ひけるは、或貴人遠國へ往き、封國を受けて歸らんとて、 042 LUK 019 013 己が家來十人を呼びて金十斤を渡し、我が來るまで商売せよ、と命じ置きしが、 042 LUK 019 014 國民彼を憎みければ後より使を遣りて、我等は彼人の我王と成る事を否む、と云はせたれど、 042 LUK 019 015 彼封國を受けて歸り來り、曾て金を與へ置きし家來が各商売して如何許の贏ありしかを知らん為に、命じて之を呼ばしめしが、 042 LUK 019 016 初の者來りて、主君よ、汝の金一斤は十斤を儲けたり、と云ひしに、 042 LUK 019 017 主人云ひけるは、善し、良僕よ、汝は僅なものに忠なりしが故に十の都會を宰るべし、と。 042 LUK 019 018 次の者來りて、主君よ、汝の金一斤は五斤を生じたり、と云ひしに、 042 LUK 019 019 主人云ひけるは、汝も五の都會を宰れ、と。 042 LUK 019 020 又一人來りて、主君よ、是汝の金一斤なり、我之を袱紗に包置けり、 042 LUK 019 021 其は汝が厳しき人にして、置かざる物を取り播かざる物を穫るを以て、我汝を懼れたればなり、と云ひしに、 042 LUK 019 022 主人云ひけるは、惡僕よ、我汝を其口によりて鞫かん、汝は我が厳しき人にして、置かざる物を取り播かざる物を穫るを知りたるに、 042 LUK 019 023 何ぞ我金を銀行に渡さざりしや、然らば我來りて之を利と共に受取りしならん、と。 042 LUK 019 024 斯て立會へる人々に向ひ、彼より其金一斤を取りて、十斤を有てる者に與へよ、と云ひければ、 042 LUK 019 025 彼等、主君よ、彼は既に十斤を有てり、と云ひしかど、 042 LUK 019 026 我汝等に告ぐ、総て有てる人はなお與へられて餘あらん、然れど有たぬ人は、其有てる物までも奪はれん。 042 LUK 019 027 然て己等に我が王たる事を否みし敵等を此處に引來りて、我眼前に殺せ、[と云へり]と。 042 LUK 019 028 斯く曰ひ終りて、先ちてエルザレムに上り往き給へり。 042 LUK 019 029 第一款 エルザレムにて歓迎せられ給ふ 第四篇 イエズスの御受難及御復活 第一項 最後の一週間の始 斯て橄欖山と云へる山の麓なるベトファゲとベタミアとに近づき給ひしかば、弟子等の二人を遣はさんとして、 042 LUK 019 030 曰ひけるは、汝等對面の村に往け、然て之に入らば、何人も未だ乗らざる驢馬の子の繋がれたるに遇はん、其を解きて此處に牽來れ、 042 LUK 019 031 若何故に之を解くぞと問ふ人あらば、主之を用ひんと欲し給ふと云へ、と。 042 LUK 019 032 遣はされたる人々往きて、曰ひし如く小驢馬の立てるに遇ひ、 042 LUK 019 033 之を解く中に其主等、何故に之を解くぞ、と云ふを 042 LUK 019 034 彼等は主之を要し給ふなり、と云ひて、 042 LUK 019 035 イエズスの御許に牽來り、己が衣服を小驢馬に掛てイエズスを乗せたり。 042 LUK 019 036 往き給ふ路次、人々面々の衣服を道に舗きたりしが、 042 LUK 019 037 既に橄欖山の下坂に近づき給ふ時、弟子等の群衆挙りて、曾て見し諸の奇蹟に對して、聲高く神を賛美し始め、 042 LUK 019 038 主の名によりて來れる王祝せられよかし、天には平安、最高き所には光榮あれ、と云ひければ、 042 LUK 019 039 群衆の中より、或ファリザイ人等イエズスに向ひ、師よ、汝の弟子等を戒めよ、と云ひしに、 042 LUK 019 040 イエズス曰ひけるは、我汝等に告ぐ、此人々黙せば石叫ぶべし、と。 042 LUK 019 041 イエズス近づき給ふや市街を見つつ之が為に泣きて曰ひけるは、 042 LUK 019 042 汝も若汝の此日に於てだも、汝に平和を來すべきものの何なるかを知りたらば[福ならんに]、今は汝の目より隠れたり。 042 LUK 019 043 蓋日将に汝に來らんとす、即ち其敵等、塁を汝の周圍に築き、取圍みつつ四方より迫り、 042 LUK 019 044 汝と其内に在る子等とを地に打倒し、汝には一の石をも石の上に遺さじ、其は汝が訪問せられし時を知らざりし故なり、と。 042 LUK 019 045 イエズス[神]殿に入り、其内にて売買する人々を逐出し始め給ひ、 042 LUK 019 046 然て之に曰ひけるは、録して「我家は祈の家なり」とあるに、汝等は之を盗賊の巣窟となせり、と。 042 LUK 019 047 斯て日々[神]殿にて教へ居給へるを、司祭長、律法學士、及び人民の重立ちたる人々、殺さんとて企み居たれど、 042 LUK 019 048 之を如何にすべきかを想ひ得ざりき、其は人民皆憧れて之に聴き居たればなり。 042 LUK 020 001 第二款 イエズスと其敵 一日イエズス[神]殿に於て人民を教へ、福音を宣べ居給ひけるに、司祭長、律法學士等、長老等と共に集ひ來りて之に向ひ、 042 LUK 020 002 我等に告げよ、汝は何の権を以て此等の事を為すぞ、又此権を汝に與へし者は誰ぞ、と云いしかば、 042 LUK 020 003 答へて曰ひけるは、我も一言汝等に問はん、我に答へよ、 042 LUK 020 004 ヨハネの洗禮は天よりせしか人よりせしか、と。 042 LUK 020 005 彼等案じ合ひて、若天よりと云はば、何故に之を信ぜざりしぞと云はれん、 042 LUK 020 006 若人よりと云はば人民挙りてヨハネの預言者たる事を確信せるが故に、我等に石を擲たんとて、 042 LUK 020 007 遂に其何れよりせしかを知らず、と答へしかば、 042 LUK 020 008 イエズス彼等に曰ひけるは、我も亦何の権を以て此等の事を為すかを汝等に告げず、と。 042 LUK 020 009 然てイエズス人民に向ひて、喩を語出し給ひけるは、或人葡萄畑を造り、之を小作人に貸して久く遠方に居りしが、 042 LUK 020 010 季節に至り己に葡萄畑の果を納めしめんとて、一人の僕を小作人等の許に遣はししに、彼等は之を殴ちて空しく歸せり。 042 LUK 020 011 又他の僕を遣はししに、之をも殴ち且辱めて空しく歸し、 042 LUK 020 012 尚第三の者を遣はししに、之をも傷けて遂出せり。 042 LUK 020 013 是に於て葡萄畑に主謂ひけるは、是は如何に為べき、我は我愛子を遣はさん、彼等之を見ば、或は敬ふならん、と。 042 LUK 020 014 小作人等之を見るや、案じ合ひて、是は相続者なり、率ざ之を殺さん、然すれば家督は我等が有となるべし、と云ひて、 042 LUK 020 015 葡萄畑の外に遂出して之を殺せり。此時に當りて葡萄畑の主、如何に彼等を處分すべきか、 042 LUK 020 016 自ら來りて小作人等を亡ぼし、其の葡萄畑を他の人に付すべきなり、と。司祭長等之を聞きて、然るべからず、と云ひしかば、 042 LUK 020 017 イエズス彼等を熟視めて曰ひけるは、然らば録して「建築者の棄てたる石は隅石と成れり、 042 LUK 020 018 総て此石の上に墜つる人は砕かれ、又此石誰の上に墜つるも之を微塵にせん」とあるは何ぞや、と。 042 LUK 020 019 司祭長、律法學士等、イエズスが己等を斥して此喩を語り給ひしを暁りければ、即時に彼を取押へんとせしかど、人民を懼れたり。 042 LUK 020 020 斯て彼等は事の様を窺ひつつ、イエズスを総督の権威の下に引渡すべき言質を取らしめんとて、己を義人に装へる間者等を遣はししに、 042 LUK 020 021 彼等イエズスに問ひて云ひけるは、師よ、我等は汝の語り且教へ給ふ所の正しくして、人を贔屓せず、眞理に據りて神の道を教へ給ふ事を知れり。 042 LUK 020 022 然て我等セザルに税を納むるは可きや否や、と。 042 LUK 020 023 イエズス彼等の狡猾なるを慮りて曰ひけるは、何ぞ我を試むるや、 042 LUK 020 024 デナリオを我に示せ、之に在る像と銘とは誰のなるぞ、と。彼等答へてセザルのなり、と云ひしに 042 LUK 020 025 曰はく、然らばセザルの物はセザルに歸し、神の物は神に歸せ、と。 042 LUK 020 026 彼等イエズスの言を人民の前に咎むること能はず、其答に感服して沈黙せり。 042 LUK 020 027 又復活を否定せるサドカイ人數人近づきて、問ひて云ひけるは、 042 LUK 020 028 師よ、モイゼが我等に書置きし所によれば、人の兄弟妻を娶りて死し、後に子等無き時は、其兄弟其妻を娶りて、兄弟に子を得さすべきなり。 042 LUK 020 029 然れば爰に兄弟七人ありしに、兄妻を娶り、子なくして死したれば、 042 LUK 020 030 其次なる者之を娶りしが、亦子なくして死せしかば、 042 LUK 020 031 第三の者之を娶り、七人皆同じ様にして、子を遺さずして死し、 042 LUK 020 032 最後に婦も亦死せり、 042 LUK 020 033 然らば復活の時、彼婦は彼等の中誰の妻たるべきか、其は七人之を娶りたればなり、と。 042 LUK 020 034 イエズス彼等に曰ひけるは、現世の子等は娶嫁すれども、 (aiōn g165) 042 LUK 020 035 來世及び復活に堪へたりとせらるべき人々は、嫁がず娶らざらん、 (aiōn g165) 042 LUK 020 036 蓋最早死する能はず、復活の子なれば天使に等しくして神の子等なり。 042 LUK 020 037 抑死者の復活する事は、モイゼ茨の篇に、主を「アブラハムの神、イザアクの神、ヤコブの神」と稱して之を示せり、 042 LUK 020 038 即ち死者の神には非ずして、生者の神にて在す、其は人皆之に活くればなり、と。 042 LUK 020 039 或律法學士等答へて、師よ、善く曰へり、と云ひしが、 042 LUK 020 040 其後は何事をも敢て問ふ者なかりき。 042 LUK 020 041 然て彼等に曰ひけるは、キリストをダヴィドの子なりと言ふは何ぞや。 042 LUK 020 042 即ちダヴィド自ら詩篇に於て曰く、「主我主に曰へらく、 042 LUK 020 043 我汝の敵等を汝の足台とならしむ迄、我右に坐せよ」と、 042 LUK 020 044 ダヴィド既に之を主と稱するに、彼爭か其子ならんや、と。 042 LUK 020 045 人民皆聞ける中にて、イエズス弟子等に曰ひけるは、 042 LUK 020 046 律法學士等に用心せよ、彼等は敢て長き衣を着て歩み、衢にては敬禮、會堂にては上座、宴會にては上席を好み、 042 LUK 020 047 長き祈を装ひて寡婦等の家を喰盡すなり、彼等は尚大いなる宣告を受くべし、と。 042 LUK 021 001 イエズス目を翹げて、富める人々の賽銭を賽銭箱に投るるを見、 042 LUK 021 002 又一人の貧しき寡婦の二厘を投るるを見て、 042 LUK 021 003 曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、彼貧しき寡婦は凡ての人より多く投れたり。 042 LUK 021 004 其は、彼等は皆其餘れる中より賽銭を投れたるに、彼婦は其乏しき中より有てる活計の料を悉く投れたればなり、と。 042 LUK 021 005 第三款 種々の預言 或人々、神殿が美き石及び献物にて飾られたる事を語れるに、イエズス曰ひけるは、 042 LUK 021 006 汝等の見る此品々、終には一の石も崩れずして石の上に遺らざる日來らん、と。 042 LUK 021 007 彼等又問ひて、師よ、此等の事は何時あるべきぞ、其起らん時には如何なる兆かあるべき、と云ひしに、 042 LUK 021 008 イエズス曰ひけるは、汝等惑はされじと注意せよ、其は多くの人我名を冒して來り、我なり、時は近し、と云ふべければなり。然れば彼等に從ふこと勿れ、 042 LUK 021 009 又戰争叛亂ありと聞くとも怖るること勿れ、此事等は先有るべしと雖、終は未だ直に來らざるなり、と。 042 LUK 021 010 斯て彼等に曰ひけるは、民は民に、國は國に起逆らひ、 042 LUK 021 011 又處々に大地震、疫病、飢饉あり、天に凶變あり、大いなる兆あるべし。 042 LUK 021 012 然て此一切の事に先ちて、人々我名の為に汝等に手を下して汝等を迫害し、會堂に、監獄に付し、王侯総督の前に引かん、 042 LUK 021 013 此事の汝等に起るは證據とならん為なり。 042 LUK 021 014 然れば汝等覚悟して、如何に答へんかと豫め慮ること勿れ、 042 LUK 021 015 其は我、汝等が凡ての敵の言防ぎ言破ること能はざるべき、口と智恵とを汝等に與ふべければなり。 042 LUK 021 016 又汝等は親、兄弟、親族、朋友より売られ、其中或は彼等に殺さるる者もあるべく、 042 LUK 021 017 又我名の為に凡ての人に憎まれん。 042 LUK 021 018 然れども、汝等の髪毛の一縷だも失せじ。 042 LUK 021 019 忍耐を以て其魂を保て。 042 LUK 021 020 然てエルザレムが軍隊に取圍まるるを見ば、其時其滅亡は近づきたりと知れ。 042 LUK 021 021 其時ユデアに居る人は山に遁るべく、市中に居る人は立退くべく、地方に居る人は市中に入るべからず。 042 LUK 021 022 此は是刑罰の日にして、録されたる事総て成就すべければなり。 042 LUK 021 023 然れど其日に當りて孕める人、乳を哺まする人は禍いなる哉、其は地上に大いなる難ありて、怒は此民に臨むべければなり。 042 LUK 021 024 斯て人々は剣の刃に倒れ、捕虜となりて諸國に引かれ、エルザレムは異邦人に蹂躙られ、諸國民の時満つるに至らん。 042 LUK 021 025 又日、月、星に兆顕れ、地上には海と波との鳴轟きて、諸の國民之が為に狼狽へ、 042 LUK 021 026 人々は全世界の上に起らんとする事を豫期して、怖ろしさに憔悴ん、其は天上の能力震動すべければなり。 042 LUK 021 027 時に人の子が、大いなる権力と威光とを以て、雲に乗り來るを見ん。 042 LUK 021 028 是等の事起らば、仰ぎて首を翹げよ、其は汝等の救贖はるること近ければなり、と。 042 LUK 021 029 イエズス又彼等に喩を語り給ひけるは、無花果及び一切の樹を見よ、 042 LUK 021 030 既に自ら芽せば、汝等夏の近きを知る。 042 LUK 021 031 斯の如く此事等の起るを見ば、神の國は近しと知れ。 042 LUK 021 032 我誠に汝等に告ぐ、此事の皆成就するまで、現代は過ぎざらん、 042 LUK 021 033 天地は過ぎん、然れど我言は過ぎざるべし。 042 LUK 021 034 自ら慎め、恐らくは汝等の心、放蕩、酩酊、或は今生の心勞の為に鈍りて、彼日は思はず汝等の上に來らん、 042 LUK 021 035 此は地の全面に住む人間一切の上に、罠の如く來るべければなり。 042 LUK 021 036 然れば汝等、來るべき此凡ての事を迯れ、人の子の前に立つに堪へたる者とせらるる様、警戒して不断に祈れ、と。 042 LUK 021 037 イエズス晝は[神]殿にて教へ、夜は出でて橄欖山と云へる山に宿り居給ひしが、 042 LUK 021 038 人民は、之に聴かんとて、朝早くより[神]殿の内に於て、御許に至り居りき。 042 LUK 022 001 第一款 敵等イエズスの死刑を謀る 然て過越と稱する無酵麪の祭日近づきけるに、 042 LUK 022 002 司祭長、律法學士等、如何にしてかイエズスを殺すべきと相謀りたれど、人民を懼れ居たり。 042 LUK 022 003 然るにサタン、十二人の一人にしてイスカリオテとも呼ばれたるユダに入りしかば、 042 LUK 022 004 彼往きて、司祭長、官吏等にイエズスを売る方法を語りしかば、 042 LUK 022 005 彼等喜びて之に金を與えんと約せしに、 042 LUK 022 006 ユダ諾して、群衆の居らざる時にイエズスを付さんものと、機を窺ひ居たり。 042 LUK 022 007 第二款 最終の晩餐 斯て過越[の恙]を屠るべき無酵麪の日來り、 042 LUK 022 008 イエズス、ペトロとヨハネとを遣はさんとして、汝等往きて、我等が食せん為、過越の備を為せ、と曰ひしかば 042 LUK 022 009 彼等、何處に備へん事を望み給ふぞ、と云ひしに 042 LUK 022 010 イエズス曰ひけるは、汝等市中に入る時、看よ、水瓶を肩にせる人汝等に遇はん、其入る家に随行きて 042 LUK 022 011 其家の主に向ひ、師汝に謂ひて、我が弟子と共に過越の食事を為すべき席は何處に在るかと曰ふ、と云へ、 042 LUK 022 012 然らば彼既に整へたる大いなる高間を汝等に示さん、汝等其處にで準備せよ、と。 042 LUK 022 013 彼等往きて見るに、イエズスの曰ひし如くなりしかば、過越の準備を為せり。 042 LUK 022 014 時至りて、イエズス十二使徒と共に食に就き給ひしが、 042 LUK 022 015 彼等に曰ひけるは、我苦を受くる前に此過越の食事を汝等と共にせん事を切に望めり、 042 LUK 022 016 蓋我汝等に告ぐ、其が神の國にて成就するまでは、我今より之を食せざるべし、と。 042 LUK 022 017 軈て杯を執り、謝して曰ひけるは、取りて汝等の中に分て、 042 LUK 022 018 蓋我汝等に告ぐ、神の國の來るまでは、我葡萄の液を飲まじ、と。 042 LUK 022 019 又麪を取り、謝して之を擘き、彼等に與へつつ曰ひけるは、是汝等の為に付さるる我體なり、我記念として之を行へ、と。 042 LUK 022 020 晩餐了りて後、杯をも亦斯の如くにして曰ひけるは、此杯は、汝等の為に流さるるべき我血に於る新約なり。 042 LUK 022 021 然りながら看よ、我を付す人の手我と共に食卓に在り。 042 LUK 022 022 抑人の子は豫定せられし如くにして逝くと雖も、之を付す人は禍なる哉、と。 042 LUK 022 023 斯て弟子等己等の中に於て之を為さんとする者は誰なるぞ、と互に僉議し始めたり。 042 LUK 022 024 然るに、己等の中大いなりと見ゆべき者は誰ぞ、と争起りしかば、 042 LUK 022 025 イエズス彼等に曰ひけるは、異邦人の帝王は人を司り、又人の上に権を執る者は恩人と稱せらる、 042 LUK 022 026 然れど汝等は然あるべからず、却て汝等の中に大いなる者は小き者の如くに成り、首たる者は給仕の如くに成るべし。 042 LUK 022 027 蓋食卓に就ける者と給仕する者とは、孰か大いなるぞ、食卓に就ける者ならずや、然れども我が汝等の中に在るは給仕する者の如し。 042 LUK 022 028 汝等は我が患難の中に於て絶えず我に伴ひし者なれば、 042 LUK 022 029 我父の我に備へ給ひし如く、我も汝等の為に國を備へんとす、 042 LUK 022 030 是汝等をして、我國に於て我食卓に飲食せしめ、又高座に坐してイスラエルの十二族を審判せしめん為なり、と。 042 LUK 022 031 主又曰ひけるは、シモンシモン、看よ、麦の如く篩はんとて、サタン汝等を求めたり、 042 LUK 022 032 然れど我汝の為に、汝が信仰の絶えざらん事を祈れり、汝何時か立歸りて、汝の兄弟等を堅めよ、と。 042 LUK 022 033 彼イエズスに向ひ、主よ、我汝と共に監獄にも、死にも至らん覚悟なり、と云ひしかば、 042 LUK 022 034 イエズス曰ひけるは、ペトロ、我汝に告ぐ、今日鶏鳴はざる中、汝三度我を知らずと否まん、と。又彼等に曰ひけるは、 042 LUK 022 035 我が汝等を、財布なく、嚢なく、履なくて遣はしし時、汝等に何の不足かありし、と。 042 LUK 022 036 彼等、無かりきと云ひしかば、曰ひけるは、然りながら今は、財布ある者は之を携へ、嚢をも亦然せよ、無き者は己が上衣を売りて剣を買へ、 042 LUK 022 037 蓋我汝等に告ぐ、録して「彼は罪人に列せられたり」とあるも、亦我に於て成就せざるべからず、其は凡我に関する所、将に了らんとすればなり、と。 042 LUK 022 038 弟子等、主よ、見給へ、此處に二口の剣あり、と云ひしかば、イエズス、足れり、と曰へり。 042 LUK 022 039 第三款 ゲッセマニに於るイエズス 然て出でて、例の如く橄欖山へ往き給ふに、弟子等も之に從ひしが、 042 LUK 022 040 處に至り給ふや、彼等に向ひて、汝等誘惑に入らざらん為に祈れ、と曰ひ、 042 LUK 022 041 自らは石の投げらるる程を彼等より引離れて跪き、祈りて 042 LUK 022 042 曰ひけるは、父よ、思召ならば、此杯を我より取除き給へ、然りながら我心の儘にはあらで、思召成れかし、と。 042 LUK 022 043 時に一箇の天使天より現れて力を添へしが、イエズス死ぬばかり苦しみて、祈り給ふ事愈切に、 042 LUK 022 044 汗は土の上に滴りて、血の雫の如くに成れり。 042 LUK 022 045 斯て祈より起上りて、弟子等の許に來給ひしが、彼等が憂の為に眠れるを見て、 042 LUK 022 046 曰ひけるは、何ぞ眠れるや、起きよ、誘惑に入らざらん為に祈れ、と。 042 LUK 022 047 第四款 イエズス捕へられ給ふ 尚語り給へる中に、折しも一団の群衆來りしが、十二人の一人なるユダと云へる者先ち居り、イエズスに接吻せんとて近づきしかば、 042 LUK 022 048 イエズス之に曰ひけるは、ユダ、接吻を以て人の子を付すか、と。 042 LUK 022 049 斯てイエズスの周圍に居たる人々事の成行を見て、主よ、我等剣を以て撃たば如何に、と云ひつつ、 042 LUK 022 050 其一人、大司祭の僕を撃ちて、其右の耳を切落せり。 042 LUK 022 051 イエズス答へて、汝等是迄にて容せ、と曰ひ、彼の耳に触れて之を醫し給へり。 042 LUK 022 052 然て己に近づける司祭長、神殿の司、長老等に曰ひけるは、汝等は、強盗に向ふ如く、剣と棒とを持ちて出來りしか、 042 LUK 022 053 我日々汝等と共に神殿に在りしに、汝等我に手を掛けざりき。然れども今は汝等の時なり、黒暗の勢力なり、と。 042 LUK 022 054 彼等イエズスを捕へて大司祭の家に引行きしかば、ペトロ遥に從ひたりしが、 042 LUK 022 055 彼等庭の中央に炭火を焚きて其周圍に坐せるに、ペトロも其中に坐し居たりき。 042 LUK 022 056 一人の下女、彼が火光に坐せるを見て之を熟視め、此人も彼と共に在りき、と云ひければ、 042 LUK 022 057 ペトロイエズスを否みて、女よ、我彼を知らず、と云へり。 042 LUK 022 058 少頃ありて、又一人の男ペトロを見て、汝も彼等の一人なり、と云ひしに、ペトロ、人よ、我は然らず、と云へり。 042 LUK 022 059 約一時間を経て、又一人言張りて、實に此人も彼に伴ひたりき、是もガリレア人なれば、と云ひしに 042 LUK 022 060 ペトロは、人よ、我汝の云ふ所を知らず、と云ひしが、未だ言終らざるに鶏忽ち鳴へり。 042 LUK 022 061 此時主回顧りて、ペトロを見給ひしかば、ペトロは、鶏鳴はぬ前に汝三度我を否まん、と曰ひたりし主の御言を思起し、 042 LUK 022 062 外に出でて甚く泣出せり。 042 LUK 022 063 衛れる人々、イエズスを打ちて嘲笑ひ、 042 LUK 022 064 御目を掩ひて御顔を打ち、然て問ひて、預言せよ、汝を打てるは誰なるぞ、と云ひ、 042 LUK 022 065 尚之に向ひ冒涜して、様々の事を云ひ居たり。 042 LUK 022 066 夜の明くると共に、民間の長老、司祭長、律法學士等相集り、イエズスを其衆議所に引きて、汝はキリストなるか、我等に告げよ、と云ひしかば、 042 LUK 022 067 イエズス彼等に曰ひけるは、我汝等に告ぐとも、汝等我を信ぜじ、 042 LUK 022 068 又我問ふとも我に答へず、又我を放たじ、 042 LUK 022 069 然れども今より後、人の子は全能に在す神の右に坐し居らん、と。皆云ひけるは、然らば汝は神の子なるかと。 042 LUK 022 070 イエズス、汝等の云へるが如し、我は其なり、と曰ひしかば、 042 LUK 022 071 彼等云ひけるは、我等何ぞ尚證據を要せんや、自ら其口より聞けるものを、と。 042 LUK 023 001 第五款 イエズスピラトの前に出廷し給ふ 斯て群衆一同に立上りて、イエズスをピラトの許に引行き、 042 LUK 023 002 之を訟へて云出しけるは、我等此人の我國民を惑はし、セザルに税を納むる事を禁じ、己を王たるキリストなりと云へるを認めたり、と。 042 LUK 023 003 ピラトイエズスに問ひて、汝はユデア人の王なるか、と云ひしかば、答へて、汝の云へるが如し、と曰へり。 042 LUK 023 004 ピラト司祭長等と群衆とに向ひ、我は此人に罪を認めず、と云ひしかど、 042 LUK 023 005 彼等益言張りて、彼はガリレアを始め此地に至る迄、ユデアの全國に教へつつ、人民を煽動す、と云へり。 042 LUK 023 006 ピラトガリレアと聞きて、此人はガリレア人なるかと問ひ、 042 LUK 023 007 其ヘロデが権下の者なるを知るや、彼も當時エルザレムに居りければ、イエズスをヘロデの許に送れり。 042 LUK 023 008 ヘロデはイエズスを見て大いに喜べり、是曾て彼に就きて多く聞く所ありて、久しく之に遇はん事を冀ひ、彼によりて行はるる不思議を見んことを望み居たればなり。 042 LUK 023 009 斯て多くの言を以て問ひしかど、イエズス何をも答へ給はず、 042 LUK 023 010 司祭長、律法學士等、傍に立ちて頻に之を訟へければ、 042 LUK 023 011 ヘロデ其兵士等と共に侮辱を加へ、白き衣服を着せて之を調戯り、終にピラトに送還せり。 042 LUK 023 012 ヘロデとピラトとは曾て相讐敵たりしが、此日よりして朋友となれり。 042 LUK 023 013 ピラト、司祭長と官吏と人民とを呼集めて 042 LUK 023 014 云ひけるは、汝等此人を、人民を惑はす者として、我に差出せり。然れども看よ、我之を汝等の前に審問すれども、汝等の訟ふる諸件に就きては、毫も之に罪を見出さず、 042 LUK 023 015 ヘロデも亦然り、即ち我汝等を彼の許に差廻したりしに、死に當るべき何等の處分もなかりしなり、 042 LUK 023 016 故に我懲らして之を免さんとす、と。 042 LUK 023 017 然て祭日に當りては一人を人民に免さざるを得ざりければ、 042 LUK 023 018 群衆一同に叫びて、此人を除きて、我等にバラバを免せ、と云へり。 042 LUK 023 019 バラバとは、市中に起りし一揆と人殺との為に、監獄に入れられたる者なり。 042 LUK 023 020 ピラトはイエズスを免さんと欲して、再び彼等に語りしかども、 042 LUK 023 021 彼等又々叫びて、之を十字架に釘けよ、十字架に釘けよ、と云ひ居たり。 042 LUK 023 022 ピラト三度目に彼等に向ひて、此人何の惡事をか為したる、我は毫も死罪を認めざれば、懲して之を免さんとす、と云ひたるに、 042 LUK 023 023 彼等聲高く、頻に十字架に釘けん事を求め、其聲愈激しければ、 042 LUK 023 024 ピラト彼等の求に應ぜんと決し、 042 LUK 023 025 其求むる儘に、彼人殺と一揆の為に監獄に入れられたる者を免し、イエズスをば、彼等の意に任せたり。 042 LUK 023 026 第六款 十字架上の犠牲 彼等イエズスを引行く時、田舎より來懸れるシモンと云へるシレネ人を執へ、強ひてイエズスに後に跟きて十字架を擔はせたり。 042 LUK 023 027 然て夥しき人民、及びイエズスの御身上を泣唧てる婦人等、其後に從ひければ、 042 LUK 023 028 イエズス此等を顧みて曰ひけるは、エルザレムの女等よ、我身上を泣くこと勿れ、己を己が子等との身上を泣け。 042 LUK 023 029 看よ、日は将に來らんとす、其時人々は云はん、石女なる者、未だ産まざる腹、未だ哺ませざる乳房は福なりと、 042 LUK 023 030 其時又山に向ひては、我等の上に墜ちよと言ひ、岡に向ひては、我等を覆へと言出さん、 042 LUK 023 031 蓋生木すら斯く為らるれば、枯木は如何にか為らるるべき、と。 042 LUK 023 032 然て二人の罪人、殺さるべきにて、イエズスと共に引かれつつありしが、 042 LUK 023 033 髑髏(カルヴァリオ)と云へる處に至りて、イエズスを十字架に釘け、彼強盗をも、一人は右に、一人は左に、磔にしたり。 042 LUK 023 034 斯てイエズスは、父よ、彼等は為す所を知らざる者なれば、之を赦し給へ、と曰ひけるに、彼等はイエズスの衣服を分ちて鬮取にせり。 042 LUK 023 035 人民は立ちて眺め居たりしが、長等は彼等と共にイエズスを嘲りて、彼は他人を救へり、果して神より選まれたるキリストならば、己を救ふべし、と云ひ、 042 LUK 023 036 兵卒等も亦之を嘲りつつ、近づきて醋を差出し、 042 LUK 023 037 汝若ユデア人の王ならば己を救へ、と云ひ居たり。 042 LUK 023 038 イエズスの上には、ギリシア、ラテン及びヘブレオの文字にて書きたる罪標ありて、「是ユデア人の王なり」とありき。 042 LUK 023 039 彼吊られたる強盗の中、一人は冒涜して、汝キリストならば、己と我等とを救へ、と云へるに、 042 LUK 023 040 一人は答へて之を咎め、汝は同じ刑罰を受けながら、尚神を畏れざるか、 042 LUK 023 041 我等は己が所為に當る酬を受くるものなれば當然なれども、此人は何の惡をも為したる事なし、と云ひて、 042 LUK 023 042 又イエズスに向ひ、主よ、御國に至り給はん時、我を記憶し給へ、と云ひけれは、 042 LUK 023 043 イエズス曰ひけるは、我誠に汝に告ぐ、今日汝我と共に樂園に在るべし、と。 042 LUK 023 044 時は殆十二時なりしが、三時に至るまで、地上徧く暗黒と成り、 042 LUK 023 045 日暗みて、神殿の幕中より裂けたり。 042 LUK 023 046 イエズス聲高く呼はりて、父よ、我霊を御手に托し奉る、と曰ひしが、斯く曰ひつつ息絶え給へり。 042 LUK 023 047 百夫長事の顛末を見て、神に光榮を歸し、實に此人は義人なりき、と云ひしが、 042 LUK 023 048 此惨状に立會ひて、事の次第を見たる群衆も、皆己が胸を打ちつつ歸りたり。 042 LUK 023 049 然れどイエズスの知人、及ガリレアより從ひたりし婦人等は遥に立ちて事の様を眺め居たり。 042 LUK 023 050 折しも、議員の一人にユデアの町なるアリマラアのヨゼフと名くる人あり、義しき善人にして、 042 LUK 023 051 彼等の決議及處分に同意せず、己も神の國を待ち居りしが、 042 LUK 023 052 ピラトの許に至りてイエズスの御屍を求め、 042 LUK 023 053 取下して布に包み、石を鑿穿ちて作りたる墓の、未だ誰をも葬りし事なきに納めたり。 042 LUK 023 054 恰も用意日にして安息日の暁なりしが、 042 LUK 023 055 ガリレアよりイエズスに伴ひ來りし婦人等後に從ひて、其墓とイエズスの御屍の置かれたる状態とを見、 042 LUK 023 056 歸りて香料及香油を支度せしかと、安息日の間は掟に循ひて息めり。 042 LUK 024 001 第三項 イエズスの御復活 安息日の翌日、婦人等支度せし香料を携へて朝早く墓に至り、 042 LUK 024 002 墓より石の転ばし退けられたるを見て、 042 LUK 024 003 内に入りけるに、主イエズスの御屍見當らざしかば、 042 LUK 024 004 之に當惑したりしが、折しも輝ける衣服を着けたる二人の男、彼等の傍に立てり。 042 LUK 024 005 彼等懼れて俯きたるに、其二人言ひけるは、何ぞ生者を死者の中に尋ぬるや、 042 LUK 024 006 彼は此處に在さず、復活し給へり。思出せ、未だガリレアに居給ひし時、如何に汝等に語りしかを。 042 LUK 024 007 即ち、人の子は必ず罪人の手に付され、十字架に釘けられ、三日目に復活すべし、と曰ひしなり、と。 042 LUK 024 008 婦人等此御言を思出し、 042 LUK 024 009 墓より歸りて、一切の事を十一使徒及び他の人々に告げたり。 042 LUK 024 010 使徒等に告げしは、マグダレナ、マリアとヨハンナとヤコボの母マリア及び伴へる婦人等なりしが、 042 LUK 024 011 其言荒誕の様に覚えて、使徒等は之を信ぜざりき。 042 LUK 024 012 然れどペトロは起ちて墓に走行き、身を屈めて唯布のみ置かれたるを見しかば、有りし次第を心に怪しみつつ去れり。 042 LUK 024 013 然て同日に弟子の二人、エルザレムより約三里を隔てたる、エンマウスと名くる村に往く途中、 042 LUK 024 014 此起りたる凡ての事を語合ひ居たりしが、 042 LUK 024 015 斯く語合ひて僉議しつつある程に、イエズス御自らも近づきて、彼等に伴ひ居給へり。 042 LUK 024 016 然れど彼等の目は之を認めざる様、覆はれてありき。 042 LUK 024 017 斯て彼等に向ひ、汝等が歩みながら語合ひつつ悲しめるは何の談ぞ、と曰ひしかば、 042 LUK 024 018 名をクレオファと云へる一人答へて云ひけるは、汝は獨りエルザレムに於る旅人にして、此頃彼處に起りし事を知らざるか、と。 042 LUK 024 019 イエズス何事ぞ、と曰ひしに彼等言ひけるは、ナザレトのイエズスの事なり、彼は預言者にして、言行ともに神と一般の人民とに對して勢力ありしが、 042 LUK 024 020 我大司祭、及び首領等は、之に死罪を言渡して十字架に釘けたる次第なり。 042 LUK 024 021 我等は、彼こそイスラエルを贖ふべき者なれと、待設け居たりしが、此等の事ありてより今日は早三日目なり。 042 LUK 024 022 然て我等の中の或婦人等も亦我等を驚かせたり、即ち彼等未明に墓に至りしに、 042 LUK 024 023 イエズスの御屍見當らず、而も天使等の現れて、彼は活き給へりと告ぐるを見たり、と云ひつつ來れり、 042 LUK 024 024 斯て我等の中より或人々墓に往きしに、婦人等の云ひし如くなるを見しも、彼をば見付けざりき、と。 042 LUK 024 025 イエズス彼等に曰ひけるは、嗚呼愚にして預言者等の語りし凡ての事を信ずるに心鈍き者よ、 042 LUK 024 026 キリストは、是等の苦を受けて而して己が光榮に入るべき者ならざりしか、と。 042 LUK 024 027 斯てモイゼ及び諸の預言者を初め、凡ての聖書に就きて、己に関する所を彼等に説明し居給ひしが、 042 LUK 024 028 彼等其之く所の村に近づきし時、イエズス行過ぎんとするものの如くにし給へるを、 042 LUK 024 029 彼等強ひて、日既に傾きて暮れんとすれば、我等と共に留り給へ、と云ひしかば共に入り給へり。 042 LUK 024 030 斯て共に食卓に就き給へるに、麪を取りて之を祝し、擘きて彼等に授け給ひければ、 042 LUK 024 031 彼等の目開けてイエズスを認りしが、忽ちにして其目より消え給へり。 042 LUK 024 032 彼等語合ひけるは、路次語りつつ聖書を我等に説明かし給へる間、我等の心は胸の中に熱したりしに非ずや、と。 042 LUK 024 033 時を移さず、立上りてエルザレムに歸れば、十一使徒及び伴へる人々既に集りて、 042 LUK 024 034 主實に復活してシモンに現れ給ひたり、と云ひ居れるに遇ひ、 042 LUK 024 035 己等も亦、途中にて起りし事、及び麪を擘き給ひし時に主を認めし次第を語れり。 042 LUK 024 036 此等の事を語る程に、イエズス其眞中に立ちて、汝等安かれ、我なるぞ、畏るること勿れ、と曰ひければ、 042 LUK 024 037 彼等驚き怖れて、幽霊を見たりと思へるを、 042 LUK 024 038 イエズス曰ひけるは、汝等何ぞ取亂して心に種々の思を起すや。 042 LUK 024 039 我手我足を見よ、即ち我自身なり、撫で試みよ、幽霊は、汝等が我に於て見る如き骨肉ある者に非ず、 042 LUK 024 040 と曰ひて手足を彼等に示し給へり。 042 LUK 024 041 彼等歓喜の餘に驚嘆しつつも、猶信ぜざりければ、イエズス、茲に食すべき物ありや、と曰ひ、 042 LUK 024 042 彼等焼魚の一片と、一房の蜂蜜とを呈したるに、 042 LUK 024 043 彼等の前にて食し給ひ、殘を取りて彼等に與へ給へり。 042 LUK 024 044 然て彼等に曰ひけるは、是我が未だ汝等と共に在りし時に、モイゼの律法と預言者等の書と詩篇とに、我に関して録したる事は、悉く成就せざるべからず、と汝等に語りし事なり、と。 042 LUK 024 045 是に於て聖書を暁らしめん為に、彼等の精神を啓きて曰ひけるは、 042 LUK 024 046 録されたる所斯の如く、又キリストは苦を受けて、死者の中より三日目に復活すること、斯の如くなるべかりき。 042 LUK 024 047 又改心と罪の赦とは、エルザレムを始め、凡ての國民に、其名に由りて宣傳へられざるべからず、 042 LUK 024 048 汝等は此等の事の證人なり。 042 LUK 024 049 我は父の約し給へるものを汝等に遣はさんとす、汝等天よりの能力を着せらるるまで市中に留れ、と。 042 LUK 024 050 イエズス終に彼等をベタニアに伴ひ、手を挙げて之を祝し給ひしが、 042 LUK 024 051 祝しつつ彼等を離れて、天に上げられ給ひぬ。 042 LUK 024 052 彼等之を拝し奉り、大いなる喜を以てエルザレムに歸りしが、 042 LUK 024 053 其より常に[神]殿に在りて、神を頌賛し且祝し奉りつつありき、アメン。 # # BOOK 043 JOH John ヨハネの福音書 043 JOH 001 001 元始に御言あり、御言神の御許に在り、御言は神にてありたり。 043 JOH 001 002 是元始に神の御許に在たるものにして、 043 JOH 001 003 萬物之に由りて成れり、成りしものの一も、之に由らずして成りたるはあらず。 043 JOH 001 004 之がうちに生命ありて、生命又人間の光たりしが、 043 JOH 001 005 光闇に照ると雖も、闇之を暁らざりき。 043 JOH 001 006 神より遣はされて、名をヨハネと云へる人ありしが、 043 JOH 001 007 其來りしは證明の為にして、光を證明し、凡ての人をして己に籍りて信ぜしめん為なりき。 043 JOH 001 008 彼は光に非ずして、光を證明すべき者たりしなり。 043 JOH 001 009 [御言こそ、]此世に出來る凡ての人を照らす眞の光なりけれ。 043 JOH 001 010 曾て世に在り、世又之に由りて成りたれども、世之を知らず、 043 JOH 001 011 己が方に來りしも、其族之を承けざりき。 043 JOH 001 012 然れど之を承けし人々には各神の子となるべき権能を授けたり。是即ち其名を信ずる者、 043 JOH 001 013 血統に由らず、肉の意に由らず、人の意に由らず、神に由りて生れ奉りたる者なり。 043 JOH 001 014 斯て御言は肉と成りて、我等の中に宿り給へり、我等は其光榮を見奉りしが、其は父より來れる獨子の如き光榮なりき、即ち恩寵と眞理とに満ち給ひしなり。 043 JOH 001 015 ヨハネは彼に就きて證明し、呼はりて曰く、我より後に來るべき人は、我に先ちて存したるが故に我より先にせられたり、と云ひて我が曾て指示ししは是なり、と。 043 JOH 001 016 斯て我等は皆其充満せる所より授かりて、恩寵に恩寵を加へられたり。 043 JOH 001 017 蓋律法はモイゼを以て與へられたるも、恩寵と眞理とはイエズス、キリストを以て成りたるなり。 043 JOH 001 018 誰も曾て神を見奉りし人はあらず、父の御懐に在す獨子の自ら説き顕し給ひしなり。 043 JOH 001 019 第一款 洗者ヨハネイエズスを證明す。 第一篇 イエズス言行を以て其神性及び派遣を證し給ふ 第一項 最初の證明及行為 抑ヨハネの證明は次の如し。ユデア人がエルザレムより司祭及びレヴィ人等を彼に遣はして、汝は誰なるぞ、と問はしめし時、 043 JOH 001 020 彼は宣言せしが、否む事なくして、我キリストに非ずと宣言せり。 043 JOH 001 021 彼等、然らば何ぞや、汝はエリアなるか、と問ひしに、彼、然らずと云ひ、[彼]預言者なるか、と云ひしに、否と答へたり。 043 JOH 001 022 斯て彼等、汝は誰なるぞ、我等を遣はしし人々に答ふる事を得しめよ、自ら己を何と稱するぞ、と云ひしかば、 043 JOH 001 023 彼云ひけるは、我は預言者イザヤの云ひし如く、「汝等主の道を平にせよ」と野に呼はる者の聲なり、と。 043 JOH 001 024 此遣はされし人々はファリザイの徒なりしが、 043 JOH 001 025 又ヨハネに問ひて、然らば汝はキリストにも非ず、エリアにも非ず、[彼]預言者にも非ざるに、何ぞ洗するや、と云ひしに 043 JOH 001 026 ヨハネ答へて云ひけるは、我は水にて洗すれども、汝等の中に、汝等の知らざる一個の人立てり、 043 JOH 001 027 是ぞ我後に來るべき者、我より先にせられたる者にして、我は其履の紐を解くにだも堪へず、と。 043 JOH 001 028 此等の事は、ヨハネの洗しつつありしヨルダン[河]の彼方、ベタニアにて成りき。 043 JOH 001 029 明日ヨハネ、イエズスの己に來り給ふを見て云ひけるは、看よ神の羔を、看よ世の罪を除き給ふ者を。 043 JOH 001 030 我が曾て、我より後に來る者あり、我より先に存したるが故に我より先にせられたり、と云ひて指示ししは是なり。 043 JOH 001 031 我原之を知らざりしかど、水にて洗しつつ來れるは、彼をイスラエルに於て顕れしめん為なり、と。 043 JOH 001 032 ヨハネ又證明して云ひけるは、我は[聖]霊が鳩の如く天より降りて彼の上に止り給ふを見たり。 043 JOH 001 033 我原彼を知らざりしかど、我を遣はして水にて洗せしめ給へえるもの、我に曰ひけらく、汝[聖]霊の降りて人の上に止り給ふを見ば、是ぞ聖霊にて洗する者なる、と。 043 JOH 001 034 斯て我之を目撃して、彼が神の御子たる事を證明したるなり、と。 043 JOH 001 035 第二款 イエズス自らを證明し給ふ 翌日ヨハネ又弟子兩人と共に立ち居て、 043 JOH 001 036 イエズスの歩み給ふを見、看よ神の羔を、と云ひしかば、 043 JOH 001 037 二人の弟子斯く語るを聞きて、イエズスに随行きしに、 043 JOH 001 038 イエズス回顧りて其從へるを見、之に曰ひけるは、汝等何を求むるぞ、と。彼等、ラビ――訳せば師よ――何處に住み給ふぞ、と云ひしかば、 043 JOH 001 039 イエズス、來て見よ、と曰へり、彼等往きてイエズスの住み給ふ處を見、其日は其處に留れり。時は四時頃なりき。 043 JOH 001 040 シモンペトロの兄弟アンデレアは、ヨハネより聞きてイエズスに從ひし兩人の其一人なりしが、 043 JOH 001 041 先其兄弟シモンに出逢ひて之に云ひけるは、我等メッシア――訳せばキリスト――に遇へり、と。 043 JOH 001 042 斯て之をイエズスの許に連來りしに、イエズス之を熟視めて曰ひけるは、汝はヨナの子シモンなり、ケファ――訳せばペトロ――と名けられん、と。 043 JOH 001 043 次日ガリレアに往かんとして、フィリッポに遇ひ給ひしかば、イエズス、我に從へ、と曰ひしが、 043 JOH 001 044 フィリッポは、アンデレアとペトロとの故郷なる、ベッサイダの人なりき。 043 JOH 001 045 フィリッポナタナエルに遇ひて云ひけるは、我等モイゼの律法にも預言者等にも録されし人に遇へり、即ちナザレトのヨゼフの子イエズスなり、と。 043 JOH 001 046 ナタナエル、何等の善き者かナザレトより出づるを得んや、と云ひしかば、フィリッポ、來て見よ、と云へり。 043 JOH 001 047 イエズスナタナエルの己に來るを見給ひ、之を指して、是實に野心なきイスラエル人なり、と曰へば、 043 JOH 001 048 ナタナエル、如何にして我を知り給ふぞ、と云ひしに、イエズス答へて曰ひけるは、フィリッポが汝を呼ぶ前に、我汝が無花果樹の下に居るを見たり、と。 043 JOH 001 049 ナタナエル答へて、ラビ汝は神の御子なり、イスラエルの王なり、と云ひしかば、 043 JOH 001 050 イエズス答へて曰ひけるは、汝が信じたるは、我汝が無花果樹の下に居るを見たりと告げしによりてなり。汝、之よりも更に大いなる事を見ん、と。 043 JOH 001 051 又之に曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、汝等は天開けて神の使等が人の子の上に陟降するを見るべし、と。 043 JOH 002 001 三日目にガリレアのカナに婚筵ありて、イエズスの母其處に居れるに、 043 JOH 002 002 イエズスも弟子等と共に招かれ給へり。 043 JOH 002 003 酒盡きければ、母イエズスに向ひ、彼等酒なし、と云ひしに、 043 JOH 002 004 イエズス、婦人よ、其は我と汝とに何かある、我時未だ來らずと曰ひしかば、 043 JOH 002 005 母は給仕等に向ひて、彼が汝等に言ふ所は、何にもあれ之を為せ、と言置けり。 043 JOH 002 006 然てユデア人が潔の習慣に随ひて、其處に二三斗入の石甕六個備へありしが、 043 JOH 002 007 イエズス給仕等に、水を甕に満てよ、と曰ひければ、彼等口まで満たししに、 043 JOH 002 008 イエズス又、今汲取りて筵司に持行け、と曰ひしかば即ち持行けり。 043 JOH 002 009 筵司、酒に化したる水を嘗むるや、給仕等は其由りて來る所を知れども己は之を知らざれば、新郎を呼び、 043 JOH 002 010 之に向ひて、誰も先佳酒を出して、人々の酔へるに至りて劣れる物を出すに、汝は佳酒を今まで取置けるよ、と云へり。 043 JOH 002 011 是イエズスの奇蹟の始にして、之をガリレアのカナに行ひ、己が光榮を顕し給ひしかば、弟子等之を信仰せり。 043 JOH 002 013 其後イエズス、母、兄弟、及び弟子等と共に、カファルナウムに下り給ひしが、皆其處に留る事久しからざりき。 第一款 イエズス過越祭に上り給ふ 第二項 各地に於る布教 ユデア人の過越祭近づきければ、イエズスエルザレムに上り、 043 JOH 002 014 [神]殿の内にて牛、羊、鴿を売る人々、及び坐せる兩替屋等を見給ひしかば、 043 JOH 002 015 縄を以て鞭めきたる物を作り、彼等を悉く[神]殿より逐出し、羊、牛をも逐出し、兩替屋の金を抛散して其案を覆し、 043 JOH 002 016 鴿を売る人々に向ひて、此物等を取退けよ、我父の家を商買の家と為すな、と曰へり。 043 JOH 002 017 弟子等は、録して「汝の家に對する熱心は我を食盡せり」とあるを思出せり。 043 JOH 002 018 斯てユデア人答へてイエズスに云ひけるは、汝如何なる徴を現して此等の事を為すぞ、と。 043 JOH 002 019 イエズス答へて、汝等此[神]殿を毀て、我三日の中に之を起さん、と曰ひしかば、 043 JOH 002 020 ユデア人云ひけるは、此[神]殿は、造るに四十六年を要せしに、汝三日の中に之を起すべきか、と。 043 JOH 002 021 但しイエズスは、己が體の[神]殿を斥して曰ひしなり。 043 JOH 002 022 然れば死者の中より復活し給へる後、弟子等此曰ひたりし事を思出して、聖書とイエズスの曰ひし御言とを信ぜり。 043 JOH 002 023 イエズス過越の祭日に當りてエルザレムに居給ふ間、多くの人、其為し給へる奇蹟を視て、御名を信じたり。 043 JOH 002 024 然れどイエズスは、此等に身を打任せ給はざりき、其は自ら凡ての人を知り、 043 JOH 002 025 又人の心に在る事を知り給へば、人に就て他人の證明を要し給はざる故なり。 043 JOH 003 001 爰にファリザイ人の中にニコデモと呼ばれて、ユデア人の長だちたる者ありしが、 043 JOH 003 002 夜イエズスの許に至りて云ひけるは、ラビ、我等は汝が神より來りたる教師なる事を知れり、其は何人も、神之と共に在すに非ざれば、汝の為せる如き奇蹟を行ひ得ざればなり。 043 JOH 003 003 イエズス答へて曰ひけるは、誠に眞に汝に告ぐ、人新に生るるに非ずば、神の國を見ること能はず。 043 JOH 003 004 ニコデモ云ひけるは、人既に老いたるに争でか生るる事を得べき、豈再び母の胎内に入て新に生るるを得んや。 043 JOH 003 005 イエズス答へ給ひけるは、誠に實に汝に告ぐ、人は水と霊とより新に生るるに非ずば、神の國に入る事能はず。 043 JOH 003 006 肉より生れたる者は肉なり、霊より生れたる者は霊なり。 043 JOH 003 007 汝等再び生れざるべからずと我が汝に告げたるを怪しむこと勿れ。 043 JOH 003 008 風は己が儘なる處に吹く、汝其聲を聞くと雖も、何處より來りて何處に往くかを知らず、総て霊より生れたる者も亦然り、と。 043 JOH 003 009 ニコデモ答へて、此等の事如何にしてか成り得べき、と云ひしかば、 043 JOH 003 010 イエズス答へて曰ひけるは、汝はイスラエルに於て師たる者なるに、是等の事を知らざるか。 043 JOH 003 011 誠に實に汝に告ぐ、我等は知れる所を語り、見たる所を證す、然れど汝等は其證言を承けざるなり。 043 JOH 003 012 我が地上の事を語りてすら汝等は信ぜざるものを、天上の事を語るとも争でか之を信ぜんや。 043 JOH 003 013 天より降りたるもの、即ち天に在る人の子の外は、誰も天に昇りしものなし。 043 JOH 003 014 又モイゼが荒野にて蛇を揚げし如く、人の子も必ず揚げらるべし、 043 JOH 003 015 是総て之を信仰する人の、亡びずして永遠の生命を得ん為なり。 (aiōnios g166) 043 JOH 003 016 蓋神の此世を愛し給へる事は、御獨子を賜ふ程にして、是総て之を信仰する人の亡びずして永遠の生命を得ん為なり。 (aiōnios g166) 043 JOH 003 017 即ち神が御子を此世に遣はし給ひしは、世を審判せしめん為に非ず、世が彼に由りて救はれん為なり。 043 JOH 003 018 彼を信仰する人は審判せられず、信ぜざる人は既に審判せられたり、其は神の御獨子の御名を信ぜざればなり。 043 JOH 003 019 審判とは是なり、即ち光既に世に來りたるに、人は己の行の惡き為に、光よりも寧暗を愛したるなり。 043 JOH 003 020 総て惡を為す人は光を憎み、己が行を責められじとて光に來らず。 043 JOH 003 021 然れど眞理を行ふ人は、己が行の顕れん為に光に來る、其は神の内に行はれたればなり、と。 043 JOH 003 022 第二款 イエズスユデアに留り給ふ 其後イエズス弟子等とユデア地方に至り、共に留りて洗し居給ひしが、 043 JOH 003 023 ヨハネもサリムに近きエンノンに水多かりければ、其處にて洗しつつあり、人々來りて洗せられ居たり。 043 JOH 003 024 即ちヨハネ未だ監獄に入れられざりしなり。 043 JOH 003 025 然るにヨハネの弟子等とユデア人との間に、洗禮に就きて議論起りしかば、 043 JOH 003 026 彼等ヨハネの許に來りて云ひけるは、ラビ、ヨルダン[河]の彼方に汝と共に在りし時、汝より證明せられたる彼人は、今自ら洗して、人皆之に趣くなり、と。 043 JOH 003 027 ヨハネ答へて云ひけるは、人は天より賜はりたるに非ずば、何物をも自ら受くる能はず、 043 JOH 003 028 汝等自ら我に就きて證する如く、我曾て、我はキリストに非ず、唯其先に遣はされたるのみ、と告げたりき。 043 JOH 003 029 新婦を有てる人こそ新郎なれ。然て新郎の友として立ちて之に聞く人は、新郎の聲の為に喜びに喜ぶ。然れば我此喜は円満なり。 043 JOH 003 030 彼は榮ゆべく我は衰ふべし。 043 JOH 003 031 上より來れる人は衆人に上たり、地よりの人は地に属して地上の事を語る、天より來れる人は衆人に上たるなり。 043 JOH 003 032 彼は其親ら見且聞きし所を證すと雖も、一人も其證言を承けず、 043 JOH 003 033 其證言を承けたる人は、神の眞實にて在す事を證印せる者なり。 043 JOH 003 034 即ち神の遣はし給ひし者は神の御言を語る、神は[聖]霊を賜ふに制限なければなり。 043 JOH 003 035 父は御子を愛して萬物を其手に賜へり。 043 JOH 003 036 御子を信仰する人は永遠の生命を有す。然れど御子を信ぜざる人は生命を見ざるべく、神の怒却て彼が上に止る、と。 (aiōnios g166) 043 JOH 004 001 第三款 イエズスサマリアを過り給ふ 時にイエズス、己が弟子を造り人を洗する事、ヨハネよりも多き由の、ファリザイ人の耳に入りしを知り給ひしかば、 043 JOH 004 002 ――但洗せるはイエズスに非ずして、其の弟子等なりき―― 043 JOH 004 003 ユデアを去りて再びガリレアに往き給へり。 043 JOH 004 004 然るにサマリアを通らざるを得ざりしければ、 043 JOH 004 005 ヤコブが其子ヨゼフに與へし土地に近き、サマリアのシカルと云へる町に至り給ひしが、 043 JOH 004 006 此處にヤコブの井ありけるに、イエズス旅に疲れて、其儘井の上に坐し給へり、時は十二時頃なりき。 043 JOH 004 007 爰にサマリアの一人の婦、水汲みに來りしかば、イエズス之に向ひて、我に飲ませよ、と曰へり。 043 JOH 004 008 是弟子等は食物を買はんとて町に往きたればなり。 043 JOH 004 009 其時サマリアの婦云ひけるは、汝はユデア人なるに、何ぞサマリアの婦なる我に飲物を求むるや、と。是ユデア人はサマリア人と交らざる故なり。 043 JOH 004 010 イエズス答へて曰ひけるは、汝若神の賜を知り、又我に飲ませよと汝に云へる者の誰なるかを知らば、必ず彼に求め、彼は活ける水を汝に與へしならん。 043 JOH 004 011 婦云ひけるは、君よ、汝は汲む物を有たず、井は深し、然るを何處よりして活ける水を有てるぞ。 043 JOH 004 012 我等が父ヤコブ此井を我等に與へ、自らも其子等も其家畜も之より飲みしが、汝は彼より優れる者なるか。 043 JOH 004 013 イエズス答へて曰ひけるは、総て此水を飲む者は復渇くべし、 043 JOH 004 014 然れども我が與へんとする水を飲む者は永遠に渇かず、我が之に與ふる水は、却て彼に於て、永遠の生命に湧出づる水の源となるべし。 (aiōn g165, aiōnios g166) 043 JOH 004 015 婦云ひけるは、君よ、我が渇く事なく此處に汲みにも來らざる様、其水を我に與へよ。 043 JOH 004 016 イエズス曰ひけるは、往きて夫を呼來れ。 043 JOH 004 017 婦答へて、我は夫なし、と云ひしかば、イエズス曰ひけるは、善くこそ夫なしと云ひたれ、 043 JOH 004 018 夫は五人まで有ちたりしに、今あるは汝の夫に非ず、汝が然云ひしは實なり。 043 JOH 004 019 婦云ひけるは、君よ、我観るに、汝は預言者なり。 043 JOH 004 020 我等が先祖は此山にて禮拝したるに、汝等は云ふ、禮拝すべき處はエルザレムなりと。 043 JOH 004 021 イエズス曰ひけるは、婦よ、我を信ぜよ、汝等が此山となくエルザレムとなく、父を禮拝せん時來るなり。 043 JOH 004 022 汝等は知らざる者を禮拝し、我等は知りたる者を禮拝す、救はユデア人の中より出づればなり。 043 JOH 004 023 然て眞の禮拝者が、霊と實とを以て父を禮拝すべき時來る、今既に其時なり。其は父も、斯く己を禮拝する人を求め給へばなり。 043 JOH 004 024 神は霊にて在せば、之を禮拝する人は、霊と實とを以て禮拝せざるべからず、と。 043 JOH 004 025 婦イエズスに謂ひけるは、我はメッシア(所謂キリスト)の來るを知る。然れば彼來らば萬事を我等に告ぐべし。 043 JOH 004 026 イエズス之に曰ひけるは、汝と語りつつある我、即ち其なり、と。 043 JOH 004 027 軈て弟子等來り、イエズスの婦と語り給へるを怪しみしかど、誰も何をか求め何故彼と語り給ふ、と云ふ者なかりき。 043 JOH 004 028 斯て婦、其水瓶を遺して町に往き、其處なる人々に向ひ、 043 JOH 004 029 來て見よ、我が為しし事を殘らず我に云ひたる人を、是はキリストならんか、と云ひしかば、 043 JOH 004 030 彼等町より出でてイエズスの許に來れり。 043 JOH 004 031 其隙に弟子等イエズスに請ひて、ラビ食し給へ、と云ひしに、 043 JOH 004 032 曰ひけるは、我には汝等の知らざる食物の食すべきあり、と。 043 JOH 004 033 弟子等、誰か食物を持來りしぞ、と云ひ合へるを、 043 JOH 004 034 イエズス曰ひけるは、我が食物は、我を遣はし給ひし者の御旨を行ひて其業を全うする事是なり。 043 JOH 004 035 汝等は、尚四箇月の間あり、其後収穫の時來る、と云ふに非ずや。我汝等に告ぐ、目を翹げて田畑を見よ、最早穫取るべく白みたり。 043 JOH 004 036 穫る人は報を受けて永遠の生命に至るべき果を収むれば、捲く人も穫る人も共に喜ぶべし。 (aiōnios g166) 043 JOH 004 037 諺に一人は撒き一人は穫ると云へる事、是に於て乎實なり。 043 JOH 004 038 我汝等を遣はして、勞作せざりし物を穫らしめたり。即ち他の人前に勞作して、其勞作したる所を、汝等が承継ぎたるなり、と。 043 JOH 004 039 然て彼町にては、彼人我が為しし事を殘らず我に告げたり、と證したる婦の言によりて、多くのサマリア人イエズスを信ぜしかば、 043 JOH 004 040 人々御許に來りて、此處に留り給はんことを請へり、然れば此處に留り給ふ事二日にして、 043 JOH 004 041 尚多くの人御言によりて之を信仰せり。 043 JOH 004 042 斯て彼婦に向ひ、我等は最早汝の語る所によりて信ずる者に非ず、即ち自ら彼に聴きて、其眞に救世主たる事を知れり、と云ひ居たり。 043 JOH 004 043 第四款 イエズスガリレアに至り給ふ 然るに二日の後、イエズス其處を出でてガリレアに往き給へり。 043 JOH 004 044 預言者其本國に尊ばれず、と自ら證し給ひしが、 043 JOH 004 045 ガリレアに至り給ひしに、ガリレア人は、曾て祭日にエルザレムにて行ひ給ひし一切の事を見たりければ、イエズスを歓迎せり、其は彼等も祭日に往きてありしなり。 043 JOH 004 046 斯てイエズス再び、嚮に水を酒に化し給ひしガリレアのカナに至り給ひしに、一人の王官あり、其子カファルナウムにて病み居ければ、 043 JOH 004 047 イエズスユデアよりガリレアに來給ふと聞きて、御許に至り、下りて己が子を醫し給はん事を切に願ひ居たり、彼将に死なんとすればなり。 043 JOH 004 048 イエズス之に曰ひけるは、汝等は徴と奇蹟とを見ざれば信ぜず、と。 043 JOH 004 049 官人イエズスに向ひて、主よ、我子の死なざる前に下り來給へ、と云ひしに、 043 JOH 004 050 イエズス、往け、汝の子活く、と曰ひしかば、此人イエズスの己に曰ひし御言を信じて往きたり。 043 JOH 004 051 然て下る途に、僕等行逢ひて、其子の活きたる由を告げければ、 043 JOH 004 052 其回復せし時刻を問ひしに、彼等、昨日の午後一時に熱去れり、と云ふにぞ、 043 JOH 004 053 父は恰もイエズスが汝の子活くと己に曰ひしと同時なりしを知り、其身も一家も挙りて信仰せり。 043 JOH 004 054 此第二の奇蹟は、イエズスユデアよりガリレアに至り給ひし時に行ひ給ひしなり。 043 JOH 005 001 第一款 イエズス祭日に上り給ふ 其後ユデア人の祭日ありしかば、イエズスエルザレムに上り給へり。 043 JOH 005 002 然てエルザレムには、羊門の傍に、ヘブレオ語にてベテスダと云へる池あり、之に付属せる五の廊ありて、 043 JOH 005 003 其内に夥しき病人、瞽者、跛者、癱瘋者等偃して水の動くを待ち居れり。 043 JOH 005 004 其は時として主の使池に下り、水為に動く事あり、水動きて後、眞先に池に下りたる者は如何なる病に罹れるも痊ゆればなり。 043 JOH 005 005 茲に卅八年來病を患ふる人ありしが、 043 JOH 005 006 イエズス彼が偃せるを見、且其患ふる事の久しきを知り給ひしかば、汝痊えん事を欲するか、と曰ひしに、 043 JOH 005 007 病者答へけるは、君よ、水の騒ぐ時に我を池に入るる人なし、然れば我が往く中に他の人我に先ちて下るなり、と。 043 JOH 005 008 イエズス之に向ひ、起きよ、汝の寝台を取りて歩め、と曰へば、 043 JOH 005 009 其人忽ち痊え、寝台を取りて歩みたり。其日は安息日なりければ、 043 JOH 005 010 ユデア人其痊えたる人に向ひ、安息日なり、汝寝台を携ふべからず、と云へるを、 043 JOH 005 011 彼は、我を醫しし人、汝の寝台を取りて歩めと云ひたるなり、と答へければ、 043 JOH 005 012 彼等、汝に寝台を取りて歩めと云ひし人は誰ぞ、と問ひたれど、 043 JOH 005 013 痊えたる人は其誰なるを知らざりき、其はイエズス既に此場の雑踏を避け給ひたればなり。 043 JOH 005 014 後イエズス[神]殿にて彼に遇ひ、看よ、汝は醫されたり、復罪を犯すこと勿れ、恐らくは尚大いなる禍汝に起らん、と曰ひけるに、 043 JOH 005 015 彼人往きて、己を醫ししはイエズスなりとユデア人に告げしかば、 043 JOH 005 016 ユデア人は、安息日に斯る事を為し給ふとて、イエズスを譴め居たり。 043 JOH 005 017 イエズス、我父は今に至るまで働き給へば、我も働くなり、と答へ給ひければ、 043 JOH 005 018 ユデア人愈イエズスを殺さんと謀れり、其は啻に安息日を冒し給ふのみならず、神を我父と稱して、己を神と等しき者とし給へばなり。然ればイエズス答へて彼等に曰ひけるは、 043 JOH 005 019 誠に實に汝等に告ぐ、父の為し給ふ事を見る外に、子は自ら何事をも為す能はず。蓋総て父の為し給ふ事は、子も亦同じく之を為す。 043 JOH 005 020 即ち父は子を愛して、自ら為し給ふ所を悉く之に示し給ふ、又更に汝等が驚くばかり、一層大いなる業を之に示し給はんとす。 043 JOH 005 021 蓋父が死人を起して活かし給ふ如く、子も亦我が思ふ者を活かすなり。 043 JOH 005 022 又父は誰をも審判し給はず、審判を悉く子に賜ひたり。 043 JOH 005 023 是人皆父を尊ぶ如く子を尊ばん為なり。子を尊ばざる人は、之を遣はし給ひし父を尊ばざる者なり。 043 JOH 005 024 誠に實に汝等に告ぐ、我言を聴きて我を遣はし給ひし者を信ずる人は、永遠の生命を有し、且審判に至らずして、死より生に移りたる者なり。 (aiōnios g166) 043 JOH 005 025 誠に實に汝等に告ぐ、時は來る、今こそ其よ、即ち死人は神の子の聲を聞くべく、之を聴きたる人は活くべし。 043 JOH 005 026 蓋父は生命を己の衷に有し給ふ如く、子にも亦生命を己の衷に有する事を得させ給へり。 043 JOH 005 027 且人の子たるにより、審判する権能を之に賜ひしなり。 043 JOH 005 028 汝等之を怪しむ勿れ、墓の中なる人悉く神の子の聲を聞く時來らんとす。 043 JOH 005 029 斯て善を為しし人は、出でて生命に至らんが為に復活し、惡を行ひし人は、審判を受けんが為に復活せん。 043 JOH 005 030 我自らは何事をも為す能はずして、聞くが儘に審判す、而も我審判は正當なり、其は我己が意を求めず、我を遣はし給ひし者の思召を求むればなり。 043 JOH 005 031 我若自ら己を證明せば、我が證明は眞ならずとも、 043 JOH 005 032 我為に證明する者他にあり、而して我其わが為に作す證明の眞なるを知れり。 043 JOH 005 033 汝等曾て人をヨハネに遣はししに、彼は眞理を證明せり。 043 JOH 005 034 我は人よりの證明を受くる者に非ざれども、之を語るは汝等の救はれん為なり。 043 JOH 005 035 彼は燃え且輝ける燈なりしが、汝等は暫時其明によりて樂しまんとせり。 043 JOH 005 036 然れども我はヨハネのに優りて大いなる證明を有す。即ち父が全うせよとて我に授け給ひし業、我が為しつつある業其物が、父の我を遣はし給ひし事を證するなり。 043 JOH 005 037 我を遣はし給ひし父も、亦自ら我為に證し給ひしなり、然れど汝等は曾て御聲を聞きし事なく、御姿を見し事なく、 043 JOH 005 038 又御言を心に留むる事なし、是其遣はし給ひし者を信ぜざればなり。 043 JOH 005 039 汝等は聖書に永遠の生命を有すと思ひて之を探る、彼等も亦我を證明するものなり、 (aiōnios g166) 043 JOH 005 040 然れど汝等は生命を得ん為我許に來る事を肯ぜず。 043 JOH 005 041 我は名誉を人より受くる者に非ず、 043 JOH 005 042 而も汝等を知れり、即ち汝等は心に神を愛する事あらざるなり。 043 JOH 005 043 我は我父の名に由りて來れるに、汝等は我を承けず、若外に己の名に由りて來る人あらば、之をば承くるならん。 043 JOH 005 044 互に名誉を受けて、而も唯一の神より出づる名誉を求めざる汝等なれば、豈信ずることを得んや。 043 JOH 005 045 我汝等を父の御前に訟へんとすと思ふこと勿れ、汝等を訟ふる者あり、汝等が恃めるモイゼ是なり。 043 JOH 005 046 汝等若モイゼを信ずるならば、必ず我をも信ずるならん、其は彼我事を録したればなり。 043 JOH 005 047 然れど若彼の書を信ぜずば、争でか我言を信ぜんや、[と曰へり]。 043 JOH 006 001 第二款 イエズスガリレアにて信仰の激變を起させ給ふ 其後イエズス往きて、ガリレアの湖、即ちチベリアデの湖の彼方へ渡り給ひしに、 043 JOH 006 002 病める人々に為し給へる奇蹟を見て、群衆夥しく從ひければ、 043 JOH 006 003 山に引退きて、弟子等と共に其處に坐し居給へり。 043 JOH 006 004 時はユデア人の過越の祭日近き頃なりき。 043 JOH 006 005 イエズス目を翹げて、無數の群衆の我許に來るを見給ひしかば、フィリッポに曰ひけるは、此人々の食すべき麪を我等何處より買ふべきか、と。 043 JOH 006 006 斯く曰へるは、彼を試み給はん為なりき、蓋自らは其為さんとする所を知り給へるなり。 043 JOH 006 007 フィリッポ答へけるは、二百デナリオの麪は、各些少づつを受くるも、此人々には足らざるなり、と。 043 JOH 006 008 弟子の一人なる、シモン、ペトロの兄弟アンデレア、イエズスに向ひて、 043 JOH 006 009 茲に一人の童子あり、大麦の麪五と魚二とを有てり、然れど斯く夥しき人の中に、其が何になるぞ、と云ひしかば、 043 JOH 006 010 イエズス、人々を坐せしめよ、と曰ひ、此處に草多かりければ、男子等坐したるに、其數五千人許なりき。 043 JOH 006 011 イエズス軈て麪を取り、謝し給ひて後、坐せる人々に分ち、魚をも彼等の欲するに任せて分ち給へり。 043 JOH 006 012 人々満腹せし時、イエズス弟子等に向ひ、殘れる屑を遺らざる様に拾へ、と曰ひしかば、 043 JOH 006 013 食せし人々の餘したる五の大麦の麪の屑を拾ひて、十二の筐に満たせり。 043 JOH 006 014 斯て人々、イエズスの為し給ひたる奇蹟を見て、實に是ぞ此世に來るべき預言者なる、と云ひしが、 043 JOH 006 015 イエズス彼等の将に己を執へて王と為さんとするを暁り給ひしかば、復獨り山に逃れ給へり。 043 JOH 006 016 日没に及び、弟子等湖に下りて、 043 JOH 006 017 船に乗り、カファルナウムに向ひて湖を渡るに、既に暗けれどもイエズス未だ彼等の處に來り給はず、 043 JOH 006 018 湖は大風吹きて荒れ居たり。 043 JOH 006 019 斯て約四五十町も漕出したる時、人々イエズスの水の上を歩みて船に近づき給ふを見て怖れしが、 043 JOH 006 020 イエズス我なるぞ、怖るること勿れ、と曰ひしかば、 043 JOH 006 021 彼等之を船に乗せんとしたるに、船は忽ち之く所の地に着けり。 043 JOH 006 022 明日に至りて、湖の此方に立てる群衆、船は一艘の外あらざりしに、イエズス弟子等と共に其船に入り給はずして、弟子等のみ往きし事を認めたり。 043 JOH 006 023 折しも別の船等チベリアデより來り、主の謝し給ひて己等が麪を食せし處に近く着きしかば、 043 JOH 006 024 人々イエズスと弟子等との其處に在らざるを見て其船に乗り、イエズスを尋ねてカファルナウムに至れり。 043 JOH 006 025 斯て彼等湖を渡り、イエズスを見付けて、ラビ何時此處に來り給ひしぞ、と云ひしかば、 043 JOH 006 026 イエズス彼等に答へて曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、汝等が我を尋ぬるは、奇蹟を見し故に非ず、麪を食して飽足りし故なり。 043 JOH 006 027 働く事は朽つる糧の為にせずして、永遠の生命に至るまで存する糧、即ち人の子が汝等に與へんとする糧の為にせよ、其は父なる神彼を證印し給ひたればなり、と。 (aiōnios g166) 043 JOH 006 028 是に於て人々イエズスに向ひ、神の業を働かん為には、我等何を為すべきぞ、と云ひしに、 043 JOH 006 029 イエズス答へて曰ひけるは、汝等其遣はし給ひし者を信ずるは、是神の業なり、と。 043 JOH 006 030 是に於て彼等又言ひけるは、然らば我等をして見て汝を信ぜしめん為に、如何なる徴を為し何を行ひ給ふぞ。 043 JOH 006 031 我等が先祖は荒野にてマンナを食せり、録して「彼等に天よりの麪を與へて食せしめ給へり」とあるが如し、と。 043 JOH 006 032 其時イエズス彼等に曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、モイゼは天よりの麪を汝等に與へず、我父こそ天よりの眞の麪を汝等に賜ふなれ。 043 JOH 006 033 蓋神の麪とは、天より降りて世に生命を與ふるもの是なり、と。 043 JOH 006 034 斯て人々、主よ、此麪を恒に我等に與へよ、と云ひしかば、 043 JOH 006 035 イエズス曰ひけるは、我は生命の麪なり、我に來る人は飢ゑず、我を信ずる人は、何時も渇かざるべし。 043 JOH 006 036 然れども我が既に汝等に告げし如く、汝等は我を見たれども、猶信ぜざるなり。 043 JOH 006 037 総て父の我に賜ふ者は我に來らん、我に來る人は我之を逐出さじ、 043 JOH 006 038 是我が天より降りしは、我意を成さん為に非ずして、我を遣はし給ひし者の思召を成さん為なればなり。 043 JOH 006 039 然て我を遣はし給ひし父の思召は、総て我に賜ひし者を我毫も失はずして、終の日に之を復活せしむべき事是なり。 043 JOH 006 040 又我を遣はし給ひし我父の思召は、総て子を見て之を信仰する人は永遠の生命を得ん事是なり。斯て我終の日に之を復活せしむべし、と。 (aiōnios g166) 043 JOH 006 041 是に於てイエズスが、我は天より降りたる麪なり、と曰ひし為に、ユデア人等彼に就きて呟きつつ、 043 JOH 006 042 是ヨゼフの子イエズスにして、其父母は我等が知れる者ならずや。然るを如何ぞ、我は天より降れりと云ふや、と云ひければ、 043 JOH 006 043 イエズス答へて曰ひけるは、汝等呟き合ふこと勿れ、 043 JOH 006 044 我を遣はし給ひし父の引き給ふに非ずば、何人も我に來る事を得ず、[來る人は]我終の日に之を復活せしめん。 043 JOH 006 045 預言者等[の書]に録して、「皆神に教へらるる者とならん」とあり。父に聴きて學べる人は皆我に來る、 043 JOH 006 046 父を人の見奉りしには非ず、惟神より成る者のみ父を見奉りたるなり。 043 JOH 006 047 誠に實に汝等に告ぐ、我を信ずる人は永遠の生命を有す。 (aiōnios g166) 043 JOH 006 048 我は生命の麪なり。 043 JOH 006 049 汝等の先祖は、荒野にマンナを食して死せしが、 043 JOH 006 050 是は天より降る麪にして、人之を食せば死せざらん為なり。 043 JOH 006 051 我は天より降りたる活ける麪なり。人若此わが麪を食せば永遠に活くべし。 而して我が與へんとする麪は、此世を活かさん為の我肉なり、と。 (aiōn g165) 043 JOH 006 052 是に於てユデア人等相争ひ、此人争でか己が肉を我等に與へて食せしむるを得んや、と云ひしかば、 043 JOH 006 053 イエズス曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、汝等人の子の肉を食せず其血を飲まずば、汝等の衷に生命を有せざるべし。 043 JOH 006 054 我肉を食し我血を飲む人は永遠の生命を有す、而して我終の日に之を復活せしむべし。 (aiōnios g166) 043 JOH 006 055 蓋我肉は實に食物なり。我血は實に飲物なり。 043 JOH 006 056 我肉を食し我血を飲む人は我に止り、我も亦之に止る。 043 JOH 006 057 活ける父我を遣はし給ひて、我父に由りて活くる如く、我を食する人も亦我に由りて活きん。 043 JOH 006 058 是ぞ天より降りし麪なる、汝等の先祖がマンナを食して然も死せしが如くならず、此麪を食する人は永遠に活くべし、と。 (aiōn g165) 043 JOH 006 059 イエズスカファルナウムなる會堂の内にて教へつつ斯く曰ひしに、 043 JOH 006 060 弟子等の中には、之を聞きて、此談は難し、誰か之を聴くことを得ん、と謂ふ者多かりしが、 043 JOH 006 061 イエズス彼等が之に就きて呟けるを自ら知りて曰ひけるは、此事汝等を躓かしむるか、 043 JOH 006 062 然れば汝等若人の子が原居りし處に昇るを見ば如何、 043 JOH 006 063 活かすものは霊にして、肉は益する所なし、我が汝等に語りし言は霊なり生命なり。 043 JOH 006 064 然れども汝等の中には信ぜざる者あり、と。是イエズス素より、信ぜざる人々の誰なるか、己を売るべき人の誰なるかを知り居給へばなり。 043 JOH 006 065 斯て曰ひけるは、然ればこそ我曾て、人は我父より賜はりたるに非ずば我に來ることを得ず、と汝等に告げたるなれ、と。 043 JOH 006 066 此後は、弟子等多く退きて、最早イエズスと共に歩まざりしかば、 043 JOH 006 067 イエズス十二人に向ひ、汝等も去らんと欲するか、と曰ひしに、 043 JOH 006 068 シモン、ペトロ答へけるは、主よ、我等誰にか之かん、汝こそ永遠の生命の言を有し給ふなれ。 (aiōnios g166) 043 JOH 006 069 我等は汝が神の御子キリストなる事を信じ且暁れり、と。 043 JOH 006 070 イエズス彼等に答へ給ひけるは、我汝等十二人を選みしに非ずや、然るに汝等の一人は惡魔なり、と。 是はシモンの子イスカリオテのユダを曰へるものにて、彼は十二人の一人ながら、イエズスを売るべき者なればなり。 043 JOH 007 001 第一款 幕屋祭に往き給ふ ユデア人が殺さんと謀れるに因り、イエズス其後はユデアを巡ることを好み給はず、ガリレアを巡り給ひしが、 043 JOH 007 002 ユデア人の幕屋の祝日近づきければ、 043 JOH 007 003 兄弟等イエズスに向ひ、汝の行へる業を弟子等に見せん為、此處を去りてユデアに往け、 043 JOH 007 004 蓋公に知れん事を求めながら、而も窃に事を為す人はあらず、斯る事を為す上は己を世を顕せかし、と云へり。 043 JOH 007 005 是其兄弟等も之を信ぜざりし故なり。 043 JOH 007 006 然ればイエズス彼等に曰ひけるは、汝等の時は恒に備はれども、我時は未だ至らず、 043 JOH 007 007 世は汝等を憎む能はざるに我をば憎めり、其は我之に就きて、其所業の惡きことを證すればなり、 043 JOH 007 008 汝等は此祭日に上れ、我時未だ満たざれば、我は此祭日に上らず、と。 043 JOH 007 009 斯く曰ひてガリレアに留り給ひしが、 043 JOH 007 010 兄弟等の上りたる後、自らも顕ならず忍びたる様にて祭日に上り給へり。 043 JOH 007 011 然れば祭日に當りて、ユデア人、彼は何處に居るぞとて之を探し、 043 JOH 007 012 又群衆の中に之に就きて囁く者多かりき。即ち或人は彼は善人なりと謂ひ、或人は否人民を惑はすのみと謂ひ居たり、 043 JOH 007 013 然れど孰もユデア人の懼ろしさに、彼に就きて顕に語る人なかりき。 043 JOH 007 014 斯て祭日の半に、イエズス[神]殿に上りて教へ給ひければ、 043 JOH 007 015 ユデア人驚嘆して、彼曾て學ばざるに如何にして文字を知れるぞ、と云ひ居たるを、 043 JOH 007 016 イエズス彼等に答へて曰ひけるは、我教は我のに非ず、我を遣はし給ひし者の[教]なり。 043 JOH 007 017 其思召を肯て為さん人は、此教が神よりせるか又は我が私を以て言へるかを暁らん。 043 JOH 007 018 己が私を以て語る人は己の光榮を求むれども、己を遣わしし者の光榮を求むる人は、眞實にして衷に不義ある事なし。 043 JOH 007 019 モイゼは律法を汝等に授けしに、汝等の中に之を行ふ者なきは何ぞや、 043 JOH 007 020 汝等如何ぞ我を殺さんとは謀る、と。群衆答へて、汝は惡魔に憑かれたり、誰か汝を殺さんとはする、と云ひしかば、 043 JOH 007 021 イエズス答へて曰ひけるは、我一の業を為ししに汝等皆之を訝れり、 043 JOH 007 022 夫モイゼ割禮を汝等に授けたれば、――モイゼより出しに非ずして先祖より出でたるものなるに、――汝等安息日にも人に割禮を行ひ、 043 JOH 007 023 モイゼの律法を破らじとて、人は安息日にも割禮を受くるに、我が安息日に人の全身を醫したればとて、汝等の我を憤るは何ぞや。 043 JOH 007 024 外見によりて是非すること無く、正しき判断によりて是非を定めよ、と。 043 JOH 007 025 是に於てエルザレムの或人々言ひけるは、是人々が殺さんと謀れる者に非ずや、 043 JOH 007 026 看よ公然と談話すれども人は之に何をも言はず。司等は彼がキリストたる事を眞に認めたるか、 043 JOH 007 027 然りながら我等は此人の何處の者なるかを知れり、キリストの來る時には其何處よりせるかを知る人あらじ、と。 043 JOH 007 028 然るにイエズス神殿にて呼はりつつ教へて曰ひけるは、汝等は我を知り、亦我が何處より來れるかを知れり、然れども我は己によりて來りたるには非ず、我を遣はし給ひし者は眞實にて在す、汝等は之を知らず、 043 JOH 007 029 我は之を知れり、其は我彼より出でて、彼我を遣はし給ひたればなり、と。 043 JOH 007 030 是に於て彼等イエズスを捕へんと謀れども、誰も手を掛くる者なかりき、其は彼が時未だ至らざればなり。 043 JOH 007 031 然れど人民の中には之を信じたる者多く、キリスト來ればとて豈此人の為すより多くの奇蹟を為さんや、と云ひ居たり。 043 JOH 007 032 人民がイエズスに就きて斯く囁ける由ファリザイ人の耳に入りしかば、司祭長とファリザイ人とは、下役等を遣はしてイエズスを捕へしめんとせしを、 043 JOH 007 033 イエズス彼等に曰ひけるは、我尚暫く汝等と共に居て、然て我を遣し給し者の御許に之かんとす、 043 JOH 007 034 汝等我を尋ぬべけれど而も我に遇はじ、我が居る處には汝等來る事能はず、と。 043 JOH 007 035 是に於てユデア人等語合ひけるは、我等彼に遇はじとて、彼は何處に往かんとするぞ、異邦人の中に散在せる同邦人の許に往きて、異邦人を教へんとするか、 043 JOH 007 036 其言に、汝等我を尋ぬべけれど而も我に遇はじ、我が居る處には汝等來る事能はず、と云ひしは何事ぞや、と。 043 JOH 007 037 祭の終の日、即ち其大祭日に、イエズス立ちて呼はりつつ曰ひけるは、渇ける人あらば我許に來りて飲め、 043 JOH 007 038 我を信ずる人は、聖書に云へる如く、活ける水の川其腹より流出づべし、と。 043 JOH 007 039 斯く曰ひしは、己を信ずる人々に賜はるべき[聖]霊の事なりき、其はイエズス未だ光榮を受け給はざるにより、[聖]霊は未だ賜はざりしが故なり。 043 JOH 007 040 斯て彼群衆の中に、是等の言を聞きて、是眞に彼預言者なり、と謂ふ人あり、 043 JOH 007 041 是キリストなり、と謂ふ人もありき。然れど或人は、キリストはガリレアより出づべき者なるか、 043 JOH 007 042 聖書にキリストはダヴィドの裔より、又ダヴィドの居たりしベトレヘムの町より出づ、と云へるに非ずや、と云ひつつ、 043 JOH 007 043 イエズスに就きて群衆の中に諍論を生じたり。 043 JOH 007 044 中にはイエズスを捕へんと欲する者ありたれど、誰も手を掛くる者なかりき。 043 JOH 007 045 然れど下役等は、司祭長とファリザイ人との許に還りしに、何ぞ彼を引來らざる、と云はれて、 043 JOH 007 046 下役等、此人の如く語りし人は未だ曾てあらず、と答へしかば、 043 JOH 007 047 ファリザイ人答へけるは、汝等も亦惑はされしか、 043 JOH 007 048 長及びファリザイ人の中に、一人だも彼を信じたる者ありや、 043 JOH 007 049 然れど律法を知らざる彼群衆は詛はれたる者なり、と。 043 JOH 007 050 曾て夜イエズスに至りし彼ニコデモは、其中の一人なりしが、彼等に向ひて、 043 JOH 007 051 我律法は、先其人にも聴糺さず、其為す所をも知らずして、之を罪に定むるものなるか、と云ひしかば、 043 JOH 007 052 彼等答へて云ひけるは、汝も亦ガリレア人なるか、聖書を探り見よ、然て預言者はガリレアより起るものに非ずと暁れ、と。 043 JOH 007 053 斯て各自宅に歸れり。 043 JOH 008 001 イエズス、橄欖山に往き、 043 JOH 008 002 黎明に復[神]殿に至り給ひしに、人民皆御許に來りければ、坐して之を教へ居給ひしが、 043 JOH 008 003 律法學士、ファリザイ人等、姦淫せる時捕へられたる一人の婦を引來りて之を眞中に立たせ、 043 JOH 008 004 イエズスに云ひけるは、師よ、此婦は今姦淫せる處を捕へられたり、 043 JOH 008 005 モイゼは律法に於て斯る者に石を擲つ事を我等に命じたるが、汝は之を何と謂ふぞ、と。 043 JOH 008 006 斯く云へるは、イエズスを試みて、訟ふる條件を得ん為なりしが、イエズスは身を屈め、指もて地に物を書き居給へり。 043 JOH 008 007 然るに彼等問ひて止まざりしかば、イエズス立上り、汝等の中罪なき人は、先に石を彼に擲つべし、と曰ひ、 043 JOH 008 008 再び身を屈めて地に物書き居給へるに、 043 JOH 008 009 彼等聞きて、年長を初として一人々々に立去り、唯イエズスと眞中に立てる婦とのみ遺りしかば、 043 JOH 008 010 イエズス立上りて之に曰ひけるは、婦よ、汝を訟へ居たりし人々は何處に居るぞ、誰も汝を罪に定めざりしか、と。 043 JOH 008 011 婦、主よ誰も、と云ひしかば、イエズス曰ひけるは、我も汝を罪に定めじ、往け、此後復罪を犯すこと勿れ、と。 043 JOH 008 012 然てイエズス再び人々に語りて、我は世の光なり、我に從ふ人は暗黒を歩まず、却て生命の光を得べし、と曰ひければ、 043 JOH 008 013 ファリザイ人之に謂ひけるは、汝は自ら己を證明す、汝の證明は眞實ならず。 043 JOH 008 014 イエズス答へて曰ひけるは、我は己を證明すれども、我證明は眞實なり、是我が何處より來りて何處に往くかを知ればなり。然れど汝等は、我が何處より來りて何處に往くかを知らず、 043 JOH 008 015 汝等は肉親によりて是非し、我は誰をも是非せず、 043 JOH 008 016 若是非する事あれば、我が是非する所は眞實なり、其は我獨に非ずして我と我を遣はし給ひし父となればなり。 043 JOH 008 017 汝等の律法に録して、「二人の證は眞實なり」とあり、 043 JOH 008 018 我は己を證し、我を遣はし給ひし父も亦我を證し給ふなり、と。 043 JOH 008 019 彼等乃ちイエズスに向ひ、汝の父何處にか在る、と云ひしかば、イエズス答へ給ひけるは、汝等は我をも我父をも知らず、若我を知りたらば必ず我父をも知れるならん、と。 043 JOH 008 020 イエズスが斯く語り給ひしは、[神]殿の内、賽銭箱の傍にて教へつつありし時なれども、誰も手を掛くる者なかりき、其は彼の時未だ至らざればなり。 043 JOH 008 021 然ればイエズス再び彼等に向ひ、我は往く、汝等我を尋ぬべけれども、己が罪の中に死せん、我が往く處には汝等來る能はず、と曰ひしかば、 043 JOH 008 022 ユデア人、彼は我が往く處には汝等來る能はずと云ひしが、自殺せんとするか、と云ひけるに、 043 JOH 008 023 イエズス曰ひけるは、汝等は下よりせるに、我は上よりせり、汝等は此世の者なるに、我は此世の者に非ず、 043 JOH 008 024 我是によりて、汝等己が罪の中に死せんと云へり、蓋汝等、若我が其なる事を信ぜずば、己が罪の中に死すべし、と。 043 JOH 008 025 彼等、汝は誰なるぞ、と云ひしかば、イエズス曰ひけるは、我は即ち素より汝等に告ぐる所の者なり。 043 JOH 008 026 我汝等に就きて云ふべき事、審くべき事多し、然りながら我を遣はし給ひし者は眞實にて在し、我が世に在りて語る所は彼より聞きしものなり、と。 043 JOH 008 027 斯ても彼等は、イエズスが神を我父と稱し給へることを暁らざりき。 043 JOH 008 028 然ればイエズス彼等に曰ひけるは、汝等人の子を挙げたらん時、我が其なる事を暁り、又我が私には何事をも為さず、父の教へ給へる儘に、此等の事を語るを暁らん。 043 JOH 008 029 我を遣はし給ひし者は我と共に在して、我を孤ならしめ給はず、其は我が恒に御意に適へる事を為せばなり、と。 043 JOH 008 030 斯く語り給へるに、信仰する人多かりければ、 043 JOH 008 031 イエズス己を信じたるユデア人に向ひ、汝等若我言に止らば實に我弟子にして、且眞理を暁り、 043 JOH 008 032 眞理は汝等を自由ならしめん、と曰ひしかば、 043 JOH 008 033 彼等答へけるは、我等はアブラハムの子孫にして未だ曾て誰にも奴隷たりし事なし、何ぞ汝等自由なるべしと言ふや、と。 043 JOH 008 034 イエズス彼等に答へ給ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、総て罪を犯す人は罪の奴隷なり、 043 JOH 008 035 奴隷は限なく家に止る者に非ず、子こそ限なく止るなれ、 (aiōn g165) 043 JOH 008 036 然れば子若汝等を自由ならしめば、汝等實に自由成るべし。 043 JOH 008 037 汝等がアブラハムの子孫なる事は我之を知れり、然れども我言汝等の中に容れられざるによりて、汝等我を殺さんとす。 043 JOH 008 038 我は我父に就きて見し所を語り、汝等は己が父に就きて見し所を行ふなり、と。 043 JOH 008 039 彼等答へて、我等の父はアブラハムなり、と云ひしかば、イエズス彼等に曰ひけるは、汝等若アブラハムの子等ならばアブラハムの業を為せ、 043 JOH 008 040 然るに汝等は今、神より聞きたる眞理を汝等に告ぐる人たる我を殺さんと謀る、是アブラハムの為さざる所、 043 JOH 008 041 汝等は己が父の業を為すなり、と。是に於て彼等イエズスに云ひけるは、我等は私通によりて生れし者に非ず、我等に獨一の父即ち神あり、と。 043 JOH 008 042 イエズス乃ち彼等に曰ひけるは、神若汝等の父ならば汝等は必ず我を愛するならん、其は我神より出來りたればなり、即ち我は私に來りしに非ず、神こそ我を遣はし給ひしなれ。 043 JOH 008 043 汝等我談を弁へざるは何故ぞ、是我が語る所を聞き得ざる故なり。 043 JOH 008 044 汝等は惡魔なる父より出でて敢て己が父の望を行ふ、彼は初より殺人者にして眞理に立たざりき、眞理は彼の中に在らざればなり、彼は僞を云ふ時己より語る、其は僞者にして而も僞の父なればなり。 043 JOH 008 045 我眞理を説けども汝等之を信ぜず、 043 JOH 008 046 汝等の中誰か我に罪ある事を證せん。我汝等に眞理を説くも我を信ぜざるは何故ぞ、 043 JOH 008 047 神よりの者は神の御言を聴く、汝等の聴かざるは神よりの者ならざるによれり、と。 043 JOH 008 048 斯てユデア人答へてイエズスに謂ひけるは、我等が、汝はサマリア人にして惡魔に憑かれたる者なり、と云へるは宜ならずや。 043 JOH 008 049 イエズス答へけるは、我惡魔に憑かれず、却て我父を尊べるに、汝等は我を侮辱す。 043 JOH 008 050 但我は己の光榮を求めず、之を求め且審判し給ふ者は別に在り。 043 JOH 008 051 誠に實に汝等に告ぐ、人若我言を守らば永遠に死を見ざるべし、と。 (aiōn g165) 043 JOH 008 052 是に於てユデア人云ひけるは、我等汝が惡魔に憑かれたるを今こそは暁りたれ、アブラハムも死し、預言者等も死せり、然るを汝、人若我言を守らば永遠に死を味はじと云ふ。 (aiōn g165) 043 JOH 008 053 汝は我等の父アブラハムよりも大いなる者なるか、彼も死し預言者も死したるに、汝は己を誰なりとするぞ。 043 JOH 008 054 イエズス答へ給ひけるは、我若自ら己に光榮を歸せば、我光榮は皆無成るべし、我に光榮を歸する者は我父なり。即ち汝等が己の神と稱する者なり。 043 JOH 008 055 汝等は彼を知らざれども我は彼を知れり、我若彼を知らずと云はば、汝等と均しく僞者たるべし、然れども我は彼を知り且其御言を守る。 043 JOH 008 056 汝等の父アブラハムは、我日を見んと樂しみしが、見て喜べり、と。 043 JOH 008 057 是に於てユデア人イエズスに向ひ、汝未だ五十歳ならざるに、而もアブラハムを見たりしや、と云ひたるに、 043 JOH 008 058 イエズス曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、我はアブラハムの生るるに先ちて存す、と。 043 JOH 008 059 是に於て人々石を取りてイエズスに擲たんとしけるに、イエズス身を隠して[神]殿より出で給へり。 043 JOH 009 001 第二款 生來の瞽者醫さる イエズス通りかかりに、一人の生れながらの瞽者を見給ひしかば、 043 JOH 009 002 弟子等、ラビ此人の瞽者に生れしは誰の罪ぞ、己の罪か兩親の罪か、と問ひたるに、 043 JOH 009 003 イエズス答へ給ひけるは、此人も其親も罪を犯ししに非ず、彼が身の上に神の業の顕れん為なり。 043 JOH 009 004 我を遣はし給ひし者の業を我晝の間に為さざるべからず、誰も業を為す能はざる夜は将に來らんとす、 043 JOH 009 005 我世に在る間は世の光なり、と。 043 JOH 009 006 斯く曰ひて、イエズス地に唾し、唾を以て泥を造り、之を彼の目に塗りて、 043 JOH 009 007 曰ひけるは、シロエの池に至りて洗へ、と。シロエとは遣はされたるものと訳せらる。彼即ち往きて洗ひしに、目明きて歸れり。 043 JOH 009 008 斯て隣人及び曾て彼が乞食せるを見し人々は、是坐りて乞食し居たりし者ならずや、と云へば、或人は其なりと言ひ、 043 JOH 009 009 或人は否其に似たる人なりと言ふを彼は、我其なりと云ひ居たり。 043 JOH 009 010 然れば彼等、汝の目は如何にして明きたるぞ、と言へるに、 043 JOH 009 011 彼答へけるは、彼イエズスと稱する人、泥を造りて我目に塗り、シロエの池に至りて洗へと云ひしかば、我往きて洗ひて、然て見ゆるなり、と。 043 JOH 009 012 人々、其人何處に居るぞと云ひしに彼、我は之を知らず、と云へり。 043 JOH 009 013 彼等其瞽者なりし人をファリザイ人の許に伴ひ行きしが、 043 JOH 009 014 イエズスの泥を造りて其目を明け給ひしは、安息日なりければ、 043 JOH 009 015 ファリザイ人更に、如何にして見ゆるに至りしぞ、と問へるを彼答へて、彼人わが目に泥を塗り、我之を洗ひたれば見ゆるなり、と云ひしかば、 043 JOH 009 016 ファリザイ人の或者は、安息日を守らざる彼人は神よりの者に非ずと云ひ、或者は、罪人なる者争でか斯る奇蹟を行ふを得んや、と云ひて彼等の間に諍論ありき。 043 JOH 009 017 然れば重ねて瞽者なりし人に、汝は其目を明けし人を何と謂ふぞ、と云へば、彼は、預言者なり、と云へり。 043 JOH 009 018 ユデア人は、彼が曾て瞽者にして、見ゆる様になれるを信ぜざれば、遂に彼目明きし人の兩親を呼び、 043 JOH 009 019 問ひて云ひけるは、瞽者に生れしと汝等が云へる其子は是なるか、然らば如何にして今見ゆるぞ、と。 043 JOH 009 020 兩親答へて、彼が我子なる事と、瞽者に生れし事とは、我等之を知る、 043 JOH 009 021 然れど如何にして今見ゆるかを知らず、又其目を明けし者の誰なるかは、我等は知らざるなり、彼に問へ、彼年長けたれば自ら己が事を語るべし、と云へり。 043 JOH 009 022 兩親の斯く云ひしは、ユデア人を懼れたる故にして、彼等が、イエズスをキリストなりと宣言する人あらば、之を會堂より逐出すべし、と言合せたるに因れり、 043 JOH 009 023 彼年長けたれば之に問へ、と兩親の云ひしは之が為なり。 043 JOH 009 024 是に於て彼等、再び彼瞽者なりし人を呼出して、汝神に光榮を歸せよ、我等は彼人の罪人なる事を知れり、と云ひしかば、 043 JOH 009 025 彼云ひけるは、彼が罪人なりやは我之を知らず、我が知る所は一、即ち瞽者なりしに今見ゆる事是なり、と。 043 JOH 009 026 其時彼等又、彼人汝に何を為ししぞ、如何にして汝の目を明けしぞ、と云ひしに、 043 JOH 009 027 彼、我既に汝等に告げて汝等之を聞けり、何為ぞ復聞かんとはする、汝等も其弟子と成らん事を欲するか、と答へしかば、 043 JOH 009 028 彼等之を詛ひて云ひけるは、汝は彼の弟子にてあれ、我等はモイゼの弟子なり、 043 JOH 009 029 我等は神がモイゼに語り給ひし事を知れど、彼人の何處よりせるかを知らず、と。 043 JOH 009 030 瞽者なりし人答へて、汝等が其何處よりせるかを知らざるこそ怪しけれ、彼我目を明けしものを。 043 JOH 009 031 我等は知る、神は罪人に聴き給はず、然れど神に奉事して御旨を行ふ人あれば之に聴き給ふことを。 043 JOH 009 032 開闢以來生れながらなる瞽者の目を明けし人ある事を聞かず、 (aiōn g165) 043 JOH 009 033 彼人若神より出でたるに非ずば何事をも為し得ざりしならん、と云ひしかば、 043 JOH 009 034 ファリザイ人答へて、汝は全く罪の中に生れたるに、猶我等を教ふるか、と云ひて之を逐出だせり。 043 JOH 009 035 イエズス其逐出だされし事を聞き、之に出遇ひ給ひし時、汝神の子を信仰するか、と曰ひしに、 043 JOH 009 036 彼答へて、主よ、我が之を信仰すべき者は誰ぞ、と云ひしかば、 043 JOH 009 037 イエズス曰ひけるは、汝それを見たり、汝と語る者即ち是なり、と。 043 JOH 009 038 彼、主よ、我は信ず、と云ひて平伏しつつイエズスを禮拝し奉れり。 043 JOH 009 039 イエズス曰ひけるは、我審判の為に此世に來れり、即ち目見えざる人は見え、見ゆる人は瞽者と成るべし、と。 043 JOH 009 040 ファリザイ人の中イエズスと共に在りし者之を聞きて、我等も瞽者なるか、と云ひしかば、 043 JOH 009 041 イエズス彼等に曰ひけるは、汝等瞽者ならば罪なかるべし、然れど今自ら見ゆと云ふに由りて、汝等の罪は遺るなり。 043 JOH 010 001 第三款 善き牧者 誠に實に汝等に告ぐ、羊の檻に入るに、門よりせずして他の處より越ゆるは、盗人なり強盗なり、 043 JOH 010 002 門より入るは羊の牧者なり。 043 JOH 010 003 門番は彼に戸を開き、羊は其聲を聴き、彼亦己が羊を一々に名指して引出す、 043 JOH 010 004 斯て其羊を出せば、彼先ちて往き羊之に從ふ、其聲を知ればなり、 043 JOH 010 005 然れども他人には從はず、却て之を避く、他人の聲を知らざればなり、と。 043 JOH 010 006 イエズス此喩を彼等に曰ひしかど、彼等は其語り給ふ所の何たるを暁らざりき。 043 JOH 010 007 然ればイエズス再び彼等に曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、我は羊の門なり、 043 JOH 010 008 已に來りし人は皆盗人、強盗にして、羊之に聴從はざりき。 043 JOH 010 009 我は門なり、人若我に由りて入らば救はれ、出入して牧場を得べし。 043 JOH 010 010 盗人の來るは盗み、殺し、亡さんとするに外ならざれども、 043 JOH 010 011 我が來れるは羊が生命を得、而も尚豊に得ん為なり。我は善き牧者なり、善き牧者は其羊の為に生命を棄つ、 043 JOH 010 012 然れども牧者に非ずして羊吾物に非ざる被雇人は、狼の來るを見れば羊を棄てて逃げ、狼は羊を奪ひ且追散す。 043 JOH 010 013 被雇人の逃ぐるは、被雇人にして羊を勞らざる故なり。 043 JOH 010 014 我は善き牧者にして我羊を知り、我羊亦我を知る、 043 JOH 010 015 恰も父我を知り給ひ、我亦父を知り奉るが如し、斯て我は我羊の為に生命を棄つ。 043 JOH 010 016 我は又此檻に属せざる他の羊を有てり、彼等をも引來らざるべからず、然て彼等我聲を聞き、斯て一の檻、一の牧者となるべし。 043 JOH 010 017 父の我を愛し給へるは、之を再び取らんが為に我生命を棄つるに因る、 043 JOH 010 018 誰も之を我より奪ふ者はあらず、我こそ自ら之を棄つるなれ。我は之を棄つるの権を有し、又再び之を取るの権を有す、是我父より受けたる命なり、と。 043 JOH 010 019 是等の談の為に、ユデア人の中に復諍論起れり、 043 JOH 010 020 其中には、彼は惡魔に憑かれて狂へるなり、汝等何ぞ之に聴くや、と云ふ人多かりしが、 043 JOH 010 021 他の人は、是惡魔に憑かれたる者の言に非ず、惡魔豈瞽者の目を明くことを得んや、と云ひ居たり。 043 JOH 010 022 第四款 イエズス奉殿記念祭に上り給ふ 然てエルザレムに奉殿記念祭行はれて、時は冬なりしが、 043 JOH 010 023 イエズス[神]殿に在りてサロモンの廊を歩み居給ふに、 043 JOH 010 024 ユデア人之を取圍みて、汝何時まで我等の心を疑惑せしむるぞ、汝若キリストならば、明白に我等に告げよ、と云ひければ、 043 JOH 010 025 イエズス彼等に答へ給ひけるは、我汝等に語れども汝等信ぜざるなり、我が父の御名を以て行へる業、是ぞ我を證明するものなるに、 043 JOH 010 026 汝等尚之を信ぜず、是我羊の數に入らざればなり。 043 JOH 010 027 我羊は我聲を聴き、我彼等を知り、彼等我に從ふ、 043 JOH 010 028 斯て我永遠の生命を彼等に與ふ、彼等長久に亡びず、誰も彼等を我手より奪はじ、 (aiōn g165, aiōnios g166) 043 JOH 010 029 之を我に賜ひたる我父は、一切に優れて偉大に在し、誰も我父の御手より之を奪ひ得る者なし、 043 JOH 010 030 我と父とは一なり、と。 043 JOH 010 031 是に於てユデア人石を取りてイエズスに擲たんとせしかば、 043 JOH 010 032 イエズス彼等に曰ひけるは、我わが父に由れる善業を多く汝等に示ししが、汝等其孰の為に我に石を擲たんとはするぞ。 043 JOH 010 033 ユデア人答へけるは、我等が汝に石を擲つは善業の為に非ず、冒涜の為、且汝が人にてありながら己を神とする故なり。 043 JOH 010 034 イエズス彼等に答へ給ひけるは、汝等の律法に録して「我言へらく、汝等は神なり」とあるに非ずや、 043 JOH 010 035 斯く神の言を告げられたる人々を神と呼びたるに、而も聖書は廃すべからず、我は神の子なりと言ひたればとて、 043 JOH 010 036 汝等は、父の聖成して世に遣はし給ひし者に向ひて、汝は冒涜すと謂ふか、 043 JOH 010 037 我もし我父の業を為さずば我を信ずること勿れ、 043 JOH 010 038 然れど我もし之を為さば、敢て我を信ぜずとも業を信ぜよ、然らば父の我に在し我の父に居る事を暁りて信ずるに至らん、と。 043 JOH 010 039 是に於て彼等イエズスを捕へんと謀れるを、彼等の手を遁れて、 043 JOH 010 040 ヨルダン[河]の彼方、ヨハネが初に洗しつつありし處に至り、其處に留り給ひしに、 043 JOH 010 041 多くの人御許に來りて、ヨハネは何の奇蹟をも行はざりしかど、 043 JOH 010 042 此人に就きて告げし事は悉く眞なりき、と云ひつつイエズスを信仰せる者多かりき。 043 JOH 011 001 第一款 ラザルの復活 然てマリアと其姉妹マルタとの里なるベタニアに、ラザルと云へる人病み居りしが、 043 JOH 011 002 マリアは即ち香油を主に注ぎ、御足を己が髪毛にて拭ひし婦にして、病めるラザルは其兄弟なり。 043 JOH 011 003 然れば彼が姉妹等、人をイエズスの御許に遣はし、主よ汝の愛し給ふ人病めり、と言はしめしに、 043 JOH 011 004 イエズス聞きて曰ひけるは、此病は死に至るものに非ず、神の光榮の為、神の子が之に由りて光榮を得ん為なり、と。 043 JOH 011 005 イエズスはマルタと其姉妹マリアとラザルとを愛し居給ひしが、 043 JOH 011 006 ラザルの病めるを聞き、尚同じ處に留ること二日にして、 043 JOH 011 007 遂に弟子等に向ひ、我等復ユデアへ趣かん、と曰ひしかば、 043 JOH 011 008 弟子等云ひけるは、ラビ、唯今ユデア人が汝に石を擲たんとしたりしに、復も彼處へ往き給ふか。 043 JOH 011 009 イエズス答へて曰ひけるは、一日に十二時あるに非ずや、人晝歩む時は、此世の光を見る故に躓かざれども、 043 JOH 011 010 夜歩む時は、身に光あらざる故に躓くなり、と。 043 JOH 011 011 斯く曰ひて後又、我等が親友ラザルは眠れり、然れど我往きて之を眠より喚起さん、と曰ひしかば、 043 JOH 011 012 弟子等、主と、眠れるならば彼は痊ゆべきなり、と云へり。 043 JOH 011 013 但イエズスの曰ひしは彼が死の事なりしを、弟子等は眠りて臥せることを曰ひしならんと思ひたりければ、 043 JOH 011 014 イエズス明かに曰ひけるは、ラザルは死せり、 043 JOH 011 015 我は汝等の為、即ち汝等を信ぜしめん為に、我が彼處に在らざりしことを喜ぶ、卒ざ彼が許に往かん、と。 043 JOH 011 016 然ればチヂモと呼ばれたるトマ、其相弟子に謂ひけるは、将ざ我等も往きて彼と共に死なん、と。 043 JOH 011 017 斯てイエズス至りて見給ひしに、ラザルは墓に在る事既に四日なりき。 043 JOH 011 018 然るにベタニアはエルザレムに近くして、廿五町許を隔てたれば、 043 JOH 011 019 數多のユデア人、マルタとマリアとを其兄弟の事に就きて弔はん為に來りてありき。 043 JOH 011 020 マルタはイエズス來り給ふと聞くや、即ち出迎へしが、マリアは家の内に坐し居たり。 043 JOH 011 021 マルタイエズスに云ひけるは、主よ、若此處に在ししならば、我兄弟は死なざりしものを、 043 JOH 011 022 然れど神に何事を求め給ふとも神之を汝に賜ふべしとは、今も我が知れる所なり、と。 043 JOH 011 023 イエズス、汝の兄弟は復活すべし、と曰ひしかば、 043 JOH 011 024 マルタ云ひけるは、我は彼が終の日、復活の時に復活すべきことを知れり、と。 043 JOH 011 025 イエズス、我は復活なり、生命なり、我を信ずる人は死すとも活くべし、 043 JOH 011 026 又活きて我を信ずる人は、凡て永遠に死する事なし、汝之を信ずるか、と曰ひしに、 (aiōn g165) 043 JOH 011 027 マルタ云ひけるは、主よ、然り、我は汝が活ける神の御子キリストの此世の來り給ひたる者なるを信ず、と。 043 JOH 011 028 斯く云ひて後、往きて其姉妹マリアを呼び咡きて、師茲に在して汝を召し給ふ、と云ひしに、 043 JOH 011 029 彼之を聞くや、直に立ちてイエズスの許に至れり、 043 JOH 011 030 即ちイエズス未だ里に入り給はずして、尚マルタが出迎へし處に居給ひしなり。 043 JOH 011 031 然ればマリアと共に家に在りて之を弔ひ居たりしユデア人、彼が速に立ちて出しを見、彼は泣かんとて墓に往くぞ、と云ひつつ後に随ひしが、 043 JOH 011 032 マリアはイエズスの居給ふ處に至り、之を見るや御足下に平伏して、主よ、若此處に在ししならば、我兄弟は死なざりしものを、と云ひければ、 043 JOH 011 033 イエズス彼が泣き居り、伴ひ來れるユデア人も泣き居れるを見、胸中感激して御心を騒がしめ給ひ、 043 JOH 011 034 汝等何處に彼を置きたるぞ、と曰ひしに、彼等は、主よ、來り見給へ、と云ひければ、 043 JOH 011 035 イエズス涙を流し給へり。 043 JOH 011 036 然ればユデア人、看よ彼を愛し給ひし事の如何許なるを、と云ひしが、 043 JOH 011 037 又其中に或人々、彼は生れながらなる瞽者の目を明けしに、此人を死せざらしむるを得ざりしか、と云ひければ、 043 JOH 011 038 イエズス復心中感激しつつ墓に至り給へり。墓は洞にして、之に石を覆ひてありしが、 043 JOH 011 039 イエズス、石を取除けよ、と曰へば死人の姉妹マルタ云ひけるは、主よ、最早四日目なれば彼は既に臭きなり、と。 043 JOH 011 040 イエズス曰ひけるは、汝若信ぜば神の光榮を見るべし、と我汝に告げしに非ずや、と。 043 JOH 011 041 斯て石を取除けしに、イエズス目を翹げて曰ひけるは、父よ、我に聴き給ひしことを謝し奉る。 043 JOH 011 042 何時も我に聴き給ふ事は、我素より之を知れども、汝の我を遣はし給ひし事を彼等に信ぜしめんとて、立會へる人々の為に之を言へるなり、と。 043 JOH 011 043 斯く曰ひ終りて聲高く、ラザル出來れ、と呼はり給ひしに、 043 JOH 011 044 死したりし者、忽ち手足を布に巻かれたる儘に出來り、其顔は尚汗拭に包まれたれば、イエズス人々に、之を解きて往かしめよ、と曰へり。 043 JOH 011 045 然ればマリアとマルタとの許に來合せて、イエズスの為し給ひし事を見しユデア人の中には、之を信じたる者多かりしが、 043 JOH 011 046 中にはファリザイ人の許に至りて、イエズスの為し給ひし事を告ぐる者ありしかば、 043 JOH 011 047 司祭長、ファリザイ人等、議會を召集して、斯人數多の奇蹟を為すを、我等は如何にすべきぞ、 043 JOH 011 048 若其儘に恕し置かば、皆彼を信仰すべく、又ロマ人來りて我等の土地と國民とを亡ぼすべし、と云ひたるに、 043 JOH 011 049 其中の一人カイファと呼ばるる者、其年の大司祭なりけるが、彼等に謂ひけるは、汝等は事を解せず、 043 JOH 011 050 又一人人民の為に死して全國民の亡びざるは汝等に利ある事を思はざるなり、と。 043 JOH 011 051 彼は己より之を言ひしに非ず、其年の大司祭なれば、イエズスが國民の為に死し給ふべき事を預言したるなり、 043 JOH 011 052 即ち啻に此國民の為のみならず、散亂れたる神の子等を一に集めんが為なりき。 043 JOH 011 053 然れば此日より、彼等イエズスを殺さんと謀りしかば、 043 JOH 011 054 イエズス最早陽にユデア人の中を歩み給はず、荒野に接ける地方に往き、エフレムと云へる町に至りて、弟子等と共に其處に留り居給へり。 043 JOH 011 055 斯てユデア人の過越祭近づきければ、之に先ちて身を潔めん為に、地方よりエルザレムに上れる人多かりしが、 043 JOH 011 056 彼等イエズスを探しつつ[神]殿に立ちて、汝等如何に思ふぞ、彼は此祭に來らざるか、と語合へり。 043 JOH 011 057 司祭長ファリザイ人等は、イエズスを捕ふべきにより、之が在所を知れる人あらば申出づべし、と豫て命令を出したりしなり。 043 JOH 012 001 第二款 イエズスの聖役終らんとす 過越祭の六日前、イエズスベタニアに至り給ひしに、是ラザルの死したりしを復活せしめ給ひし處なれば、 043 JOH 012 002 或人々イエズスの為に晩餐を設け、マルタ給仕しけるが、ラザルはイエズスと共に食卓に就ける者の一人なりき。 043 JOH 012 003 然るにマリアは價高き純粋のナルドの香油一斤を取りてイエズスの御足に注ぎ、御足を己が髪毛もて拭ひしかば、香油の薫家に満てり。 043 JOH 012 004 其時弟子の一人、イエズスを売るべきイスカリオテのユダ、 043 JOH 012 005 何故に此香油を三百デナリオに売りて貧者に施さざりしぞ、と云へり。 043 JOH 012 006 但し斯く云ひしは貧者を慮れる故に非ず、己盗人にして、財嚢を預り、中に入れらるる物を取れる故なり。 043 JOH 012 007 然るにイエズス曰ひけるは、此女を措け、我葬の日の為に此香油を貯へたるなり、 043 JOH 012 008 其は貧者は恒に汝等と共に居れども、我は恒に居らざればなり、と。 043 JOH 012 009 斯てユデア人の大群衆、イエズスの此處に居給ふを知り、獨りイエズスの為のみならず、死者の中より復活せしめ給ひしラザルを見んとて來りしが、 043 JOH 012 010 司祭長等はラザルをも殺さんと思へり、 043 JOH 012 011 是は彼の為に、去りてイエズスを信仰する者、ユデア人の中に多ければなり。 043 JOH 012 012 翌日、祭日の為に來りし夥しき群衆、イエズスエルザレムに來り給ふ由を聞きて、 043 JOH 012 013 梭櫚の葉を執りて出迎へ、ホザンナ、主の御名によりて來るイスラエルの王祝せられ給へかし、と呼はり居りしが、 043 JOH 012 014 イエズスは小驢馬を得て之に乗り給へり、録して 043 JOH 012 015 シオンの女よ、懼るること勿れ、看よ、汝の王は牝驢馬の子に乗りて來る」とあるが如し。 043 JOH 012 016 弟子等初は此等の事を暁らざりしが、光榮を得給ひて後、其イエズスに就きて録されたりし事と自ら御為に為し事とを思出せり。 043 JOH 012 017 然てイエズスがラザルを墓より呼出して、死者の中より復活せしめ給ひし時彼と共に居合せたり夥しき人々證明し、 043 JOH 012 018 群衆も亦、イエズスが此奇蹟を為し給ひしを聞きて出迎へしかば、 043 JOH 012 019 ファリザイ人語合ひけるは、汝等何の効験もなきを見ずや、世既に挙りて彼に從へり、と。 043 JOH 012 020 然るに祭日に禮拝せんとて上りたる人々の中に異邦人もありしが、 043 JOH 012 021 此人々ガリレアのベッサイダ生れなるフィリッポに近づき、之に乞ひて、君よ、我等はイエズスに謁えん事を欲す、と云ひしかば、 043 JOH 012 022 フィリッポ來りてアンデレアに告げ、アンデレアとフィリッポと又イエズスに告げしに、 043 JOH 012 023 イエズス答へて曰ひけるは、人の子が光榮を得べき時來れり。 043 JOH 012 024 誠に實に汝等に告ぐ、麦の粒地に墮ちて、若死せざれば、 043 JOH 012 025 唯一にして止るも、若死すれば多くの實を結ぶ。己が生命を愛する人は之を失ひ、此世にて生命を憎む人は、之を保ちて永遠の生命に至るべし、 (aiōnios g166) 043 JOH 012 026 人若我に事へば我に從ふべし、而して我が居る處には、我に事ふる人も亦居るべし、人若我に事へば、我父之に榮誉を賜はん。 043 JOH 012 027 今や我心騒げり、我何をか云はん、父よ、我を救ひて此時を免れしめ給へ、然りながら、我は之が為にこそ此時に至れるなれ、 043 JOH 012 028 父よ、御名に光榮あらしめ給へ、と。其時聲天より來りて曰く、我既に光榮あらしめたり、更に光榮あらしめん、と。 043 JOH 012 029 是に於て立ちて之を聞きたる群衆は、雷鳴れりと云ひ、或人々は、天使彼に言ひたるなり、と云へり。 043 JOH 012 030 イエズス答へて曰ひけるは、此聲の來りしは我が為に非ずして汝等の為なり。 043 JOH 012 031 今は世の審判なり、此世の長、今逐出されんとす、 043 JOH 012 032 我地より上げられたらん時は、萬民を我に引寄せん、と。 043 JOH 012 033 斯く曰へるは、如何なる死状を以て死すべきかを示し給はんとてなるに、 043 JOH 012 034 群衆之に答へけるは、キリストは永遠に存すとこそ、我等は律法より聞けるものを、汝何ぞ人の子上げられるべしと云ふや、人の子とは是誰なるぞ、と。 (aiōn g165) 043 JOH 012 035 イエズス即ち彼等に曰ひけるは、光は尚暫く汝等の中に在り、汝等光を有する間に歩みて、闇に追付かるな。闇に歩む人は行先を知らず、 043 JOH 012 036 汝等光を有する間に、光の子と成らん為に光を信ぜよ、と。斯く曰ひて後、イエズス去りて身を彼等より匿し給へり。 043 JOH 012 037 斯ばかり夥しき奇蹟を彼等の前に為し給ひたれど、彼等尚イエズスを信ぜざりき。 043 JOH 012 038 是預言者イザヤの言の成就せん為なり、曰く「主よ、誰か我等に聴きて信じたるぞ、主の御腕は誰に顕れたるぞ」と。 043 JOH 012 039 彼等の信じ得ざりしはイザヤの又云ひし事によれり、 043 JOH 012 040 曰く「彼等目にて見ず、心にて暁らず、翻りて我に醫されざらん為に、神彼等の目を矇まし、彼等の心を頑固にし給へり」と。 043 JOH 012 041 イザヤが斯く云ひしは、彼の光榮を見て、彼に就きて語りし時なり。 043 JOH 012 042 然れども、重立ちたる人々の中にも、イエズスを信仰せる者多かりしが、ファリザイ人を憚り、會堂より遂出されじとて、之を公言せざりき。 043 JOH 012 043 即ち彼等は神の光榮よりも人の光榮を好みしなり。 043 JOH 012 044 イエズス呼はりて曰ひけるは、我を信ずる人は、我を信ずるに非ずして、我を遣はし給ひし者を信ずるなり。 043 JOH 012 045 又我を見る人は、我を遣はし給ひし者を見るなり。 043 JOH 012 046 我は光として世に來れり、是総て我を信ずる人が暗に止らざらん為なり。 043 JOH 012 047 人若我言を聴きて守らざれば、我は之を審かず、我が來りしは世を審かん為に非ずして、世を救はん為なればなり。 043 JOH 012 048 我を軽んじて我言を受けざる人には、之を審く者あり、即ち我が語りし言其物、終の日に於て之を審くべし。 043 JOH 012 049 蓋我は己より語りしに非ず、我を遣はし給ひし父自ら、我が言ふべき事語るべき事を我に命じ給ひしなり、 043 JOH 012 050 我は其命令が永遠の生命たる事を知る、然れば我が語るは、父の我に曰ひし儘に之を語るなり、と。 (aiōnios g166) 043 JOH 013 001 第一款 過越の晩餐 過越の祭日の前、イエズス己が時、即ち此世より父に移るべき時來れるを知り給ひて、豫ても世に在る己が[弟子]を愛し給ひしが、極まで之を愛し給へり。 043 JOH 013 002 然て晩餐の終つるに臨み、惡魔既にイエズスを付さん事を、シモンの子イスカリオテのユダの心に入れしかば、 043 JOH 013 003 イエズス父より萬事を己が手に賜はりたる事と、己が神より出でて神に至る事とを知り給ひ、 043 JOH 013 004 晩餐より起上りて上衣を脱ぎ、布片を取りて腰に帯び、 043 JOH 013 005 軈て水を銅盤に盛り、弟子等の足を洗ひて、其帯びたる布片もて之を拭ひ始め給へり。 043 JOH 013 006 斯てシモン、ペトロに至り給ふや、ペトロ、主よ、我足を洗ひ給ふか、と云ひしに、 043 JOH 013 007 イエズス答へて、我が為す所汝今は知らざれども、後には之を知るべし、と曰ひければ、 043 JOH 013 008 ペトロ云ひけるは、我足を洗ひ給ふ事決してあるべからず、と。イエズス我若汝を洗はずば、我と一致する所あらじ、と答へ給ひしかば、 (aiōn g165) 043 JOH 013 009 シモン、ペトロ、主よ、我足のみならず、手をも頭をも、と云ひしが、 043 JOH 013 010 イエズス曰ひけるは、既に身を洗ひたる人は全身潔くして、足の外洗ふを要せず、汝等も潔けれど総てには非ず、と。 043 JOH 013 011 蓋己を付す者の誰なるを知り給ひて、汝等悉く潔きには非ずと曰ひしなり。 043 JOH 013 012 然て彼等の足を洗ひ終りて上衣を取り、復席に着きて彼等に曰ひけるは、我が汝等に為しし事の何たるを知るや。 043 JOH 013 013 汝等は我を師又は主と呼ぶ、其言ふことや宜し、我は其なればなり。 043 JOH 013 014 然るに主たり師たる我にして汝等の足を洗ひたれば、汝等も亦互に足を洗はざるべからず。 043 JOH 013 015 蓋我汝等に例を示したるは、我が汝等に為しし如く、汝等にも為さしめん為なり。 043 JOH 013 016 誠に實に汝等に告ぐ、僕は其主よりも大いならず、使徒は之を遣はしし者よりも大いならず、 043 JOH 013 017 汝等是等の事を知りて之を行はば福なるべし。 043 JOH 013 018 我は汝等の凡てを指して云ふに非ず、曾て選みたる人々を知れり。然れども聖書に「我と共に麪を食する人我に向ひて其踵を挙げたり」とある事の成就せん為なり。 043 JOH 013 019 我今事の成るに先ちて汝等に告ぐるは、其成りたらん時、汝等をして我が其なることを信ぜしめん為なり。 043 JOH 013 020 誠に實に汝等に告ぐ、我が遣はす者を承くる人は我を承け、我を承くる人は我を遣はし給ひしものを承くるなり、と。 043 JOH 013 021 イエズス之を曰ひ終りて御心騒ぎ、證明して、誠に實に汝等に告ぐ、汝等の中一人我を付さんとす、と曰ひければ、 043 JOH 013 022 弟子等、誰を指して曰へるぞと訝りて、互に顔を見合せたりしが、 043 JOH 013 023 イエズスの愛し給へる一人の弟子、御懐の辺りに倚懸り居たるに、 043 JOH 013 024 シモン、ペトロ、腮もて示しつつ、曰へるは誰の事ぞ、と云ひければ、 043 JOH 013 025 彼御胸に倚懸りて、主よ誰なるか、と云ひしかば、 043 JOH 013 026 イエズス答へて曰ひけるは、我が麪を浸して與ふる者即ち其なり、と。斯て麪を浸して、シモンの子イスカリオテのユダに與へ給ひしに、 043 JOH 013 027 此一片を取るやサタン彼に入れり。然てイエズス之に向ひて、其為す所を速に為せ、と曰ひしかど、 043 JOH 013 028 食卓に就けるものは一人として、何の為に之を曰ひしかを知らず、 043 JOH 013 029 中にはユダが財嚢を持てるによりて、祭日の為に我等が要する物を買へ、或は貧者に何かを施せ、とイエズスの曰へるならん、と思ふ人々もありき。 043 JOH 013 030 ユダは彼一片を受くるや直に出行きしが、時は既に夜なりき。 043 JOH 013 031 第二款 食堂に於る談話 ユダが出でし後、イエズス曰ひけるは、今や人の子光榮を得、神も彼に於て光榮を得給へり、 043 JOH 013 032 神彼に於て光榮を得給ひたれば、神亦己に於て光榮を彼に得させ、而も直に得させ給ふべし。 043 JOH 013 033 小子よ、我は尚暫く汝等と共に在り、汝等将に我を尋ぬべけれども、曾てユデア人に向ひて、我が往く處には汝等來る能はずと言ひし如く、今は汝等にも亦然言ふ。 043 JOH 013 034 我は新しき掟を汝等に與ふ、即ち汝等相愛すべし、我が汝等を愛せし如く、汝等も相愛すべし、 043 JOH 013 035 汝等相愛せば、人皆之によりて汝等の我弟子たる事を認めん、と。 043 JOH 013 036 シモン、ペトロ、主よ、何處に往き給ふぞ、と云ひしにイエズス答へ給ひけるは、我が往く處に汝今は從ふ能はず、後に從はん、と。 043 JOH 013 037 ペトロ又、我今は汝に從ふ能はざるは何ぞや、我は汝の為に生命をも棄てんとす、と云ひしかば、 043 JOH 013 038 イエズス之に答へ給ひけるは、汝は我が為に生命をも棄てんとするか、誠に實に汝に告ぐ、汝が三度我を否む迄は鶏鳴はざるべし。 043 JOH 014 001 汝等の心騒ぐべからず、神を信ずれば我をも信ぜよ。 043 JOH 014 002 我父の家に住所多し、然らずば我既に汝等に告げしならん、其は至りて汝等の為に處を備へんとすればなり。 043 JOH 014 003 至りて汝等の為に處を備へたる後、再び來りて汝等を携へ、我が居る處に汝等をも居らしめん。 043 JOH 014 004 汝等は我が往く處を知り、又其道をも知れり、と。 043 JOH 014 005 トマ云ひけるは、主よ、我等は其往き給ふ處を知らず、争でか其道を知る事を得ん、と。 043 JOH 014 006 イエズス之に曰ひけるは、我は道なり、眞理なり、生命なり、我に由らずしては父に至る者はあらず。 043 JOH 014 007 汝等若我を知りたらば、必ず我父をも知りたらん、今より汝等之を知らん、而も既に之を見たり、と。 043 JOH 014 008 フィリッポ之に向ひ、主よ、父を我等に示し給へ、然らば我等事足るべし、と云へるを、 043 JOH 014 009 イエズス曰ひけるは、我斯も久しく汝等と共に居れるに、汝等尚我を知らざるか、フィリッポよ、我を見る人は父をも見るなり、何ぞ父を我等に示せと云ふや、 043 JOH 014 010 我父に居り父我に在す、とは汝等信ぜざるか、我が汝等に語る言は己より語るに非ず、父こそ我に在して自ら業を為し給ふなれ。 043 JOH 014 011 汝等は、我れ父に居り父我に在すと信ぜざるか、 043 JOH 014 012 然らば業其物の為に信ぜよ。誠に實に汝等に告ぐ、我を信ずる人は自ら亦我が為す業をも為し、而も之より大いなる者を為さん、其は我父の許に之けばなり。 043 JOH 014 013 汝等が我名に由りて(父に)求むる所は、何事も我之を為さん、是父が子に於て光榮を歸せられ給はん為なり。 043 JOH 014 014 汝等我名によりて何をか我に求めば、我之を為さん。 043 JOH 014 015 汝等若我を愛せば我命を守れ、 043 JOH 014 016 而して我は父に請ひ、父は他の弁護者を汝等に賜ひて、永遠に汝等と共に止らしめ給はん。 (aiōn g165) 043 JOH 014 017 是即ち眞理の霊にして、世は之を見ず且知らざるに由りて、之を承くるに能はず、然れども汝等は之を知らん、其は汝等と共に止りて、汝等の中に居給ふべければなり。 043 JOH 014 018 我汝等を孤児として遺さじ、将に汝等に來らんとす。 043 JOH 014 019 今暫時にして、世は最早我を見ざるべし、然れど汝等は我を見る、其は我は活き居りて汝等も亦活くべければなり。 043 JOH 014 020 汝等彼日に、我わが父に居り、汝等我に居り、我汝等に居る事を暁らん。 043 JOH 014 021 我命令を有して之を守る者は、是我を愛する者なり、我を愛する者は我父に愛せらるべく、我も之を愛して之に己を顕すべし、と。 043 JOH 014 022 彼イスカリオテに非ざるユダ、イエズスに謂ひけるは、主よ何為ぞ、己を我等に顕して世に顕し給はざるや。 043 JOH 014 023 イエズス答へて曰ひけるは、人若我を愛せば、我言を守らん、斯て我父は彼を愛し給ひ、我等彼に至りて其内に住まん、 043 JOH 014 024 我を愛せざる者は我言を守らず、而して汝等の聞きしは我言に非ずして、我を遣し給ひし父のなり。 043 JOH 014 025 我尚汝等と共に居りて是等の事を汝等に語りしが、 043 JOH 014 026 父の我名に由りて遣はし給ふべき弁護者たる聖霊は、我が汝等に謂ひし総ての事を教へ、且思出でしめ給ふべし 043 JOH 014 027 我は平安を汝等に遺し、我平安を汝等に與ふ、我が之を與ふるは、世の與ふる如くには非ず、汝等の心騒ぐべからず、又怖るべからず、 043 JOH 014 028 曾て我往きて復汝等に來らんとと云ひしは、汝等が聞ける所なり、汝等我を愛するならば、必ず我が父の許に歸るを喜ぶならん、父は我より更に大いに在せばなり。 043 JOH 014 029 今事の成るに先だちて我が汝等に告げたるは、其成りて後汝等に信ぜしめん為なり。 043 JOH 014 030 最早多く汝等に語らじ、蓋此世の長來る、彼は我に何の権をも有せず。 043 JOH 014 031 然れど我が父を愛して父の我に命じ給ひし如く行ふ事を世の知らん為に、立て、将此處より去らん。 043 JOH 015 001 第三款 グッセマニに往く途中の談話 我は眞の葡萄樹にして、我父は栽培者なり、 043 JOH 015 002 我に在る枝の果を結ばざる者は、父悉く之を伐去り、果を結ぶ者は、尚多く果を結ばしめん為に、悉く之を切透かし給ふべし。 043 JOH 015 003 我が汝等に語りたる言に由りて汝等は既に潔きなり。 043 JOH 015 004 我に止れ、我も亦汝等に止るべし。枝が葡萄樹に止るに非ずば自ら果を結ぶこと能はざる如く、汝等も我に止るに非ずば能はじ。 043 JOH 015 005 我は葡萄樹にして汝等は枝なり、我に止り我が之に止る人、是多くの果を結ぶ者なり、蓋我を離れては、汝等何事をも為す能はず。 043 JOH 015 006 人若我に止らずば枝の如く棄てられて枯れ、然て拾はれ、火に投入れられて焚けん。 043 JOH 015 007 汝等若我に止り、我言汝等に止らば、欲する所を願はんに叶へらるべし。 043 JOH 015 008 我父の據りて以て光榮を得給ふは、汝等が夥しき果を結びて我弟子と成らん事是なり。 043 JOH 015 009 父の我を愛し給へ如く、我も亦汝等を愛せり、汝等我愛に止れ。 043 JOH 015 010 若我命を守らば汝等我愛に止る事、我も我父の命を守りて其愛に止るが如くなるべし。 043 JOH 015 011 是等の事を汝等に語れるは、我喜汝等の衷に在りて、汝等が喜の全うせられん為なり。 043 JOH 015 012 汝等相愛すること、我が汝等を愛せしが如くせよ、是我命なり。 043 JOH 015 013 誰も其友の為に生命を棄つるより大いなる愛を有てる者はあらず。 043 JOH 015 014 汝等若我が命ずる所を行はば是我友なり。 043 JOH 015 015 我最早汝等を僕と呼ばじ、僕は其主の為す所を知らざればなり。然て我は汝等を友と呼べり、是総て我父より聞きし事を悉く汝等に知らせたればなり。 043 JOH 015 016 汝等が我を選みたるに非ず、我こそ汝等を選みて立てたるなれ、是汝等が往きて果を結び其果永く存して、我名によりて父に何事を願ふも、父が汝等に之を賜はん為なり。 043 JOH 015 017 我が斯く汝等に命ずるは、汝等が相愛せん為なり。 043 JOH 015 018 世若汝等を憎まば、汝等より先に我を憎めりと知れ。 043 JOH 015 019 汝等世のものなりしならば、世は己がものとして愛せしならん、然れども、世のものに非ずして、我が世より選出せる汝等なれば、世は汝等を憎むなり。 043 JOH 015 020 僕は其主より大いならず、と我が曾て汝等に語りしを記憶せよ、人我を迫害したれば、亦汝等をも迫害せん、我言を守りたれば、亦汝等の言をも守らん、 043 JOH 015 021 然れども此凡ての事は、彼等我名の為に之を汝等に為さん、是我を遣はし給ひし者を知らざる故なり。 043 JOH 015 022 若我が來りて彼等に告ぐる事なかりせば、彼等罪なかりしならん。然れど今は其罪を推諉くるに所なし。 043 JOH 015 023 我を憎む人は我父をも憎むなり、 043 JOH 015 024 若我彼等の中に在りて、何人も曾て為さざりし業を行はざりせば、彼等罪なかりしならん。然れど今は現に之を眼前に見て而も我と我父とを憎みたるなり。 043 JOH 015 025 但し是彼等の律法に録して「彼等謂なく我を憎めり」とある言の成就せん為なり。 043 JOH 015 026 斯て父の許より我が遣はさんとする弁護者、即ち父より出づる眞理の霊來らば、我に就きて證明を為し給はん、 043 JOH 015 027 汝等も初より我に伴へるに由りて亦證明を為さん。 043 JOH 016 001 我が斯く汝等に語りしは、汝等の躓かざらん為なり。 043 JOH 016 002 人々汝等を會堂より逐出さん、而も汝等を殺す人凡て自ら神に盡すと思ふ時來らん。 043 JOH 016 003 人の斯る事を汝等に為さんとするは、父をも我をも知らざる故なり。 043 JOH 016 004 但し我が斯く汝等に語りたるは、時至らば汝等をして、我が之を告げたるを思出でしめんが為なり。 043 JOH 016 005 而も之を初より告げざりしは、汝等と共に居りし故なり、今我を遣はし給ひし者に至らんとするに、何處に至るぞと我に問ふ者、汝等の中に一人もあらず、 043 JOH 016 006 然れど斯く語りしに因りて、憂汝等の心に満てり。 043 JOH 016 007 然りながら我實を以て汝等に告ぐ、我が去るは汝等に利あり、我若去らずば弁護者は汝等に來るまじきを、去りなば我之を汝等に遣はすべければなり。 043 JOH 016 008 彼來らば世を責めて、罪と義と審判とに就きて其過を認めしめん。 043 JOH 016 009 罪に就きてとは、人々我を信ぜざりし故なり。 043 JOH 016 010 義に就きてとは、我父の許に去りて汝等最早我を見ざるべき故なり。 043 JOH 016 011 審判に就きてとは、此世の長既に審判せられたる故なり。 043 JOH 016 012 我が汝等に云ふべき事尚多けれども、汝等今は之に得堪へず。 043 JOH 016 013 彼眞理の霊來らん時、一切の眞理を汝等に教へ給はん。其は己より語るに非ずして、悉く其聞きたらん所を語り、又起るべき事を汝等に告げ給ふべければなり。 043 JOH 016 014 彼は我に光榮あらしむべし、其は我がものを受取りて汝等に示し給ふべければなり。 043 JOH 016 015 凡て父の有し給ふものは悉く我ものなり、彼は我ものを受取りて汝等に示し給はんと云へるは、之を以てなり。 043 JOH 016 016 暫くにして汝等最早我を見ざるべく、又暫くにして我を見ん、是我父に至ればなり、[と曰へり]。 043 JOH 016 017 是に於て弟子の或人々、暫くにして汝等我を見ざるべく、又暫くにして我を見ん、又我父に至ればなり、と曰へるは何事ぞ、と語合ひつつ、 043 JOH 016 018 然て、暫くにしてと曰へるは何ぞや、我等は其語り給ふ所を知らず、と云ひ居りしに、 043 JOH 016 019 イエズス彼等が己に問はんと欲するを暁りて曰ひけるは、汝等は、暫くにして汝等を見ざるべく、又暫くにして我を見ん、と我が云へるを僉議し合へるか、 043 JOH 016 020 誠に實に汝等に告ぐ、汝等は悲しみ且泣かんに世は喜ぶべく、汝等は憂ふべけれども、其憂は變りて喜となるべし。 043 JOH 016 021 婦の産まんとするや、我時期來れりとて憂ふれども、既に子を産み了れば、世に人一人生れたる喜によりて、最早苦痛を覚ゆる事なし。 043 JOH 016 022 汝等も今は憂を懐けども、我再び汝等を見ば、汝等の心は喜ぶべく、而も其喜を汝等より奪ふ者なかるべし。 043 JOH 016 023 彼日には、汝等何事をも我に問はざらん。誠に實に汝等に告ぐ、汝等もし我名によりて父に求むる所あらば、父は之を汝等に賜ふべし。 043 JOH 016 024 汝等今までは、我名によりて何をも求めざりしが、求めよ、然らば受け得て汝等の喜全かるべし。 043 JOH 016 025 我喩を以て斯く汝等に語りしかど、最早喩を以て語らずして明白に父に就きて汝等に告ぐべき時は來る、 043 JOH 016 026 其日には汝等我名によりて求めん、而も我汝等の為に父に祈らんとは云はず、 043 JOH 016 027 其は汝等我を愛して、我が神より出でたるを信じたるが故に、父自ら汝等を愛し給へばなり。 043 JOH 016 028 我は父より出でて世に來りしが、復世を離れて父に至る、と曰ひしかば、 043 JOH 016 029 弟子等云ひけるは、今は明白に語り給ひて豪も喩を語り給はず。 043 JOH 016 030 今にして我等は、汝が萬事を知り給ひて、人の問ふを待ち給はざる事を知り、是によりて汝の神より出で給へる事を信ず、と。 043 JOH 016 031 イエズス彼等に答へ給ひけるは、汝等は今信ずるか、 043 JOH 016 032 看よ時は來る、最早來れり、汝等は何れも己がじし散亂れて我を獨り棄置くに至らん。然れど我は獨に非ず、其は父我と共に在せばなり。 043 JOH 016 033 斯く汝等に語りたるは、汝等が我に於て平安を得ん為なり。世に於ては汝等難に遇はん、然れど頼もしかれ、我は世に勝てり、と。 043 JOH 017 001 第四款 イエズスの司祭的祈祷 イエズス斯く語り果てて、目を翹げ天を仰ぎて曰ひけるは、父よ時來れり、御子をして汝に光榮あらしめん為に、御子に光榮あらしめ給へ、 043 JOH 017 002 其は父より賜はりし人々に永遠の生命を與へしめんとて、之に萬民の上に権能を賜ひたればなり。 (aiōnios g166) 043 JOH 017 003 抑永遠の生命は、唯一の眞の神にて在す汝と、其遣はし給へるイエズス、キリストとを知るに在り。 (aiōnios g166) 043 JOH 017 004 我は地上にて汝に光榮あらしめ、我に為さしめんとて賜ひし業を全うせり。 043 JOH 017 005 父よ、世界の存在に前だちて我が汝と共に有せし光榮を以て、今汝と共に我に光榮あらしめ給へ。 043 JOH 017 006 我は、此世より選みて我に賜ひし人々に御名を顕せり。彼等汝のものたりしに之を我に賜ひ、彼等は汝の言を守り、 043 JOH 017 007 我に賜ひし事悉く汝より出づることを今にして暁れり。 043 JOH 017 008 蓋我に賜ひし言を我彼等に授け、彼等は之を受けて、深く我が汝より出でたるを暁り、汝の我に遣はし給ひしことを信ぜり。 043 JOH 017 009 我彼等の為に祈る。我が祈るは世の為に非ずして、我に賜ひたる人々の為なり、彼等は汝のものなればなり。 043 JOH 017 010 我ものは悉く汝のもの、汝のものは我ものにして、我彼等の中に光榮を得たり。 043 JOH 017 011 我最早世に居らず、彼等は世に居り、我は汝に至る。聖なる父よ、我に賜ひたる人々を御名を以て護り給へ、是我等の如く彼等も一ならん為なり。 043 JOH 017 012 我彼等と共なりし間、御名を以て彼等を護り居たりしが、我に賜ひたる人々を保ち、其中の一人も失せず、唯聖書の成就せん為に、亡の子の失せたるのみ。 043 JOH 017 013 今は我汝に至る、世に在りて斯く語るは、我喜を彼等の身に円満ならしめんが為なり。 043 JOH 017 014 我は御言を彼等に授け、世は彼等を憎めり、是は我も世のものに非ざる如く、彼等は世のものに非ざればなり。 043 JOH 017 015 我が祈るは彼等を世より取去り給へとには非ず、彼等を護りて惡を逃れしめ給へとなり。 043 JOH 017 016 我も世のものに非ざる如く、彼等は世のものに非ず、 043 JOH 017 017 願くは彼等を眞理の中に聖ならしめ給へ、御言は即ち眞理なり、 043 JOH 017 018 我を世に遣はし給ひし如く、我も彼等を世に遣はせり、 043 JOH 017 019 且彼等をも眞理の中に聖ならしめんとして、彼等の為に己を聖ならしむ。 043 JOH 017 020 我が祈るは彼等の為のみならず、又彼等の言によりて我を信ずる人々の為にして、 043 JOH 017 021 彼等が悉く一ならん為なり。父よ、是汝の我に在し我が汝に居るが如く、彼等も我等に居りて一ならん為にして、汝の我を遣はし給ひし事を世に信ぜしめんとてなり。 043 JOH 017 022 我に賜ひし光榮を我彼等に與へたり、是は我等の一なるが如く、彼等も一ならん為なり。 043 JOH 017 023 我彼等に居り汝我に在す、是は彼等が一に全うせられん為、又汝の我を遣はし給ひし事と、我を愛し給ひし如く彼等をも愛し給ひし事とを、世の暁らん為なり。 043 JOH 017 024 父よ、願くは我に賜ひし人々も、我が居る處に我と共ならん事を、是世界開闢以前より我を愛し給ひて我に賜ひたる我光榮を、彼等に見せん為なり。 043 JOH 017 025 正しき父よ、世は汝を知らざれども我は汝を知り、彼等も亦汝の我を遣はし給ひしことを知れり。 043 JOH 017 026 我は御名を彼等に知らせたり、又知らせんとす、是我を愛し給ひたる愛の彼等に存して、我も彼等に居らん為なり、[と曰へり]。 043 JOH 018 001 第一款 イエズスの御受難 イエズス斯く曰ひて、弟子等と共にセドロンの渓流の彼方に出で給ひしが、其處に園の在りけるに、弟子等を伴ひて入り給へり。 043 JOH 018 002 イエズス屡弟子と共に此處に集り給ひければ、彼を売れるユダも處を知り居たり。 043 JOH 018 003 然ればユダは、一隊の兵卒及び下役等を大司祭ファリザイ人より受けて、提燈と炬火と武器とを持ちて此處に來れり。 043 JOH 018 004 イエズス我が身に來るべき事を悉く知り給ひて、進出でて彼等に向ひ、誰を尋ぬるぞ、と曰ひしかば彼等、ナザレトのイエズスを、と答へしに、 043 JOH 018 005 イエズス、其は我なり、と曰ひしが、彼を付せるユダも彼等と共に立ち居たり。 043 JOH 018 006 然てイエズスが我なりと曰ふや、彼等後退して地に倒れたり。 043 JOH 018 007 イエズス乃ち復、汝等誰を尋ぬるぞ、と問ひ給ひしに彼等、ナザレトのイエズスを、云ひたれば、 043 JOH 018 008 イエズス答へ給ひけるは、我既に我なりと汝等に告げたり、我を尋ぬるならば、此人々を容して去らしめよ、と。 043 JOH 018 009 是曾て、我に賜ひたる人々を我一人も失はざりき、と曰ひし御言の成就せん為なり。 043 JOH 018 010 時にシモン、ペトロ剣を持ちたりしかば、抜きて大司祭の僕を撃ち、其右の耳を切落ししが、其僕の名をマルクスと云へり。 043 JOH 018 011 然てイエズスペトロに曰ひけるは、汝の剣を鞘に収めよ、父の我に賜ひたる杯は我之を飲まざらんや、と。 043 JOH 018 012 斯て兵隊、千夫長、及びユデア人の下役等、イエズスを捕へて之を縛り、 043 JOH 018 013 先アンナの許に引行けり、是其年の大司祭たるカイファの舅なるが故にして。 043 JOH 018 014 カイファは曾てユデア人に向ひて、一人が人民の為に死するは利なり、との忠告を與へたりし人なり。 043 JOH 018 015 然るにシモン、ペトロ及び他の一人の弟子、イエズスの後に從ひたりしが、彼弟子は曾て大司祭に知られたりければ、イエズスと共に大司祭の庭に入りしも、 043 JOH 018 016 ペトロは門の外に立ちてありしに、彼大司祭に知られたりし弟子出でて門番の婦に語らいしかば、ペトロを内に入れたり。 043 JOH 018 017 斯て門番の婦ペトロに向ひ、汝も彼人の弟子の一人ならずや、と云ひしに彼、然らずと云へり。 043 JOH 018 018 時しも寒かりければ、僕及び下役等、炭火の傍に立ちて煬り居るに、ペトロも立交りて煬り居れり。 043 JOH 018 019 然て大司祭は其弟子と教とに就きてイエズスに問ひしかば、 043 JOH 018 020 イエズス之に答へ給ひけるは、我は白地に世に語り、何時も凡てのユデア人の相集まる會堂及び[神]殿にて教へ、何事をも密に語りし事なし、 043 JOH 018 021 汝何ぞ我に問ふや、我が語りし所を聴聞したる人々に問へ、彼等こそ我が言ひし所を知るなれ、と。 043 JOH 018 022 斯く曰ひしかば、立合へる一人の下役、手にてイエズスの頬を打ち、汝大司祭に答ふるに斯の如きか、と云ひしを、 043 JOH 018 023 イエズス答へ給ひけるは、我が言ひし事惡くば其惡き所以を證せよ、若善くば何為ぞ我を打つや、と。 043 JOH 018 024 斯てアンナはイエズスを縛りたる儘に、大司祭カイファの許に送りたりき。 043 JOH 018 025 然てシモン、ペトロ火に煬りつつ立てるに、人々、汝も彼が弟子の一人ならずや、と云ひしかばペトロ否みて、然らずと云へり。 043 JOH 018 026 又一人、大司祭の僕にしてペトロに耳を切落とされし人の親族なる者、我汝が園にて彼に伴へるを見たるに非ずや、と云ふを、 043 JOH 018 027 ペトロ又否みたるに、鶏忽ち鳴へり。 043 JOH 018 028 斯て人々、イエズスをカイファの許より官廰に引きしが、時は天明なりき。彼等は汚れずして過越の犠牲を食し得ん為に、其身は官廰に入らざりしかば、 043 JOH 018 029 ピラト彼等の居る所に出でて、汝等彼人に對して如何なる事を告訴するぞ、と云ひしに、 043 JOH 018 030 彼等答へて、彼若惡人ならずば我等之を汝に付さざりしならん、と云ひければ、 043 JOH 018 031 ピラト彼等に向ひ、汝等之を引受けて汝等が律法の儘に審け、と云ひしにユデア人、我等は人を殺す事を允されず、と云へり。 043 JOH 018 032 是イエズスが曾て、如何なる死状を以て死すべきかを、示して曰ひし御言の成就せん為なりき。 043 JOH 018 033 是に於てピラト再び官廰に入り、イエズスを呼出して、汝はユデア人の王なるか、と云ひしに、 043 JOH 018 034 イエズス答へ給ひけるは、汝之を己より云へるか、又人我に就きて汝に告げたるか。 043 JOH 018 035 ピラト答へけるは、我豈ユデア人ならんや、汝の國民と大司祭等と汝を我に付したるが、汝何を為したるぞ。 043 JOH 018 036 イエズス答へ給ひけるは、我國は此世のものに非ず、若我國此世のものならば、我をユデア人に付されじとて、我臣僕は必ず戰ふならん、然れど今我國は茲のものならず、と。 043 JOH 018 037 斯てピラトイエズスに向ひ、然らば汝は王なるか、と云ひしにイエズス答へたまいけるは、汝の云へる[が如し、]我は王なり、我之が為に生れ、之が為に世に來れり。即ち眞理に證明を與へん為なり、総て眞理に據れる人は我聲を聴く、と。 043 JOH 018 038 ピラトイエズスに謂ひけるは、眞理とは何ぞや、と。斯く云ひて再びユデア人の所に出行き、彼等に云ひけるは、我彼人に何の罪をも見出さず、 043 JOH 018 039 但し過越祭に當りて、我汝等に一人を赦すは汝等の慣例なるが、然らばユデア人の王を我より赦されん事を欲するか、と。 043 JOH 018 040 是に於て彼等復一同に叫びて、其人ならでバラバを、と云へり、バラバは即ち強盗なりき。 043 JOH 019 001 其時ピラトイエズスを捕へて之を鞭ち、 043 JOH 019 002 兵卒等は茨の冠を編みて御頭に冠らせ、又赤き上衣を着せ、 043 JOH 019 003 然て御前に至りて、ユデア人の王よ、安かれ、と云ひて手を以て御頬を打ち居たり。 043 JOH 019 004 斯てピラト復出來り、人々に向ひて言ひけるは、我が何の罪をも彼に見出さざる事を汝等に知らしめん為に、看よ彼を汝等の前に引出すぞ、と。 043 JOH 019 005 此に於てイエズス、茨の冠赤き上衣にて出來り給ひしかば、ピラト、看よ人を、と云ひしに、 043 JOH 019 006 大司祭及び下役等イエズスを見るや叫出でて、十字架に釘けよ、十字架に釘けよ、と云ひければピラト、汝等自ら之を執りて十字架に釘けよ、我は何の罪をも之に見出さざるを、と云ひしに、 043 JOH 019 007 ユデア人答へけるは、我等に律法あり、其律法によりて彼は死せざるべからず、其は、己を神の子としたればなり、と。 043 JOH 019 008 ピラト此言を聞きて、益懼れ、 043 JOH 019 009 復官廰に入りてイエズスに向ひ、汝は何處の者ぞ、と云ひしかど、イエズス答へ給はざれば、 043 JOH 019 010 ピラト云ひけるは、汝我に言はざるか、汝を十字架に釘くるの権も、亦免すの権も、我に在る事を知らざるか、と。 043 JOH 019 011 イエズス答へ給ひけるは、汝上より與へられたるに非ずば、我に對して何らの権あらんや。我を汝に付したる者の罪、是に於てか更に大いなり、と。 043 JOH 019 012 是よりピラト復イエズスを免さんと謀り居たれども、ユデア人叫びて、汝若此人を免さばセザルの忠友に非ず、凡て己を王とする人はセザルに叛く者なればなり、と云ひければ、 043 JOH 019 013 ピラト斯る言を聞きてイエズスを伴出し、切嵌の敷石、ヘブレオ語にてはガパタと云へる處にて、審判席に就けり。 043 JOH 019 014 恰も過越祭の用意日にして、十二時頃なりしが、ピラトユデア人に向ひ、看よ汝等の王を、と云ひしに、 043 JOH 019 015 彼等、取除けよ、取除けよ、十字架に釘けよ、と叫び居ければピラト彼等に、我豈汝等の王を十字架に釘けんや、と云へるを大司祭等、セザルの外我等に王なし、と答へたり。 043 JOH 019 016 斯てピラト、十字架に釘くる為にイエズスを彼等に付しければ、兵卒等之を取りて引出ししが、 043 JOH 019 017 イエズス自ら十字架を負ひ、彼髑髏、ヘブレオ語にてゴルゴタと云へる處に出で給へり。 043 JOH 019 018 彼等此處にて之を十字架に釘け、又別に二人を左右に、イエズスをば中央にして磔けたり。 043 JOH 019 019 然るにピラト亦罪標を書きて十字架の上に置きしが、ユデア人の王ナザレトのイエズスと記されたりき。 043 JOH 019 020 イエズスの十字架に釘けられ給ひし處は市街に近くして、罪標はヘブレオとギリシアとラテンとの語にて書きたれば、ユデア人の中に之を読みたる者多し。 043 JOH 019 021 然ればユデア人の大司祭等ピラトに向ひ、ユデア人の王と書かずして、ユデア人の王と自稱せし者と書き給へ、と云ひしをピラトは、 043 JOH 019 022 我が書きし所は書きし[儘なれ、]と答へたり。 043 JOH 019 023 斯て兵卒等、イエズスを十字架に釘けし後、其衣服と下衣とを受け、衣服は四分して一人に一分づつ分ちしが、下衣は上より一つに織りたる縫目なき物なりしかば、 043 JOH 019 024 之を裂かずして、誰のになるべきか鬮引にせんと言合へり。是聖書に録して「彼等は互に我が衣服を分ち、我下衣を鬮引にせり」とある事の成就せん為にして、即ち兵卒等は實に此事を為せるなり。 043 JOH 019 025 然てイエズスの十字架の傍に、其母と母の姉妹、即ちクレオファの[妻]マリアと、マグダレナ、マリアと立ちてありしが、 043 JOH 019 026 イエズス其母と愛せる弟子との立てるを見給ひて母に向ひ、婦人よ、是汝の子なり、と曰ひ、 043 JOH 019 027 次に弟子に向ひて、是汝の母なり、と曰ひければ、此時より其弟子イエズスの母を我家に引取りたり。 043 JOH 019 028 軈てイエズス何事も成り終れるを知り給ひて、聖書の成就し果てん為に、我渇くと曰ひしが、 043 JOH 019 029 其處に酢の満ちたる器置かれてありしに、兵卒等海綿を醋に浸し、イソプに刺して其口に差付けしかば、 043 JOH 019 030 イエズス醋を受け給ひて、成り終れりと曰ひ、首を垂れて息絶え給へり。 043 JOH 019 031 時は用意日にて大安息日の前なれば、安息日に屍の十字架上に遺らざらん為に、其脛を折りて取下さん事を、ユデア人ピラトに願ひしかば、 043 JOH 019 032 兵卒等來りて、先なる者及び共に十字架に釘けられたる他の一人の脛を折りしが、 043 JOH 019 033 イエズスに至り、其既に死し給へるを見て脛を折らざりき。 043 JOH 019 034 然れど兵卒の一人鎗もて其脇を披きしかば、直に血と水と流出でたり。 043 JOH 019 035 目撃せし人之を證明せしが、其證明は眞實にして、彼は其云ふ所の眞實なるを知れり、是汝等にも信ぜしめん為なり。 043 JOH 019 036 是等の事の成りしは、聖書に「汝等其骨の一も折るべからず」とある事の成就せん為なり。 043 JOH 019 037 更に又聖書に曰く「彼等は其貫けるものを仰ぎ見ん」と。 043 JOH 019 038 其後アリマテアのヨゼフ、ユデア人を憚りて密にはすれども、イエズスの弟子なれば、其御屍を引取らん事をピラトに願ひしに、ピラト許ししかば來りてイエズスの御屍を取下せり。 043 JOH 019 039 又嚮に夜イエズスに至りしニコデモも、没薬と蘆薈との混合物を百斤許携へて來りしが、 043 JOH 019 040 兩人イエズスの御屍を受取り、ユデア人の葬の習慣に從ひて香料と共に布にて之を捲けり。 043 JOH 019 041 然てイエズスの十字架に釘けられ給ひし處に園ありて、園の中に未だ誰をも葬らざる墓ありければ、 043 JOH 019 042 彼等はユデア人の用意日なるに因り、墓の手近きに任せて、イエズスを其處に斂めたり。 043 JOH 020 001 第二款 イエズスの御復活及び出現 週の第一日、マグダレナ、マリア朝爽に墓に往き、墓より石の取除けられたるを見しかば、 043 JOH 020 002 走りてシモン、ペトロ及びイエズスの愛し居給ひし今一人の弟子の許に至り、主を墓より取去りたる人あり、何處に置きたるか我等は之を知らず、と云ひければ、 043 JOH 020 003 ペトロと彼一人の弟子出でて墓に往けり。 043 JOH 020 004 二人共に走り居りしが、彼一人の弟子ペトロに走勝ちて先墓に着き、 043 JOH 020 005 身を屈めて、布の横はれるを見しも、未だ内に入らざる程に、 043 JOH 020 006 シモン、ペトロ後より來り、墓に入りて見れば布は横はりて、 043 JOH 020 007 頭を覆ひたりし汗拭は布と共に置かれずして、巻きて別の處に在りき。 043 JOH 020 008 其時先墓に着きし彼一人の弟子も内に入り、見て信じたり。 043 JOH 020 009 其は彼等未だ、イエズスが死者の中より復活し給ふべし、との聖書を知らざりければなり。 043 JOH 020 010 斯て兩人の弟子は己が家に歸れり。 043 JOH 020 011 然れどマリアは墓の外に立ちて泣き居りしが、泣きつつ身を屈めて墓を覗きしに、 043 JOH 020 012 白衣を着たる二の天使、イエズスの御屍の置かれたりし處に、一は頭の方に、一は足の方に坐せるを見たり。 043 JOH 020 013 彼等マリアに向ひ、婦よ、何故に泣くぞ、と云ひしかば、マリア云ひけるは、我主を取去りたる人ありて、何處に置きたるか我之を知らざる故なり、と。 043 JOH 020 014 斯く言終りて後を回顧りしに、イエズスの立ち給へるを見たり。然れど其イエズスなる事を知らざりしが、 043 JOH 020 015 イエズス之に、婦よ、何故に泣くぞ、誰を尋ぬるぞ、と曰ひしかば、マリア園丁ならんと思ひて之に謂ひけるは、君よ、若汝が彼を取去りしならば、其置きたる處を我に告げよ、我之を引取るべし、と。 043 JOH 020 016 イエズス、マリアよ、と曰ひければ彼回顧りて、ラボニ、即ち師よ、と云へり。 043 JOH 020 017 イエズスこれに向ひ、我未だ我父に陟らざれば我に触るる事勿れ、但先わが兄弟等に至りて、我は汝等の父なる我父、汝等の神なる我神に陟ると云へ、と曰ひければ、 043 JOH 020 018 マグダレナ、マリア往きて、我主を見たり、我に云々曰へり、と弟子等に告げたり。 043 JOH 020 019 斯て其日、即ち週の第一日既に暮れて、弟子等ユデア人の怖しさに戸を閉ぢて集れる處に、イエズス來りて其中に立ち曰ひけるは、汝等安かれ、と。斯く曰ひて、 043 JOH 020 020 手と脇とを彼等に示し給ひければ、弟子等主を見て喜べり。 043 JOH 020 021 イエズス復曰ひけるは、汝等安かれ、父の我を遣はし給ひし如く、我も汝等を遣すなり、と。 043 JOH 020 022 斯く曰ひて、息吹掛けて曰ひけるは、聖霊を受けよ、 043 JOH 020 023 汝等誰の罪を赦さんも其罪赦されん、誰の罪を止めんも其罪止められたるなりと。 043 JOH 020 024 然るに十二人の一人にしてチヂモと呼ばるるトマは、イエズスの來り給ひし時彼等と共に居らざりしかば、 043 JOH 020 025 他の弟子等之に向ひ、我等は主を見たり、と云ひしに、彼云ひけるは、我は其手に釘の痕を見て、其釘の處に我指を入れ、其脇に我手を入るるに非ずば信ぜじ、と。 043 JOH 020 026 八日の後、弟子等復内にありてトマも共に居りしが、戸は閉ぢたるにイエズス來りて眞中に立ち給ひ、汝等安かれ、と曰ひて、 043 JOH 020 027 軈てトマに曰ひけるは、汝指を茲に入れて我手を見よ、手を伸べて我脇に入れよ、不信者とならずして信者となれ、と。 043 JOH 020 028 トマ答へて、我主よ、我神よ、と云ひしかば、 043 JOH 020 029 イエズス之に曰ひけるは、トマ汝は我を見しによりて信じたるが、見ずして信ぜし人々こそ福なれ、と。 043 JOH 020 030 此外にも尚數多の徴を、イエズス弟子等の眼前に為し給ひしかど本書には書載せず。 043 JOH 020 031 是等の事を書載せられたるは、汝等がイエズスの神の御子キリストたる事を信ぜん為、信じて御名によりて生命を得ん為なり。 043 JOH 021 001 其後イエズス、又チベリアデの湖辺にて己を弟子等に現し給ひしが、其現し給ひし次第は次の如し。 043 JOH 021 002 シモン、ペトロとチヂモと呼ばるるトマと、ガリレアのカナ生れなるナタナエルと、ゼベデオの子等と、尚外に二人の弟子共に在りけるに、 043 JOH 021 003 シモン、ペトロ、我漁に往く、と云ひしかば彼等、我等も共に往く、と云ひて、皆出行きて船に乗りしに、其夜は何をも獲ざりき。 043 JOH 021 004 然て天明に至りてイエズス濱に立ち給へり、然りながら弟子等は其イエズスなる事を認めざれば、 043 JOH 021 005 イエズス彼等に向ひ、子等よ肴あるか、と曰ひしに彼等、無しと答へたり。 043 JOH 021 006 イエズス、網を船の右に下せ、然らば獲物あらん、と曰ひければ、彼等下したるに、魚夥しくして、網を引くこと能はざれば、 043 JOH 021 007 イエズスの愛し給へる彼弟子ペトロに向ひて、主なり、と云ひしをシモン、ペトロ、主なりと聞くや、裸なりければ上衣を纏ひて湖に飛入り、 043 JOH 021 008 他の弟子等は魚の満てる網を引きつつ船にて來れり、陸を距る事遠からず、凡そ五十間許なりければなり。 043 JOH 021 009 陸に上りて見れば既に炭火ありて、其上に一の魚の乗せられたるあり、又麪ありき。 043 JOH 021 010 イエズス彼等に向ひ、汝等が今獲りたる魚を持來れと曰ひしかば、 043 JOH 021 011 シモン、ペトロ乗りて、大なる魚百五十三尾まで充満たる網を陸に引來りしが、斯くまで夥しかりしかど網は裂けざりき。 043 JOH 021 012 イエズス彼等に、來りて食せよ、と曰ひしに、弟子等其主なることを知りて、汝は誰ぞと敢て問ふ者一人もなかりしが、 043 JOH 021 013 イエズス近づき給ひ、麪を取りて彼等に與へ、魚も亦同じ様にし給へり。 043 JOH 021 014 イエズスが死者の中より復活して、其弟子等に現れ給ひしは是にて既に三度目なりき。 043 JOH 021 015 然て彼等食したるに、イエズスシモン、ペトロに曰ひけるは、ヨハネの[子]シモン、汝は此人々に優りて我を愛するか、と。彼、主よ、然り、我が汝を愛するは汝の知り給ふ所なり、と云ひしかばイエズス、我羔を牧せよ、と曰へり。 043 JOH 021 016 又再び、ヨハネの[子]シモン、汝は我を愛するか、と曰ひしに、彼、主よ、然り、我が汝を愛するは汝の知り給ふ所なり、と云ひしかばイエズス我羔を牧せよ、と曰へり。 043 JOH 021 017 三度之に向ひて、ヨハネの[子]シモン、汝は我を愛するか、と曰ひしかば、ペトロは、我を愛するかと三度まで言はれたるを憂ひしが、主よ、萬事を知り給へり、我が汝を愛するは汝の知り給ふ所なり、と云ひしに、イエズス之に曰ひけるは、我羊を牧せよ。 043 JOH 021 018 誠に實に汝に告ぐ、汝若かりし時、自ら帯して好む處を歩み居たりしが、老いたらん後は手を伸べん、而して他の者汝に帯して、其好まざる處に導かん、と。 043 JOH 021 019 是ペトロが如何なる死を遂げて神に光榮あらしむべきかを示して曰ひしなり。然て之を曰ひ果てて、我に從へ、とペトロが曰ひしが、 043 JOH 021 020 ペトロ回顧りてイエズスの愛し居給ひし彼弟子、即ち晩餐の時イエズスの御胸に横はりて、主よ汝を付す者は誰なるぞ、と云ひし弟子の從へるを見たり。 043 JOH 021 021 ペトロ之を見てイエズスに向ひ、主よ、彼は如何に、と云ひしに、 043 JOH 021 022 イエズスペトロに曰ひけるは、我が來るまでに彼の留らん事を命ずとも、汝に於て何かあらん、汝は我に從へ、と。 043 JOH 021 023 然れば彼弟子死せずとの説兄弟等の中に傳はりしが、彼死せず、とイエズスのペトロに曰ひしには非ず、唯我が來るまで彼の留らん事を命ずとも、汝に於て何かあらん、と曰ひしのみ。 043 JOH 021 024 此等の事に就きて證明し、此等の事を書きし人は、即ち彼弟子にして、我等は其證明の眞實なる事を知る。 043 JOH 021 025 然れどイエズスの為し給ひし事尚此他にも夥しく、若之を一々書記さば、我思ふに書記すべき書籍は、世界すらも載盡すこと能はざるべし。 # # BOOK 044 ACT Acts 使徒の働き 044 ACT 001 001 第一款 キリスト傳と聖會史との間の事柄 テオフィロよ、我前に第一の書を作りて、総てイエズスの初より行ひ且教へ給ひしことを述べ、 044 ACT 001 002 其選み給ひし使徒等に聖霊に由りて命じ置き、然て天に上げられ給ひし日までに及びたりしが、 044 ACT 001 003 イエズス御受難の後、多くの徴を以て、彼等に己の活きたる事を證明し、四十日の間彼等に現れ、神の國に関して談り給へり。 044 ACT 001 004 第一 キリストの御昇天 又共に食しつつ彼等に、エルザレムを離れずして父の約束を待つべしと命じ、然て曰ひけるは、「汝等我口づから其約束を聞けり、 044 ACT 001 005 蓋ヨハネは水にて洗したれども、汝等は日久しからずして聖霊にて洗せらるべきなり、と。 044 ACT 001 006 然れば集りたる人々問ひて、主よ、イスラエルの國を回復し給ふは此頃なるか、と云ひければ、 044 ACT 001 007 イエズス曰ひけるは、父が其権能によりて定め給ひし時刻は、汝等の知るべきに非ず、 044 ACT 001 008 但汝等に臨み給ふ聖霊の能力を受けて、汝等はエルザレム、ユデア全國、サマリア、地の極に至る迄も我が證人とならん、と。 044 ACT 001 009 斯く曰ひ終てて彼等の見る中に上げられ給ひしが、一叢の雲之を受けて見えざらしめたり。 044 ACT 001 010 彼等が猶天に昇往き給ふを眺め居たる程に、白衣の人二人忽ち彼等の傍に立ちて言ひけるは、 044 ACT 001 011 ガリレア人よ、何ぞ天を仰ぎつつ立てるや、汝等を離れて天に上げられ給ひし此イエズスは、汝等が其天に往き給ふを見たる如く、復斯の如くにして來り給ふべし、と。 044 ACT 001 012 第二 使徒等ユダの後任者を選む 然て使徒等、橄欖山と云へる山よりエルザレムに還りしが、此山はエルザレムに近く、安息日にも行かるべき道程なり。 044 ACT 001 013 然て入りてペトロとヨハネ、ヤコボとアンデレア、フィリッポとトマ、バルトロメオとマテオ、アルフェオの子ヤコボとゼロテなるシモンと、ヤコボの兄弟ユダとの宿れる高間に登りしが、 044 ACT 001 014 彼等皆婦人等及びイエズスの母マリア、及びイエズスの兄弟等と共に、心を同じうして耐忍びつつ祈祷に從事し居たり。 044 ACT 001 015 其頃、共に集れる人約百廿名なりしが、ペトロ兄弟の中に立ちて云ひけるは、 044 ACT 001 016 兄弟の人々よ、イエズスを捕へし者等の案内者となりしユダに就きて、聖霊がダヴィドの口を以て預言し給ひたる聖書は、成就せざるべからず。 044 ACT 001 017 彼は我等の員に入りて此聖役に與りたれども、 044 ACT 001 018 不義の價を以て畑を求め、(吊されて)俯伏に倒れ、其身眞中より裂けて腸悉く迸り出でたり。 044 ACT 001 019 此事エルザレムの住民に知れ渡りて、此畑は彼等の方言にてハケルダマ、即ち血の畑と呼ばれたり。 044 ACT 001 020 蓋詩の書に録して、「彼の檻は荒れて、之に住む人なかるべし」、又「他人其務を受くべし」、とあれば、 044 ACT 001 021 我等と共に集れる此人々の中より、総て主イエズス、キリストが我等の中に出入し給ひし間、 044 ACT 001 022 即ちヨハネの洗禮より始め、我等を離れて上げられ給ひし日に至るまで、一所に在りし者の一人、我等と共に其復活の證人とならざるべからず、と。 044 ACT 001 023 是に於て彼等、バルサバと呼ばれ、義人と綽名されたるヨゼフと、マチアとの二人を挙げ、 044 ACT 001 024 祈りて云ひけるは、総ての人の心を知り給へる主よ、ユダの己が處に往かんとて退きし此務と使徒職とを引受くべく、 044 ACT 001 025 此二人の何れを選み給へるかを知らしめ給へ、と。 044 ACT 001 026 斯て彼等に鬮を與へしに、鬮はマチアに當りしかば、彼十一人の使徒に加へられたり。 044 ACT 002 001 第一 聖霊降臨 ペンテコステの日至りしかば、皆一所に集り居けるに、 044 ACT 002 002 忽ちにして天より烈しき風の來るが如き響ありて、彼等が坐せる家に充ち渡り、 044 ACT 002 003 又火の如き舌彼等に顕れ、分れて各の上に止れり。 044 ACT 002 004 斯て皆聖霊に満たされ、聖霊が彼等に言はしめ給ふに從ひて、種々の言語にて語り出でたり。 044 ACT 002 005 然るに敬虔なるユデア人等の、天下の諸國より來りてエルザレムに住める者ありしが、 044 ACT 002 006 此音の響き渡るや、群集集り來りて、何れも使徒等が面々の國語にて語るを聞きければ、一同心騒ぎ惘果て、 044 ACT 002 007 驚き嘆じて云ひけるは、看よ彼語る人は皆ガリレア人ならずや、 044 ACT 002 008 如何にして我等各、我生國の語を聞きたるぞ、と。 044 ACT 002 009 パルト人、メド人、エラミト人、又メソポタミア、ユデア、カパドキア、ポント、[小]アジア、 044 ACT 002 010 フリジア、パムフィリア、エジプト、クレネに近きリビア地方に住める者、及びロマ寄留人、即ち、 044 ACT 002 011 ユデア人もユデア教に歸依せし人も、クレタ人も、アラビア人も、彼等が我國語にて神の大業を語るを聞きたるなり。 044 ACT 002 012 然れば皆驚き嘆じて、是は何事ぞと語合ひけるが、 044 ACT 002 013 或は嘲笑ひて、彼等は酒に酔へり、と謂ふ人々もありき。 044 ACT 002 014 第二 ペトロの説教 是に於てペトロ十一人と共に立上り、聲を揚げて人々に語りけるは、ユデア人及び総てエルザレムに住める人々よ、汝等之を知らざるべからず、耳を傾けて我言を聞け。 044 ACT 002 015 時は尚朝の第九時なれば、此人々は汝等の思へる如く酔ひたるに非ず、 044 ACT 002 016 是預言者ヨエルを以て言はれし事なり、曰く「主曰はく、末の日頃に至らば、我霊を凡ての人の上に注がん、 044 ACT 002 017 斯て汝等の子女は預言し、汝等の青年等は幻を見、汝等の老人等は夢みるべし、 044 ACT 002 018 又我僕、婢等の上にも、彼日頃に至りて我霊を注がん、斯て彼等は預言すべし。 044 ACT 002 019 我又上は天に不思議を、下は地に徴を與へん、即ち血と火と烟の柱とあるべし、 044 ACT 002 020 主の大いにして明白なる日の來らざる前に、日は暗黒と成り、月は血と成らん、 044 ACT 002 021 斯て主の御名を呼頼まん人皆救はるべし」と。 044 ACT 002 022 イスラエル人よ、是等の言を聞け。ナザレトのイエズスは、汝等も知れる如く、神が之を以て汝等の中に行ひ給ひし奇蹟と不思議と徴とを以て、神より汝等の中に證明せられたる人にして、 044 ACT 002 023 神の豫定の思召と豫知とによりて付されしを、汝等不法人の手を以て之を磔にして殺したるなり。 044 ACT 002 024 彼冥府に止めらるること能はざりければ、神冥府の苦を解きて之を復活せしめ給へり。 044 ACT 002 025 蓋ダヴィド之を斥して曰く、「我は絶えず我前に主を見奉りたり、其は我が動かざらん為に、主我右に在せばなり。 044 ACT 002 026 故に我心は嬉しく、我舌は喜びに堪へず、加之我肉體も亦希望の中に息まん。 044 ACT 002 027 其は汝我魂を冥府に棄置き給はず、汝の聖なる者に腐敗を見せ給ふ事なかるべければなり、 (Hadēs g86) 044 ACT 002 028 汝生命の道を我に知らせ給へり、又御顔を以て我を喜に満たせ給ふべし」と。 044 ACT 002 029 兄弟の人々よ、大祖ダヴィドに就きて憚らず之を云はしめよ。彼は死して葬られ、其墓は今日に至るまで我等の中に存す。 044 ACT 002 030 即ち彼は預言者にして、神之に誓を立て、其子孫の中より一人其座に着くべし、と約し給ひし事を知り居たれば、 044 ACT 002 031 先見してキリストの復活を示し、其冥府に棄置かれざりし事と、其肉體の腐敗を見ざりし事とを語りたるなり。 (Hadēs g86) 044 ACT 002 032 神は此イエズスを復活せしめ給へり、我等は皆其證人なり。 044 ACT 002 033 然ればこそ神の右の御手を以て上げられ、且父より聖霊の約束を受けて、汝等の見且聞ける此聖霊を注ぎ給ひたるなれ。 044 ACT 002 034 蓋ダヴィドは天に昇りしに非ざれども、自ら曰へらく「主我主に曰へらく、 044 ACT 002 035 我汝の敵を汝の足台とならしむるまで我右に坐せ」と。 044 ACT 002 036 然れば汝等が十字架に磔けし此イエズスをば、神が主となしキリストと為し給ひし事を、イスラエルの家挙りて最も確に知らざるべからず、と。 044 ACT 002 037 第三 其説教の結果 人々是等の事を聞きて心を刺され、ペトロ及び他の使徒等に向ひ、兄弟の人々よ、我等何を為すべきぞ、と云ひければ、 044 ACT 002 038 ペトロ云ひけるは、汝等改心せよ、且罪を赦されん為に、各イエズス、キリストの御名によりて洗せらるべし、然らば聖霊の賜を得ん。 044 ACT 002 039 蓋約束は汝等の為にして、又汝等の子等、及び総て遥に遠ざかれる人、我等の神たる主の召し給へる一切の人の為なり、と。 044 ACT 002 040 ペトロ此他尚多くの言を以て、人々を服せしめ且勧めて、汝等此邪の時代より救ひ出されよ、と云ひ居たり。 044 ACT 002 041 斯て彼の言を承けし人々洗せられしが、即日弟子の數に加はりし者約三千人なりき。 044 ACT 002 042 然て堪忍びて、使徒等の教と共同生活と、麪を擘く事と祈祷とに從事し居たりしが、 044 ACT 002 043 軈て人皆心に懼を生じ、又使徒等に籍りて、多くの不思議と徴と、エルザレムに行はれければ、一般の人々大いに懼れを懐き居たり。 044 ACT 002 044 斯て信仰せる人々、総て一所に在りて何物をも共有にし、 044 ACT 002 045 動産不動産を売り、面々の用に應じて一同に分ちつつ、 044 ACT 002 046 尚毎日心を同じくして長時間[神]殿に居り、家々に麪を擘きて喜悦と眞心とを以て食事を為し、 044 ACT 002 047 諸共に神を賛美し奉りて、人民一般の心を獲たり。然て斯の如くに、救はるる人を、主日々増加せしめ給ひつつありき。 044 ACT 003 001 第一 ペトロ生來の跛者を全癒せしむ 午後三時の祈祷に、ペトロとヨハネと[神]殿に上れるに、 044 ACT 003 002 爰に生れながら跛へたる一人の男、[神]殿に入る人々に施を乞はんとて、毎日美門と云へる[神]殿の門に舁据ゑられてありしが、 044 ACT 003 003 ペトロとヨハネとの[神]殿に入らんとするを見て施を乞ひければ、 044 ACT 003 004 ペトロ、ヨハネと共に之を眺めて、我等を看よ、と云ひけるに、 044 ACT 003 005 彼何物をか貰はん心構にて彼等を熟視め居たりしかば、 044 ACT 003 006 ペトロ云ひけるは、我に金銀なし、然れど我が有てる物をば汝に與へん、ナザレトのイエズス、キリストの御名によりて立ちて歩め、と。 044 ACT 003 007 乃ち其右の手を取りて之を起したるに、其脛及び蹠直に力づきて、 044 ACT 003 008 踊立ちて歩みしが、且歩み、且踊り、且神を賛美しつつ彼等と共に[神]殿に入れり。 044 ACT 003 009 人民皆彼が神を賛美しつつ歩めるを見しが、 044 ACT 003 010 其の曾て[神]殿の美門に坐して施を乞ひ居たりし者なるを知れば、之が上に成りし事に驚入りて、感嘆に堪へざりき。 044 ACT 003 011 斯て彼ペトロとヨハネとの手を握り居たれば、人民皆驚きつつ、サロモン廊と呼ばれたる殿廊を指して彼等の許に馳集へり。 044 ACT 003 012 第二 ペトロ神殿にて談話す ペトロ之を見て人民に答へけるは、イスラエル人よ、何ぞ此事を驚くや、又何ぞ恰も我々の徳若くは力によりて此人を歩ませしが如くに我等を眺むるや。 044 ACT 003 013 アブラハムの神、イザアクの神、ヤコブの神、我等の先祖の神が、其御子イエズスに光榮を歸し給ひしなり、是即ち汝等が付して、ピラトの之を赦すべしと判定せるを、其面前に否みし者なり。 044 ACT 003 014 汝等聖なるもの義なるものを否みて、殺人者を赦されん事を求め、 044 ACT 003 015 却て生命の造主を殺ししに、神は之を死者の中より復活せしめ給へり、我等は其證人なり。 044 ACT 003 016 彼の御名に於る信仰によりて、其御名は汝等の見且知れる此人を力づかしめたり。イエズスに由れる信仰こそ、汝等一同の前に斯る全癒を得させたるなれ。 044 ACT 003 017 兄弟等よ、我今にして知る、汝等の司等が為ししに等しく、汝等が不知によりて之を為ししことを。 044 ACT 003 018 然れど神は、諸の預言者の口を以て、豫めキリストの苦しむべき事を告げ給ひしを、斯の如くにして全うし給ひしなり。 044 ACT 003 019 然れば汝等罪を消されん為に、改心して立歸れ。 044 ACT 003 020 是亦主の御前より爽しめの時來りて、預定せられ給ひしイエズス、キリストを汝等に遣はし給はん為なり。 044 ACT 003 021 天は先之を受けざるべからず、是世の始より、神が其聖なる預言者等の口を以て告げ給ひし、萬物の回復の時代に至る迄の間なり。 (aiōn g165) 044 ACT 003 022 即ちモイゼに曰く、「汝等の神なる主は、汝等の兄弟の中より我が如き一人の預言者を汝等に起し給はん、其汝等に語らん程の事は、汝等悉く之を聴くべし、 044 ACT 003 023 斯て総て此預言者に聴かざる人は、必ず人民の中より亡ぼさるべし」、と。 044 ACT 003 024 サムエル以來語りし預言者、皆此日の事を告げたり。 044 ACT 003 025 汝等は預言者等の子等なり、又神が、「地上の諸族悉く汝の裔を以て祝せられん」、とアブラハムに曰ひて、我等の先祖に為し給ひし契約の子等なり。 044 ACT 003 026 神は先汝等の為にこそ、御子を起して汝等を祝福し給ふ者を遣はし給ひしなれ、是各自ら其不義より立歸らん為なり、と。 044 ACT 004 001 第三 ペトロ及びヨハネ衆議所に於てキリストを證す ペトロヨハネと人民に語りつつ居りしに、 044 ACT 004 002 司祭等と神殿の司とサドカイの人々と來り、彼等が人民を教へ、且イエズスに於る死者の復活を説くことを深く憂ひて、 044 ACT 004 003 彼等を捕へ、日既に暮れければ、翌日まで拘留したり。 044 ACT 004 004 然れど言を聴きたりし人々、多くは信仰して、男子の數五千人に及べり。 044 ACT 004 005 明日司祭長、長老、及び律法學士等、エルザレムに集會する事となりしが、 044 ACT 004 006 アンナ大司祭もカイファも、ヨハネもアレキサンデルも、又大司祭の族も悉く共に在りき。 044 ACT 004 007 斯てペトロとヨハネとを眞中に立たせて、汝等如何なる力如何なる名によりて此事を行ひしぞ、と問ひかけたり。 044 ACT 004 008 其時ペトロ聖霊に満たされて彼等に云ひけるは、聞けや民の司等、長老等、 044 ACT 004 009 我等が癈疾者に對する善業に就き、其何に由りて醫されしかを尋問せらるるなれば、 044 ACT 004 010 汝等一同及びイスラエルの人民挙りて之を知れ、彼人が壮健にして汝等の前に立てるは、是我等の主ナザレトのイエズス、キリスト、即ち汝等が之を殺し、神が之を死者の中より復活せしめ給ひし者の御名に由るなり。 044 ACT 004 011 是ぞ汝等家を建つる者に蔑にせられたる石にして、角の親石とせられたる者なる。 044 ACT 004 012 其他の者によりては救霊ある事なし、其は我等が依て救かるべきものとして人に與へられし名は、天下に復之あらざればなり、と。 044 ACT 004 013 會衆は彼等が無學の凡人なる事を豫て弁へたれば、ペトロ及びヨハネの泰然たるを見て之を怪しみ、また豫て彼等がイエズスに伴ひたりし事をも知り、 044 ACT 004 014 醫されし人の現に彼等と共に立てるを見て、一言も之に對して云ふこと能はず、 044 ACT 004 015 命じて彼等を衆議所より退け、共に評議して、 044 ACT 004 016 云ひけるは、彼人々を如何に處分すべきぞ、蓋エルザレムの人民一同に知れ渡りたる奇蹟は彼等によりて行はれ、明白にして我等之を拒むこと能はず、 044 ACT 004 017 然れど、其一層民間に弘まらざらん為に、彼等を脅かして、如何なる人にも再び彼名を以て語る事なからしむべし、とて、 044 ACT 004 018 彼等を呼び、一切イエズスの名を以て語り且教ふる事勿れ、と戒めたり。 044 ACT 004 019 然れどもペトロ、ヨハネは答へて、汝等に聴くは神に聴くよりも神の御前に正當なりや、汝等之を判ぜよ、 044 ACT 004 020 蓋我等は見聞せし事を語らざるを得ず、と云へり。 044 ACT 004 021 然て彼行はれし事に就きて人皆神を崇め奉るに由り、彼等は人民に對して使徒等を罰するに便なく、脅かして之を還せり。 044 ACT 004 022 蓋彼全癒の奇蹟の行はれし人は四十歳以上なりき。 044 ACT 004 023 二人は赦されて友の許に至り、司祭長、長老等の云ひし程の事を具に告げしかば、 044 ACT 004 024 彼等は之を聞きて神に向ひ、異口同音に聲を揚げて云ひけるは、主よ、天、地、海、及び其中の有らゆる物を造り給ひしは主なり。 044 ACT 004 025 主は聖霊に由りて、主の僕にして我等の先祖なるダヴィドの口を以て、「何故に異邦人は振起り、人民等は徒事を謀りしぞ、 044 ACT 004 026 地上の國王は立ち、諸侯は一致して主及び其キリストに逆らへり」、と曰ひしが、 044 ACT 004 027 果してヘロデ及びポンシオ、ピラトは、異邦人、イスラエルの諸族と共に此都に集りて、主の注油し給ひし聖なる御子イエズスに逆らひ、 044 ACT 004 028 御手及び御旨の定め給ひし事を為せり。 044 ACT 004 029 主よ、今や彼等の脅喝を顧み、僕等に賜ふに、御言を憚らず語ることを以てし給ひ、 044 ACT 004 030 御手を伸ばして、聖なる御子イエズスの御名によりて、治癒と徴と不思議とを行はせ給へ、と。 044 ACT 004 031 祈り畢れる時、彼等の集れる所震動し、皆聖霊に満たされて、憚る所なく神の御言を語り居たり。 044 ACT 004 032 第一 初代信者の徳 第四款 神聖會を保護し給ふ 抑信者の群衆は、同心同意、一人も其有てる物を己が物と謂はず、何物をも皆共有にし、 044 ACT 004 033 使徒等も亦大いなる力を以て、我主イエズス、キリストの復活を證し、大いなる恩寵彼等一同の上に在りき。 044 ACT 004 034 蓋彼等の中には一人も乏しき者あらず、其は総て、畑又は家を有てる人は之を売りて、其売れる物の價を持來り、 044 ACT 004 035 之を使徒等の足下に置きて、面々其用あるに随ひて分與へらるればなり。 044 ACT 004 036 爰にクプロ[島]生れなるレヴィ族の人ヨゼフは、使徒等よりバルナバ、訳して慰の子、と呼ばれたるが、 044 ACT 004 037 畑の有りしを売りて其價を持來り、之を使徒の足下に置けり。 044 ACT 005 001 第二 アナニアとサフィラとの事件 然るにアナニアと呼ばるる人、其妻サフィラと共に一枚の畑を売りしが、妻も同意にて畑の價を詐り、 044 ACT 005 002 其幾分を持來りて使徒等の足下に置きしかば、 044 ACT 005 003 ペトロ云ひけるは、アナニアよ、何故サタンに心を誘はれて聖霊を欺き、畑の價を詐りたるぞ。 044 ACT 005 004 其畑の有りし時は汝の物にして、売られて後も[價は]汝の権内に属したるに非ずや、何ぞ斯る事を心に企てしぞ、汝の欺きしは人に非ずして神なり、と。 044 ACT 005 005 アナニア此言を聞くや、倒れて息絶えしかば、聞きたる人皆大いに懼を懐き、 044 ACT 005 006 青年等立ちて之を取上げ、舁出して葬れり。 044 ACT 005 007 約三時間を経て其妻、事の起りしを知らずして入來るに、 044 ACT 005 008 ペトロ之に謂ひけるは、婦よ、汝等が畑を売りし金は其だけなるか、我に告げよ、と。彼、然り其だけなり、と答へしかば、 044 ACT 005 009 ペトロ之に向ひ、汝等何為れぞ共謀して主の霊を試みんとしたるや、看よ、汝の夫を葬りし人々の足は戸口に在り、汝をも舁出すべし、と云ひければ、 044 ACT 005 010 婦忽ち其足下に倒れて息絶えたり。青年等入來りて其死せるを見、之を舁出して夫の傍に葬りければ、 044 ACT 005 011 全教會及び是等の事を聞ける人々、皆大いに懼を懐けり。 044 ACT 005 012 第三 使徒等奇蹟を行ひて信者の數増加す 數多の徴と不思議とは、使徒等の手によりて民間に行はれ、[信者]皆心を一にしてサロモンの殿廊に在りしが、 044 ACT 005 013 他人は敢て此中に交る者なく、人民彼等を稱賛して、 044 ACT 005 014 主を信仰する男女の群衆益増加し、 044 ACT 005 015 終には、人々病人を衢に舁出し、ペトロの來らん時、一人にもあれ其蔭になりとも覆はれ(て病を醫され)んとて、寝台若くは舁台に之を載置くに至り、 044 ACT 005 016 又近傍の町々より病人、或は汚鬼に悩まさるる者等を携へて、人々夥しくエルザレムに馳集ひ居たりしが、彼等悉く醫されつつありき。 044 ACT 005 017 第四 迫害起りて使徒等益奮發す 然れば司祭長及び其徒、即ちサドカイ派、皆妬ましさに堪へず、 044 ACT 005 018 起ちて使徒等を捕へ、之を監獄に入れたり。 044 ACT 005 019 然れど主の使、夜中に監獄の門を開きて彼等を出し、 044 ACT 005 020 汝等往きて、[神]殿に立ち、此生命の言を悉く人民に語れ、と云ひしかば、 044 ACT 005 021 彼等之を聴き、黎明に[神]殿に入りて教へたり。然て司祭長及び之に伴へる人々、議員及びイスラエル人の長老一同を[衆議所に]召集し、使徒等を引來らせんとて、人を監獄に遣はししに、 044 ACT 005 022 下役等至りて監獄を開き、彼等の在らざるを見て立歸り、告げて、 044 ACT 005 023 云ひけるは、監獄が堅く閉ぢ、看守が門前に立てることは、我等之を見届けたれども、之を開けば内には誰も見えざりき、と。 044 ACT 005 024 神殿の司及び司祭長、是等の談を聞くや、使徒等に就きて、其成行如何にと當惑せるに、 044 ACT 005 025 或人來りて、汝等が監獄に入れし人々は、今[神]殿に立ちて人民を教へつつあり、と告げしかば、 044 ACT 005 026 神殿の司、下役等を從へ行きて使徒等を連來れり、然れど人民より石を擲たれん事を恐れて、暴力を加ふる事なかりき。 044 ACT 005 027 然て連來りて議會の中に立たせ、司祭長尋問して、 044 ACT 005 028 彼名によりて教ふること勿れとは、我等が、厳しく命ぜし所なるに、汝等は其教をエルザレムに満たせ、彼人の血を我等に負はしめんとするに非ずや、と云ひしかば、 044 ACT 005 029 ペトロ及び使徒等答へて云ひけるは、我等は人に[從ふ]よりは神に從はざるべからず。 044 ACT 005 030 我等が先祖の神は、汝等の木に磔けて殺ししイエズスを復活せしめ給へり。 044 ACT 005 031 神は改心と罪の赦とをイスラエルに賜はん為に、右の御手を以て、イエズスを君とし救主として立て給ひしなり。 044 ACT 005 032 我等は是等の事の證人にして、神が総て己に從ふ人々に賜へる所の聖霊も、亦之を證し給ふなり、と。 044 ACT 005 033 會衆之を聞きて憤に堪へず、使徒等を殺さんと思ひ居たりしが、 044 ACT 005 034 人民一般より尊ばるる律法學士ガマリエルと云へるファリザイ人、議會に立ち、命じて使徒等を暫く外に立たしめ、 044 ACT 005 035 會衆に謂ひけるは、イスラエル人よ、自ら彼人々に為さんとする所を慎め、 044 ACT 005 036 其は此間テオダ[なる者]起りて、自ら人物と稱し、之に與せし人の數約四百なりしも、彼殺されたれば、之を信用せし人々も悉く散りて皆無となれり。 044 ACT 005 037 其後、人別調の時、ガリレアのユダ起りて人民を誘ひ、己に從はしめしが、彼も亡びたれば之に與せし人は悉く散りたりき。 044 ACT 005 038 今も我汝等に謂はん、彼人々に遠ざかりて之を措け、其は其計画若くは事業、人よりのものならば崩るべく、 044 ACT 005 039 神よりのものならば、汝等之を壊すこと能はずして、恐らくは神にも逆らふ者と為らるべければなり、と。會衆之に賛成して、 044 ACT 005 040 使徒等を呼出し、之を鞭ちて後、イエズスの名によりて語る事を厳禁して還せり。 044 ACT 005 041 使徒等イエズスの御名の為に恥辱を受くるに足る者と為られしを喜びつつ會衆の前を去りしが、 044 ACT 005 042 日々神殿にて、又は家々を廻りて人を教へ、キリスト、イエズスの福音を宣べて止まざりき。 044 ACT 006 001 第一 執事の選挙 其頃弟子の數の加はるに随ひ、ギリシア語のユデア人、其寡婦等が毎日の施に漏らされたりとて、ヘブレオ語のユデア人に對して呟くに至りしかば、 044 ACT 006 002 十二使徒許多の弟子を呼集めて云ひけるは、我等が神の御言を措て食卓に給仕するは、道理に非ず。 044 ACT 006 003 故に兄弟等よ、汝等の中より、聖霊と知慮とに充ちて好評ある者七人を選め、我等之に此事務を宰らしめ、 044 ACT 006 004 自らは祈祷と宣教とに身を委ねん、と。 044 ACT 006 005 此言群衆一同の心に適ひしかば、信仰と聖霊とに充てるステファノ並にフィリッポ、プロコロ、ニカノル、チモン、パルメナ、又ユデア教に歸依したりしアンチオキアのニコラを選みて、 044 ACT 006 006 使徒等の前に差出したるに、使徒等は祈祷しつつ之に按手せり。 044 ACT 006 007 斯て主の御言益弘まり、エルザレムに於て弟子の數の増す事非常にして、司祭の信仰に歸服したる者も亦夥しかりき。 044 ACT 006 008 第二 ステファノ衆議所に引かる 斯てステファノは恩寵と勇氣とに充ちて、大いなる奇蹟と徴とを人民の中に行ひ居たりしが、 044 ACT 006 009 或人々は、所謂被解放者の會堂、及びクレネ人、アレキサンドリア人、及びシリシアと[小]アジアとの出身者の諸會堂より起ちて、ステファノと争論すれども、 044 ACT 006 010 彼の智恵と彼に於て語り給へる聖霊とに抵抗する事能はざりき。 044 ACT 006 011 然れば彼等或人々を教唆して、我等は彼がモイゼと神とを冒涜する言を出せるを聞けり、と云はしめ、 044 ACT 006 012 終に人民と長老と律法學士とを煽動して、一斉に飛掛りて之を捕へ、衆議所に引出し、 044 ACT 006 013 僞證人を立てて云はせけるは、此人は聖所と律法とに反する言を語りて止まず、 044 ACT 006 014 即ち我等は、彼ナザレトのイエズス此所を亡ぼし、モイゼの我等に傳へし例を變ふべし、と彼が言ふを聞けり、と。 044 ACT 006 015 斯て議會に列座せる人、一同に目を注ぎてステファノを見れば、其顔恰も天使の顔の如くなりき。 044 ACT 007 001 第三 ステファノの説教 時に司祭長、是等の事果して然るか、と云ひしかば、 044 ACT 007 002 ステファノ云ひけるは、聞かれよ、兄弟にして父たる人々、我等の父アブラハム、カランに住居するに先だちて、メソポタミアに在りし時、光榮の神之に現れて、 044 ACT 007 003 曰ひけるは、汝國を去り親族を離れて、我が示さん地に至れ、と。 044 ACT 007 004 斯てアブラハムカルデア人の地を出でてカランに住みしが、其父の死後、神は彼處より、汝等が現に住める地に彼を移し給ひ、 044 ACT 007 005 足踏立つる許の地だに、其地にては遺産を賜はざりき。然れど其地を所有として之に與へ、其時は未だ子あらざりしも、後を子孫に與へん事を約し給ひ、 044 ACT 007 006 神之に曰ひけるは、「其子孫は他國に住み、人々之を奴隷と為し、四百年の間虐待せん、 044 ACT 007 007 然れども我彼等の仕へし所の國民を審くべし、斯て後彼等其國を出でて、此處にて我を禮拝せん、と主曰へり」、と。 044 ACT 007 008 アブラハム尚割禮の契約を賜はりしかば、イザアクを生みて八日目に之に割禮を施し、イザアクはヤコブを生み、ヤコブ十二人の太祖を生めり。 044 ACT 007 009 太祖等妬みてヨゼフをエジプトに売りたれど、神之と共に在して、 044 ACT 007 010 凡ての患難より救出し、エジプト國王ファラオンより寵愛を得させ、且智恵を賜ひしに由り、ファラオンはエジプトと己が家とを挙げて之に宰らしめたり。 044 ACT 007 011 然るに全エジプト及カナアンに飢饉と大いなる災難と起り、我等の先祖食物を求め得ざりしに、 044 ACT 007 012 ヤコブエジプトに麦あるを聞きて、先我等の先祖等を遣はし、 044 ACT 007 013 次の度にヨゼフ其兄弟に知られ、其族はファラオンに知られたり。 044 ACT 007 014 ヨゼフ人を遣はして、父なるヤコブ及び其家族、総て七十五人を呼來らししにより、 044 ACT 007 015 ヤコブエジプトに下り、其身も我等の先祖等も、彼處に死して、 044 ACT 007 016 シケムに送られ、アブラハムが曾てシケムに於てヘモルの子等より銀銭を以て買受けし墓地に葬られたり。 044 ACT 007 017 斯て神のアブラハムに誓ひ給ひし約束の時近づきしに、民の數増して大いにエジプトに繁殖したれば、 044 ACT 007 018 ヨゼフを知らざる他の王起るに及びて、 044 ACT 007 019 惡計を以て我等の種族に當り、我等の先祖を悩まして、其生子の存へざらん為に之を棄てしめたり。 044 ACT 007 020 モイゼ此時に當りて生れたりしが、神に美しくして父の家に育てらるる事三月、 044 ACT 007 021 然て遂に棄てられしをファラオンの女取挙げて、己が子として養育したり。 044 ACT 007 022 斯てモイゼはエジプト人の學術を悉く教へられ、言行共に力ありしが、 044 ACT 007 023 満四十歳の時、己が兄弟たるイスラエルの子孫を顧みんとの心起り、 044 ACT 007 024 或人の害せらるるを見て之を防ぎ、エジプト人を討ちて被害者の讐を返せり。 044 ACT 007 025 モイゼは兄弟等が、神の我手によりて己等を救ひ給ふべきを必ず悟るならんと思ひしに、彼等之を悟らざりき。 044 ACT 007 026 翌日彼等の相争へる處に顕れて和睦を勧め、人々よ、汝等は兄弟なるに何ぞ相害するや、と云ひしかば、 044 ACT 007 027 其近き者を害せる人、之を押退けて云ひけるは、誰か汝を立てて我等の司とし判官とせしぞ、 044 ACT 007 028 汝は昨日エジプト人を殺しし如く我を殺さんとするか、と。 044 ACT 007 029 此言によりモイゼ脱走してマヂアン地方に旅人と成り、彼處にて二人の子を挙げたり。 044 ACT 007 030 四十年を経てシナイ山の荒野に於て、燃ゆる茨の焔の中に天使之に現れければ、 044 ACT 007 031 モイゼ見て其見る所を怪しみ、見届けんとして近づきけるに、主の聲ありて曰く、 044 ACT 007 032 我は汝の先祖等の神、即ちアブラハムの神、イザアクの神、ヤコブの神なり、と。モイゼ戰慄きて、敢て注視ず、 044 ACT 007 033 主之に曰はく、足の履物を脱げ、汝の立てる所は聖地なればなり、 044 ACT 007 034 我はエジプトに在る我民の難を顧み、其嘆を聴きて彼等を救はん為に降れり、卒來れ、我汝をエジプトに遣はさん、と。 044 ACT 007 035 斯て彼等が、誰か汝を立てて我等の司とし判官と為ししぞ、と云ひて拒みし此モイゼをば、神は茨の中に現れし天使の手を以て、司とし救人として遣はし給ひしなり。 044 ACT 007 036 モイゼ彼等を導き出して、エジプトの地に紅海に又荒野に、四十年の間奇蹟と徴とを行ひしが、 044 ACT 007 037 是ぞイスラエルの子等に向ひて、神は汝等の中より我如き一人の預言者を起し給はん、汝等之に聴くべし、と云ひし其モイゼなる。 044 ACT 007 038 是即ち曾て荒野に會せし時、シナイ山にて共に語りし天使、及び我等の先祖と共に在りし人、我等に授くべき生命の言を授かりし人なり。 044 ACT 007 039 我等の先祖は之に從ふことを拒み、却て彼を斥けて心をエジプトに転じ、 044 ACT 007 040 アアロンに謂へらく、汝は我等に先んずべき神々を我等の為に造れ、蓋我等をエジプトの地より導き出しし彼モイゼに就きては、其如何になりしかを知らず、と。 044 ACT 007 041 斯て彼等其時に當りて犢を造り、偶像に犠牲を献げ、己が手の業によりて喜びたりしかば、 044 ACT 007 042 神は彼等を眷み給はず、其天軍に事ふるに任せ給へり。即ち預言者等の書に録したるが如し、[曰く]「イスラエルの家よ、汝等荒野に於て、四十年の間犠牲と供物とを我に献げしか、 044 ACT 007 043 汝等はモロクの幕屋、及び汝等の神とせるレンファの星形、即ち禮拝せんとて自ら造れる像を舁廻れり、然れば我汝等をバビロンの彼方に移すべし」と。 044 ACT 007 044 抑證明の幕屋は我等の先祖と共に荒野に在りて、神がモイゼに語りて、自ら見たりし式に從ひて之を造れ、と命じ給ひし如くなりき。 044 ACT 007 045 斯て異邦人、即ち神が我等の先祖の面前に追払い給ひし民の國を占有せし時に、我等の先祖は此幕屋を取りて、ヨズエと共に之を携へ入りて、ダヴィドの時代に至りしが、 044 ACT 007 046 ダヴィドは神の御前に寵を得て、ヤコブの神の為に住處を設けん事を願ひければ、 044 ACT 007 047 サロモンは神の家を建てたり。 044 ACT 007 048 然れど最高き者は、手にて造れる所に住み給ふ者に非ず、 044 ACT 007 049 即ち「主曰はく、天は我座なり、地は我足台なり、汝等如何なる家をか我に造らん、我が息む所は何處なるか、 044 ACT 007 050 是皆我手の造りたるものならずや」と預言者の云へるが如し。 044 ACT 007 051 項強くして心にも耳にも割禮なき者よ、何時も聖霊に逆らふこと、汝等の先祖の為しし如く、汝等も亦然す、 044 ACT 007 052 汝等の先祖は、預言者の中の何れをか迫害せざりし、彼等は義者の來臨を預言せる人々を殺したるに、汝等は今此義者をば売り且殺したる者となれり。 044 ACT 007 053 又天使によりて律法を受けしも、汝等は之を守らざりき、と[述べたり]。 044 ACT 007 054 第四 ステファノの最期 此等の事を聞きて、人々の胸は裂くるが如く、ステファノに向ひて切歯すれども、 044 ACT 007 055 彼は聖霊に満ちたれば、天を仰ぎて、神の光榮と神の右に立ち給へるイエズスとを見て、 044 ACT 007 056 云ひけるは、看よ、我天開けて、人の子が神の右に立ち給へるを見奉る、と。 044 ACT 007 057 其時彼等耳を覆ひ、聲高く叫びつつ一同に撃ちかかり、 044 ACT 007 058 ステファノを市街より追出して石を擲ちしが、立會人はサウロと云へる若者の足下に己が上衣を置けり。 044 ACT 007 059 斯て彼等が石を擲つ程に、ステファノ祈入りて云ひけるは、主イエズス我魂を受け給へ、と。 044 ACT 007 060 又跪きつつ聲高く呼はりて云ひけるは、主よ、此罪を彼等に負はせ給ふこと勿れ、と。斯く言終りて主に眠りけるが、サウロは彼の死刑に賛成したりき。 044 ACT 008 001 第五 烈しき迫害起る 其日エルザレムの教會に對して大いなる迫害起り、使徒等の外は皆ユデア及びサマリアの各地方に離散せしが、 044 ACT 008 002 敬虔なる人々ステファノを葬り、彼の為に大いなる弔を為せり。 044 ACT 008 003 然てサウロは教會を荒らし、家々に入りて男女を引出し、之を付して拘留せしめつつありしが、 044 ACT 008 004 離散せる人々は行巡りて、神の御言の福音を宣傳へつつありき。 044 ACT 008 005 第一 フィリッポのサマリアに於る布教の功績 第二項 教會異邦人の中に弘まらんとす 第一款 サマリア人及びエチオピアの閹者に及ぼせる感化 然てフィリッポ、サマリアの都會に下りてキリストの事を述べければ、 044 ACT 008 006 人々心を揃へてフィリッポの云ふ所を聴きすまし、其為せる徴を見居たり。 044 ACT 008 007 即ち多くの汚鬼其憑きたる人々の中より聲高く叫びつつ出で、又癱瘋者と跛者との醫されたる者多かりければ、 044 ACT 008 008 彼市中に大いなる喜となれり。 044 ACT 008 009 爰にシモンと云へる人あり、豫て彼市中に魔術を行ひて、サマリアの人民を惑はし、自ら大人と稱し、 044 ACT 008 010 小より大に至るまで人皆之に歸服して、所謂大神力とは此人なり、と云ひ居たりしが、 044 ACT 008 011 人々の彼に歸服せるは、久く其魔術に心を奪はれたる故なりき。 044 ACT 008 012 然れどフィリッポが神の國に就て宣ぶる福音を信じて、男女共にイエズス、キリストの御名によりて洗せられければ、 044 ACT 008 013 シモン自らも信じて洗せられ、フィリッポの傍を離れず、徴と最も大いなる奇蹟との行はるるを見て驚嘆し居たり。 044 ACT 008 014 第二 サマリアに於るペトロ及びヨハネの聖役 然てエルザレムに居る使徒等、サマリア人が神の御言を承入れたるを聞き、ペトロとヨハネとを遣はしければ、 044 ACT 008 015 兩人彼處に至りて彼等の聖霊を受けん為に祈れり。 044 ACT 008 016 其は彼等、主イエズスの御名によりて洗せられしのみにて、聖霊は未だ其一人にも降り給ひし事なければなり。 044 ACT 008 017 斯て兩人信者の上に按手しければ、皆聖霊を蒙りつつありき。 044 ACT 008 018 使徒等の按手によりて聖霊の授けらるるを見るや、シモン彼等に金を差出し、 044 ACT 008 019 如何なる人に按手するも其人聖霊を蒙る様、我にも此能力を與へよ、と云ひしかば、ペトロ之に向ひて云ひけるは、 044 ACT 008 020 汝の金は汝と共に亡びよ、其は汝神の賜を金にて得らるるものと思ひたればなり。 044 ACT 008 021 汝は此事に配分なく與る所なし、其心神の御前に正しからざればなり。 044 ACT 008 022 然れば此不義より改心して神に祈れ、汝が心の此念或は赦さるる事あらん。 044 ACT 008 023 我が見る所によれば、汝は苦き胆汁と不義の縲絏との中に在ればなり、と。 044 ACT 008 024 シモン答へて云ひけるは、汝等こそ我為に主に祈りて、其語れる所を一も我に來る事なからしめよ、と。 044 ACT 008 025 斯てペトロとヨハネとは、主の御言を證し且語りて、後エルザレムに歸りしが、途次サマリア人の多くの村に福音を宣べたり。 044 ACT 008 026 第三 エチオピアの閹者の感化 然て主の使フィリッポに語りて、汝起ちて南に向ひ、エルザレムよりガザに下る道に至れ、其は寂しき道なり、と云ひしかば、 044 ACT 008 027 彼起ちて往きしに、折しも一人のエチオピア人、即ちエチオピア女王カンダケの大臣なる閹者にして悉く其寳を宰れる者、禮拝の為にエルザレムに來たりしが、 044 ACT 008 028 己が車に坐して、預言者イザヤ[の書]を読みながら歸りつつありき。 044 ACT 008 029 其時[聖]霊フィリッポに向ひ、近づきて彼車に跟け、と曰ひしかば、 044 ACT 008 030 フィリッポ走寄りて、彼が預言者イザヤ[の書]を読めるを聞き、汝其読む所を暁れりと思ふか、と云ひしに、彼、 044 ACT 008 031 我を導く者なくば争でか暁ることを得ん、と云ひて、乗りて共に坐せん事をフィリッポに乞へり。 044 ACT 008 032 然て其読みつつありし聖書の文は次の如し、「彼羊の如く屠所に引かれ、口を開かざる事、羔の其毛を剪る者の前に聲なきが如く、 044 ACT 008 033 卑しめられて裁判を奪はれたり、誰か其時代の人の處分を述ぶる事を得ん、即ち活ける者の地上より取除かれたればなり」。 044 ACT 008 034 閹者フィリッポに向ひて、請ふ、預言者の斯く云へるは誰が事ぞ、己が事か将他人の事か、と云ひければ、 044 ACT 008 035 フィリッポ口を開きて、聖書の此文を初としてイエズスの福音を宣べたり。 044 ACT 008 036 尚道を往きけるに、水ある處に至りしかば閹者、看よ、水あり、我が洗せらるるに何の障かある、と云ひしを、 044 ACT 008 037 フィリッポ、汝一心に信ぜば可かるべし、と云ひければ彼答へて、我イエズス、キリストの神の御子たる事を信ず、と云ひ、 044 ACT 008 038 命じて車を停めしめ、二人ながら水に下りてフィリッポ閹者を洗せり。 044 ACT 008 039 彼等水より上りしに、主の霊フィリッポを取去り給ひしかば、閹者は再び之を見ざりしかども、喜びつつ己が道を往き居たりき。 044 ACT 008 040 然てフィリッポはアゾトに現れ、至る處の町村に福音を宣傳へつつカイザリアに至れり。 044 ACT 009 001 第一 サウロの不思議なる改心 サウロは主の弟子等に對して、尚脅喝、殺害の毒氣を吐きつつ司祭長に至り、 044 ACT 009 002 ダマスコの諸會堂に寄する書簡を乞へり。是此道の男女を見出さば、縛りてエルザレムに引行かん為なりき。 044 ACT 009 003 斯て途中ダマスコ附近に至りけるに、忽ち天より光來りて彼を圍照ししかば、 044 ACT 009 004 彼地に倒れつつ、サウロよサウロよ何ぞ我を迫害する、と云ふ聲あるを聞きて、 044 ACT 009 005 主よ、汝は誰ぞ、と云ひけるに彼者、我は汝の迫害せるイエズスなり、刺ある鞭に逆らふは汝に取りて難し、と云へり。 044 ACT 009 006 サウロ戰き且驚入りて、主よ、我に何を為さしめんと思召したるぞ、と云ひしに主曰ひけるは、起きて市中に入れ、汝の為すべき事は彼處にて告げらるべし、と。 044 ACT 009 007 此時、伴へる人々は、聲をば聞きながら誰をも見ざれば、惘果てて佇みたりしが、 044 ACT 009 008 サウロ地より起きて目を開けども、何も見えざりしかば、人其手を引きてダマスコに導きしに、 044 ACT 009 009 三日の間此處に在りて目見えず飲食せざりき。 044 ACT 009 010 然るにダマスコにアナニアと云へる弟子ありしが、主幻影に、アナニアよ、と曰ひしかば彼、主よ、我此處に在り、と云ひしを、 044 ACT 009 011 主又之に曰ひけるは、起ちて、直と云へる町に往き、ユダの家にサウロと名くるタルソ人を尋ねよ、看よ彼祈り居るなり、と。 044 ACT 009 012 此時サウロは、アナニアと名くる人の入來りて、視力を回復せん為に己に按手するを見たりしなり。 044 ACT 009 013 然れどアナニア答へけるは、主よ、此人がエルザレムに於て主の聖徒等に為しし害の如何許なるかは、我多くの人に聞きしが、 044 ACT 009 014 此處にても彼は司祭長より受けて、主の御名を呼頼む人を悉く捕縛するの権を有せり、と。 044 ACT 009 015 主アナニアに曰ひけるは、往け、蓋彼は異邦人、國王、及びイスラエルの子等の前に我名を持行く為に、我が選みし器なり、 044 ACT 009 016 故に我名の為には、如何許苦しむべきかを我之に示さんとす、と。 044 ACT 009 017 是に於てアナニア往きて家に入り、サウロに按手して、兄弟サウロよ、汝の來れる路にて汝に現れ給ひし主イエズス、汝が視力を回復し、且聖霊に満たされん為に我を遣はし給へり、と云ひしかば、 044 ACT 009 018 忽ちサウロの目より鱗の如きもの落ちて、視力を回復し、起ちて洗せられしが、 044 ACT 009 019 軈て食事して力づけり。然て數日の間、ダマスコの弟子等と共に居りて、 044 ACT 009 020 直に諸會堂に於てイエズスの事、即ち其神の御子たる事を宣傳へければ、 044 ACT 009 021 聞く人皆惘果てて、是は曾て彼名を呼頼める人々をエルザレムに於て迫害し居たりし者にて、又彼が此に來りしは、彼等を捕縛して、司祭長に引渡さん為ならずや、と云ひ居たれど、 044 ACT 009 022 サウロは愈力増りて、此イエズスはキリストなりと断言し、ダマスコに住めるユデア人を閉口せしめつつありき。 044 ACT 009 023 日頃経てユデア人一同、サウロを殺さんと協議せしが、 044 ACT 009 024 其計略サウロに知られたり。斯て彼等、サウロを殺さんとて、晝夜[市街の]門を守りけるに、 044 ACT 009 025 弟子等夜中に之を引取りて籠に入れ、城壁より吊下して逃れしめたり。 044 ACT 009 026 サウロ、エルザレムに至り、努めて弟子等の中に連ならんとすれども、皆彼が弟子たる事を信ぜずして之を恐れければ、 044 ACT 009 027 バルナバ携へて使徒等に連行き、彼が途中にて主を見奉り、主之に言ひ給ひし次第、又ダマスコに於てイエズスの御名の為に、憚る所なく盡力せし次第を語れり。 044 ACT 009 028 是よりサウロ、エルザレムに在りて彼等と共に出入し、憚る所なく主の御名の為に盡力したりけるが、 044 ACT 009 029 又ギリシア語のユデア人と語り且弁論しければ、彼等之を殺さんと謀りしを、 044 ACT 009 030 兄弟等覚りてカイザリアに送り、タルソに往かしめたり。 044 ACT 009 031 第一 ルッダ及ヨッペに於るペトロの奇蹟 第三款 百夫長コルネリオの改宗、及び異邦人中の教會開始 斯てユデア、ガリレア、サマリアにては教會一般に平和を得て次第に成立ち、神に對する畏敬に進み、聖霊の慰によりて増加しつつありしが、 044 ACT 009 032 ペトロ諸方を巡廻して、ルッダに住める聖徒等の許に至りしに、 044 ACT 009 033 此處にてエネアと云へる人の八年以來癱瘋を病みて床に臥せるに遇ひ、 044 ACT 009 034 之に向ひて、エネアよ、主イエズス、キリスト汝を醫し給ふ、起きて自ら床を整へよ、と云ひければ彼直に起きたり。 044 ACT 009 035 斯てルッダ及びサロンに住める人、皆之を見て主に歸依せり。 044 ACT 009 036 然てヨッペに一人の婦の弟子あり、名はタビタ、訳してドルカ[即ち鹿]と云はれ、從來善行と慈善とに富みたりしが、 044 ACT 009 037 此時に當りて病死せしかば、屍を洗ひて高間に置きたり。 044 ACT 009 038 斯てルッダはヨッペに近きに因り、弟子等ペトロの此處に居るを聞き、二人の人を遣はして、猶豫なく我等の許に來れ、と請はしめしかば、 044 ACT 009 039 ペトロ起ちて彼等と共に來りしが、其着するや人々之を高間に導き、寡婦等皆之を圍みて打泣きつつ、ドルカが己等の為に造り居たりし襦袢と上衣とを示せり。 044 ACT 009 040 ペトロ人を悉く外に出し、跪きて祈り、然て屍に向ひて、タビタ起きよ、と云ひしかば、婦目を開き、ペトロを見て坐れり。 044 ACT 009 041 ペトロ手を假して之を立たしめ、聖徒等及び寡婦等を呼びて、生回りたるを還し與へたり。 044 ACT 009 042 此事ヨッペに知れ渡りければ、主を信仰する人々多く、 044 ACT 009 043 ペトロはシモンと云へる革工の家に在りて、久しくヨッペに留るに至れり。 044 ACT 010 001 第二 百夫長コルネリオの改宗 カイザリアにコルネリオと呼ばるる人あり、イタリア隊と稱する軍隊の百夫長にして、 044 ACT 010 002 信心深く、家族一同と共に神を畏敬し、人民に多くの施與を行ひ、常に神に祈りつつありしが、 044 ACT 010 003 一日午後三時頃、幻影の中に、神の使己が許に來りて、コルネリオよ、と呼べるを明かに見しかば、 044 ACT 010 004 目を之に注ぎ恐入りて、主よ、是は何事ぞや、と云ひしに天使答へけるは、汝の祈祷と施與とは、記念として神の御前に上れり、 044 ACT 010 005 今人をヨッペに遣はして、ペトロとも呼ばるるシモンと云ふ人を招け、 044 ACT 010 006 海岸に住めるシモンと云へる革工の家に宿れるなり、彼汝に其為すべき事を云はん、と。 044 ACT 010 007 己に語れる天使の去りて後、コルネリオは己が二人の僕と部下の信心深き一人の兵卒とを呼び、 044 ACT 010 008 悉く事情を語りてヨッペに遣はせり。 044 ACT 010 009 翌日彼等尚途中に在りけるが、町に近づける時、晝の十二時頃ペトロ祈らんとて平屋根に上れり。 044 ACT 010 010 然るに飢ゑて物欲しかりければ、人の支度するうち、氣を奪はるる如くになり、 044 ACT 010 011 天開けて大いなる布の如き器降り、四隅を吊されて、天より地に下さるるを見たり。 044 ACT 010 012 其中には地上の有ゆる四足のもの、匍ふもの、及び空の鳥あり。 044 ACT 010 013 又聲ありて、ペトロ起きよ、屠りて食せよ、と云ひしかば、 044 ACT 010 014 ペトロ、主よ、然らじ、我曾て穢れたるもの或は潔からぬものを食せしこと無し、と云ひけるに、 044 ACT 010 015 又再び聲ありて、神の潔め給ひしものを、汝潔からずと云ふこと勿れ、と云へり。 044 ACT 010 016 斯の如き事三度にして、器物は忽ち天に取上げられたり。 044 ACT 010 017 ペトロ心の中に、其見し幻影を如何なる意ぞと當惑せる折しも、コルネリオより遣はされたる人々、シモンの家を尋ねて門前に立止り、 044 ACT 010 018 音づれて、ペトロとも呼ばるるシモンは此處に宿れりや、と問ひ居たり。 044 ACT 010 019 ペトロは幻影に就きて打案じ居けるを、聖霊之に曰はく、看よ、三人の男汝を尋ぬ、 044 ACT 010 020 起ちて下り、躊躇する事なく彼等と共に往け、彼等は我が遣はしたる者なれば、と。 044 ACT 010 021 ペトロ人々の處に下りて云ひけるは、看よ汝等の尋ぬるは我なり、如何なる故ありて來れるぞ、と。 044 ACT 010 022 彼等云ひけるは、百夫長コルネリオは、神を畏敬してユデア人一般に好評ある義人なるが、聖なる天使より、汝を其家に招きて汝の言を聴けとの告を受けたり、と。 044 ACT 010 023 是に於てペトロ、彼等を請じて宿らしめ、翌日諸共に出立しけるが、ヨッペより數人の兄弟之に伴へり。 044 ACT 010 024 次日カイザリアに入りしに、コルネリオは既に親族及び親しき朋友を呼集めて、彼等を待受けたり。 044 ACT 010 025 ペトロの入來るや、コルネリオ出迎へて其足下に伏し禮拝せしかば、 044 ACT 010 026 ペトロ之を起して云ひけるは、立て、我も人なり、と。 044 ACT 010 027 斯て相語りつつ内に入り、多くの人の集れるを見て、 044 ACT 010 028 此人々に謂ひけるは、ユデア人にして異邦人に連り或は近づく事の掟に適はざるは、汝等の知る所なり。然れど何人をも、穢れたるもの潔からぬものと言ふべからざる事を、神我に示し給へり。 044 ACT 010 029 故に我招かれて躊躇する事なく來りしが、汝等に問はん、我を招きし所以は何ぞ、と。 044 ACT 010 030 コルネリオ云ひけるは、四日以前の午後三時、我家に在りて祈れるに、折しも輝ける衣服を着けたる一人の男子、我前に立ちて云ひけるは、 044 ACT 010 031 コルネリオよ、汝の祈りは聴容れられ、汝の施與は神の御前に記念せられたり。 044 ACT 010 032 故に人をヨッペに遣はし、ペトロとも呼ばるるシモンを迎えよ、彼は海岸なる革工シモンの家に宿れり、と。 044 ACT 010 033 是に由りて直に人を汝に遣はししが、宜くこそ來たまひつれ。然れば今我等皆神の御前に在りて、主より汝に命ぜられたる事を悉く承らんとす、と。 044 ACT 010 034 其時ペトロ口を開きて云ひけるは、神は偏り給はず、 044 ACT 010 035 何れの國民にもあれ、之を畏敬して義を行ふ人は御意に適へる事、我眞に之を認む。 044 ACT 010 036 神は御言をイスラエルの子等に送り、イエズス、キリストを以て平安を告げ給ひしが、之ぞ萬民の主に在すなる。 044 ACT 010 037 汝等ユデア一般に成りし事を知れるならん、是即ちヨハネの宣傳へし洗禮の後、ガリレアより始りし事にして、 044 ACT 010 038 神はナザレトより出でたるイエズスに、聖霊と能力とを以て注油し給ひしなり。彼は慈善を行ひ、且凡て惡魔に壓へられたる人を醫しつつ世を過し給へり、是神彼と共に在したればなり。 044 ACT 010 039 我等は、其ユデア人の地及びエルザレムに於て為し給し一切の事の證人なるがユデア人は之を木に磔けて殺したれども、 044 ACT 010 040 神は三日目に之を復活せしめ且現れしめ給へり。 044 ACT 010 041 但其は人民一般にはあらで、神より預定せられし證人、即ち死者の中より復活し給ひたる後、彼と共に飲食したる我等に現れしめ給ひしなり。 044 ACT 010 042 且我が神より立てられて、生者と死者との審判者たる事を人民に教へ且證明すべしと、イエズス自ら我等に命じ給ひしなり。 044 ACT 010 043 総て之を信ずる人の、其御名によりて罪の赦を受くる事は、預言者の皆證明したる所なり、と。 044 ACT 010 044 ペトロ尚是等の言を語りつつあるに、聖霊言を聴ける人々一同の上に降り給ひ、 044 ACT 010 045 ペトロに伴ひ來れる割禮ある信徒は、聖霊の恩寵が異邦人にも注がれたるに惘果てたり。 044 ACT 010 046 其は彼等の異なる語を語りて神を崇め奉るを聞けばなり。 044 ACT 010 047 是に於てペトロ答へけるは、此人々は既に我等の如く聖霊を蒙りたれば、誰か水を禁じて其洗せらるるを拒み得んや、と。 044 ACT 010 048 斯て彼等がイエズス、キリストの御名によりて洗せられん事を命ぜしかば、彼等はペトロが數日此家に留らん事を請へり。 044 ACT 011 001 第三 エルザレムの信徒ペトロの處置を非難し後之を賞賛す 異邦人も神の御言を請容れし事、使徒等及びユデアに在る兄弟等に聞えしかば、 044 ACT 011 002 ペトロがエルザレムに上るや、割禮ある人々之を詰りて、 044 ACT 011 003 言ひけるは、汝何ぞ無割禮の人の中に入りて共に食せしや、と。 044 ACT 011 004 ペトロ事の次第を説出して云ひけるは、 044 ACT 011 005 我ヨッペの町に在りて祈り居りしに、氣を奪はるる如くにして幻影に遇ひしが、大いなる布の如き器物の四隅を吊されつつ天より降りて我許に來るを見、 044 ACT 011 006 熟其中を眺むるに、地上の四足のもの、野獣、爬蟲、及び空の鳥あるを見たり。 044 ACT 011 007 又、ペトロ起きよ、屠りて食せよ、と我に謂へる聲をも聞きたれば、 044 ACT 011 008 我、主よ、然らじ、穢れたるもの潔からぬものは曾て我口に入りし事なし、と言ひしに、 044 ACT 011 009 再び天より聲ありて、神の潔め給ひしものを汝潔からずと言ふこと勿れ、と答へ、 044 ACT 011 010 三度まで斯の如くなりしが、終に其物皆また天に引上げられたり。 044 ACT 011 011 折しもカイザリアより、我許に遣はされたる者三人、我が居る家に立止りしかば、 044 ACT 011 012 躊躇する事なく彼等と共に往け、と[聖]霊我に曰へり。斯て此六人の兄弟も我に伴ひ來り、一行彼人の家に入りたるに、 044 ACT 011 013 彼、天使の己が家に立ちて、己に次の如く言ふを見し次第を語れり。即ち、人をヨッペに遣はして、ペトロと呼ばるるシモンを招け、 044 ACT 011 014 彼は汝及び汝が一家の救かるべき御言を汝に語らん、と。 044 ACT 011 015 然るに我が語出るや、最初我等の上に降り給ひし如く、聖霊彼等の上に降り給ひたれば、 044 ACT 011 016 我主が曾て、ヨハネは水にて洗したるに汝等は聖霊にて洗せられん、と曰ひし御言を思出せり。 044 ACT 011 017 即ち神既にイエズス、キリストを信仰せる我等と同様なる恩寵を彼等にも賜ひしを、我抑誰なれば、神に禁ずる事を得べかりしぞ、と。 044 ACT 011 018 人々是等の事を聞きて黙然たりしが、又神に光榮を歸し奉りて云ひけるは、然れば神は、生命を得させん為に、異邦人にも改心を賜ひしなり、と。 044 ACT 011 019 第四 アンチオキアの教會開始 抑ステファノの時起りし迫害の為に離散したりし人々は、フェニケア[州]、クプロ[島]、及びアンチオキア[市]まで廻行きしも、ユデア人の外誰にも御言を語らざりしが、 044 ACT 011 020 彼等の中にクプロ及びクレネの人々ありて、アンチオキアに入りしかば、ギリシア人にも語りて、主イエズスの事を告げ、 044 ACT 011 021 主の御手彼等と共に在りければ、數多の人信じて主に歸依せり。 044 ACT 011 022 是等の沙汰エルザレムなる教會の耳に入りしかば、バルナバを遣はしてアンチオキアまで至らしめしに、 044 ACT 011 023 彼至りて神の恩寵を見て喜び、決心して主に止らん事を一同に勧め居たり。 044 ACT 011 024 蓋彼は善人にして聖霊と信仰とに充てる人なりければ、夥しき群集主に属けり。 044 ACT 011 025 然てバルナバ、サウロを尋ねんとてタルソに至り、之に遇ひてアンチオキアに伴ひ行き、 044 ACT 011 026 兩人彼處の教會に満一年を過して、夥しき群集を教へたり。斯て弟子等はアンチオキアに於て、始て基督信徒と呼ばるるに至れり。 044 ACT 011 027 其時或預言者等、エルザレムよりアンチオキアに至りしが、 044 ACT 011 028 彼等の中より一人のアガポと云へる者起ちて、大飢饉の全世界に起るべき事を、聖霊によりて告げ居たりけるに、果してクロウヂオ[皇帝]の時代に起りしかば、 044 ACT 011 029 弟子等各力に應じてユデアに住める兄弟に補助を贈らん事を定め、 044 ACT 011 030 遂に之を遂げて、バルナバとサウロとの手に托して長老等に贈れり。 044 ACT 012 001 第三項 ヘロデ、アギリッパ第一世教會を迫害す 當時ヘロデ王は、教會の或人々を悩まさんとして手を下し、 044 ACT 012 002 刃を以てヨハネの兄弟ヤコボを殺ししが、 044 ACT 012 003 其がユデア人の心に適へるを見て、亦ペトロをも捕へたり。時は無酵麪の祭日なりしかば、 044 ACT 012 004 之を捕へて監獄に入れ、過越祭の後人民の前に出さん心構にて、四人組の兵卒四組に之を守らせたり。 044 ACT 012 005 斯てペトロは監獄に守られつつあるに、教會は頻に彼が為に神に祈りを為し居たり。 044 ACT 012 006 然てヘロデが彼を出さんとする其前の夜、ペトロ二個の鎖に繋がれて二人の兵卒の間に眠り、看守等門前に在りて監獄を守り居たるに、 044 ACT 012 007 折しも主の使傍に現れ、光明室内に輝きたり。天使ペトロの脇を叩きて之を覚まし、急ぎ起きよ、と云ひければ、鎖其手より落ちたり。 044 ACT 012 008 天使又、汝帯を締めて履物を穿け、と云ひしに、ペトロ然為ししかば、又、上衣を身に纏ひて我に随へ、と云へり。 044 ACT 012 009 ペトロ出でて之に随ひ居たりしが、天使より為らるる事の眞なるを知らず、幻影を見る心地し居たり。 044 ACT 012 010 然て第一第二の番所を過ぎて、市に通ずる鉄の門に至りしかば、其門自ら彼等の為に開け、共に出でて一筋の街を往きしに、天使俄に彼を去れり。 044 ACT 012 011 其時ペトロ我に還りて、主が其使を遣りて我をヘロデの手、及びユデア人民の待設けし凡ての事より救出し給ひたるを今ぞ眞に覚りたる、と言ひて、 044 ACT 012 012 思案しつつ、マルコと呼ばるるヨハネの母マリアの家に至れり。多くの人此處に集りて祈り居けるを、 044 ACT 012 013 ペトロ門の扉を叩きければ、ロデと云へる下女聞きに出で、 044 ACT 012 014 ペトロの聲を聞知るや、喜の餘り門を開かずして奥に駈入り、ペトロ門前に立てり、と告げしかば、 044 ACT 012 015 人々ロデに向ひ、汝は心狂へり、と云ひたれど、下女は、其なりと断言するに、人々、其はペトロの天使ならん、と云ひ居たり。 044 ACT 012 016 然れどペトロ叩きて止まざれば、人々門を開き、彼を見て驚きしが、 044 ACT 012 017 彼手眞似にて人々を静め、主の己を監獄より取出し給ひし次第を語り、是等の事をヤコボ及び兄弟等に告げよ、と云ひて、出でて他の處に往けり。 044 ACT 012 018 拂暁に及びて、ペトロは如何にせしぞ、とて兵卒中の騒一方ならず、 044 ACT 012 019 ヘロデはペトロを索めて之を見出さざりしかば、看守を審問して死罪に處し、斯てユデアよりカイザリアに下りて、其處に留れり。 044 ACT 012 020 然てチロ及シドンの人々、ヘロデの怒に触れしにより、心を合せて彼が許に至り、王室の侍從プラストの紹介を得て和睦を求めたり、其は彼等の地方は王の國によりて糊口すればなり。 044 ACT 012 021 期日に當りてヘロデ王服を着し、高座に就きて彼等に談話を為しけるを、 044 ACT 012 022 人民、是神の聲なり、人の聲に非ず、と稱讃せるに、 044 ACT 012 023 ヘロデ神に光榮を歸せざりければ、忽ち主の使に打たれ、蟲に喰まれて死せり。 044 ACT 012 024 斯て、主の御言榮え広がりつつありしが、 044 ACT 012 025 バルナバとサウロとは聖役を終へ、マルコとも呼ばるるヨハネを携へてエルザレムより歸れり。 044 ACT 013 001 第一項 パウロ第一回の傳道旅行 アンチオキアの教會に、數人の預言者及び教師ありて、其中にバルナバと、黒人と名くるシモンと、クレネのルシオと、分國の王ヘロデの乳兄弟なるマナヘンと、サウロと在りしが、 044 ACT 013 002 彼等主に祭を為し且断食しけるに、聖霊曰ひけるは、汝等バルナバとサウロとを我為に分ちて、我が彼等に任じたる業に從事せしめよ、と。 044 ACT 013 003 是に於て彼等断食及び祈祷を為し、兩人に按手して、之を往かしめたり。 044 ACT 013 004 然れば兩人聖霊により遣はされてセリュキアに往き、彼處よりクプロ[島]に航海して、 044 ACT 013 005 サラミネに至りしかば、ユデア人の諸會堂にて神の御言を宣傳へ、ヨハネは助手として彼等と共に居りき。 044 ACT 013 006 彼等普く嶋を巡りてパフォスに至りしに、魔術者にして僞預言者なる一人のユデア人に遇へり。名をバリエズと云ひてセルジオ、パウロと云へる地方総督と共に居りしが、 044 ACT 013 007 此総督智慮ある人にて、バルナバとサウロとを招きて神の御言を聴かんと欲すれども、 044 ACT 013 008 彼魔術者エリマ、其名は斯く訳せらる、兩人に抵抗して、総督を信仰より遠ざからしめんと努め居たり。 044 ACT 013 009 其時パウロとも云へるサウロ、聖霊に充たされて之に目を注ぎ、 044 ACT 013 010 嗚呼所有狡猾と僞計とに充てる者よ、惡魔の子よ、一切の義の敵よ、汝主の直なる道を曲げて止まず、 044 ACT 013 011 今看よ、主の御手汝の上に懸り、汝瞽者となりて時至るまで日を見ざるべし、と云ひけるに、忽ち朦朧と暗黒と其目を掩ひ、彼探廻りつつ手引する者を求め居たりしかば、 044 ACT 013 012 総督は其成りし事を見て、主の教を感嘆し信仰せり。 044 ACT 013 013 パウロ及び其伴へる人々、パフォより出帆してパンフィリア[州]の[都]ペルゲンに至りしが、ヨハネは彼等を去りてエルザレムに歸れり。 044 ACT 013 014 然て彼等はペルゲンを経てピジヂア[州]の[都]アンチオキアに至り、安息日に會堂に入りて坐せしかば、 044 ACT 013 015 律法及び預言者[の書]を捧読したる後、會堂の司等、人を彼等に遣はして謂はせけるは、兄弟たる人々よ、汝等人民の為に勧となるべき話あらば語れ、と。 044 ACT 013 016 其時パウロ立ちて、(沈黙せしめん為に)手眞似して、然て云ひけるは、イスラエルの男子及び神を畏敬せる人々よ、聞け、 044 ACT 013 017 イスラエル人民の神は我等の先祖を選み、其エジプト地方に寄留せし時、人民を引立て、且御腕を挙げて彼處より導き出し、 044 ACT 013 018 四十年の間荒野に於て彼等の挙動を忍び、 044 ACT 013 019 且カナアンの地に於て七の民族を亡ぼし、其土地を彼等に嗣がしめ給ひしが、 044 ACT 013 020 是四百四十年を経たる後の事なり。其後預言者サムエルに至るまで判事を賜ひ、 044 ACT 013 021 彼等終に王を求めしかば、神は四十年の間ベンヤミン族の人、シスの子たるサウルを賜ひ、 044 ACT 013 022 之を退けて後ダヴィドを挙げて王と為し給ひしが、之を證明して曰へらく、「我わが心に適へる人、エッセの子なるダヴィドを得たり、彼悉く我意を為すべし」と。 044 ACT 013 023 神は御約束の随に、彼が子孫の中より救主イエズスをイスラエルに出し給ひしが、 044 ACT 013 024 其來るに先ちてヨハネは改心の洗禮をイスラエルの人民に普く宣傳へたり。 044 ACT 013 025 然れどヨハネ己が使命を終ふるに當りて、我は汝等の其と思へる人に非ず、然りながら看よ、我後に來る人あり、我は其履を解くにも足らず、と云ひ居たりき。 044 ACT 013 026 兄弟たる人々よ、アブラハムの裔の子等よ、又汝等の中神を畏敬する者よ、汝等にこそ、此救霊の言は送られたるなれ。 044 ACT 013 027 其はエルザレムに住める人及び其長等は、キリストを認らず、安息日毎に捧読する預言者等の言をも知らず、彼を罪して預言を全うせり。 044 ACT 013 028 且死罪の理由の一も見出さずして、ピラトに之を殺さん事を求め、 044 ACT 013 029 斯て之に関して録されたりし事を悉く全うしたる後、木より下して之を墓に納めたり。 044 ACT 013 030 然れど神は三日目に之を死者の中より復活せしめ給ひしかば、 044 ACT 013 031 多くの日の間、彼と共にガリレアよりエルザレムに上りし人々に現れ給ひ、彼等今に至るまで人民に對して其證人たり。 044 ACT 013 032 我等も曾て我先祖に為されし彼約束の福音を汝等に告ぐ、 044 ACT 013 033 其は神イエズスを復活せしめて、我等の子等の為に此約束を全うし給ひたればなり、詩の第二篇に録して、「汝は我子なり、我今日汝を生めり」、とあるが如し。 044 ACT 013 034 又之を死者の中より復活せしめ給ひて、再び腐敗に歸すべからざる事を指示して曰へらく、「我ダヴィドに為しし聖なる約束を確に全うせん」と。 044 ACT 013 035 然れば又他の處に、「汝の聖なる者に腐敗を見せ給ふ事なかるべし」と云へる事あり、 044 ACT 013 036 即ちダヴィドは、生涯神の思召に應じて事へ、眠りて後は先祖と共に置かれて腐敗を見たれども、 044 ACT 013 037 神が死者の中より復活せしめ給ひし者は腐敗を見ざりしなり。 044 ACT 013 038 然れば汝等之を覚れ、兄弟たる人々よ、イエズスに由りてこそ、汝等罪の赦を告げられ、 044 ACT 013 039 又モイゼの律法の下に義とせらるるを得ざりし一切の罪に就きても、之を信ずる人は皆義とせらるるなれ。 044 ACT 013 040 此故に汝等慎めや、預言者等の[書に]云はれし事、恐くは汝等に到來せん。 044 ACT 013 041 即ち「看よ、蔑れる人々、感嘆し、而して亡びよ、蓋汝等の日に至りて我一の業を為さん、是人汝等に語るとも汝等が信ぜざるべき程の業なり」とあり、と。 044 ACT 013 042 パウロバルナバの兩人會堂を出づる時、次の安息日にも此言を語らん事を乞はれしが、 044 ACT 013 043 散會の後多くのユデア人、及びユデア教に歸依せし人々、兩人に從ひ來りしかば、兩人彼等に語りて、神の恩寵に止らん事を勧め居たり。 044 ACT 013 044 次の安息日には、神の御言を聴聞せんとて、殆ど町を挙りて集りしが、 044 ACT 013 045 ユデア人群集の夥しきを見て妬ましさに満たされ、罵りてパウロの言ふ所を拒みければ、 044 ACT 013 046 パウロバルナバ毅然として云ひけるは、神の御言は先汝等に語るべかりき。然るに汝等之を退けて、自ら永遠の生命を得るに足らずとせるを以て、看よ我等転じて異邦人に向はんとするなり。 (aiōnios g166) 044 ACT 013 047 蓋主我等に命じて、「我汝を立てて異邦人の燈とし、地の極まで救とならしめん」と曰へり、と。 044 ACT 013 048 異邦人之を聞きて喜び、又主の御言を崇め居りしが、永遠の生命に預定せられし人々悉く之を信仰せり。 (aiōnios g166) 044 ACT 013 049 斯て主の御言全地方に弘まりければ、 044 ACT 013 050 ユデア人は敬虔なる貴夫人等、及び町の重立ちたる人々を煽動して、パウロとバルナバとに對して迫害を起させ、己が地方より彼等を追出せり。 044 ACT 013 051 兩人は人々に向ひて足の塵を払い、イコニオムに至りしが、 044 ACT 013 052 弟子等は欣喜と聖霊とに満たされてありき。 044 ACT 014 001 イコニオムに於て、兩人相共にユデア人の會堂に入りて語りければ、ユデア人及びギリシア人の之を信ずる者夥しかりしが、 044 ACT 014 002 信ぜざるユデア人は異邦人の心を煽動し、弟子等に對して怒を起させたり。 044 ACT 014 003 然れど兩人は久しく滞在して、憚る所なく主の為に盡力し、主は彼等の手によりて徴と奇蹟とを行はしめて、恩寵の教を保證し給へり。 044 ACT 014 004 然るに町の住民二個に分れて、或はユデア人の味方となり、或は使徒等の味方となりしが、 044 ACT 014 005 異邦人とユデア人と其長等と共に、騒立ちて兩人を辱しめ、又石を擲たんとせしかば、 044 ACT 014 006 兩人覚りてリカオニア[州]の町なるリストラ、デルペン及び其辺の地方に避け、 044 ACT 014 007 彼處にて福音を宣傳へ居たり。 044 ACT 014 008 リストラに足の叶はぬ一人の男坐り居り、生來の跛者にて、曾て歩みたる事なかりしが、 044 ACT 014 009 パウロの語れるを聴きければ、パウロ目を之に注ぎて、醫さるべき信仰あるを見、 044 ACT 014 010 汝眞直に立上れ、と聲高く云ひしかば、彼躍上りて歩み居たり。 044 ACT 014 011 群集パウロが為せる事を見て聲を揚げ、リカオニアの方言にて、神々は人の姿にて我等に降り給へり、と云ひて、 044 ACT 014 012 バルナバをヅウスと呼び、パウロを言の長ぜるが故にヘルメスと呼び、 044 ACT 014 013 又町の此方に在るズウスの神官、數多の牡牛と花飾とを門前に携へ來りて、人民と共に犠牲を献げんとせり。 044 ACT 014 014 使徒等即ちバルナバとパウロと之を聞くや、己が衣服を裂き、群集の中に跳入りて、 044 ACT 014 015 呼はりつつ云ひけるは、人々よ、何ぞ之を為せるや、我等も汝等と同じく有情の人間にして、汝等に福音を宣べ、彼空しき物を離れ、汝等をして天、地、海、及び其中に在りと有らゆる物を造り給ひし、活ける神に転ぜしめんとするなり。 044 ACT 014 016 神は前代に於て萬民が己々の道を歩むを措き給ひしも、 044 ACT 014 017 自らを證明し給はざる事なく、天より恵みを垂れ給ひて、雨を降らし實の季節を與へ、食物と欣喜とを以て、我等の心を満たしめ給ふなり、と。 044 ACT 014 018 兩人是等の事を語りて、辛うじて群集を止め、己等に祭を献げざらしめたり。 044 ACT 014 019 時に數人のユデア人、アンチオキアとイコニオムとより來り、群集を煽動してパウロに石を擲ち、既に死せりと思ひて町の外に引出だしけるが、 044 ACT 014 020 弟子等之を立圍みけるに、彼起上りて町に入り、翌日バルナバと共にデルペンに出立せり。 044 ACT 014 021 然て兩人此町に福音を宣べて多くの人を教へし後、リストラとイコニオムとアンチオキアとに戻り、 044 ACT 014 022 弟子等の魂を堅め、信仰に止らん事を勧め、我等は許多の患難を経て神の國に入らざるべからず、と教へつつありき。 044 ACT 014 023 又彼等の為に、教會毎に長老を立て、断食と祈祷とを為して、彼等を其信仰せる主に委ねたり。 044 ACT 014 024 斯てピシジア[州]を経てパンフィリア[州]に至りしが、 044 ACT 014 025 [都]ペルゲンに於て主の御言を語りてアッタリア[港]に下り、 044 ACT 014 026 其處より出帆して、此度為遂げたる事業を為すべき、神の恩寵に委ねられたりし處なるアンチオキアに歸れり。 044 ACT 014 027 然て其處に至りて、教會の人々を集め、総て神の己等と共に為し給ひし事、又異邦人に信仰の門を開き給ひし事を報告し、 044 ACT 014 028 久しく弟子等の共に留れり。 044 ACT 015 001 第二項 エルザレムの教議會 斯て或人々、ユデアより下りて兄弟等に向ひ、汝等モイゼの慣例に從ひて割禮を受くるに非ずば救霊を得ず、と教へければ、 044 ACT 015 002 パウロとバルナバと、彼等に對して一方ならぬ諍論を為ししが、信徒はパウロ、バルナバ、及び反對側の數人をエルザレムに上せ、此問題に就き使徒等及び長老等に伺はん事に定めたり。 044 ACT 015 003 然れば彼等教會に見送られて、フェニケア及びサマリアを経、異邦人感化の事情を具に語りて、兄弟一同に大いなる喜を起させたり。 044 ACT 015 004 一行エルザレムに至りて、教會と使徒等と長老等とに迎へられ、神の己等と共に為し給ひし事の次第を告げしが、 044 ACT 015 005 ファリザイ派の中なる數人の信者起ちて、異邦人は割禮を受けざるべからず、又命じてモイゼの律法を守らしむべし、と云ひければ、 044 ACT 015 006 使徒等及び長老等、此事を調べんとて集れり。 044 ACT 015 007 激しき諍論の後、ペトロ立ちて彼等に謂ひけるは、兄弟たる人々よ、久しき以前に、神我等の中より選みて、我口を以て異邦人に福音の言を聞かせ、之を信ぜしめ給ひし事は、汝等の知る所なり。 044 ACT 015 008 且人の心を知り給ふ神は、汝等に賜ひし如く、彼等にも聖霊を賜ひて證明し給ひ、 044 ACT 015 009 信仰によりて彼等の心を潔め、我等と彼等とを聊も隔て給ひしことなし。 044 ACT 015 010 然るを何為れぞ、汝等神を試みて、我等の先祖も我等も負ふ能はざりし軛を、今弟子等の頚に負はせんとはする。 044 ACT 015 011 我等の救はるるは主イエズス、キリストの恩寵によれりとは、我等の信ずる所にして、彼等も亦然るなり、と。 044 ACT 015 012 會衆皆沈黙して、パウロとバルナバとが、異邦人の中に己等を以て神の行ひ給ひし凡ての徴と奇蹟とを語るを聴きたりしが、 044 ACT 015 013 彼等が沈黙を保ちたる後、ヤコボ答へて云ひけるは、兄弟たる人々よ、我に聞け、 044 ACT 015 014 シモン既に神始めて異邦人を顧み、其中より己が名を尊ぶ民を取り給ひし次第を述べしが、 044 ACT 015 015 預言者等の言之に合へり、録して、 044 ACT 015 016 「此後我返りて、倒れたるダヴィドの幕屋を再興し、其崩れたる所を繕ひ、且之を建てん、 044 ACT 015 017 是は他の人々及び、為に我名を呼ばれたる萬國の異邦人が主を求め得ん為なり、之を為し給ふ所の主之を曰ふ」、とあるが如し。 044 ACT 015 018 主は世の始めより己が業を知り給ふ、 (aiōn g165) 044 ACT 015 019 之によりて我思ふに、異邦人より神に歸依する人々を煩はすべからず、 044 ACT 015 020 唯書を贈りて、偶像に捧げられし物と、私通と、絞殺されし獣の肉と血とを戒むべし、 044 ACT 015 021 蓋モイゼの書は、安息日毎に會堂に於て読まれ、之を述ぶる人昔より何れの市町にも在ればなり、と。 044 ACT 015 022 是に於て使徒等、長老等、及び教會一同に、其中より人を選みて、パウロ、バルナバと共にアンチオキアに遣はすを可しとせり、其人々はバルサバとも呼ばるるユダ、及びシラにして、兄弟中の重立ちたる者なりき。 044 ACT 015 023 彼等の手に托せられし書翰の文に曰く、「使徒等及び兄弟たる長老等、アンチオキアとシリアとシリシアとに在る異邦人たりし兄弟等に挨拶す。 044 ACT 015 024 我等の聞く所に據れば、或人々、我等が命じたる事もなきに、我等の中より出行きて汝等の魂を覆し、言を以て汝等を擾したる由なれば、 044 ACT 015 025 我等一致して人を選み、 044 ACT 015 026 我主イエズス、キリストの御名の為に生命を惜まざりし人、我等が至愛なるバルナバ及びパウロと共に、汝等に遣はさん事を宜しとせり。 044 ACT 015 027 然ればユダとシラとを遣はしたるが、彼等口づから是等の事を汝等に告げん。 044 ACT 015 028 蓋聖霊と我等とは、左の必要なる事の外、汝等に何等の荷をも負はしめざるを宜しとせり。 044 ACT 015 029 即ち汝等が偶像に捧げられし物と、血と絞殺されしものと、私通とを絶つべき事是なり。是等の事を慎まば、其にて宜しかるべし、汝等健康なれ、」と。 044 ACT 015 030 然て彼等暇乞してアンチオキアに下り、信徒を集めて書翰を渡ししが、 044 ACT 015 031 人々之を読みて、慰を得て喜べり。 044 ACT 015 032 ユダとシラとは其身も預言者なれば、多くの談話を以て兄弟を勧め且堅めたりしが、 044 ACT 015 033 暫く此處に留りて後、己を遣はしし者の許に歸らんとて、兄弟等に無事を祝されて暇を乞ひ得たり。 044 ACT 015 034 然れどシラは此處に留るを宜しとせしかば、ユダ一人エルザレムに歸り、 044 ACT 015 035 パウロとバルナバとはアンチオキアに留り、他の數人と共に主の御言を教へ、福音を宣べつつありき。 044 ACT 015 036 第三項 聖パウロ第二回の傳道旅行 然て數日の後、パウロはバルナバに向ひ、将我等後戻して、曩に主の御言を宣傳へし凡ての市町を巡廻し、其安否を問はん、と云ひしが、 044 ACT 015 037 バルナバはマルコとも呼ばるるヨハネを携へんと思へるに、 044 ACT 015 038 パウロは、彼は曾てパンフィリアにて己等を離れ、共に働かざりし者なれば、之を承容るべからず、と考へ居たりしかば、 044 ACT 015 039 遂に衝突して相別るるに至れり。さればバルナバはマルコを携へてクプロ[島]へ出帆せしが、 044 ACT 015 040 パウロはシラを選みて、兄弟等より神の恩寵に委ねられて出立し、 044 ACT 015 041 シリアとシリシアとを巡りて諸教會を固め、使徒等及び長老等の規定を守るべき事を教へ居たり。 044 ACT 016 001 パウロデルベンとルストラとに至りしに、折しも此處にチモテオと云へる弟子あり、信者となりたるユデア教の婦人の子にて、父はギリシア人なりしが、 044 ACT 016 002 ルストラ及びイコニオムに在る兄弟等は是に好評を與へつつありき。 044 ACT 016 003 パウロ之を伴ひて出發せんと思定め、彼を携へて其地方なるユデア人に對して割禮を施せり。其は彼等皆其父のギリシア人たりしことを知ればなり。 044 ACT 016 004 斯て市町を通る時、エルザレムに居る使徒等及び長老等の規定を守らせんとて、之を人々に渡しければ、 044 ACT 016 005 諸教會は其信仰を固うせられて、人員も日々に彌増しつつありき。 044 ACT 016 006 兩人フリジア及びガラチア地方を過りしに、聖霊[小]アジアに於て神の御言を語る事を戒め給ひしが、 044 ACT 016 007 又ミジア[州]に至りて、ビチニア[州]へ往かんと試みしも、イエズスの霊之を許し給はざりき。 044 ACT 016 008 斯てミジアを経てトロアデに下りけるに、 044 ACT 016 009 パウロ夜中幻影を示され、一人のマケドニア人立ち居りて己を頼み、マケドニアに渡りて我等を救へ、と云へるを見たり。 044 ACT 016 010 パウロ此幻影を見るや、己等がマケドニア人に福音を傳ふる為に神より召されたる事を確信して、直にマケドニアへ赴かんと力めたり。 044 ACT 016 011 然て我等トロアデより出帆してサモトラキアへ直航し、翌日ネエプルに至り、 044 ACT 016 012 其處よりマケドニアの取付の都會にして殖民地なるフィリッピに至れり。數日の間此市に留り、 044 ACT 016 013 安息日に當りて市の門外に出で、河の辺の祈場と思しき處に往き、集りたる婦等に坐りつつ語りけるに、 044 ACT 016 014 テアチロ町の紅色染料商にして神を尊べるルヂアと云へる婦之を聴きけるを、主其心を開きて、パウロより言はるる事に傾かしめ給ひ、 044 ACT 016 015 彼一家と共に洗せられしが、願ひて、汝等我を主に忠實なる者とせば我家に入りて留れ、と云ひて、強ひて我等を入らしめたり。 044 ACT 016 016 爰に祈場に往く途中、卜筮の鬼神に憑かれて、卜筮を以て其主人等に許多の利益を得させつつある一人の女、我等に出會ひしが、 044 ACT 016 017 其女パウロと我等の後に從ひつつ呼はりて、此人等は最高き神の僕にして、汝等に救霊の道を告ぐる者なり、と云ひ居たり。 044 ACT 016 018 斯の如くする事數日にして、パウロ甚く心を痛め、回顧りて鬼神に向ひ、我イエズス、キリストの御名によりて、汝に此女より出る事を命ず、と云ひしかば彼即時に出でたり。 044 ACT 016 019 然るに其主人等は、己が利益の望無くなりたるを見て、パウロとシラとを捕へ、官吏の許に市場まで連行きて、 044 ACT 016 020 官吏に差出し、此人々はユデア人にして、我等の市中を亂し、 044 ACT 016 021 ロマ人たる我等の受くべからず行ふべからざる慣習を傳うる者なり、と云ひ、 044 ACT 016 022 人民も馳來りて使徒等に反對せしかば、官吏は命じて其襦袢を裂かせ、之を鞭たせ、 044 ACT 016 023 多くの傷を負はせて後監獄に送り、固く守るべき由を看守に命じたり。 044 ACT 016 024 看守は斯る命令を受けたれば、二人を奥の監房に入れ、桎にて足を締めたりしが、 044 ACT 016 025 夜半に至り、パウロとシラと祈りて神を賛美し、監獄に居る人々之を聞き居たるに、 044 ACT 016 026 忽ち大地震ありて、監獄は基礎まで震動し、戸は直に悉く開けて、一同の縲絏解けたり。 044 ACT 016 027 看守醒めて監獄の戸を開けたるを見、囚徒の逃げし事と思ひ、刀を抜きて自殺せんとしければ、 044 ACT 016 028 パウロ聲高く呼はりて云ひけるは、自害すな、我等皆此處に在り、と。 044 ACT 016 029 看守燈火を求めて内に入り、戰きつつパウロとシラとの足下に平伏し、 044 ACT 016 030 伴ひて外に出で、君等よ、我何を為してか救霊を得べき、と云ひしかば、 044 ACT 016 031 彼等云ひけるは、主イエズスを信仰せよ、然らば汝も家族も救霊を得べし、とて、 044 ACT 016 032 看守と其家に在る人々一同とに主の御言を語りしかば、 044 ACT 016 033 看守夜中ながら即時に兩人を引取りて其傷を洗ひ、己も家族も皆直に洗せられしが、 044 ACT 016 034 尚彼等を自宅に伴ひて之に食卓を備へ、家族一同と共に神を信じて喜べり。 044 ACT 016 035 拂暁に至り、官吏は刑吏を遣はして、彼人々を赦せ、と云はせしかば、 044 ACT 016 036 看守此事をパウロに告げて、官吏汝等を赦せとて人を遣はしたる故、今は出でて恙なく往け、と云ひけるな、 044 ACT 016 037 パウロ刑吏に云ひけるは、彼等は我々を公に鞭たせ、ロマ人たる者を裁判なくして監獄に入れたるに、今窃に我々を追出すか、然あるべからず、彼等來りて、 044 ACT 016 038 自ら我々を出すべし、と。刑吏此事を告げしかば、官吏は其ロマ人たる事を聞きて懼れ、 044 ACT 016 039 來り詫びて二人を伴出で、此市を去らん事ことを乞ひたり。 044 ACT 016 040 斯てパウロとシラとは監獄より出でてルジアの家に入り、兄弟等に逢ひて之を慰め、然て出立したりき。 044 ACT 017 001 其よりアンフィポリとアポロニアとを経てテサロニケに至りしが、此處にユデア人の會堂ありければ、 044 ACT 017 002 パウロ例によりて彼等の中に入り、三の安息日に亘りて、聖書に就きて弁論し、 044 ACT 017 003 キリストが必ず苦しみて死者の中より復活すべかりし事と、我が汝等に告ぐるイエズスがキリストたる事とを説きて論證したるに、 044 ACT 017 004 其中の或人々、及び神を尊べる數多のギリシア人、其他貴婦人等も少からず承服して、パウロとシラとに属けり。 044 ACT 017 005 然るにユデア人妬を起して、無頼漢の中より數人の惡者を手に属け、人々を招集して市中を騒がし、又ヤソンの家を圍みてパウロとシラとを人民の前に引出さんと努めたりしが、 044 ACT 017 006 彼等を見付け得ず、ヤソンと數人の兄弟とを市の吏員の許に引行きて、天下を覆したる彼人々此處にも來れるを、 044 ACT 017 007 ヤソンが承容れて、一同にイエズス[と云ふ]王別に在りと稱へ、セザルの勅令に逆らふなり、と叫びつつ、 044 ACT 017 008 人民と之を聞ける市の吏員とを煽動し、 044 ACT 017 009 ヤソン及び其他の人々より保證金を受けて之を赦せり。 044 ACT 017 010 然て兄弟等直に、パウロとシラとを夜の中にベレアへ送りしかば、彼等其處に着きてユデア人の會堂に入りしが、 044 ACT 017 011 此處の人々はテサロニケに在る者等よりは、高尚にして、熱心に言を承け、此事果して然りや否やと、日々聖書を調べ居たり。 044 ACT 017 012 斯て其中に信じたる人多く、ギリシアの貴婦人にも男子にも其數少からざりき。 044 ACT 017 013 然る程にテサロニケに在るユデア人、ベレアにもパウロによりて神の御言の傳はれるを知り、又此處に來りて、群集を煽動して騒がししかば、 044 ACT 017 014 兄弟等即時にパウロを海辺に至らしめ、シラとチモテオとはベレアに留れり。 044 ACT 017 015 パウロを案内せる人々はアデンスまで送行きしが、シラとチモテオとに成るべく速に我許に來れとの命を、パウロより受けて立歸れり。 044 ACT 017 016 パウロアデンスに在りて彼等を待てる間、此都會の偶像崇拝に耽るを見て憤激し、 044 ACT 017 017 會堂にてはユデア人及びユデア教に歸依せし人々と論じ、市場にても居合せたる人々と日毎に論じ居たり。 044 ACT 017 018 時にエピクリアン及びストイック派の哲學者數人、之と論じ合ひけるが、或人は、此囀人は何を云ふ者ぞ、と云ひ、或人は、彼は新しき鬼神を告ぐる者の如し、と云ひ居たり、是パウロがイエズスと復活との福音を彼等に告ぐればなり。 044 ACT 017 019 斯てパウロをアレオパグに連行きて云ひけるは、汝が説ける此新しき教は如何なるものぞ、我等之を知ることを得べきか、 044 ACT 017 020 即ち汝は何等かの新しき事を我等の耳に入るるが故に、我等は其何事なるかを知らんと欲するなり、と。 044 ACT 017 021 蓋アデンス人も寄留人も皆、唯耳新しき何事かを、或は言ひ或は聞きて日を送る者なりき。 044 ACT 017 022 其時パウロアレオパグの中央に立ちて云ひけるは、アデンス人よ我は汝等が萬事に於て宗教心の甚だ厚きが如きを認む。 044 ACT 017 023 即ち通りがけに、熟汝等の禮拝物を見て、知れざる神に[献ぐ]、と記せる祠をも見付けたればなり。然れば我汝等が知らずして尊べる其者をば汝等に告げん。 044 ACT 017 024 世界と其中に在る一切の物とを造り給へる神は、天地の主にて在せば、手にて造れる宮には住み給はず、 044 ACT 017 025 御自萬物に生命と呼吸と一切の事とを賜へば、何等の乏しき所あるものの如く、人手にて事へらるる者に非ず、 044 ACT 017 026 一人よりして地の全面に住ふまでに人類を造為し給ひ、季節と住居の界とを定め給へるは、 044 ACT 017 027 是人をして神を求め、或は探出さしめん為なり。然れども彼は、我等面々を離れ給ふ事遠からず、 044 ACT 017 028 蓋彼に在りてこそ、我等は且活き且動き且存在するなれ。汝等が詩人の誰彼も、我等も亦彼が裔なり、と云へるが如し。 044 ACT 017 029 斯く我等は神の裔なれば、神を金、或は銀、或は石、即ち芸術及び人の想像に由れる彫刻に似たる者と思ふべからず。 044 ACT 017 030 神は斯る蒙昧の時代を見過し給ひて、今人に向ひて、何處にても悉く改心すべしと命じ給ふ。 044 ACT 017 031 蓋日を期し給ひて、其日自ら立て給ひし一個の人、即ち之を死者の中より復活せしめて萬民の前に保證し給ひたる一人を以て、世界を義に從ひて審かんとし給ふなり、と。 044 ACT 017 032 死者の復活と聞きて、或人々は、嘲笑ひ、或人々は、我等の事に就きて復汝に聴かん、と云へり。 044 ACT 017 033 斯てパウロは、彼等の中より立去りしが、 044 ACT 017 034 之に從ひて信仰せる者數人あり。其中にアレオパグの裁判官ジオニジオ、ダマリスと云へる婦人、其他尚ありき。 044 ACT 018 001 其後パウロアデンスを出でてコリントに至りしが 044 ACT 018 002 クロウヂオ[皇帝]が、ユデア人は皆ロマを去るべしとの命を下しし為に、近頃イタリアより來れる、ポント生れのアクィラと云へるユデア人と、其妻プリシルラとに遇ひしかば、彼等に近づき、 044 ACT 018 003 同業なりければ、同居して共に仕事を為し居たり、其は幕屋製造業なりき。 044 ACT 018 004 然て安息日毎に會堂に於て論じ、主イエズスの御名を挿みて、ユデア人とギリシア人とを勧め居りしが、 044 ACT 018 005 シラとチモテオとマケドニアより來りて後は、パウロ専ら宣教に從事し、イエズスのキリストたる事をユデア人に證明しけるに、 044 ACT 018 006 彼等之に逆らひ且罵りければ、パウロ衣服を振ひて云ひけるは、汝等の血は汝等の首に歸すべし、我は罪なし、今より異邦人に赴かんとす、と。 044 ACT 018 007 斯て此處を去りて、神を尊べるチト、ユストと云へる人の家に入りしが、其家は會堂の隣にして、 044 ACT 018 008 會堂の司クリスポ其家族一同と共に主を信仰し、又コリント人夥しく教を聴きて、信じ且洗せられ居たり。 044 ACT 018 009 時に主夜中に幻影を以てパウロに曰ひけるは、懼れずして語れ、黙すること勿れ、 044 ACT 018 010 蓋我汝と共に在れば、汝に打蒐りて害する人あらじ、其は我民となるもの此市中に多ければなり、と。 044 ACT 018 011 斯てパウロは一年六箇月の間此處に滞在して、彼等の中に神の御言を教へたり。 044 ACT 018 012 然るにガルリオがアカヤ[州]の総督たりし時、ユデア人心を合せてパウロに逆らひ、之を裁判所に召連れ、 044 ACT 018 013 此人律法に反して神を尊ぶ事を人に勧む、と云ひければ、 044 ACT 018 014 パウロ口を開かんとしけるを、ガルリオユデア人に向ひて、ユデア人よ、不正の事、極惡の事ならば、我が汝等に聴くは素より道理なれど、 044 ACT 018 015 若教と名義と汝等の律法とに関する問題ならば、汝等自ら之を視よ、我は斯る事の審判者となるを好まず、と云ひて、 044 ACT 018 016 彼等を法廷より追出しければ、 044 ACT 018 017 彼等皆會堂の司ソステネスを捕へ、裁判所の前にて打擲きたり、然れどガルリオ豪も之を意とせざりき。 044 ACT 018 018 パウロ尚久しく滞在して後、兄弟等に別を告げ、プリシルラ及びアクィラも同船して、シリアへ出帆せしが、早くよりの誓願にて、ケンクレに於て髪を剃りたりき。 044 ACT 018 019 然てエフェゾに至り、彼二人を措きて自らは會堂に入り、ユデア人と論じ居りしが、 044 ACT 018 020 彼等尚久しく留らん事を請ひたれど、諾はずして、 044 ACT 018 021 別れを告げ、神の思召ならば再び汝等に返るべし、と云ひてエフェゾより出發し、 044 ACT 018 022 カイザリアに上陸して[エルザレムに]上り、教會に挨拶してアンチオキアに下れり。 044 ACT 018 023 第四項 聖パウロ第三回の傳道旅行 パウロアンチオキアに滞在する事暫くにして出發せしが、次第にガラチア地方及びフリジアを巡りて、弟子一同を堅固ならしめたり。 044 ACT 018 024 時に名をアポルロと呼ばれ、能弁にして聖書に達したる、アレキサンドリア生れのユデア人、エフェゾに來りしが、 044 ACT 018 025 此人曾て主の道を教へられ、唯ヨハネの洗禮を知るのみなりしかど、熱心家にして、イエズスの事を語り、且詳しく教へつつありき。 044 ACT 018 026 然れば憚る所なく會堂に於て盡力し出でしを、プリシルラとアクィラと聞きて之を誘ひ、尚委しく主の道を説き聞かせたり。 044 ACT 018 027 アポルロアカヤ[州]に往かんと欲しければ、兄弟等書簡を弟子等に贈りて、之を承容れん事を勧めしに、彼往きて後、既に信じたる人々に益する所多かりき。 044 ACT 018 028 其は聖書によりてイエズスのキリストたる事を證明し、勇を振ひて公然ユデア人を説伏すればなり。 044 ACT 019 001 然るにアポルロコリントに居りし時、パウロは高地の方を巡りてエフェゾに來り、或弟子等に遇ひて、 044 ACT 019 002 汝等信者となりて聖霊を蒙りたるか、と云ひしに、彼等、我等は聖霊の在る事すら聞きし事なし、と云ひしかば、 044 ACT 019 003 パウロ云ひけるは、然らば何によりて洗せられたるぞ、と。彼等云へらく、ヨハネの洗禮を受けたるなり、と。 044 ACT 019 004 パウロ云ひけるは、ヨハネは、己の後に來るべき者、即ちイエズスを信ずべし、と言ひつつ、改心の洗禮を以て人民を洗したるなり、と。 044 ACT 019 005 彼等之を聞きて主イエズスの御名に由りて洗せられ、 044 ACT 019 006 パウロ之に按手せしかば、聖霊彼等の上に降り給ひて、彼等異國語を語り、且預言したり、 044 ACT 019 007 是等の男子凡十二人なりき。 044 ACT 019 008 パウロ會堂に入りて三箇月の間憚らず語り、神の國に就きて論じ、人々を勧め居りしが、 044 ACT 019 009 或は頑固になりて信ぜず、主の道を群衆の前に罵る者ありければ、パウロ彼等を去りて弟子等をも別れしめ、日々チランノと云へる人の教場にて弁論し居たり。 044 ACT 019 010 斯く為る事二年に渉りしかば、ユデア人も異邦人も[小]アジアに住める者は総て主の御言を聞くに至り、 044 ACT 019 011 神は又凡ならぬ奇蹟をパウロの手に由りて行ひ給ひ、 044 ACT 019 012 其身より手拭或は帯を取りて病人に着くれば、病ひ彼等を離れ惡鬼立去る程なりき。 044 ACT 019 013 然るに各地を巡るユデアの呪術師の中なる或人々は、パウロが宣ぶるイエズスによりて我汝に命ず、と云ひて、惡鬼に憑かれたる人の上に、試に主イエズスの御名を呼べり。 044 ACT 019 014 斯く為せるはユデア人なるスケヴァ大司祭の七人の男子なりしが、 044 ACT 019 015 惡鬼答へて、我イエズスを知り、パウロを知れり、然れど汝等は誰ぞ、と云ひて、 044 ACT 019 016 極惡の魔鬼に憑かれたる其人彼等に飛蒐り、二人を取押へて責めしかば、彼等裸體に為られ傷けられて、其家を逃去れり。 044 ACT 019 017 此事エフェゾに住めるユデア人及びギリシア人一般に知れ渡りしかば、恐怖は一同の上を襲ひて、主イエズスの御名崇められつつありき。 044 ACT 019 018 斯て信仰せる人々多く來り、己が行ひし事を説顕はして之を告白し居り、 044 ACT 019 019 又曾て魔術を行ひたりし人々多く其書籍を持來り、衆人の前にて焼盡ししが、其代價を算りて銀貨五萬なる事を認めたり。 044 ACT 019 020 神の御言の弘まりて勢力を得つつある事斯の如くなりき。 044 ACT 019 021 是等の事を為遂げて後、パウロ聖霊に勧められて、マケドニア及びアカヤを経てエルザレムへ往かんと志し、我彼處に至りて後ロマをも見ざるべからず、と謂ひて、 044 ACT 019 022 從者の中チモテオとエラストとの二人をマケドニアに遣し、其身は暫く[小]アジアに留れり。 044 ACT 019 023 然て此時に當り、主の道に就きて、一方ならぬ騒動起れり。 044 ACT 019 024 即ちデメトリオと云へる一人の銀細工屋あり、ヂアナ女神の銀の厨子を造りて、細工人等に得さする利益少からざりしが、 044 ACT 019 025 其細工人及び同業の職工を呼集めて云ひけるは、男等よ、我等の利益が此細工に依れる事は汝等の知る所にして、 044 ACT 019 026 彼パウロが、手にて造れるものは神に非ず、と云ひて、既にエフェゾのみならず、殆全アジアを説勧めて、夥しき人を遠ざからしめし事も、亦汝等の見聞せる所なり。 044 ACT 019 027 之より起る危険は、啻に我等が職業の信用を失ふ耳ならず、ヂアナ大女神の宮も`蔑にせられ、アジア及び世界挙りて崇め奉る大女神の威厳も失行くべき事是なり、と。 044 ACT 019 028 彼等之を聞きて怒胸に満ち、叫びて、大いなる哉エフェゾ人のヂアナ、と云へり。 044 ACT 019 029 斯て市中挙りて大いに騒ぎ立ち、相一致して、パウロの友なるマケドニア人ガイオとアリスタルコとを捕へて劇場に押入りたり。 044 ACT 019 030 パウロも群衆の中に入込まんとせしを弟子等許さず、 044 ACT 019 031 又[小]アジアにて國祭を司れる上官中に、パウロの親友なる人々あり、使にて、劇場に立入らざらん事を云ひ遣りしが、 044 ACT 019 032 人々は彼是と叫び居たり、其は會衆混雑して、大方の人は己等が何故に集りしかをさえ知らざればなり。 044 ACT 019 033 斯てユデア人より突遣られたるアレキサンドルを雑踏の中より引出ししに、彼手眞似して静まらん事を乞ひ、人民に事の由を述べんとしたれど、 044 ACT 019 034 人々彼がユデア人なるを見知るや、皆異口同音に殆二時間に渉りて、大いなる哉エフェゾ人のヂアナ、と叫べり。 044 ACT 019 035 斯て書記官群衆を鎮めて後云ひけるは、エフェゾ人よ、エフェゾの市はヅウスの裔なるヂアナ大女神の宮に事へ奉る者たる事誰かは知らざらん、 044 ACT 019 036 是拒むべからざる事なれば、汝等宜しく穏便にして、何事も軽率に為すべからず。 044 ACT 019 037 即ち汝等は此人々を召連れたれども、彼等は宮の物を盗みたるにも非ず、我等の女神を罵りたるにも非ず。 044 ACT 019 038 若しデメトリオ及び其友なる細工人等、或人に就きて訴ふる所あらば、法廷の開かれたるあり、地方総督の在るあり、人々互に告訴すべし。 044 ACT 019 039 汝等若他の問題に就きて議する事あらば、正當の議會に於て之を決するを得べし。 044 ACT 019 040 蓋今日の事に就きては、騒亂の咎を受くる懼あり、其は此集會の事を弁解すべき理由、我等に一もあらざればなり、と。 044 ACT 019 041 書記官は斯く云ひ終りて散會を告げたり。 044 ACT 020 001 騒亂止みて後、パウロ弟子等を呼集め、奨励を與へて別を告げ、マケドニアへ往かんとて出立せり。 044 ACT 020 002 斯て彼地方を巡り、許多の談話に人々を勧めてギリシアに至り、 044 ACT 020 003 滞在三箇月にして、シリアへ出帆せんとしたるに、ユデア人等陷穴を設けて待ちければ、マケドニアを経て返らんと決心せり。 044 ACT 020 004 伴ひし人々は、ベレエ生れなるピルロの子ソパテル、テサロニケ人アリスタルコ及びセコンド、デルベン人ガヨ及びチモテオ、[小]アジア人チキコ及びトロフィモなりき。 044 ACT 020 005 彼等皆先ちて、トロアにて我等を待ちしが、 044 ACT 020 006 我等は無酵麪の祭日の後、フィリッピより出帆し、五日間にてトロアに至り、其處に留る事七日なりき。 044 ACT 020 007 週の第一日、我等麪を擘かんとて集りしに、パウロは翌日出立すべきにて人々と論じ居り、夜半まで語続けしが、 044 ACT 020 008 我等が集れる高間に燈火多かりき。 044 ACT 020 009 茲にユチコと云へる青年、窓の上に坐して熟睡したりしに、パウロの語る事尚久しければ、眠りの為に三階より落ち、取上げたれば既に死したりき。 044 ACT 020 010 パウロ下り往きて其上に伏し、之を掻抱きて云ひけるは、汝等憂ふること勿れ、彼が魂身の中に在り、と。 044 ACT 020 011 斯て又上りて麪を擘き且食し、尚拂暁まで語続けて其儘出立せり。 044 ACT 020 012 然て人々青年の活きたるを連來りしかば、慰めらるる事一方ならざりき。 044 ACT 020 013 爰に我等はアッソスにてパウロを載せんとて、先船に乗りて彼處へ出帆せり、其は彼陸行を企てて斯く豫定したればなり。 044 ACT 020 014 パウロアッソスにて我等に出遇ひしかば、我等は之を載せてミチレネに至り、 044 ACT 020 015 又其處を出帆して翌日キオスの沖合に至り、次日サモスに着し、明日はミレトに至れり。 044 ACT 020 016 蓋パウロ[小]アジアにて暇取らざらん為、エフェゾに立寄らじと決したるなりき。是成るべくばエルザレムにてペンテコステの日を過さんと急ぎ居たればなり。 044 ACT 020 017 パウロミレトより人をエフェゾに遣はして、教會の長老等を呼び、 044 ACT 020 018 彼等來集りしかば、パウロ之に謂ひけるは、我が[小]アジアに入りし最初の日より、常に如何にして汝等と共に在りしかは、汝等の知る所なり、 044 ACT 020 019 即ち一切の謙遜と涙と、ユデア人の企書より我身に起りし患難とに於て主に奉事しつつ、 044 ACT 020 020 汝等に益する所は豪も隠す事なく、之を汝等に知らせ、公にても又家々に就きても汝等を教へ、 044 ACT 020 021 ユデア人にも異邦人にも、神に對して改心すべき事、我主イエズス、キリストを信仰すべき事を證明したり。 044 ACT 020 022 今我[聖]霊に迫られてエルザレムに赴くなるが、如何なる事の我身に到來すべきかは之を知らず、 044 ACT 020 023 唯聖霊が凡ての市町に於て我に保證し、縲絏と患難と我をエルザレムに待てり、と曰へるを知るのみ。 044 ACT 020 024 然れども是等の事我一も恐しと為ず、我が行くべき道を喜びて全うし、主イエズスより賜はりたる恩寵の福音を證明するの[聖]役をだに盡し得ば、我生命をも尊しとは為ざるべし。 044 ACT 020 025 我は知れり、我曾て行廻りて汝等の中に神の國を宣傳へたりしが、看よ、今汝等総て再び我顔を見ざるべし。 044 ACT 020 026 故に我今日汝等に断言す、衆人の血に就きて我は罪なし、と。 044 ACT 020 027 其は神の思召を洩す所なく、悉く汝等に告げたればなり。 044 ACT 020 028 聖霊は神の教會、即ち御血を以て得給ひたる教會を牧せよとて、汝等を立てて群の上に監督たらしめ給ひたれば、汝等己にも群全體の上にも省みよ。 044 ACT 020 029 我は知れり、我が出立の後、群を惜まざる猛狼、汝等の中に入らんとす。 044 ACT 020 030 又弟子等を誘ひて己に從はせんとて、邪なる事を語る人々、汝等の中にも起るべければ、 044 ACT 020 031 汝等、我が三年の間晝夜となく、涙を以て一人々々汝等を勧めて止まざりし事を、記憶に止めて警戒せよ。 044 ACT 020 032 今や我汝等を神に委ね、又能く建物を造る事と総て聖と為られたる人と共に嗣たらしむる事とを得給ふものの恩寵の言に委ぬ。 044 ACT 020 033 我が人の金銀衣服を貪りし事なきは、 044 ACT 020 034 汝等の自ら知れるが如し。其は我及び我と共に在る人々の要する所は、此兩手之を供給したればなり。 044 ACT 020 035 斯の如く、働きて弱き人を扶くべき事、「與ふるは受くるよりも福なり」、と主イエズスの曰ひし御言を記憶すべき事を、我は萬事に於て汝等に示せり、と。 044 ACT 020 036 斯く言ひ終りて後、パウロ跪きて一同と共に祈りけるが、 044 ACT 020 037 皆大いに悲歎き、パウロの頚に抱付きて接吻し、 044 ACT 020 038 再び其顔を見ざるべし、と云ひし言によりて殊更に悲みたりしが、人々彼を船まで送行けり。 044 ACT 021 001 我等は漸く彼等に別れて船に乗り、コス[島]に直航して翌日ロデ[島]に至り、其よりパタラ[市]に往きしが、 044 ACT 021 002 フェニケアへ渡海する船に遇ひたれば、之に乗りて出帆し、 044 ACT 021 003 クプロ[島]沖に至り、之を左に見てシリアに渡り、チロに至れり。其は其處にて船荷を卸すべければなり。 044 ACT 021 004 然て弟子等を尋出して、其處に留る事七日なりしが、彼等は[聖]霊によりて、パウロにエルザレムへ上ること勿れ、と謂ひ居たり。 044 ACT 021 005 七日の後出發して往きけるに、彼等皆妻子と共に市外まで送りしかば、我等は海岸に跪きて祈り、 044 ACT 021 006 互に別を告げて、我等は船に乗り彼等は家に歸れり。 044 ACT 021 007 斯て我等チロより海を渡り終てて、プトレマイスに上陸し、兄弟等に挨拶して彼等の許に留る事一日、 044 ACT 021 008 翌日出立してカイザリアに至り、彼七人の一人なるフィリッポ福音師の家に入りて其許に留りしが、 044 ACT 021 009 是に童貞なる四人の女ありて、皆預言しつつありき。 044 ACT 021 010 我等が數日此處に止れる間に、アガポと云へる一人の預言者ユデアより來り、 044 ACT 021 011 我等に近づきてパウロの帯を取り、己が手足を縛りて云ひけるは、聖霊曰はく、エルザレムに於て斯の如く、ユデア人此帯の主をば縛りて異邦人に付さん、と。 044 ACT 021 012 之を聞きて、我等も土地の人々も、エルザレムに上ること勿れと願ひ居たれど、 044 ACT 021 013 パウロ答へて云ひけるは、汝等何為ぞ泣きて我心を憂ひしむる、我は主イエズスの御名の為には、エルザレムに於て縛らるる耳ならず、死ぬる覚悟をさえ為せるなり、と。 044 ACT 021 014 我等は終に説得ずして、主の御旨の儘に成れかし、と云ひて止みたり。 044 ACT 021 015 數日の後、我等は旅支度してエルザレムに上る時、 044 ACT 021 016 カイザリアよりの弟子數人、來りて我等に伴ひ、ムナソンと云へるクプロ生れの古き弟子の許に宿らせんとて、其家に伴ひ行けり。 044 ACT 021 017 第五項 エルザレムに於るパウロ就縛 エルザレムに至りしかば、兄弟等は我等を歓迎せり。 044 ACT 021 018 翌日パウロ我等と共にヤコボの家に入りしに、長老等皆集りしかば、 044 ACT 021 019 パウロ彼等に接吻して、己が聖役に由りて異邦人の中に神の為し給ひし事を具に語りけるに、 044 ACT 021 020 彼等聞きて神を賞賛し、且パウロに謂ひけるは、兄弟よ、汝の見る如く、ユデア人の中信じたる者幾萬に及びて、皆律法の熱心家なるが、 044 ACT 021 021 彼等は、汝が異邦人中のユデア人に向ひ、面々の男子等に割禮を授くるに及ばず、慣例に從ふに及ばず、と云ひてモイゼに遠ざかる事を教ふるを聞けり。 044 ACT 021 022 然て如何にかすべき、彼等は汝が來れる事を聞くべければ、必ず夥しく來集るならん。 044 ACT 021 023 然れば我等が汝に告ぐる所を為せ、我等に誓願を有せる人四人あり、 044 ACT 021 024 汝彼等を引取りて共に身を潔め、且費用を弁じて其頭を剃り得させよ、然せば人皆、汝に就きて聞きし所の僞にして、汝自ら律法を守りつつ歩める事を知るべし、 044 ACT 021 025 異邦人にして信じたる人々に関しては、我等議定して、唯、偶像に献げられし物と血と絞殺されしものと私通とを避くべし、と書贈れり、と。 044 ACT 021 026 斯てパウロ彼人々を引取り、翌日身を潔めて共に[神]殿に入り、面々の為に供物を為さんとて、潔の期日を定めたり。 044 ACT 021 027 七日の終らんとする時、[小]アジアよりのユデア人、パウロを[神]殿の内に見しかば、人民を煽動し、彼に手を懸けて叫びけるは、 044 ACT 021 028 助けよ、イスラエルの男子等、是至る處に人民と律法と此所とに反する事を人々に教へ、而も異邦人を[神]殿に入らしめて、此聖所を穢せる者なり、と。 044 ACT 021 029 蓋彼等はエフェゾ人なるトロフィモが彼と共に市中に在るを見て、パウロ之を[神]殿に入れたりと思ひしなり。 044 ACT 021 030 是に於て市中挙りて立騒ぎ、人民馳集りてパウロを捕へ、[神]殿の外に引出ししが、門は直に鎖されたり。 044 ACT 021 031 然て人々パウロを殺さんと謀りければ、軍隊の千夫長の許に、エルザレム全く亂れたりとの報告あり、 044 ACT 021 032 千夫長直に、兵卒及び百夫長らを率ゐて人民の所に馳來りしかば、人々千夫長と兵卒とを見て、パウロを打つ事を罷めたり。 044 ACT 021 033 千夫長近づきて之を捕へ、命じて二の鎖にて繋がせ、是は誰なるぞ、何を為ししぞ、と尋ぬるに、 044 ACT 021 034 群衆の中より口々に彼是と叫び、騒がしさに事實を確むる事能はざれば、命じてパウロを兵営の内に牽入れしめしが、 044 ACT 021 035 階段に至り、パウロ人民の[押合ふ]勢の為、兵卒に舁上げらるるに及べり、 044 ACT 021 036 其は彼を殺せと叫びつつ、人民夥しく後を慕へばなり。 044 ACT 021 037 パウロ牽かれて兵営に入らんとする時、千夫長に向ひ、我汝に語りて可きか、と云ひしかば彼云ひけるは、汝ギリシア語を知れりや、 044 ACT 021 038 過日騒動を起して四千人の刺客を野に引出ししエジプト人は汝に非ずや、と。 044 ACT 021 039 パウロ之に謂ひけるは、我實はシリシア[州]のタルソ生れなるユデア人にして、隠れなき町の公民なり、乞ふ人民に言ふ事を許せ、と。 044 ACT 021 040 彼許ししかば、パウロ階段に立ちて人民に手眞似したるに、皆沈黙したりければ、ヘブレオ語にて語りけるは。 044 ACT 022 001 兄弟にして父たる人々よ、我が汝等に述べんとする事由を聞け、と。 044 ACT 022 002 人々彼がヘブレオ語にて語るを聞きて一層沈黙せり。 044 ACT 022 003 斯てパウロ言ひけるは、我はユデア人にして、シリシアのタルソに生れ、此市中に育てられ、先祖の律法の眞理に從ひてガマリエルの足下に教へられ、律法の為に奮励せしは、恰も今日汝等一同の為せる如くなりき。 044 ACT 022 004 我が男女を縛り且拘留して、死に至らしむるまで此道を迫害せしは、 044 ACT 022 005 司祭長及び長老會が我に就きて證明せるが如し。我又彼等より兄弟等に宛てたる書簡を受け、人々を縛りてエルザレムに牽き、刑を受けしめんとてダマスコへ往きつつありしに、 044 ACT 022 006 ダマスコに近づかんとする途中、日中に忽ち大いなる光ありて我を圍照せり。 044 ACT 022 007 然て地に倒れて、サウロよ、サウロよ、何故に我を迫害するぞ、と我に謂へる聲を聞き、 044 ACT 022 008 主よ、汝は誰ぞ、と答へしに、我は汝が迫害せるナザレトのイエズスなり、と謂はれたり。 044 ACT 022 009 伴侶なる人々は光を見たれど、我に語れる者の聲をば聞分けざりき。 044 ACT 022 010 然て我、主よ、何を為すべきぞ、と云ひたるに主曰はく、立ちてダマスコに往け、総て汝の為に定りたる事は其處にて言はるべし、と。 044 ACT 022 011 斯て我は彼光の輝の為に目見えざれば、伴侶の人に手を引かれてダマスコに至れり。 044 ACT 022 012 然るにアナニアとて、律法を遵奉し敬虔にして、當地に住めるユデア人一般に好評ある人、 044 ACT 022 013 我許に來り側に立ちて、兄弟サウロ、見よ、と言ひしかば我即時に之を見たり。 044 ACT 022 014 彼又言ひけるは、我等の先祖の神は、汝をして御旨を知り、義なる者を見、其口づから聲を聞かしめん事を豫定し給へり。 044 ACT 022 015 其は汝見聞せし事に就きて、萬民に彼が證人たるべければなり。 044 ACT 022 016 今は何をか躊躇ふぞや、立ちて洗せられよ、御名を頼みて汝の罪を滌去れ、と。 044 ACT 022 017 斯て我エルザレムに返り、神殿にて祈れる折、氣を奪はるる如くになりて、 044 ACT 022 018 主を見奉りしが、主我に向ひて、急げ、早くエルザレムを出でよ、其は人々我に関する汝の證明を承容れざるべければなり、と曰へり。 044 ACT 022 019 其時我、主よ、我が曾て主を信ずる人々を監獄に閉籠め、之を諸會堂にて鞭ちし事、 044 ACT 022 020 又主の證人ステファノの血の流されし時に立會ひ、且賛成して之を殺す人々の上衣を守りたりし事は、彼等の知る所なり、と言ひたるに、 044 ACT 022 021 主我に曰ひけるは、往け、汝を遠く異邦人に遣はすべし、と。 044 ACT 022 022 人々此言まで聴きけるが、是に至りて聲張揚げ、斯る者を地上より取除けよ、活くるに足らず、と謂ひて、 044 ACT 022 023 叫びつつ衣服を脱棄て、且空中に塵を投飛しければ、 044 ACT 022 024 千夫長命じてパウロを兵営に牽入れしめ、又人々が彼に對して斯くまでに叫ぶことの何故なるかを知らんとて、鞭たしめ拷問せしめんとせり。 044 ACT 022 025 然れば人々革紐を以て縛りたるに、パウロ側に立てる百夫長に謂ひけるは、ロマ人にして而も宣告せられざる者を汝等が鞭つこと可きか、と。 044 ACT 022 026 百夫長之を聞きて千夫長に近づき、告げて、汝如何にせんとするぞ、此人はロマの公民なる者を、と云ひしかば、 044 ACT 022 027 千夫長近づきてパウロに謂ひけるは、我に告げよ、汝はロマ人なりや、と。パウロ、然り、と云ひしに、 044 ACT 022 028 千夫長、我は大金を以て此公民権を得たり、と答へしかばパウロ、我は尚生れながらにして然り、と云へり。 044 ACT 022 029 是に於て拷問せんとせし人々忽ち立去り、千夫長も亦、其ロマ公民たる事を知りて後は、之を縛りたるが為に懼れたり。 044 ACT 022 030 第六項 パウロ衆議所に出頭しカイザリアへ護送せらる 翌日パウロがユデア人に訴へらるる所以を尚詳しく知らんとて、千夫長は其縲絏を釈き、命じて司祭等と全議會とを招集し、パウロを牽出して其前に立たしめたり。 044 ACT 023 001 パウロ議員の方を熟視めて云ひけるは、兄弟たる人々よ、我今日に至るまで、良心を盡して神の御前に事へたり、と。 044 ACT 023 002 是に於て司祭長アナニア、立添へる人々に、パウロの口を打てと命ぜしかば、 044 ACT 023 003 パウロ之に謂ひけるは、白塗の壁よ、神は汝を打ち給はん、汝律法の儘に我を審かんとて坐しながら、律法に反して命じて我を打たしむるか、と。 044 ACT 023 004 立會へる人々、汝神の大司祭を詛ふや、と云ひしに、 044 ACT 023 005 パウロ云ひけるは、兄弟等よ、我其大司祭なる事を知らざりき。蓋録して「汝が民の君を詛ふこと勿れ」とあり、と。 044 ACT 023 006 パウロ議員の一部はサドカイ人なるに、一部はファリザイ人なる事を知りて、議會に呼はりけるは、兄弟たる人々よ、我はファリザイ人の子にして、ファリザイ人なるが、死人の復活の希望の為に裁判せらるるなり、と。 044 ACT 023 007 斯く云ひしかば、ファリザイ人とサドカイ人との間に激論起りて、會衆分裂せり。 044 ACT 023 008 其はサドカイ人は復活も天使も霊も無しと言ふを、ファリザイ人は孰れも有りと主張すればなり。 044 ACT 023 009 然て凄じき叫喚となりて、ファリザイ人中の或者等立争ひて云ひけるは、我等此人に何等の惡をも認めず、若霊又は天使ありて彼に語りたらんには如何、とて、 044 ACT 023 010 激しき争ひとなりしかば、千夫長パウロが彼等に引裂かれん事を恐れて、兵卒に命じ、下りて彼等の中よりパウロを奪取り、営内に牽入れしめたり。 044 ACT 023 011 次夜、主忽ちパウロの傍に現れて曰ひけるは、励め、蓋エルザレムに於て我を證したるが如く、ロマに於ても證せざるべからず、と。 044 ACT 023 012 夜明けて、或ユデア人等相集り、誓ひてパウロを殺すまでは飲食すまじと言へり。 044 ACT 023 013 此企に與りし者四十人以上なりしが、 044 ACT 023 014 司祭長と長老等との許に至りて云ひけるは、我等大願を立てて、パウロを殺すまでは何をも口に入れじと誓へり。 044 ACT 023 015 然れば、パウロの事情を尚詳しく知らんとする如くにして、彼を汝等の前に出頭せしむる様、千夫長に報知せよ、我等其近づかざる中に之を殺さんと覚悟せり、と。 044 ACT 023 016 パウロが姉妹の子、此惡計を聞きて、行きて兵営の内に入りパウロに之を告げしかば、 044 ACT 023 017 パウロ一人の百夫長を呼びて云ひけるは、請ふ此青年を千夫長の許に携へ往け、其は彼に告ぐべき事あればなり、と。 044 ACT 023 018 百夫長携へて之を千夫長の許に導き、然て云ひけるは、囚人パウロ我に請ふに、汝に語るべき事ある此青年を汝の許に導かん事を以てせり、と。 044 ACT 023 019 千夫長青年の手を取りて別所に連行き、我に語るべき事とは何事ぞ、と問ひしかば、 044 ACT 023 020 彼云ひけるは、ユデア人申合せて、パウロの事情を尚確に尋問せんとする如くにして、明日パウロを議會に出頭せしめん事を汝に申出でんとす、 044 ACT 023 021 然れど彼等を信ずること勿れ、其は彼等の中四十人以上の者等、彼を殺すまでは飲食せずと誓ひ、今既に準備して、汝の約束を待ちつつあればなり、と。 044 ACT 023 022 千夫長、此事を我に告げたりと誰にも語ること勿れ、と戒めて青年を返し、 044 ACT 023 023 然て二人の百夫長を呼びて云ひけるは、汝等カイザリアに向けて、兵卒二百人、騎兵七十人、槍持二百人を夜の九時より仕立てさせ、 044 ACT 023 024 又馬を備へてパウロを乗らしめ、無事に総督フェリクスの許へ伴ひ行かしめよ、と。 044 ACT 023 025 是ユデア人がパウロを捕へて殺す事あらば、己賄賂を受けたる如く、後に至りて讒訴せられん事を恐れし故なり。 044 ACT 023 026 然て書添へたる書簡の文左の如し、 044 ACT 023 027 クロウヂオ、ルジア、最尊き総督フェリクスに挨拶す。此人ユデア人に捕へられて既に殺されんとせしを、我其ロマ人たる事を聞き、軍隊を牽往きて救出したるが、 044 ACT 023 028 彼等の之を咎むる所以を知らんと欲して、之を其議會に召連れたるに、 044 ACT 023 029 我は其訴へらるる所が彼等の律法に関する問題たるを認めて、聊も死刑若くは入獄に當る罪あるを認めず、 044 ACT 023 030 加之彼等之を害せんとする企ありと告げられたれば、之を汝の許に送り、告訴人にも、汝の法廷に起訴せよ、と告示せり、汝健康なれ、と。 044 ACT 023 031 然れば兵卒等は命令に從ひ、パウロを携へて夜中にアンチパトリに連行き、 044 ACT 023 032 明日は騎兵を殘して之に伴はしめ、然て己等は兵営に返りしが、 044 ACT 023 033 騎兵はカイザリアに至り、総督に添書を渡して、パウロをも其前に立たしめたり。 044 ACT 023 034 総督添書を読みて、本國は何國ぞ、と問ひ、其シリシア州なる由を聞きしかば、 044 ACT 023 035 汝の告訴人來りて後汝に聞くべし、と云ひて、命じてパウロをヘロデの邸内に護らしめたり。 044 ACT 024 001 第七項 カイザリアに於るパウロの入獄 五日の後、司祭長アナニア、或長老等、及びテルトルロと云へる一人の弁士と共に下りて、総督の許にパウロを告訴したり。 044 ACT 024 002 パウロ呼出されければ、テルトルロ訴へを開きて云ひけるは、最尊きフェリクスよ、我等が汝の庇陰によりて泰平の中に生活し、且汝の先見によりて人民の為に改良せらるる事多きは、 044 ACT 024 003 何時にても何處にても、我等が感謝に堪へざる所なり。 044 ACT 024 004 然て汝の暇を缺くまじきが故に、希はくは例の寛仁を以て、暫く我等に聴かれん事を、 044 ACT 024 005 我等は此人が疫病の如き者にして、世界至る處、凡てのユデア人中に騒亂を牽起し、ナザレト人の一揆の張本にして、 044 ACT 024 006 [神]殿を汚さんとまで努めたる事を認めたり。我等は之を捕へ、我律法に從ひて裁判せんと思ひしに、 044 ACT 024 007 千夫長ルジア不意に來り、多勢を以て我等の手より之を奪去り、 044 ACT 024 008 其告訴人に命ずるに、汝の許に至らん事を以てせり。汝之に聞糺さば、我等が之を告訴する一切の事情を知り得べし、と。 044 ACT 024 009 ユデア人も亦之に加へて、総て其如し、と言へり。 044 ACT 024 010 総督點頭きて發言を許ししかばパウロ答へけるは、我汝が多年此國民の上に判事たる事を知れば、快く我為に弁解せん。 044 ACT 024 011 蓋汝の了解し得らるるが如く、我が禮拝の為エルザレムに上りたる後、未十二日以上に達せず、 044 ACT 024 012 又彼等我を[神]殿に認めたるも、人と論じ合へるにも非ず、又會堂にも市中にも、人民を召集したりしにも非ず、 044 ACT 024 013 今我を告訴する點に就きても、彼等は之を證する能はざるなり。 044 ACT 024 014 然りながら我汝に自白せん、即ち我は彼等が異端と呼べる道に從ひて、我先祖等の神に事へ奉り、凡て律法及び預言者の書に録したる事を信じ、 044 ACT 024 015 彼等自らも待てる義者不義者の未來の復活を、神に由りて希望するなり。 044 ACT 024 016 我は之に因りて、神に對し又人に對して、良心を常に咎なく保たん事を力む。 044 ACT 024 017 數年を経て我わが國民に施を為し、且供物と誓願とを為さん為に來りしが、 044 ACT 024 018 其際アジアより來りし數人のユデア人我が既に潔められたるを、[神]殿に見付けたれど、群衆もなく騒亂もなかりき。 044 ACT 024 019 我に咎むべき事あらば、彼等こそ汝の前に立ちて告訴すべきなれ。 044 ACT 024 020 若又此人々にして、我が其會議に立ちし時、何等かの不正なる廉を見出したるならば、彼等自ら言ふべし。 044 ACT 024 021 其は唯我が彼等の中に立ち、呼はりて、我が今日汝等に裁判せらるるは、死者の復活に就きてなり、と云ひし一聲の外なかるべし、と。 044 ACT 024 022 フェリクス此道の事を最詳しく知りたりければ、裁判を延期して云ひけるは、千夫長ルジアの下りて後、汝等に聞かん、と。 044 ACT 024 023 斯て百夫長に命ずるに、パウロを寛がしめ、友人の一人にだも之に供給するを禁ずる事なくして護るべき由を以てせり。 044 ACT 024 024 數日の後フェリクス、ユデア人なる其妻ドルジルラと共に來り、パウロを招きてキリスト、イエズスに於る信仰の事を聞きしが、 044 ACT 024 025 パウロ正義と貞操と未來の審判とに就きて論じければ、フェリクス戰きて答へけるは、當分は引取りて在れ、我好き機を得て汝を招かん、と。 044 ACT 024 026 加之フェリクスは、パウロより金を與へられん事を望めるが故に、數次之を招きて語りつつありしが、 044 ACT 024 027 二年を経てポルチオ、フェストを後任者に獲たりければ、ユデア人を喜ばしめんとてパウロを繋ぎたる儘に措けり。 044 ACT 025 001 第八項 パウロ、フェストの法廷に出頭す フェスト赴任して三日の後、カイザリアよりエルザレムに上りければ、 044 ACT 025 002 司祭長等及びユデア人の重立ちたる者、パウロを訴へんとて其許に至り、 044 ACT 025 003 御恵には命じてパウロをエルザレムに連行かしめ給へ、と願へり。是途中に待伏して、彼を殺さんとすればなり。 044 ACT 025 004 フェスト答へて、パウロは守られてカイザリアに在り、我程なく出立すべければ、 044 ACT 025 005 若彼人に罪あらば、汝等の中の然るべき人々、我と共に下りて之を訴ふべし、と言へり。 044 ACT 025 006 斯てフェストは、八日か十日ばかり彼等の中に滞在してカイザリアに下り、翌日法廷に坐し、命じてパウロを引出させしが、 044 ACT 025 007 パウロ召出されければ、エルザレムより下りたるユデア人等之を取圍みて、種々の重罪を負はせたれど、之を證する事能はざりき。 044 ACT 025 008 パウロは自ら弁解して、我ユデア人の律法に對しても、神殿に對しても、セザルに對しても、何らの罪を犯したる事なし、と言へり。 044 ACT 025 009 フェストユデア人を喜ばせんとて、パウロに答へて、汝エルザレムに上り、彼處にて我前に裁判を受けん事を欲するか、と云ひしかば、 044 ACT 025 010 パウロ云ひけるは、我はセザルの法廷に立てり、此處にて裁判せらるべし。汝の能く知れるが如く、我はユデア人に害を加へたる事なし、 044 ACT 025 011 若害を加へたるか、或は死刑に當る何事をか為したらんには、我死を辞せず、然れど彼等が我に負はする事一も立たずば、誰も我を彼等に交付し得べからず、我セザルに上告す、と。 044 ACT 025 012 是に於てフェスト、陪席と談じて後答へけるは、汝セザルに上告したればセザルの許に往くべし、と。 044 ACT 025 013 數日を経てアグリッパ王及びベルニケは、フェストの安否を問はんとてカイザリアに下り、 044 ACT 025 014 數日間滞在しければ、フェストパウロの事を王に告げて云ひけるは、茲にフェリクスより遺し置かれたる一人の囚人あり、 044 ACT 025 015 我エルザレムに居りし時、司祭長、ユデア人の長老等、我許に來りて、之が宣告を願ひしかど、 044 ACT 025 016 我、何人にもあれ、被告人が原告人と對面して罪を弁解する機を得ざる中に、之を刑罰するは、ロマ人の慣例に非ず、と答へたり。 044 ACT 025 017 是に由て彼等、時を移さず此處に集來りたれば。翌日我法廷に坐し、命じて彼人を引出さしめ、 044 ACT 025 018 原告人等之に立會ひしに、我が嫌疑を懸けたる如き罪をば一點も負はせず、 044 ACT 025 019 己が宗教及び活き居れりとパウロが断言せる一人の死者イエズスに関する問題を提出したるのみ、 044 ACT 025 020 我斯る問題には當惑したれば彼人に向ひて、汝エルザレムに至り、是に就きて裁判を受くる事を望むか、と云ひしに、 044 ACT 025 021 パウロはオグストの裁判に保留せらるる様上告せしかば、我命じて、セザルの許に送るまで守らせ置けり、と。 044 ACT 025 022 アグリッパ、我も彼人に聞きたし、とフェストに謂ひしかば、汝明日之に聞くべし、と云へり。 044 ACT 025 023 翌日アグリッパとベルニケと華美を盡して來り、千夫長及び市の重立ちたる人々と共に公判廷に入りしかば、フェストの命令の下にパウロ引出されたり。 044 ACT 025 024 斯てフェスト云ひけるは、アグリッパ王及び此處に我等と列席せる人等よ、汝等の見る此人は、ユデア人の群衆挙りて我に訴へ、最早活くべき者に非ず、と叫びつつ願ひし者なり。 044 ACT 025 025 然して我は死に値する何等の罪なき事を彼に認めたれど、彼オグストに上告せしにより、之を送付すべしと決せり。 044 ACT 025 026 我君に上書せんとするに確乎なる事實なきを以て、之を汝等の前、殊にアグリッパ王よ、御前に引出し、尋問して上書すべき事柄を得んとす、 044 ACT 025 027 其は囚人を送りて其罪案を書添へざる事の無理なるを惟へばなり、と。 044 ACT 026 001 アグリッパパウロに向ひ、汝自らの為に弁解する事を許されたるぞ、と云ひしかば、パウロ手を伸べて事由を言出でけるは、 044 ACT 026 002 アグリッパ王よ、我がユデア人より訴へらるる凡ての事に就き、今日御前に弁解せん事は、身に取りて幸とする所なり。 044 ACT 026 003 殊更ユデア人の間に於る慣習も問題も、凡て汝の知る所なれば、願くは忍耐を以て我に耳を籍し給はん事を。 044 ACT 026 004 我が初よりエルザレムにて、我國民の間に営みし少年以來の生活は、ユデア人の皆知る所にして、 044 ACT 026 005 彼等若證明する心あらば、我等が宗教の最も確なる派に從ひて、ファリザイ人として我が生活せし事は、素より之を知れるなり。 044 ACT 026 006 今も亦神より我等の先祖に為れし約束に望みを繋くればこそ、我は立ちて裁判を受くるなれ。 044 ACT 026 007 我等の十二族は晝夜となく、一向神を禮拝して、此約束を得ん事を希望するに、王よ、此希望に就きてぞ、我はユデア人より訴へらるる。 044 ACT 026 008 神の死者を復活せしめ給ふ事を、汝等何ぞ信じ難しとする、 044 ACT 026 009 我も實に、ナザレトのイエズスの御名に對して、大いに逆らはざるべからず、と曾ては思ひたりしかば、 044 ACT 026 010 エルザレムに於ても然為せり、且司祭長等より権力を授りて、多くの聖徒を監獄に閉籠め、且彼等の殺さるる時に之に賛成の投票をなせり。 044 ACT 026 011 又諸會堂に於て數次彼等を罰し、冒涜を迫り、且益彼等に對して狂憤し、外國の市町まで迫害しつつありき。 044 ACT 026 012 斯て司祭長等より権力と許可とを得て、ダマスコに赴きし際、 044 ACT 026 013 王よ、途次日中に、日の輝にも優れる光の我及び伴侶を圍み照せるを見たり。 044 ACT 026 014 我等は皆地に倒れしが、ヘブレオ語にて、サウロよ、サウロよ、何ぞ我を迫害するや、刺ある鞭に逆らふことは汝に取りて難し、と我に謂へる聲を聞けり。 044 ACT 026 015 我、主よ、汝は誰ぞ、と云ひしに主曰はく、我は汝の迫害するイエズスなり、 044 ACT 026 016 但起きて足にて立てよ、我が汝に現れしは、汝を立てて役者と為し、且汝の既に見し事と、又我が現れて汝に示すべき事に就きて證人たらしめん為なり。 044 ACT 026 017 我此人民、及び異邦人の手より汝を救はん、汝を彼等に遣はすは、 044 ACT 026 018 彼等の目を開きて暗より光に、サタンの権威より神に立歸らしめ、我に於る信仰に由りて罪の赦と聖徒中の配分とを得させん為なり、と。 044 ACT 026 019 然ればアグリッパ王よ、我は天の示に背かずして、 044 ACT 026 020 先ダマスコに在る人々に、次にエルザレムに、次にユデア全地方に至り、次に異邦人にまでも彼等が改心すべき事、又改心に相應しき業を為して、神に立歸るべき事を告げつつありき。 044 ACT 026 021 之が為に、我が[神]殿に在りし時、ユデア人我を捕へて殺さんと試みたり。 044 ACT 026 022 然れど神御祐によりて、今日に至るまで倒るる事なく、小き人にも、大いなる人にも證明して、云ふ所は、預言者等及びモイゼが、将來起こるべしと語りし事の外ならず。 044 ACT 026 023 即ちキリストの苦しむべき事、死者の中より先に復活して、人民及び異邦人に光を傳うべき事是なり、と。 044 ACT 026 024 パウロが斯く語りて弁解しつつある程に、フェスト聲高く、パウロよ、汝は狂へるなり、博學汝を狂わせたり、と云ひしかば、 044 ACT 026 025 パウロ [云ひけるは、]最尊きフェストよ、我は狂はず、語る所は眞と常識との言なり。 044 ACT 026 026 蓋[アグリッパ]王は是等の事を知り給へば、我も亦憚らずして之に語る。其は此事、一も片隅に於て行はれたるに非ざれば、王に知れざるものなきを確信すればなり。 044 ACT 026 027 アグリッパ王よ、預言者等を信じ給ふか、我は其信じ給ふを知れり、と。 044 ACT 026 028 アグリッパパウロに向ひ、汝我を説きてキリスト信者たらしむるに、殘れる所僅なり、と云ひしかば、 044 ACT 026 029 パウロ [答へける]は、神の御前に我が望む所は、僅の事に由らず多き事に由らず、獨汝のみならで聞ける人々も亦一同、此縲絏を除くの外は、我が如き者とならん事是なり、と。 044 ACT 026 030 此時王と総督とベルニケと、並に列座の人々立上りしが、 044 ACT 026 031 退きて後語合ひて、彼は死刑若くは就縛に當る何事をも為しし事なし、と云へるに、 044 ACT 026 032 アグリッパフェストに謂ひけるは、彼人セザルに上告せざりしならば、免さるべかりしものを、と。 044 ACT 027 001 第九項 パウロロマへ出立して難船に遇ふ 斯てパウロイタリアへ航海し、且他の囚人等と共に、オグスト隊のユリオと云へる百夫長に付さるべしと決せられしかば、 044 ACT 027 002 我等は[小]アジアの處々に廻航すべきアドラミットの船に乗りて出帆せしが、テサロニケのマケドニア人アリスタルコも、亦我等と共に在りき。 044 ACT 027 003 翌日シドンに至りしに[百夫長]ユリオは懇切にパウロを遇ひ、友人の家に至りて歓待を受くる事を許せり。 044 ACT 027 004 然て此處を出帆して、逆風の為にクプロ[島]の風下を通り、 044 ACT 027 005 シリシアとパンフィリアとの灘を航して、リシア[州]のミラ[港]に至り、 044 ACT 027 006 此處にてイタリアへ出帆するアレキサンドリアの船を見付けしかば、百夫長我等を之に乗替へさせたり。 044 ACT 027 007 數日の間、船の進行遅く、辛うじてグニド[半島]の沖合に至りしも、尚逆風の為にサルモネ[岬]に近づき、クレタ[島]の風下を通りて、 044 ACT 027 008 漸く陸に沿ひて、タラサの町に程近き、良港と云へる處に至れり。 044 ACT 027 009 時を経る事既に久しく、断食節も過ぎし頃とて、航海安全ならざれば、パウロ彼等を警戒して、 044 ACT 027 010 云ひけるは、男子等よ、我は航海の漸く困難と成り、啻に積荷と船と耳ならず、我等の身にも損害多かるべきことを認む、と。 044 ACT 027 011 然れど百夫長は、パウロの云ふ所よりも船長と船主とを信用し、 044 ACT 027 012 此港は冬を過すに不便なればとて、多數の決議によりて此處を發し、成るべくクレタ[島]の一港にして、西南と北西との風下に向へるフェニスに至りて、冬を過ごさん事となれり。 044 ACT 027 013 折しも南風静に吹きければ、彼等は其目的に叶へりと思ひて碇を上げ、近くクレタ[島]に沿ひて航行しけるに、 044 ACT 027 014 幾程もなくユロアクィロと名くる大風吹荒みしかば、 044 ACT 027 015 船は吹流されて風上に進み得べくもあらず、風に任せて漂ひつつ、 044 ACT 027 016 コウダと云へる[小]島の下に至り、辛うじて小艇を止むるを得たり。 044 ACT 027 017 然て之を引上げしに船員は、シルト[湾]へ吹遣られん事を懼れて、備縄を以て船體を巻縛り、帆を下して其儘に流れけるに、 044 ACT 027 018 烈しき風浪に漂はされて、翌日は積荷を擲ね、 044 ACT 027 019 三日目には手づから船具をも投げたり。 044 ACT 027 020 斯て數日の間日も星も見えず、甚しき風浪に罹りて、我等の助かるべき見込は全く絶果てたり。 044 ACT 027 021 人々飲食せざる事既に久しければ、パウロ彼等の中に立ちて云ひけるは、男子等よ、前に我が言ふ事を聴きて、クレタ[島]を出帆せざりしならば、斯る損害と危険とを免れたりしものを。 044 ACT 027 022 然て我、今は安心せん事を汝等に勧む、其は汝等の中一人も生命を失はずして、船のみ棄るべければなり。 044 ACT 027 023 蓋我が属する所、事へ奉る所の神の使、昨夜我傍に立ちて、 044 ACT 027 024 云ひけるは、パウロよ恐るること勿れ、汝はセザルの前に出廷せざるべからず、且神は汝と同船せるものを悉く汝に賜ひたるなり、と。 044 ACT 027 025 然れば男子等、心を安んぜよ、其は我に謂はれし如く、然あるべし、と神に由りて信ずればなり。 044 ACT 027 026 我等は必ず或島に至るべし、と。 044 ACT 027 027 斯て第十四夜に至りて、我等アドリア海を航しつつありしに、夜半頃に水夫等何處やらん土地の見ゆる様に覚えしかば、 044 ACT 027 028 測鉛を投じたるに、廿尋なる事を認め、少しく進みて十五尋なる事を認めたり。 044 ACT 027 029 瀬に觸らん事の恐しければ、艫よりの碇を下して夜の明くるを待ちたりしが、 044 ACT 027 030 水夫は船より迯れま欲しさに、船の舳より碇を下さんとするを口實にて既に小艇を海に浮べたれば、 044 ACT 027 031 パウロ百夫長と兵卒等とに向ひ、此人々船に止らずば、汝等助る事能はじ、と云ひしに、 044 ACT 027 032 兵卒等小艇の縄を断切りて流るるに任せたり。 044 ACT 027 033 夜明けんとする時、パウロ一同に食せん事を勧めて云ひけるは、汝等何をも飲食せずして空腹に待てる事既に十四日なり、 044 ACT 027 034 故に我、汝等の健康の為に食せん事を勧む、蓋汝等の一人の髪毛一筋だに失せざるべし、と。 044 ACT 027 035 斯く言終りて麪を取り、一同の前にて神に感謝し、擘きて食し始めしかば、 044 ACT 027 036 皆一層心落付きて、人々も食事したり。 044 ACT 027 037 我等船に居る者総て二百七十六人なりしが、 044 ACT 027 038 人々飽足りて後、麦を海に擲ねて船を軽くせり。 044 ACT 027 039 夜明けて後、其土地をば見知らねども、或砂浜の入江を見付けて、叶ふべくは其處に船を寄せんと思ひ、 044 ACT 027 040 縄を切りて碇を海に棄て、舵綱をも弛めて舳の帆を揚げ、風に順ひつつ陸を指して進みけるが、 044 ACT 027 041 兩方海に挟まりたる處に至りて船を乗上げ、舳は填りて動かざれど、艫は浪の力の為に外れ居たりき。 044 ACT 027 042 此時兵卒等、囚徒の泳ぎて逃げん事を虞れて、之を殺さんと志したれど、 044 ACT 027 043 百夫長パウロを救はんと欲して之を禁じ、命じて、泳ぎ得る人々をして先跳入りて陸に迯れしめ、 044 ACT 027 044 然て殘れる人々を或は板、或は船具に乗せたれば、皆恙なく上陸する事を得たり。 044 ACT 028 001 第十項 パウロマルタに漂流しロマに至る 我等既に迯れて後、此島のマルタと呼ばるることを知りしが、夷等一方ならぬ親切を示し、 044 ACT 028 002 雨降りて寒ければとて、火を焚きて我等一同を保養せしめたり。 044 ACT 028 003 パウロ若干の柴を集めて火に加べしに、火熱の為に蝮出でて其手に噬付きしかば、 044 ACT 028 004 夷等虫のパウロの手に噬付けるを見て、此人定めて殺人者なるべし、海よりは迯れたるも、天之に活くる事を許さず、と語合ひけるに、 044 ACT 028 005 パウロ虫を火の中に振落して、聊も害を受けざりき。 044 ACT 028 006 人々は、彼必ず脹出して忽ちに倒死するならんと思へるに、待つ事久しくして聊も害の及ばざるを見るや、翻りて、是神なりと謂ひ居たり。 044 ACT 028 007 然て此處にプブリオと呼ばるる島司の所有地ありしが、彼我等を接待して、三日の間懇切に饗應せり。 044 ACT 028 008 然るにプブリオの父、熱病と赤痢とを患ひて臥し居ければ、パウロ其許に至り、祈り且按手して之を醫したり。 044 ACT 028 009 斯りし程に島に於て病める人々悉く來りて醫されつつありしが、 044 ACT 028 010 又大いに我等を尊びて、船に乗るに臨み、必要なる品々を我等に贈れり。 044 ACT 028 011 三月の後我等は、此島に冬籠したりし、ジョストリの印あるアレキサンドリアの船にて出帆し、 044 ACT 028 012 シラクサに至りて滞留する事三日、 044 ACT 028 013 此處より岸に沿ひてレジオに至りしに、一日を経て南風吹きしかば、二日目にプテリオに至り、 044 ACT 028 014 此處にて兄弟等に出會ひ、願によりて彼等の中に留る事七日にして、遂にロマに至れり。 044 ACT 028 015 ロマの兄弟等之を聞きて、アッピイフォロム及び三宿と云へる處まで我等を出迎へしが、パウロ彼等を見て神に感謝し、且力を得たり。 044 ACT 028 016 斯て我等ロマに至りしに、[百夫長囚徒を近衛隊長に付したれど、]パウロは己が宿に一人の守衛兵と共に留る事を許されたり。 044 ACT 028 017 三日の後パウロユデア人の重立ちたる者を呼集めしが、彼等來りしかば、パウロ之に謂ひけるは、兄弟たる人々よ、我曾て我國民又は先祖の慣習に反する事を為さざりしを、エルザレムより、囚人としてロマ人の手に付されしが、 044 ACT 028 018 彼等訊問の上、死罪に當る事なきにより、我を免さんとしたりしに、 044 ACT 028 019 ユデア人の之を拒みたる為に、我已むを得ずしてセザルに上告せり。然れども我國民に就きて訴ふる所あるに非ざれば、 044 ACT 028 020 我は汝等に遇ひて語らん事を請へり、蓋イスラエルの希望の為にこそ、我は此鎖に縛られたるなれ、と。 044 ACT 028 021 彼等パウロに謂ひけるは、我等は汝に就きてユデアより書簡を受けたるにも非ず、又兄弟の中に來りて汝が惡しき事を吹聴し、或は語りたる者あるに非ず、 044 ACT 028 022 然れど、希はくは汝の思へる所を聞かん、其は此宗派が到る處に於て逆らはるる事を知ればなり、と。 044 ACT 028 023 斯て彼等日を期して、パウロの宿に群がり來りしかば、彼朝より晩に至るまで説教して、神の國を證明し、又モイゼの律法及び預言者の書に基きて、イエズスの事を勧め居たりき。 044 ACT 028 024 斯て謂はるる事を信ずる人もあり、信ぜざる人もありて、 044 ACT 028 025 相一致せずして退くに至りしかば、パウロ唯一言を述べけるは、眞なる哉聖霊が預言者イザヤを以て我等が先祖に語り給ひたる事、 044 ACT 028 026 曰く「汝此民に至りて之を告げよ、汝等耳にて聞かんも悟らず、目にて見んも認めざるべし、 044 ACT 028 027 蓋此民の心鈍くなり、耳を覆ひ目を閉ぢたり、是は目にて見、耳にて聞き、心にて悟り、而して立歸りて我に醫されん事を懼るればなり」と。 044 ACT 028 028 然れば汝等心得よ、神の此救は異邦人に遣られて、彼等は之を聴くべきなり、と。 044 ACT 028 029 パウロ斯く云ひしかば、ユデア人等退きて大いに相争へり。 044 ACT 028 030 パウロ其宿に留る事満二箇年なりしが、己が許に入來る人を悉く歓迎して、 044 ACT 028 031 憚らず妨げらるる事なく神の國の事を宣べ、主イエズス、キリストの事を教へ居たりき。 # # BOOK 045 ROM Romans ローマ人への手紙 045 ROM 001 001 イエズス、キリストの僕にして使徒と召され、神の福音の為に別たれたるパウロ、―― 045 ROM 001 002 此福音は、曩に神が、其預言者等を以て聖書の中に、御子我主イエズス、キリストに就きて約し給ひしものにして、 045 ROM 001 003 此御子は肉體にてはダヴィドの裔より生り、 045 ROM 001 004 聖徳の霊にては、大能を以て、死者の中よりの復活によりて、神の御子と證せられ給へり。 045 ROM 001 005 我等は其御名の為に、萬民を信仰に服從せしめんとて、恩寵と使徒職とを蒙りたるなり、 045 ROM 001 006 汝等も萬民の中よりイエズス、キリストに召されたる者なれば、―― 045 ROM 001 007 書簡を総てロマに在りて神に愛せられ聖徒と召されたる人々に贈る。願くは、我父にて在す神及主イエズス、キリストより、恩寵と平安とを汝等に賜はらん事を。 045 ROM 001 008 汝等の信仰全世界に吹聴せらるるが故に、我先汝等一同の為にイエズス、キリストに由りて我神に感謝し奉る。 045 ROM 001 009 蓋我が祈祷の中に絶えず汝等を記念し、 045 ROM 001 010 常に如何にしてか神の思召により、何時しか安らかなる道を得て、終に汝等に至らんと希へるは、御子の福音に於て我が一心に事へ奉る神の、我為に證し給ふ所なり。 045 ROM 001 011 蓋我が汝等を見ん事を望むは、聊か霊の恩寵を汝等に分與へて、汝等を堅固ならしめん為、 045 ROM 001 012 即ち汝等の中に在りて、汝等と我との互の信仰を以て相勧むる事を得ん為なり。 045 ROM 001 013 兄弟等よ、我は我が他の異邦人に於る如く、汝等の中にも聊か好果を得ん為、數次汝等に至らんと志して、而も今まで阻げられたる事を、汝等の知らざるを好まず。 045 ROM 001 014 我はギリシア人にも異國人にも、學者にも無學者にも負ふ所あり、 045 ROM 001 015 然れば又汝等ロマに居る者にも福音を傳へんと欲する事切なり。 045 ROM 001 016 蓋我福音を恥と為ず、是総て信ずる者の為には、ユデア人を初めギリシア人にも救となるべき神の能力なればなり。 045 ROM 001 017 即ち神の[賜へる]義が信仰より信仰に至る事は福音の中に顕る、録して、「義人は信仰によりて活きん」とあるが如し。 045 ROM 001 018 第一款 人皆義とせらるるを要す 第一編 教理上の事。イエズス、キリストに於る信仰によりて義とせらるる事 第一項 義とせらるるの必要及び性質 夫の御怒は、眞理を不義に壓ふる人々の、凡ての不敬不義の上に顕る。 045 ROM 001 019 蓋神に就きて知られたる事柄は彼等には顕然なり、其は神既に彼等に之を顕し給ひたればなり。 045 ROM 001 020 即ち其見得べからざる所、其永遠の能力も神性も、世界創造以來造られたる物によりて覚られ、明かに見ゆるが故に、人々弁解する事を得ず。 (aïdios g126) 045 ROM 001 021 蓋既に神を知りたれど、神として之に光榮を歸せず、又感謝せず、却て理屈の中に空しくせられて、其愚なる心暗くなれり。 045 ROM 001 022 即ち自ら智者と稱して愚者と成り、 045 ROM 001 023 朽ちざる神の光榮に易ふるに、朽つべき人間、鳥、獣、蛇等に似たる像を以てせり。 045 ROM 001 024 是によりて神は彼等を其心の慾、即ち淫亂に打任せ給ひて、彼等は互に其身を辱しむ、 045 ROM 001 025 神の眞實を虚僞に易へ、造物主を措きて被造物を拝み、之に事ふるに至りたればなり。造物主こそは世々に祝せられ給ふなれ、アメン。 (aiōn g165) 045 ROM 001 026 是によりて神は彼等を恥づべき情慾に打任せ給へり、蓋彼等の女は自然の用を易へて自然に戻れる用と為し、 045 ROM 001 027 男も亦同じく女の自然の用を棄てて互に私慾を燃やし、男と男と恥づべき事を為して其迷に値せる報を己が身に受けたり。 045 ROM 001 028 又神を認めたる事を證せざりしが故に、神亦彼等を其邪心に打任せ給ひて、彼等は不當なる事を為すに至れり。 045 ROM 001 029 即ち有ゆる不義、惡心、私通、貪吝、不正に満ち、嫉妬、殺人、争闘、詐欺、狡猾に富み、讒害する者、 045 ROM 001 030 誹謗する者、神を恨む者、侮辱する者、傲慢なる者、自負する者、惡事の發明者、父母に從はざる者、 045 ROM 001 031 愚者、背徳者にして、愛情なく、忠實なく、慈悲なき人々たるなり。 045 ROM 001 032 斯る事を行ふ人は死に値す、と云へる神の判定を知りたれども、之を行ふのみならず亦行ふ人々に賛同するなり。 045 ROM 002 001 然れば総て是非する人よ、汝は弁解する事を得ず、蓋他人を是非するは己を罪する所以なり、其自ら是非する所と同じ事を為せばなり。 045 ROM 002 002 我等は斯の如き事を為す人に對して、神の審判が眞理に適へる事を知れり。 045 ROM 002 003 然て斯る事を為す者を是非しつつ自ら之を行ふ人よ、汝は神の審判を免れんと思ふか、 045 ROM 002 004 神の仁慈と堪忍と耐久との豊なるを軽んずるか、神の慈愛の汝を改心に導きつつあるを知らざるか。 045 ROM 002 005 然て汝が頑固と悔悛めざる心とに由りて、己の為に神の御怒を積み、 045 ROM 002 006 各其業に應じて報い給ふべき神の正しき審判の顕るべき御怒の日に當りて之に触れん。 045 ROM 002 007 即ち忍耐を以て善行を力め、光榮と尊貴と不朽とを求むる人々には永遠の生命を以て報い給ふべしと雖も、 (aiōnios g166) 045 ROM 002 008 争へる人、眞理に服せず不義に就く人には、怒と憤とあるべし。 045 ROM 002 009 凡て惡を行ふ者の霊魂には、ユデア人を初めギリシア人にも、患難と辛苦とあるべけれど、 045 ROM 002 010 凡て善を行ふ者にはユデア人を初めギリシア人にも光榮と尊貴と平安とあるべし。 045 ROM 002 011 其は人に就きて偏り給ふ事は神に無き所なればなり。 045 ROM 002 012 蓋総て律法なくして罪を犯しし人は律法なくして亡びん、又総て律法ありて罪を犯しし人は律法によりて審判せられん、 045 ROM 002 013 其は律法の聴聞者は神の御前に義人たらずして、律法の實行者こそ義とせらるべければなり。 045 ROM 002 014 蓋律法を有たざる異邦人等が、自然に律法の事を行ふ時は、斯る律法を有たずと雖も自ら己に律法たるなり。 045 ROM 002 015 彼等は律法の働の己が心に銘されたるを顕し、其良心之が證を為し、其思相互に、或は咎め或は弁解する事あればなり。 045 ROM 002 016 是我福音に宣ぶる如く、神がイエズス、キリストを以て人々の密事を審判し給ふべき日に明かならん。 045 ROM 002 017 然るに汝はユデア人と稱せられて律法に安んじ、神を以て誇と為し、 045 ROM 002 018 其御旨を知り、律法に諭されて一層有益なる事を認め、 045 ROM 002 019 敢て己を以て盲者の手引、暗黒に在る人の燈火、 045 ROM 002 020 愚者の教師、兒等の師匠なりとし、律法に於て學識と眞理との則を有てる者と思へり。 045 ROM 002 021 然りながら汝は人を教へて己を教へず、盗む勿れと述べて自ら盗み、 045 ROM 002 022 姦淫する勿れと云ひて自ら姦淫し、偶像を憎みて聖なるものを冒し、 045 ROM 002 023 律法に誇りつつ自ら律法を破りて神を辱しむ、 045 ROM 002 024 録して、「神の御名は汝等によりて異邦人の中に罵らる」、とあるが如し。 045 ROM 002 025 汝律法を守る時は割禮其益ありと雖も、律法を破る時は汝の割禮は既に無割禮となれるなり。 045 ROM 002 026 然れば無割禮[の人]律法の禁令を守らば、其無割禮は割禮と斉しく視做さるべきに非ずや。 045 ROM 002 027 斯て生來無割禮[の人]律法を全うせば、儀文及び割禮ありながら律法を破れる汝を罪に定めん。 045 ROM 002 028 蓋表に然ある人がユデア人たるに非ず、又陽に身に在るものが割禮たるに非ず。 045 ROM 002 029 心中に然ある人こそユデア人、儀文によらず霊による心のものこそ割禮にして、其誉は人より來らず而も神より來る。 045 ROM 003 001 然らばユデア人に何の長ぜる所かある、又割禮に何の益かある、 045 ROM 003 002 其は各方面に多し、即ち先神の曰し御言は彼等に托せられたるなり。 045 ROM 003 003 假令彼等の中に信ぜざる者ありしも、是何かあらん、彼等の不信仰は神の眞實を空しからしむべきか、決して然らず。 045 ROM 003 004 神は眞實にて在し、人は総て僞る者なり。録して「(主よ)是汝が其言に於て義とせられ、審判せられ給ふも勝を得給はん為なり」、とあるが如し。 045 ROM 003 005 若我等の不義が神の義を顕すとせば、我等何をか云はん、怒を加へ給ふ神は不義なるか、―― 045 ROM 003 006 是は人の云ふ如くに云へり――決して然らず、若然りとせば、神は如何にしてか此世を審判し給ふべき。 045 ROM 003 007 若我等の僞によりて神の眞實顕れ、其光榮の増したらんには、争でか我も罪人と定めらるる事あらんや。 045 ROM 003 008 また――我等の罵られて然稱ふと或人々に云はるる如く――善を來さん為に惡を為すべけんや、斯る人々の罪せらるるは宜なり。 045 ROM 003 009 然らば何ぞや、我等は異邦人に先つ者なるか、決して然らず、其は既にユデア人もギリシア人も皆罪の下に在りと證したればなり。 045 ROM 003 010 録して、「誰も義しき者なく、 045 ROM 003 011 覚る者なく、神を求むる者なし、 045 ROM 003 012 皆迷ひて相共に空しき者となれり、善を為す者なし、一人だもある事なし。 045 ROM 003 013 彼等の喉は開きたる墓なり、其舌を以て欺き、其唇の下に蝮の毒あり、 045 ROM 003 014 其口は詛と苦とに充ち、 045 ROM 003 015 其足は血を流す為に疾く、 045 ROM 003 016 破と禍とは、其道途に在り、 045 ROM 003 017 彼等は平和の道を知らず、 045 ROM 003 018 其目前に神に對する畏れなし」とあるが如し。 045 ROM 003 019 但総て律法の言ふ所は律法の下に在る人々に向ひて言ふこと、我等之を知れり、是凡ての口塞りて、全世界が神に屈服するに至らん為なり。 045 ROM 003 020 蓋神の御前には、如何なる人も律法の業に由りて義とせらるる事あらじ、律法に由りて得るは罪の意識なればなり。 045 ROM 003 021 然るに律法と預言者とに證せられて、神の[賜ふ]義は今や律法の外に顕れたり。 045 ROM 003 022 即ちイエズス、キリストに於る信仰に由て神の「賜ふ」義は信仰する者の凡に及び、凡ての上に在り、蓋し差別ある事なし、 045 ROM 003 023 其は皆罪を犯したる者にして、神の光榮を要すればなり。 045 ROM 003 024 人々の義とせらるるは、功なくして唯神の恩寵に由り、キリスト、イエズスに於る贖に由りてなり。 045 ROM 003 025 即ち神は從前の罪を忍び給ひしに、其赦を以て己が正義を顕さん為に、イエズス、キリストを宥の犠牲に供へ、其御血に於る信仰を有たしめ、 045 ROM 003 026 今は己が正義を證せんとて、自ら其正義を顕し給ひ、イエズス、キリストに於る信仰の人をも義と為し給ひしなり。 045 ROM 003 027 然らば誇る所何處にか在る、其は除かれたり。如何なる法を以て除かれたるか、業を以てなるか、然らず、信仰の法を以てなり。 045 ROM 003 028 蓋我等謂ふに、人の義とせらるるは律法の業に由らずして信仰に由る。 045 ROM 003 029 神豈ユデア人のみの神ならんや、異邦人にも亦然るに非ずや、然り異邦人にも神たるなり。 045 ROM 003 030 其は神は唯一に在して、割禮の人を信仰に由りて義とし、無割禮の人をも信仰に由りて義とし給へばなり。 045 ROM 003 031 然らば我等は信仰を以て律法を亡ぼすか、然らず、却て律法を固うするなり。 045 ROM 004 001 第二款 舊約を以て信仰に由りて義とせらるる事を證す 然れば我等、我父アブラハムは肉身上よりして何を得たりとか謂はん、 045 ROM 004 002 其はアブラハム行によりて義とせられたらんには誇る所あるべきも、神の御前には之あらざればなり。 045 ROM 004 003 蓋聖書に何とか曰へるぞ、[曰く]、「アブラハム神を信ぜり、斯て其事義として彼に歸せられたり」と。 045 ROM 004 004 抑働く人の報は、恵とせられずして負債とせらる、 045 ROM 004 005 然れど働かず、不敬者を義とし給ふ神を信仰する人に於ては、其信仰神の恩寵の規定に從ひて義として之に歸せらるるなり。 045 ROM 004 006 斯の如くダヴィドも、人が行に由らずして神より義とせらるるを福なりと云へり、 045 ROM 004 007 [曰く]、「其不義を赦され、其罪を蔽はれたる人は福なる哉、 045 ROM 004 008 罪を主の歸し給はざりし人は福なる哉」と。 045 ROM 004 009 然らば此福は、唯割禮[の人]にのみ止るか、将無割禮[の人]にも及ぶか、我等アブラハムの信仰は義として彼に歸せられたりと言ひしが、 045 ROM 004 010 其は如何にして歸せられしぞ、割禮の後か無割禮の時か、割禮の後に非ずして無割禮の時なり。 045 ROM 004 011 且割禮の印は、無割禮の時の信仰に由れる義の印證として之を受けたり。是凡て無割禮にて信仰する人の父となり、彼等にも[信仰を]義として歸せられしめん為なり。 045 ROM 004 012 又獨り割禮ある人々の父たるのみならず、我父アブラハムの無割禮の時の信仰の跡を踏む人々にも割禮の父たらん為なり。 045 ROM 004 013 蓋アブラハム又は其子孫に、世界の世嗣たるべしとの約束ありしは、律法に由るに非ず信仰の義に由れるなり。 045 ROM 004 014 若律法に由る人々にして世嗣たらば、信仰は空しくなり、約束は廃せられたるなり。 045 ROM 004 015 其は律法は怒を來し、律法なき處には違法も無ければなり。 045 ROM 004 016 然れば世嗣は信仰に由る、是かの約束が恩寵に從ひて、凡ての子孫に對して堅められん為なり。是は唯律法に由る子孫のみならず、アブラハムの信仰に由りて子孫たる人の為なり。 045 ROM 004 017 蓋録して、「我汝を立てて多くの民の父たらしめたり」とあるが如く、アブラハムは其信ぜし所の神、即ち死したる者を活かし、無きものをば恰も有るものの如くに呼び給ふ神の御前に於て、凡て我等の父たるなり。 045 ROM 004 018 彼は「汝の子孫斯の如くならん」と謂はれし儘に、希望すべくも非ざるに猶希望して、多くの民の父とならん事を信ぜり。 045 ROM 004 019 而も其信仰弱る事なく、殆百歳に及びて己が身は既に死せるが如く、サラの胎も死せるが如くなるを顧みず、 045 ROM 004 020 又神の御約束に就ても訝らず躊躇せず、却て神に光榮を歸し奉りて、 045 ROM 004 021 約し給ひし事は悉く遂げ給ふべしと、飽くまで知りて信仰を固めたり、 045 ROM 004 022 故に此事義として彼に歸せられたるなり。 045 ROM 004 023 此、「義として彼に歸せられたり」と録されたるは、唯彼の為のみならず、 045 ROM 004 024 亦我等の為なり。即ち我等も、我主イエズス、キリストを死者の中より復活せしめ給ひし神を信仰する時は、[義として]之を歸せらるべし、 045 ROM 004 025 其は彼我等が罪の為に付され、又我等が義とせられん為に復活し給ひたればなり。 045 ROM 005 001 第三款 キリストによる義の充満せる事 然れば我等は信仰に由りて義とせられ、我主イエズス、キリストを以て神と和睦したるなり。 045 ROM 005 002 又彼を以て、信仰によりて今立てる所の恩寵に至る事を得て、神の(子等の)光榮の希望を以て誇と為す。 045 ROM 005 003 加之我等は又患難に在る事を誇とす、其は患難は忍耐を生じ、 045 ROM 005 004 忍耐は練達を生じ、練達は希望を生ずるを知ればなり。 045 ROM 005 005 抑希望は恥を來さず、蓋我等に賜りたる聖霊を以て、神の愛は我等の心に注がれたるなり。 045 ROM 005 006 即我等が尚弱かりしに、キリストが時至りて不敬者の為に死し給ひしは何ぞや。 045 ROM 005 007 夫義人の為に死する者は稀なり、誰か敢て善人の為に死なんや。 045 ROM 005 008 然るに神が我等に對して其愛を著しく顕し給ふは、我等が尚罪人たりしに時至りて 045 ROM 005 009 キリスト我等の為に死し給ひしを以てなり。然れば今や我等は其御血を以て義とせられたれば、尚彼に由りて怒より救はるべきなり。 045 ROM 005 010 蓋我等は敵なりしを御子の死によりて神と和睦したる者なれば、况や和睦したる後は彼の生命に由りて救はるべきをや。 045 ROM 005 011 加之、我等は又今和睦を得させ給ひし我主イエズス、キリストに由りて、神を以て誇と為す。 045 ROM 005 012 第四款 キリストとアダンとの比較 然れば一人に由りて罪此世に入り、又罪に由りて死の入りし如く、人皆罪を犯したるが故に死総ての上に及べるなり。 045 ROM 005 013 蓋律法の出づる迄は、罪は世に在りしかど、律法なきを以て罪とせざれざりき。 045 ROM 005 014 然りながら、アダンよりモイゼに至る迄、アダンの犯罪の如き罪を犯さざりし人々にも死は王たりき。抑アダンは将來のアダンの前表なり。 045 ROM 005 015 然れど罪と賜とは均しからず、即ち一人の罪に因りて死したる者は多けれども、神の恩寵と一人のイエズス、キリストの恵とに由れる賜は、况て多くの人に溢れたるなり。 045 ROM 005 016 又賜と一の罪の結果とは均しからず、即ち審判は一の罪よりして、有罪の宣告に至りしに、賜は多くの罪より義とするに至れるなり。 045 ROM 005 017 蓋一人の罪の為に、死は其一人よりして王となりたれば、况て溢るる程の恩寵と義の賜とを蒙る人々は、一人のイエズス、キリストに由りて、生命に於て王となるべし。 045 ROM 005 018 然れば一人の犯罪を以て一切の人間まで有罪の宣告を受くるに至りし如く、一切の人間は一人の義を以て義とせられ生命を得るに至れるなり。 045 ROM 005 019 蓋一人の不從順に由りて多くの人が罪人とせられし如く、亦一人の從順に由りて多くの人は義人とせらるべし。 045 ROM 005 020 律法入來りて罪増ししかど、罪の増しし處には恩寵彌増せり。 045 ROM 005 021 是罪が死を以て王となりし如く、恩寵も亦我主イエズス、キリストに由りて義を以て王となり、永遠の生命に至らしめん為なり。 (aiōnios g166) 045 ROM 006 001 第一款 キリストに於る信仰によりて義とせられし人の道義的生活 然らば我等何をか云はん、恩寵の溢れん事を期して罪に止らんか、 045 ROM 006 002 然らず、我等は罪に死したる者なれば、争でか尚罪に活くべき。 045 ROM 006 003 知らずやキリスト、イエズスに於て洗せられし我等が、皆其死に擬して洗せられたる事を。 045 ROM 006 004 蓋我等は其死に倣はん為に、洗禮を以て彼と共に葬られたるなり、是キリストが御父の光榮を以死者の中より復活し給ひし如く、我等も亦新しき生命に歩まん為なり。 045 ROM 006 005 蓋我等は彼に接がれて其死の状態に肖似りたれば、其復活にも亦肖似るべし。 045 ROM 006 006 我等の古き人が彼と共に十字架に釘けられしは、罪の身を亡ぼされて再び罪の奴隷とならざらん為なる事は我等之を知る、 045 ROM 006 007 死したる人は罪を脱れたればなり。 045 ROM 006 008 我等は信ず、我等若キリストと共に死したらば、亦キリストと共に活きんと。 045 ROM 006 009 其はキリストは死者の中より復活して最早死し給ふ事なく、死が更に之を司る事なかるべしと知ればなり。 045 ROM 006 010 死せしは罪の為にして一度死し給ひたれど、活くるは神の為に活き給ふなり。 045 ROM 006 011 斯の如く汝等も己を、罪には死したる者なれども、神の為には我主キリスト、イエズスに於て活ける者と思へ。 045 ROM 006 012 故に罪は汝等を其諸慾に從はしむるほど、汝等の死すべき身の中に王たるべからず。 045 ROM 006 013 尚又汝等の五體を不義の武器として罪に献ぐること勿れ、却て死したりしに活くる者として己を神に献げ、五體をも神の為に義の武器として献げよ。 045 ROM 006 014 其は汝等既に律法の下に在らずして恩寵の下に在るが故に、罪の汝等を司る事あるまじければなり。 045 ROM 006 015 然らば如何にすべきか、我等は律法の下に在らずして恩寵の下に在るが故に罪を犯すべきか、然らず。 045 ROM 006 016 知らずや、汝等順はんとて己を奴隷として献ぐれば、其順ふ所の者の奴隷となる事を。或は罪の奴隷として死に至り、或は從順の奴隷として義に至る。 045 ROM 006 017 然れど神に感謝す、汝等は罪の奴隷たりしに、交付されて學びたる教の法に心より從ひ、 045 ROM 006 018 且罪より救はれて義の奴隷となりたるなり。 045 ROM 006 019 我汝等の肉の弱きに對して、人の語法を以て云はん、即ち汝等不義の為に五體を不潔不義の奴隷として献げたりしが如く、今は聖とならん為に五體を義の奴隷として献げよ。 045 ROM 006 020 汝等罪の奴隷たりし時、義に對しては自由の身なりしが、 045 ROM 006 021 其時に今耻と為る事を以て何の好果を得たりしぞ、即ち是等の事の終は死あるのみ。 045 ROM 006 022 今は既に罪より救はれて神の僕と成り、其得る所の好果は聖と成る事にして、其終は永遠の生命なり。 (aiōnios g166) 045 ROM 006 023 蓋罪の報酬は死なるに、神の賜は我主イエズス、キリストに由れる永遠の生命なり。 (aiōnios g166) 045 ROM 007 001 兄弟等よ、我律法を知れる人々に謂へば、汝等律法に人の司らるるは活ける間のみなる事を知らざるか。 045 ROM 007 002 蓋夫ある婦は、夫の存命中律法を以て之に繋がると雖も、夫死すれば之に對する律法を解かるるなり。 045 ROM 007 003 然れば夫の存命中他の人に就けば姦婦と呼ばるべきも、夫死したる時は其律法より釈され、他の人に就くも姦婦には非ざるなり。 045 ROM 007 004 然れば我兄弟等よ、汝等もキリストの[死]體に由りて、律法に對して死したる者となれり。是死者の中より復活し給ひし他のものに属して、我等が神に果を結ばん為なり。 045 ROM 007 005 蓋我等肉に在りし時、律法に據れる罪科の諸慾、死の果を結ばせんとて、我等の五體の中に働きたりしが、 045 ROM 007 006 今や我等は既に繋がれたりし死の律法より釈されて、儀文の古きによらず、霊の新しきに由りて事へ奉るに至れり。 045 ROM 007 007 第二款 堕落者に於る律法 然らば我等何をか云はん、律法は罪なるか、然らず。然りながら律法に據らずしては我罪を知らざりき。蓋律法が「貪ること勿れ」と云はざれば我貪を知らざりしに、 045 ROM 007 008 罪は機會に乗じ、掟によりて、我中に所有慾望を惹起せり。即ち律法なき時、罪は死したるものにして、 045 ROM 007 009 我は昔時律法なくて活きたりしが、掟來りしかば、罪は生回りて、 045 ROM 007 010 我は死せり、斯て我を活かさんとて與へられたる掟は、死を來すものとなれり。 045 ROM 007 011 蓋罪は掟の機會に乗じて我を惑はし、且之を以て我を殺せり。 045 ROM 007 012 然て律法は聖なり、掟も聖にして且正しく且善なり。 045 ROM 007 013 然らば善なるもの我に死となりたるか、然らず、唯罪が罪と明に顕れん為に、善なるものを以て我に死を來し、掟によりて甚罪深きものとなるに至りしなり。 045 ROM 007 014 我等律法の霊的なる事を知る、然れど我は肉的にして罪の下に売られたる者なり。 045 ROM 007 015 蓋我が行ふ所は我之を知らず、其は志す善は之を為さずして、厭ふ惡は之を為せばなり。 045 ROM 007 016 斯て我厭ふ事を為せば、律法と同意して自ら之を善なりとす、 045 ROM 007 017 然れば今之を行ふ者は、最早我に非ずして我に宿れる罪なり。 045 ROM 007 018 蓋我之を知れり、善は我に、即ち我肉に宿れるに非ず、其は志す事我に近しと雖も、善を全うすることを得ず、 045 ROM 007 019 志す善は之を為さず、厭ふ惡は却て之を為せばなり。 045 ROM 007 020 斯て我自ら厭ふ事を為せば、最早之を行ふ者は、我に非ずして我に宿れる罪なり。 045 ROM 007 021 然れば我善を為さんとする時は、法として、惡の我に近きを覚ゆ。 045 ROM 007 022 蓋精神に由りては神の律法を悦ぶと雖も、 045 ROM 007 023 我五體に外の法ありて、我精神の法に敵對し、我を虜にして五體に在る法に從はしむるを認む。 045 ROM 007 024 嗚呼我は不幸の人なる哉、誰か此死の肉體より我を救ふべきぞ、 045 ROM 007 025 我主イエズス、キリストに由れる神の恩寵是なり。故に我は自ら精神に由りては神の律法に事へ、肉身に由りては罪の法に仕ふ。 045 ROM 008 001 第三款 キリストによりて再生したる人の福なる状態 然ればキリスト、イエズスに在りて、肉に從ひて歩まざる人に於ては、最早罪に處せらるべき所なし、 045 ROM 008 002 其は生命を與ふる霊の法は、キリスト、イエズスに於て罪と死との法より我を救ひたればなり。 045 ROM 008 003 夫肉を以て弱れるが故に、律法は為す能はざりしを、神は罪の肉の如き状を以て御子を罪の為に遣はし給ひ、其肉に於て罪を處分し給へり。 045 ROM 008 004 是肉に從はず霊に從ひて歩める我等に於て、律法の禁令の全うせられんが為なり。 045 ROM 008 005 肉に從ふ人々は肉の事を好み、霊に從ふ人々は霊の事を好む。 045 ROM 008 006 肉の好は死[と]なり、霊の好は生命及び平安[と]なる。 045 ROM 008 007 其は肉の好みは神に敵對して神の律法に服せず、又服する能はざればなり。 045 ROM 008 008 然れば肉に居る人々は、神の御意に適ふ能はず。 045 ROM 008 009 然て神の霊若汝等に宿り給はば、汝等は肉に居らずして霊に居るなり。人若キリストの霊を有せずば、キリストのものに非ず。 045 ROM 008 010 若キリスト汝等に在さば、肉體は罪の為に死したるものなれども、霊は義とせられたる為に活く。 045 ROM 008 011 若イエズスを死者の中より復活せしめ給ひし者の霊汝等に宿り給はば、其死よりイエズス、キリストを復活せしめ給ひし者は、汝等に宿り給へる其霊によりて、汝等の死ぬべき肉體をも活かし給はん。 045 ROM 008 012 然れば兄弟等よ、我等は肉に對して、肉に從ひて活くべき負債ある者に非ず、 045 ROM 008 013 蓋汝等若肉に從ひて活きなば死すべく、霊を以て肉の業を殺さば却て活くべし。 045 ROM 008 014 其は何人によらず、神の霊に導かるる人は神の子たればなり。 045 ROM 008 015 蓋汝等の受けしは、更に懼を懐く奴隷たるの霊に非ず、子とせらるる霊を受けしなり。我等がアバ即ち父と呼ぶは是が為なり。 045 ROM 008 016 蓋[聖]霊自ら我等の精神と共に、我等が神の子たるを證し給ふ。 045 ROM 008 017 既に子たれば又世嗣たり、即ち神の世嗣にして、キリストと共同の世嗣たるなり。是我等もし共に苦しまば、光榮も亦共に受くべき為なり。 045 ROM 008 018 我想ふに現世の苦は、我等が身の上に顕るべき将來の光榮に及ぶものに非ず、 045 ROM 008 019 蓋被造物の仰ぎて待てるは、神の子等の顕れん事を待てるなり。 045 ROM 008 020 被造物は虚に服せしめられたるも之を好まず、己を希望を以て服せしめ給ひしものに對して然するのみ。 045 ROM 008 021 其は被造物も自ら腐敗の奴隷たる事を脱れて、神の子等の光榮の自由を得べければなり。 045 ROM 008 022 即ち我等は知る、被造物は皆今に至るまで相共に嘆き、且陣痛に遇へるなりと。 045 ROM 008 023 啻に被造物のみならず、聖霊の最初の賜を得たる我等も、自ら心の中に嘆き、神の子等とせられて肉體の贖はれん事を仰ぎ待てるなり。 045 ROM 008 024 蓋我等の救はれたるは猶希望に止る、見ゆる希望は希望に非ず、既に見る所は人何ぞ之を希望せん。 045 ROM 008 025 見ざる所を希望するに當りては、我等は忍耐を以て之を待つ。 045 ROM 008 026 斯の如く、聖霊も亦我等の弱を援け給ふ。蓋我等何を祈るべきかを知らざれども、[聖]霊御自言ふべからざる歎を以て、我等の為に求め給ふ。 045 ROM 008 027 斯て、心を見透し給ふものは[聖]霊の望み給へる所を知り給ふ。其は神の御旨に從ひて、聖徒の為に求め給へばなり。 045 ROM 008 028 我等は知れり、神を愛する者即ち規定に應じて聖徒と召されたる人々には、萬事共に働きて其為に益あらざるはなし、と。 045 ROM 008 029 蓋神は豫知し給へる人々を、御子の状に肖似らしめんと豫定し給へり、是御子が多くの兄弟の中に長子たらん為なり。 045 ROM 008 030 斯て豫定し給ひし人には亦之を召し、召し給ひし人は亦之を義とならしめ、義とならしめ給ひし人には、亦賜ふに光榮を以てし給ひしなり。 045 ROM 008 031 是等の事に加へて我等又何をか言はん、神もし我等の為にし給はば、誰か我等に敵對する者ぞ、 045 ROM 008 032 我御子をすら惜み給はず、却て我等一同の為に之を付し給ひたれば、争でか之に添へて、一切を我等に賜はざらんや。 045 ROM 008 033 神に選まれたる人々を訟ふる者は誰ぞ、其は義とならしめ給ふ神ならんか。 045 ROM 008 034 是等を罪に處する者は誰ぞ、其は死して而も復活し、神の右に在して尚我等の為に執成し給ふキリスト、イエズスならんか。 045 ROM 008 035 然ればキリストに對する愛より、我等を引離す者は誰ぞ、是苦難ならんか、憂か、飢か、裸體か、危険か、迫害か、剣か、 045 ROM 008 036 録して「我等終日主の為に死の危険に遇ひ、屠らるべき羊の如くせらるるなり」とあるが如し。 045 ROM 008 037 然れど我等此凡ての事の中に在りて、我等を愛し給へる者により、勝ちて尚餘あり。 045 ROM 008 038 蓋我は確信す、死も、生も、天使も、権勢も、能力も、現在の事も、未來の事も、(力も)、 045 ROM 008 039 高さも深さも、他の如何なる被造物も、我主イエズス、キリストに於る神の寵より、我等を離し得るものなし、と。 045 ROM 009 001 第一款 イスラエル人排斥せられしも、神の約束は誠實にして其處置は正義完全なり 我はキリスト[の御前]に眞を言ひて僞らず、我良心聖霊と一致して我に證明す。 045 ROM 009 002 我に大いなる憂あり、我心に間断なき苦痛あり。 045 ROM 009 003 即ち我兄弟等の為には、我殆ど自らキリストに棄てられん事をすら望まんとす。彼等は肉身上の我親族なり、 045 ROM 009 004 イスラエル人なり、神の子とせらるる事と、光榮と諸契約と律法と拝禮と約束とは彼等のものなり。 045 ROM 009 005 祖先等は彼等のもの、キリストも肉身上よりすれば彼等より出で給ひしなり。即ち萬物の上に世々祝せられ給ふ神にて在す、アメン。 (aiōn g165) 045 ROM 009 006 然れど神の御言は廃れりと云ふには非ず、蓋イスラエルより出でし人皆イスラエル人たるに非ず、 045 ROM 009 007 又アブラハムの裔たる人皆子たるに非ず、但「イザアクより出づる者は汝の裔と呼ばれん」とあり。 045 ROM 009 008 即ち肉の子たる人々が神の子たるに非ずして、約束の子たる人々こそ其裔とせらるるなれ。 045 ROM 009 009 蓋約束の言は、「此時至らば我來らん、而して[妻]サラには一子あるべし」と是なり。 045 ROM 009 010 加之レベッカも亦一人の我先祖イザアクによりて[双児を]懐胎せしに、 045 ROM 009 011 未だ生れず又何等の善惡を為さざる中に、神の規定は選抜に從ひて存する為に、 045 ROM 009 012 行によらず召によりて「兄は弟に事へん」と云はれたり。 045 ROM 009 013 録して「我イザアクを愛しエザウを憎めり」とあるが如し。 045 ROM 009 014 然れば我等何をか云ふべき、神に於て不義ありや、然らず、 045 ROM 009 015 其はモイゼに曰く「我が敢て憫まん人を憫み、敢て慈悲を施さん人に慈悲を施さん」と。 045 ROM 009 016 然れば欲する人にも走る人にも由らずして、憫み給ふ神に由るなり。 045 ROM 009 017 蓋聖書ファラオンに曰らく「我が汝を立てしは、殊に汝に於て我が権能を顕し、我名を全世界に傳へられん為なり」と。 045 ROM 009 018 然れば神は思召の人を憫み、思召の人を固くし給ふなり。 045 ROM 009 019 是によりて汝或は言はん、然らば何ぞ尚咎め給ふや、誰か其思召に抵抗せん、と。 045 ROM 009 020 嗟人よ、汝は誰なれば神に言逆らふぞ。土器は己を造りたる人に向ひて、何故に我を斯く造りしぞと言ふか。 045 ROM 009 021 陶師は同じ塊を以て、一の器を尊き用の為、一の器を賤しき用の為に造るの権あるに非ずや。 045 ROM 009 022 神もし怒を顕し給ひ、己が権能を知らしめんとして、亡ぶべく備はりたる器を大いなる忍耐を以て忍び給ひしに、 045 ROM 009 023 光榮あるべく豫備し給ひし恤の器に對して、己が光榮の豊なるを示さんとし給はば如何、 045 ROM 009 024 恤の器として啻にユデア人の中より耳ならず、異邦人の中より我等を召し給ひしなり。 045 ROM 009 025 是オゼア書に、「我わが民たらざりし者を我民と呼び、愛せられざりし者を愛せらるる者と(呼び、恤を得ざりし者を恤を得る者と)呼ばん、」 045 ROM 009 026 又「彼等既に、汝等は我民に非ず、と謂はれし其處に於て、活ける神の子等と稱へらるることあらん」と曰ひしが如し。 045 ROM 009 027 イザヤもイスラエルに就きて呼はりけるは、「イスラエルの子等の數、海の砂の如くなるも、殘る者のみ救はれん。 045 ROM 009 028 蓋主は御言を速に地上に行ひ給ふべければ、義を以て之を速に全うし給ふべし」と。 045 ROM 009 029 又イザヤが預言して、「萬軍の主若我等に種を遺し給はざりせば、我等はソドマの如く成り、ゴモラに似たるものと成りしならん」、と云ひしが如し。 045 ROM 009 030 第二款 イスラエル人の排斥せらるるは、其過に由れり 然らば我等何をか言ふべき。義を追求せざりし異邦人等は義を執へたり、但是は信仰に由れる義なり。 045 ROM 009 031 却てイスラエルは義の法を追求しつつも、義の法に至らざりき。 045 ROM 009 032 是何の故ぞ、彼等は信仰に由らずして業に由るが如くにしたればなり。即ち躓く石に突當れるなり、 045 ROM 009 033 録して、「看よ、我シオンに於て躓く石、突當る岩を置く、誰にもあれ之を信ずる人は、辱めらるる者なからん」と、あるが如し。 045 ROM 010 001 兄弟等よ、我が切に心に望む所、神に祈る所は、彼等の救はれん事なり。 045 ROM 010 002 我彼等が神に熱心なる事を證明す、然れど其熱心は知識に一致せず、 045 ROM 010 003 其は神の義を知らず、且己が義を立てんことを力めて、神の義に服せざればなり。 045 ROM 010 004 蓋律法の終はキリストにして、是信ずる人の各義とせられん為なり。 045 ROM 010 005 斯てモイゼは律法に由る義に就きて、「之を為せる人は律法に由りて活くべし」と録したるに、 045 ROM 010 006 信仰に由る義に就きては謂へらく、「汝心の中に謂ふこと勿れ、誰か天に昇らんと」、是キリストを引下す為ならん。 045 ROM 010 007 「或は誰か陰府に降らんと」、是キリストを死より呼起す為ならん。 (Abyssos g12) 045 ROM 010 008 然るに(聖書に)何と言へるぞ、「御言は汝に近く、汝の口に在り、汝の心に在り」と、是即ち我等が宣ぶる所の信仰の言なり。 045 ROM 010 009 蓋汝もし口を以て主イエズスを宣言し、心を以て神の之を死者の中より復活せしめ給ひしことを信ぜば救はるべし。 045 ROM 010 010 其は心には信じて義とせられ、口には宣言して救霊を得べければなり。 045 ROM 010 011 即ち聖書に曰く、「(誰にもあれ)彼を信ずる人は辱められじ」と。 045 ROM 010 012 蓋萬民の主は唯一に在して、頼み奉る一切の人に對して豊に在せば、ユデア人とギリシア人との別ある事なし。 045 ROM 010 013 故に誰にもあれ主の御名を呼び頼む人は救はるべし。 045 ROM 010 014 然らば未だ信ぜざりし者を如何にしてか之を呼び頼まん、未だ聞かざりし者を如何にしてか之を信ぜん、宣ぶる人なくば如何にしてか之を聞くべき、 045 ROM 010 015 遣はされずば如何にしてか宣べん、録して「嗟麗し、幸に平和を告げ、善事を告ぐる人々の足」、とあるが如し。 045 ROM 010 016 然れども皆福音に随へるには非ず、即ちイザヤ曰く、「主よ、我等に聞きて信ぜし者は誰ぞや」と。 045 ROM 010 017 然れば信仰は聞くより起り、聞くはキリストの御言を以てす。 045 ROM 010 018 然れど我は言はん、彼等は聞こえざりしか、と。然らず、而も「其聲は全世界に行渡り、其言は地の極にまで及べり」 045 ROM 010 019 然れど我は言はん、イスラエルは知らざりしかと、[然らず]、モイゼ先曰く「我民たらざる者を以て汝等を妬ましめ、愚なる民に對して怒らしめん」と。 045 ROM 010 020 イザヤも亦敢て曰く、「我探さざりし人々に見出だされ、尋ねざりし人々に公然と顕れたり」と。 045 ROM 010 021 又イスラエルに向ひて曰く、「我信ぜずして逆らへる民を、終日手を伸べて待てり」と。 045 ROM 011 001 第三款 イスラエル人に取りての大いなる慰 然らば我は言はん、神は其民を棄て給ひしかと、然らず、其は我もイスラエル人にして、アブラハムの裔、ベンヤミンの族なればなり。 045 ROM 011 002 神は豫知し給ひし己の民を棄て給はざりしなり。汝等エリアに就きて聖書の曰へる事を知らざるか、即ち彼イスラエル人を神に訟へて言へらく、 045 ROM 011 003 「主よ、彼等は主の預言者等を殺し、悉く主の祭壇を毀てり、然て我一人殘れるに、尚我命を求めんとするなり」と。 045 ROM 011 004 而して神の御答に何と曰へるぞ、「我は己の為に、バアルの前に跪かざる七千の男子を殘したるなり」と。 045 ROM 011 005 斯の如く、今の時も亦恩寵の撰に由りて殘れる者は救はれたり。 045 ROM 011 006 恩寵に由れば業に由るに非ず、然らざれば恩寵は最早恩寵に非ざるべし。 045 ROM 011 007 然らば何ぞや、イスラエル人は其求め居たりし所を得ず、撰まれたる人は之を得て、他の人は頑固になれり。 045 ROM 011 008 録して、「神は彼等に茫然たる精神、見得べからざる目、聞得べからざる耳を賜ひて今日に至る」、とあるが如し。 045 ROM 011 009 ダヴィド又曰く「願はくは彼等の食卓、網となり、罠となり、躓くものとなり、報となれかし、 045 ROM 011 010 其目は眩みて見えざらしめ、其背は何時も屈ましめ給へ」、と。 045 ROM 011 011 然れば我は言はん、彼等の躓きしは倒れん為なるかと、然らず、却て彼等を妬ましむる様、其堕落によりて、救は異邦人の上に來れり。 045 ROM 011 012 若彼等の堕落が世の富となり、其減少は異邦人の富とならば、况や彼等の全數をや。 045 ROM 011 013 蓋我、汝等異邦人に謂はん、我異邦人の使徒たる間は、我が[聖]役に榮誉を來さん。 045 ROM 011 014 是如何にもして、我骨肉たる者を刺激して之を励まし、其幾何かを救はん為なり。 045 ROM 011 015 蓋彼等の排斥が世の和睦とならば、其採用は豈死より再生するに同じからざらんや。 045 ROM 011 016 若麪の初穂聖ならば全體も然あるべく、根聖ならば枝も然あるべし。 045 ROM 011 017 假令幾何かの枝折られて、野生の橄欖たりし汝之に接がれ、橄欖の根と液汁とを共にするものとなりたりとも、 045 ROM 011 018 枝に向ひて誇ること勿れ、誇らんとするも、汝が根を保つに非ずして根こそ汝を保つなれ。 045 ROM 011 019 汝或は言はん、枝の折られしは我が接がれん為なりと。 045 ROM 011 020 諾し、彼等は其不信仰に由りて折られしに、汝は信仰に由りて立てるなり。然れど驕ること勿れ、却て懼れよ。 045 ROM 011 021 蓋神は原樹の枝を惜み給はざりしなれば、恐くは汝をも惜み給はざるべし。 045 ROM 011 022 然れば神の慈愛と厳格とを見よ、倒れし人々に對しては惟厳格、汝に對しては惟慈愛、但是汝が其慈愛に止ればのみ、然らずんば汝も取除かるべし。 045 ROM 011 023 彼等も若不信仰に止らずば接がるるならん、其は神は再び之を接ぐことを得給へばなり。 045 ROM 011 024 汝は生來野生なる橄欖より切取られ、其本性に反して好き橄欖に接がれたれば、况や本性のものが原の橄欖に接がるるをや。 045 ROM 011 025 兄弟等よ、自ら敏しとする事なからん為に、我は汝等が此奥義を知らざるを好まず、即ちイスラエルの幾部分の頑固になれるは、異邦人全體の入來るまでなり。 045 ROM 011 026 斯てイスラエルは挙りて救はるるに至るべし、録して、「救ふ者シオンに來り、ヤコブより不敬を去らしめん。 045 ROM 011 027 我彼等の罪を取除きたらん時、彼等と結ぶべき約束は是なり」、とあるが如し。 045 ROM 011 028 福音に就きては、彼等汝等の為に敵なれども、選抜に就きては其祖先の為に至愛の者なり、 045 ROM 011 029 其は神の賜と召とは、取消さるる事なければなり。 045 ROM 011 030 斯て汝等も原神に從はざりしに、今や彼等の不從順に由りて慈悲を蒙りし如く、 045 ROM 011 031 今彼等の從はざるも亦汝等の[蒙りし]慈悲に由りて己も慈悲を蒙らん為なり。 045 ROM 011 032 是衆人を憫み給はん為に、神が之を不從順に籠め給へるなり。 (eleēsē g1653) 045 ROM 011 033 嗚呼高大なる哉、神の富と智恵と知識と。其判定の覚り難さよ、其道の極め難さよ。 045 ROM 011 034 誰か主の御心を知り、誰か之と共に議りたるぞ。 045 ROM 011 035 誰か先之に與へて、其報を得ん者ぞ。 045 ROM 011 036 蓋萬事は彼に倚りて彼を以て彼の為に在り、光榮世々彼に歸す、アメン。 (aiōn g165) 045 ROM 012 001 第一款 キリスト信者相互の義務 然れば兄弟等よ、我神の諸の恤に由りて汝等に勧む。汝等其肉身を以て、活ける、聖なる、神の御意に適へる犠牲、己が道理的禮拝として供へよ。 045 ROM 012 002 又此世に倣ひ從ふ事なく、却て神の御旨、即ち善と御意に適ふ事と完全との如何なるものなるかを暁らん為、精神を一新して自ら改革せよ。 (aiōn g165) 045 ROM 012 003 蓋我賜はりたる恩寵によりて、汝等の中に在る凡ての人に謂はん、己を重んずべき程度以上に重んぜず、適宜に、而も神の夫々分配し給ひし信仰の量に從ひて重んぜよ。 045 ROM 012 004 蓋我等は一の體に多くの肢ありて、凡ての肢其用を同うせざるが如く、 045 ROM 012 005 我等多くの人は、キリストに於て一の體にして、各互に肢たるなり。 045 ROM 012 006 然れば我等に賜はりたる恩寵に從ひて賜を異にしたれば、預言は信仰の理に随ひて為し、 045 ROM 012 007 聖役は聖役に[從事し]、教ふる人は教に[止り]、 045 ROM 012 008 勧を為す人は勧を為し、與ふる人は淡白を以てし、司る人は奮發を以てし、慈悲を施す人は歓を以てすべし。 045 ROM 012 009 愛は表裏あるべからず、汝等惡を嫌ひて善に就き、 045 ROM 012 010 兄弟の愛を以て相寵み、互に相推重し、 045 ROM 012 011 注意を怠らず、熱心にして主に事へ、 045 ROM 012 012 希望によりて歓び、患難に忍耐し、絶えず祈祷に從事し、 045 ROM 012 013 聖徒の入用を補け、接待を行ひ、 045 ROM 012 014 汝等を迫害する人を祝せよ、祝して詛ふこと勿れ。 045 ROM 012 015 喜ぶ人々と共に喜び、泣く人々と共に泣き、 045 ROM 012 016 心を相同じうし、高きを思はずして低きに甘んじ、自ら智しとすること勿れ。 045 ROM 012 017 如何なる人にも惡を以て惡に報ゆる事なく、啻に神の御前のみならず、衆人の前にも善なる事を圖り、 045 ROM 012 018 汝等が力の及ぶ限り、為し得べくんば衆人と相和せよ。 045 ROM 012 019 至愛なる者よ、自ら復讐せずして[神の]怒に任せよ、其は録して、「主曰く、復讐は我事なり、我は報いん」とあればなり。 045 ROM 012 020 却て汝の仇飢ゑなば之に食せしめ、渇かば之に飲ましめよ。斯くすれば汝彼の頭に燃炭を積むならん、 045 ROM 012 021 惡に勝たるる事なく、善を以て惡に勝て。 045 ROM 013 001 第二款 社會に於る信徒の義務 人各上に立てる諸権に服すべし。蓋権にして神より出でざるはなく、現に在る所の権は神より定められたるものなり、 045 ROM 013 002 故に権に逆らふ人は神の定に逆らひ、逆らふ人々は己に罪を得。 045 ROM 013 003 君主等を懼るべきは、善き業の為に非ずして惡き業の為なり。汝権を懼れざらんと欲するか、善を行へ、然らば彼より誉を得べし。 045 ROM 013 004 其は汝を益せん為の神の役者なればなり。然れど汝若惡を行はば懼れよ、其は彼は徒に剣を帯ぶるものに非ず、神の役者にして惡を行ふ人に怒を以て報ゆるものなればなり。 045 ROM 013 005 然れば服從する事は、汝等に必要にして、啻に怒の為のみならず、亦良心の為なり。 045 ROM 013 006 蓋汝等は亦之が為に税を納む、其は彼等は神の役者にして、之が為に務むればなり。 045 ROM 013 007 然れば汝等凡ての人に負目を返せ、即ち税を納むべき人には税を納め、課物を払ふべき人には之を払ひ、懼るべき者には懼れ、尊ぶべき者は之を尊べ。 045 ROM 013 008 汝等相愛するの外は、誰にも何等の負債あるべからず、其は近き者を愛する人は律法を全うしたる者なればなり。 045 ROM 013 009 蓋「汝姦淫する勿れ、殺す勿れ、盗む勿れ、僞證する勿れ、貪る勿れ」、此外に誡ありと雖も、汝の近き者を己の如くに愛せよとの言の中に約る。 045 ROM 013 010 愛は他人に惡しき事を為ず、故に愛は律法の完備なり。 045 ROM 013 011 斯すべきは是我等が時期を知れる故なり。即ち眠より起くべき時は既に來れり、蓋信仰せし時よりも我等の救霊は今や近きにあり。 045 ROM 013 012 夜は更けたり、日は近づけり、然れば我等は暗の業を棄てて、光の鎧を着るべし、 045 ROM 013 013 日中の如く正しく歩むべくして、饕食と酔酗、密通と淫亂、争闘と嫉妬とに歩む可からず、 045 ROM 013 014 却て主イエズス、キリストを着よ、且惡慾起るべき肉の慮を為すこと勿れ。 045 ROM 014 001 第三款 信仰の弱き信徒に對する方法 信仰の弱き人を承くるに親切を以てし、思ふ所を争ふこと勿れ。 045 ROM 014 002 蓋或人は凡ての物を食するを善しとするに、弱き人は野菜を食す。 045 ROM 014 003 食する人は食せざる人を軽んずべからず、食せざる人も亦食する人を是非すべからず、其は神は人を承容れ給ひたればなり。 045 ROM 014 004 汝誰なれば他に属する僕を是非するぞ、立つも倒るるも、其主に係はる事なり。但必ずや立つならん、其は神は之を立たしむる事を得給へばなり。 045 ROM 014 005 或人は日と日とを弁別するに、他の人は如何なる日をも同一にす、各其料簡に随ふべきのみ。 045 ROM 014 006 日を区別する人は主の為に之を区別し、食する人も主の為に食す、其は神に感謝すればなり。食せざる人も主の為に食せずして亦神に感謝す。 045 ROM 014 007 蓋我等の中に己の為に活くる者なく、己の為に死する者なし、 045 ROM 014 008 其は我等は活くるも主の為に活き、死するも主の為に死すればなり。故に我等は活くるも死するも主の有なり。 045 ROM 014 009 蓋キリストの死して復活し給ひしは、死者と生者とを司り給はんが為なり。 045 ROM 014 010 然るに汝何故に兄弟を是非するぞ、何故に兄弟を軽んずるぞ、我等は皆神の法廷に立つべき者なるをや。 045 ROM 014 011 録して、「主曰く、我は活くるなり、凡ての膝我前に屈まり、凡ての舌神を宣言するに至らん」、とあるが如し、 045 ROM 014 012 即ち我等は各己の事を神に糺さるべし。 045 ROM 014 013 然れば我等互に罪を定むべからず、寧汝等兄弟の前に、躓かすべきもの、或は罠となるものを置かざらん事を定めよ。 045 ROM 014 014 我は主イエズスに於て知り且確信す、何物も彼によりて自ら潔からざるはなく、其潔からざるは、潔からずと思ふ人に於てのみ。 045 ROM 014 015 若食物の為に汝の兄弟を憂ひしむれば、汝は既に愛に從ひて歩む者に非ず、キリストの死して贖ひ給ひし人を、食物の為に亡ぼすこと勿れ。 045 ROM 014 016 然れば我等の有てる善きものは罵らるべかず、 045 ROM 014 017 其は神の國は飲食にあるに非ずして、聖霊に由れる義と平和と歓とに在ればなり。 045 ROM 014 018 蓋之を以てキリストに事ふる人は神の御意に適ひ、人々にも善しとせらるるなり。 045 ROM 014 019 故に我等は平和の事を追求して、人の徳を立つべき事を互に守るべきなり。 045 ROM 014 020 食物の為に神の事業を亡ぼすこと勿れ、凡ての物は潔しと雖も、食して躓かする人には惡となる。 045 ROM 014 021 肉食、飲酒、其他汝の兄弟の或は心を痛め、或は躓き、或は弱くなる事を為ざるを善しとす。 045 ROM 014 022 汝に[確]信あらんか、之を神の御前に我が身の中に保て。善しとする事に就きて己を咎めざる人は福なり、 045 ROM 014 023 然れど疑ひつつ食したる時は罪せらる、其は[確]信によりて為ざればなり、総て[確]信に由らざる事は罪なり。 045 ROM 015 001 我等強き者は弱き人々の虚弱を擔ふべくして、己を喜ばすべからず、 045 ROM 015 002 汝等各近き人の徳を立つべく、善事を以て之を喜ばすべし。 045 ROM 015 003 蓋キリストは己を喜ばし給はず、却て録して、「汝[主]を罵れる人々の侮辱我に落ちかかれり」、とあるが如くに為し給へり。 045 ROM 015 004 蓋凡て曩に録されたる事は我等に教訓となり、我等をして聖書に依る忍耐と慰籍とを以て、希望を保たしめん為に録されたるなり。 045 ROM 015 005 願はくは忍耐と慰籍とを賜ふ神、汝等をしてイエズス、キリストに從ひて心を同じうせしめ、 045 ROM 015 006 一の心、一の口を以て我主イエズス、キリストの神にして父にて在すものを崇め奉るを得しめ給はん事を。 045 ROM 015 007 然ればキリストが神の光榮の為に汝等を承容れ給ひし如く、汝等も互に承容れよ。 045 ROM 015 008 我は言はん、キリスト、イエズスが割禮[の人々]の役者となり給ひしは、神の眞實を顕し、祖先の[蒙りし]約束を固め、 045 ROM 015 009 又異邦人をして神を其憫によりて崇めしめ給はん為なり。録して「然れば主よ、我異邦人の中に汝を宣言し、且御名を讃謳はん」とあるが如し。 045 ROM 015 010 又曰く、「異邦人等よ、主の民と共に喜べ」、 045 ROM 015 011 又「諸の國、主を讃美せよ、諸の民之を崇め奉れ」とあり。 045 ROM 015 012 又イザヤ曰く、「イエッセの根は芽して異邦人を治むべきもの起らん、異邦人之を希望せん」と。 045 ROM 015 013 願はくは希望の神、信仰によりて起る一切の喜と平安とを汝等に満たしめ、聖霊の力を以て汝等の希望に豊ならしめ給はん事を。 045 ROM 015 014 第一款 弁解及び願望 第二項 パウロ自身に関する事故 我兄弟等よ、我も汝等が自ら慈愛に満ち、且凡ての智識に満ちて、能く互に訓戒し得る者なる事を確信す。 045 ROM 015 015 然れど兄弟等よ、我が動もすれば餘りに憚りなく汝等に書贈りしこと、恰も汝等をして思出さしめんとせる如くなるは、是神より我に賜はりたる恩寵に由れり。 045 ROM 015 016 此恩寵あるは、我異邦人の為に、キリスト、イエズスの役者となりて、神の福音の祭務を執行し、異邦人が聖霊に由りて聖とせられ、御意に適へる献物とならん為なり。 045 ROM 015 017 然れば神に関して、キリスト、イエズスに於て我が誇るべき所あり。 045 ROM 015 018 蓋キリストが異邦人を從はしめん為に我を用ひ、言と行とを以て、 045 ROM 015 019 徴と奇蹟との勢力及び聖霊に由る能力に由りて為し給へる事に非ざれば、我敢て之を語らず。即ちエルザレムよりイルリコ[州]に至る迄の地方を巡りて、キリストの福音を満たせり。 045 ROM 015 020 但福音を宣べしは、キリストの御名の既に稱へられたる處に非ず、是は他人の置きたる基礎の上に築かざらん為なり。 045 ROM 015 021 録して、「未だ告げられざりし人々は之を見ん、聞かざりし人々は悟らん」、とあるが如し。 045 ROM 015 022 我が汝等に至る事之が為に妨げられて、我今まで留められたりしが、 045 ROM 015 023 今は早此地方に為すべき事なく、汝等に至らん事は、年來の切なる願なれば、 045 ROM 015 024 イスパニアへ往かん時に、立寄りて汝等を見ん事、又汝等を以て幾分の満足を得たる後、汝等より彼處へ送られん事、是我希望なり。 045 ROM 015 025 然れば今はエルザレムに至り、聖徒等に事へんとす。 045 ROM 015 026 蓋マケドニア及びアカヤ[州](の人々)はエルザレムに居る聖徒の貧者の為に、幾何か醵金するを以て善しとせり。 045 ROM 015 027 彼人々は之を善しとせしが、而も彼等に負債ある者なり。蓋異邦人は、彼等の霊的事物の分配を受けたれば、肉的事物を以て彼等に供すべきなり。 045 ROM 015 028 然れば我此用事を終へ、其果を彼等に頒與へて後、汝等を経てイスパニアへ往かん。 045 ROM 015 029 我汝等に至らば、キリスト(の福音)の豊なる祝福を以て至るべきは、我が知る所なり。 045 ROM 015 030 故に兄弟等よ、我主イエズス、キリストに由り、又聖霊の寵に由りて、我汝等に希ふ。我為に神に為す祈を以て我と共に戰へ。 045 ROM 015 031 是ユデアに在る不信者より我が救はれん為、且持行く贈物がエルザレムの聖徒等の意に適はん為、 045 ROM 015 032 我が神の御旨に從ひ喜びて汝等に至り、汝等と共に安んずる事を得ん為なり。 045 ROM 015 033 願はくは平和の神汝等一同と共に在さん事を、アメン。 045 ROM 016 001 第二款 種々の傳言等 我等の姉妹にしてケンクライ教會の女執事なるフェベを汝等に依頼す。 045 ROM 016 002 聖徒として相應しく之を主に於て接待し、汝等に求めん凡ての事に於て之を援けよ、其は彼女自らも既に多くの人を援け、我をも援けたればなり。 045 ROM 016 003 請ふプリスカ、アクィラ及び其家に在る教會にも宜しくと言へ。彼等がキリスト、イエズスに於る我協力者にして、 045 ROM 016 004 我生命の為に己が首を差出せるは、獨我のみならず、異邦人の諸教會も亦彼等に感謝する所なり。 045 ROM 016 005 エペネトに宜しくと云へ、是我が愛する人にして、キリストに於る[小]アジア最初の信者なり。 045 ROM 016 006 汝等の為に大いに盡力せしマリアに宜しくと言へ。 045 ROM 016 007 アンドロニコ及びユニアに宜しくと言へ、彼等は我親戚にして、我と共に監獄に入り、其名使徒の中に高く、我より先にキリストに就きし者なり。 045 ROM 016 008 主に於て我至愛なるアンプリアトに宜しくと言へ。 045 ROM 016 009 キリスト(イエズス)に在りて我等の協力者なるウルバノ及び我が愛するスタキスに宜しくと言へ。 045 ROM 016 010 キリストに於て忠實なるアッペルレに宜しくと言へ。 045 ROM 016 011 アリストブルの家なる人々に宜しくと言へ。我親族ヘロヂオンに宜しくと言へ。ナルキスの家に於て主に在る人々に宜しくと言へ。 045 ROM 016 012 主の為に盡力する[婦人]トリフェナ及びトリフォザに宜しくと言へ。主の為に大いに盡力せし我が至愛なる[婦人]ペルシデに宜しくと言へ。 045 ROM 016 013 主に於て撰まれしルフォ及び彼が母にして亦我母なる人に宜しくと言へ。 045 ROM 016 014 アッシンクリト、フレゴン、ヘルマス、バニトロバ、ヘルメス及び彼等と共に居る兄弟等に宜しくと言へ。 045 ROM 016 015 フィロロゴ及びユリア、ネレオ及び其姉妹、オリンピア及び彼等と共に居る聖徒一同に宜しくと言へ。 045 ROM 016 016 聖なる接吻を以て互に宜しくと言へ。キリストの諸教會汝等に宜しくと言へり。 045 ROM 016 017 兄弟等よ、我汝等に勧む、汝等の學びし教に反して、争及び妨を為せる人々を認めて之を避けよ。 045 ROM 016 018 蓋斯る族は、我主キリストに事へずして己が腹に事へ、甘言及び諂諛を以て、無邪氣なる人々の心を惑はすなり。 045 ROM 016 019 汝等が從順なる事の何處にも聞えたるは、我が汝等の為に喜ぶ所なり。唯望むらくは汝等が善に對して賢く、惡に對して疎からん事を。 045 ROM 016 020 願はくは平和の神、速にサタンを汝等の足の下に砕き給ひ、我主イエズス、キリストの恩寵汝等と共に在らん事を。 045 ROM 016 021 我協力者なるチモテオ及び我親族なるルシオとヤソンとソシパテルと、汝等に宜しくと言へり。 045 ROM 016 022 此書簡を書きし我テルシオ、主に於て汝等に宜しくと言ふ。 045 ROM 016 023 全教會と我との宿主カヨ汝等に宜しくと言ひ、市の主計エラスト及び兄弟クワルト汝等に宜しくと言へり。 045 ROM 016 024 願はくは我主イエズス、キリストの恩寵、総て汝等と共に在らん事を、アメン。 045 ROM 016 025 尚長き世の間黙せられしに、今や預言者等の書に應じて、永遠の神の命に由り、信仰に服せしめんとて、萬民に顕れたる奥義の示に随ひ、 (aiōnios g166) 045 ROM 016 026 我福音とイエズス、キリストの宣教とに應じて、能く汝等を堅固ならしむるを得給ふもの、 045 ROM 016 027 即ち唯一の智者に在せる神に、イエズス、キリストを以て世々尊貴と光榮とあれかし、アメン。 (aiōn g165) # # BOOK 046 1CO 1 Corinthians コリント人への手紙第一 046 1CO 001 001 神の思召に由りてイエズス、キリストの使徒と召されたるパウロ、並に兄弟ソステネス、 046 1CO 001 002 コリントに在る神の教會、即ちキリスト、イエズスに於て聖とせられ聖徒と召されたる人々、及び彼等の處我等の處何れの處にも在りて、我主イエズス、キリストの御名を呼べる人々一同に[書簡を贈る]。 046 1CO 001 003 願はくは我父にて在す神及び主イエズス、キリストより恩寵と平安とを汝等に賜はらんことを。 046 1CO 001 004 キリスト、イエズスに於て汝等に賜はりたる神の恩寵に就きて、我絶えず汝等の為に我神に感謝し奉る。 046 1CO 001 005 其は汝等彼に於て、凡ての教、凡ての智識、何物にも富める者となりたればなり。 046 1CO 001 006 蓋キリストの證明汝等の中に堅くせられたれば、 046 1CO 001 007 汝等如何なる恩寵にも缼くる所なくして、我主イエズス、キリストの顕れ給ふを待てるなり。 046 1CO 001 008 神は汝等を終まで堅固ならしめ、無罪にして我主イエズス、キリストの降臨の日に至らしめ給ふべし。 046 1CO 001 009 其は其御子にて在す我主イエズス、キリストに與すべく、汝等を召し給へる神は、眞實にて在せばなり。 046 1CO 001 010 第一項 分裂の第一原因即ち此世の智恵 第一編 コリント信者間の分裂を咎む 兄弟等よ、我主イエズス、キリストの御名によりて我汝等に勧告す、汝等皆言ふ所を同うして、其間に分裂ある事なく、同意同説に全く相一致せんことを。 046 1CO 001 011 蓋我兄弟等よ、クロエの家の人々より報じ來りし所に據れば、汝等の間に[種々の]争論ある由。 046 1CO 001 012 我之を云はんに、汝等各、我はパウロのもの、我はアポルロのもの我はケファのもの、我はキリストのものなりと云ふ。 046 1CO 001 013 キリスト豈分割せられ給ひし者ならんや、パウロは汝等の為に十字架に釘けられしか、或は汝等はパウロの名に由りて洗せられしか。 046 1CO 001 014 我は汝等の中、クリスポとカヨとの外、誰をも洗せざりし事を神に感謝す、 046 1CO 001 015 然れば一人も我名によりて洗せられたりと云ふ者はあらじ。 046 1CO 001 016 尚ステファナの一家をも洗したれど、其外には我人を洗したるを知らざるなり。 046 1CO 001 017 蓋我がキリストより遣はされしは、洗する為に非ずして福音を傳へん為なり。而も言の智恵を以てすべきに非ず、是キリストの十字架の空しくならざらん為なり。 046 1CO 001 018 蓋十字架の言は亡ぶる人には愚なる事なれども、救はるる者即ち我等には神の大能なり。 046 1CO 001 019 録して、「我は智者の智恵を亡ぼし、賢者の賢さを傷はん」、とあればなり。 046 1CO 001 020 此世の智者何處にか在る、律法學者何處にか在る、論者何處にか在る。神は此世の智を愚ならしめ給ひしに非ずや。 (aiōn g165) 046 1CO 001 021 蓋世[の人]は其智恵を以て、神の全智[の業]に於て神を認めざりしかば、神は宣教の愚を以て信者を救ふを善しとし給へり。 046 1CO 001 022 即ちユデア人は徴を求め、ギリシア人は智恵を探ぬるに、 046 1CO 001 023 我等は十字架に釘けられ給へるキリストを宣傳ふるなり。是ユデア人に取りては躓くもの、ギリシア人に取りては愚なる事なれども、 046 1CO 001 024 召されしユデア人及びギリシア人に取りては神の大能、神の智恵たるキリストなり。 046 1CO 001 025 其は神の愚なる所は人よりも敏く、神の弱き所は人よりも強ければなり。 046 1CO 001 026 兄弟等よ、汝等の召されし者を看よ、肉に由れる智者は多からず、有力者は多からず、尊き者は多からず、 046 1CO 001 027 却て智者を辱めんとて、神は世の愚なる所を召し給ひ、強き所を辱めんとて、神は世の弱き所を召し給ひ、 046 1CO 001 028 現に在る所を亡ぼさんとて、神は世の卑しき所、蔑にせらるる所、無き所をば召し給ひしなり。 046 1CO 001 029 是何人も御前に於て驕らざらん為なり。 046 1CO 001 030 汝等は神に由りてこそ、我等の智恵と義と成聖と贖とに成り給ひしキリスト、イエズスに在るなれ。 046 1CO 001 031 是録されたる如く、「誇る者は主に於て誇らん」為なり。 046 1CO 002 001 第二項 分裂の第二原因即ち神の智恵を慮らざる事 兄弟等よ、我も汝等に至りし時、高尚なる談話或は智恵を齎して、神の證明を汝等に告げしに非ず。 046 1CO 002 002 蓋我汝等の中に於てイエズス、キリスト、而も十字架に釘けられ給ひたる其の外は、何をも知るを善しとせず、 046 1CO 002 003 汝等の中に在りて、弱くして且懼れ、且大いに慄く者なりき。 046 1CO 002 004 又我談話、我宣教は人を屈服せしむる人智の言に在らずして、聖霊及び大能を現すに在りき。 046 1CO 002 005 是汝等の信仰が人間の智恵に由らずして、神の大能に由らん為なり。 046 1CO 002 006 然れども完全なる人々の中に於ては、我等智恵の事を語る。但し此世の智恵に非ず、此世に於る亡ぶべき君主等の智恵に非ず、 (aiōn g165) 046 1CO 002 007 語る所は神の不可思議なる智恵にして、即ち(永く)隠れたりしもの、神が代々に先ちて我等の光榮として豫定し給ひしものなり。 (aiōn g165) 046 1CO 002 008 此世の君主等は一人も之を知らざりき。蓋知りたりしならば、彼等は決して光榮の主を十字架に釘けざりしならん。 (aiōn g165) 046 1CO 002 009 然るに録されし如く、神が之を愛し奉る人々に備給ひし事、目も之を見ず、耳も之を聞かず、人の意にも上らざりしを、神己が霊を以て我等に顕はし給ひしなり、 046 1CO 002 010 其は霊は神の深き所に至るまで萬事を洞見し給へばなり。 046 1CO 002 011 蓋人の事は、其身に在る人の霊の外に、如何なる人か之を知るべき。斯の如く神の事も亦神の霊の外に之を知る者なし。 046 1CO 002 012 然て我等が受けしは此世の霊に非ず、神より出で給ふ霊にして、神より我等に賜はりたる事を知らん為なり。 046 1CO 002 013 又我等が之を語るに當りて、人智の教ふる言を以てせず、霊の教へ給ふ所を以てして、霊的事物に霊的事物を引合するなり。 046 1CO 002 014 然るに肉的人物は神の霊の事を承容れず、是霊的に是非すべきものなれば、彼に取りては愚に見えて之を覚る事能はざるなり。 046 1CO 002 015 然るに霊的人物は萬事を是非して、己は誰にも是非せられず。 046 1CO 002 016 蓋誰か主の念を知りて之に諭す者あらんや、我等はキリストの念を有し奉る。 046 1CO 003 001 第三項 尚コリント人の争論を咎む 兄弟等よ、我は曩に霊的人物に對するが如くにして汝等に語る事能はず、肉的人物即ちキリストに於る小兒に語るが如くにして、 046 1CO 003 002 汝等に乳を飲ましめ、堅き食物を與へざりき。是其時汝等未だ之に適はざりし故なりしが、汝等は今も尚肉的人物なるを以て之に適はざるなり。 046 1CO 003 003 即ち汝等の間に嫉妬と争論とあるは、是肉的にして人の如く歩むに非ずや。 046 1CO 003 004 或人我はパウロのものなりと云ふを、他の人我はアポルロのものなりと云へば、汝等尚人たるに非ずや。然らばアポルロ何者ぞ、パウロ何者ぞ、 046 1CO 003 005 彼等は汝等が頼りて以て信ぜし僕にして、而も主の各に賜ひたる儘の者に過ぎず。 046 1CO 003 006 我は植ゑ、アポルロは水濯げり、然れど發育を賜ひしは神なり。 046 1CO 003 007 然れば植うる人も水濯ぐ人も、共に數ふるに足らず、唯發育を賜ふ神あるのみ。 046 1CO 003 008 植うる人も水濯ぐ人も一にして、各其勞に随ひ、面々の報を受くべきなり。 046 1CO 003 009 蓋我等は神の助手にして、汝等は神の耕作地なり。神の建築物なり。 046 1CO 003 010 我は、賜はりたる神の恩寵に從ひて、敏き建築者の如く基礎を据ゑしに、他人は其上に建築す、各如何にして其上に建築すべきかを慮るべし。 046 1CO 003 011 其は据ゑられたる基礎即ちキリスト、イエズスを除きては、誰も他の基礎を置く事能はざればなり。 046 1CO 003 012 人若此基礎の上に、金、銀、寳石、木、草、藁を以て建築せば、 046 1CO 003 013 面々の建物顕れん、蓋主の日に於て明にせらるべし、其は火を以て顕され、火は面々の建物の如何を試すべければなり。 046 1CO 003 014 若誰にもあれ、其上に建築したる建物にして之に堪へなば、其人は報を得べく、 046 1CO 003 015 若其建物焼けなば其人は損を受けん、然れど己は殆ど火を経たる如くに救はるべし。 046 1CO 003 016 汝等は其身が神の聖殿なる事、神の霊汝等の中に住み給ふ事を知らざるか。 046 1CO 003 017 人若神殿を毀たば神之を亡ぼし給ふべし、蓋神殿は聖にして汝等は即ち其なり。 046 1CO 003 018 誰も自ら欺くこと勿れ、汝等の中に己を敏しと思ふ者あらば、智者たらん為に此世に於て愚なるべし。 (aiōn g165) 046 1CO 003 019 其は此世の智恵は神の御前に愚なればなり。蓋録して、「我智者等を其狡猾によりて捕へん」、とあり。 046 1CO 003 020 又、「主は智者等の思の徒なるを知り給ふ」、とあり。 046 1CO 003 021 然れば誰も人を以て誇と為すべからず、 046 1CO 003 022 蓋萬事は汝等のものなり、或はパウロ、或はアポルロ、或はケファ、或は世、或は生、或は死、或は現在の事、或は未來の事、即ち一切は汝等のものなり、 046 1CO 003 023 然れど汝等はキリストのものにして、キリストは神のものなり。 046 1CO 004 001 第四項 パウロ自己の弁解 然れば人は宜しく、我等をキリストの僕、神の奥義の分配者と思ふべし。 046 1CO 004 002 然て分配者に要求する所は其忠實なる事なれど、 046 1CO 004 003 我は汝等により、或は人の裁判によりて是非せらるることを、聊も意と為ず、又自ら是非する事をも為ざるなり。 046 1CO 004 004 蓋良心に何の咎むる事はなけれども、之に由りて義とせらるるには非ず、我を是非し給ふ者は主なり。 046 1CO 004 005 然れば汝等主の來り給ふ迄は、時に先ちて是非すること勿れ、主は暗夜の隠れたる所をを照らし、心の謀を發き給ふべし、其時面々に神より誉を得ん。 046 1CO 004 006 兄弟等よ、我が是等の事を、我とアポルロとに引當てて云ひしは、是汝等の為、即ち我等の例を以て、録されたる以外に、一人を揚げ一人を蔑げて誇らざらん事を汝等に學ばしめん為なり。 046 1CO 004 007 蓋汝を差別する者は誰ぞや、汝の有てる物にして、貰はざりし物は何かある、貰ひしならば、何ぞ貰はざりしが如くに誇るや。 046 1CO 004 008 汝等既に飽足れり、既に富めり、我等を措きて王となれり。然り汝等王たれかし、然らば我等も汝等と共に王たるを得ん。 046 1CO 004 009 蓋我想ふに、神は使徒たる我等を、後の者、死に定まりたる者として見せ給へり。即ち我等は全世界、天使等にも人間にも観物とせられたるなり。 046 1CO 004 010 我等はキリストの為に愚者なるに、汝等はキリストに於て智者なり、我等は弱くして汝等は強く、汝等は尊くして我等は卑し。 046 1CO 004 011 今の時に至る迄も、我等は飢ゑ、又渇き、又素肌なり、又頬を打たれ、又定まれる住所なく、 046 1CO 004 012 又手業を営みて勞し、詛はれては祝し、迫害せられては忍び、 046 1CO 004 013 罵られては祈り、今に至る迄も世の芥、衆人の捨物の如くになれり。 046 1CO 004 014 我が斯く書記せるは、汝等を辱めんとには非ず、唯我至愛なる子として誡むるのみ。 046 1CO 004 015 蓋汝等キリストに於て、師は一萬ありとも父は數多からず、其は福音を以て汝等をキリスト、イエズスに生みたるは我なればなり。 046 1CO 004 016 故に我汝等に希ふ、(我がキリストに倣へる如く)汝等も我に倣へ。 046 1CO 004 017 我は之が為に、主に於て忠實なる我至愛の子チモテオを汝等に遣はしたるが、彼はキリスト、イエズスに於る我道、即ち至る處の各教會に我が教ふる所を、汝等に思出さしめん。 046 1CO 004 018 或人々は我汝等に至らずとて誇れども、 046 1CO 004 019 主の思召ならば、我は速に汝等に至り、誇れる人々の言を措きて其實力を知らんとす。 046 1CO 004 020 是神の國は言にあるに非ずして實力にあればなり。 046 1CO 004 021 汝等は敦をか望める、我が鞭を以て汝等に至らん事か、将愛と温和の心とを以て至らん事か。 046 1CO 005 001 第一項 近親相婚者の事件 取総て聞く所によれば、汝等の中に私通あり、而も異邦人の中にも在らざる程の私通にして、或人は其父の妻を娶れりと云ふ。 046 1CO 005 002 斯ても汝等は驕るか、之を行へる人の汝等の中より除かれん事を望みて嘆かざるか。 046 1CO 005 003 我身こそは其處に在らざれど、精神にては其處に在りて躬之に臨めるが如く、然行ひし人を既に裁判せり。 046 1CO 005 004 即ち我主イエズス、キリストの御名に由り、汝等と我精神と相合して、我主イエズス、キリストの権力を以て、 046 1CO 005 005 斯る輩をサタンに付す。是肉體は亡ぶるも、精神は我主イエズス、キリストの日に於て救はれん為なり。 046 1CO 005 006 汝等の誇れるは善き事に非ず、僅の酵は麪の全體を膨らすと知らずや。 046 1CO 005 007 汝等既に無酵麪となりし如く、古き酵を除きて新しき麪たるべし。其は、我等が過越[の犠牲]たるキリストは屠られ給ひたればなり。 046 1CO 005 008 故に我等は古き麪酵、及び惡事と不義との麪酵を用ひずして、純粋と眞實との無酵麪を用ひて祝はざるべからず。 046 1CO 005 009 我曾て書簡にて私通者に交る勿れと書贈りしが、 046 1CO 005 010 是は此世の私通者、或は貪欲者、或は掠奪者、或は偶像崇拝者に交る勿れとには非ず、若然らば、汝等此世を去らざるを得ざりしならん。 046 1CO 005 011 然れども交る勿れと今書贈るは、若兄弟と名けらるる人にして、私通者、或は貪欲者、或は偶像崇拝者、或は侮辱者、或は酩酊者、或は掠奪者ならば、斯る人と食事を共にする事勿れとなり。 046 1CO 005 012 其は我争でか外に在る人を審く事あらんや。汝等の審くは内なる人に非ずや。 046 1CO 005 013 蓋外に在る人をば神ぞ審き給ふべき。惡人を汝等の中より取除け。 046 1CO 006 001 第二項 信者間の訴訟 汝等の中に相関係せる事件ある時、其審判を聖徒に願はずして、正しからざる人々に願ふ事を敢てする者あるは何ぞや。 046 1CO 006 002 聖徒は此世を審くべき者なりと知らずや、然れば世は汝等より審かるべきに、汝等は、極めて些細なる事を審くに足らざるか。 046 1CO 006 003 知らずや我等は天使等を審くべき者なり、况や世の事をや。 046 1CO 006 004 故に若審くべき此世の事件あらば、之を審く為に教會内の卑しき人々を立てよ。 046 1CO 006 005 斯く言へるは汝等を辱しめんとてなり。然らば其兄弟の間の事を審くべき賢き者、汝等の中に一人も在らざるか。 046 1CO 006 006 然るを兄弟兄弟を相手取りて、而も不信者の前に訴訟を起す。 046 1CO 006 007 互に訴訟のある事すら、既に疑もなく汝等の中の失態なり。何故に寧不義を受けざる、何故に寧害を忍ばざる、 046 1CO 006 008 却て汝等自ら不義と詐欺とを為し、而も兄弟に對して之を為せるは何ぞや。 046 1CO 006 009 不義者は神の國を得る事なしと知らずや。誤ること勿れ、私通者も、偶像崇拝者も、姦淫者も、 046 1CO 006 010 男娼も、男色者も、盗賊も、貪慾者も、酩酊者も、侮辱者も、掠奪者も、神の國を得ざるべし。 046 1CO 006 011 汝等の中の或人々、曩には斯の如き者なりしかど、我主イエズス、キリストの御名により、又我神の霊によりて、既に洗潔められ、聖とせられ、義とせられたり。 046 1CO 006 012 何事も我に可なりと雖も、皆益あるには非ず。何事も我に可なりと雖も、我は決して何物の奴隷ともならじ。 046 1CO 006 013 食物は腹の為、腹は食物の為なれども、神は此も彼も共に亡ぼし給ふべし。肉體は私通の為に非ずして主の為なり、主も亦肉體の為なり。 046 1CO 006 014 抑神は主を復活せしめ給ひたれば、御能力を以て我等をも亦復活せしめ給ふべし。 046 1CO 006 015 汝等の體はキリストの肢なりと知らずや、然らばキリストの肢を奪ひて娼婦の肢と為さんか、[否々]。 046 1CO 006 016 娼婦に着く人は之と一體になると知らずや、即ち曰く、「二人一體に在らん」と、 046 1CO 006 017 然れど主に着く人は一の霊となるなり。 046 1CO 006 018 私通を避けよ、人の犯す罪は何れも身の外に在れども、私通する人は己が身を犯すなり。 046 1CO 006 019 又汝等の五體は神より賜はりて、汝等の中に在す聖霊の神殿なる事、汝等が汝等自らのものに非ざる事を知らざるか。 046 1CO 006 020 蓋汝等は高價を以て買はれたり、己が身に於て神に光榮を歸し奉れ。 046 1CO 007 001 第三項 婚姻及び童貞の身分 汝等が我に書贈りし事に就きては、男の女に触れざるは善き事なり。 046 1CO 007 002 然れど私通を免れん為には各妻あるべく、女も各夫あるべく、 046 1CO 007 003 夫は妻に負債を果し、妻も亦夫に然すべきなり。 046 1CO 007 004 妻は其身の権利を有せずして夫之を有すると共に、夫も亦其身の権利を有せずして妻之を有す。 046 1CO 007 005 相拒む事勿れ、唯祈に從事せんとて合意の上暫く之を罷むるも、再び共に其事に復るべし、是汝等が色情に就きてサタンに誘はれざらん為なり。 046 1CO 007 006 然て我が斯く云へるは、命令に非ずして許可なり。 046 1CO 007 007 蓋我が望む所は、汝等皆我が如くならん事なりと雖も、人各固有の賜を神に得て、一人は此の如く一人は彼の如し。 046 1CO 007 008 然れば婚姻を為さざる人及び寡婦に向ひて我は言ふ、其儘に而も我が如くにして居らんは、彼等に取りて善き事なり。 046 1CO 007 009 然れど若自ら制する事能はずば、宜しく婚姻すべし、婚姻するは[胸の]燃ゆるに優ればなり。 046 1CO 007 010 婚姻に由りて結ばれたる人々には、妻は夫に別るる事勿れと命ず。是我に非ずして主の命じ給ふ所なり。 046 1CO 007 011 若別るる事あらば其儘にして嫁がず、或は夫に和合すべし、夫も亦妻を離縁すべからず。 046 1CO 007 012 其他の人々には我謂はん、是は主の曰ふに非ず、若兄弟に不信者なる妻を有てる者あらんに、其妻彼と同居する事を承諾せば、之を離別する事勿れ。 046 1CO 007 013 若又信者たる婦、不信者なる夫を有てる事あらんに、夫之と同居する事を承諾せば、夫を離去るべからず。 046 1CO 007 014 蓋不信者なる夫は(信徒たる)妻によりて聖とせられ、不信者なる妻も(信徒たる)夫によりて聖とせられたるなり。然らざれば汝等の子等は潔からざるべしと雖も、今彼等は聖たるなり。 046 1CO 007 015 不信者若自ら去らば去るに任せよ、其は斯る時に當りて、兄弟或は姉妹は奴隷たるべきに非ず、神は平和に我等を召し給へるなり。 046 1CO 007 016 蓋妻よ、汝争でか能く夫を救ふべきや否やを知らん、又夫よ、汝争でか能く妻を救ふべきや否やを知らん。 046 1CO 007 017 唯主が面々に分配し給ひし儘に、神が面々を召し給ひし儘に歩むべし、凡ての教會に於て我が教ふる所斯の如し。 046 1CO 007 018 人割禮ありて召されたらんか、割禮を匿む事勿れ、人割禮なくして召されたらんか、割禮を受くる事勿れ、 046 1CO 007 019 効あるは割禮に非ず、又無割禮に非ず、神の掟を守る事是なり。 046 1CO 007 020 各我が召されし時の身分に止るべし。 046 1CO 007 021 汝奴隷にして召されたらんか、之を思ひ煩ふ事勿れ、假令自由の身となる事を得るも、一層利用せよ。 046 1CO 007 022 蓋奴隷にして主に召されたる者は主に於ては自由の身となりし者、同じく自由の身にして召されたる者はキリストの奴隷たるなり。 046 1CO 007 023 汝等は價を以て買はれたり、人の奴隷となる事勿れ。 046 1CO 007 024 兄弟等よ、各召されたる儘に、神に在りて之に止るべし。 046 1CO 007 025 童貞女に就きては、我主の命を受けざれども、主より慈悲を蒙りたる者として、忠實ならん為に意見を與へんとす。 046 1CO 007 026 然れば目前の困難の為には我之を善しと思ふ。其は其儘なるは人に取りて善ければなり。 046 1CO 007 027 汝妻に繋がれたるか、釈かるる事を求むる勿れ、妻に絆されざるか、妻を求むる事勿れ。 046 1CO 007 028 假令汝妻を娶るも罪とならず、童貞女嫁するも亦罪とならず、但斯る人は肉身上困難を受けん、我は汝等の之に遇ふことを惜む。 046 1CO 007 029 兄弟等よ、我が言へるは是なり、時は縮まりぬ、然れば妻を有てる人も有たざるが如く、 046 1CO 007 030 泣く人は泣かざるが如く、喜ぶ人は喜ばざるが如く、買ふ人は持たざるが如く、 046 1CO 007 031 此世を利用する人は利用せざるが如くになるべき外なし、其は此世の態は過行くものなればなり。 046 1CO 007 032 斯て我汝等の思ひ煩はざらんことを望む。妻なき人は、如何にして主を喜ばしめんかと、主の事を思ひ煩ふに、 046 1CO 007 033 妻と共に居る人は、如何にして妻を喜ばしめんかと、世の事を思ひ煩ひて心分るるなり。 046 1CO 007 034 婚姻せざる女と童貞女とは、身心共に聖ならん為に主の事を思ひ、婚姻したる女は、如何にして夫を喜ばしめんかと、世の事を思ふなり。 046 1CO 007 035 抑我が之を言へるは、汝等に益あらんが為にして、汝等を罠に懸けんとするに非ず、寧汝等をして貞潔に進ましめ、餘念なく主に奉侍する事を得しめん為なり。 046 1CO 007 036 人ありて若我女の童貞女の年過ぎたるを辱しとし、然せざるを得ずと思はば、其望む所を行へ、女婚姻するも罪を犯すには非ず。 046 1CO 007 037 然れど人ありて、心に堅く決する所あり、必要にも迫られず、我意の儘に事を行ふ権力ありて、心の中に女を童貞女にして保つを善しと定めたらん時に、然するは善き事なり。 046 1CO 007 038 然れば己が童貞女に婚姻を結ばしむる人も善き事を為し、結ばしめざる人も更に善き事を為すなり。 046 1CO 007 039 婦は夫の活ける間は繋がるれども、夫永眠すれば自由なり、宜しく望の人に嫁ぐべし、唯主に於て為すべきのみ。 046 1CO 007 040 然れど我が意見に從ひて若其儘に止らば、福は一層なるべし、我も神の霊を有し奉る思ふなり。 046 1CO 008 001 第四項 偶像に献げし供物 偶像の供物に就きては、我等皆知識ある事を知る。知識は驕らすれども愛は徳を建つ。 046 1CO 008 002 若人ありて何をか知れりと思はば、其は未だ如何に知るべきかを知らざる者なり、 046 1CO 008 003 人若神を愛し奉らば是ぞ神に知たるものなる。 046 1CO 008 004 偶像の供物を食する事に就きては、偶像の世に何物にも非ざる事、又一の外に神あらざる事、我等之を知る。 046 1CO 008 005 所謂神々は天にも地にも在りて、多くの神多くの主あるが如くなれども、 046 1CO 008 006 我等には父にて在す神唯一あるのみ、萬物彼に由りて生り、我等も亦彼の為なり。又獨の主イエズス、キリストあるのみ、萬物之に由りて生り、我等も之に由る。 046 1CO 008 007 然れども知識は各自に之あるに非ず、或人々は、今に至るも偶像を物めかしく思ひて、之が供物として物を食すれば、其良心は弱きものなるが故に、之に由りて汚さるるなり。 046 1CO 008 008 然れど食物は神の御前に於て我等を引立つるものに非ず、蓋食するも優る事なく、食せざるも缼くる事なかるべし。 046 1CO 008 009 但し汝等の其自由が、弱き人を躓かせざる様注意せよ。 046 1CO 008 010 蓋人若知識ある者が偶像の堂に於て食卓に就けるを見ば、其良心弱きによりて、己も誘はれて偶像の供物を食するに至るべきに非ずや。 046 1CO 008 011 斯てキリストの死して贖ひ給ひし弱き兄弟は、汝の知識の為に亡ぶべし。 046 1CO 008 012 汝等が斯く兄弟に罪を犯して、其弱き良心を傷つくるは、是キリストに對し奉りて罪を犯すなり。 046 1CO 008 013 故に若食物我兄弟を躓かするならば、我は兄弟を躓かせざらん為に、何時までも肉を食せじ。 (aiōn g165) 046 1CO 009 001 第五項 パウロ、生活上に自由を濫用せざりしことを説示す 我は自由の身ならずや、使徒ならずや、我主イエズス、キリストを見奉りしに非ずや、汝等が主に在るは、我業ならずや。 046 1CO 009 002 我假令他の人に取りては使徒に非ずとするも、汝等には使徒なり、其は汝等は主に於て我使徒職の印章なればなり。 046 1CO 009 003 我に問ふ人々に對する我答弁は其なり。 046 1CO 009 004 然て我等は飲食する権なきか、 046 1CO 009 005 他の使徒等、主の兄弟等及びケファの如く、姉妹なる婦を携ふる権なきか、 046 1CO 009 006 又唯我一人とバルナバとのみ勞働せざる権なきか。 046 1CO 009 007 誰か自ら費用を弁じて軍に出づる者あらんや、誰か葡萄園を植ゑて其果を食せざる者あらんや、誰か群を牧して群の乳を飲まざる者あらんや。 046 1CO 009 008 我豈人間の通例に由りてのみ斯る事を言はんや、律法も斯く云ふに非ずや。 046 1CO 009 009 即ちモイゼの律法に録して、「汝穀物を踏碾す牛の口を結ぶ事勿れ」、とあり、神は牛の為に慮り給へるか、 046 1CO 009 010 之を曰へるは實に我等の為なるか、然り我等の為に録されたるなり。蓋耕す者は希望を以て耕し、穀物を踏碾す者も其果を得るの希望を以てすべきなり。 046 1CO 009 011 汝等の中に霊的の物を蒔きたる我等なれば、汝等の肉的の物を刈取るとも、豈大事ならんや。 046 1CO 009 012 他の人汝等の上に其権を有するに、我等何を以てか一層然らざらんや。然れども我等は此権を利用せずして、聊もキリストの福音を妨げざらん為に、何事をも忍ぶなり。 046 1CO 009 013 汝等知らずや、聖職を営む人々は[聖]殿の物を食し、又祭壇に事ふる人々は祭壇の分配に與る。 046 1CO 009 014 斯の如く、主も亦福音を宣ぶる人々が福音に由りて生活する事を定め給ひしなり。 046 1CO 009 015 我斯る事を一も利用せざりしに、而も之を書送るは、斯の如く為られんとには非ず、其は此名誉の點を人に奪はるるよりは、寧死するこそ我に取りて善ければなり。 046 1CO 009 016 蓋福音を宣ぶるも、之を以て名誉とするに非ず、我は其必要に迫れるなり。福音を宣傳へざらんは、我に取りて禍なればなり。 046 1CO 009 017 即ち快く之を為せば報を得、心ならず之を為すも、其務は我に委ねられたるなり。 046 1CO 009 018 然らば我報は如何なるものぞ、其は福音を宣べて、人に費なく福音を得させ、福音に於る我権を利用せざる事是なり。 046 1CO 009 019 蓋我は衆人に對して自由の身なれども、成るべく多くの人を儲けん為に、身を以て衆人の奴隷となせり。 046 1CO 009 020 ユデア人を儲けん為には、ユデア人に對してユデア人の如くに成り、 046 1CO 009 021 律法の下に在る人々を儲けん為には、己律法の下に在ざれども、律法の下にある人々に對して律法の下に在が如くに成り、律法なき人々を儲けん為には、己は神の律法なきに非ずしてキリストの律法の下に在ども、律法なき人々に對して律法なき者の如くに成り、 046 1CO 009 022 弱き人々を儲けん為には、弱き者に對して弱き者と成り、如何にもして數人を救はん為には、衆人に對して如何なる者にも成れり。 046 1CO 009 023 我が如何なる事をも福音の為にするは、其分に與らんとてなり。 046 1CO 009 024 第六項 此理を應用して献身を勧む 汝等知らずや、競走の場を走る人は悉く走ると雖も、賞を受くるは一人のみ、汝等受け得べき様に走れ。 046 1CO 009 025 総て勝負を争ふ人は萬事を節へ慎む、而も彼等は朽つる冠を得んとするに、我等は朽ちざる冠を得んとす。 046 1CO 009 026 故に我が走るは目的なきが如くには非ず、我が戰ふは空を撃つが如くには非ず、 046 1CO 009 027 而も我わが體を打ちて之を奴隷たらしむ、是は他人を教へて自ら棄てられん事を懼るればなり。 046 1CO 010 001 兄弟等よ我汝等の之を知らざるを好まず、即ち我等の祖先は皆曾て雲の下に在り、皆海を過り、 046 1CO 010 002 皆モイゼに属きて雲と海とを以て洗せられ、 046 1CO 010 003 皆同じ霊的食物を食し、 046 1CO 010 004 皆同じ霊的飲料を飲めり。蓋彼等に随ひつつありし霊的盤石より飲み居りしが、其盤石は即ちキリストなりき。 046 1CO 010 005 然れども彼等の多くは神の御旨に適はず、荒野にて斃れたり。 046 1CO 010 006 是等の事は我等に於る前兆にして、彼等が貪りし如く我等が惡事を貪らざらん為なり。 046 1CO 010 007 汝等は又、彼等の中なる或人々の如く偶像崇拝者となる事勿れ、録して、「民は坐して飲食し、立ちて樂しめり」、とあるが如し。 046 1CO 010 008 又彼等の中に私通する人々ありて、死する者一日に二萬三千人に及びしが、我等は彼等の如く私通すべからず。 046 1CO 010 009 又彼等の中にキリストを試むる人々ありて、蛇に亡ぼされしが、我等は彼等の如くキリストを試むべからず。 046 1CO 010 010 又彼等の中に呟く人々ありて、亡ぼす者に亡ぼされしが、汝等は彼等の如く呟くべからず。 046 1CO 010 011 是等の事は皆前兆として彼等に起りつつありしが、其録されたるは、世の末が身に及べる我等の誡とならん為なり。 (aiōn g165) 046 1CO 010 012 然れば自ら立てりと思ふ人は倒れじと注意すべし。 046 1CO 010 013 汝等に係る試みは人の常なるもの耳、神は眞實にて在せば、汝等の力以上に試みらるる事を許し給はず、却て堪ふることを得させん為に、試と共に勝つべき方法をも賜ふべし。 046 1CO 010 014 第七項 再び供物の問題を説く 然れば我至愛なる者よ、偶像崇拝を避けよ。 046 1CO 010 015 我は智者に對する心にて語れば、汝等自ら我が言ふ所を判断せよ。 046 1CO 010 016 我等が祝する祝聖の杯は、キリストの御血を相共に授かるの義に非ずや。又我等が擘く所の麪は、相共に主の御體に與るの義に非ずや。 046 1CO 010 017 蓋総て一の麪を授かる我等は、多人數なりと雖も、一の麪一の體なり。 046 1CO 010 018 肉に由れるイスラエル人を看よ、犠牲を食する人々は、祭壇の分配に與るに非ずや。 046 1CO 010 019 然らば何事ぞ、偶像に献げられし犠牲は何物かなり、偶像は何物かなり、と我は言へるか、(然らず)。 046 1CO 010 020 然れども異邦人の献ぐる犠牲は、神に献ぐるに非ずして惡鬼に献ぐるなり、我汝等が惡鬼の友となる事を禁ず。汝等主の杯と惡鬼の杯とを飲む事能はず、 046 1CO 010 021 主の祭壇と惡鬼の祭壇とに與る事能はざるなり。 046 1CO 010 022 我等は主の妬を惹起こさんとするか、主よりも強き者なるか。何事も我に可なりと雖も、皆益あるには非ず、 046 1CO 010 023 何事も我に可なりと雖も、皆徳を立つるには非ず、 046 1CO 010 024 誰も己が為に謀らずして人の為を求むべし。 046 1CO 010 025 凡肉屋にて売る物は、良心の為に何事をも問はずして食せよ、 046 1CO 010 026 蓋地及び之に満てる物は主の物なり。 046 1CO 010 027 汝等若不信者の中より招かれ、諾して趣く事あらば、供せらるる一切の物を、良心の為に何事をも問はずして食せよ。 046 1CO 010 028 人ありて是偶像に献げられたる物なりと云はば、汝等之を告げたる人に對し、また良心に對して之を食する勿れ。 046 1CO 010 029 我が所謂る良心は汝のには非ずして其人の良心なり。蓋何為ぞ人の良心に由りて我自由を是非せらるるや。 046 1CO 010 030 若我感謝して食せば、何為ぞ我が感謝する所の物に就きて罵らるるや。 046 1CO 010 031 然れば汝等食ふも飲むも又何事を為すも、総て神の光榮の為にせよ。 046 1CO 010 032 汝等ユデア人にも、異邦人にも、神の教會にも、躓かするものとなる事勿れ。 046 1CO 010 033 猶我が己の利益となる事を求めず、多數の人の救はれん為に其有益なる事を求めて、萬事に其心を得んとするが如くせよ。 046 1CO 011 001 我も自らキリストに倣へる如く、汝等我に倣へ。 046 1CO 011 002 第一項 集會の時に避くべき弊害 第三編 祭式に関する問題 兄弟等よ、我汝等が何事に於ても我を記憶し、汝等に傳へし如く我教を守るを賞す。 046 1CO 011 003 然るに我汝等の之を知らん事を欲す、即ち凡ての男の頭はキリスト、女の頭は男、キリストの頭は神なり。 046 1CO 011 004 総て男は頭に物を被りて祈祷し預言すれば其頭を辱め、 046 1CO 011 005 総て女は頭に物を被らずして祈祷し預言すれば却て其頭を辱む、是剃髪せるに等しければなり。 046 1CO 011 006 蓋女もし物を被らずば髪を剪るべし、然れど髪を剪り或は剃る事を女に取りて耻とせば、頭に物を被るべし。 046 1CO 011 007 男は神の像にして又光榮なれば物を被るべきに非ず、然れど女は男の光榮なり、 046 1CO 011 008 是男は女よりに非ずして女は男よりせり、 046 1CO 011 009 男は女の為に造られずして、女は男の為に造られたればなり。 046 1CO 011 010 此故に女は天使等に對して、[戴ける]権利[の徴]を頭に有つべきなり。 046 1CO 011 011 然りながら主に在りては、男なくしては女あらず、女なくしては男あらざるなり、 046 1CO 011 012 蓋女が男よりせし如く、男も亦女を以て生り、而して一切は神より出づ。 046 1CO 011 013 汝等自ら判断せよ、物を被らずして神に祈祷する事、女に取りて相應しからんや。 046 1CO 011 014 自然其物も亦教ふるに非ずや。即ち男髪を起つれば身に取りて耻なれども、 046 1CO 011 015 女の髪を起つるは身の誉なり、是女は被物として髪を與へられたればなり。 046 1CO 011 016 假令之を抗弁ふと見ゆる人はありとも、我等にも神の諸教會にも斯る慣例は存せざるなり。 046 1CO 011 017 我之を命じて汝等を賞せず、其は集りて善く成らず、却て惡しく成ればなり。 046 1CO 011 018 先汝等が教會として集る時分裂ありと聞けば、我幾分か之を信ず。 046 1CO 011 019 蓋汝等の中に是認せられたる人の顕れん為には、異端さへ起るべき筈なるをや。 046 1CO 011 020 然れば汝等が一に集る時は、最早主の晩餐を食せんとには非ず。 046 1CO 011 021 蓋各前に己が晩餐を食するが故に、飢ゑたる人あれば酩酊したる人もあり。 046 1CO 011 022 飲食する為には自宅にあるに非ずや、或は神の教會を軽んじて乏しき人を辱めんとするか、汝等に何をか謂ふべき、汝等を賞せんか、我之をば賞せざるなり。 046 1CO 011 023 蓋我が主より承りて汝等にも傳へし所にては、主イエズス付され給へる夜に當りて麪を取り、 046 1CO 011 024 謝して之を擘き、然て曰く、汝等取りて食せよ、是は汝等の為に付さるべき我體なり、汝等我記念として之を為せ、と。 046 1CO 011 025 晩餐の後同じく杯を取りて曰く、此杯は我血に於る新約なり、飲む度毎に汝等我記念として之を為せ、と。 046 1CO 011 026 蓋主の來り給ふまで、汝等此麪を食し又杯を飲む度毎に、主の死を示すなり。 046 1CO 011 027 故に誰にもあれ相應しからずして此麪を食し、或は主の杯を飲まん人は、主の御體と御血とを犯さん。 046 1CO 011 028 然れば人は己を試し、然して後彼麪を食し杯を飲むべし。 046 1CO 011 029 其は相應しからずして飲食する人は、主の御體を弁へず、己が宣告を飲食する者なればなり。 046 1CO 011 030 此故に汝等の中には、病める者弱れる者多く、且死せる者多し。 046 1CO 011 031 我等もし自ら審かば審かるる事なからん、 046 1CO 011 032 審かるるも、其は此世と共に罪せられざらん為に主より懲され奉るなり。 046 1CO 011 033 然れば我兄弟等よ、食せんとて集る時、互に待合はせよ。 046 1CO 011 034 飢たる人あらば、汝等が集りて審かるる事を免れん為に、自宅にて食事すべし。其他の事は我至らん時之を定めん。 046 1CO 012 001 第二項 霊的賜に関する教訓 兄弟等よ、霊的[賜]に関しては、我汝等の知らざるを好まず。 046 1CO 012 002 汝等異邦人たりし時、誘はるる儘に、言はぬ偶像に趣き居たりし次第は、汝等の知れる所なり。 046 1CO 012 003 故に我汝等に示さん、誰も神の霊に由りて語るに、イエズス詛はれよと言ふ人なく、又誰も聖霊に由らずして、イエズスを主にて在すと言を得ず。 046 1CO 012 004 偖て賜の分配は異なれども霊は同一にて在す。 046 1CO 012 005 聖役の分配も亦異なれども主は同一にて在す。 046 1CO 012 006 作業の分配も亦異なれども、総ての人の中に総ての事を行ひ給ふ神は同一にて在す。 046 1CO 012 007 然るに霊の顕れ給事を人々に賜はるは公益の為にして、 046 1CO 012 008 一人は霊を以て知識の詞を賜はり、 046 1CO 012 009 一人は同じ霊に從ひて學識の詞を賜はり、一人は同じ霊に由りて信仰を賜はり、一人は同じ霊に由りて病を醫す恵を賜はり、 046 1CO 012 010 一人は奇蹟を行ひ、一人は預言し、一人は精神を識別し、一人は他國語を語り、一人は他國語を通訳する事を賜はるなり。 046 1CO 012 011 然れども此等を悉く行ひ給ふものは同一の霊に在して、思召の儘に面々に分與へ給ふなり。 046 1CO 012 012 是身は一なるに其肢は多く、身に於る一切の肢は多しと雖も一の身なるが如く、キリストも亦然るなり。 046 1CO 012 013 即ち我等は、或はユデア人、或はギリシア人、或は奴隷、或は自由の身なるも、一體と成らん為に悉く一の霊に於て洗せられ、皆一の霊に飲飽かしめられたり。 046 1CO 012 014 蓋身は一の肢に非ずして多くの肢なり、 046 1CO 012 015 足もし我は手に非ざる故に身に属せずと云はば、果して身に属せざるか、 046 1CO 012 016 耳もし我は目に非ざる故に身に属せずと云はば、果して身に属せざるか、 046 1CO 012 017 若身を挙りて目ならば聞く所は何處ぞ、身を挙りて聞く所ならば嗅ぐ所は何處ぞ、 046 1CO 012 018 然れば神は、思召の儘に肢を其々身に置き給へるなり。 046 1CO 012 019 皆一の肢ならば、身は何處にか在るべき、 046 1CO 012 020 今肢は多しと雖も、身は一なり。 046 1CO 012 021 目手に向ひて、我汝の助を要せずと云ひ、頭も亦兩足に向ひて、汝等我に必要ならずと云ふ能はず。 046 1CO 012 022 身の中に最も弱しと見ゆる肢は却て必要なり。 046 1CO 012 023 又身の中に於て我等が殊に卑しと思へる肢は、之に物を纏ひて更に光榮を添へ、又醜き部分は一層之を鄭重にすれども、 046 1CO 012 024 尊き部分に至りては却て何物をも要せず、神は身體を調和し給ひて、缼乏せる所には尚豊に榮耀を加へ給へり。 046 1CO 012 025 是身の中に分裂ある事なく、肢の相一致し扶合はんが為にして、 046 1CO 012 026 一の肢苦しめば諸の肢共に苦しみ、一の肢尊ばるれば諸の肢共に喜ぶなり。 046 1CO 012 027 今汝等はキリストの身にして、其幾分の肢なり。 046 1CO 012 028 斯て神は教會に於て或人々を置き給ふに、第一に使徒等、第二に預言者、第三に教師、次に奇蹟[を行ふ人]、其次に病を醫す賜[を得たる人]、施[を為す人]、司る者、他國語を語る者、他國語を通訳する者を置き給へり。 046 1CO 012 029 挙りて使徒なるか、挙りて預言者なるか、挙りて教師なるか、 046 1CO 012 030 挙りて奇蹟を行ふ者なるか、挙りて病を醫す恵を有する者なるか、挙りて他國語を語る者なるか、挙りて通訳する者なるか、 046 1CO 012 031 汝等は最も善き賜を慕へ、我は尚勝たる道を示さん。 046 1CO 013 001 我假令人間と天使との言語を語るとも、愛なければ鳴る鐘、響く鐃鈸の如くなりたるのみ。 046 1CO 013 002 我假令預言する事を得て、一切の奥義一切の學科を知り、又假令山を移す程なる一切の信仰を有すとも、愛なければ何物にも非ず。 046 1CO 013 003 我假令わが財産を悉く(貧者の食物として)分與へ、又我身を焼かるる為に付すとも、愛なければ聊も我に益ある事なし。 046 1CO 013 004 愛は堪忍し、情あり、愛は妬まず、自慢せず、驕らず、 046 1CO 013 005 非禮を為さず、己の為に謀らず、怒らず、惡を負はせず、 046 1CO 013 006 不義を喜ばずして眞實を喜び、 046 1CO 013 007 何事をも包み、何事をも信じ、何事をも希望し、何事をも怺ふるなり。 046 1CO 013 008 預言は廃り、言語は止み、知識は亡ぶべきも、愛は何時も絶ゆる事なし。 046 1CO 013 009 蓋我等の知る事は不完全に、預言する事は不完全なれども、 046 1CO 013 010 完全なるところ來らば不完全なるところは廃らん。 046 1CO 013 011 我が小兒たりし時は、語る事も小兒の如く、判断する事も小兒の如く、考ふる事も小兒の如くなりしかど、大人となりては小兒の事を棄てたり。 046 1CO 013 012 今我等の見るは鏡を以てして朧なれども、彼時には顔と顔とを合せ、今我が知る所は不完全なれども、彼時には我が知らるるが如くに知るべし。 046 1CO 013 013 今存するものは信、望、愛此三なれども、就中最大いなるものは愛なり。 046 1CO 014 001 汝等愛を求め、且霊的賜、殊に預言せん事を冀へ。 046 1CO 014 002 蓋他國語を語る者は人に語らずして神に語る者なり、其は霊によりて奥義を語るも、聞取る人なければなり。 046 1CO 014 003 然れども預言する者は人に語りて其徳を立て、且之を勧め、之を慰む。 046 1CO 014 004 他國語を語る者は己が徳を立つれども、預言する者は神の教會の徳を立つ。 046 1CO 014 005 我は汝等が皆他國語を語る事を欲すれども、預言をする事に於ては尚切なり。其は他國語を語る人、教會の徳を立てん為に通訳するに非ざれば、預言する人は之に優ればなり。 046 1CO 014 006 然れば兄弟等よ、我今汝等に至りて他國語を語るとも、もし黙示、或は知識、或は預言、或は教訓を以て語るに非ずば、汝等に何の益する所かあらん。 046 1CO 014 007 魂なくして音を發するものすら、或は笛、或は琴、若異なる音を發するに非ずば、争でか其吹かれ、或は弾かるる所の何なるを知るべき。 046 1CO 014 008 喇叭もし定まりなき音を發せば、誰か戰闘の準備を為さんや。 046 1CO 014 009 斯の如く、汝等も言語を以て明かなる談話を為すに非ずば、争でか其言ふ所を知らるべき、空に向ひて語る者ならんのみ。 046 1CO 014 010 世に言語の類然ばかり夥しけれども、一として意味あらざるはなし。 046 1CO 014 011 我若音の意味を知らずば、我が語れる人に夷となり、語る者も我に夷とならん。 046 1CO 014 012 斯の如く、汝等も霊的賜を冀ふ者なれば、教會の徳を立てん為に豊ならん事を求めよ。 046 1CO 014 013 故に他國語を語る人は、亦通訳する事をも祈るべし。 046 1CO 014 014 蓋我他國語を以て祈る時は、霊は祈ると雖も智恵は好果を得ざるなり。 046 1CO 014 015 然らば之を如何にすべき、我は霊を以て祈り、又智恵を以て祈らん。霊を以て謳ひ又智恵を以て謳はん。 046 1CO 014 016 蓋汝若霊[のみ]を以て祝せば、常人を代表する人、如何ぞ汝の祝言に答へてアメンと唱へんや、其は汝の何を言へるかを知らざればなり。 046 1CO 014 017 蓋汝が感謝するは善き事なれども、他の人は徳を立てざるなり。 046 1CO 014 018 我は汝等一同よりも多く他國語を語る事を我が神に感謝し奉る。 046 1CO 014 019 然れど教會に於て、他國語にて一萬の言を語るよりは、他の人をも教へん為に、我が智恵を以て五の言を語る事を好む。 046 1CO 014 020 兄弟等よ、智恵に於ては汝等子兒となる事勿れ。惡心に於ては子兒たるべく、智恵に於ては大人たるべし。 046 1CO 014 021 律法に録して、「主曰く、我此民に向ひて、異なる言語、異なる唇にて語らん、然も我に聴かじ」、とあり。 046 1CO 014 022 然れば他國語の徴となるは、信者の為に非ずして不信者の為なり、預言は却て不信者の為に非ずして信者の為なり。 046 1CO 014 023 故に若教會挙りて一處に集れる時、皆他國語にて語りなば、常人又は不信者の入來りて、汝等を狂へる者と謂はざらんや。 046 1CO 014 024 然れど若皆預言せば、入來る不信者常人は、一同に對して屈服し、一同の為に是非せられ、 046 1CO 014 025 心の秘密を暴露せられ、然平伏て神を禮拝し奉り、神實に汝等の中に在すと宣言するならん。 046 1CO 014 026 兄弟等よ、然らば之を如何にすべき。汝等が集る時は、各聖歌あり、教訓あり、黙示あり、他國語あり、通訳する事あり、一切の事皆徳を立てしめん為にせらるべし。 046 1CO 014 027 他國語を語る人あらば、二人、多くとも三人、順次に語りて、一人通訳し、 046 1CO 014 028 若通訳する人なくば、教會の中に在りては、沈黙して己と神とに語るべし。 046 1CO 014 029 預言者は二人或は三人言ひて、他の人は判断すべし。 046 1CO 014 030 若坐せる者にして黙示を蒙る人あらば、前の者は黙すべし。 046 1CO 014 031 其は人皆學びて勧を受くべく、汝等皆順次に預言する事を得ればなり。 046 1CO 014 032 預言者の霊は預言者に從ふ、 046 1CO 014 033 蓋神は争の神に非ずして平和の神にて在す。聖徒の諸教會に於る如く、 046 1CO 014 034 婦人は教會に於て黙すべし。律法にも云へる如く、彼等は語るを許されずして從ふべき者なり。 046 1CO 014 035 若何事をか學ばんと欲せば、自宅にて夫に問ふべし、其は教會に於て語るは婦人に取りて耻づべき事なればなり。 046 1CO 014 036 神の御言は汝等より出でしものなるか、或は汝等にのみ至れるものなるか、 046 1CO 014 037 人若或は預言者、或は霊に感じたるものと思はれなば、我が汝等に書送るは主の命なる事を知るべし。 046 1CO 014 038 若し知らずば、其人自らも知られざらん。 046 1CO 014 039 然れば兄弟等よ、汝等預言せんことを冀ひて、他國語を語るを禁ずる勿れ。 046 1CO 014 040 然れど一切の事正しく且秩序を守りて行はるべきなり。 046 1CO 015 001 第一項 復活を證す 兄弟等よ、我が既に傳へし所の福音を今更に汝等に告ぐ、汝等は曩に之を受けて尚之に據りて立てり、 046 1CO 015 002 若徒に信じたるに非ずして、我が傳へし儘に之を守らば、汝等は之によりて救はるるなり。 046 1CO 015 003 即ちわが第一に汝等に傳へしは、我自らも受けし事にて、キリストが聖書に應じて我等の罪の為に死し給ひし事、 046 1CO 015 004 葬られ給ひし事、聖書に應じて三日目に復活し給ひし事、 046 1CO 015 005 ケファに顕れ給ひ、其後又十二使徒に顕れ給ひし事、是なり。 046 1CO 015 006 次に五百人以上の兄弟に一度に顕れ給ひしが、其中には永眠したる者あれども、今尚生存ふる者多し。 046 1CO 015 007 次にヤコボに顕れ、次に凡ての使徒に顕れ、 046 1CO 015 008 最終には月足らぬ者の如き我にも顕れ給へり。 046 1CO 015 009 蓋我は神の教會を迫害せし者なれば、使徒中の最も小き者にして、使徒と呼ばるるに足らず。 046 1CO 015 010 然るに我が今の如くなるは、是神の恩寵に由れるなり、斯て其恩寵は我に於て空しからず、我は彼等一同よりも多く働けり。然れども是我に非ず、神の恩寵我と共に為る所なり。 046 1CO 015 011 即ち我にまれ彼等にまれ、我等は斯の如く宣傳へ、汝等も亦斯の如く信じたるなり。 046 1CO 015 012 然てキリスト死者の中より復活し給へりと宣傳ふるに對して、死者の復活する事なしと云ふ人々、汝等の中に在るは何ぞや。 046 1CO 015 013 死者の復活する事なくば、キリストも復活し給はざるべし。 046 1CO 015 014 若キリスト復活し給はざりしならば、我等の宣教は空しく、汝等の信仰も亦空しく、 046 1CO 015 015 而も我等は神の僞證人と成るべし。其は死者にして復活せざる者ならば、キリストを復活せしめ給はざりしものを、我等は神に反して之を復活せしめ給へりと證したればなり。 046 1CO 015 016 蓋死者にして復活する事なければ、キリストも復活し給ひし事なし。 046 1CO 015 017 キリスト復活し給ひし事なければ、汝等の信仰は空し、其は汝等尚罪に在ればなり。 046 1CO 015 018 然らばキリストに於て永眠したる人々も亡びたるならん。 046 1CO 015 019 我等がキリストに於る希望若此世のみならば、我等は凡ての人よりも憫然なる者なり。 046 1CO 015 020 然れど現に、キリストは永眠せる人々の初穂として、死者の中より復活し給ひしなり。 046 1CO 015 021 蓋死は人に由りて來り、死者の復活も亦人に由りて來れり。 046 1CO 015 022 一切の人アダンに於て死するが如く、一切の人亦キリストに於て復活すべし。 046 1CO 015 023 但各其順序に從ひて、初穂はキリスト、次は其降臨の時キリストのものたる人々、 046 1CO 015 024 次は終にして、キリスト父にて在す神に國を付し給ひて、一切の権威、権能、権力を亡ぼし給ひたらん時なり。 046 1CO 015 025 彼凡ての敵を御足の下に置き給ふ迄は、王たらざるを得ざるなり。 046 1CO 015 026 最終に亡ぼさるべき敵は死なり、是神はキリストの御足の下に萬物を服せしめ給ひたればなり。 046 1CO 015 027 萬物之に服せりと曰へば、萬物を服せしめ給へるものは其數に入らざる事疑なし。 046 1CO 015 028 萬物己に服するに至らば、御子自らも亦、己に萬物を服せしめ給ひしものに服し給ふべし、是神は萬物に於て萬事となり給はん為なり。 046 1CO 015 029 若然らずして、死者全く復活する事なくば、死者の代に洗せらるる人々は何とかすべき、彼等が死者の代に洗せらるるは何故ぞ。 046 1CO 015 030 又我等も時々刻々危険に遇へるは何の為ぞ。兄弟等よ、我は我主イエズス、キリストに於て、汝等に就きて我が[受くべき]名誉を指して誓言す、 046 1CO 015 031 我は日々死の危険に遇ふなり。 046 1CO 015 032 我唯人の如くにしてエフェゾに獣と闘ひしならば、我に何の益かあらん。死者果して復活せずば、我等いざ飲食せん、其は明日死ぬべければなり。 046 1CO 015 033 汝等欺かるる事勿れ、惡き交際は善き風俗を腐敗せしむ。 046 1CO 015 034 汝等誠實に警戒して罪を犯す事勿れ。我が言ふ所汝等の面目を傷くれども、汝等の中に神を知らざる者あるなり。 046 1CO 015 035 第二項 復活に関する難問に答ふ 然れども人或は云はん、死者如何にして復活すべきか、如何なる體を以て來るべきか、と。 046 1CO 015 036 愚なる者よ、汝の蒔くものは先死なざれば活くること無し、 046 1CO 015 037 又其蒔くは将來あるべき體を蒔くに非ず、假令ば麦等の凡の種粒のみ。 046 1CO 015 038 斯て神は思召す儘に之に體を與へ、各の種に固有の體を與へ給ふ。 046 1CO 015 039 凡ての肉は同じ肉に非ず、人肉あり、獣肉あり、鳥肉あり、魚肉ありて各相異なり。 046 1CO 015 040 又天體あり、地上の體あり、然れど天上のものと地上のものとの光沢は相異なり。 046 1CO 015 041 日の輝も、月の輝も、星の輝も異にして、星と星とは輝によりて相異なり。 046 1CO 015 042 死者の復活も亦然り。[身體は]腐敗に於て蒔かれ、不朽を以て復活せん、 046 1CO 015 043 卑賤に於て蒔かれ、光榮を以て復活せん、虚弱に於て蒔かれ、力を以て復活せん、 046 1CO 015 044 動物的身體に蒔かれ、霊的身體に復活せん。動物的身體あれば、霊的身體もあり、録して、 046 1CO 015 045 「第一の人アダンは活ける魂とせられたり」、とあるが如く、最後のアダンは活かす霊とせられたり。 046 1CO 015 046 始よりあるは霊的のものに非ず、動物的のものにして、霊的のものは後に在り。 046 1CO 015 047 第一の人は土より出でて土に属し、第二の人は天より出でて天に属す。 046 1CO 015 048 土に属する人々は土に属せる彼のものの如く、天に属する人々は天に属せる彼のものの如し。 046 1CO 015 049 然れば我等は土に属するものの形を帯びし如く、天に属するものの形をも帯ぶべし。 046 1CO 015 050 兄弟等よ、我は言はん、血肉は神の國を嗣ぐ能はず、又腐敗は不朽を得べからず、と。 046 1CO 015 051 看よ、我汝等に奥義を語らん、我等は皆永眠すべきに非ざれども、皆變化すべき者なり。 046 1CO 015 052 即ち倐忽の間、瞬く間、終の喇叭の鳴らん時、蓋喇叭は鳴るべく、死者は不朽の者に復活すべく、我等も變化すべきなり。 046 1CO 015 053 其は此腐敗すべきもの不朽を帯び、此死すべきもの不死を帯ぶべければなり。 046 1CO 015 054 此死すべきもの不死を帯びたらん時、録されたる言は成就せん、[曰く]、「死は勝利に呑まれたり」、 046 1CO 015 055 「死よ、汝の勝利は何處にかある、死よ、汝の針は何處にかある」と。 (Hadēs g86) 046 1CO 015 056 而して死の針は罪なり、罪の力は律法なり、 046 1CO 015 057 我主イエズス、キリストを以て我等に勝利を賜ひたる神に感謝し奉る。 046 1CO 015 058 然れば我が愛する兄弟等よ、確固として動かず、汝等の勞働が主に於て空しからざる事を覚りて、絶えず力を主の業に盡せ。 046 1CO 016 001 聖徒等の為にする據金に就きては、我がガラチアの諸教會に命ぜし如く、汝等も亦然せよ。 046 1CO 016 002 我が汝等の許に至りて後據金せざらん為に、一週間の初の日毎に、汝等各成功に應じて自宅に貯金すべし。 046 1CO 016 003 斯て我汝等の許に至りなば、添書して汝等の選まん人々を遣はし、汝等の恵をエルザレムに齎さしめん。 046 1CO 016 004 若我も行くべき價値あらば、彼等は我と共に行くべきなり。 046 1CO 016 005 我はマケドニアを通らんとする故に、マケドニアを通りて汝等の許に至り、 046 1CO 016 006 多くは汝等と共に留り、或は冬を過す事もあらん。是何處に行くも汝等より送られん為なり。 046 1CO 016 007 其は我路の次に汝等を見る事を好まず、主の許し給はば暫く汝等の中に留らん事を希望すればなり。 046 1CO 016 008 ペンテコステまではエフェゾに留らんとす、 046 1CO 016 009 其は広くして且貢献あるべき門、我前に開け、又敵對する者多ければなり。 046 1CO 016 010 チモテオ汝等の許に至らば、注意して懼るる所なからしめよ。彼は我と齊しく主の業を行へる者なればなり。 046 1CO 016 011 故に誰も彼を蔑にせず、途中を安らかに送りて我方に來る事を得しめよ、蓋我は彼と兄弟等とを待てるなり。 046 1CO 016 012 兄弟アポルロの事を告げんに、我篤く彼が兄弟等と共に汝等の許に至らん事を願ひたれど、彼今は行く事を肯ぜず、機よき時を以て行くならん。 046 1CO 016 013 汝等警戒して固く信仰に立ち、雄々しく挙動ひ、且堅固なれ。 046 1CO 016 014 汝等の業悉く愛を以て行はれよかし。 046 1CO 016 015 兄弟等よ、我汝等に希ふ、ステファナの家はアカヤ州の初穂にして、聖徒等の世話に身を委ねたるは汝等の知る所なれば、 046 1CO 016 016 汝等も斯の如き人々及び総て協力して働ける人々に服せよ。 046 1CO 016 017 我ステファナ、フォルツナト、及びアカイコの此處に居るを喜ぶ、其は汝等の不在を補ひ、 046 1CO 016 018 即ち我と汝等との精神を安んぜしめたればなり。然れば汝等斯の如き人物を重んぜよ。 046 1CO 016 019 [小]アジアの諸教會汝等に宜しくと言へり。アクィラとプリシルラ及び其家の教會は、主に於て懇に宜しくと言へり、(我彼等の家に宿る)。 046 1CO 016 020 凡ての兄弟汝等に宜しくと云へり。聖なる接吻を以て互に宜しく傳へよ。 046 1CO 016 021 我パウロ自筆を以て宜しく言ふ。 046 1CO 016 022 人若我主イエズス、キリストを愛せずば排斥せられよ。我主來り給ふ。 046 1CO 016 023 願はくは我主イエズス、キリストの恩寵汝等と共に在らん事を。 046 1CO 016 024 我愛はキリスト、イエズスに於て汝等一同と共に在るなり、アメン。 # # BOOK 047 2CO 2 Corinthians コリント人への手紙第二 047 2CO 001 001 神の思召によりてイエズス、キリストの使徒たるパウロ、及び兄弟チモテオ、コリントに在る神の教會並にアカヤ全地方の聖徒一同に[書簡を贈る]。 047 2CO 001 002 願はくは我父にて在す神及び主イエズス、キリストより、恩寵と平安とを汝等に賜はらん事を。 047 2CO 001 003 祝すべき哉我主キリスト、イエズスの神及び父、慈悲の父、諸の慰の神。即ち 047 2CO 001 004 我一切の患難に於て我等を慰め給へるは、我等をして、己が神より慰めらるる慰を以て、亦自ら一切の難に迫れる人々を慰むる事を得しめ給はんとなり。 047 2CO 001 005 蓋キリストの為の苦我等に溢るるが如く、我等の慰も亦キリストを以て溢るるなり。 047 2CO 001 006 抑我等が苦難に遇へるも汝等の慰安と救霊との為、慰めらるるも汝等の慰の為にして、汝等にも我等が忍べる如き苦を忍ぶ事を得しむるなり。 047 2CO 001 007 斯て汝等が苦を共にするが如く、又慰をも共にせん事を知れば、我等が汝等に對する希望は堅し。 047 2CO 001 008 蓋兄弟等よ、我等が[小]アジアに於て遇ひし困難に就きて、汝等の知らざるを好まず、即ち責めらるる事過度にして、力及ばず、活くる望をすら失ふに至りしかば、 047 2CO 001 009 心の中には死すとの返答を持ちたりき。是己を頼まずして、死者を復活せしめ給神を頼奉らん為なり。 047 2CO 001 010 即ち曩に斯る死より我等を救ひ給ひて今も救ひ給へば、尚救ひ給ふべき事を信頼するなり。 047 2CO 001 011 是亦汝等が我等の為に祈りて援くるに由る、蓋多くの人の願によりて我等に賜はる恵を、多くの人を以て我等の為に感謝せられんとてなり。 047 2CO 001 012 第一項 パウロの眞實を咎め得る者はあらじ 第一編 パウロ使徒としての動作及び氣質を弁護す 我等が誇とする所は、即ち世中、殊に汝等に對して處するに質直なる心と神の賜へる眞實とを以てし、又肉的智恵に由らず神の恩寵に由りてせるを、我良心の證する事是なり。 047 2CO 001 013 蓋我等の書遣るは汝等が読む所知る所に外ならず、 047 2CO 001 014 汝等既に粗我等を知りたれば、亦主イエズス、キリストの日に於て我等が汝等の名誉なるが如く、汝等も我等の名誉なる事を、終まで知らん事を希望す。 047 2CO 001 015 斯る希望の下に再び恩寵を得させんとて、我曩に汝等に至り、 047 2CO 001 016 汝等を経てマケドニアに往き、マケドニアより更に復汝等に至り、汝等よりユデアへ送られんと志ししが、 047 2CO 001 017 斯く志したればとて、我豈軽々しくせしものならんや、又我が定むる事をば肉に由りて定め、我に於て然りと云ひ、又然らずと云ふが如き事あらんや。 047 2CO 001 018 神は眞實に在して、我が汝等の中に語りし所には、然り然らずと云ふ事なきを證し給ふ。 047 2CO 001 019 蓋我等を以て、即ち我とシルヴァノとチモテオとを以て、汝等の中に宣べられ給ひし神の御子イエズス、キリストに於ては、然り然らずと云ふ事なく、唯然りと云ふ事あるのみ。 047 2CO 001 020 即神の御約束は彼に於て悉く然りとなりたれば、我等は彼を以て神に向ひて其光榮の為にアメンと誦ふるなり。 047 2CO 001 021 汝等と共に我等をキリストに於て堅固ならしめ、且我等に注油し給ひしものは神にて在す。 047 2CO 001 022 而て尚我等を證印し給ひ、保證として霊を我等の心に賜ひしなり。 047 2CO 001 023 我魂を賭けて、神を呼びて證者とし奉る、即ち我が更に汝等に至らざりしは、汝等を宥恕する故なり。 047 2CO 001 024 我等は汝等の信仰を壓せんとする者に非ずして、汝等の喜の協力者なり、其は汝等信仰に據りて立てばなり。 047 2CO 002 001 然て我心の中に、再び悲を以て汝等に至らじと定めたり、 047 2CO 002 002 蓋我もし汝等を悲しましめば、我が悲しましむる其者ならで誰か我を喜ばしめんや。 047 2CO 002 003 我が曩に汝等に書遣りしも、至らん時我を喜ばすべき筈の人々に由りて、却て悲に悲を重ぬる事なからん為にして、我喜は汝等一同の喜なりと、汝等一同に就きて信ずる故なり。 047 2CO 002 004 蓋我大いなる患難と心痛とにより、多くの涙を以て汝等に書遣れり、是汝等を悲しましめんとには非ず、汝等に對する我寵の殊に深きを知らしめん為なりき。 047 2CO 002 005 若悲しましめたる人あらば、其は我[のみ]を悲しましめたるに非ずして、幾許か汝等一同を悲しましめたるなり、我は激しく責めじとて斯く言ふ。 047 2CO 002 006 然る人は多くの人より受けたる譴責にて事足れり。 047 2CO 002 007 汝等は寧之を宥恕し且慰めよ、恐くは其人堪へ難き悲しみに沈むべければ、 047 2CO 002 008 我は汝等が彼に對して、愈愛を加へん事を希ふ。 047 2CO 002 009 曩に書遣りしも是が為にして、汝等が萬事に從へるや否やを試に知らんとてなりき。 047 2CO 002 010 抑汝等何事をか人に赦したらば我も然せん、我が赦したる事あるも汝等に對してキリストの御前に赦したるなり。 047 2CO 002 011 是は我等サタンの謀を知らざるに非ざれば、之に籠絡せられざらん為なり。 047 2CO 002 012 然我キリストの福音の為トロアデ[町]に至りしに、主我に門を開き給ひたれど、 047 2CO 002 013 我は我兄弟チトに遇はざるによりて心安からず、別を彼等に告げてマケドニアに出發せり。 047 2CO 002 014 我等をして何時もキリスト、イエズスによりて勝を得させ、且我等を以て彼を知る事の香を何處にも顕し給へる神に感謝し奉る。 047 2CO 002 015 蓋救はるる人にも亡ぶる人にも、我等は神の御為キリストの馨しき香なり、 047 2CO 002 016 或人には死の香にして死に至らしむれど、或人には生の香にして生に至らしむ。而も、誰か此等の任に勝へたる者ぞ。 047 2CO 002 017 蓋我等は多くの人の如くに神の御言を僞造せず、眞實の儘に神より出づる如く、神の御前にキリストに於て語る。 047 2CO 003 001 第二項 新約に於る使徒職 我等は又己を立てんとするか、将或人々の如く、汝等に對して、若くは汝等より、添書を要する者なるか、 047 2CO 003 002 汝等こそ我等が心に録されたる我等の書簡にして、萬民に知られ且読まるるなれ。 047 2CO 003 003 汝等は明に、我等に由りて認められたるキリストの書簡にして、而も墨を以てせず活給る神の霊を以てし、又石碑の上ならで心の肉碑の上に書きたるものなり。 047 2CO 003 004 我等キリストに由りて斯の如く神の御前に確信す、 047 2CO 003 005 是何事かを己より思ひ得るには非ず、我等の得るは神によれり。 047 2CO 003 006 即ち神は我等を新約の相當なる役者とならしめ給へり、其は儀文の役者に非ず霊の役者なり、蓋儀文は殺し霊は活かし給ふ。 047 2CO 003 007 イスラエルの子等、モイゼの顔の終ある光榮の為に、其顔を熟視め得ざりし程に、死の役すら文字にて石に刻銘けられ、光榮の中に在りたれば、 047 2CO 003 008 霊の役は豈一層光榮あらざらんや。 047 2CO 003 009 蓋罪に定むる役は光榮なれば、况や義に定むる役は尚豊に光榮あるべきをや。 047 2CO 003 010 彼時に輝きしは、勝れたる光榮に對しては光榮ならず、 047 2CO 003 011 蓋終るべきものすら光榮を以て成りたれば、况や永存すべきものは増りて光榮あるべきをや。 047 2CO 003 012 然れば我等は斯る希望を懐ける上に、憚らず言ひて、 047 2CO 003 013 モイゼの如くには為ざるなり。彼は終るべき其役の終をイスラエルの子等に見せざらん為、己が顔に覆を置きたり。 047 2CO 003 014 斯て彼等の精神鈍りて、今日に至るまで、舊約を読むに其覆は依然として取除かれず。蓋舊約はキリストに於て終るものなれども、 047 2CO 003 015 今日に至るまでモイゼの書を読む時に、覆は彼等の心の上に置かれたり。 047 2CO 003 016 然れど主に立歸らん時、其覆は取除かるべし。 047 2CO 003 017 然て主は彼霊なり、主の霊ある處には自由あり、 047 2CO 003 018 我等は皆素顔にて主の光榮を鏡に映すが如く見奉りて、光榮より光榮に進み、主と同じ像に化す、是主の霊に由りてなるが如し。 047 2CO 004 001 是故に我等は、御慈悲を蒙りたるによりて聖役を有する者なれば、弱る事なく、 047 2CO 004 002 耻隠す所を棄て、狡猾に挙動ふ事を為ず、又神の御言を僞造せずして眞理を顕し、神の御前に凡ての人の良心に訴へて己を立つるなり。 047 2CO 004 003 若我等の福音にして尚覆を以て包まれたりとせば、其は亡ぶる人々に對して包まれたるなり。 047 2CO 004 004 即ち彼等に於て、世間の神不信者の心を暗まし、神の像に在せるキリストの光榮の福音の光を、彼等の上に輝かしめじとせるなり。 (aiōn g165) 047 2CO 004 005 蓋我等は己が事を宣べず、我主イエズス、キリストの事を宣べて、イエズス、キリストの為に己を汝等の僕となす。 047 2CO 004 006 蓋命じて光を闇より輝かしめ給ひし神は、キリスト、イエズスの御顔に在る神の光榮の知識を輝かしめん為に、自ら我等の心を照らし給へり。 047 2CO 004 007 第三項 使徒たる者の苦痛 然れども我等は此寳を土器の中に有てるなり、是力の偉大なる所は、我等に由らずして神に由るべき故なり。 047 2CO 004 008 我等萬事に患難を受くれども苦悩せず、窮迫極れども失望せず、 047 2CO 004 009 迫害を受くれども棄てられず、倒さるれども亡びず、 047 2CO 004 010 何時もイエズスの死を我身に帯ぶ、是イエズスの生命が亦我等の身に於て顕れん為なり。 047 2CO 004 011 即ち我等は活ける者なれども、常にイエズスの為死に付さる、是イエズスの生命が、亦死すべき我肉身に於て顕れん為なり。 047 2CO 004 012 然れば死は我等の中に働き、生命は汝等の中に働くなり。 047 2CO 004 013 然るに信仰の同じ霊を有すれば、録して、「我信じたるが故に語りしなり」とあるが如く、我等も亦信ずるが故に語る、 047 2CO 004 014 イエズスを復活せしめ給ひしものが、我等をもイエズスと共に復活せしめ、汝等と共に立たしめ給ふべしと知ればなり。 047 2CO 004 015 蓋萬事は汝等の為にして、是恩寵豊に、神の光榮として愈多くの人の感謝を豊ならしめん為なり。 047 2CO 004 016 故に我等は沮喪せず、我等の外面の人は腐敗すれども、内面の人は却て日々に新なり。 047 2CO 004 017 其は我等の短く軽き現在の患難が、我等に永遠重大にして無比なる光榮を準備すればなり。 (aiōnios g166) 047 2CO 004 018 我等の顧みるは見ゆるものに非ずして見えざるものなり、其は見ゆるものは此世に限れど見えざるものは永遠なればなり。 (aiōnios g166) 047 2CO 005 001 蓋我等は、幕屋なる我が地上の住處破るれば、人の手に成らずして神より賜はれる住處、永遠の家が我等の為に天に在る事を知る。 (aiōnios g166) 047 2CO 005 002 即ち我等はこの住處に在りて嘆きつつ、此儘にして天よりの住處を上に着せられん事を希ふ。 047 2CO 005 003 是既に着たるものにして裸にて見出されずば誠に然あるべし。 047 2CO 005 004 蓋我等が此幕屋に在りて、壓迫を蒙りて歎くは、是剥がるるを好まず、却て此上に着せられ、死すべき部分を直に生命に呑入れられん事を欲すればなり。 047 2CO 005 005 之が為に我等を造り給へる者は即ち神に在し、之が保證として[聖]霊を我等に賜ひたるなり。 047 2CO 005 006 然れば我等は何時も憶する事なく、此肉體に在る間は主に離れて流浪する者なる事を知りて、 047 2CO 005 007 現に像を見ず信仰を以て歩む者なれば、 047 2CO 005 008 敢えて憶する事なく、寧肉體を離れて主に侍らん事を欲す。 047 2CO 005 009 然れば肉體に在るも之を離るるも御意に適はん事を勉む、 047 2CO 005 010 其は我等皆キリストの法廷に於て顕れ、或は善、或は惡、各肉體に在りて為しし所に報いらるべければなり。 047 2CO 005 011 第四項 使徒たる者の生活 斯の如く、我等は主の畏れ奉るべき事を知人々を勧む。我等は明に神に知られたれば、汝等の良心にも明に知られたるべき事を信ず。 047 2CO 005 012 我等は又汝等の前に己を立つる者に非ず、唯我等を以て誇となす機會を汝等に與へんとす、是心にならで面に誇れる人々に答ふる事を得させん為なり。 047 2CO 005 013 即ち我等が浮るるも神の為、己が事を謙遜に語るも亦汝等の為なり。 047 2CO 005 014 蓋キリストの寵我等に迫れり、我等想へらく、凡ての人の為に一人死し給ひしなれば、是凡ての人死したるなり。 047 2CO 005 015 又キリストが(凡ての人の為に)死し給ひしは、活ける人をして最早己が為に活きず、寧己等の為に死し且復活し給ひし者の為に活きしめんとてなり。 047 2CO 005 016 故に今より後我等は人を肉身によりて知らず、曾てはキリストを肉身によりて知りたりとも、今は最早斯の如くにして知るに非ず。 047 2CO 005 017 人若キリストに在れば、新に造られたる者となりて、舊き所は既に過去り、何事も新になりたるなり。 047 2CO 005 018 是等の事は皆神より出づ、即ち神はキリストを以て我等を己と和睦せしめ、且和睦の務を我等に授け給へり。 047 2CO 005 019 蓋神はキリストの中に在して世を己と和睦せしめ、又人々に其罪を負はせず、我等に委ぬるに和睦の言を以てし給へり。 047 2CO 005 020 然れば我等はキリストの為に使節たり、恰も神が我等を以て汝等に勧め給ふに齊し。キリストに代りて希ふ、神と和睦し奉れ。 047 2CO 005 021 罪を知り給はざる者を我等の為に罪と見做し給ひしは、我等がキリストに於て神の義とせられん為なり。 047 2CO 006 001 我等は[キリストの]助手として、汝等が神の恩寵を徒に受けざらん事を勧む、 047 2CO 006 002 蓋曰はく、「我宜き時に汝の願を聴き救の日に汝を助けたり」と。今こそは宜き時なれ、今こそは救の日なれ。 047 2CO 006 003 我等聖役を譏られざらん為に誰の意をも損はず、 047 2CO 006 004 却て萬事に於て己を神の役者として顕す。即ち大いなる堪忍を以て、患難にも、困窮にも、苦悩にも、 047 2CO 006 005 負傷するも、監獄に在るも、騒亂にも、勞働にも、徹夜にも、断食にも。 047 2CO 006 006 貞潔と學識と、耐忍と温良と、聖霊[の好果]と僞なき愛と、 047 2CO 006 007 眞理の言と神の御力と、左右に持る義の武器とを以て、 047 2CO 006 008 又尊榮と耻辱、惡評と好評とを以て、人を惑はす者の如くにして而も眞實に、知られざるが如くにして而も人に知られ、 047 2CO 006 009 死するに似て而も活くる事斯の如く、懲さるるに似て而も殺されず、 047 2CO 006 010 憂ふるが如くなるも常に喜び、乏しきが如くなるも多くの人を富ましめ、有する所なきが如くにして一切を有し、[以て神の役者として己を顕すなり]。 047 2CO 006 011 嗚呼コリント人よ、我等の口は汝等に開き、我等の心は広くなれり、 047 2CO 006 012 汝等が我等の中に狭めらるるには非ず、汝等の腸こそ狭きなれ。 047 2CO 006 013 我わが子に謂ふが如くに語らん、我に等しく報いん為に汝等も開かれよ。 047 2CO 006 014 汝等不信者と軛を同じうする事勿れ、蓋義と不義と何の與る所かあらん、光と闇と何の與する所かあらん、 047 2CO 006 015 キリストとベリアルと何の約する所かあらん、信者と不信者と何の關る所かあらん、 047 2CO 006 016 神殿と偶像と何の一致する所かあらん、神の曰へる如く、汝等は活ける神の[神]殿なり、曰く、「我彼等の中に住み、彼等の間に歩まんとす、而して我彼等の神となり、彼等我民となるべし」、 047 2CO 006 017 又、「主曰はく、然れば汝等彼等の中より出でて之を離れよ、不潔なるものに触る事勿れ、 047 2CO 006 018 斯て我汝等を承けて汝等の父となり、汝等わが子女とならん、と全能の神曰へり」と。 047 2CO 007 001 然れば我至愛なる者よ、我等此御約束を得て己を霊肉の凡ての穢より潔め、神を畏れ奉りて聖となる事を全うすべし。 047 2CO 007 002 第五項 前書簡に関して説明を與へコリント人との親睦を全うせんとす 我等を承容れよ、我等は誰をも害せず、誰をも傷はず、誰をも掠めし事なし。 047 2CO 007 003 我が斯の如く言ふは汝等を咎めんとには非ず、其は生死を倶にすべく汝等我等の心に在りとは我が既に言ひたる所なればなり。 047 2CO 007 004 我汝等を信用する事大いにして、汝等を以て誇とする事大いなり。我等が一切の患難の中に於て、我は慰に満ち喜に堪へず。 047 2CO 007 005 蓋マケドニアに至りし時、我等の肉身は聊も安き事なく、一切の患難に遇ひ、外には争、内には懼ありき。 047 2CO 007 006 然れど謙る人々を慰め給ふ神は、チトの來着に由りて我等を慰め給へり。 047 2CO 007 007 唯其來着に由りて耳ならず、尚彼が汝等の中に慰められし慰を以てせり。即ち汝等の我を慕ふ事、其歎、其熱心を我等に告げしかば、我喜は更に大いなりき。 047 2CO 007 008 蓋我書簡を以て汝等を悲ましめたれども、之を後悔せず、假令其書簡が暫しにても汝等を悲ましめしを見て後悔したる事ありとも、 047 2CO 007 009 今は喜べり。是汝等の悲みし故に非ず、悲みて改心するに至りたる故なり。汝等の悲みしは神に順ひしものなれば、我等より何等の損害をも受けざるなり。 047 2CO 007 010 蓋神に順ひての悲は、悔なき救霊に至るべき改心を生じ、世間の悲は死を生ず。 047 2CO 007 011 看よ汝等が神に順ひて悲みしは、如何ばかりの奮發、而も弁駁、而も憤激、而も恐怖、而も愛慕、而も熱心、而も罪を責むる事を汝等の中に生じたるかを。汝等は萬事の上に此件に就きて穢に染まざる事を顕せり。 047 2CO 007 012 然れば我が汝等に書遣りしは、害を為しし人の為に非ず、害を受けし人の為にも非ず、我等が汝等に對して神の御前に有てる奮發を顕さん為なり。 047 2CO 007 013 斯て我等は慰を得、慰を得たる上に尚チトの喜によりて一層喜べり。其は彼の精神、汝等一同に由りて安んぜられたればなり。 047 2CO 007 014 我曾て彼の前に汝等を以て誇とせしも耻とする所なく、我等が汝等に語りし所の皆眞なりし如く、チトの前に誇りし事も亦眞となれり。 047 2CO 007 015 彼は汝等一同の從順と恐慄きつつ己を歓迎したる態とを思出して、其腸の汝等に向へる事更に深し、 047 2CO 007 016 我萬事につけて汝等を信用するを喜ぶ。 047 2CO 008 001 第一項 醵金の方法 兄弟等よ、我等マケドニア[國]の諸教會に賜はりたる神の恩寵を汝等に告ぐ、 047 2CO 008 002 即ち彼等は夥しき患難の試に遇ひたれども、其喜溢れ、其甚しき貧窮は、豊に其吝なき志の富を顕せり。 047 2CO 008 003 彼等は力に應じて、否我彼等の為に保證す、力以上に快く施せり。 047 2CO 008 004 即ち頻に聖徒等に對する醵金に與る恵を求めて、 047 2CO 008 005 我等の希望以外にも亦自ら、先己を主に任せ、次に神の思召によりて我等にも任せたり。 047 2CO 008 006 然れば我等チトに望みて、既に此慈善事業を始めたれば、汝等の中にも亦之を為遂げん事を願へり。 047 2CO 008 007 故に汝等信仰に、言語に、學識に、凡ての奮發に、又我等に對する愛に、一切に於て富めるが如く、此慈善にも富む者となれかし。 047 2CO 008 008 我は之を命ずるが如くには言はず、他人の奮發を以て汝等の愛の眞實を試みんとす。 047 2CO 008 009 蓋汝等わが主イエズス、キリストの恩寵を知れり、即ち富める者にて在しながら、己が貧しきを以て汝等を富ましめんとて、汝等の為に貧しき者となり給ひしなり。 047 2CO 008 010 是に就きて我は勧告す、此慈善は汝等に益あり、蓋汝等先に之を為し始めし耳ならず、一年前より志したる事なれば、 047 2CO 008 011 今は實際に之を為遂げよ、是志の早かりし如く、所有物に應じて為遂ぐる事も亦早からん為なり。 047 2CO 008 012 其は假令志す事早くとも嘉納せらるるは有たざるものに由らずして有てるものに由ればなり。 047 2CO 008 013 是他人に寛にして汝等を苦めんとするに非ず、平均の為なり。 047 2CO 008 014 現に汝等の餘る所は、彼等の缺乏を補はざるべからず、然らば彼等の餘る所も亦汝等の缺乏を補ひて、平均するに至るべし。録して、 047 2CO 008 015 「多く得たりし人は餘る事なく、少く得たりし人は足らざる事なかりき」、とあるが如し。 047 2CO 008 016 神に感謝す、チトの心にも汝等に對して同じ奮發を賜ひたるによりて、 047 2CO 008 017 彼は勧を容れし耳ならず、奮發の心尚深くして、進みて汝等の許へ出立せり。 047 2CO 008 018 我等又彼と共に一人の兄弟を遣はしたるが、此人は福音に就きて諸教會に普く誉ある 047 2CO 008 019 耳ならず、主の光榮の為、又我等が志を顕さん為に行へる慈善に就きて、諸教會より我等の旅の侶とせられたるなり。即ち我等は注意して、 047 2CO 008 020 多額の醵金を取扱ふに、人に咎められざらんとす。 047 2CO 008 021 其は神の御前に耳ならず、人の前にも善からんことを慮ればなり。 047 2CO 008 022 尚彼等と共に又一人の兄弟を遣はしたるが、我等は其奮發を多くの事に就きて屡認めたる耳ならず、今は大いに汝等を信用するに由りて其奮發心の更に著しきを認む。 047 2CO 008 023 然れば我が友たり汝等に對する協力者たるチトに於ても、諸教會の使たりキリストの名誉たる我等の兄弟等に於ても、 047 2CO 008 024 汝等の愛と、我等が汝等に就きて誇れる事との徴を諸教會の面前に顕せ。 047 2CO 009 001 第二項 施の性質及び好果 聖徒等の為にせらるる醵金に就きては、我汝等に書遣るに及ばず、 047 2CO 009 002 汝等の志の趣けるを知ればなり。是によりて我、アカヤ[州]は昨年より既に準備せりとて、マケドニア人の前に汝等を以て誇と為す、斯て汝等の奮發は夥しき人々を励ましたるなり。 047 2CO 009 003 然るを我が兄弟等を遣はしたるは、曾て汝等に就きて誇る事の此點に於て空しからず、既に言へる如く準備の成らん為なり。 047 2CO 009 004 若マケドニア人我と共に至りて、汝等の準備の未成らざるを見ば、此點に於て、汝等は言ふに及ばず、恐くは我等も赤面するならん。 047 2CO 009 005 故に我兄弟等に請ひて、先ちて汝等に至り、既に約束せられし醵金を、吝むが如くにせず恵むが如くにして、豫め備置かしめん事を必要と思へり。 047 2CO 009 006 是に於て我は言ふ、吝みて少く蒔く人は亦少く刈り、豊に蒔く人は亦豊に刈らん。 047 2CO 009 007 各心に決せし如く、吝まず、止むを得ざるに出でずして施すべし、神は喜びて與ふる人を嘉し給へばなり。 047 2CO 009 008 抑神は能く凡ての恩寵を汝等の中に溢れしめ、汝等をして何時も萬事に十分ならざる所なく、凡ての善業に豊ならしむることを得給ふ、 047 2CO 009 009 録して、「[義人]蒔散らして貧人に與へたり、其義は世々に存す」、とあるが如し。 (aiōn g165) 047 2CO 009 010 然て蒔く人に種を賜ふ者は食すべき麪をも賜ひ、汝等の種を殖し、且汝等の義の結ぶ果を増し給ふべし。 047 2CO 009 011 斯て汝等が萬事に富み、総て快く施すを以て、人は我等に就きて神に感謝し奉るに至らん。 047 2CO 009 012 蓋此祭務を行ふは、聖徒等の缺乏を補ふ耳ならず、尚又主に對して多くの感謝を豊ならしむるなり。 047 2CO 009 013 即ち聖徒等は此務を證據として、汝等がキリストの福音に對して顕す所の服從、及び彼等にも凡ての人にも快く施せる事に就きて、神に光榮を歸し奉らん。 047 2CO 009 014 又神の汝等に賜ひし勝れたる恩寵に就き、汝等を慕ひて汝等の為に祈らん。 047 2CO 009 015 言盡し難き御賜に就きて神に感謝し奉るべし。 047 2CO 010 001 第一項 パウロの権力及び勞力 面前に居る時は汝等の中に謙りて、居らざる時は汝等に對して敢て大胆なる我パウロ、自らキリストの柔和と謙遜とを以て汝等に希ふ。 047 2CO 010 002 或人々は我等を恰も肉に從ひて歩むが如く思ふが故に、我が汝等に願ふ所は、其處に居りて彼の思はるる大胆を以て敢て此の人々に對はざらん事是なり。 047 2CO 010 003 蓋我等肉に於て歩むと雖も、肉に從ひて戰ふには非ず。 047 2CO 010 004 即ち我等の戰の武器は肉的に非ずして、城塞を破るほど神によりて強きなり。之を以て謀計と、 047 2CO 010 005 神の智識に逆らひて驕る計畧と堡塁とを悉く壊し、凡ての理性を虜にしてキリストに服從せしむ。 047 2CO 010 006 又汝等の服從完全になりたらん時、一切の悖逆を罰せんとす。 047 2CO 010 007 外面の事を看よ、人若し自らキリストのものなりと思はば、又省みて自らキリストのものとなるが如く、我等も亦然りと考ふべし。 047 2CO 010 008 蓋假令我等の権力、即ち主が汝等を破る為ならで立つる為に、我等に賜ひたる権力に就きて愈誇るとも、我は赤面せざるべし。 047 2CO 010 009 但我書簡を以て汝等を威すと思はれざらん為、 047 2CO 010 010 ――即ち彼等は云ふ、其書簡こそ厳しく且強けれ、面前には身は弱く談話は拙しと、―― 047 2CO 010 011 斯の如き人は我等が居らざる時書簡によりて語るが如く、居る時も亦實際に然りと覚悟せざるべからず。 047 2CO 010 012 蓋己を立つる人々には、我等身を並べ又は比ぶる事を敢てせず、彼等は己を以て己を度り、己に己を比べて悟らざる者なり。 047 2CO 010 013 我等は度外に誇らず、神の我等に度りて賜ひたる分界の度によりて誇る、其度は汝等にまで及べる事即ち是なり。 047 2CO 010 014 其は汝等まで届かざるものの如く、度を超えて身を延ばしたるに非ずして、實にキリストの福音を以て汝等に及びたればなり。 047 2CO 010 015 我等は他人の働を以て度外に誇らず、唯汝等が信仰の彌増すに随ひて、己が分界に應じて汝等の中に益大いならん事を希望し、 047 2CO 010 016 又既に準備せられたる他人の分界に誇らずして、尚汝等を踰えて他にも福音を宣べん事を希望す。 047 2CO 010 017 誇る人は宜しく主によりて誇るべし、 047 2CO 010 018 其は可とせらるる者は、己を立つる人に非ずして、主の立て給ふ所の人なればなり。 047 2CO 011 001 第二項 パウロ己を僞教師に比較す 冀はくは汝等我が愚なる所を聊容赦せん事を、又我をも容赦せよ。 047 2CO 011 002 其は我神の如き妬を以て汝等の為に奮發し、汝等を一人の夫に於る潔白なる少女としてキリストに婚約したればなり。 047 2CO 011 003 然れど我が恐るる所は、蛇の狡猾によりてエワの惑はされし如く、汝等の心損はれてキリストに對する質朴を失はん事是なり。 047 2CO 011 004 蓋人來りて、我等の宣べざりし他のキリストを宣べ、又は汝等曾て蒙らざりし他の霊、若くは曾て承容れざりし他の福音を受けんか、汝等能く之を容れん。 047 2CO 011 005 然れど我は何事に於ても彼大使徒等に劣らずと思ふ、 047 2CO 011 006 蓋談話には拙けれども學識は然らず、然れど萬事に於て汝等には顕然たり。 047 2CO 011 007 或は我、汝等を高めん為に自ら謙りて、報酬なくして神の福音を宣べたるが犯罪なりや、 047 2CO 011 008 我他の教會を剥取りて給金を受け、以て汝等の為に務め、 047 2CO 011 009 又汝等の中に在りて乏しかりしも誰をも煩はさず、マケドニアより來りし兄弟等は我が足らざるを補へり、斯の如く自ら注意して、萬事に於て汝等を煩はさじとしたるが、以後も亦注意せんとす。 047 2CO 011 010 我に在るキリストの眞理によりて誓ふ、此名誉はアカヤ地方に於て我に就きて毀はれざるべし、 047 2CO 011 011 是何故ぞ、我が汝等を愛せざる故なるか、神は知り給へり。 047 2CO 011 012 我が行ふ所は我尚之を行はんとす、是機會を求むる人々の機會を断ち、彼等をして自ら誇る所に就きて我等と同じからしめん為なり。 047 2CO 011 013 蓋斯る人々は僞使徒にして狡猾なる勞働者、身をキリストの使徒に装へる者なり。 047 2CO 011 014 是は珍しき事に非ず、サタンすら自ら光の使に己を装ふ者なれば、 047 2CO 011 015 其役者が亦義の役者の如く装ふは大事に非ず、彼等の終は其業に適ふべし。 047 2CO 011 016 我再び言はん、我も少しく誇るべければ、誰も我を愚なりとする事勿れ、然らずば愚として我を承容れよ。 047 2CO 011 017 此名誉の點に就きて我が語る所は、主に從ひて語るに非ず、愚なる者の如くにして語るなり。 047 2CO 011 018 多くの人は肉身上に誇る故に、我も亦誇らん。 047 2CO 011 019 蓋汝等は自ら智者なれば、喜びて愚者を忍ぶなり。 047 2CO 011 020 即ち人ありて汝等を奴隷とするも、喰盡すも、掠むるも、驕るも、汝等の面を打つも、汝等は之を忍ぶ。 047 2CO 011 021 耻しながら我は言ふ、我等は此點に就きて弱き者の如くなりき。愚にも言はん、人の敢て憶せざる所は我もあえて憶せず。 047 2CO 011 022 彼等ヘブレオ人なるか、我も亦然り、彼等イスラエル人なるか、我も亦然り、彼等アブラハムの裔なるか、我も亦然り、 047 2CO 011 023 彼等キリストの役者なるか、我狂へるが如くに云はん、我は尚然り。我働は尚夥しく、監獄に入りし事は尚多く、傷けられし事は無量にして、死に遇へる事は屡なりき。 047 2CO 011 024 ユデア人より四十に一足らず打擲せられし事五度、 047 2CO 011 025 笞刑を受けし事三度、石を擲たれし事一度、破船に遇ひし事三度にして、一晝夜の間海中に在りき。 047 2CO 011 026 數次旅行して、河の難、盗賊の難、邦人よりの難、異邦人よりの難、都會に於る難、僻地に於る難、海上の難、僞兄弟よりの難に遇ひ、 047 2CO 011 027 勞働し且悩み、數次夜眠らず、飢渇き、断食する事度々にして凍え且裸なりき。 047 2CO 011 028 是等外部の事の外、亦日々差迫れる諸教會の憂あり、 047 2CO 011 029 弱れる者あるに我も弱らざらんや、躓く者あるに我も心燬けざらんや。 047 2CO 011 030 誇るべくんば我が弱點に就きて誇らん、 047 2CO 011 031 世々に祝せられ給ふ我主イエズス、キリストの神及び父は、我が僞らざる事を知り給ふ。 (aiōn g165) 047 2CO 011 032 ダマスコに於てアレタ王の下なる州長、我を捕へんとてダマスコ人の都會を守りしかば、 047 2CO 011 033 我は籠を以て窓より石垣傳ひに釣下され、然て其手を脱れたりき。 047 2CO 012 001 誇るべくんば、無益の事ながら、我は主の賜ひし幻影と黙示とに及ばん。 047 2CO 012 002 我はキリストに在る一人の人を知れり、彼は十四年前、――肉體に在りてか肉體の外に在りてか、其は我が知る所に非ず、神ぞ知しめす、――第三天まで上げられしなり。 047 2CO 012 003 我は又知れり。この人は ――肉體に在りてか肉體の外に在りてか其は我が知る所に非ず、神ぞ知しめす、 047 2CO 012 004 ――樂土に取挙げられて、得も言はず人の語るべからざる言を聞きしなり。 047 2CO 012 005 我は斯る人の為に誇らんとすれども、我為には我弱點の外誇る事を為じ。 047 2CO 012 006 蓋誇らんとすとも愚なるべきには非ず、眞を語らんとすればなり。然れど人の我に見る所、或は我より聞く所に過ぎて我を重んずる事なからん為に我は罷めん。 047 2CO 012 007 然て我が蒙りたる黙示の偉大なるにより、我をして驕らざらしめん為に、肉身に一の刺、即ち我を打つべきサタンの使を與へられたり。 047 2CO 012 008 是に於て其の我身より去らん事を三度まで主に求め奉りしに、 047 2CO 012 009 曰へらく、汝には我恩寵にて足れり、其は力は弱き中に於て全うせらるればなり、と。然ればキリストの能力の我に宿らん為に、寧喜びて我弱點によりて誇らん。 047 2CO 012 010 故に我はキリストの為、我弱點に、耻辱に、缺乏に、迫害に、患難に安んず、弱き時に於てこそ強ければなり。 047 2CO 012 011 我は愚になれり、汝等に強ひられてなり。蓋汝等より引立てらるる筈なりき、其は我取るに足らざる者なりと雖も、何事も彼無上の大使徒に劣らざればなり。 047 2CO 012 012 我が使徒たるの證據は、凡ての忍耐と徴と奇蹟と不思議とによりて、汝等の上に成立てり。 047 2CO 012 013 抑汝等が他の諸教會より少く得たりしは何ぞ、或は我が汝等を煩はさざりし事なるか、請ふ此不義を我に許せ。 047 2CO 012 014 今や三度目に汝等に至として支度せしが、尚汝等を煩はさじ、是我が求むる所は汝等にして、汝等の所有物に非ざればなり。即ち子等は親の為に貯蓄すべきに非ず、親こそ子等の為に之を行ふべきなれば、假令汝等多く愛して、少く愛せらるる事ありとも、 047 2CO 012 015 我は最も喜びて汝等の魂の為に盡し、又己をも盡さん。 047 2CO 012 016 縦我汝等を煩はさざりしも、狡猾にして汝等を籠絡せりとせんか、 047 2CO 012 017 然れど我が汝等に遣はしし人々の中、誰を以て汝等を籠絡せしぞ。 047 2CO 012 018 チトに頼み、彼と共に又一人の兄弟を遣はししが、チトは汝等を籠絡せしか、我等は同一の精神を以て同一の足跡を歩みしに非ずや。 047 2CO 012 019 結末 汝等は豫て、我等汝等に對して弁解すと思へり、我等は神の御前にキリストに在りて語るなり。我至愛なる者よ、萬事は汝等の徳を立てんが為なるぞ。 047 2CO 012 020 然れど我恐くは、或は至りて汝等を見んに、我が思へる如くならず、又汝等が我を見んにも、思へるが如くならざらんか、或は汝等の間に闘争、嫉妬、怨恨、争論、誹謗、呟言、驕慢、擾亂あらんか、 047 2CO 012 021 又或は我が至らん時、我神我を耻しめ給ひて、多くの人曾て罪を犯したるに、其の行ひし不潔と私通と甚しき罪とを悔改めざるを我が歎く事あらんか。 047 2CO 013 001 今や我三度汝等に至とす、二三の證人の口に由りて、凡ての事決せらるべし。 047 2CO 013 002 既に告げし事ながら、今我其處に居らざれども居ると等しく、前に罪を犯しし人々及び他の凡ての人にも告ぐ、我再び至らば決して恕さじ。 047 2CO 013 003 汝等キリストの我に於て語り給ふ證據を求めんとすれば、キリストは汝等に向ひて弱く在さず、汝等の中に大いに能力あり。 047 2CO 013 004 蓋弱きによりて十字架に釘けられ給ひしかど、神の力によりて活き給へばなり。即ち我等も彼に於て弱しと雖も、神の力によりて彼と共に汝等の中に活きんとす、 047 2CO 013 005 汝等信仰に在るや否やを、自ら試み自ら證せよ、汝等の中にキリストの在す事を自ら知らざるか、或は非認せられたる者なるか、 047 2CO 013 006 我は我等の非認せられたる者に非ざるを汝等の知らん事を希望す。 047 2CO 013 007 我等が神に祈るは、汝等の豪も惡を為さざらん事是なり。是我等の是認せられたる事の顕れん為に非ずして、假令我等は非認せらるとも、汝等が善事を行はん為なり。 047 2CO 013 008 蓋我等は眞理の為に力あり、之に背きては何事も能はざればなり。 047 2CO 013 009 我は我等の弱く汝等の強きを喜ぶ、又我が祈る所は汝等の改善なり。 047 2CO 013 010 不在にして是等の事を書贈るは我が至らん時、亡ぼさん為ならで立てん為に主より賜りたる権力を以て、餘りに厳しくせざらんとてなり。 047 2CO 013 011 其外兄弟等よ、汝等喜び且完全にして、相慰め、心を同うして平和を保て、然らば平和と愛との神は汝等と共に在さん。 047 2CO 013 012 聖なる接吻を以て互に宜しく言へ、聖徒等皆汝等に宜しくと言へり。 047 2CO 013 013 願はくは我主イエズス、キリストの恩寵と、神の寵愛と、聖霊の交際と、汝等一同と共に在らん事を、アメン。 # # BOOK 048 GAL Galatians ガラテヤ人への手紙 048 GAL 001 001 人よりに非ず、人によるにも非ず、イエズス、キリストと、之を死者の中より復活せしめ給ひし父にて在す神とによりて使徒たるパウロ、 048 GAL 001 002 並に我と共に在る兄弟一同、ガラチアの諸教會に[書簡を贈る]。 048 GAL 001 003 願はくは父にて在す神、及び我主イエズス、キリストより、恩寵と平安とを汝等に賜はらん事を。 048 GAL 001 004 此キリストは即ち我父にて在す神の思召によりて、我等を此惡き世より救出さんとて、我等の罪の為に己を献げ給ひし者なれば、 (aiōn g165) 048 GAL 001 005 之に世々光榮あれかし、アメン。 (aiōn g165) 048 GAL 001 006 我は汝等がキリストの恩寵を以て己を召し給ひし者を遠ざかりて、斯も速に異なる福音に移れるを怪しむ。 048 GAL 001 007 是異なる福音あるに非ず、唯或人々が汝等を擾して、キリストの福音を翻さんとするなり。 048 GAL 001 008 然れど我等にまれ、天よりの使にまれ、我等が汝等に宣べし所に反して福音を宣ぶるならば、詛はれよかし。 048 GAL 001 009 我等曩に言ひしが今又重ねて言ふ、汝等が受けし所に反して福音を宣ぶる者あらば詛はれよかし。 048 GAL 001 010 蓋今我人の心を獲んとするか、将神の御意を獲んとするか、人の心に適はんと力むるか、我尚人の心に適はばキリストの僕に非ざるべし。 048 GAL 001 011 第一項 パウロの使徒たる事と其教とは神より出づ 第一編 パウロ自己に就きての弁駁 蓋兄弟等よ、汝等に告知らせん、我が宣べし福音は人によれるものに非ず、 048 GAL 001 012 即ち我人より之を受け之に學びたるに非ず、イエズス、キリストの黙示によれるなり。 048 GAL 001 013 蓋ユデア教に於る前の我行状如何は、汝等の聞きし所なり。即ち我は神の教會を甚だしく迫害して之を荒し、 048 GAL 001 014 我族中なる同年輩の人々に優りてユデア教に進み、我先祖の傳の為に一層熱中して奮發し居たりしなり。 048 GAL 001 015 然るに母の胎内より選みて、其恩寵を以て我を召し給へる者は、 048 GAL 001 016 我をして其福音を異邦人の中に宣べしめんとて、御子を我心に顕はし給ふことの御意に適ひしかば、其時我直に血肉に謀らず、 048 GAL 001 017 又エルザレム即ち我先輩なる使徒等の許にも往かず、アラビアに至り、復ダマスコに歸れり。 048 GAL 001 018 然て三年を経てペトロを訪問せんとてエルザレムに至り、十五日の間彼が家に留りしも、 048 GAL 001 019 他の使徒等には、主の兄弟ヤコボの外誰にも遇はざりき。 048 GAL 001 020 我が汝等に書遣る事は神の御前にて僞なし。 048 GAL 001 021 其後我シリア及びシリシア地方に至りしが、 048 GAL 001 022 キリストに在るユデアの諸教會は我面を知らず、 048 GAL 001 023 唯曾て我等を迫害しつつありし人、今や己が曩に亡ぼさんとしたりし信仰を宣傳ふと聞き、 048 GAL 001 024 我に就きて光榮を神に歸し奉りつつありき。 048 GAL 002 001 第二項 パウロの使徒職はペトロ及び使徒等に認められたり 其後十四年を経て、バルナバと共にチトをも携へて、再びエルザレムに上りしが、 048 GAL 002 002 是神託によりて上りしなり。斯て我が異邦人の中に宣ぶる福音を彼等、殊に著しき人々に告知らせたり、是萬一にも走る事、又曾て走りし事の空しくならざらん為なりき。 048 GAL 002 003 然るに、我と共に在りしチトすら、原異邦人なるも割禮を受くる事を強ひられず、 048 GAL 002 004 唯潜入りたる僞兄弟ありて、我等がキリスト、イエズスに於て有てる自由を探り、我等を奴隷たらしめんとして入來りたれど、 048 GAL 002 005 我等は片時も譲らず、彼等に服せざりき、是福音の眞理を汝等の中に存せしめん為なり。 048 GAL 002 006 殊更著しき人々に至りては、――其曾て何物たりしかは我関せず、神は人につきて偏り給ふ事なし、――其著しき人々は何事をも我に加へざりき。 048 GAL 002 007 却て割禮ある人々に福音を宣ぶる事のペトロに委ねられたる如く、割禮なき人々に宣ぶる事の我に委ねられたるを見しかば、 048 GAL 002 008 ――其はペトロに割禮ある人々の使徒となる力を賜ひし者は、我にも異邦人の中に於て力を賜ひたればなり、―― 048 GAL 002 009 柱とも見えたるヤコボとケファとヨハネとは、我に賜はりたる恩寵を辨へて、一致の印として右の手を我とバルナバとに與へたり。是我等は異邦人に至り、彼等は割禮ある人々に至らん為なり。 048 GAL 002 010 唯彼等の願ふ所は、我等が貧者を顧みん事なりしが、我も心懸けて之を行へり。 048 GAL 002 011 然れどもケファアンチオキアに來りし時、咎むべき事ありしかば、我は面前之に反對せり。 048 GAL 002 012 其は、或人々のヤコボの許より來る迄は、彼異邦人と共に食し居たれど、彼等來りしかばケファは割禮ある人々に憚り、扣へて異邦人を離れ居たればなり。 048 GAL 002 013 他のユデア人此匿行に同意せしかば、バルナバも亦彼等より其匿行に誘はるるに至れり。 048 GAL 002 014 斯て彼等が福音の眞理に從ひて正しく歩まざるを見て、我一同の前にてケファに謂へらく、汝ユデア人にてありながら、ユデア人の如くにせず、異邦人の如く行へるに、何ぞ異邦人を強ひてユデア人の習慣に從はせんとはする。 048 GAL 002 015 我等は生來ユデア人にして、異邦人より出でし罪人には非ず、 048 GAL 002 016 然りながら人の義とせらるるは、律法の業に由らずして、唯イエズス、キリストに於る信仰に由るを知るが故に、我等も律法の業に由らず、キリストに於る信仰に由りて義とせられん為に、キリスト、イエズスを信ずるなり、其は何人も律法の業に由りて義とせられざればなり。 048 GAL 002 017 若キリストに於て義とせられん事を力めて、尚罪人とせられなばキリストは罪の役者なるか、否々。 048 GAL 002 018 若我既に毀ちたるものを再び建つれば、自ら僞譎者となるなり。 048 GAL 002 019 然れば我は神に活きん為に律法を以て律法に死し、 048 GAL 002 020 キリストと共に十字架に釘けられたるなり。夫我は活くと雖も、最早我に非ず、キリストこそ我に於て活き給ふなれ。我肉體に活くと雖も、我を愛して我為に己を付し給ひし神の御子の信仰に於て活くるなり。 048 GAL 002 021 我神の恩寵を棄つるに非ず、若義とせらるる事律法に由らば、キリストは徒に死し給ひしなり。 048 GAL 003 001 第一項 律法にて詛はれ、信仰にて祝福を得。 愚かなる哉ガラチア人よ、十字架に釘けられ給ひしイエズス、キリスト、汝等の目前に書かれ給ひたるに、誰か汝等を蕩して眞理に背かしめしぞ、 048 GAL 003 002 我は唯此事を聞かんと欲す、汝等が聖霊を蒙りしは律法の業によるか、信仰に從ひしによるか。 048 GAL 003 003 汝等聖霊を以て始りしものを、今は肉を以て終る迄に愚なるか。 048 GAL 003 004 夥しく苦しみしは無益とならんか、否無益に非ざれかし。 048 GAL 003 005 然れば汝等に[聖]霊を賜ひて、汝等の中に奇蹟を行ひ給へる者の斯く為し給ふは律法の業によるか、信仰に從ひしによるか、 048 GAL 003 006 録して、「アブラハム神を信ぜり、而して此事義として之に歸せられたり」とあるが如し。 048 GAL 003 007 故に信仰に由る人々は、是アブラハムの子等なりと知れ。 048 GAL 003 008 斯て聖書は、神が信仰に由りて異邦人を義とし給ふ事を豫め知りて、曾てアブラハムに福音を告げて曰く、「萬民汝に於て祝せられん」と。 048 GAL 003 009 然れば信仰に由る人々は、忠實なるアブラハムと共に祝せらるべきなり。 048 GAL 003 010 凡律法の業に由る人々は詛の下に在り、其は録して、「総て律法の書に録されたる事を悉く守らんとして、之に止らざる人は詛はるべし」、とあればなり。 048 GAL 003 011 抑人が律法によりて神の御前に義とせられざる事は、「義人は信仰によりて活く」、とあるを以て明なり。 048 GAL 003 012 律法は信仰によるに非ずして、「掟を行ふ人は之によりて活きん」、とあり。 048 GAL 003 013 録して、「総て木に吊さるる人は詛はれたるなり」、とあれば、キリストは我等の為に詛はれたる者となりて、律法の詛より我等を贖ひ給ひしなり。 048 GAL 003 014 是アブラハムの祝福がキリスト、イエズスによりて異邦人に及ぼされ、約束せられ給ひし聖霊を信仰によりて我等が受けん為なり。 048 GAL 003 015 第二項 律法の下に在りては未丁年者なるに、信仰及びキリスト教の下に在りては、丁年者となる 兄弟等よ、我人の言ふが如くに言へば、人の公正なる遺書は廃する人なく書加ふる人なし。 048 GAL 003 016 アブラハムと其裔とに約束せられし時、多くの人を斥すが如く裔[等]とは曰はずして、一人を斥して汝の裔と曰へり、これ即ちキリストなり。 048 GAL 003 017 然て我は言はん、神の既に固め給ひし契約をば、其より四百三十年の後に與へられし律法が、約束を空しからしめんとて廃したるに非ず。 048 GAL 003 018 蓋世継若律法に由らば、是既に約束に由らざるなり。然れど神は約束を以て、之をアブラハムに賜ひたるなり。 048 GAL 003 019 然らば律法は何ぞや、是約束せられし裔の來る迄の間、犯則の為に置かれしものにして、仲裁者の手を経て天使等によりて布告せられたるものなり。 048 GAL 003 020 然て仲裁者は一方のものに非ざるに、神は唯一にて在す。 048 GAL 003 021 然れば律法は神の約束に反するか、否々、蓋若人を能く活かすべき律法を與へられたらんには、義は實に律法により出づべし 048 GAL 003 022 と雖も、聖書は萬物を罪の下に閉籠たり。是約束はイエズス、キリストに於る信仰に由りて、信ずる人に與へられん為なり。 048 GAL 003 023 信仰の來る前には、我等は律法の下に閉籠められて、顕れんとする信仰の來るまで衛られつつありき。 048 GAL 003 024 然れば我等が信仰に由りて義とせられん為に、律法は我等をキリストに導く指導者となれり。 048 GAL 003 025 然れど信仰既に來りては、我等は最早指導者の下に在らず、 048 GAL 003 026 其は汝等、キリスト、イエズスに於る信仰に由りて、皆神の子等なればなり。 048 GAL 003 027 即ちキリストに由りて洗せられたる汝等は、悉くキリストを着せるなり。 048 GAL 003 028 斯てユデア人もなくギリシア人もなく、奴隷も自由の身もなく、男も女もなし、其は汝等キリスト、イエズスに於て皆一人なればなり。 048 GAL 003 029 汝等若キリストのものならば、是アブラハムの裔なり、約束の儘なる世嗣なり。 048 GAL 004 001 第三項 律法の下には奴隷なれども、信仰によりては自由の身なり 然て我は言はん、世嗣は家督の主なりと雖も、小兒の間は奴隷と異なる事なく、 048 GAL 004 002 父の定めたる時までは、後見人及び治産者の下に在り。 048 GAL 004 003 斯の如く、我等も小兒の中は世の小學の下に事へつつありき。 048 GAL 004 004 然れど満期の時至りて、神は御子を女より生りたるもの、律法の下に生りたるものとして遣はし給へり。 048 GAL 004 005 是律法の下に在りし人々を贖ひ、我等をして子とせらるることを得しめ給はん為なり。 048 GAL 004 006 斯て汝等が子たるによりて、神は、アバ、父よ、と叫び給へる御子の霊を、汝等の心に遣はし給へり。 048 GAL 004 007 然れば最早奴隷に非ずして子たるなり、子たる上は又神によりて世嗣たるなり。 048 GAL 004 008 彼時には汝等神を知らず、生來神たらざるものに事へて奴隷たりき。 048 GAL 004 009 然れど今は既に神を識り、而も亦神に識られたるに、如何ぞ再び弱く乏しき小學に返りて、更に之に事へんとはする。 048 GAL 004 010 汝等は日と月と季節と年とを守る。 048 GAL 004 011 我汝等の為に氣遣ひ、或は汝等の中に働きし事の無益とならんことを恐る。 048 GAL 004 012 兄弟等よ、我も汝等の如くに成れば、希はくは汝等我が如くに成れ。汝等は曾て我を害せし事なし、 048 GAL 004 013 却て知れる如く、我が初め福音を汝等に述べし時、身體の虚弱を以てし、其身體汝等の試となれるを、 048 GAL 004 014 卑しむ事なく嫌ふ事もなくして、我を神の使の如く、キリスト、イエズスの如くにさへ承けたりき。 048 GAL 004 015 汝等の主張せし福何處にかある、我汝等の為に證明す、為し得べくんば汝等己が目をも抉りて我に與へしならん。 048 GAL 004 016 然れば我汝等に眞を語りて汝等の敵となりたるか、 048 GAL 004 017 彼人々は汝等の為に盡力すれども、是好意に非ず、己が為に盡力せしめんとて、汝等をして離れしめんと欲せるなり。 048 GAL 004 018 絶えず善事に就きて盡力せらるるは宜きことながら、我が汝等の中に在る時のみにては足らざるなり。 048 GAL 004 019 我が小子よ、汝等の中にキリストの形造られ給ふ迄は、我汝等の為に陣痛に遇へり。 048 GAL 004 020 望むらくは汝等の中に在りて聲音を變へん事を、其は汝等に就きて當惑すればなり。 048 GAL 004 021 律法の下に在らんと欲する者よ、我に語れ、汝等律法を聞きし事なきか、 048 GAL 004 022 蓋録して、アブラハムに二人の子ありしに、一人は奴隷の婦よりし、一人は自由の身なる婦よりせり、とあり。 048 GAL 004 023 奴隷の婦の子は肉に從ひて生れしに、自由の身なる婦の子は約束によりて生れたり。 048 GAL 004 024 是等の事の言はれしは前表にして、彼婦は兩約を斥す、一はシナイ山よりして子を奴隷に生む、之即ちアガルなり。 048 GAL 004 025 蓋シナイ山はアラビアに在りて、今のエルザレムに當り、其子等と共に奴隷なり。 048 GAL 004 026 然れど上なるエルザレムは自由の身にして、之ぞ我等の母なる。 048 GAL 004 027 蓋録して、「石女にして生まざる者よ、喜べ、産せざる者よ、聲を揚げて呼はれ、其は獨り殘されたる婦は、夫ある者よりも子多ければなり」、とあり。 048 GAL 004 028 兄弟等よ、我等はイザアクの如く約束の子なり、 048 GAL 004 029 然て彼時肉によりて生れたりし者が、霊によれる者を迫害したりし如く、今も尚然るなり。 048 GAL 004 030 然れど聖書は何とか言へる、「奴隷の婦と其子とを遂払へ、其は奴隷の婦の子は自由の身なる婦の子と共に世嗣たるべからざればなり」、とあり。 048 GAL 004 031 然れば兄弟等よ、我等は奴隷の婦の子に非ず、自由の身なる婦の子なり、キリストの我等を贖ひ給へるは自由の為なり。 048 GAL 005 001 第一項 自由を奴隷の身分に更ふべからず 毅然として再び奴隷の軛に制せらるること勿れ。 048 GAL 005 002 然て我パウロ汝等に断言す、若割禮を受けなば、キリストは聊も汝等に益あらざるべし。 048 GAL 005 003 我は又更に、総て割禮を受くる人に證明す、彼は悉く律法を守るべき負債あり。 048 GAL 005 004 律法によりて義とせられんとする人々よ、汝等はキリストを離れたるなり、恩寵より堕落せるなり。 048 GAL 005 005 我等は即ち[聖]霊を以て信仰に由りてこそ義の希望[する所]を待てるなれ。 048 GAL 005 006 蓋キリスト、イエズスに於て價値あるは割禮に非ず無割禮に非ず、愛を以て働く所の信仰是なり。 048 GAL 005 007 汝等は能く走り居たりしものを、誰か眞理に從はせじとて妨げしぞ、 048 GAL 005 008 斯る勧は汝等を召し給ふものより出でず、 048 GAL 005 009 少しの酵は麪の全體を腐敗せしむ、 048 GAL 005 010 我が汝等に就き主によりて希望する所は、汝等が別意なからん事是なり。然れど誰にもあれ汝等を擾す人は、其罪を負ふべし。 048 GAL 005 011 兄弟等よ、我もし尚割禮の事を宣傳ふるならば、何ぞ迫害を受けつつあらんや。果して然らば、十字架に躓く事は歇みたるならん。 048 GAL 005 012 願はくは汝等を惑はす人々の裁除かれん事を。 048 GAL 005 013 蓋兄弟等よ、汝等既に召されて自由を得たれば、其自由を肉の機會として與ふる事なく、(霊の)愛を以て互に事へよ。 048 GAL 005 014 其は、「汝近き者を己の如く愛すべし」、との一言に於て、律法は悉く全うせらるればなり。 048 GAL 005 015 然れど汝等もし互に相咬み相食まば、互に亡ぼされざる様用心せよ。 048 GAL 005 016 我は言はん、霊に從ひて歩め、然らば肉の慾を行ふまじ。 048 GAL 005 017 蓋肉の望む所は霊に反し、霊の望む所は肉に反す、其相戻るは汝等が欲する所を悉く為さざらん為なり。 048 GAL 005 018 汝等若霊に導かるれば、律法の下に在らず。 048 GAL 005 019 然て肉の業は顕なり、即ち私通、不潔、猥褻、邪淫、 048 GAL 005 020 偶像崇拝、魔術、怨恨、争闘、嫉妬、憤怒、喧嘩、擾亂、異説、 048 GAL 005 021 猜忌、殺人、酩酊、饕食等是なり。既に豫め汝等に告げし如く今も言ひ置く、斯る事を為す人は神の國を得ざるべし。 048 GAL 005 022 然るに霊の好果は、(愛)、喜、平安、堪忍、慈恵、善良、(忍耐)、 048 GAL 005 023 温良、眞實、謹慎、節制、貞操なり、斯るものに向ひては律法ある事なし。 048 GAL 005 024 夫キリストのものたる人々は、己が肉身を其惡徳及び諸慾と共に十字架に釘けたるなり。 048 GAL 005 025 我等若霊によりて活きなば、又霊によりて歩むべし。 048 GAL 005 026 虚榮を好みて相挑み相猜む者と成ること勿れ。 048 GAL 006 001 第二項 特別の勧告 兄弟等よ、人若誘はれて過つ事ありとも、汝等は霊に導かるる者なれば、己も亦誘はるる事あるべきを省みて、柔和なる精神を以て之を改善せしめよ。 048 GAL 006 002 汝等は互の荷を負へ、然らばキリストの律法を全うすべし。 048 GAL 006 003 蓋人何者にも非ざるに、何者かなりと思ふは自ら欺くなり。 048 GAL 006 004 各己が行状を試し見よ、然らば他人に對して誇らず、己のみによりて誇るならん、 048 GAL 006 005 其は人各己が荷を負ふべければなり。 048 GAL 006 006 教を學ぶ人は、學ばしむる人に一切の所有物の内を分與へよ。 048 GAL 006 007 自ら欺く勿れ、神は侮られ給ふものに非ず、人は其撒きし所を刈取らん、 048 GAL 006 008 即ち己が肉の為に蒔く人は、又肉より腐敗を刈取り、霊の為に撒く人は、又霊より永遠の生命を刈取らん。 (aiōnios g166) 048 GAL 006 009 我等は善を為すに倦むべからず、其は時機至らば、倦まずして刈取るべければなり。 048 GAL 006 010 然れば暇ある間は、我等は衆人特に信仰の家人に善を為すべし。 048 GAL 006 011 結末 看よ、我手づから如何なる大字にて汝等に書贈れるかを。 048 GAL 006 012 凡肉に於て人心を獲んと欲する人は、強ひて汝等に割禮を受けしむ、是唯キリストの十字架によりて迫害を受けざらん為のみ。 048 GAL 006 013 斯く割禮を受くる人々が、自ら律法を守らずして汝等に割禮を受けしめんとするは、汝等の肉身に就きて誇らん為なり。 048 GAL 006 014 我は我主イエズス、キリストの十字架に於ての外は決して誇る事なかるべし。彼を以て世は我に取りて十字架に釘けられたるものにして、我が世に於るも亦然り。 048 GAL 006 015 蓋キリスト、イエズスに於て價値あるは、割禮に非ず無割禮に非ず、新なる被造物なり。 048 GAL 006 016 誰にもあれ、此法に從へる人々の上に、冀はくは平安と慈悲とあれかし、神のイスラエルの上にも亦然あれかし。 048 GAL 006 017 今より後誰も我を煩はすべからず、其は我主イエズスの傷痕を身に負へばなり。 048 GAL 006 018 兄弟等よ、願はくは我主イエズス、キリストの恩寵、汝等の霊と共に在らん事を、アメン。 # # BOOK 049 EPH Ephesians エペソ人への手紙 049 EPH 001 001 神の思召によりてイエズス、キリストの使徒たるパウロ、エフェゾに在る(凡ての)聖徒、並にキリスト、イエズスに於る信徒に[書簡を贈る]。 049 EPH 001 002 願はくは我父にて在す神及び主イエズス、キリストより、恩寵と平安とを汝等に賜はらん事を。 049 EPH 001 003 第一項 エフェゾ信徒の為に感謝し祈祷す 第一編 聖會の比なき光榮 祝すべき哉、我主イエズス、キリストの神及び父、是はキリストに於て諸の霊的祝福を以て我等を天より祝し給ひ、 049 EPH 001 004 御前に於て聖にして汚なき者たらしめんとて、寵愛を以て、世界開闢以前よりキリストによりて選み給ひ、 049 EPH 001 005 思召のまにまに、イエズス、キリストを以て己が子とならしめん事を預定し給ひたればなり。 049 EPH 001 006 是最愛なる御子に於て我等に賜ひし榮光ある恩寵の誉の為なり。 049 EPH 001 007 我等が贖を得、罪の赦を得るは、キリストに在りて其御血によれり、即ち神の豊なる恩寵に由れるなり。 049 EPH 001 008 其恩寵我等に溢れて、諸の智恵及び悟を開けり、 049 EPH 001 009 是御旨に從ひて、キリストを以て預定し給ひし思召の奥義を、我等に諭し給はん為なり。 049 EPH 001 010 此思召は、時期の満つるに及びて一切のもの、即ち天に在るものをも地に在るものをも悉くキリストに於て一の首の下に輯め給ふに在り。 049 EPH 001 011 我等もキリストに於て選まれ、思召す儘に萬事を行ひ給ふものの量に從ひて預定せられたり、 049 EPH 001 012 是先んじてキリストを希望せし我等が、其光榮の誉とならん為なり。 049 EPH 001 013 汝等も亦キリストに於て、眞理の言なる汝等の救霊の福音を聞き、且之を信じて約束せられ給ひたりし聖霊を以て證印せられしが、 049 EPH 001 014 之汝等の世嗣の保證として、獲られたる人々の贖となり、其光榮の誉と成らん為に賜はりたるなり。 049 EPH 001 015 故に我も、主イエズスに於る汝等の信仰と、凡ての聖徒に對する愛情とを聞きて、 049 EPH 001 016 不絶汝等の為に感謝し、我祈祷の中に汝等を記念す。 049 EPH 001 017 祈る所は我主イエズス、キリストの神、光榮の父が、汝等に知識と黙示との霊を賜ひて神を識らしめ、 049 EPH 001 018 汝等の心の眼を明にして、其召によれる希望の如何を識らしめ、聖徒等に賜ふべき世嗣の光榮富の如何を識らしめ 049 EPH 001 019 其全能の勢力の作為によりて、信奉る我等に於て、其勢力の如何に優れて偉大なるかを識らしめ給はん事是なり。 049 EPH 001 020 其勢力をキリストに於て顕し、之を死者の中より復活せしめ、天に於て之を己の右に置き、 049 EPH 001 021 一切の権勢と能力と、勢力と主権との上、又凡て今世のみならず來世にも名けられて名[あるもの]の上に置き給ひ、 (aiōn g165) 049 EPH 001 022 萬物を其御足の下に服せしめ、教會の萬事の上に頭となし給へり。 049 EPH 001 023 即ち教會はキリストの御體にして、萬物に萬事を満たし給へるものの充満ち給ふ所なり。 049 EPH 002 001 第二項 神が教會を建て給ひし方法 汝等は原己が過と罪とによりて死したる者なりしが、 049 EPH 002 002 曾て此世間に從ひ、又空中の権を有して今も尚不信の子等の中に働ける、霊の君に從ひて歩めり。 (aiōn g165) 049 EPH 002 003 我等も皆曾て其罪の中に在りて、我肉身の慾の儘に生活し、肉と心との欲する所を行ひて、他の人々の如く、生來怒の子なりき。 049 EPH 002 004 然れども慈悲に富み給へる神は、我等を愛し給ひて御寵愛の餘り、 049 EPH 002 005 罪の為に死せし我等をキリストと共に活かし給ひ――汝等の救はれしも即ち恩寵によれり、―― 049 EPH 002 006 又共に復活せしめ、キリスト、イエズスに於て共に天に坐せしめ給へり。 049 EPH 002 007 是キリスト、イエズスに於る其善良を以て、我等の上に於る恩寵の非常なる富を、将來の世々に顕し給はん為なり。 (aiōn g165) 049 EPH 002 008 蓋汝等が信仰を以て救はれたるは、恩寵に由るものにして自らに由るに非ず、即ち神の賜なり。 049 EPH 002 009 又業に由るにも非ず、是誇る人のなからん為なり。 049 EPH 002 010 其は我等は神の作品にして、神の豫め備へ給ひし善業の為に之に歩む様、キリスト、イエズスに於て[新に]造られたる者なればなり。 049 EPH 002 011 然れば原肉體に於て異邦人にして、所謂割禮を人の手によりて身に受けたる人々より、今も尚無割禮と稱へらるる汝等、次の事を記憶せよ。 049 EPH 002 012 即ち彼時には、汝等キリストなくして、イスラエルの國籍外に置かれ、彼約束を結びたる諸契約に與らず、希望なく、此世に神なき者たりしに、 049 EPH 002 013 今はキリスト、イエズスに在りて、前に遠かりし汝等、キリストの御血を以て近き者となれり。 049 EPH 002 014 蓋イエズスは我等の平和にて在す、即ち兩方を一にし、隔の中垣及び恨を、己が肉體に於て解き、 049 EPH 002 015 種々の掟ある律法を、其命ずる所と共に廃し給へり。是平和を成して兩方の人々を己に於る一人の新しき人に造らん為、 049 EPH 002 016 又[神]に對する恨を十字架の上に殺し、其十字架を以て兩方の人々を一體と成し、神と和がしめ給はん為なり。 049 EPH 002 017 又來りて、遠かりし汝等にも幸に平和を告げ、近かりし人々にも平和を告げ給へり。 049 EPH 002 018 蓋キリストによりてこそ、我等兩方の人々は、同一の霊を以て父に近づき奉ることを得るなれ。 049 EPH 002 019 然れば、汝等は最早他所人寄留人に非ず、聖徒等と同國民となりて神の家人なり。 049 EPH 002 020 使徒と預言者との基礎の上に建てられ、其隅石は即ちキリスト、イエズスに在して、 049 EPH 002 021 全體の建物は之に建築せられ、漸次に築上げられて、主に於て一の聖なる神殿となり、 049 EPH 002 022 汝等も之に於て、聖霊により、神の住處として共に建てらるるなり。 049 EPH 003 001 第三項 教會に於るパウロの聖役 是故に我パウロ、汝等異邦人の為にキリスト、イエズスの囚人たり。 049 EPH 003 002 但汝等の為に我に賜はりたる神の恩寵の分配の役をば、汝等は聞きしならん、 049 EPH 003 003 即ち曩に簡単に書示したる如く、此奥義は黙示を以て我に示されたるなり。 049 EPH 003 004 汝等は之を読みて、キリストの奥義に関する我が知識を覚るを得べし。 049 EPH 003 005 此奥義は、今聖霊によりて、聖なる使徒等、及び預言者等に示されしが如くには、前代に於て人の子等に知られざりき。 049 EPH 003 006 即ち異邦人が福音を以て、キリスト、イエズスに於て、共に世嗣となり、共に一體となり、共に神の約束に與る者となる事是なり。 049 EPH 003 007 我は其福音の役者とせられたり、是全能の勢力によりて我に賜はりたる神の恩寵の賜なり。 049 EPH 003 008 凡ての聖徒の中に於て、最も小き者よりも小き我に、キリストの究め難き富の福音を、異邦人に告ぐる恩寵を賜はれり。 049 EPH 003 009 是萬物を創造し給ひたる神に於て、世の初より隠れたりし奥義の度の如何を、衆人に説明す恩寵にして、 (aiōn g165) 049 EPH 003 010 神の多方面なる智恵が、教會を以て、天に於る権勢及び能力[者]等に知られん為、 049 EPH 003 011 我主イエズス、キリストに於て全うし給へる、世々の預定に應ぜん為なり。 (aiōn g165) 049 EPH 003 012 我等は彼に於る信仰によりて憚らざる事を得、希望を以て神に近づき奉る事を得。 049 EPH 003 013 然れば希はくは、我が汝等の為に受くる患難に就きて、汝等の落胆せざらん事を。此患難こそ汝等の光榮なれ。 049 EPH 003 014 我之が為に我主イエズス、キリストの父、 049 EPH 003 015 即ち天にも地にも諸属の因て以て名けらるる所の父の御前に跪き、 049 EPH 003 016 汝等が其光榮の富に從ひ、其霊により、能力を以て内面の人として堅固にせられん事、 049 EPH 003 017 又信仰によりてキリストの汝等に宿り給はん事を希ひ奉る。是汝等は、愛に根ざし且基きて、 049 EPH 003 018 凡ての聖徒と共に、広さ長さ高さ深さの如何を識り、 049 EPH 003 019 又一切の知識を超絶せるキリストの寵愛を識ることを得て、総て神に充満てるものに汝等の満たされん為なり。 049 EPH 003 020 願はくは我等の中に働ける能力によりて、我等の願ふ所又知る所を超えて、尚豊に萬事を為し得給へるものに、 049 EPH 003 021 教會及びキリスト、イエズスに於て、永遠の世に至るまで光榮あらん事を、アメン。 (aiōn g165) 049 EPH 004 001 第一項 教會一致の必要 然れば主に在りて囚人たる我、汝等に希ふ、汝等召されたる所の召に相應しく、 049 EPH 004 002 凡ての謙遜と温良とを以て歩み、忍耐して愛を以て相忍び、 049 EPH 004 003 平和の繋にて精神の一致を保つ様注意せよ。 049 EPH 004 004 體は一、精神は一、猶汝等が召されたる其召の希望の一なるが如し。 049 EPH 004 005 主は一、信仰は一、洗禮は一、 049 EPH 004 006 一同の上に在し一同を貫き、一同の中に住み給へる一同の神及び父は一のみ。 049 EPH 004 007 然るに我等面々に賜はりたる恩寵は、キリストの賜ひたる量に應ず、 049 EPH 004 008 此故に[聖霊に]曰く、「上に昇りて俘を伴ひ行き、人々に賜を與へ給へり」と。 049 EPH 004 009 抑昇り給ひしは、前に地の低き處まで降り給ひし故に非ずして何ぞや。 049 EPH 004 010 降り給ひしものは、亦萬物に充満たんとて、諸の天の上に昇り給ひしものなり。 049 EPH 004 011 又或人々を使徒とし、或人々を預言者とし、或人々を福音者とし、或人々を牧師及び教師として與へ給へり。 049 EPH 004 012 是聖徒等の全うせられ、聖役の営まれ、キリストの御體の成立たん為めなり。 049 EPH 004 013 即ち我等が悉く、信仰と神の御子を識る知識との一致に至りて完全なる人となり、キリストの全き成長の量に至らん為にして、 049 EPH 004 014 我等は最早小兒たらず、漂はさるる事なく、人の僞と誤謬の巧なる誘惑との為に、敦の教の風にも吹廻されず、 049 EPH 004 015 眞理に在りて、愛により萬事に就て頭に在す者即ちキリストに於て成長せん為なり。 049 EPH 004 016 彼によりてこそ體全體に固り且整ひ、各四肢の分量に應ずる働に從ひて、凡ての関節の助を以て相聨り、自ら成長し、愛によりて成立つに至るなれ。 049 EPH 004 017 第二項 キリスト教の聖徳は異教人の惡徳に反す 故に我之を言ひ、且主に於て希ふ、汝等最早異邦人の如く歩むこと勿れ、彼等は己が精神の空しきに任せて歩み、 049 EPH 004 018 智恵を暗まされ、身に有てる不知の為に、其心の頑固によりて神の生命より遠ざかり、 049 EPH 004 019 感ずる事なく、放蕩に、所有る淫亂の業に、貪欲に、己を委ねたるなり。 049 EPH 004 020 然れど汝等がキリストを學びしは斯の如き事に非ず、 049 EPH 004 021 若之に聴きて、眞理のイエズスに在るが儘に、彼に就きて學びしならば、 049 EPH 004 022 即ち以前の行状に就きては、迷の望に從ひて腐敗する舊き人を脱棄て、 049 EPH 004 023 精神の主義を一新し、 049 EPH 004 024 神に象りて眞理より出づる義と聖徳とに於て造られたる新しき人を着る事を學びしなり。 049 EPH 004 025 然れば汝等僞を棄てて、各近き人と共に眞を語れ、我等は互の肢なればなり。 049 EPH 004 026 汝等怒るとも罪を犯す事勿れ、汝等の怒の間に日没るべからず。 049 EPH 004 027 惡魔に機會を與ふる事勿れ、 049 EPH 004 028 盗める人は最早盗むべからず、寧困窮せる人々に物を施す事を得ん為に、働きて善き手業を為せ。 049 EPH 004 029 不潔なる談話は一切汝等の口より出すべからず、善きものならば聞く人々に恩寵を與へん為、要する人の徳を立つる様に之を為せ。 049 EPH 004 030 救の日を期して證印せられ奉りたる神の聖霊をして憂へしむる勿れ、 049 EPH 004 031 総て苦き事、怒、憤、叫、罵をば一切の惡心と共に汝等の中より取除け。 049 EPH 004 032 然て互に慈悲親切にして相恕す事、神もキリストに於て汝等を赦し給ひしが如くにせよ。 049 EPH 005 001 然れば汝等至愛なる小兒の如く神に倣う者となり、 049 EPH 005 002 又愛の中に歩みて、キリストも我等を愛し、我等の為に己を馨しき香の献物とし、犠牲として神に捧げ給ひしが如くにせよ。 049 EPH 005 003 私通及び凡ての淫亂貪欲は、其名すらも汝等の中に稱へらるべからざること、聖徒たる者に相應しかるべし。 049 EPH 005 004 或は汚行、愚なる談話、惡き戯言、是皆相應しからず、寧感謝すべきなり。 049 EPH 005 005 汝等覚りて知らざるべからず、凡ての私通者、淫亂者、貪欲者は、偶像を崇拝するに等しき者にして、キリスト及び神の國に於て世嗣たらざるなり。 049 EPH 005 006 誰も空言を以て汝等を欺くべからず、其は是等の事の為に、神御怒は不信の子等の上に降ればなり。 049 EPH 005 007 故に汝等彼等に與する事勿れ。 049 EPH 005 008 蓋汝等曾ては暗黒なりしかど、今は主に在りて光なり、光の子の如くに歩め。 049 EPH 005 009 光の結ぶ果は、凡ての慈愛と正義と眞實とに在り。 049 EPH 005 010 如何なる事の神の御意に適ふかを試し看よ。 049 EPH 005 011 且果を結ばざる暗黒の業に與する事なく、寧却て之を咎めよ。 049 EPH 005 012 蓋彼等の窃に行ふ所は、之を口にするすら耻なり。 049 EPH 005 013 凡ての咎むべき事は光によりて顕る、凡て顕るるは光なればなり。 049 EPH 005 014 是故に言へる事あり、「眠れる人よ起て、死者の中より立上れ、キリスト汝を照らし給はん」と。 049 EPH 005 015 然れば兄弟等よ、如何に慎みて歩むべきかに心せよ。愚者の如くにせず、 049 EPH 005 016 智者の如くに歩みて、日惡しければ良き機會を求めよ、 049 EPH 005 017 是故に神の御旨の如何を覚りて、思慮なき者と成る事勿れ。 049 EPH 005 018 又酒に酔ふ事勿れ、其中に淫亂あるなり。寧ろ(聖)霊に満たされて、 049 EPH 005 019 霊的の詩と讃美歌と歌とを以て語合ひ、又心の中に謳ひて主を讃美し奉り、 049 EPH 005 020 常に我主イエズス、キリストの御名を以て、萬事に就きて父にて在す神に感謝し、 049 EPH 005 021 キリストを畏れ奉りつつ互に歸服せよ。 049 EPH 005 022 第三項 家庭に於る信者の義務 妻たる者は己が夫に從ふ事、主に於るが如くにすべし、 049 EPH 005 023 其は夫が妻の頭たる事、キリストが教會の頭にして、自ら其體の救主に在せるが如くなればなり、 049 EPH 005 024 然れば教會のキリストに從ふが如く、妻も亦萬事夫に從ふべし。 049 EPH 005 025 夫たる者よ、汝等の妻を愛する事、キリストも教會を愛して、之が為に己を付し給ひしが如くにせよ、 049 EPH 005 026 己を付し給ひしは、(生命の)言により、水洗にて之を潔めて聖とならしめん為、 049 EPH 005 027 光榮ある教會、即ち染なく、皺なく、然る類の事もなき教會を、自ら己が為に備へて、之をして聖なるもの、汚なきものたらしめん為なり。 049 EPH 005 028 斯の如く、夫たるものも亦己が妻を我身として愛すべきなり、妻を愛する人は是己を愛する者なり。 049 EPH 005 029 蓋曾て如何なる人も、己が肉身を嫌ひし事なく、却て之を養ひ守る事、猶キリストが教會に為し給ひしが如し、 049 EPH 005 030 其は我等は其御體の肢にして、其肉より其骨より成りたればなり。 049 EPH 005 031 故に人は父母を措きて己が妻に添ひ、而して二人一體と成るべし、 049 EPH 005 032 是大いなる奥義なり、我はキリスト及び教會に就きて之を言ふ。 049 EPH 005 033 然れば汝等も各己が妻を己として愛し、又妻は夫を畏敬すべし。 049 EPH 006 001 子たる者よ、主に於て汝等の父母に從へ、蓋是正當の事なり。 049 EPH 006 002 「汝の父母を敬へ」とは、約束を附したる第一の掟にして、 049 EPH 006 003 即ち「汝が福を得て地上に長命ならん為」となり。 049 EPH 006 004 父たる者よ、汝等も其子等の怒を買ふ事なくして、主の規律と訓戒との中に之を育てよ。 049 EPH 006 005 奴隷たる者よ、キリストに從ふが如くに畏れ慄き、単純なる心を以て肉身上の主人に順へ。 049 EPH 006 006 人々の意に適はんとするが如くに目前のみにて事へず、キリストの奴隷として心より神の思召を為し、 049 EPH 006 007 事ふる事、人に於てせず主に於てするが如くに、快くせよ。 049 EPH 006 008 其は奴隷たると自由の身たるとを問はず、各自の為したる善は、何れも主より報いらるべしと知ればなり。 049 EPH 006 009 主人たる者よ、汝等も亦奴隷に對ひて為す事斯の如くにして、彼等に威嚇を加ふること勿れ、其は彼等と汝等との主天に在して、人に就きて偏り給ふ事なしと知ればなり。 049 EPH 006 010 第四項 信者は雄々しく信仰の為に戰ふべし 終に臨みて、兄弟等よ、汝等主に於て又其大能の勢力に於て氣力を得、 049 EPH 006 011 惡魔の計畧に勝つことを得ん為に、神の武具を身に着けよ。 049 EPH 006 012 其は我等の戰ふべきは血肉に對ひてには非ず、権勢及び能力、此暗黒の世の司等、天空の惡霊等に對ひてなればなり。 (aiōn g165) 049 EPH 006 013 然れば惡き日に抵抗し、萬事に成功して立つ事を得ん為に、神の武具を執れ。 049 EPH 006 014 然れば起て汝等、腰に眞實を帯し、身に正義の鎧を着け、 049 EPH 006 015 足に平和の福音に對する奮發を履き、 049 EPH 006 016 凡ての場合に於て惡魔の火箭を消すべき信仰の楯を執り、 049 EPH 006 017 救霊の兜と神の御言なる[聖]霊の剣を執り、 049 EPH 006 018 尚且凡て祈祷及び懇願を以て、何れの機會に於ても聖霊に由りて祈り、忍耐を以て聖徒一同の為に懇願する事に注意せよ。 049 EPH 006 019 又我為にも然なして、我は福音の奥義の為に鎖に繋がれたる使節なれば、憚らず口を開きて之を知らする様、言を賜はり、 049 EPH 006 020 之に就きて我が語るべき儘に敢て語る様に祈れ。 049 EPH 006 021 結末 我に関する事、我為す事を汝等も知らん為に、我至愛なる兄弟にして主の忠實なる役者たるチキコは、萬事を汝等に告ぐるならん。 049 EPH 006 022 我が彼を遣はししは之が為、即ち彼が我等に関する事を汝等に知らせて、汝等の心を慰めん為なり。 049 EPH 006 023 願はくは父にて在す神、及び主イエズス、キリストより、平安と愛と信仰とを兄弟等に賜はらん事を。 049 EPH 006 024 願はくは我主イエズス、キリストを變らず愛し奉る凡ての人に恩寵あらん事を、アメン。 # # BOOK 050 PHI Philippians ピリピ人への手紙 050 PHI 001 001 イエズス、キリストの僕たるパウロ及びチモテオ、総てフィリッピに於てキリスト、イエズスに在る聖徒、並に監督及び執事等に[書簡を贈る]。 050 PHI 001 002 願はくは我父にて在す神及び主イエズス、キリストより、恩寵と平安とを汝等に賜はらん事を。 050 PHI 001 003 我汝等を想起す毎に、我神に感謝し、 050 PHI 001 004 凡ての祈祷に於て常に汝等一同の為に喜びて懇願し奉る。 050 PHI 001 005 蓋汝等最初の日より今に至る迄、キリストの福音の為に協力したれば、 050 PHI 001 006 汝等の中に善業を肇め給ひし者の、キリスト、イエズスの日まで、之を全うし給はん事を信頼せり。 050 PHI 001 007 汝等一同に就きて我が斯く思へるは至當の事なり、其は汝等我心に在り、又我が縲絏の中に在るにも、福音を弁護して之を固むるにも、汝等皆我と共に恩寵に與ればなり。 050 PHI 001 008 蓋我が、キリストの腸を以て、如何許り汝等一同を戀慕ふかは、神我為に之を證し給ふ。 050 PHI 001 009 我が祈る所は、即ち汝等の愛が益智識と凡ての悟とに富み、 050 PHI 001 010 汝等が一層善き事を弁へて、キリストの日に至るまで潔く科なくして、 050 PHI 001 011 イエズス、キリストによりて、神の光榮と讃美との為に、義の好果に満たされん事是なり。 050 PHI 001 012 第一項 パウロ自身の音信 兄弟等よ、我汝等の知らん事を欲す、我身に関する事柄は、却て福音の裨益と成るに至りしことを。 050 PHI 001 013 即ち我が縲絏に遇へる事のキリストの為なるは、近衛兵の全営にも何處にも明に知られたり。 050 PHI 001 014 斯て兄弟中の多數は、我縲絏の故に主を頼み奉りて、一層憚らず神の御言を語るに至れり。 050 PHI 001 015 實は猜と争との為にキリストを宣ぶる者もあれど、好意を以てする者もあり、 050 PHI 001 016 又福音を守護せん為に我が置かれたるを知りて、愛情よりする人もあれば、 050 PHI 001 017 眞心を有たず、縲絏に於る我困難を増さん事を思ひ、党派心よりキリストの事を説く者もあり。 050 PHI 001 018 然りとて何かあらん、如何様にもあれ、或は口實としてなりとも、或は眞心を以てなりとも、キリスト宣傳せられ給へば、我は之を喜ぶ、[以後も]復喜ばん。 050 PHI 001 019 其は我汝等の祈とイエズス、キリストの霊の助力とによりて、此事の我救となるべきを知ればなり。 050 PHI 001 020 是我が待てる所、希望せる所に叶へり、即ち我何に於ても耻づる事なかるべく、却て何時も然ある如く、今も亦活きても死しても、キリストは安全に我身に於て崇められ給ふべきなり。 050 PHI 001 021 蓋我に取りて、活くるはキリストなり、死ぬるは益なり。 050 PHI 001 022 若肉身に於て活くる事が我に事業の好果あるべくば、其孰を擇むべきかは我之を示さず、 050 PHI 001 023 我は双方に挟まれり、立去りてキリストと共に在らん事を望む、是我に取りて最も善き事なり、 050 PHI 001 024 然れど我が肉身に留る事は、汝等の為に尚必要なり。 050 PHI 001 025 斯く確信するが故に、我は汝等の信仰の進歩と喜悦とを來さん為に、汝等一同と共に留り、且逗留すべき事を知る。 050 PHI 001 026 我再び汝等に至らば、キリスト、イエズスに於て、我に就きて汝等の誇る所は彌増すべし。 050 PHI 001 027 第二項 實用的勧告 汝等は唯キリストの福音に相應しく生活せよ、是我が或は至りて汝等を見る時も、或は離れて汝等の事を聞く時も、汝等が同一の精神、同一の心を以て立てる事と、福音の信仰の為に一致して戰ふ事と、 050 PHI 001 028 聊も敵に驚かされざる事とを知らん為なり。此驚かされざる事こそ、敵には亡滅の徴、汝等には救霊の徴にして、神より出づるものなれ。 050 PHI 001 029 其は汝等キリストの為に賜はりたるは、唯之を信ずる事のみならず、又之が為に苦しむ事なればなり。 050 PHI 001 030 汝等の遇へる戰は、曾て我に於て見し所、又我に就きて聞きし所に等しきものなり。 050 PHI 002 001 若幾許のキリストに於る勧、幾許の愛に由る慰、幾許の聖霊の交、幾許の憫の腸あらば、 050 PHI 002 002 汝等我喜を満たせよ。即ち心を同じうし、愛を同じうし、同心同意にして、 050 PHI 002 003 何事も党派心、虚榮心の為にせず、謙遜して互に人を己に優れる者と思ひ、 050 PHI 002 004 各己が事のみを顧みずして他人の事を顧みよ。 050 PHI 002 005 汝等志す事はキリスト、イエズスの如くなれ、 050 PHI 002 006 即ち彼は神の貎に在して神と並ぶ事を盗とは思ひ給はざりしも、 050 PHI 002 007 己を無きものとして奴隷の貎を取り、人に似たる物と成り、外貌に於て人の如くに見え、 050 PHI 002 008 自ら謙りて、死、而も十字架上の死に至るまで、從へる者となり給ひしなり。 050 PHI 002 009 是故に神も亦之を最上に挙げて、賜ふに一切の名に優れる名を以てし給へり、 050 PHI 002 010 即ちイエズスの御名に對しては、天上のもの、地上のもの、地獄のもの、悉く膝を屈むべく、 (questioned) 050 PHI 002 011 又凡ての舌は父にて在す神の光榮の為に、イエズス、キリストの主に在せる事を公言すべし。 050 PHI 002 012 然れば我至愛なる者よ、汝等が常に從ひし如く、我面前に在る時のみならず、今不在の時に當りても、一層懼慄きつつ己が救霊を全うせよ、 050 PHI 002 013 其は志す事と為遂ぐる事とは、神が御好意を以て汝等の中に為さしめ給ふ所なればなり。 050 PHI 002 014 汝等呟く事なく争ふ事なく、一切の事を行へ、 050 PHI 002 015 是汝等が惡く且邪なる代に在りて、咎むべき所なく、神の純粋なる子兒として、科なき者とならん為なり。汝等は斯る人々の間に、世界に於る星の如く光りて、 050 PHI 002 016 生命の言を保てり、斯て我が走りし事の空しからず、勞せし事の空しからずして、キリストの日に於て我名誉と成るべし。 050 PHI 002 017 假令汝等の信仰の供物と祭との上に、我が[血は]濯がるるも、我は之を喜びて汝等一同と共に之を祝す、 050 PHI 002 018 汝等も之を喜びて我と共に祝賀せよ。 050 PHI 002 019 第三項 パウロ、フィリッピに遣さんとする人々を賞賛す 我も汝等の事を知りて心を安んぜん為、速にチモテオを汝等に遣はさん事を、主イエズスに於て希望す。 050 PHI 002 020 其は斯くまで我と同心して、眞心を以て汝等の為に慮る人、復外に在らざればなり。 050 PHI 002 021 蓋人は皆イエズス、キリストの事を求めず、己が事を求む、 050 PHI 002 022 と雖も、彼が福音の為に、子の父に於る如く我と共に努めたるは、汝等が其證を知れる所なり。 050 PHI 002 023 然れば我身上の成行を見ば、直に彼を汝等に遣はさん事を期せり。 050 PHI 002 024 我自らも亦程なく汝等に至るべき事を、主に於て信頼す。 050 PHI 002 025 然れど我思ふに、汝等より遣はされて我が要する所を供せし我兄弟にして協力者たり戰友たるエパフロヂトを汝等に遣はさざるべからず。 050 PHI 002 026 蓋彼は汝等一同を戀慕ひ、其病める由の汝等に聞えしとて憂ひ居たりしなり。 050 PHI 002 027 實に彼は病に罹りて、死ぬばかりに成りたれど、神は彼を憫み給ひ、啻に彼のみならず、我悲の上に又悲の重らざる様、我をも憫み給へり。 050 PHI 002 028 此故に彼を見る事によりて、更に汝等を喜ばせ、我憂をも減ぜん為に、一層早く彼を遣はせるなり。 050 PHI 002 029 然れば汝等主に於て厚く彼を歓迎し、鄭重に斯る人物を待遇せよ、 050 PHI 002 030 其は彼、我を扶けて汝等の缺けたる所を補はんと、キリストの事業の為に生命を投じて死を犯したればなり。 050 PHI 003 001 第四項 偽教師に用心して完徳に進むべし 其外我兄弟等よ、汝等主に於て喜べ、繰返して同じ事を書遣るも、我は厭く事なくして而も汝等に益あり。 050 PHI 003 002 汝等彼犬等に用心し、惡き働人に用心し、偽の割禮に用心せよ。 050 PHI 003 003 蓋霊によりて神を禮拝し、肉身を頼まずして、キリスト、イエズスに誇れる我等こそ割禮なれ。 050 PHI 003 004 然れど我は肉身にも頼む事を得、他人若肉身に頼むを得とせば、我は尚更の事なり。 050 PHI 003 005 我は八日目に割禮を受けて、イスラエルの裔、ベンヤミンの族、ヘブレオ人よりのヘブレオ人、律法に對してはファリザイ人、 050 PHI 003 006 奮發に就きては神の教會を迫害せし者、律法によれる義に就きては科なく生活せし者なり。 050 PHI 003 007 然るに我益となりし是等の事を、我はキリストに對して損なりと認めたり。 050 PHI 003 008 而も我主イエズス、キリストを識るの超越せる學識に對しては、一切の事皆損なるを思ふ。我キリストの為に一切の損失を蒙りしかど、之を視る事糞土の如し。是キリストを贏け奉らん為にして、 050 PHI 003 009 又律法によれる我義を有せず、キリスト、イエズスに於る信仰よりの義、即ち信仰によりて神より出づる義を有しつつ、キリストに於て認められん為、 050 PHI 003 010 キリストを識り、キリストの復活の能力を識り、キリストの死に象れる者となり、其苦に與らん為、 050 PHI 003 011 如何にもして死者の中より復活するに至らん為なり。 050 PHI 003 012 斯く言へばとて我既に達する事を得、或は完全に成りたるには非ず、唯我キリスト、イエズスに捕へられたれば、如何にもして之を捕へ奉らんと追求するのみ。 050 PHI 003 013 兄弟等よ、我捕へたりと思はず、努むる所は唯一、即ち背後の事を忘れて前面の事に向ひ、 050 PHI 003 014 神がイエズス、キリストによりて上に召し給へる所の褒美を得んとて、目的を追求するのみ。 050 PHI 003 015 然て完全と成る[に進む]我等は、志す事皆斯の如くなるべし。汝等若何等かの異議あらば、神は之をも汝等に示し給はん。 050 PHI 003 016 但既に至れる所よりして、我等は進むべきなり。 050 PHI 003 017 兄弟等よ、我を學べ、又汝等が我等を型とせる如くに歩める人々に注目せよ。 050 PHI 003 018 蓋我屡汝等に言へる如く、今尚泣きつつ言ふ、キリストの十字架の敵として歩む人多く、 050 PHI 003 019 其終は亡なり、彼等は腹を其神と為し、耻づべき事を誇と為し、世の事をのみ味ふ。 050 PHI 003 020 然れども我等の國籍は天に在りて、我等は我主イエズス、キリストの救主として天より來り給ふを待つなり。 050 PHI 003 021 彼は能く萬物を己に服せしむるを得給ふ能力を以て、我等が卑しき體を變ぜしめ、己が榮光の體に象らしめ給ふべし。 050 PHI 004 001 第五項 種々の勧告及び感謝 然れば我至愛にして、最懐しき兄弟等よ、我喜我冠なる至愛の者よ、主に於て斯の如く立て、 050 PHI 004 002 我エヴォヂアにも勧め、シンチケにも勧む、主に於て心を同じうせん事を。 050 PHI 004 003 軛を共にする忠實なる友よ、我汝にも、是等の婦を扶けん事を希ふ。彼等はクレメンスと、生命の書に名を記されたる他の我助力者と共に、我に伴ひて福音の為に働きしなり。 050 PHI 004 004 汝等常に主に於て喜べ。我は重て言ふ喜べ。 050 PHI 004 005 汝等の温良なる事、凡ての人に知れよかし、主は近く在すなり。 050 PHI 004 006 何事をも思ひ煩ふ勿れ、唯萬事に就きて祈祷と懇願と感謝とによりて、汝等の願は、神に知られよかし、 050 PHI 004 007 斯て一切の智識に優れる神の平安は、キリスト、イエズスに於て汝等の心と思とを守るべし。 050 PHI 004 008 其外兄弟等よ、総て眞なる事、総て尊ぶべき事、総て正しき事、総て潔き事、総て愛らしき事、総て好評ある事、如何なる徳も、規律の如何なる誉も、汝等之を慮れ。 050 PHI 004 009 汝等我に就きて學びし事、受けし事、聞きし事、見し事は之を行へ、斯て平和の神汝等と共に在さん。 050 PHI 004 010 末文 汝等が我身上を思ふ心の、終に復芽したる事を、我主に於て甚喜べり。汝等は素より我を思ひ居たれど、機會を得ざりしなり。 050 PHI 004 011 我は缺乏によりて之を言ふに非ず、其は有るが儘にて事足れりとするは、我が學びたる所なればなり。 050 PHI 004 012 我は卑しめらるる事を知り、又豊なる事をも、知れり。一々萬事につけて飽く事をも飢る事をも、豊なる事をも、缺乏を凌事をも修行せり。 050 PHI 004 013 我を強め給ふ者に於て、一切の事我が為し得ざるはなし。 050 PHI 004 014 然りながら汝等は、寔に善く我困難を扶けたり。 050 PHI 004 015 フィリッピ人よ、汝等も知れり、我が福音を傳ふる初、マケドニアを出發せし時には、何れの教會も授受の風を以て我に交らず、汝等のみ之を為して、 050 PHI 004 016 一度も二度もテサロニケに餽りて我用に供したりき。 050 PHI 004 017 我贈物を求むるには非ず、唯汝等の利益と成る好果の豊ならん事を求むるなり。 050 PHI 004 018 我には何事も備はりて餘あり、汝等が贈りし物の其香馨しく、神の御意に適ひて嘉納せらるる犠牲を、エパフロヂトより受けて飽足れり。 050 PHI 004 019 我神は己が富によりて、光榮の中に汝等の要する所を悉くキリスト、イエズスに於て満たし給ふべし。 050 PHI 004 020 願はくは我父にて在す神に世々光榮あらんことを、アメン。 (aiōn g165) 050 PHI 004 021 キリスト、イエズスに在る聖徒の各に宜しく傳へよ。 050 PHI 004 022 我と共に在る兄弟等汝等に宜しくと言へり。凡ての聖徒殊にセザルの家に属する人々、汝等に宜しくと言へり。 050 PHI 004 023 願はくは我主イエズス、キリストの恩寵、汝等の霊と共に在らん事を、アメン。 # # BOOK 051 COL Colossians コロサイ人への手紙 051 COL 001 001 神の思召によりてイエズス、キリストの使徒たるパウロ、及び兄弟チモテオ、 051 COL 001 002 コロサイに於てキリスト(イエズス)に在る聖徒、及び忠信なる兄弟等に[書簡を贈る]。 051 COL 001 003 願はくは我父にて在す神、及び主イエズス、キリストより、汝等に恩寵と平安とを賜はらん事を。 051 COL 001 004 第一款 コロサイ人の為に感謝し祈祷す 第一編 教理の部 第一項 キリスト及び其事業 我等キリスト、イエズスに於る汝等の信仰と凡ての聖徒に對する愛情とを聞きて、常に汝等の為に祈りて、我主イエズス、キリストの父にて在す神に感謝し奉る。 051 COL 001 005 是天に於て汝等の為に備へられ、曾て汝等が福音の眞理の言の中に聞きし希望の故なり。 051 COL 001 006 汝等に至れる福音は、果を世界に結びて傳播しつつある事、猶汝等が眞理に從ひて神の恩寵を聞き且識りし日より汝等の中に於て在りしが如し。 051 COL 001 007 汝等之を至愛なる我等の同輩エパフラより學びたるが、彼は汝等の為にキリスト、イエズスの忠信なる役者にして、 051 COL 001 008 [聖]霊によれる汝等の愛情を我等に告げたり。 051 COL 001 009 故に我等も亦之を聞きし其日より、汝等の為に祈りて止まず、以て汝等が[聖]霊によれる凡ての智恵と悟とによりて、神の御旨を知る[の知識]に満たされん事を求め奉る。 051 COL 001 010 是汝等が主に相應しく歩み、萬事につけて御意に合ひ、凡ての善業に於て果を結び、神[を識る]の知識を増し、 051 COL 001 011 其光榮ある全能に從ひて凡ての力を加へられ、喜を以て凡ての事に辛抱し堪忍し、 051 COL 001 012 神にて在す父に感謝し奉ることを得ん為なり。其は忝くも我等を以て、聖徒等と共に榮光を蒙るに足るべき者と為し給ひ、 051 COL 001 013 暗黒の権威より救出して最愛なる御子の國に移し給ひ、 051 COL 001 014 我等其御子に在りて、御血を以て贖はれ、罪の赦しを得ればなり。 051 COL 001 015 第二款 キリスト及び其事業は広大にして無比なり 御子は即ち見え給はざる神の御姿にして、一切の被造物に先だちて生れ給ひし者なり。 051 COL 001 016 蓋萬物は彼に於て造られ、天にも地にも見ゆるもの、見えざるもの、或は玉座、或は主権、或は権勢、或は能力、皆彼を以て且彼の為に造られ、 051 COL 001 017 御自らは萬物に先だちて在し、萬物は彼の為に存す。 051 COL 001 018 彼は又其體なる教會の頭にて在す、蓋原因に在して其死者の中より先んじて生れ給ひしは、萬事に於て自ら先んずる者と成り給はん為なり、 051 COL 001 019 其は充満せる徳を全く彼に宿らしめ、 051 COL 001 020 彼を以て萬物を己と和睦せしめ、其十字架の血を以て地に在るものをも天に在るものをも和合せしむる事の、御意に適ひたればなり。 051 COL 001 021 汝等も曾て惡業によりて神に遠ざかり、心より其仇となりしを、 051 COL 001 022 神は今御子の肉體に於て其死によりて己と和睦せしめ、聖にして汚なく罪なき者たらしめ、以て御前に供へんとし給へり。 051 COL 001 023 汝等若確乎として信仰に基き、福音に於る希望より動かされずば、當に然あるべし。此福音は、汝等之を聞き、普く天下一切の人に宣べられしが、我パウロは其役者と為られたるなり。 051 COL 001 024 我今汝等の為に苦むを喜ぶ、又キリストの御苦の缺けたる所を、御體なる教會の為に我が肉體に於て補ふなり。 051 COL 001 025 我が教會の役者と為られたるは、汝等の為に神より賜はりたる務に由れり、是神の御言、即ち世々代々に隠れ來りて、 051 COL 001 026 今や其聖徒等に顕れたる奥義を、具に傳へん為なり。 (aiōn g165) 051 COL 001 027 此奥義とは光榮の希望にして、汝等に在すキリスト是なり、此奥義の異邦人に及ぼしたる光榮の富の如何を知らしむるは神の御意なり。 051 COL 001 028 我等は之を宣べ傳へ、凡ての知識に從ひて、凡ての人を誡め凡ての人に教ふ、是凡ての人をしてキリスト、イエズスに於て完全にならしめんが為なり。 051 COL 001 029 我が現に勞苦して、我に於て強く働ける彼の勢力に應じて戰ひつつあるは是が為なり。 051 COL 002 001 第二項 偽教師に對する論難 我は我が汝等とラオジケアに在る人々と、又未だ我肉身の顔を見ざる一切の人との為に、戰ふ事の如何ばかりなるかを、汝等の知らん事を欲す。 051 COL 002 002 是其心慰められ、愛を以て繋がれ、全き智識の諸の富に満たされて、父にて在す神、及びキリスト、イエズスの奥義を識るに至らん為にして、 051 COL 002 003 智識及び學識の諸の寳、彼に隠れて存すればなり。 051 COL 002 004 我が之を言ふは、誰も巧みなる談話を以て汝等を欺く事なからん為なり。 051 COL 002 005 蓋我肉體にては不在なれども、精神にては汝等と共に居り、汝等の秩序とキリストに於る信仰の堅固なるとを見て之を喜ぶ。 051 COL 002 006 然れば汝等主イエズス、キリストを承けしが如く之に在りて歩み、 051 COL 002 007 之に根ざし之が上に建てられて、學びしが如く信仰に固まり、之に成長して感謝し奉れ。 051 COL 002 008 空しき虚言なる哲學を以て誰にも欺かれざる様注意せよ、其は人間の傳と世の小學とに由るものにして、キリストに由るものに非ず。 051 COL 002 009 蓋神性は殘なく實體的にキリストの中に充満ちて宿れるなり。 051 COL 002 010 彼は諸の権勢及び能力の頭にて在す、汝等之に在りて充満し、 051 COL 002 011 又之に於て割禮を受けたり。其割禮は手にて為せるものに非ずして、肉身を取除く所のキリストの割禮なり。 051 COL 002 012 汝等は洗禮を以て彼と共に葬られ、又彼を死者の中より復活せしめ給ひし神の大能を信仰せるを以て、彼によりて復活したるなり。 051 COL 002 013 斯て汝等、罪と肉身の無割禮とによりて死したる者なりしに、神は汝等に悉く罪を赦して、キリストと共に更に活かし給ひ、 051 COL 002 014 我等に迫りて我等に反せる誡の書を取消し、之を中間より取去りて十字架に釘け、 051 COL 002 015 [堕落の]権勢及び能力等を剥ぎて敢て之を擒にし、キリストの御身に於て公然是等に打勝ち給へり。 051 COL 002 016 然れば食物、或は飲物、或は祭日、或は朔日、或は安息日に関しては、誰にもあれ汝等を咎むべからず、 051 COL 002 017 是等の事は後に在るべき事の影にして、本體はキリストなり。 051 COL 002 018 誰にもあれ、故に謙遜[を装ひ]、天使崇拝を以て汝等の褒美を取るべからず。斯る人は見ざる事に立入りて徒に肉的思念に誇り、 051 COL 002 019 頭たる者に属せざるなり。全體は此頭よりしてこそ、関節及び繊維を以て組立てられ且聯りて、神によりて成長するなれ。 051 COL 002 020 汝等若キリストと共に此世の小學に就きて死したる者ならば、何ぞ尚世に在るが如く身を掟に服せしむるや。 051 COL 002 021 謂ゆる触るる勿れ、味ふ勿れ、扱ふ勿れの類は、 051 COL 002 022 皆用ふるに随ひて盡くるものにして、人間の誡と教とによれり。 051 COL 002 023 彼の崇拝、謙遜、身を吝まざる點に於ては、道理めきたるものなれども、其實は尊き事なく、唯肉慾を飽かしむるのみ。 051 COL 003 001 第一項 信徒一般に関する教訓 然れば汝等、若キリストと共に復活したるならば、上の事、即ち神御右にキリストの坐し居給ふ處の事を求めよ。 051 COL 003 002 地上の事ならで、上の事を慮れ、 051 COL 003 003 蓋汝等は死したる者にして、其生命は、キリストと共に神に於て隠れたるなり。 051 COL 003 004 我等の生命にて在すキリストの顕れ給ふ時には、汝等も亦彼と共に光榮の中に顕るべし。 051 COL 003 005 故に汝等、地上に於る四肢五體、即ち私通、淫亂、情慾、邪慾及び偶像崇拝なる貪欲を殺すべし、 051 COL 003 006 神御怒は、是等の事の為に不信の子等の上に來る。 051 COL 003 007 汝等も彼等の中に生活せし時は、斯る事の中に歩みたれど、 051 COL 003 008 今は汝等も是等の一切と、怒、憤、惡心、罵罾とを棄て、猥褻なる談話を其口より棄てよ。 051 COL 003 009 互いに僞る勿れ。舊き人と其業とを脱ぎて、 051 COL 003 010 新しき人、即ち之を造り給ひしものの御像に肖りて知識に進む様、新になる人を着るべし。 051 COL 003 011 茲に至りては、異邦人もユデア人も、割禮も無割禮も、夷もシタ人も、奴隷も自由の身もある事なく、唯萬民の中に萬事と成り給へるキリストの在せるのみ。 051 COL 003 012 然れば汝等、神に選まれ奉りたる聖にして且至愛なる者の如く、慈悲の腸、寛仁、謙遜、柔和、堪忍等を身に纏ひて、 051 COL 003 013 互に忍耐し、若人に對して苦情あらば互に宥恕し、主の汝等に赦し給ひし如く、汝等も亦然せよ。 051 COL 003 014 尚此一切の事に加へて愛を有せよ、愛は完徳の結なればなり。 051 COL 003 015 而して汝等一體としてキリストの平和に召されたれば、其平和をして汝等の心を司らしむべし、汝等も亦感謝し奉れ。 051 COL 003 016 キリストの御言汝等の中に豊に宿りて、凡ての知識に於て相教へ相勧め、恩寵によりて霊的の詩、讃美歌、歌を以て、心の中に神に謳ふべし。 051 COL 003 017 何事を為すも、或は言、或は行、悉く主イエズス、キリストの御名により、之を以て父にて在す神に感謝し奉りつつ為すべし。 051 COL 003 018 第二項 家庭に関する教訓 妻たる者よ、為すべき如く主に於て夫に從へ。 051 COL 003 019 夫たる者よ、其妻を愛して彼等に苦かること勿れ。 051 COL 003 020 子たる者よ、萬事に於て親に從へ、是主の御意に適ふが故なり。 051 COL 003 021 父たる者よ、汝等其子等の怒を買ふ事勿れ、恐らくは落胆せん。 051 COL 003 022 奴隷たる者よ、萬事に於て肉身上の主人に從へ、人に喜ばれんとするが如くに、目前のみにて事へず、純朴なる心を以て主を畏れて事へよ。 051 COL 003 023 汝等何事を為すも、人の為にすと思はず、主の為にすと思ひ、 051 COL 003 024 主より世嗣の報を得べしと覚りて之を心より行へ。主キリストに事へ奉れ、 051 COL 003 025 蓋不義を為す人は其不義の報を得べし、且神に於ては人に偏り給ふ事あらざるなり。 051 COL 004 001 主人たる者よ、汝等も天に主を有ち奉れることを知りて、正當公正なる事を奴隷に為せ。 051 COL 004 002 結末 汝等祈祷に從事し、感謝を以てこれに注意せよ。 051 COL 004 003 将又我等の為に祈りて、我が之が為に縲絏に遇へるキリストの奥義を語る様、神が宣教の門を我等に開き給はんことを願へ、 051 COL 004 004 是我が語るべき如くに之を顕すことを得ん為なり。 051 COL 004 005 外なる人々と交るに知識を以てして機會を求めよ。 051 COL 004 006 汝等の談話は、塩を以て塩梅して常に麗しかるべし、是如何に人々に答ふべきかを知らん為なり。 051 COL 004 007 忠信なる役者、主に於る同輩にして我至愛の兄弟たるチキコは、我身上の一切を汝等に告知らするならん。 051 COL 004 008 我が故に之を遣はししは、彼をして汝等に関する事を知り、且汝等の心を慰めしめん為なり。 051 COL 004 009 又汝等の一人にして忠信なる我至愛の兄弟オネジモを之に伴はしめたれば、彼等は此處の凡ての事を汝等に告げ知らするならん。 051 COL 004 010 我と共に獄中に在るアリスタルコ、及びバルナバの從弟マルコ、汝等に宜しくと言へり。此マルコに就きては、汝等命を受けたる事あり、若汝等に至らば之を優待せよ。 051 COL 004 011 ユストと呼るるイエズスも宜しくと言へり。彼等は割禮を受けし人々なるが、神の國の為に我に助力したるは此三人にして、我慰と成りし者なり。 051 COL 004 012 汝等の一人なるエパフラ、汝等に宜しくと言へり。彼はキリスト、イエズスの僕にして、常に汝等の為に戰ひ、祈の中に、汝等が神の諸の思召に於て完全に且確信して立たん事を求む。 051 COL 004 013 彼が汝等の為に、又ラオジケア及びイェラポリスの人々の為に、甚く心を勞せる事は、我彼の為に之を證す。 051 COL 004 014 至愛なる醫者ルカ汝等に宜しくと言へり。デマスも亦然り。 051 COL 004 015 ラオヂケアに在る兄弟等、及びニムファと其家に在る教會とに宜しく傳へよ。 051 COL 004 016 此書簡汝等の中に読まれなば、又ラオヂケアの教會にも読まるる様計らひ、汝等も亦ラオヂケア人の書簡を読め。 051 COL 004 017 又アルキッポに傳へて、汝主に於て受けし聖役を省みて之を全うすべし、と言へ。 051 COL 004 018 我パウロ手づから宜しくと言ふ。我縲絏を記憶せよ。願はくは恩寵汝等と共に在らん事を。アメン。 # # BOOK 052 1TH 1 Thessalonians テサロニケ人への手紙第一 052 1TH 001 001 パウロ、シルヴァノ及びチモテオ、神にて在す父及び主イエズス、キリストに在るテサロニケ人の教會に[書簡を贈る]。 052 1TH 001 002 願はくは恩寵と平安とを汝等に賜はらんことを。我等は常に汝等一同の為に神に感謝し奉り、祈祷の中に汝等を記念して、 052 1TH 001 003 絶間なく我父にて在す神の御前に於て、汝等の信仰の業と、愛の勞苦と、我主イエズス、キリストに於る希望の不退転なる事とを記憶す。 052 1TH 001 004 神に愛せられ奉る兄弟等よ、我等は汝等が選まれし次第を知れり。 052 1TH 001 005 即ち我等の福音は、汝等に於て唯言のみに止らず、能力及び聖霊によりて全き確信を獲たりき、我等が汝等の中に在りて、汝等の為に如何なる者なりしかは、汝等の知れる所の如し。 052 1TH 001 006 汝等も亦大いなる患難に在りながら、聖霊の喜を以て言を受けて、我等と主とを學ぶ者と成り、 052 1TH 001 007 マケドニア[州]及びアカヤ[州]に於る一切の信者の模範たるに至れり。 052 1TH 001 008 蓋主の御言は、汝等よりしてマケドニア及びアカヤに響きしのみならず、神に於る汝等の信仰[の風評]何處にも行渡りたれば、我等は何事をも言ふを要せず、 052 1TH 001 009 即ち彼等自ら我々の事を語り、我等が汝等の中に入りし次第、又汝等が偶像を去りて神に歸依し、活き給へる眞の神に事へ奉り、 052 1TH 001 010 死者の中より復活せしめ給ひし其御子、即ち來る怒より我等を救ひ給ひしイエズスの、天より降り給ふを待てる次第を吹聴するなり。 052 1TH 002 001 第一項 テサロニケに於るパウロの布教 兄弟等よ、我が汝等の中に入りし事の空しからざりしは、汝等自ら之を知れり。 052 1TH 002 002 即ち汝等の知れる如く、我等は曾てフィリッピに於て苦められ、辱を受けたりしも、我神に信頼し奉りて、種々の争の中に、敢て神の福音を汝等に宣べたるなり。 052 1TH 002 003 蓋我等の勧は迷にも穢にも欺にもよる事なく、 052 1TH 002 004 人の心を迎へんとするが如くにせず、我等の心を認め給ふ神の御旨に適はんとて、神より認められて福音を托せられ奉りし儘に語る。 052 1TH 002 005 又我等が諂諛の言を曾て用いし事なきは汝等の知れる所にして、之を口實として貪りし事なきは神の證し給ふ所なり。 052 1TH 002 006 又我等は人に、即ち汝等にも他人にも、名誉を求めず、 052 1TH 002 007 キリストの使徒として汝等に重んぜらるるを得たれども、汝等の中にては子兒の如くに成りて、恰も、乳母が其子兒を愛育する如くなりき。 052 1TH 002 008 斯く汝等を戀慕ひて汝等は我至愛の者と成りたれば、我等は神の福音のみならず、生命をも汝等に與へんことを切に望み居れり。 052 1TH 002 009 蓋兄弟等よ、汝等は我等の勞苦を記憶せり、汝等の一人をも煩はさざらん為に、我等は晝夜勞働して、汝等の中に神の福音を宣傳へたり。 052 1TH 002 010 我等が如何に聖にして且正しく且咎なく、信じたる汝等に對したるかは、汝等も之を證し、神も亦之を證し給ふ所、 052 1TH 002 011 又我が如何に父の子等に於る如く、汝等の各に對ひて、 052 1TH 002 012 其御國と光榮とに汝等を召し給へる神に相應しく歩まんことを勧め、且奨励し、且希ひしかは、汝等の知る所なり。 052 1TH 002 013 故に又汝等が、神の御言を我等に聞きし時、之を以て人の言と為ず、事實然あるが如く、信じたる汝等の中に働き給ふ神の御言として受けし事を、絶えず神に感謝し奉るなり。 052 1TH 002 014 蓋兄弟等よ、汝等はユデアに於てキリスト、イエズスに在る神の諸教會の例に從へる者と成れり、其は彼等がユデア人より受けし如き苦を、汝等も同邦人より受けたればなり。 052 1TH 002 015 ユデア人は主イエズスをも預言者等をも殺し、又我等を迫害したるに、尚神の御意に適はず、衆人に敵對し、 052 1TH 002 016 我等が異邦人に救を得させんとて語る事を拒み、斯の如くにして常に己が罪を満たす、然れど神の御怒は彼等の上に及びて其極に至れり。 052 1TH 002 017 第二項 パウロがテサロニケを離れし以後の事實 兄弟等よ、我等は外見上暫時汝等を離れしも、心は離れず、一層早く汝等の顔を見ん事を切望せり。 052 1TH 002 018 即ち我等は汝等に至らんとし、特に我パウロは一度も二度も然したれど、サタンは我等を妨げたり。 052 1TH 002 019 蓋我等の希望、或は喜、或は誇るべき冠は何ぞ、我主イエズス、キリストの降臨の時、御前に於て汝等も其なるに非ずや、 052 1TH 002 020 其は汝等は實に我等の光榮にして且喜なればなり。 052 1TH 003 001 是故に最早堪得ずして、我等のみアデンスに留るを宜しとし、 052 1TH 003 002 我等の兄弟にしてキリストの福音に於る神の役者たるチモテオを汝等に遣はせり。是信仰に就きて汝等を堅固ならしめ且奨励し、 052 1TH 003 003 斯る患難の中に在りて一人だも動かされざらしめん為なり、其は我等が患難に定められたる事は、汝等の自ら知る所、 052 1TH 003 004 蓋汝等の中に在りし時も、我等が必ず患難に遇ふべきを豫め汝等に告げ居たりしが、果して斯く成來れるは汝等の知る所なり。 052 1TH 003 005 此故に我は最早堪得ずして、汝等の信仰の如何を知らん為に人を遣はせり、其は或は誘ふ者の汝等を誘ひて、我等が働の空しくならん事を恐れたればなり。 052 1TH 003 006 然るにチモテオ汝等の許より我等が許に來りて、汝等の信仰と愛との喜ばしき音信を傳へ、又汝等が常に我等に就きて善き記憶を有ち、我等を見ん事を望めるは、恰も我等が汝等を見ん事を望めるに等しとの福音を告げたれば、 052 1TH 003 007 是によりて兄弟等よ、我等は諸の憂苦と困難との中に在りながら、汝等に就きて、汝等の信仰を以て慰を得たり。 052 1TH 003 008 即ち汝等だに主に於て立たば、我等は今生回るなり。 052 1TH 003 009 蓋我神の御前に於て、汝等に就きて我等の喜べる一切の喜は、如何なる感謝を以てか汝等の為に神に報い奉るを得べき。 052 1TH 003 010 我等は汝等の顔を見ん事と、汝等の信仰の缺けたる所を補はん事とを、晝夜切に祈り居るなり。 052 1TH 003 011 願はくは我父にて在す神御自ら、又我主イエズス、キリスト、我等を導きて汝等に至らしめ給はんことを。 052 1TH 003 012 願はくは相互の間に於ても、又衆人に對しても、汝等の愛を増し且豊ならしめ給はん事を。我等が汝等に對するも亦斯の如し。 052 1TH 003 013 是汝等の心を聖徳に固め、我主イエズス、キリスト其諸聖人と共に來り給はん時、我父にて在す神の御前に咎むべき所なからしめん為なり、アメン。 052 1TH 004 001 第一項 道徳に関する勧告 然て兄弟等よ、我等は主イエズスに由りて汝等に求め且希ふ、如何に歩まば神の御意に適ふべきかは、汝等が曾て我等より聞きたる所なれば、其如くに歩みて益進まん事を。 052 1TH 004 002 其は主イエズスを以て、如何なる教訓を我が汝等に與へしかは、汝等之を知ればなり。 052 1TH 004 003 蓋神の御旨は汝等の聖たらん事に在り、即ち汝等自ら私通を禁じ、 052 1TH 004 004 各神を知らざる異邦人の如く情慾の望に任せずして、 052 1TH 004 005 其器を神聖に且尊く有つ事を知り、 052 1TH 004 006 又誰も此事に就きて兄弟を欺かず且害せざるに在り、主は是等一切の事に報い給へばなり、我等が既に豫め汝等に語り且證したるが如し。 052 1TH 004 007 蓋神が我等を召し給ひしは、不潔の為に非ずして、聖たらしめん為なり。 052 1TH 004 008 故に是等の事を軽んずる人は、人を軽んずるに非ず、我等の身に其聖霊をも賜ひたる神を軽んじ奉るなり。 052 1TH 004 009 兄弟的愛に就きては、我等が汝等に書遣るを要せず、其は汝等自ら曾て相愛する事を神より學びたればなり。 052 1TH 004 010 蓋マケドニア一般に凡ての兄弟に對して、汝等既に之を為せり。然れど兄弟等よ、我等は汝等が益豊にして、 052 1TH 004 011 汝等に命ぜし如く、努めて、沈着きて己が業を営み、手業を為し、又外の人々に對して正しく歩み、人の何物をも望まざらん事を願ふなり。 052 1TH 004 012 第二項 キリスト再臨に関する教訓 兄弟等よ、永眠せる人々に就きては、汝等が希望なき他の人々の如く歎かざらん為に、汝等の知らざるを好まず、 052 1TH 004 013 蓋我等若イエズスの死し給ひ且復活し給ひしことを信ぜば、又神が永眠せし人々をイエズスに於て之と共に携へ給はん[ことを信ずべきなり]。 052 1TH 004 014 即ち我等、主の御言に由りて汝等に告ぐ、主の再臨の時に生殘る我等は、永眠せし人々に先つ事なかるべし。 052 1TH 004 015 蓋号令、大天使の聲、神の喇叭を合圖に、主自ら天より降り給ひ、キリストに在る死者先復活すべし、 052 1TH 004 016 次に生殘る我等は、彼等と共に雲に取挙げられて空中にキリストを迎へ、斯て何時も主と共に在るべし。 052 1TH 004 017 然れば汝等是等の言を以て相慰めよ。 052 1TH 005 001 兄弟等よ、時代と時刻とに就きては、汝等書遣らるるを要せず、 052 1TH 005 002 其は主の日が夜中の盗人の如くに來るべきことを、自ら確に知ればなり。 052 1TH 005 003 人々が安心安全を口にせん時、亡は妊婦に於陣痛の如く俄に來りて、彼等は迯れざるべし。 052 1TH 005 004 兄弟等よ、汝等は暗黒に非ざれば、彼日は盗人の如く汝等を襲ふまじ、 052 1TH 005 005 其は汝等は皆光の子晝の子にして、我等は夜のもの暗黒のものに非ざればなり。 052 1TH 005 006 然れば我等は他の人々の如く眠るべからず、而も目醒めて節制すべし。 052 1TH 005 007 蓋眠る人は夜中に眠り、酔ふ人は夜中に酔ふ、 052 1TH 005 008 然れど晝のものたる我等は節制して、信仰と愛との甲を着け、救霊の希望を冑と為すべし。 052 1TH 005 009 其は神の我等を置き給ひしは、怒に遇はしめん為に非ず、我主イエズス、キリストに由りて救霊を得させん為なればなり。 052 1TH 005 010 然てイエズス、キリストの我等の為に死し給ひしは、我等をして覚るも眠るも彼と共に生活せしめん為なり。 052 1TH 005 011 故に汝等既に為せるが如く、互に慰めて互に徳を立てしめよ。 052 1TH 005 012 第三項 倫理上の種々の勧告 兄弟等よ、願はくは汝等の中に働き、汝等を主に於て司り、且忠告する人々を識り、 052 1TH 005 013 其業によりて最も厚く之を愛せよ、相互に和合せよ。 052 1TH 005 014 兄弟等よ、希はくは沈着かざる人々を誡め、落胆せる者を慰め、弱き者を扶け、凡ての人に堪忍せよ。 052 1TH 005 015 誰も人に對して惡を以て惡に報いざる事を心懸け、相互に又凡ての人に對して、何時も善きことを追求せよ。 052 1TH 005 016 常に喜べ、 052 1TH 005 017 絶えず祈れ、 052 1TH 005 018 何事に於ても感謝し奉れ。是汝等一同に於てキリスト、イエズスに由れる神の御旨なればなり。 052 1TH 005 019 霊を消すこと勿れ、 052 1TH 005 020 預言を軽んずること勿れ、 052 1TH 005 021 何事をも試して善きものを守れ。 052 1TH 005 022 一切の惡の類より遠ざかれ。 052 1TH 005 023 末文 願はくは平安の神御自ら、汝等を全く聖ならしめ給ひて、悉く汝等の精神、霊魂、身體を守り、我主イエズス、キリストの再臨の時、咎むべき所なからしめ給はん事を。 052 1TH 005 024 汝等を召し給ひしものは眞實にて在せば、此事をも為し給ふべし。 052 1TH 005 025 兄弟等よ、我等の為に祈れ。 052 1TH 005 026 聖なる接吻を以て凡ての兄弟に宜しく傳へよ。 052 1TH 005 027 聖なる凡ての兄弟に此書簡を読聞かせん事を、我は主によりて汝等に希ふ。 052 1TH 005 028 願はくは我主イエズス、キリストの恩寵、汝等と共に在らん事を、アメン。 # # BOOK 053 2TH 2 Thessalonians テサロニケ人への手紙第二 053 2TH 001 001 パウロ、シルヴァノ及びチモテオ、我父にて在す神、及び主イエズス、キリストに在るテサロニケ人の教會に[書簡を贈る]。 053 2TH 001 002 願はくは我父にて在す神、及び主イエズス、キリストより、恩寵と平安とを汝等に賜はらん事を。 053 2TH 001 003 兄弟等よ、我等は絶えず汝等に就きて相當に神に感謝せざるべからず。是汝等の信仰益増加して、面々の愛情も皆互に豊なればなり。 053 2TH 001 004 然れば我等自らも汝等を以て、即ち其忍べる凡ての迫害及び患難に於る忍耐と信仰とを以て、神の諸教會の間に誇とす。 053 2TH 001 005 此患難は神の正しき審判の徴にして、汝等が神の國の為に苦しみて之に入るに足る者とせられん為なり。 053 2TH 001 006 其は汝等を悩ます人々に悩を以て報い給ふは、神に取りて正當の事なれば、 053 2TH 001 007 悩める汝等にも我等と共に安息を賜ふ事正當なり。是主イエズス、其能力の天使等を随へて天より顕れ給ふ時の事にして、 053 2TH 001 008 即ち焔の中に於て、神を知らざる人々、我主イエズス、キリストの福音に從はざる人々に報い給ふ時に當りて、 053 2TH 001 009 彼等は主の御顔と其能力の光榮とを離れて終なき亡の罰を受けん、 (aiōnios g166) 053 2TH 001 010 其時主來り給ひて、其聖徒によりて光榮を受け給ひ、信じたる凡ての人より誉を得給ふべし、是我等の證する所、汝等に信ぜられたればなり。 053 2TH 001 011 故に我等常に汝等の為に祈りて、我神汝等をして其召に適はしめ、且及ぶ限り凡ての善意と信仰の業とを全うし給はん事を願ひ奉る。 053 2TH 001 012 是我神と主イエズス、キリストとの恩寵に由りて、我主イエズス、キリストの御名汝等の中に光榮を着せられ、汝等も彼に在りて光榮を得ん為なり。 053 2TH 002 001 兄弟等よ、我主イエズス、キリストの再臨に就き、又我等が之と一致すべき事に就きては、 053 2TH 002 002 或は霊により、或は我等より出でしが如き物語、或は書簡によりて、主の日迫れりとて汝等が容易く本心より動かされず、又驚かされざらん事を希ふ。 053 2TH 002 003 誰にも決して欺かるること勿れ、蓋先棄教の事來りて、罪の人即ち亡の子顕るるに非ずば、[主の日は來らじ]。 053 2TH 002 004 彼は反對して一切の所謂神、又は禮拝物に激しく立逆らひ、神殿に坐して自ら神たるが如く己を示すにすら至るべし。 053 2TH 002 005 我が尚汝等の中に在りし時、是等の事を言ひ居たりしを、汝等は記憶せざるか。 053 2TH 002 006 彼の時期に至りて顕れしめん為に今彼を止むる者の何たるかは、汝等の知る所なり。 053 2TH 002 007 蓋不義の奥義は既に活動せり、但今之を止めつつある者の除かるる迄なり。 053 2TH 002 008 其時彼の不義者顕され、主イエズス御口の息を以て之を殺し、己が降臨の光榮を以て之を亡ぼし給ふべし。 053 2TH 002 009 彼者の來るはサタンの勢力に由る事にして、一切の異能の業と徴と僞りの奇蹟と、 053 2TH 002 010 不義の誑惑とを盡して亡ぶる人々に當らん。是彼等が救はるる様、眞理の愛を受けざりし故なり。然れば神其中に惑を働かしめ給ひて、彼等は偽を信ずるに至らん。 053 2TH 002 012 是眞理を信ぜずして不義に同意したる人々の悉く審判せられん為なり。 053 2TH 002 013 然れど主に愛せられ奉る兄弟等よ、我等は常に汝等の為に神に感謝し奉るべきなり、其は神、[聖]霊によれる成聖と眞理の信仰とによりて救霊を得しむべく、素より汝等を選み給ひたればなり。 053 2TH 002 014 我等の福音を以て汝等を之に召し給ひしも、我主イエズス、キリストの光榮を得しめ給はん為なり。 053 2TH 002 015 然れば兄弟等よ、毅然として我等の或は物語、或は書簡に由りて習ひし傳を守れ。 053 2TH 002 016 願はくは我主イエズス、キリスト御自ら、并に我等を愛し給ひて恩寵による永遠の慰と善き希望とを賜ひし我父にて在す神、 (aiōnios g166) 053 2TH 002 017 汝等の心を勧めて凡ての善き業と言とに堅うし給はん事を。 053 2TH 003 001 其他兄弟等よ、我等の為に祈れ、是神の御言の汝等の中に於る如く走り弘まり且崇められん為、 053 2TH 003 002 又妨となる惡き人々より我等の救はれん為なり。其は一切の人皆信仰あるに非ざればなり。 053 2TH 003 003 然れども神は眞實にて在せば、汝等を堅固ならしめ、且惡より護り給ふべし。 053 2TH 003 004 我等の命ずる事を汝等現に行ひ将來も行ふべきは、我等が主によりて希望する所なり。 053 2TH 003 005 願はくは主、汝等の心を神の愛とキリストの忍耐とに導き給はん事を。 053 2TH 003 006 兄弟等よ、我等は我主イエズス、キリストの御名によりて汝等に命ず、妄に歩みて我等より受けし傳に從はざる凡ての兄弟に遠ざかれ。 053 2TH 003 007 如何にして我等を學ぶべきかは、素より汝等の知る所なり、蓋我等は汝等の中に在りて妄に行はず、 053 2TH 003 008 又價なくして人の麪を食せず、却て汝等の一人も煩はさざらん為に、晝夜勞苦して仕事を為せり。 053 2TH 003 009 是は権利なかりしが故に非ず、己を以て型とし、汝等をして我等に倣はしめん為なりき。 053 2TH 003 010 蓋我等汝等の中に在りし時、人若働く事を否まば、亦食すべからず、と命じたりき。 053 2TH 003 011 聞く所によれば、汝等の中には妄に歩みて何の業をも為さず、彷徨ふ人あり、 053 2TH 003 012 我等は斯の如き人に、静に働きて己の麪を食せん事を、主イエズス、キリストによりて命じ且希ふ。 053 2TH 003 013 兄弟等よ、善業を為して倦む事勿れ。 053 2TH 003 014 若我等が、此書簡の言に從はざる人あらば、之を認めて自ら耻ぢしめん為に、之と交ること勿れ、 053 2TH 003 015 然れど之を敵の如くにせず、兄弟として諌めよ。 053 2TH 003 016 結末 願はくは平和の神、何處に於ても汝等に不朽の平和を賜ひ、主汝等一同と共に在さん事を。 053 2TH 003 017 我パウロ手づから書して汝等に宜しくと言ふ、凡ての書簡に於て之を印章とすれば、我が書記す事斯の如し。 053 2TH 003 018 願はくは我主イエズス、キリストの恩寵、汝等一同と共に在らん事を、アメン。 # # BOOK 054 1TI 1 Timothy テモテへの手紙第一 054 1TI 001 001 我救主にて在す神及び我等が希望にて在すキリスト、イエズスの命によりてキリスト、イエズスの使徒たるパウロ、信仰上の實子チモテオに[書簡を贈る]。 054 1TI 001 002 願はくは父にて在す神及び我主キリスト、イエズスより恩寵と慈悲と平安とを賜はらん事を。 054 1TI 001 003 第一項 教會の為に善く戰ふべし 第一編 教會の為に要求する所 我曾てマケドニアに往きし時汝に願ひし如く、汝はエフェゾに留り、或人々に命じて異なる事を教へざらしめ、 054 1TI 001 004 且信仰に基ける神の道を立つるにはあらで却て様々の議論を起さする寓言と、究極なき系圖とに從事する事なからしめよ。 054 1TI 001 005 抑此命令の目的は、潔き心と善き良心と偽なき信仰とに出づる愛なり。 054 1TI 001 006 然れども彼人々は、是等の事に外れて無益なる談話に移り、 054 1TI 001 007 自ら律法の教師たらんと欲して、其言ふ所をも断言する所をも覚らざるなり。 054 1TI 001 008 然れども我等、律法は人正しく之を用ふれば善きものなることを知れり。 054 1TI 001 009 律法の設けられしは義人の為に非ずして、不法人、反抗者、不敬者、罪人、無宗教者、卑俗者、父を殺す者、母を殺す者、殺人者、 054 1TI 001 010 私通者、男色者、誘拐者、虚言者、偽證者、及び健全なる教に反する他の一切の事の為なりと知るべきなり、 054 1TI 001 011 我に委られたる至福に在す神の光榮の福音に在るが如し。 054 1TI 001 012 我を堅固ならしめ給ひし我主キリスト、イエズスに感謝し奉る。其は我を聖役に任じて忠信なる者とし給ひたればなり。 054 1TI 001 013 即ち我曩には冒涜者、迫害者、侮辱者たりしかど、信ぜざる時知らずして為ししが故に、慈悲を蒙りて、 054 1TI 001 014 キリスト、イエズスに於る信仰及び愛と共に、我主の恩寵身に餘れり。 054 1TI 001 015 眞實にして全く信ずべき談なる哉、キリスト、イエズスの世に來り給ひしは罪人を救はん為なる事。我は其罪人の第一なり。 054 1TI 001 016 然るに慈悲を蒙りしはキリスト、イエズス其諸の堪忍を我に於て第一に顕し給ひ、永遠の生命を得んとて将に信ぜんとする人々に例を示し給はん為なり。 (aiōnios g166) 054 1TI 001 017 願はくは萬世の王に在し不朽にして見え給はざる唯一の神に、世々尊崇と光榮と在らん事を、アメン。 (aiōn g165) 054 1TI 001 018 我子チモテオよ、汝に関はれる豫ての預言に從ひ、此命令を汝に寄す、之に應じて善き戰を戰ひ、 054 1TI 001 019 信仰と善き良心とを保て。或人々は之を棄て、信仰に就きて破船せしが、 054 1TI 001 020 其中にヒメネオとアレキサンデルと在りしを、冒涜せざる事を學ばしめんとて我之をサタンに付せり。 054 1TI 002 001 第二項 祭典に就きて守るべき規則 然れば我が第一に勧むるは、衆人の為、 054 1TI 002 002 帝王等及び総て上位に在る人々の為に、懇願し、祈祷し、請願し、且感謝せられん事なり。是は我等が全き敬虔と正直とに於て、安らかに静なる生活を営まん為なり、 054 1TI 002 003 斯の如きは善事にして我救主にて在す神の御前に嘉納せらるればなり。 054 1TI 002 004 即ち神は一切の人の救はれ、眞理を知るに至らん事を望み給ふ。 054 1TI 002 005 蓋神は唯一に在し、神と人との仲裁者も亦唯一なり。是人たるキリスト、イエズスに在して、 054 1TI 002 006 衆人の為に己を贖として捧げ給ひ、時至りて其證據ありしなり。 054 1TI 002 007 我は之が為に立てられて宣教者たり、且使徒たり、――我は眞を言ひて僞らず――信仰と眞理とに於る異邦人の教師たり。 054 1TI 002 008 然れば我は、男子が何れの處に於ても潔き手を挙げて怒なく争なく祈らん事を望む。 054 1TI 002 009 婦人も亦斯の如くして相應の衣服を着け、己を飾るに羞耻心と節制とを以てし、縮し髪、黄金、眞珠、高價の衣服を以てせず、 054 1TI 002 010 敬虔を約束せる婦人に相當する如く善業を以てすべし。 054 1TI 002 011 婦人は全く服從して静に學ぶべし。 054 1TI 002 012 我は婦人の教ふる事、又男子を司る事を許さず、静にすべきなり。 054 1TI 002 013 蓋アダンは前に造られ、エワは其後なり。 054 1TI 002 014 又アダンは惑はされず、婦は惑はされて罪に陥れり。 054 1TI 002 015 然れども信仰と愛と聖徳と節制とに止らば、子女を挙ぐる事によりて救かるべし。 054 1TI 003 001 第三項 聖職者の選抜 人ありて監督の務を欲するは善き業を欲するなりとは眞の談なり、 054 1TI 003 002 然れば監督は、咎むべき所なく、唯一婦の夫たり、謹慎、怜悧、端正、貞潔にして旅人を接待し、善く教を施し、 054 1TI 003 003 酒を嗜まず、人を打たず、柔和にして争はず、利を貪らず、 054 1TI 003 004 善く其家を治め、其子女の謹みて之に服從する人たらざるべからず。 054 1TI 003 005 人若己が家を治むるを知らずば、如何にしてか神の教會に奮励せん。 054 1TI 003 006 監督は新信徒たるべからず、恐くは驕りて惡魔に等しき審判に陥らん。 054 1TI 003 007 又外の人々に好評ある人たるべし、是耻辱と惡魔の罠とに陥らざらん為なり。 054 1TI 003 008 執事等も斯の如く、尊くして兩舌ならず、酒を嗜まず、耻づべき利を貪らず、 054 1TI 003 009 潔き良心を以て信仰の奥義を保てる者たるべし。 054 1TI 003 010 彼等も先試を受けて、咎むべき所なくば務むべきなり。 054 1TI 003 011 婦人等も斯の如く、尊くして譏らず、節制して萬事に忠實なる者たるべし。 054 1TI 003 012 執事等は、一婦の夫にして善く其子女と家とを治むる者たるべし、 054 1TI 003 013 其は善く務めたる者は善き階級を得て、キリスト、イエズスに於る信仰に就きて大いなる勇氣を得べければなり。 054 1TI 003 014 我早く汝に至らん事を望みつつ是等の事を書遣るは、 054 1TI 003 015 若遅からん時、汝をして神の家に於て如何に行ふべきかを知らしめん為なり、神の家とは活き給へる神の教會なり、眞理の柱にして且基なり。 054 1TI 003 016 實にも大いなる哉敬虔の奥義、即ち[キリストは]肉に於て顕はされ、霊によりて證せられ、天使等に顕れ、異邦人に傳へられ、世に信ぜられ、光榮に上げられ給ひしなり。 054 1TI 004 001 第一項 聖職者として教ふべき事及び守るべき行状 然るに[聖]霊の明に曰ふ所によれば、末世に至りて或人々、惑の[種々の]例と惡鬼の教とに心を傾けて、信仰に遠ざかる事あらん、 054 1TI 004 002 是偽を語る人々の偽善による事にして、彼等は其良心に焼鐡を當てられ、 054 1TI 004 003 娶る事を禁じ、信徒及び眞理を知れる人々の感謝を以て食する様神の造り給ひし食物を断つ事を命ぜん。 054 1TI 004 004 抑神の造り給ひし物は皆善き物にして、感謝を以て食せらるる物に棄つべきはなし、 054 1TI 004 005 其は神の御言と祈祷とを以て潔めらるればなり。 054 1TI 004 006 是等の事を兄弟等に宣べなば、汝は曾て得たる善き教と信仰の言とを以て修養せられたる、キリストの善き役者たらん。 054 1TI 004 007 然れど世俗談、老婆談を棄てて、自ら敬虔に練習せよ。 054 1TI 004 008 蓋身體の練習は益する所僅なれども、敬虔は今世と來世とに係る約束を有して萬事に益あり。 054 1TI 004 009 是全く信ずべき眞の談なり、 054 1TI 004 010 我等が勞して罵らるるはこれが為にして、即ち萬民得に信徒の救主にて在す活き給へる神を希望し奉る故なり。 054 1TI 004 011 汝是等の事を命じ且教へよ。 054 1TI 004 012 誰も汝の年若きを軽んずべからず、却て汝は、言語、行状、慈愛、信仰、貞操を以て信徒の模範たれ。 054 1TI 004 013 我が至るまで読書、教訓、説教に從事せよ。 054 1TI 004 014 預言により、長老等の按手を以て賜はりし、汝の衷なる賜を忽にすること勿れ、 054 1TI 004 015 汝の進歩が衆人に明ならん為に、是等の事を熟考して之に身を委ねよ。 054 1TI 004 016 己と説教とに省みて之に耐忍せよ、其は之を行ひて己と汝に聴く人々とを救ふべければなり。 054 1TI 005 001 第二項 種々の人に對する法 老人を譴責せず、父の如くにして希へ、若き人を兄弟の如く、 054 1TI 005 002 老いたる女を母の如く、若き女を姉妹の如くにして完全に節操を守りつつ勧めよ。 054 1TI 005 003 眞に寡婦たる寡婦を敬へ、 054 1TI 005 004 然れど寡婦にして子或は孫あらば、彼等は先家に孝行し、親に恩を報ゆる事を學ぶべし、是神の御前に嘉納せらるればなり。 054 1TI 005 005 眞に寡婦にして寄辺なき者は神に寄頼み、晝夜祈願祈祷に從事すべし、 054 1TI 005 006 蓋快樂に在る寡婦は、生きながらにして死したる者なり、 054 1TI 005 007 彼等の科なからん為に是等の事を命ぜよ。 054 1TI 005 008 己が家族、殊に家人を顧みざる人は、信仰を棄てて不信者に劣れる者なり。 054 1TI 005 009 寡婦の籍に録さるるは、一夫の妻たりし者にして六十才より下らず、 054 1TI 005 010 善業の好評ある者、即ち子女を育て、若くは客を接待し、若くは聖徒の足を洗ひ、若くは困難に遇へる人々を助けし等、凡ての善業を為しし者たらざるべからず。 054 1TI 005 011 若き寡婦等を辞れ、蓋彼等はキリストに背きて行亂るれば嫁ぐ事を好み、 054 1TI 005 012 最初の信を破りたる故に罪に定められ、 054 1TI 005 013 又亂惰にして家々を遊廻り、啻に亂惰なるのみならず、言多く又指出でて言ふまじき事を語る。 054 1TI 005 014 然れば我は若き寡婦の、嫁ぎて子を挙げ家事を理め、反對者をして聊も惡口の機會を有たざらしめん事を欲す、 054 1TI 005 015 其はサタンに立歸りたる者既に數人あればなり。 054 1TI 005 016 信徒たる者、若[親族に]寡婦あらば、教會を煩はさずして自ら之を扶くべし、是教會をして眞の寡婦を扶くるに不足なからしめん為なり。 054 1TI 005 017 長老にして善く司る人、殊に言と教とに勞する人は、倍して尊ばるべき者とせらるべし。 054 1TI 005 018 蓋聖書に曰く、「汝穀物を踏碾す牛の口を結ぶ勿れ」と、又曰く、「働く人は宜しく其報を得べし」と。 054 1TI 005 019 長老に對する訴訟は、二三の證人あるに非ずば之を受理すること勿れ。 054 1TI 005 020 罪を犯す者は、他の人をも懼れしめん為に、一同の前に之を咎めよ。 054 1TI 005 021 我神とキリスト、イエズスと擇まれし天使等の御前に證して、汝が偏頗なく是等の事を守り、贔屓を以て何事をも為さざらん事を命ず。 054 1TI 005 022 誰にも早く按手する事なく、又他人の罪に與る事なく、貞操にして己が身を守れ。 054 1TI 005 023 最早水を飲まずして、胃の為又は度度の病の為に、少しく葡萄酒を用いよ。 054 1TI 005 024 或人々の罪は審判にも先ちて明に、或人々の罪は後にて顕る、 054 1TI 005 025 善き行の顕るるも亦斯の如し、然らざるものは[終に]隠るる能はず。 054 1TI 006 001 総て軛の下に在る奴隷は、其主人を全く尊ぶべきものと思ふべし、是主の御名と教との罵られざらん為なり。 054 1TI 006 002 信徒たる主人を有てる者は、兄弟なりとて之を軽んずべからず、却て慈善を共にせる者が信徒にして己之に愛せらるるにより、一層善く事ふべし。是等の事を教へ且勧めよ。 054 1TI 006 003 第三項 結末の教訓 人ありて、若異なる事を教へ、我主イエズス、キリストの健全なる談話と敬虔に適へる教とに服せずば、 054 1TI 006 004 是何事をも識らずして自ら驕り、病的に議論と言争とを好む者なり、是より起るは嫉妬、口論、侮辱、邪推、 054 1TI 006 005 又精神腐敗し眞理缺乏して、敬虔を利益の道なりと思ふ人々の争等なり。 054 1TI 006 006 抑足る事を知れる敬虔こそは大いなる利益の道なれ、 054 1TI 006 007 其は我等が此世に來りし時何物をも携へざりしかば、去る時亦何物をも取る能はざるは疑なき所なればなり。 054 1TI 006 008 衣食だにあらば、我等は其にて満足すべし。 054 1TI 006 009 蓋富まんと欲する人々は、誘惑と惡魔の罠とに陥り、人を堕落と滅亡とに沈むる、愚にして有害なる種々の慾望に陥る。 054 1TI 006 010 即ち利慾は一切の惡事の根なり、或人々は之が為に信仰に遠ざかりて迷ひ、多くの苦を以て己を刺貫けり。 054 1TI 006 011 然れど神の人よ、汝は是等の事を避けて、正義、敬虔、信仰、慈愛、忍耐、柔和を求め、 054 1TI 006 012 信仰の善き戰を戰ひて永遠の生命を捉へよ。其は之に召されて、多くの證人の前に之が為に善き宣言を為したればなり。 (aiōnios g166) 054 1TI 006 013 我萬物を活かし給ふ神の御前、及びポンシオ、ピラトの時に立證して善き宣言を為し給ひしキリスト、イエズスの御前に、汝に命ず、 054 1TI 006 014 我主イエズス、キリストの顕れ給ふまで、穢なく咎なく掟を守れ、 054 1TI 006 015 其時期至りては、至福唯一の主権者、諸王の王、総て主たる者の主はイエズス、キリストを顕し給はんとす、 054 1TI 006 016 彼は獨不死を有し、近づくべからざる光に住み給ひ、一人も曾て見奉りし事なく又見奉る能はざる者に在し、尊榮と永遠の権能と之に歸す、アメン。 (aiōnios g166) 054 1TI 006 017 汝此世の富者に命ぜよ、驕る事なく、確ならぬ富を恃まず、快樂の為にも萬物を豊に供給し給ふ活き給へる神を頼み奉り、 (aiōn g165) 054 1TI 006 018 善を為して善業に富める者と成り、快く施し且分與へ、 054 1TI 006 019 眞の生命を捉ふる様、将來の為に善き資本を蓄へん事を。 (aiōnios g166) 054 1TI 006 020 嗚呼チモテオよ、托せられしものを守りて、世俗の空言と有名無實なる學識の反論とを避けよ、 054 1TI 006 021 或人々は之を粧ひて信仰の的を外れたるなり。願はくは恩寵汝と共に在らん事を、アメン。 # # BOOK 055 2TI 2 Timothy テモテへの手紙第二 055 2TI 001 001 神の思召によりキリスト、イエズスに於る生命の約束に從ひてキリスト、イエズスの使徒たるパウロ、 055 2TI 001 002 至愛の子チモテオに[書簡を贈る]。願はくは父にて在す神、及び我主イエズス、キリストより、恩寵と慈悲と平安とを賜はらんことを。 055 2TI 001 003 第一項 キリストに忠實ならんことを勧む 第一編 福音の為に懼なく戰ふべし 我が祖先以來潔き良心を以て奉事せる神に感謝し奉る、蓋晝夜祈祷の中に絶えず汝を記念し、 055 2TI 001 004 汝の涙を追想して、喜に満たされん為に、汝を見ん事を欲す、 055 2TI 001 005 是汝に在る偽なき信仰の記憶を有てるによりてなり、此信仰は曩に汝の祖母ロイズと母ユニケとに宿りたれば、汝にも亦然ある事を確信す。 055 2TI 001 006 是故に我按手によりて、汝の衷なる神の賜を更に熱せしめん事を勧告す、 055 2TI 001 007 其は神の我等に賜ひたるは、臆する霊に非ずして、能力と慈愛と節制との霊なればなり。 055 2TI 001 008 然れば我主に對する證明と、其囚人たる我とに耻づる事なく、神の能力に應じて福音の為に我と共に苦を忍べ。 055 2TI 001 009 神の我等を救ひ、且聖なる召を以て召し給ひしは、我等の業によれるには非ず、御自らの規定により、又イエズス、キリストに於て世々の以前より我等に賜ひたる恩寵によれるなり。 (aiōnios g166) 055 2TI 001 010 此恩寵は、今我救主イエズス、キリストの顕れ給ひしによりて證せられたり、即ち彼は死を亡し、福音を以て生命と不朽とを明にし給ひしなり。 055 2TI 001 011 我は此福音の為に立てられて、宣教者たり、使徒たり、異邦人の教師たり。 055 2TI 001 012 又之が為に斯る苦を受くと雖も之を耻とせず、其は我が信頼し奉れる者の誰なるかを知り、且我に委托し給ひしものを、彼日まで保ち給ふ能力あるを確信すればなり。 055 2TI 001 013 汝我に聞きし健全なる言の法を守るに、キリスト、イエズスに於る信仰と愛とを以てし、 055 2TI 001 014 委托せられし善きものを、我等に宿り給ふ聖霊によりて保て。 055 2TI 001 015 [小]アジアに在る人々の、皆我を離れし事は汝の知る所にして、フィゼロとヘルモゼネスと其中に在り。 055 2TI 001 016 願はくは主オネジフォロの家に憫を賜はんことを、蓋彼は屡我を励まし、我鎖を耻づる事なく、 055 2TI 001 017 ロマに來りし時切に尋ねて我を見出せり。 055 2TI 001 018 願はくは主彼日に於て、彼に主より憫を得させ給はん事を、彼がエフェゾに於て我を厚遇せし事の如何ばかりなりしかは汝の尚能く知る所なり。 055 2TI 002 001 第二項 勞苦に拘らず勇氣を振ふべし 然れば我子よ、汝キリスト、イエズスに於る恩寵に愈堅固なれ。 055 2TI 002 002 然て、數多の證人の前に我より聞きし事を、他人に教ふるに足るべき、忠實なる人々に托せよ。 055 2TI 002 003 キリストの善き軍人として共に苦を忍べ。 055 2TI 002 004 軍人は生活の事を以て己を煩はさずして、募りし者の心を獲んとす。 055 2TI 002 005 又勝負を争ふ人は規定に從ひて争はざれば冠を得ず。 055 2TI 002 006 辛勞する農夫は先其産物を獲ざるべからず。 055 2TI 002 007 我が言ふ所を悟れ、主は萬事に就きて汝に悟を賜ふべし。 055 2TI 002 008 ダヴィドの裔に在す主イエズス、キリストが、我福音の儘に死者の中より復活し給ひしことを記憶せよ、 055 2TI 002 009 我は此福音の為に苦を嘗めて、惡人の如く鎖に繋がるるに至れり。然れども神の御言は繋がれず、 055 2TI 002 010 故に我は選まれたる人々の為に萬事を忍ぶ、是彼等をしてイエズス、キリストに於る救霊と天の榮光とを得しめん為なり。 (aiōnios g166) 055 2TI 002 011 眞實の談なる哉、我等キリストと共に死したるならば、又共に活くべし、 055 2TI 002 012 忍ばば又彼と共に王と成るべし、我等若彼を否まば、彼も亦我等を否み給ふべし、 055 2TI 002 013 我等は信ぜざる事ありとも、彼は絶えず眞實にて在す、其は己に違ひ給ふ事能はざればなり。 055 2TI 002 014 第一項 謬説に對する處置 第二編 謬説と棄教とを防ぐべし 汝人々をして是等の事を思出さしめ、又主の御前に保證して、口論する事を戒めよ、口論は何等の益する所なく、聞く人をして亡に至らしむる耳なればなり。 055 2TI 002 015 汝神の御前に於て鍛錬したる者、耻づる所なき働人、眞理の言を正しく扱へる者たらん事を努めよ。 055 2TI 002 016 世俗の無駄話を避けよ、蓋之を為せる人は、大いに不敬虔に進み、 055 2TI 002 017 其話の広がる事は脱疽の如し、ヒメネオとフィレトと其中に在りて、 055 2TI 002 018 復活は既に在りきと稱へて眞理を脱し、或人々々の信仰を覆へせり。 055 2TI 002 019 然れど神の据ゑ給ひし堅固なる基礎立ちて、其上に次の如く録されたる印章あり、曰く、「主は己のものを知り給ふ」、又曰く、「総て主の御名を稱ふる人は不義を離るべし」と。 055 2TI 002 020 抑大いなる家の中には金銀の器のみならず亦木と土との器ありて、或物は尊き用を為し、或物は卑しき用を為す。 055 2TI 002 021 然れば人若彼人々を離れて己を潔くせば、尊き器、聖とせられ且主に有益にして凡ての善業の為に備はれる器と成るべし。 055 2TI 002 022 汝若氣の欲を避けて、義と信と愛とを求め、又潔き心を以て主を呼憑み奉る人々との和合を求めよ。 055 2TI 002 023 然れど愚にして無學なる探求は、是争論を起すものなりと悟りて之を避けよ。 055 2TI 002 024 主の僕は争論すべきに非ず、却て一切の人に柔和にして、善く教へ且忍耐し、 055 2TI 002 025 眞理に逆らふ人々を戒むるに謙譲を以てすべし。或は眞理を覚らしめん為に神彼等に改心を賜ひ、 055 2TI 002 026 彼等は何時しか目を覚して、惡魔の罠を迯るる事あらん、其は彼が、随意虜と為られたればなり。 055 2TI 003 001 第二項 教會の危険の要求 汝之を知れ、末の日頃に至りて困難の時あるべし。 055 2TI 003 002 人々己を愛し、利を貪り、奢り驕り罵りて、親に從はず、恩を知らず、聖ならず、 055 2TI 003 003 情なく、和がず、讒謗し、節制なく、温和ならず、善を好まず、 055 2TI 003 004 叛逆、横柄、傲慢にして、神よりも快樂を愛し、 055 2TI 003 005 敬虔の姿を有しつつ、却て其實を棄つる事あらん、汝彼等をも避けよ。 055 2TI 003 006 其中には人の家に潜入り、女等を虜にして誘ふ者あり、是等の女は罪を負ひ、種々の慾に引かれて、 055 2TI 003 007 常に學べども眞理の知識に達せず、 055 2TI 003 008 恰もヤンネスとマンプレスとがモイゼに逆らひし如く、此人々も亦眞理に逆らひ、精神腐敗して信仰の廃れたる者なり。 055 2TI 003 009 然れど彼等は尚此上に進む事なかるべし、蓋其愚なる事の衆人に明なるは、彼二人に於て在りしが如し。 055 2TI 003 010 汝は我教、行状、志、信仰、忍耐、慈愛、堪忍、 055 2TI 003 011 受けし迫害にも、苦にも善く之に從へり。我アンチオキア、イコニヨム、及びリストロに於て、斯る事に遇ひ、其の迫害を忍びたりしが、主は総て是等の中より我を救出し給ひしなり。 055 2TI 003 012 総てキリスト、イエズスに於る敬虔を以て世を渡らんと決せる人は迫害を受くべく、 055 2TI 003 013 又惡人及び人を欺く者は愈惡に進みて、自ら迷ひ人をも迷はすに至らん。 055 2TI 003 014 然れども汝は學びし事、確信せる事に止れ、其は如何なる人々より之を學びしかを知り、 055 2TI 003 015 又幼少より聖書を知ればなり。即ち聖書はキリスト、イエズスに於る信仰を以て、汝を救霊の為に敏からしむることを得。 055 2TI 003 016 聖書は皆神感によるものにして、教授するに、勧告するに、譴責するに、正義に於て教育するに有益なり。 055 2TI 003 017 是神の人の全うせられて、凡ての善業に備へられん為なり。 055 2TI 004 001 我神の御前、又生者と死者とを審判し給べきイエズス、キリストの御前に於て、其公顕と御國とに對して希ふ、 055 2TI 004 002 汝御言を宣傳へて、時なるも時ならざるも、切に勧め、忍耐を盡し、教理を盡して、且戒め且希ひ且威せ。 055 2TI 004 003 蓋時至らば、人々健全なる教に堪へず、耳痒くして、私欲のまにまに己が為に教師を蓄へ、 055 2TI 004 004 耳を眞理に背け、身を寓言に委ぬるに至らん。 055 2TI 004 005 然れど汝は慎みて萬事を凌ぎ、福音師の業を為して己が[聖]役を盡せ。 055 2TI 004 006 蓋我は最早供物に濯がれ、去るべき時期切迫せり。 055 2TI 004 007 我善き戰を戰ひ、走るべき道を果たし、信仰を保てり。 055 2TI 004 008 殘る所は、正義の冠我為に備はれるのみ、正しき審判者にて在す主は、彼日に於て之を我に賜ふべく、而も獨り我のみならずして、其降臨を愛する人々にも賜ふべきなり。 055 2TI 004 009 結末 急ぎて我許に來れ、 055 2TI 004 010 蓋デマスは此世を好み、我を棄ててテサロニケに行き、クレセンスはガラチアに、チトはダルマチアに行き、 (aiōn g165) 055 2TI 004 011 ルカ一人我と共に在り。汝マルコを誘ひて共に來れ、其は彼は[聖]役の為に我に益あればなり。 055 2TI 004 012 チキコは我之をエフェゾに遣はせり。 055 2TI 004 013 汝來る時、我がトロアデにてカルポの家に遺置きたる上衣と書物と、特に羊皮紙とを持來れ。 055 2TI 004 014 鍛冶屋アレキサンデル大いに我を悩せり、主は其業に應じて報い給ふべし、 055 2TI 004 015 彼は甚しく我言に逆らひし者なれば、汝も之に遠ざかれ。 055 2TI 004 016 我初の弁護の時、我に立會ふ者一人もなく、皆我を棄てたり、願はくは其罪を彼等に歸せられざらん事を。 055 2TI 004 017 然れど宣教が我を以て全うせられ、凡ての異邦人の聴かん為に、主は我と共に立ちて我を堅固ならしめ給へり、斯て我は獅の口より救はれたるなり。 055 2TI 004 018 主は我を一切の惡業より逃れしめ給ひ、尚其天國に於て我を救ひ給ふべし、主に世々光榮あれかし、アメン。 (aiōn g165) 055 2TI 004 019 プリスカとアクィラとオネジフォロの家とに宜しく傳へよ。 055 2TI 004 020 エラストはコリントに留りしが、トロフィモは病ありて、我之をミレトに遺せり。 055 2TI 004 021 冬に先ちて急ぎ來れ、ユウプロとプデンスとリノとクロオディアと凡ての兄弟と、汝に宜しくと言へり。 055 2TI 004 022 願はくは主イエズス、キリスト汝の霊と共に在し、恩寵汝等と共に在らん事を、アメン。 # # BOOK 056 TIT Titus テトスへの手紙 056 TIT 001 001 神の僕にしてイエズス、キリストの使徒たるパウロ、共通の信仰によりて我實子たるチトに[書簡を贈る]。我が使徒たるは、神に選まれたる人々の信仰に應じ、又人を敬虔に導きて、 056 TIT 001 002 永遠の生命の希望を生ぜしむる眞理の知識に應ずる為なり。即ち僞り給はざる神は世々の以前より此希望を約し給ひしに、 (aiōnios g166) 056 TIT 001 003 時至りて御言を顕すに宣教を以てし給ひ、其宣教は我救主にて在す神の命によりて我に託せられたるなり。 056 TIT 001 004 願はくは父にて在す神及び我救主キリスト、イエズスより恩寵と平安とを賜はらんことを。 056 TIT 001 005 第一編 善き聖職者の選択に関する教訓 我が汝をクレタ[島]に置きしは、尚缺けたる所を整へ、且我が汝に命ぜし如く町々に長老を立てしめん為なり、 056 TIT 001 006 即ち咎むべき所なく、一婦の夫にして、若子等あらば是も信徒にして、放蕩を以て訴へらるる事なく、順はざる事なき子等を有てる人たるべし。 056 TIT 001 007 蓋監督は、神の家宰として咎むべき所なき人たるべし。即ち自慢せず、短氣ならず、酒を嗜まず、人を打たず、耻づべき利を求めず、 056 TIT 001 008 旅人を接待し、善を好み、怜悧にして義人たり、信心家にして節制家たり、 056 TIT 001 009 教によれる眞の談を固く執り、健全なる教によりて人を勧むることを得、反對を稱ふる人に答弁をするを得る人たるべし。 056 TIT 001 010 蓋從はずして贅弁を弄し、以て人を惑はす者、殊に割禮の人々の中に多し。 056 TIT 001 011 彼等は耻づべき利の為に、教ふべからざる事を教へ、全家をも覆すが故に、彼等をして閉口せしむるを要す。 056 TIT 001 012 彼等の中なる一人の預言者は言へり、「クレタ人は何時も虚言を吐きて、惡き獣、懶惰の腹なり」と。 056 TIT 001 013 この證言は實なり、此故に汝、彼等をして信仰に健全ならしめん為に、鋭く之を譴責し、 056 TIT 001 014 ユデア教の寓言と、身を眞理に反くる人々の戒とに憑る事なからしめよ。 056 TIT 001 015 潔き人々には、物皆潔けれども、穢れたる人、不信の人には潔き物なく、其理性と良心と共に穢れたり。 056 TIT 001 016 彼等は自ら神を識り奉れりと宣言すれども、行に於ては之を棄てて實に憎むべきもの、反抗するもの、一切の善業に就きての廃物なり。 056 TIT 002 001 第一項 各階級の信徒の務 然れども汝は健全なる教に相當する事を語れ。 056 TIT 002 002 老人には節制し、尊く且敏くして、信仰と愛と忍耐とに健全ならん事を勧め、 056 TIT 002 003 老女には同じく聖女らしき行儀を守りて、謗らず、酒を嗜まず、善く教へん事を勧め、 056 TIT 002 004 彼等をして若き女を敏く教へしめ、其夫を愛し、其子等を慈み、 056 TIT 002 005 怜悧、貞操(謹慎)にして家事を治め、親切にして夫に順ひ、神の御言の罵られざる様にすべき事を教へさせよ。 056 TIT 002 006 青年には同じく謹慎ならん事を勧むべし。 056 TIT 002 007 萬事に就きて己を善業の模範に供し、教ふるに廉潔と厳格とを顕し、 056 TIT 002 008 言健全にして咎むべき所なかるべし、是反對者が、我等の惡を挙ぐるに術なくして自ら耻ぢん為なり。 056 TIT 002 009 奴隷には其主人に從ひて、何事も其旨を為し、言逆らはず、掠めず、 056 TIT 002 010 我救主にて在す神の教を萬事に飾らん為に、何事に就きても忠實を顕さんことを勧めよ。 056 TIT 002 011 蓋一切の人に救と成る神の恩寵顕れ、 056 TIT 002 012 我等に諭すに、不敬虔と世俗の欲とを棄てて、謹慎と正義と敬虔とを以て此世に生活すべき事、 (aiōn g165) 056 TIT 002 013 福なる希望即ち、我等の救主にて在す大御神イエズス、キリストの光榮なる公現を待つべき事を以てせり。 056 TIT 002 014 キリストが我等の為に己を付し給ひしは、我等を一切の不義より贖ひて、善業に熱心なる固有の民を、己が為に潔め給はんとてなり。 056 TIT 002 015 汝是等の事を全き権威を以て語り、且勧め、且諌めよ、誰も汝を軽んずべからず。 056 TIT 003 001 第二項 外界に對する信徒の務 汝彼等を諭して、君主及び有権者に服し、言はるる事に從ひ、凡ての善業に己を備へ、 056 TIT 003 002 誰をも罵らず、争を好まず、寛仁にして凡ての人に對して所有温和を顕す事を忘れざらしめよ。 056 TIT 003 003 蓋我等も、曾て無知不信心にして、迷ひて様々の慾望と快樂との奴隷と成り、惡と嫉妬との中に生活し、憎まるべくして相憎む者なりき。 056 TIT 003 004 然れども我救主にて在す神の慈恵と仁愛との顕るるに及び、 056 TIT 003 005 我等が行ひし義の業によらず、御慈悲によりて聖霊の賜ふ再生と一新との水洗を以、我等を救給、 056 TIT 003 006 我救主イエズス、キリストを以て、聖霊を豊に我等に濯ぎ給ひしは、 056 TIT 003 007 我等が其恩寵によりて義とせられ、永遠の生命の希望に於る世嗣と成らん為なり。 (aiōnios g166) 056 TIT 003 008 是眞實の談にして、我之に就きて汝の断言せん事を欲す、其は神を信じ奉る人々をして、励みて善業に從事せしめん為なり。斯る業こそは善良にして人に益ある事なれ。 056 TIT 003 009 愚なる問題と系圖と、争論と律法上の争とを避けよ、其は無益にして、空しければなり。 056 TIT 003 010 異説者を一度二度訓戒して後は之に遠ざかれ、 056 TIT 003 011 其は斯の如き人の罪せらるるは、自らの判断にもよることなれば、邪にして誤れる者なる事を知ればなり。 056 TIT 003 012 結末 我アルテマ或はチキコを汝に遣はしなば、急ぎてニコポリなる我許に來れ、我冬を彼處に過さんと決したればなり。 056 TIT 003 013 法律家なるゼナ及びアポルロを手厚く送りて、足らざる事なからしめよ。 056 TIT 003 014 斯て我等の[兄弟等]も、果を結ばざる者と成らざらん為、[兄弟の]必要に應じて善業に從事する事を學ぶべし。 056 TIT 003 015 我と共に居る人々、皆汝に宜しくと言へり。信仰に於て我等を愛する人々に宜しく傳へよ。願はくは神の恩寵汝等一同と共に在らんことを、アメン。 # # BOOK 057 PHM Philemon ピレモンへの手紙 057 PHM 001 001 キリスト、イエズスの囚人たるパウロ及び兄弟チモテオ、我等が愛する所の助力者フィレモン、最愛の姉妹たるアッピア、戰友たるアルキッポ、 057 PHM 001 002 及び汝の家に在る教會に[書簡を贈る]。 057 PHM 001 003 願はくは我父にて在す神、及び主イエズス、キリストより、恩寵と平安とを汝等に賜はらん事を。 057 PHM 001 004 我は神に感謝し奉り、我祈の中に常に汝を記念し、主イエズス、キリストに於る、 057 PHM 001 005 又凡ての聖徒に對する汝の愛と信仰とを聞きて、 057 PHM 001 006 キリスト、イエズスに對して我等の中に在る善業の悉く知渡れる事によりて、汝が信仰の施の有効ならん事を冀ふ。 057 PHM 001 007 兄弟よ、聖徒等の腸汝によりて安んぜられたるが故に、我は汝の愛に就きて大いなる喜と慰とを得たり。 057 PHM 001 008 然ればキリスト、イエズスに於て、事に應じて為すべき所を命ずるは、我が敢て憚らざる所なりと雖も、 057 PHM 001 009 寧愛に對して勧め、斯の如くなる我、即ち老人にして而も現にイエズス、キリストの囚人たるパウロ、 057 PHM 001 010 鎖に在りて生みし所の我子オネジモの為に汝に希ふ。 057 PHM 001 011 彼は曾て汝に無益なりしかど、今は我にも汝にも有益なり、 057 PHM 001 012 我は之を汝に送返す、願はくは汝我腸の如くに之を受けん事を。 057 PHM 001 013 我は彼をして、汝に代りて福音の為に鎖に繋がるる我に仕へしむる様、我と共に留らしめん事を欲したれど、 057 PHM 001 014 汝に聞かずしては何事をも為すを好まざりき。是汝の善業をして、已むを得ざるが如くならず、篤志に由らしめんが為なり。 057 PHM 001 015 彼が一時汝を離れしは、或は汝が永遠に之を受けて、 (aiōnios g166) 057 PHM 001 016 最早奴隷としてには非ず、奴隷に優りて至愛の兄弟と成さん為には非ずや。我には、殊に然ある者なれば、况て汝に取りては、肉身に於ても主に於ても然らん。 057 PHM 001 017 然れば汝若我を友とせば、彼を承容るる事我に於るが如くせよ。 057 PHM 001 018 彼若汝に損害を與へ、或は負債あらば、之を我に負はせよ。 057 PHM 001 019 我パウロ手づから書記せり、我必ず償ふべし。汝が己を以て我に償ふべき負債ある事は、我之を言はじ。 057 PHM 001 020 然り、兄弟よ、我は主に於て汝を樂しまん、請ふ主に於て我腸を安んぜしめよ。 057 PHM 001 021 我汝の從順を信じ、其為さんとする所は我が言ふ所に優れるを知りて、汝に書贈れるなり。 057 PHM 001 022 然て同時に我為に宿を備へよ、蓋我は我身の、汝等の祈によりて汝等に與へられん事を希望す。 057 PHM 001 023 キリスト、イエズスに在りて我と共に囚人たるエパフラ、汝に宜しくと言へり。 057 PHM 001 024 我助力者たるマルコ、アリスタルコ、デマス、ルカも亦同じ。 057 PHM 001 025 願はくは我主イエズス、キリストの恩寵、汝等の霊と共に在らん事を、アメン。 # # BOOK 058 HEB Hebrews ヘブル人への手紙 058 HEB 001 001 第一款 キリストは大いに天使等に優り給ふ 神は昔預言者等を以て、幾度にも幾様にも先祖等に語り給ひしに、 058 HEB 001 002 此末の日に至り、曾て萬物の世嗣に立て、又之によりて世を造り給ひたる御子を以て、我等に語り給へり。 (aiōn g165) 058 HEB 001 003 彼は神の光榮の輝、其本體の印章に在して、己が権能の言を以て、萬物を保ち、罪の潔を為し給ひて、天に於て稜威の右に坐し給ふなり。 058 HEB 001 004 彼が天使等に優る者と成り給へるは、猶其受け給ひし御名の彼等に優れるが如し。 058 HEB 001 005 蓋神曾て天使等の敦れに斯は曰ひしぞ、[曰く]、「汝は我子なり、我今日汝を生めり」と、又「我彼に父たり彼我に子たらん」と。 058 HEB 001 006 又冢子を更に世に入れ給ひし時に曰く、「神の天使皆之を禮拝すべし」、と。 058 HEB 001 007 而して天使等に就きては、「彼風を其使者と為し、焔を其の役者となし給ふ」と言へるに、 058 HEB 001 008 御子に就きては、「神よ、汝の玉座は世々に在り、汝の王位の笏は義の笏なり、 (aiōn g165) 058 HEB 001 009 汝正義を愛し不義を憎めり、故に汝の神たる神は、喜の油を汝が同輩に優りて汝に注ぎ給へり、」と言ふ。 058 HEB 001 010 又曰く、「主よ、汝初に地を据置き給へり、而して諸の天も御手の業なり、 058 HEB 001 011 是等は亡びん、然れど汝は永存し給ひ、是等は皆衣服の如く古びん。 058 HEB 001 012 汝之を上衣の如く畳み給はんに、是等は變るべしと雖も、汝は同じきものにして變る事なく、汝の齢終なかるべし」と。 058 HEB 001 013 然るに曾て天使等の敦れに向ひてか、「我汝の敵を汝の足台と成らしむるまで我右に坐せよ」、と曰ひし事ある、 058 HEB 001 014 天使は悉く役者と成る霊にして、救霊の世嗣を受くべき人々の為に役者として遣はさるるに非ずや。 058 HEB 002 001 故に我等は漂流する事なき様、承りし所を一層能く守らざるべからず。 058 HEB 002 002 其は天使等を以て告げられし言すら固くせられ、犯罪と不從順とは悉く正しき報を受けたれば、 058 HEB 002 003 若我等にして斯も大いなる救を等閑にせば、争でか迯るることを得ん。此救は原主より示されて始りたるに、承りし人々より我等に言證められ、 058 HEB 002 004 神も亦思召に從ひて、徴と奇蹟と、能力の様々の業と、聖霊の賜の分配を以て、彼人々と共に之を保證し給ひしなり。 058 HEB 002 005 蓋今言ふ所の将來の世界を天使等に從はせ給ひしには非ず、 058 HEB 002 006 或人何處かに證して曰く、「人は誰なれば主之を記憶し給ひ、人の子は誰なれば之を訪問し給ふぞ、 058 HEB 002 007 主之をして少しく天使等に劣らしめ、冠らしむるに光榮と名誉とを以てし、御手の業の上に之を立て、 058 HEB 002 008 萬物を其足の下に服せしめ給ひしなり」と。然て萬物を之に服せしめ給ひし上は、服せざるものを殘し給はざりしならんに、我等は現に未だ萬物の之に服するを見ざるなり。 058 HEB 002 009 然れど天使等に少しく劣らせられしもの、即ちイエズスを見奉るに、神の恩寵により一切の人間の為に死を嘗め給はんとて、死の苦の故に、冠らしむるに光榮と名誉とを以てせられ給ひしなり。 058 HEB 002 010 蓋萬物は神の為に、又神によりて造られたるものなれば、多くの子を光榮に導き給へるもの、即ち彼等の救霊の原に在せるものをば、宜しく苦を以て全うし給ふべきは、神に於て適當なる事なりき。 058 HEB 002 011 然て聖と成らしめ給ふものも、聖と為らるる人々も、共に同一のものより出づ、故に彼、人々を兄弟と呼ぶを耻とせずして曰はく、 058 HEB 002 012 「我御名を我兄弟等に告げん、集會の中に汝を賛美し奉らん」と。 058 HEB 002 013 又「我彼に信頼せん」と、又「我と神の我に賜ひし子等とを見よ」と。 058 HEB 002 014 抑子等は血肉を有する者なれば、彼も亦之を有し給へり。是死を司れるもの、即ち惡魔を亡ぼすに死を以てし、 058 HEB 002 015 且死を懼るるが為に生涯奴隷に属せる人々を救ひ給はん為なり。 058 HEB 002 016 蓋曾て天使等を救ひ給はずして、アブラハムの裔を救ひ給ひしかば、 058 HEB 002 017 萬事兄弟等に似るべき筈なりき、是神の御前に慈悲にして忠信なる大司祭と成り、民の罪を贖ひ給はん為なりき。 058 HEB 002 018 蓋御自ら苦みて試みられ給ひたれば、試みらるる人々をも助くるを得給ふなり。 058 HEB 003 001 第二款 キリストはモイゼに優り給ふ 然れば聖なる兄弟等よ、汝等は天よりの召に與りたる者なれば、我等が宣言[する信仰]の使徒に在し大司祭に在すイエズスの、 058 HEB 003 002 恰もモイゼが神の全家に忠義なりし如く、己を立て給ひし者に忠義に在す事を鑑みよ。 058 HEB 003 003 蓋イエズスがモイゼに優りて大いなる光榮を受くべき者とせられ給ひしは、家を造りたる者の其家に優りて尊ばるが如し。 058 HEB 003 004 家は総て人に造らるれども、萬物を無より造り給ひしは神にて在す。 058 HEB 003 005 而してモイゼが神の全家に忠義なりしは、僕として、後に告げらるべき事を證せん為なるに、 058 HEB 003 006 キリストは子として、神の家に忠義に在せり。若希望による信頼と誇とを終まで堅く保たば、我等ぞ即ち其家なる。 058 HEB 003 007 此故に聖霊の曰へる如く、「今日汝等其聲を聞かば、 058 HEB 003 008 曾て荒野に於て怒の時神を試みし日に在りし如く、心を頑固にすること勿れ、 058 HEB 003 009 彼處にては、汝等の先祖試みて我を験し、四十年の間我業を見たり、 058 HEB 003 010 故に我其時代の人に怒りて謂へらく、彼等は何時も心にて彷徨ひ、我道を知らざりき、 058 HEB 003 011 然れば我怒りて、彼等は我安息に入らじと誓へり」、と。 058 HEB 003 012 兄弟等よ、汝等の中に、或は不信仰の惡心ありて、活き給へる神に遠ざからんとする事の誰にも之なからん様注意せよ。 058 HEB 003 013 寧今日と稱ふる間に、日々相勧めて、汝等の中に罪の欺によりて頑固になる者なからしめよ。 058 HEB 003 014 我等若始の信頼を終まで堅固に保たば、キリストに與る者と為られたるなり。 058 HEB 003 015 即ち「今日汝等其聲を聞かば、彼怒の時の如く心を頑固にすること勿れ」と謂はるればなり。 058 HEB 003 016 聞きて怒らせし人々は誰なるぞ、是モイゼと共にエジプトより出でし凡ての人ならずや。 058 HEB 003 017 又四十年の間、神は誰に對ひて怒り給ひしぞ、罪を犯して屍を荒野に横たへられし人々に對してに非ずや。 058 HEB 003 018 又我安息に入らじと誓い給ひしは、誰に對ひてなるぞ、不順なりし人々に對してに非ずや。 058 HEB 003 019 我等の見る所によれば、彼等は實に不順の為に入る事を得ざりしなり。 058 HEB 004 001 然れば我等の懼るべきは、或は其安息に入の御約束を措きて、汝等の中に之に達せざる者ありとせらるる事是なり。 058 HEB 004 002 其は我等が福の音を得たること彼等と等しけれども、彼等が聞きし話の其身に益せざりしは、聞ける人々に於て信仰に合せざりし故なり。 058 HEB 004 003 蓋信じたる我等は安息に入るべき者なり、曾て、「我怒りて彼等は我安息に入らじと誓えり」、と曰ひしが如し。抑其安息は、開闢の事業の成就せし時より成れり。 058 HEB 004 004 蓋或篇に七日目に就きて曰く、「神七日目に其凡ての事業を息み給へり」と、 058 HEB 004 005 又此篇に曰はく、「彼等は我安息に入らじ」と。 058 HEB 004 006 然れば彼安息に入るべき人々尚在りて、前に福の音を得し人々、不信仰によりて之等に入らざりしが故に、 058 HEB 004 007 神は斯の如く久しきを経て、ダヴィドを以て更に「今日」と云ふ日を定め給ひしなり。即ち「汝等今日其聲を聞かば、心を頑固にすること勿れ」、と既に謂はれしが如し。 058 HEB 004 008 蓋若ヨズエにして彼等に安息を得しめしならば、神は尚其後他の日を指して曰ふ事なかりしならん。 058 HEB 004 009 然れば神の民に殘れる安息あり、 058 HEB 004 010 其は神の安息に入りたる人も、恰も神の己が事業を息み給ひしが如く、自ら事業を息みたればなり。 058 HEB 004 011 是故に彼不信仰の例に倣ひて堕落する者なからん為に、我等は急ぎて此安息に入る事を努むべきなり。 058 HEB 004 012 蓋神の御言は活きて効能あり、所有兩刃の剣よりも鋭くして、霊魂と精神と、又関節と骨髄との境に達し、心の思と志とを分つ。 058 HEB 004 013 又凡て被造物として神の御前に見えざるはなく、其御目前には萬物赤裸にして露なり、我等は必ず其審判を受くべし。 058 HEB 004 014 第一款 キリストは其御身を以て舊約の司祭に優り給ふ 第二項 舊新兩約に於る司祭職の比較 然れば我等は、天に入り給ひたる偉いなる大司祭、即ち神の御子イエズスを有するが故に、堅く[信仰の]宣言を保つべきなり。 058 HEB 004 015 其は我等が有せる大司祭は、我等の弱點を勞り得給はざる者に非ずして、罪を除くの外、萬事に於て、我等と同じく試みられ給へる者なればなり。 058 HEB 004 016 故に我等は慈悲を蒙らん為、又適切なる助となるべき恩寵を見出さん為に、憚りなく恩寵の玉座に至り奉るべし。 058 HEB 005 001 蓋総て大司祭は人の中より選まれ、神に関する事に就きて人々の為に供物と贖罪の犠牲とを献ぐるの任を受け、 058 HEB 005 002 自らも弱點に圍まれたる者なれば、知らざる人、迷へる人を思遣る事を得ざるべからず。 058 HEB 005 003 是に由りて、民の為に為すが如く、己が為にも亦贖罪の献物を為すべきなり。 058 HEB 005 004 又神に召されたる事アアロンの如くならずしては、何人も此尊き位を自ら取る者なし、 058 HEB 005 005 斯の如く、キリストも大司祭たらんとして自ら進み給ひしには非ず、之に對ひて、「汝は我子なり、我今日汝を生めり」と曰ひしもの、之を立て給ひしなり。 058 HEB 005 006 他の篇に又、「汝は限なくメルキセデクの如き司祭なり」、と曰ひしが如し。 (aiōn g165) 058 HEB 005 007 即ちキリストは肉身に在しし時、己を死より救ひ給ふべきものに對ひて、祈祷と懇願とを献ぐるに、大いなる叫と涙とを以てし給ひしかば、其恭しさによりて聴容れられ給へり。 058 HEB 005 008 且(神の)御子に在しながら、受け給ひし苦によりて從順を學び給ひ、 058 HEB 005 009 然て全うせられ給ひて、從ひ奉る凡ての人に永遠の救霊の原と成り、 (aiōnios g166) 058 HEB 005 010 神よりメルキセデクの如き大司祭と稱せられ給ひしなり。 058 HEB 005 011 我等はこれに就きて語るべき事多けれども、汝等聞くに鈍く成りたれば、明に言ひ難し。 058 HEB 005 012 蓋汝等時の久しきよりすれば、教師とも成るべきを、更に神の御言の初歩を教へらるるを要し、固き食物ならで、乳を要する者と成れり。 058 HEB 005 013 抑乳を要する者は嬰兒なれば、義の教へに達する事を得ず、 058 HEB 005 014 固き食物は大人のもの、即ち慣習によりて善惡を弁別するに熟達せる人々のものなり。 058 HEB 006 001 然れば我等は、キリストに関する教の初歩を措きて、死せる業よりの改心、神に於る信仰、 058 HEB 006 002 及び諸洗禮、按手禮、死者の復活、永遠の審判等に関する教の基礎を再び築く事を為ずして、尚完全なる事に進まん、 (aiōnios g166) 058 HEB 006 003 神許し給はば我等は之を為すべし。 058 HEB 006 004 蓋一度照らされて、天の賜を味ひ、聖霊の分配にも與り、 058 HEB 006 005 且神の善き御言と來世の勢力とを味ひながら、 (aiōn g165) 058 HEB 006 006 堕落したる人々は、己が罪として神の御子を再び十字架に釘け、之を辱め奉る者なれば、更に改心する様一新せらるる事を得ず。 058 HEB 006 007 即ち土屡其上に降來る雨を吸入れて、耕す人を益すべき草を生ずれば、神より祝福を受くと雖も、 058 HEB 006 008 荊棘と薊とを生ずれば、棄てられて詛はるるに近く、其終は焼かるべきのみ。 058 HEB 006 009 至愛なる者よ、我等は斯く言ふと雖も、汝等に就きては尚善くして救霊に近からん事を希望す。 058 HEB 006 010 蓋神は、汝等が曾て聖徒等に供給し、今も尚供給しつつあるに、汝等の業と汝等が御名に對して顕はしし愛とを忘れ給ふ如き、不義なる者には在さず。 058 HEB 006 011 我等の望む所は、汝等が各希望を全うするまで、始終同様の励を顕し、 058 HEB 006 012 怠慢に流れずして、信仰と忍耐とを以、約束の世嗣と成るべき人々に倣う者と成らん事是なり。 058 HEB 006 013 蓋神アブラハムに約し給ひし時、己より大いにして指して以て誓ふべきものなきが故に、御自らを指して、誓ひて、 058 HEB 006 014 曰く、「我祝して汝を祝せん、殖して汝を殖さん」と。 058 HEB 006 015 斯てアブラハム忍耐を以て待御約束の事を得たり。 058 HEB 006 016 即ち人々は最も大いなるものを指して誓ひ、又保證と成る誓は其一切の論を決す。 058 HEB 006 017 斯の如く、神は約束の世嗣たる人々に對て、其規定の變ぜざる事を尚十分に示さんとて、誓を加へ給ひしなり。 058 HEB 006 018 是備へられたる希望を捉へんとして倚縋り奉りたる我等に、神の僞り給ふ能はざる二の動かざる事を以て、最も強き慰を得させ給はん為なり。 058 HEB 006 019 此希望は、安全にして堅固なる魂の碇として我等之を保ち、 058 HEB 006 020 更にイエズスが限なくメルキセデクの如き大司祭と為られて、我等の為に先駆として入り給ひし幕屋の中までも、[此希望は]入るものなり。 (aiōn g165) 058 HEB 007 001 蓋此メルキセデクはサレムの王、最上の神の司祭にして、アブラハムが王等に打勝ちて歸れるを迎へ、之に祝福せしかば、 058 HEB 007 002 アブラハム彼に分捕物の十分の一を分與へたり。メルキセデクの名を釈けば、先義の王にして、次にサレムの王、即ち平和の王なり。 058 HEB 007 003 彼は父なく母なく系圖なく、其日の始もなく齢の終もなく、神の御子に肖かりて永久の司祭として存す。 058 HEB 007 004 汝等斯く祖先アブラハムが、主なる分捕物の十分の一をも與へし人の、如何に大いなるかを鑑みよ。 058 HEB 007 005 抑レヴィの子孫の中、司祭職を受くる人々は、民より、即ち同じくアブラハムの腰より出でたる者なるも、己が兄弟等より十分の一を取る事を、律法によりて命ぜられたるなり。 058 HEB 007 006 然るに彼司祭等の血脉に非ざる者は、アブラハムより十分の一を取りて、約束を蒙りし其人を祝福せり。 058 HEB 007 007 然て劣れる者の優れる者に祝福せらるるは勿論なり、 058 HEB 007 008 今十分の一を受くる人々は、死する者なれど、彼時に受けしは、活ける者として證せられし者なり。 058 HEB 007 009 斯て十分の一を受くる所のレヴィも、アブラハムに於て十分の一を納めたりと謂はるべきなり、 058 HEB 007 010 其はメルキセデク之に會ひし時、レヴィ尚其父の腰に在りたればなり。 058 HEB 007 011 民はレヴィ族の司祭職の下に在りて律法を受けたれば、若人を完全ならしむる事レヴィの司祭職によりしならば、アアロンの如きと謂はれずして、他にメルキセデクの如き司祭の起る必要は何處にか在りし。 058 HEB 007 012 即ち司祭職移りたらんには、律法も亦當に移るべきなり。 058 HEB 007 013 是等の事を言はれたる人は、曾て祭壇に事へし者なき他の族に出でたり。 058 HEB 007 014 蓋我等の主がユダ族より出で給ひし事は明にして、モイゼは此族に就きて、一も司祭に関する事を言はざりき。 058 HEB 007 015 斯てメルキセデクに似たる他の司祭、 058 HEB 007 016 即ち肉的なる掟の律法によらず、不朽なる生命の能力によりて立てられたる司祭の起る事あらば、律法の移転は尚更明なり。 058 HEB 007 017 其は、「汝は限なくメルキセデクの如き司祭なり」と稱せられたればなり。 (aiōn g165) 058 HEB 007 018 抑前の掟の廃せらるるは、其弱くして益なきによりてなり。 058 HEB 007 019 蓋律法は何事をも完全に至らしめず、唯我等が以て神に近づき奉るべき、尚善き希望に入らしめしのみ。 058 HEB 007 020 而も是誓なくして為られしに非ず、即ち他の司祭は誓なくして立てられたれど、 058 HEB 007 021 イエズスは誓を以て、即ち、「主誓ひ給へり、取返し給ふ事なかるべし、汝は限なく司祭なり」と曰ひし者によりて立てられ給ひしなり。 (aiōn g165) 058 HEB 007 022 是によりてイエズスは、優れる契約の保證者と為られ給へり。 058 HEB 007 023 又他の司祭は死を以て妨げられて、絶えず司祭たる能はざるが故に、立てられし者の數多し、 058 HEB 007 024 然れどイエズスは限なく存し給ふによりて、不朽の司祭職を有し給ふ。 (aiōn g165) 058 HEB 007 025 故に人の為に執成を為さんとて常に活き給ひ、己によりて神に近づき奉る人々を全く救ふことを得給ふ。 058 HEB 007 026 蓋我等が斯る大司祭を有する事は至當なりき、即ち聖にして、罪なく、穢れなく、罪人に遠ざかりて、天よりも高くせられ、 058 HEB 007 027 他の大司祭の如く、日々先己が罪の為、次に民の罪の為に犠牲を献ぐるを要せざる者たるべし。蓋己を献げて之を為し給ひし事一度のみ、 058 HEB 007 028 其は律法の立てし司祭は弱點或人々なるに、律法の後なる誓の言の立てしは、限なく完全に在す御子なればなり。 (aiōn g165) 058 HEB 008 001 第二款 キリストは其司祭職の執行を以て舊約の司祭に優り給ふ 今言ふ所の要點は是なり、即ち我等の有する大司祭は天に於て至大[なる稜威]の玉座の右に坐し給ひ、 058 HEB 008 002 聖所の役者にして、人の立てしにはあらで主の立て給ひし、眞の幕屋の役者にて在す。 058 HEB 008 003 夫総て大司祭の立てらるるは、供物と犠牲とを献げん為なれば、彼も亦必ず献ぐべき何者かを有し給はざるべからず。 058 HEB 008 004 若地上に居給はば司祭と成り給はざるべし、其は律法に從ひて供物を献ぐる人々既にあればなり。 058 HEB 008 005 此人々は、在天の事物の模、及び影に奉事するのみ、恰もモイゼが幕屋を造らんとせし時に告げられしが如し、曰く、「看よ、何事も山に於て汝に示されし模型に從ひて之を為せ」と。 058 HEB 008 006 然れど我等の大司祭が現に尚善き聖役を得給ひしは、尚善き約束を以て保證せられたる、尚善き契約の仲介者たるに應じてなり。 058 HEB 008 007 蓋彼第一の契約に缺點なかりせば、第二のものを立つる餘地なかるべしと雖も、 058 HEB 008 008 [神]人々を咎めて曰ひけるは、「主曰く、看よ、日來らんとす、而して我イスラエルの家の上、又ユダの家の上に新約を全うすべし、 058 HEB 008 009 是我が彼等の先祖をエジプトの地より救出さんとて其手を取りし時、之に為しし約の如きものに非ず、蓋彼等は我約に止らざりしかば、我も亦彼等を顧みざりき、と主曰へり。 058 HEB 008 010 即ち主曰はく、彼日の後、イスラエルの家に我が立てんとする約は斯なり、我律法を其精神に置き、之を其心に書記さん、而して我は彼等に神と成り、彼等は我に民と成るべし。 058 HEB 008 011 又各其近き者、其兄弟に教へて、主を知れと言ふ事あらじ、其は小き者より大いなる者に至るまで悉く我を知るべければなり。 058 HEB 008 012 蓋我彼等の不義を憫み、曾て其罪を記憶せざるべし」と。 058 HEB 008 013 然て新と曰へば、前のものを舊とし給ひしなり、舊にして老衰せるものは亡に近し。 058 HEB 009 001 抑前の約には拝禮の規定あり、世に属する聖所ありき。 058 HEB 009 002 即ち第一の幕屋を造り、是に燈台と机と供の\麪と在りて、之を聖所と云ふ。 058 HEB 009 003 又第二の幕の後に至聖所と云ふ幕屋ありて、 058 HEB 009 004 其内に、金の香台と全面金を着せたる契約の櫃と在り、其櫃の内には、マンナを入れたる金の壷と、芽ざしたりしアアロンの杖と、契約の二の石標と在り、 058 HEB 009 005 尚其櫃の上に、贖罪所を覆る光榮の[二]ケルビム有しが、是等に就きては今逐一言ふに及ばず。 058 HEB 009 006 然て是等の物の備はる事斯の如くにして、第一の幕屋には禮拝を行ふ司祭等常に入れども、 058 HEB 009 007 第二の幕屋には一年に一度大司祭のみ入り、而も己が為、又民の不知罪の為に献ぐる血を持たざる事なかりき。 058 HEB 009 008 是聖霊が、第一の幕屋の存する間は、聖所に入る道の未開けざるを示し給ふ所以にして、 058 HEB 009 009 現時の為の前表なり。即ち供物と犠牲とは献げらると雖も、是等の物は禮拝者をして其良心をも完全ならしむる能はず、 058 HEB 009 010 唯改正の時まで設けられたる飲食物、種々の洗潔、肉身上の掟に止れり。 058 HEB 009 011 然るにキリストは、将來の恵の大司祭として來り給ひ、更に広く、更に完全にして、人の手に成らざる、即ち此造物ならざる幕屋を経て、 058 HEB 009 012 牡山羊、犢の血を用ひず、己が血を以て一度聖所に入り、不朽の贖を得させ給ひしなり。 (aiōnios g166) 058 HEB 009 013 蓋牡山羊、牡牛の血、及び若き牝牛の焼灰を注ぐ事は、穢れたる人々を、肉身上に於て潔めて聖とするものなれば、 058 HEB 009 014 况や聖霊を以て、己が穢なき身を神に献げ給ひしキリストの御血は、活き給へる神に事へ奉らしめん為に、死せる業より我等の良心を潔むべきをや。 (aiōnios g166) 058 HEB 009 015 故にキリストは新約の仲介者に在して、死を凌ぎて前の約の下に犯されたる過を贖ひ、召されたる人々に永遠の世嗣の約束を得させ給ふなり。 (aiōnios g166) 058 HEB 009 016 遺言書ある時は遺言者の死を要す、 058 HEB 009 017 其は遺言書は人死して後に効力あり、遺言せる人の存命せる間は、未だ其効あらざればなり。 058 HEB 009 018 然れば第一の約も、血なくして立てられしには非ず、 058 HEB 009 019 蓋モイゼ、律法によれる掟を悉く民一同に読聞かせし後、緋色の毛、ヒソッポと共に犢の血と牡山羊の血と水とを取り、律法の巻物と一般の民とに沃ぎて、 058 HEB 009 020 言ひけるは、是ぞ神の汝等に命じ給へる約の血なる、と、 058 HEB 009 021 又幕屋と凡ての祭器とにも同じく血を沃ぎたり。 058 HEB 009 022 斯て律法に從ひては、殆ど一切のもの血を以て潔められ、血を流す事なくしては赦さるる事なし。 058 HEB 009 023 然れば在天の事物に象りたるものすら、血によりて潔まれば、在天の事物其物は、是等に優る犠牲によりて潔められざるべからず。 058 HEB 009 024 蓋イエズスの入り給ひしは、眞實のものの象に過ぎざる、手にて造られし聖所には非ず、天其物に入り給ひて、今は我等の為に、神の御目前に謁給ふなり。 058 HEB 009 025 又大司祭が他のものの血を持ちて年々至聖所に入るが如く、屡己を献げ給はんとに非ず、 058 HEB 009 026 然らずんば、開闢以來屡苦しみ給ふべかりしなり。然れど今世の末に當りて、己を犠牲として罪を亡ぼさん為に、一度現れ給ひしなり。 (aiōn g165) 058 HEB 009 027 斯て人一度死して然る後に審判ある事の定まれるが如く、 058 HEB 009 028 キリストも多くの人の罪を贖はんとて一度身を献げ給ひ、然て之を待ち奉る人々を救はん為に、再び罪を負はずして現れ給ふべし。 058 HEB 010 001 抑律法は、将來の恵の影のみを有して、事物の眞の像を有せざるが故に、毎年絶えず同じ犠牲を献げて、祭壇に近づく人々を完全ならしむる事は、決して能はざるなり。 058 HEB 010 002 然らずんば、祭る人々一旦潔められては、復罪の意識なかるべければ、祭を献ぐる事止むべかりしなり。 058 HEB 010 003 然れど彼祭に於て年々罪を紀念するは、 058 HEB 010 004 牡牛と牡山羊との血を以てしては罪を除く事能はざるが故なり。 058 HEB 010 005 然ればキリスト世に入り給ひし時曰ひけるは、「主よ、犠牲と献物とを否みて肉體を我に備へ給へり、 058 HEB 010 006 燔祭と罪祭とは御心に適はざりしを以て、 058 HEB 010 007 我言へらく、看給へ、巻物の初に我に就きて録したれば、神よ、我は御旨を行はん為に來れり」、と。 058 HEB 010 008 然て初には、「主よ、犠牲と献物と燔祭と罪祭とを否み給ひて、律法に從ひて献げらるるものは御意に適はざりき」、と曰ひて、 058 HEB 010 009 後には「神よ、看給へ、我は御旨を行はん為に來れり」、と曰へば、是初の事を廃して其次の事を立て給ふなり、 058 HEB 010 010 此御旨の故にこそ、イエズス、キリストの御體が一度献げられしに由りて、我等は聖と為られしなれ。 058 HEB 010 011 然て司祭は、総て日々に立ちて聖役を行ひ、何時も罪を除く能はざる同じ犠牲を献ぐれども、 058 HEB 010 012 此大司祭は罪の為に一の犠牲を献げ給て、限なく神の御右に坐し、 058 HEB 010 013 斯て敵の己が足台と為られん事を待ち給ふなり。 058 HEB 010 014 其は聖と為られたる人々を、一の献物を以て限なく全うし給ひたればなり、 058 HEB 010 015 聖霊も亦之を我等に證し給ふ。蓋前には、 058 HEB 010 016 「主曰はく、彼日の後我が立てんとする約は斯なり、我律法を彼等の心に與へ、之を其精神に録さん」、と曰ひて後、 058 HEB 010 017 「我最早彼等の罪と不義とを記憶せざるべし」、と曰ひしなり。 058 HEB 010 018 是等の赦ありたる上は、罪の為の献物は絶えて之ある事なし。 058 HEB 010 019 第一款 信仰を保ちて棄教の念に遠ざかるべし 第二編 道義的勧告 第一項 一般に渉る勧告 然れば兄弟等よ、我等はイエズスの御血により、 058 HEB 010 020 イエズスの己が肉なる幔を経て我等に開き給ひし、新にして活ける道より聖所に入るべき事を確信し、 058 HEB 010 021 且神の家を司る大司祭を有する者なれば、 058 HEB 010 022 心を惡き料簡より濯がれ、身を清き水に洗はれて、眞心と完全なる信仰とを以て之に近づき奉り、 058 HEB 010 023 確乎として我等が希望の宣言を保つべし、約し給ひし者は眞實にて在せばなり。 058 HEB 010 024 又互に顧みて親愛と善業とを相励まし、 058 HEB 010 025 或人々の為馴れたるが如くに集を缺く事なく、寧相勧めて、日の近づくを見るに随ひて愈励むべきなり。 058 HEB 010 026 蓋我等既に眞理の知識を受けたる後、故に罪を犯さば、殘る所は最早罪を贖ふ犠牲に非ずして、 058 HEB 010 027 唯懼る懼る審判を待つ事と、敵對する者を焼盡すべき火の烈しさとのみ。 058 HEB 010 028 モイゼの律法を破りたる人すら、二三人の證言によりて容赦なく死するなれば、 058 HEB 010 029 况て神の御子を蹂躪け、己が由りて以て聖と為られし約の血を蔑視し、恩寵を賜ふ聖霊に侮辱を加へたる人の受くべき刑罰の厳しさの、如何許なるかを思へ。 058 HEB 010 030 「復讐は我事なり、我報ゆべし」と曰ひ、又「主は其民を審判すべし」と曰ひし者の誰なるかは我等の知れる所なり。 058 HEB 010 031 恐るべき哉、活き給へる神の御手に罹る事。 058 HEB 010 032 汝等曩に照らされつつ、苦の大いなる戰を忍びたりし日を追想せよ。 058 HEB 010 033 即ち或は侮辱と患難とを以て人の観物と為られ、或は斯る事に遇へる人々の侶と成りたりき。 058 HEB 010 034 蓋囚人の上をも思遣り、又己が立勝りたる永存の寳を有せるを知りて、我財産を奪はるるをも喜びて忍びたるなり。 058 HEB 010 035 然れば大いなる報を得べき汝等の希望を失ふ勿れ。 058 HEB 010 036 即ち神の御旨を行ひて約束のものを得ん為に、汝等に必要なるは忍耐なり。 058 HEB 010 037 蓋來らんとする者は軈て來り給ふべく、延引し給ふ事あらじ。 058 HEB 010 038 我義人は信仰によりて活く、若自ら退かば我心に適はざるべし。 058 HEB 010 039 我等は亡に至らんとして退く者に非ず、魂を得んとして信仰する者なり。 058 HEB 011 001 第二款 舊約時代の英雄の信仰の例 抑信仰は希望すべき事物の保證、見えざる事物の證據なり、 058 HEB 011 002 蓋故人之を以て好評を得たり。 058 HEB 011 003 信仰に由りて我等は、世界が神の一言にて組立てられ、現に見ゆるものが見ゆるものより成出でざりしことを暁る。 (aiōn g165) 058 HEB 011 004 信仰に由りてアベルは、カインの其に優れる犠牲を神に献げ、信仰に由りて義人たる保證を受け、神其献物を保證し給ひ、彼は信仰に由りて死しても猶言ふなり。 058 HEB 011 005 信仰に由りてヘノクは、死を見ざらん為に移され、神之を移し給ひしに由りて見出されざりき、其は移転の前に神の御意に適へる事を證せられたればなり。 058 HEB 011 006 信仰なくしては神の御意に適ふこと能はず、蓋神に近づき奉る人は、必ずや神の存在して之を求め奉る人々に報い給ふ者なる事を信ぜざるべからず。 058 HEB 011 007 信仰によりてノエは、未だ見えざる事柄に就きて黙示を蒙り、畏みて家族を救はん為に方舟を造り、之を以て世の人を罪し、其身は信仰に由れる義の世嗣と為られたり。 058 HEB 011 008 信仰に由りてアブラハムは、承継ぐべき地に出づべしとの召に從ひ、何處に行くべきかを知らずして立出でたり。 058 HEB 011 009 彼は約束の地に於て他國にあるが如く、同じ約束を相継ぐべきイザアク、ヤコブと共に幕屋に住めり、 058 HEB 011 010 其は神を其設立者、建築者に戴ける、基礎ある都會を待てばなり。 058 HEB 011 011 信仰に由りてサラも、石女にして齢過ぎたるに孕を胎す力を得たり、是約し給へる者の忠實に在す事を信じたるが故なり、 058 HEB 011 012 斯て一人より、而も既に死せるに齊しき者より出でし人、空の星の如く夥しく、海辺の眞砂の如く數へ難し。 058 HEB 011 013 彼等は皆信仰に從ひ、約束のものを受けずして死したれども、遥に望みて之を祝し、地上に於て己は旅人たり寄留人たる事を宣言せり。 058 HEB 011 014 斯く語る人々は、是本國を求むる事を示す者なり。 058 HEB 011 015 若其懐へる所曾て出でたる本國ならば、復還る時もありしならん、 058 HEB 011 016 然れど彼等は、今一層善きもの、即ち天の[本國]を慕ひしなり、故に神は彼等の神と呼ばるるを耻とし給はず、其は彼等の為に都會を備へ給ひたればなり。 058 HEB 011 017 信仰に由りてアブラハムは、試みられし時イザアクを献げたり、其献げたりしは、約束を蒙りたりし獨子にして、 058 HEB 011 018 曾て「汝の子孫と稱へらるるはイザアクによるべし」と謂はれし其者なりき。 058 HEB 011 019 即ち彼謂へらく、神は死したる人々をも復活せしむるを得給ふなりと、而して前表として其子を還與へられたり。 058 HEB 011 020 信仰に由りてイザアクは、将來の事に就きてヤコブとエザウとを祝福せり。 058 HEB 011 021 信仰に由りてヤコブは、死に臨みてヨゼフの子等を各祝福し、杖の首に倚りて禮拝せり。 058 HEB 011 022 信仰に由りてヨゼフは、死に臨みてイスラエルの子等の出立を思はしめ、己が骸骨に就きて命を下せり。 058 HEB 011 023 信仰に由りてモイゼは、生れて三月の間兩親によりて匿されたり、是其子の美しきを見たるが故にして、彼等は國王の命令を懼れざりき。 058 HEB 011 024 信仰に由りてモイゼは、成長してファラオンの女の子たる事を否めり、 058 HEB 011 025 即ち罪によれる暫時の快樂よりも、寧神の民と共に悩むことを擇み、 058 HEB 011 026 キリストの耻辱を以てエジプトの寳に優れる富とせり、其は報酬を眺め居たればなり。 058 HEB 011 027 信仰に由りて彼は、國王の怒を怖れずしてエジプトを去れり、即ち見えざる所を見るが如くにして忍耐せしなり。 058 HEB 011 028 信仰に由りて彼は過越を祝ひ、又長子を亡ぼせる者の彼等に触れざらん為、[羔の]血を沃ぐ禮を行へり。 058 HEB 011 029 信仰に由りて彼等は、紅海を陸の如くにして渡れり、エジプト人は之を試みて溺れたりき。 058 HEB 011 030 信仰に由りてエリコの城壁は、七日の間廻られて崩れたり。 058 HEB 011 031 信仰に由りて娼婦ラハブは、探偵者を懇切に接待せしかば、不信者と共には亡びざりき。 058 HEB 011 032 此外に我何をか言はん、ゲデオン、バラク、サムソン、イエフテ、ダヴィド、サムエル及び預言者等の事を述べんには時足らざるべし。 058 HEB 011 033 信仰に由りて彼等は、國々に打ち勝ち、義を行ひ、約束を蒙り、獅子の口を塞ぎ、 058 HEB 011 034 火の勢を消し、剣の刃を迯れ、弱きを強うせられ、軍に勇ましき者と成りて異邦人の陣を破り、 058 HEB 011 035 婦人等は其死したりし者を復活を以て還與へられ、或人々は引裂かれて、勝れたる復活を得ん為に迯るる事を肯ぜず、 058 HEB 011 036 或人々は侮辱打擲の上に捕縛入獄に遇ひ、 058 HEB 011 037 石を擲たれ、鋸にて挽かれ、試され、剣にて殺され、羊山羊の毛皮を纏ひて萬事に缺乏し、責められ悩まされて流浪せり。 058 HEB 011 038 世は此人々を置くに堪へざりしに、彼等は荒地に山に、地の洞及び穴の内に彷徨ひしなり。 058 HEB 011 039 彼等も皆信仰の稱揚を得たれども、約束のものをば得ざりき。 058 HEB 011 040 是神が我等の為に更に宜しき事を圖り給ひて、我等と共にならでは彼等の全うせられざらん為なり。 058 HEB 012 001 第三款 既往の教訓を信者の現状に應用す 然れば我等も、斯く夥しき證人の雲に圍まれたれば、一切の荷と纏へる罪とを卸して、 058 HEB 012 002 我等の信仰の指導者に在し完成者に在すイエズスに鑑みつつ、忍耐を以て我等に備はれる勝負に走るべし。即ちイエズスは曾て、己に備はれる喜に代へて、辱を厭はず、十字架を忍び給ひ、而して神の玉座の右に坐し給ふ。 058 HEB 012 003 汝等倦みて己が心の弱らざらん為に、己に對する惡人のさしも甚しかりし反抗を忍び給ひし者を回想せよ。 058 HEB 012 004 蓋汝等の罪に對ひて戰ふに、未だ血を流す程に抵抗せし事なし。 058 HEB 012 005 汝等は又、子に於るが如くに告げらるる勧を忘れたり。曰く、「我子よ、主の懲を疎畧にすることなく、之に懲らされ奉る時倦む事勿れ、 058 HEB 012 006 主は其寵み給ふ人を懲らし、総て子として受け給ふ者を鞭ち給へばなり」と。 058 HEB 012 007 汝等懲を忍べ、神の汝等に對し給ふは、恰も子等に於るが如し。誰か父に懲らされざる子あらん、 058 HEB 012 008 汝等若凡ての人の受くる懲の外に在らば、是私生児にして正子に非ざるべし。 058 HEB 012 009 且我等は肉身の父に懲らされて、尚之を尊敬しつつありしものを、况や霊の父には歸服して生命を得べきに非ずや。 058 HEB 012 010 肉身の父等は、少き日數の間に心の儘に我等を懲らしたるに、霊の父の懲らし給ふは、己が聖徳を蒙らしめて我等を益し給はん為なり。 058 HEB 012 011 総て懲は其當時に在りては、喜ばしく見えず、悲しきが如くなれども、後には之を以て鍛錬せられたる人に、義の平穏なる果を結ぶものなり。 058 HEB 012 012 然れば汝等、萎えたる手、弱りたる膝を立てよ、 058 HEB 012 013 誰も足萎えて踏外す事なく、寧醫されん為に己の足踏を直くせよ。 058 HEB 012 014 汝等凡ての人と和合し、聖徳を追求せよ、之なくては誰も主を見奉る事を得じ。 058 HEB 012 015 汝等注意して、一人も恩寵より退く事なく、如何なる苦き根にもあれ、生出でて妨を為し、多くの人を汚すことなからしめ、 058 HEB 012 016 一人たりとも、食物の為に長子権を売りしエザウの如く、私通者不敬者と成る事なからしめよ。 058 HEB 012 017 蓋彼が、後に祝福を継がん事を望みしも退けられ、涙を以て回復を求めたれど其餘地を得ざりしは、汝等の知るべき所なり。 058 HEB 012 018 汝等の近づけるは、触れ得べき山、燃ゆる火、黒雲、暗黒、暴風、 058 HEB 012 019 溂叭の音、又言の聲には非ず。彼聲を聞きし人々は、言の己に語られざらん事を願へり。 058 HEB 012 020 蓋獣すらも、山に触れなば石を擲たるべしと命ぜられたるを忍び得ず、 058 HEB 012 021 見ゆる物甚だ恐ろしくして、モイゼも、我恐怖慄けり、と言へり。 058 HEB 012 022 然るに汝等の近づきたるは、シヨンの山と、活き給へる神の都なる天のエルザレムと、億萬の天使の喜ばしき集會と、 058 HEB 012 023 天に其名を記されたる長子等の教會と、萬民の審判者に在す神と、全うせられし義人等の霊と、 058 HEB 012 024 新約の仲介者に在すイエズスと、アベルの血に優りて能く言ふ血の沃がるる事と是なり。 058 HEB 012 025 汝等慎みて、言ひ給ふを否むこと勿れ。蓋彼等は地上に言ひ給へるを否みて迯れざりしなれば、况て天より言ひ給ふを退くる我等の迯るべけんや。 058 HEB 012 026 彼時は其聲地を動かしたりしに、今は約して曰はく、「我唯に地をのみならず天をも尚一度動かさん」と。 058 HEB 012 027 斯の如く「尚一度」と曰へるは、震動せざる事物の永存せん為に、震動せし事物の、造られたるものとして廃るべきを示し給ふなり。 058 HEB 012 028 然れば震動せざる國を受けたるが故に、我等は感謝し奉りて、御意に適ふ様、恐れ畏みて神に事へ奉るべし。 058 HEB 012 029 是我等の神は焼盡す火にて在せばなり。 058 HEB 013 001 第一款 社交的義務 汝等の間に兄弟的相愛あるべし。 058 HEB 013 002 又旅人を接待する事を忘るる勿れ、或人々は、是によりて知らず識らず天使等を宿したり。 058 HEB 013 003 囚人を思遣ること、我身も共に囚人たるが如く、己も肉身にあるを思ひて苦勞せる人を思遣るべし。 058 HEB 013 004 婚姻は萬事に於て尊かるべし、又寝床は汚さるべからず、神は私通者及び姦淫者を審判し給ふべければなり。 058 HEB 013 005 行状に於ては、金銭を貪らず、現に在る所を以て満足せよ。蓋神御自ら曰く、「我は汝を離れず、又汝を捨てじ」と。 058 HEB 013 006 然れば我等は信頼を以て、「主は我が補助者にて在す、我は懼れじ、人我に何をか為さん」、と言ふことを得るなり。 058 HEB 013 007 第二款 宗教的義務 汝等に神の御言を語りし教導師等を記憶し、其齢の終を鑑みて其信仰に倣へ。 058 HEB 013 008 イエズス、キリストは昨日も今日も同一に在して、世々にも亦然り。 (aiōn g165) 058 HEB 013 009 汝等種々様々の異なる教に迷はさるること勿れ。恩寵を以て心を固むるは、是最も善き事にして、倚縋れる人々に有益ならざりし食物を以てすべきには非ず。 058 HEB 013 010 我等に祭壇あり、幕屋に事ふる人々は、この祭壇より食する権を有せず、 058 HEB 013 011 蓋獣の血は罪の為に、大司祭によりて聖所の内に携へらるれども、軀は陣の外に焼かる。 058 HEB 013 012 イエズスが、己の血を以て民を聖とならしめん為に門外に苦を受け給ひしも此故なり。 058 HEB 013 013 然れば我等は陣を出でて、イエズスの耻辱を擔つ御許に至り奉るべし、 058 HEB 013 014 蓋我等は此處にては、永存する都會を有せずして、未來のものを求む。 058 HEB 013 015 是を以て我等は、彼によりて、絶えず賛美の祭、即ち御名を稱ふる唇の果を神に献ぐべし。 058 HEB 013 016 慈善及び施を為すを忘るる勿れ、其は斯る祭を以てこそ神の御意に適へばなり。 058 HEB 013 017 汝等己が教導師に從ひて之に歸服せよ、彼等は汝等の霊魂に就きて、自ら報告の責めあるものとして警戒すればなり。之を喞ちながらに為ずして、喜びて為す事を得させよ、喞ちながらに為すは汝等に益あらざればなり。 058 HEB 013 018 結末 請ふ我等の為に祈れ、其は我等が、萬事に就きて宜しく行はん事を欲して、善き良心を有せるを確信すればなり。 058 HEB 013 019 然せん事を、我が尚切に冀ふは、我が速に汝等に返されん為なり。 058 HEB 013 020 願はくは永遠の約の御血に由て、羊の大牧者にて在す我主イエズス、キリストを、死より復活せしめ給ひし平和の神、 (aiōnios g166) 058 HEB 013 021 御旨を行はしめん為に、汝等を凡ての善事に完全ならしめ、御前に於て御意に適ふ所を、イエズス、キリストによりて、汝等の中に為し給はん事を。光榮世々之に歸す、アメン。 (aiōn g165) 058 HEB 013 022 兄弟等よ、請ふ我勧の言を容れよ、蓋我は簡単に書贈れり。 058 HEB 013 023 我等の兄弟チモテオは放免せられしと知れ、彼若速に來らば、我彼と共に汝等を見んとす。 058 HEB 013 024 総て汝等の教導師と聖徒とに宜しく傳へよ。イタリアの兄弟等、汝等に宜しくと言へり。 058 HEB 013 025 願はくは恩寵汝等一同と共に在らん事を、アメン。 # # BOOK 059 JAM James ヤコブの手紙 059 JAM 001 001 神及び我主イエズス、キリストの僕ヤコボ、離散せる十二族に挨拶す。 059 JAM 001 002 第一項 患難及び誘惑に於る忍耐を勧む 我兄弟等よ、汝等種々の試に陥りたる時は、之を最も喜ぶべき事と思へ。 059 JAM 001 003 其は汝等の信仰の試は、忍耐を生ずるを知ればなり。 059 JAM 001 004 然れど汝等が完全無缺にして、何事も乏しき所なからん為に、忍耐は完全なる業を為さざるべからず。 059 JAM 001 005 汝等の中に知識を要する人あらば、誰をも咎めめ給はずして吝なく賜ふ神に願ひ奉るべし、然らば與へられん。 059 JAM 001 006 但疑ふ事なく信仰を以て願はざるべからず、蓋疑ふ者は風に動かされて、漂へる海の波に似たれば、 059 JAM 001 007 斯る人は主より何物をも受けんと期する事勿れ、 059 JAM 001 008 是二心ある人にして、其凡ての道に於て定まり無ければなり。 059 JAM 001 009 兄弟の卑き者は其高められしを大いに喜ぶべく、 059 JAM 001 010 富める者は、己が卑きによりて喜ぶべし。是将に草の花の如くに過ぎんとすればなり。 059 JAM 001 011 夫日出でて焦くれば、草は枯れて其花は落ち、其面の美しさは失せたり。富める者の其道に於て凋むべき事も亦斯の如し。 059 JAM 001 012 試を忍ぶ人は福なり、其は鍛錬を経て後、神の己を愛奉る人々に約し給ひし生命の冠を得べければなり。 059 JAM 001 013 誰も誘はるるに當りて、神より誘はると謂ふべからず。蓋神は惡に誘はれ給ふ事能はざれば、誰をも誘ひ給ふ事なし。 059 JAM 001 014 各の誘はるるは、己の慾に惹かれ惑はされてなり、 059 JAM 001 015 斯て慾の孕むや罪を産み、罪の全うせらるるや死を生ず。 059 JAM 001 016 然れば我至愛なる兄弟等よ、過つ事勿れ、 059 JAM 001 017 総て善き賜と完全なる恵とは上よりして、變更なく回転の影なき光の父より降る。 059 JAM 001 018 蓋被造物の初穂の如きものたらしめん為に、御心よりして眞理の言を以て我等を生み給ひしなり。 059 JAM 001 019 第二項 活動する信仰の必要 我至愛なる兄弟等よ、汝等は知れり、人総て聞くに疾く、語るに遅かるべし。 059 JAM 001 020 其は人の怒は神の義を為さざればなり。 059 JAM 001 021 然れば汝等一切の穢らはしき事と、夥しき惡事とを脱棄て、汝等に植ゑられて汝等の霊魂を救ふべき御言を穏に承容れよ。 059 JAM 001 022 斯て汝等自ら欺きて聴聞者たるに止らず、言の實行者と成れ。 059 JAM 001 023 蓋人もし言の聴聞者にして實行者に非ずば、鏡に寫して生來の顔を見る人に似たるべし。 059 JAM 001 024 即ち己が姿を見て退くや、直に其如何に在りしかを忘る。 059 JAM 001 025 然れども自由の完全なる律法を鑑みて之に止る者は、忘れ勝ちなる聴聞者と成らずして業の實行者と成る。斯る人は、其為す所に由りて福なるべし。 059 JAM 001 026 人若自ら宗教家なりと思ひつつ、其舌を制せずして己が心を欺かば、其宗教は無益なり。 059 JAM 001 027 父にて在す神の御前に潔くして穢れなき宗教は、孤児寡婦を其困難に當りて訪問し、自ら守りて世間に穢されざる事是なり。 059 JAM 002 001 我兄弟等よ、汝等光榮なる我主イエズス、キリストに於る信仰を保ちて、人に依怙ある事勿れ。 059 JAM 002 002 蓋汝等の集に美服して金の指環を嵌めたる人入來り、又粗服したる貧しき人入來らんに、 059 JAM 002 003 汝等美服したる人を顧みて、宜しく此處に坐せよと言ひ、貧しき人には、其處に立て或は我が足台の下に坐せよ、と言はば、 059 JAM 002 004 是心の中に隔して料簡正しからざる審判者と成るに非ずや。 059 JAM 002 005 我至愛なる兄弟等よ、聞け、神は此世に於る貧者を選みて信仰に富める者と成らしめ、神が己を愛し奉る人々に約し給ひし國の世嗣たらしめ給ひしに非ずや。 059 JAM 002 006 然るに汝等は貧者を卑しめたり。富者は勢力を以て汝等を壓し、且自ら法廷に牽くに非ずや、 059 JAM 002 007 汝等の上に稱へられたる善き名を穢すに非ずや。 059 JAM 002 008 但し汝等もし聖書に從ひて、「汝己が近き者を己の如く愛せよ」との王的律法を守らば、其為す所や宜し。 059 JAM 002 009 然れど若人に對して依怙あらば、是罪を犯して、犯人として律法に咎めらるるなり。 059 JAM 002 010 其は誰にもあれ、律法を悉く守るも、一點の犯す所あらば、一切に對して有罪となればなり。 059 JAM 002 011 蓋、「汝姦淫する勿れ」と曰ひし者は又、「殺す勿れ」と曰ひしが故に、假令姦淫せざるも殺す事あらば、是律法の違反者たるなり。 059 JAM 002 012 然れば汝等語るにも行ふにも、恰も自由の律法を以て審判せらるべき者の如くにせよ。 059 JAM 002 013 蓋審判は慈悲を為さざる人に慈悲なき者にして、慈悲は審判に勝つものなり。 059 JAM 002 014 我兄弟等よ、假令人自ら信仰ありと謂ふとも、行なくば何の益かあらん、信仰豈之を救ふを得んや。 059 JAM 002 015 若兄弟姉妹の赤裸にして日々の食物に乏しからんに、 059 JAM 002 016 汝等の中彼等に對ひて、心安く往きて身を暖め、飽くまで食せよ、と言ふ人ありとも、身に要する物を與へずば何の益かあらん。 059 JAM 002 017 信仰も亦斯くの如し、行なくば死したるものなり。 059 JAM 002 018 然るに人或は言はん、汝は信仰あり我は行あり、行なき汝の信仰を我に示せ、然らば我も亦行によりて我が信仰を汝に示さん、 059 JAM 002 019 汝は神の唯一にて在す事を信ず、其為す所や宜し、惡魔も信じて戰慄くなりと。 059 JAM 002 020 空なる人よ、行なき信仰の死したるものなるを知らん事を欲するか、 059 JAM 002 021 我父アブラハムは、祭壇の上に其子イザアクを献げて、行によりて義とせられしに非ずや。 059 JAM 002 022 信仰が彼の行と共に働きし事と、行によりて信仰の全うせられし事とは汝の見る所なり。 059 JAM 002 023 而して聖書に、「アブラハム神を信じたり、斯て此事義として彼に歸せられたり」と在ること成就し、彼は神の愛人とせられたり。 059 JAM 002 024 人の義とせらるるは、唯信仰のみに由らずして行に由るを見ずや。 059 JAM 002 025 是と等しく娼婦ラハブも、使等を承けて外の道より去らしめ、行によりて義とせられしに非ずや。 059 JAM 002 026 蓋霊なき肉體の死せるが如く、行なき信仰も亦死せるなり。 059 JAM 003 001 第三項 濫に人を教へんとする事。及び眞偽の知識。 我兄弟等よ、多人數教師と成る事勿れ、我等が一層厳しき審判を受くるは汝等の知る所にして、 059 JAM 003 002 我等は皆多くの事に就きて愆つものなればなり。人若言によりて愆つ事なくば是完全なる人にして、亦其全身を銜にて制むるを得べし。 059 JAM 003 003 夫馬を從へんとして、銜を其口に施せば、我等は其全身を馭す。 059 JAM 003 004 又船を看よ、假令其船大いにして強き風に襲わるるも、最小き舵によりて操る者の欲する所に向けらる、 059 JAM 003 005 斯の如く舌も小き局部ながら、其誇る所は大いなり。如何ばかりの小き火が、如何ばかりの大いなる林を焼くかを看よや。 059 JAM 003 006 舌も亦火なり、不義の世界なり。舌は我等が五體の中に備はりて全身を穢し、地獄の火を以て燃され、我等が一生の車輪を焼く。 (Geenna g1067) 059 JAM 003 007 蓋一切の獣、鳥、爬蟲、海に在る種族は制せられ、又實に人性によりて制せられたり。 059 JAM 003 008 然れども舌は一人も之を制する事能はず、定まりなき惡にして死毒に充てり。 059 JAM 003 009 我等は舌を以て父にて在す神を祝し奉り、又之を以て神に象りて造られたる人を詛ひ、 059 JAM 003 010 祝福と詛と同じ口より出づ。我兄弟等よ、是然あるべきに非ず、 059 JAM 003 011 豈同じ穴より水の甘きものと苦きものとを流す泉あらんや。 059 JAM 003 012 我兄弟等よ、如何ぞ無花果が葡萄を生じ、葡萄が無花果を生ずるを得んや。斯の如く塩水の泉も亦淡水を出すこと能はず。 059 JAM 003 013 汝等の中に智識ありて敏捷なる者ありや、其人は宜しく善き生活により、知識に出づる温和を以て行を示すべし。 059 JAM 003 014 然れど汝等若苦き妬を懐きて争ふ心あらば誇る事勿れ、眞理に反して僞る事勿れ。 059 JAM 003 015 是斯る知識は天より降れるものに非ずして地に属するもの、肉慾より出づるもの、惡魔より來るものなればなり。 059 JAM 003 016 蓋妬と争とある處には、亂と一切の惡業とあり。 059 JAM 003 017 上よりの知識は第一に操、次に穏便温和にして勧を容れ易く、(善に與し)矜恤と好果とに満ち、是非せず、表裏なきものなり。 059 JAM 003 018 義の果は平和を為せる人々に於て、平和の中に撒かるるなり。 059 JAM 004 001 第四項 惡慾及び種々の缺點に對する意見。 汝等の中に於る軍と争とは何處よりか來れる、汝等が五體の中に戰へる其慾よりに非ずや。 059 JAM 004 002 汝等が貪りて得ず、殺し妬みて取る事能はず、争ひ戰ひて得る事なきは願はざるが故なり。 059 JAM 004 003 願ひて受けざるは、慾の為に費さんとして惡く願ふが故なり。 059 JAM 004 004 姦淫者よ、此世に對する愛情は神の仇となるを知らずや、然れば誰にもあれ、此世の友たらんとする人は皆神の仇となる。 059 JAM 004 005 汝等聖書の云へる事を徒なりと思ふか、神は汝等に宿らせ給ひし霊を妬むまでに望み給ふ、 059 JAM 004 006 尚大いなる恩寵を賜へばこそ、「神は傲慢なる者に逆らひ、謙遜なる者に恩寵を賜ふ」とは云へるなれ。 059 JAM 004 007 此故に汝等神に歸服して惡魔に逆らへ、然らば惡魔は汝等より退くべし。 059 JAM 004 008 神に近づき奉れ、然らば神は汝等に近づき給はん。罪人よ、手を潔めよ、二心の者よ、心を清らかにせよ。 059 JAM 004 009 痛悔して歎き且泣け、汝等の笑は歎となり、汝等の喜は悲と成れ、 059 JAM 004 010 主の御前に謙れ、然らば主汝等を高め給はん。 059 JAM 004 011 兄弟等よ、相譏る事勿れ、兄弟を譏る者或は兄弟を是非するものは、律法を譏り律法を是非する者なり。若律法を是非せば、是律法の履行者に非ずして、其審判者たるなり。 059 JAM 004 012 抑救ひ得べく亡ぼし得べき立法者審判者は唯一にて在す、 059 JAM 004 013 然るに汝誰なれば近き者をば是非するぞ。然て今、我等今日明日何某の町に往き、一年の間其處に留り、商売して利を得んと言ふ者よ、 059 JAM 004 014 汝等は明日何事のあるべきかを知らざるに非ずや。 059 JAM 004 015 蓋汝等の生命は何ぞや、暫く見ゆる靄にして、終には消失するものなり。汝等宜しく之に代へて、我等若主の思召ならば又は生くるならば、此彼を為さんと言ふべし。 059 JAM 004 016 然るに汝等は今驕りて自ら誇れり、斯の如き誇は総て惡事なり。 059 JAM 004 017 故に人、善の行ふべきを知りて之を行はざれば罪と成るなり。 059 JAM 005 001 第五項 種々の勧告。 偖も富める人々よ、汝等が身に到來すべき禍の為に叫び歎け。 059 JAM 005 002 汝等の富は腐敗し、汝等の衣服は蠧まれ、 059 JAM 005 003 汝等の金銀は銹びたり。斯て其銹は汝等に證據と成て、火の如くに汝等の肉を食まん、汝等は末の日に對して怒を貯へたるなり。 059 JAM 005 004 看よ、汝等が欺きて、汝等の土地を刈取りし作人に與へざりし賃金は叫ぶ、彼等の叫は萬軍の主の耳に入れり。 059 JAM 005 005 汝等は地上に在りて歓樂し、身を放蕩に委ね、殺害の日に當りても心を満足せしめ、 059 JAM 005 006 義人を罪に定めて之を殺ししも、彼は汝等に抵抗せざりき。 059 JAM 005 007 然れば兄弟等よ、主の降臨まで忍耐せよ、看よや農夫が地の尊き果を待ちて、春秋の雨を受くるまで忍耐するを。 059 JAM 005 008 然れば汝等も忍耐して心を堅うせよ、蓋主の降臨は近きに在り。 059 JAM 005 009 兄弟等よ、汝等審判せられざらん為に、相怨む事勿れ、看よ審判者は門前に立ち給ふ。 059 JAM 005 010 兄弟等よ、汝等主の御名によりて語りし預言者等を以て、苦痛と忍耐との模範とせよ。 059 JAM 005 011 我等が忍耐したる人々を福なりとするを思へ、汝等曾てヨブの忍耐を聞き、又終に主の為し給ひし事を見たり。即ち主は慈悲深く在して、憫を垂れ給ふ者なり。 059 JAM 005 012 我兄弟等よ、汝等第一に、或は天、或は地、或は他の何物を以ても誓ふ事勿れ、唯然りは然り、否は否と云へ、之審判に罹らざらん為なり。 059 JAM 005 013 汝等の中に憂ふる者あらんか、其人は祈るべきなり。喜ぶ者あらんか、其人は聖詩を謳ふべきなり。 059 JAM 005 014 汝等の中に病める者あらんか、其人は教會の長老等を喚ぶべく、彼等は主の御名によりて之に注油し、之が上に祈るべし。 059 JAM 005 015 斯て信仰の祈は病者を救ひ、主之を引立て給ひ、若罪あらば赦さるべきなり。 059 JAM 005 016 然れば互ひに己が罪を告白して、互の為に祈れ、是汝等の醫されん為なり。義人の篤き祈は大いなる効力あり。 059 JAM 005 017 エリアは我等と同様の人なりしも、雨の地上に降らざらん事を切に祈りしかば、降らざる事三年六箇月なりき。 059 JAM 005 018 斯て再び祈りしかば、天は雨を與へ地は果を與へたりき。 059 JAM 005 019 我兄弟等よ、若汝等の中に眞理を過てる者あり、人ありて之を立歸らしめんか、 059 JAM 005 020 罪人を其道の迷より立歸らしめたる者は、其魂を死より救ひ、多くの罪を覆ふべしと識るべきなり。 # # BOOK 060 1PE 1 Peter ペテロの手紙第一 060 1PE 001 001 イエズス、キリストの使徒たるペトロ、ポント、ガラチア、カパドシア[小]アジア及びビチニアに離散して寄留せる人々、 060 1PE 001 002 父にて在す神の預知に從ひて、[聖]霊によりて聖とせられ、且服從し、イエズス、キリストの御血を沃がれん為に選まれたる人々に[書簡を贈る]。願はくは恩寵と平安と汝等に加はらん事を。 060 1PE 001 003 第一項 信徒の賜はりし恵を神に感謝す。 第一編 キリスト信徒の特典及び其要する聖徳。 祝すべき哉我主イエズス、キリストの父にて在す神、蓋其大いなる憫に從ひて、イエズスの死者の中よりの復活を以て、我等を新に生れしめて、活ける希望を懐かしめ、 060 1PE 001 004 天に於て汝等に備はりたる、屈せず穢れざる而も萎まざる世嗣を得させんとし給ふ。 060 1PE 001 005 汝等は神の能力により、終の日に顕るべく備はりたる救霊を得ん為に、信仰を以て守らるるものなり。 060 1PE 001 006 是によりて、假令暫くは種々の試に悩まさるべきも、汝等は喜に勝へざるべし。 060 1PE 001 007 蓋汝等が信仰の試みらるるは、金が火を以て試るるよりも遥に尊き事にして、イエズス、キリストの公現の時、誉と榮と尊とを得べき者として認められん為なり。 060 1PE 001 008 汝等はイエズス、キリストを見ざりしも、之を愛し奉り、今も尚見ずして之を信じ奉り、信じ奉りて而も光榮を帯びたる言ひ難き喜に勝へざるならん。 060 1PE 001 009 其は汝等の信仰の目的たる魂の救を得べければなり。 060 1PE 001 010 此救霊に就きては、汝等に於る将來の恩寵の事を預言せし預言者等、穿鑿して之を探求せり。 060 1PE 001 011 即ちキリストの霊は彼等に在して、キリストに於る苦難と其後の光榮とを豫告げ給ひしかば、何時の頃如何なる時を示し給へるぞと探求したりしに、 060 1PE 001 012 其傳ふる所は、彼等自らの為に非ずして汝等の為なりとの黙示を得たり。其傳ふる所とは、天より遣はされ給ひし聖霊によりて汝等に福音を宣べし人々より、汝等が今既に告げられたる所にして、天使等も亦之を鑑みる事を欲せるなり。 060 1PE 001 013 第二項 神の御恵に應じて生活すべし。 是故に汝等心に帯して節制し、イエズス、キリストの公現の時汝等に賜はる恩寵を缺くる所なく希望し、 060 1PE 001 014 從順なる子兒の如く、最初の不知の望に從ふ事なく、 060 1PE 001 015 汝等を召し給ひし聖なるものに象りて、凡ての行状に於て汝等も亦聖と成れ。 060 1PE 001 016 其は録して、「我は聖なるにより汝等も聖と成るべし」とあればなり。 060 1PE 001 017 人に依怙ある事なく、各の業によりて審判し給ふ者を父と呼び奉るならば、畏を以て汝等が世に住める時を過せ。 060 1PE 001 018 是汝等が先祖傳來の空しき行状より贖はれしは、金銀の如き壊るべきものによらずして、 060 1PE 001 019 無缺無垢の羔の如きキリストの尊き御血によれる事を知ればなり。 060 1PE 001 020 彼は世界開闢以前より豫知せられ給ひたりしかど、彼によりて神を信仰せる汝等の為に、世の末に顕れ給ひたるものにして、 060 1PE 001 021 神が之を死者の中より復活せしめ之に光榮を賜ひしは、汝等の信仰と希望とを神によらしめ給はんとてなり。 060 1PE 001 022 汝等偽なき兄弟的相愛を生ぜしめんが為に、眞理に服從する事によりて魂を潔め、一層深く心より相愛せよ。 060 1PE 001 023 汝等が新に生れたるは、腐るべき種によらず、腐るべからざる種により、活きて永遠に存する神の御言によれり。 (aiōn g165) 060 1PE 001 024 蓋一切の肉身は草の如く、其榮は草の花の如し、草は枯れ其花は落つれども、 060 1PE 001 025 主の御言は永遠に存す。汝等に福音と成りし言は即ち是なり。 (aiōn g165) 060 1PE 002 001 然れど汝等、凡ての惡心と凡ての詐欺と表裏と妬と凡ての譏とを措きて、 060 1PE 002 002 恰も生れたての嬰兒の如く、贋なき霊的の乳汁を冀へ、其、之によりて成長して救霊に至らん為なり。 060 1PE 002 003 汝等もし主の善良に在せる事を味ひたらんには、宜しく然すべし。 060 1PE 002 004 主は活ける石にして、人よりは棄てられしも神より選まれて尊くせられし石にて在せば、汝等之に近づき奉りて、 060 1PE 002 005 己も亦活ける石の如く、其上に立てられて霊的家屋と成り、聖なる司祭衆と成り、イエズス、キリストを以て神の御意に適へる霊的犠牲を献ぐる者と成れ。 060 1PE 002 006 然れば聖書に曰はく、「看よ、我選まれたる隅の上石をシオンに置かんとす、之を信ずる人は、辱められじ」と。 060 1PE 002 007 故に信じたる汝等には尊榮あれども、信ぜざる人々に取りては、建築者が棄てたる石は隅石と成り、 060 1PE 002 008 躓く石、突當たる岩と成れり、是御言を信ずして躓く様置かれたればなり。 060 1PE 002 009 然れど汝等は選抜の人種、王的司祭衆、聖なる人民、儲けられたる國民なり。是汝等が、己を其妙なる光に暗黒より呼び給へるものの徳を告げん為にして、 060 1PE 002 010 曾ては民たらざりしもの今は神の民と成り、憫を得ざりしもの今は憫を得たるものと成れり。 060 1PE 002 011 第一項 神の思召によれる社會上の制度に服すべし。 第二編 世間に於るキリスト信徒及び其重なる義務。 至愛なる者よ、魂に反して戰ふ肉慾を去らん事を、寄留人と旅人とに對する如く、我汝等に希ふ。 060 1PE 002 012 汝等異邦人の間に在りて善き行状を守れ、是彼等をして汝等を惡人として譏る所に於ても、善業によりて汝等を重んぜしめ、訪問せらるる日に神に光榮を歸し奉らしめん為なり。 060 1PE 002 013 然れば汝等主の為に、総て人の制定したるものに服せよ、即ち主権者として帝王に服し、 060 1PE 002 014 又惡人を罰して善人を賞せん為に帝王より遣はされたるものとして、凡ての官吏に服せよ。 060 1PE 002 015 蓋汝等が善を行ひて、愚なる人々の不知を黙せしむるは神の思召なり。 060 1PE 002 016 汝等自由の身なるが如くにして、自由の惡の覆と為す事なく、神の奴隷たるものの如くにせよ。 060 1PE 002 017 凡ての人を敬ひ、兄弟等を愛し、神を畏れ奉り、帝王を尊べ。 060 1PE 002 018 奴隷たる者よ、萬事懼を以て汝等の主人に從へ、啻に善良温和なる者にのみならず、情なき者にも亦然せよ。 060 1PE 002 019 神を意識せるが為に、不義の苦を受けて悲に堪ふるこそ御意に適へる事なれ。 060 1PE 002 020 罪を犯して打たるるを忍べばとて、何の功かあらん、善を為しつつ忍びてこれに堪ふるこそ、神の御意に適ふことなれ。 060 1PE 002 021 蓋汝等の召されたるは之が為なり、其はキリストが我等の為に苦しみ給ひしも、例を汝等に胎して御跡を慕はしめ給はん為なればなり。 060 1PE 002 022 彼は罪を犯し給ひし事なく、又御口に偽ありし事なし。 060 1PE 002 023 彼は罵られて罵らず、苦しめられて威さず、唯義を以て審判し給ふ者に任せ給ひしなり。 060 1PE 002 024 彼御自ら木の上にて我等の罪を身に負ひ給ひしは、是我等をして罪を離れ義に活きしめん為にして、汝等は其蒼白めたる傷痕によりて醫されたるなり。 060 1PE 002 025 其は汝等曾ては迷へる羊の如くなりしかども、今は魂の牧者監督者にて在すものに立歸り奉りたればなり。 060 1PE 003 001 斯の如く、妻たる者も亦己が夫に服すべし、是夫が、假令御言を信ぜざるも、妻の行状によりて無言の裏に、 060 1PE 003 002 汝等の畏敬に在る操の行状を鑑みて儲けられん為なり。 060 1PE 003 003 其飾は表面の縮らし髪、金の飾環、身に着けたる衣服に在らずして、 060 1PE 003 004 心の中に隠れたる人、即ち貞淑、謹慎なる精神の變らざるに在るべし、是こそは神の御前に價高きものなれ。 060 1PE 003 005 蓋古代の聖女等も神を希望し奉りて、己が夫に服しつつ斯の如く身を飾りたりしが、 060 1PE 003 006 其如くサラは[其夫]アブラハムを主と呼びて之に從ひ居たり。汝等は彼が女として善を為し、何の變動をも懼れざるなり。 060 1PE 003 007 夫たる者よ、同じく知識に從ひて同居し、婦を我よりも弱き器として、而も相共に生命の恩寵を嗣ぐ者として、之を尊重し、汝等の祈を妨げられざる様にせよ。 060 1PE 003 008 第二項 信徒一般に對する教訓。 終に[言はん]、汝等皆心を同じうして相勞り、兄弟を愛し、慈悲謙遜にして、 060 1PE 003 009 惡を以て惡に報いず、罵を以て罵に報いず、却て祝福せよ。是世嗣として祝福を得ん為之に召されたる汝等なればなり。 060 1PE 003 010 蓋生命を愛して佳日を見んと欲する人は、其舌をして惡を避けしめ、其唇偽を語らず、 060 1PE 003 011 惡に遠ざかりて善を為し、平和を求めて之を追ふべきなり。 060 1PE 003 012 是主の御目は義人等の上を顧み、御耳は彼等の祈に傾き、御顔は惡を為す人々に怒り給へばなり。 060 1PE 003 013 抑汝等若善に熱心ならば、誰か汝等に害を為すべき。 060 1PE 003 014 又假令義の為に苦しめらるるも福なり、人々の威を懼れず、心を騒がさず、 060 1PE 003 015 心の中に主キリストを聖なるものとせよ。常に汝等に在る所の希望の所以に就きて、問ふ人毎に満足を與ふる準備あれよ、 060 1PE 003 016 但善き良心を有して柔和と畏敬とを以て答弁せよ。是キリストに於る汝等の善き振舞を讒言する人々の、其譏る所に就きて自ら耻ぢん為なり。 060 1PE 003 017 蓋神の思召ならば善を為して苦しむは惡を為して苦しむに優れり。 060 1PE 003 018 即ちキリストも一度我等の罪の為に、即ち義人として不義者の為に死し給ひしが、是我等を神に献げ給はん為にして、肉にては殺され給ひしかど、霊にては活かされ給ひ、 060 1PE 003 019 其霊は獄に在りし霊に至りて救を宣傳へ給へり。 060 1PE 003 020 是等の者は、昔ノエの時代に神の忍耐の待ちをりしに、方舟の造らるる間服せざりし者なりしが、此方舟に於て水より救はれし者僅に八人なりき。 060 1PE 003 021 之に前表せられたる洗禮こそ今汝等をも救へるなれ。是肉身の穢を去る故に非ずして、イエズス、キリストの御復活によりて善き良心が神に為し奉る約束の故なり。 060 1PE 003 022 彼は(我等に永遠の生命を得しめん為に、死を亡ぼして)天に往き給ひ神の御右に在して天使、権勢、能力は之に服せしめられたるなり。 060 1PE 004 001 キリスト既に肉身に於て苦しみ給ひたれば、汝等も亦同じ心得を以て武器とせよ。蓋肉身に苦しみたる人は、是罪を罷めたるものにして、 060 1PE 004 002 最早人の慾に從はず、神の思召に從ひて肉體に殘れる時を過ごさんとするものなり。 060 1PE 004 003 蓋我等既往に於ては、異邦人の望を全うして、淫亂、情慾、酔狂、暴食、暴飲及び邪なる偶像崇拝に生活せし事にて足れり。 060 1PE 004 004 彼等は汝等が同様なる放蕩の極に走らざるを怪しみて之を罵れども、 060 1PE 004 005 今已に生者と死者とを審判せんとして待設け給へる者に報告し奉るべし。 060 1PE 004 006 蓋福音が死者にも宣傳へられしは之が為、即ち死者が人の通例に從ひて、肉身は審判を受けたりとも、霊は神によりて活きん為なり。 060 1PE 004 007 第一項 現に守るべき行状。 第三編 キリスト教會の内面の生活に関する勧。 萬物の終は已に近づけり、然れば汝等慎み祈りつつ警戒せよ。 060 1PE 004 008 何事よりも先に互に厚き愛を有せよ、愛は多くの罪を覆へばなり。 060 1PE 004 009 苦情なく相接待し、 060 1PE 004 010 各受けたる賜に應じて神の様々なる恩寵の善き分配者として、互に之を供給せよ。 060 1PE 004 011 即ち人語る時は神の御言を語るが如くし、務むる時は神の賜へる能力を以てするが如くすべし。是神が一切に於てイエズス、キリストを以て尊ばれ給はん為にして、光榮と主権と世々之に歸す、アメン。 (aiōn g165) 060 1PE 004 012 至愛なる者よ、汝等を試みんとする火の如き苦を、新奇なるものの到來せるが如くに怪しむ勿れ、 060 1PE 004 013 却てキリストの苦に與る者として喜べ、是其光榮の顕れん時、汝も亦喜に耐へざらん為なり。 060 1PE 004 014 汝等若キリストの御名の為に侮辱せらるる事あらば福なるべし、其は光榮の霊、即ち神の霊汝等の上に止り給へばなり。 060 1PE 004 015 然れど或は人殺、或は盗人、或は惡漢、或は他人の事に立入る者として苦しめらるる者は、汝等の中に一人も之あるべからず。 060 1PE 004 016 若キリスト信者として苦しめられなば耻づる事なく、却て此名に對して神に光榮を歸し奉るべし。 060 1PE 004 017 蓋時は來れり、審判は神の家より始まらんとす、若我等より始まらば、神の福音を信ぜざる人々の果は如何に成るべき。 060 1PE 004 018 若又義人にして辛く救はれなば、敬虔ならざる者と罪人とは何處にか立つべき。 060 1PE 004 019 然れは神の思召に從ひて苦しむ人々は善を為して、眞實にて在す造物主に其魂を頼み奉るべきなり。 060 1PE 005 001 第二項 牧師及び信徒に関する特別の勧告。 汝等の中の長老には、我も共に長老として、又キリストの苦難の證人として、将來顕るべき光榮に與る者として希ふ。 060 1PE 005 002 汝等の中に在る所の神の羊の群を牧せよ、之を監督するに、強ひられてせずして喜びて神の御為にし、耻かしき利の為にせずして特志を以て行ひ、 060 1PE 005 003 托せられたる人々を壓制せずして、心より群の模範と成るべし。 060 1PE 005 004 然らば大牧者の顕れ給はん時、汝等凋まざる光榮の冠を得べし。 060 1PE 005 005 若き者よ、汝等も亦長老に服せよ、皆互に謙遜を帯びよ、神は傲慢なる者に逆らひて、謙遜なる者に恩寵を賜へばなり。 060 1PE 005 006 然れば汝等、神の全能なる御手の下に謙れ、然せば時至りて彼汝等を高め給はん。 060 1PE 005 007 思ひ煩ふ所を悉く神に委ね奉れ、神は汝等の為に慮り給へばなり。 060 1PE 005 008 汝等節制して警戒せよ、其は汝等の仇なる惡魔は、吼ゆる獅子の如く、食盡すべきものを探しつつ行廻ればなり、 060 1PE 005 009 汝等此世に在る兄弟等の同じく苦しめる事を知りて、信仰に心を堅めて之に抵抗せよ。 060 1PE 005 010 一切の恩寵の神はキリスト、イエズスによりて其永遠の光榮に汝等を呼び給ひしものなれば、聊苦しみたる上は、御自ら完全にし堅うし強からしめ給はん、 (aiōnios g166) 060 1PE 005 011 光榮と主権と世々之に歸す、アメン。 (aiōn g165) 060 1PE 005 012 結末。 忠信なる兄弟シルヴァノを以て我が汝等に書贈りし所は、我思ふに簡単なり。是此神の恩寵の眞なる事を勧告し、且保證するもののにして、汝等宜しく之に立つべし。 060 1PE 005 013 汝等と共に選まれてバビロンに在る教會、及び我子マルコは汝等に宜しくと言へり。 060 1PE 005 014 愛の接吻を以て互に宜しく傳へよ。願はくは、キリストに在る汝等一同に平安あらん事を、アメン。 # # BOOK 061 2PE 2 Peter ペテロの手紙第二 061 2PE 001 001 イエズス、キリストの僕たり且使徒たるシモン、ペトロ、我神にして救主に在すイエズス、キリストの義によりて、我等と等しき信仰を得たる人々に[書簡を贈る]。 061 2PE 001 002 願はくは、神及び我主イエズス、キリストを熟知し奉る事によりて、恩寵と平安と汝等に加はらん事を。 061 2PE 001 003 第一項 益徳行を積むべき必要及び其所以。 キリストの神にて在せる大能は、其固有の光榮と能力とに由りて我等を召し給ひし神を知らしめて、総て生命と敬虔とに益する所のものを我等に賜ひしものなれば、 061 2PE 001 004 又其光榮と能力とに由りて最も大いなる尊き約束を賜ひしは、汝等をして依りて以て此世に於る情慾の腐敗を避けて、神の本性に與る者たらしめ給はん為なれば、 061 2PE 001 005 汝等も亦十分に注意して、汝等の信仰に徳を加へ、徳に學識、 061 2PE 001 006 學識に節制、節制に忍耐、忍耐に敬虔、 061 2PE 001 007 敬虔に兄弟的相愛、兄弟的相愛に愛[徳]を加へよ。 061 2PE 001 008 蓋若是等の事汝等にありて増加せば、汝等をして我主イエズス、キリストを識り奉るに於て、働かざるもの果を結ばざるものたらしめじ。 061 2PE 001 009 是等の事なき人は盲にして遠く見る能はず、其既往の罪を潔められし事を忘れたる者なり。 061 2PE 001 010 然れば兄弟等よ、汝等の召されし事、選まれし事を、善業を以て愈固うするに努めよ、然て之を為すに於ては何時も躓く事なかるべし。 故に汝等が現に此眞理を知り、且固く此上に立てるに拘はらず、我尚常に汝等をして是等の事を記憶せしめんとす。 061 2PE 001 011 其は我主にして救主に在すイエズス、キリストの永遠の國に入るの恵を豊に加へらるべければなり。 (aiōnios g166) 061 2PE 001 013 思ふに我が此幕屋に居る間は、此記憶を以て、汝等を励ますを至當なりとす。 061 2PE 001 014 我は我主イエズス、キリストの示し給ひし所に從ひて、我が此幕屋を下す事近きに在りと確信するが故に、 061 2PE 001 015 世を去りし後も汝等をして、屡是等の事を思出さしむる様勉めんとす。 061 2PE 001 016 蓋我等が主イエズス、キリストの能力と降臨とを汝等に告知らせしは、巧なる寓言に基けるに非ずして、其威光の目撃者とせられてなり。 061 2PE 001 017 即ち彼は神にて在す父より尊厳と光榮とを賜はり、偉大なる光榮より聲之が為に下りて、「是ぞ我心を安んぜる我愛子なる、之に聞け」、と言はれしなり。 061 2PE 001 018 我等彼と共に聖山に在りし時、此聲の天より來りしを親しく聞けり。 061 2PE 001 019 又尚固くせられし預言者の言我等に在り、汝等之を以て暗き所を照らす燈とし、夜明けて日の汝等の心の中に出づるまで之を省みるを善しとす。 061 2PE 001 020 先斯事を知るべし、即ち聖書の預言は総て一個人の解釈を以て解せらるるものに非ず、 061 2PE 001 021 其は預言は昔人意に由りて齎されずして、神の聖人等が聖霊に感動せられて語りしものなればなり。 061 2PE 002 001 第二項 偽教師に對する事。 民の中には偽預言者すら在りしが、斯の如く汝等の中にも亦偽教師ありて、亡の異端を齎し、己を贖ひ給ひし主を否み、速なる亡を己に招かんとす。 061 2PE 002 002 而して多くの人は彼等の放蕩に倣ひ、眞理の道は彼等の為に罵らるべし。 061 2PE 002 003 彼等は貪欲なるが故に、空言を以て汝等に就きて利する所あらんとする者にして、其審判は昔よりありて今に歇まず、而して其亡は眠らざるなり。 061 2PE 002 004 蓋神は罪を犯したる天使等を赦し給はずして、之を地獄の暗黒に繋置き、苦に委ねんとして審判を待たせ給ひ、 (Tartaroō g5020) 061 2PE 002 005 又昔の世を赦し給はずして、義の宣教者たるノエの一家八人を守り、敬虔ならざる者の世に洪水を至らしめ給ひ、 061 2PE 002 006 ソドマ、ゴモラの都會を化して灰と成らしめ、不敬虔に生活すべき人々の見せしめとして、之を全滅に處し給ひ、 061 2PE 002 007 又義人ロトが非道の人々より侮辱と放蕩なる振舞とを以て悩まさるるを救出し給へり。 061 2PE 002 008 其は此義人彼等の中に住み、彼等が不義の行を見聞きして、日々に其正しき心を痛め居たればなり。 061 2PE 002 009 主は敬虔なる者を患難より救ふ事、又審判の日に罰せらるる様不義者を保留する事を知り給ふ。 061 2PE 002 010 況や肉に從ひて穢らはしき情慾の中に歩み、主権を軽んじ、大膽横柄にして光榮あるものを罵るを畏れざる人々をや。 061 2PE 002 011 能力と権威とに於て[彼等に]優れる天使等すら、光榮あるものに對して侮辱の評を加へざるに、 061 2PE 002 012 彼等は恰も捕へられて屠られん為に生れたる智恵なき獣に齊しくして、己が知らざる事を罵りて不義の報を受け、亡に歸すべし。 061 2PE 002 013 彼等は實に汚染なり、汚穢なり、一日の愉快を樂とし、肉の歓樂を求め、其會食に於て汝等と共に放蕩を極め、 061 2PE 002 014 其目は姦通に充ち、罪に飽かず、精神堅固ならざる者を誑し、其心は貪欲に鍛錬して詛の子たり。 061 2PE 002 015 不義の報酬を好みしボゾルの子バラアムの道を辿り、正しき道を離れて迷へり。 061 2PE 002 016 彼は其罪を咎められて、言はぬ驢馬は人の聲にて語り、以て預言者の愚を戒めたりしが、 061 2PE 002 017 彼等は水なき井、嵐に吹遣らるる雲にして、之に殘るは闇の暗さなり。 061 2PE 002 018 蓋傲慢の大言を語りて迷へる者に暫し遠ざかりたる人々を、放蕩を以て肉慾に誘ひ、 061 2PE 002 019 之に約するに自由を以てすれども、自らは腐敗の奴隷たり、其は人物に勝たるれば其奴隷と成ればなり。 061 2PE 002 020 抑彼等は我主にして且救主に在すイエズス、キリストを知り奉りし為に、一旦世間の穢に遠ざかりて後、再び之に負けて纏らるれば、其後の状態は前に優りて惡く成れり。 061 2PE 002 021 蓋義の道を知らざるは、寧之を知りて後、傳へられたる聖誡を遠ざかるよりは彼等に取りて優りし也。 061 2PE 002 022 眞の諺に、其吐きたるものに還れる犬と云ひ、洗潔められて泥の中に転べる牝豚と云へるは彼等に當れり。 061 2PE 003 001 第三項 キリストの降臨及び世の終。 至愛なる者よ、我が今此第二の書簡を贈るは、此兩の書簡を以て汝等の正直なる理性を喚起し、 061 2PE 003 002 聖なる預言者等の預め語りし言、及び汝等の使徒等の傳へし、救主にて在す主の命令を記憶せしめん為なり。 061 2PE 003 003 先此事を知るべし、末の日には、己の慾に從ひて歩める嘲弄者等來りて言はん、 061 2PE 003 004 其降臨の約束は何處にかある、先祖等の眠りし以來、開闢の初に齊しく、総て變わる事なきに、と。 061 2PE 003 005 彼等は、故に次の事を知らざるが如し。即ち原天あり、地も亦神の御言によりて、水より出でて水を以て成立ちたりしに、 061 2PE 003 006 其時の世は、又神の御言と水とにより、水に溺れて亡びたりき。 061 2PE 003 007 然るに今在る所の天と地とは、同じ御言を以て保存せられ、火に焼かれん為に、敬虔ならざる者の審判と亡との日まで保たるるなり。 061 2PE 003 008 至愛なる者よ、汝等斯一事を知らざるべからず、即ち主に於ては一日は一千年の如く、一千年は一日の如し。 061 2PE 003 009 或人々の思へるが如くに、主は御約束を延し給ふに非ず、唯人の亡ぶるを好み給はずして皆改心するに至らんことを好み給ふにより、汝等の為に忍耐を以て處置し給ふなり。 061 2PE 003 010 然れど主の日は盗人の如く來るべし、其時天は大いなる轟を以て去り、物質は焼毀れ、地と其上なる被造物とは焼毀びん。 061 2PE 003 011 斯の如く萬物の毀るべきを覚りて、汝等は如何にも聖なる行状及び敬虔の業に於て、 061 2PE 003 012 主の日の來るを待ち、且之を早むべきなり。彼日に當りて、天は燃毀れ、物質は火勢を以て鎔かさるべし。 061 2PE 003 013 然れど我等は其約束に從ひて、義の住む所の新しき天と新しき地とを待つなり。 061 2PE 003 014 是故に、至愛なる者よ、自ら是等の事を待ちつつ、平和に於て汚染なく瑕疵なく認められん事を努めよ。 061 2PE 003 015 又我主の忍耐を救なりと思へ。我等が至愛の兄弟パウロが、其賜はりたる知識を以て汝等に書贈り、 061 2PE 003 016 又凡ての書簡に於て是等の事に就きて語りしが如し。彼が書簡には往々暁り難き所ありて、無學者と心の堅からざる者とは、他の聖書を曲解するが如く、之をも曲解して自ら亡に至る。 061 2PE 003 017 然れば兄弟等よ、汝等は豫め之を知りて注意せよ、不法人の迷に誘はれて己が堅固を失ふこと勿れ。 061 2PE 003 018 却て益恩寵を増し、益我主にして且救主にて在すイエズス、キリストを識り奉ることを努めよ。今も永遠の日にも、光榮彼に歸す、アメン。 (aiōn g165) # # BOOK 062 1JO 1 John ヨハネの手紙第一 062 1JO 001 001 生命の御言に就きて、素より在りたりし所、我等の聞きし所、目にて見し所、熟眺めて手にて扱ひし所、 062 1JO 001 002 即ち生命[たるもの]顕れ給へり、我等は曾て父の御許に在して、我等に顕れ給ひし永遠の生命を見奉り、之を保證し且汝等に告ぐるなり。 (aiōnios g166) 062 1JO 001 003 我等が見聞せし所を汝等にも告ぐるは、汝等をも我等に與せしめ、且我等の與をして父と其御子イエズス、キリストと共に在らしめん為、 062 1JO 001 004 之を書贈るは(汝等が喜びて)其喜の全からん為なり。 062 1JO 001 005 第一項 神は光にて在せば、我等は光の子として生活すべし。 然て我等がキリストより承りて汝等に傳ふる所の告は斯なり、神は光にて在し、之に聊も暗黒ある事なし、 062 1JO 001 006 我等若彼に與し奉ると言ひて暗黒を歩まば、是僞りて眞を行はざるなり。 062 1JO 001 007 然れど彼が光に在すが如く、我等も光の中に歩まば、是互に相與して、其御子イエズスの御血は、我等を凡て罪より潔むるなり。 062 1JO 001 008 若我等罪なしと言はば、自ら欺く者にして、眞理は我等の中に在らず。 062 1JO 001 009 若我等罪を告白せば、神は眞實正義に在して我等の罪を赦し、我等を凡て不義より潔め給ふべし。 062 1JO 001 010 若我等罪を犯したる事なしと言はば、神を虚言者とし奉るものにして、御言我等に在らざるなり。 062 1JO 002 001 我小子よ、是等の事を汝等に書贈るは、汝等が罪を犯さざらん為なり。然れど若罪を犯したる者あらば、我等は父の御前に辯護者を有せり。是即ち義者イエズス、キリストにして、 062 1JO 002 002 彼は我等が罪の贖にて在す、啻に我等の罪のみならず、全世界の罪に對しても亦然るなり。 062 1JO 002 003 我等御掟を守る時に、是によりて彼を識り奉れる事を覚る。 062 1JO 002 004 自ら彼を識り奉れりと言ひて御掟を守らざる人は、虚言者にして眞理其衷に在らず。 062 1JO 002 005 其御言を守る人には、神に對するの愛ありて完全なり。我等は是によりて、己の彼に在る事を覚る。 062 1JO 002 006 彼に止り奉ると言ふ人は、己も亦彼が歩み給ひし如くに歩まざるべからず。 062 1JO 002 007 至愛なる者よ、我が汝等に書贈るは新しき掟に非ず、汝等が初より受けたる古き掟にして、古き掟とは汝等の聞きし御言なり。 062 1JO 002 008 又新しき掟を汝等に書贈る。是は彼に於ても汝等に於ても等しく眞なり、其は暗黒過去りて眞の光既に照ればなり。 062 1JO 002 009 自ら光に在りと言ひて己が兄弟を憎む人は、今に至るまで暗黒の衷に居るなり。 062 1JO 002 010 己が兄弟を愛する人は、光に止まりて、彼には躓く所なし。 062 1JO 002 011 然れど己が兄弟を憎む人は、暗黒に在りて暗黒に歩み、暗黒の為に目を眩されたるが故に、往くべき所を知らざるなり。 062 1JO 002 012 小子よ、我が汝等に書贈るは、汝等の罪キリストの御名によりて赦されたるが故なり。 062 1JO 002 013 父等よ、我が汝等に書贈るは汝等が初より存し給へるものを識りたるが故なり。青年等よ、我が汝等に書贈るは、汝等が惡魔に勝ちたる故なり。 062 1JO 002 014 子兒等よ、我が汝等に書贈りしは、汝等が父を識り奉れる故なり。父等よ、我が汝等に書贈りしは、汝等が父を識り奉りたりし故なり。若き者よ、我が汝等に書贈りしは、汝等が強くして神の御言汝等の衷に止り、汝等惡魔に勝ちたる故なり。 062 1JO 002 015 世及び世に在る事を愛する勿れ、人若世を愛せば父に對する愛之に存する事なし、 062 1JO 002 016 其は総て世に在る事、肉の慾、目の慾、生活の誇は父より出でずして世より出づればなり。 062 1JO 002 017 而して世も其慾も過去れど、神の御旨を行ふ人は限なく存するなり。 (aiōn g165) 062 1JO 002 018 小子よ、末の時なり、曾て非キリスト來ると汝等の聞きし如く、今既に非キリストと成れるもの多し。我等は之によりて末の時なるを知る。 062 1JO 002 019 彼等は我等の中より出でたれど、素より我等のものたらざりき。若我等のものたりしならば、我等と共に止りしならん、然るに[斯の如くなるは]彼等が皆我等のものたらざる事の明に成らん為なり。 062 1JO 002 020 汝等は聖なるものより注油せられて、一切の事を識れり。 062 1JO 002 021 我が汝等に書贈りしは、眞理を知らざる者としてに非ず、之を知り、又偽は総て眞理より出でざる事を知れる人として書贈れるなり。 062 1JO 002 022 僞る者は誰ぞ、イエズスのキリストにて在す事を否める人に非ずや。御父及び御子を否める人、是こそは非キリストなれ。 062 1JO 002 023 総て御子を否める人は御父をも有し奉らず、御子を宣言する人は御父をも有し奉るなり。 062 1JO 002 024 願はくは汝等が初より聞きし所汝等の衷に止らん事を。若初より聞きし所汝等の衷に止らば、汝等も亦御子及び御父の衷に止り奉らん。 062 1JO 002 025 夫御子が自ら我等に約し給ひし約束は、即ち永遠の生命なり。 (aiōnios g166) 062 1JO 002 026 我汝等を惑はす人々に就きて是等の事を書贈りたれども、 062 1JO 002 027 汝等は彼より賜はりし注油其身に止りて、人に教へらるるを要せず、其注油は萬事に就きて汝等を教へ、而も眞にして偽に非ず、汝等其教へたる儘に之に止れ。 062 1JO 002 028 小子よ、卒主の衷に止り奉れ、然らば其顕れ給はん時、我等は憚る所なく、其降臨に於て彼より辱められじ。 062 1JO 002 029 第二項 神は義にて在せば我等は義に據るべし。 汝等神が義にて在すことを識らば、又義を為す人の彼より生れ奉りしを辨へよ。 062 1JO 003 001 我等が神の子等と稱せられ、且然あらん為に父の我等に賜ひし愛の如何なるかを看よ。世の我等を知らざるは、彼を知り奉らざるが故なり。 062 1JO 003 002 至愛なる者よ、我等は今實に神の子等たり、然れど其如何に成るべきかは未顕れず、我等は其顕れん時、我等が神に似奉るべきを知れり、其は之を有の儘に見奉るべければなり。 062 1JO 003 003 総て此希望を有する人は、尚彼も潔く在すが如く、己を潔からしむ。 062 1JO 003 004 総て罪を犯す人は律法を犯す、即ち罪は律法を犯す事なり。 062 1JO 003 005 又イエズスの顕れ給ひしは我等の罪を除かん為にして、彼に聊の罪なき事は汝等の知る所なり。 062 1JO 003 006 総て彼に止る者は罪を犯さず、総て罪を犯す人は彼を見奉りし事なく彼を識り奉る事なし。 062 1JO 003 007 小子よ、誰にも惑はさるる事勿れ、義を為す者は義人なり、猶彼が義人にて在すがごとし。 062 1JO 003 008 罪を為す者は惡魔よりの者なり、其は惡魔は初より罪を為す者なればなり。神の御子の顕れ給ひしは、惡魔の業を亡ぼし給はん為なり。 062 1JO 003 009 総て神によりて生れ奉りし人は罪を為さず、其は御種之に存すればなり。又罪を為す能はず、其は神によりて生れ奉りたればなり。 062 1JO 003 010 神の子等と惡魔の子等とは、是に於て乎明に顕る、即ち総て義を為さざる人は神よりの者に非ず、兄弟を愛せざる人も亦然り、 062 1JO 003 011 其は互に相愛せよとは汝等が初より聞きし告なればなり。 062 1JO 003 012 カインの如く為すべからず、彼は惡しきものより[の人]にして弟を絞殺ししが、之を絞殺ししは何故ぞ、己が業は惡くして弟の業は正しかりし故なり。 062 1JO 003 013 兄弟等よ、世の汝等を憎むを怪しむ事勿れ、 062 1JO 003 014 我等は兄弟を愛するによりて死より生命に移されたるを知れり、愛せざる人は死に止る。 062 1JO 003 015 総て己が兄弟を憎む人は人殺者なり、総て人殺者は永遠の生命の其身に止る事なきは汝等の知る所なり。 (aiōnios g166) 062 1JO 003 016 我等が愛を覚りたるは、キリストが我等の為に生命を棄て給ひしを以てなり、我等も亦兄弟の為に生命を棄つべし。 062 1JO 003 017 此世の財産を有てるもの、兄弟の窮乏せるを見つつ、之に己が腸を閉ぢなば、争でか神に對する愛の之に止る事を得んや。 062 1JO 003 018 我小子よ、我等は言と舌とを以て愛すべからず、行と眞とを以てすべし。 062 1JO 003 019 之を以て我等が自ら眞理によれる事を知る、又御前に於て我心を勧めん、 062 1JO 003 020 蓋我等の心我等を咎むるも、神は我等の心より偉大に在して萬事を知り給ふなり。 062 1JO 003 021 至愛なる者よ、若我等の心我等を咎めずば、神の御前に於て憚る所なし、 062 1JO 003 022 又何事を願ふも之を賜はるなり、其は神の掟を守りて御意に適ふことを行へばなり。 062 1JO 003 023 斯て其掟は、即ち御子イエズス、キリストの御名を信じ奉り、且其我等に命じ給ひし如く互に相愛すべき事是なり。 062 1JO 003 024 神の掟を守る人は神に止り奉り、神も亦是に止り給ふ。我等が神の我等に止り給ふ事を知るは、其我等に賜ひし[聖]霊によりてなり。 062 1JO 004 001 至愛なる者よ、汝等凡ての霊を信ぜずして、霊の神よりのものなりや否やを試みよ、其は多くの偽預言者世に出でたればなり。 062 1JO 004 002 神の霊は斯を以て知るべし、即ち肉身に於て來り給ひしイエズス、キリストを宣言する霊は、総て神よりのものなり。 062 1JO 004 003 又イエズスを宣言せざる霊は、総て神よりのものに非ず、是非キリストの霊なり。汝等曾て彼の來るを聞きしが、彼今已に世に居るなり。 062 1JO 004 004 小子よ、汝等は神よりのものにして、彼偽預言者に勝てり、是汝等に在せるものは、世に在るものより優り給へばなり。 062 1JO 004 005 彼等は世よりのものなれば世に從ひて語り、而して世は彼等に聴く。 062 1JO 004 006 我等は神よりのものなり、神を識り奉る人は我等に聴き、神よりならざる人は我等に聴かず。我等は是を以て眞理の霊と誤謬の霊とを識る。 062 1JO 004 007 第一款 愛の起源、好果及び徴。 第三項 神は愛にて在せば我等は愛を有せざるべからず。 至愛なる者よ、我等は相愛すべし、是愛は神より出で又総て愛する人は神より生れて神を識り奉る者なればなり。 062 1JO 004 008 愛せざる人は神を識り奉らず、蓋神は愛にて在す。 062 1JO 004 009 神の愛の我等に於て顕れしは、神が我等をして是によりて活きしめん為に、其御獨子を世に遣はし給ひしを以てなり。 062 1JO 004 010 愛とは斯なり、即ち我等が先に神を愛し奉りしに非ずして、神御自ら先に我等を愛し給ひ、我等の罪の為に御子を贖として遣はし給ひしなり。 062 1JO 004 011 至愛なる者よ、神の我等を愛し給ひし事斯の如くなれば、我等も亦相愛すべきなり。 062 1JO 004 012 誰も曾て神を見奉りし事なし、我等にして相愛せば、神我等の衷に止り給ひて、之を愛し奉る愛は我等に於て完全なり。 062 1JO 004 013 我等が神に止り奉る事と神が我等に止り給ふ事とを知るは、神が其霊を我等に賜ひしによりてなり。 062 1JO 004 014 父が御子を世の救主として遣はし給ひし事は、我等目撃して之を證す。 062 1JO 004 015 凡そイエズスが神の御子にて在すことを宣言する者は、神之に止り給ふ、彼も亦神に止り奉る、 062 1JO 004 016 神の我等に對して有し給へる愛は、我等こそ之を知り、且信じたる者なれ。神は愛にて在す、而して愛に止る者は神に止り奉り、神も亦之に止り給ふ。 062 1JO 004 017 愛が我等に於て完全なるは、我等が審判の日に憚る所なからん為なり、其は我等は此世に於て主に似奉ればなり。 062 1JO 004 018 愛には懼れなし、懼れは苦罰を含むが故に、完全なる愛は懼を除く、懼るる者は愛に完全ならざる者なり。 062 1JO 004 019 然れば我等神を愛し奉るべし、神先我等を愛し給ひたればなり。 062 1JO 004 020 人ありて、我神を愛し奉ると言ひつつ己が兄弟を憎まば、これ虚言者なり、蓋目に見ゆる兄弟を愛せざる者争でか見え給はざる神を愛し奉ることを得べき。 062 1JO 004 021 且神を愛し奉る人は己が兄弟をも愛すべしとは、是我等が神より賜はれる掟なり。 062 1JO 005 001 第二款 イエズス、キリストに於る信仰及び其の尊き結果。 総てイエズスのキリストにて在すことを信ずる人は、神より生れ奉りたる者にして、総て生み給ひしものを愛する人は、亦神より生れ奉りたり者をも愛するなり。 062 1JO 005 002 我等は神を愛し奉りて其掟を實行する時、之を以て神の子等を愛する事を知る、 062 1JO 005 003 其は神に對する愛は、其掟を守るに在ればなり。斯て其掟は難きものに非ず。 062 1JO 005 004 蓋総て神より生れ奉りし者は世に勝つ、而して世に勝ちたる勝利は我等の信仰是なり。 062 1JO 005 005 世に勝つ者は誰ぞ、イエズスが神の御子にて在すことを信ずる者に非ずや。 062 1JO 005 006 是ぞ水と血とによりて來り給ひしもの、即ちイエズス、キリストなる、唯水のみに非ず水と血とによりてなり。之を證し給ふものは[聖]霊にして、[聖]霊は眞理にて在す。 062 1JO 005 007 蓋(天に於て證するもの三あり、父と御言と聖霊と是なり、而して此三のものは一に歸し給ふ。 062 1JO 005 008 又地に於て)證するもの三あり、霊と水と血と是なり、而して此三のものは一に歸す。 062 1JO 005 009 我等人の證を受くれば、神の證は更に大いなり、而して神の此證の大いなるは御子に就きて證し給ひしが故なり。 062 1JO 005 010 神の御子を信じ奉る人は己の衷に神の證を有す、神を信ぜざる人は之を虚言者と為し奉る者なり、其は神が御子に就きて為し給へる證を信ぜざればなり。 062 1JO 005 011 其證は是なり、即ち神我等に永遠の生命を賜ひて、此生命は其御子に在り、 (aiōnios g166) 062 1JO 005 012 御子を有し奉る人は生命を有し、御子を有し奉らざる人は生命を有せざるなり。 062 1JO 005 013 結末。 我が是等の事を汝等に書贈るは、神の御子の御名を信じ奉る汝等をして、自ら永遠の生命を有せる事を知らしめん為なり。 (aiōnios g166) 062 1JO 005 014 又御旨に從ひて願ふ時は、何事をも我等に聴き給ふ事は、我等が彼に於て確信し奉る所にして、 062 1JO 005 015 何事を願ふも我等に聴き給ふ事を知れば、亦願ひし所を得べき事をも知れるなり。 062 1JO 005 016 人若己が兄弟の死に至らざる罪を犯すを見ば祈るべし、然らば生命は死に至らざる罪を為せる人に賜はるべきなり。又死に至る罪あれば、我は之が為に願ふべしと言はず。 062 1JO 005 017 凡ての不義は罪なり、又死に至らざる罪あり。 062 1JO 005 018 総て神より生れ奉りたる人は罪を為さず、神より生れ給ひしもの之を守り給ひて、惡魔の之に触るる事なきは我等之を知れり。 062 1JO 005 019 我等は神よりのものにして、世は挙りて惡魔に属する事は我等之を知れり。 062 1JO 005 020 神の御子が我等に眞の神を識らしめ、我等を其眞の御子に在らしめん為に、來りて智識を與へ給へる事は我等又之を知れり。是ぞ眞の神にして又永遠の生命にて在す。 (aiōnios g166) 062 1JO 005 021 小子よ、自ら守りて偶像に遠ざかれ。 # # BOOK 063 2JO 2 John ヨハネの手紙第二 063 2JO 001 001 長老は選を蒙りたる夫人及び其子等、即ち我並に、啻我のみならず、総て眞理を識れる人も亦、 063 2JO 001 002 今我等の中に止りて、而も限なく我等と共に存すべき眞理に對して、眞に愛する所の者に[書簡を贈る]。 (aiōn g165) 063 2JO 001 003 願はくは恩寵と慈悲と平安とが、父にて在す神及び父の御子イエズス、キリストより賜はりて、眞理及び愛に於て汝等と共に在らん事を。 063 2JO 001 004 我汝の子等の中に、我等が父より掟を受け奉りし如くに歩める者あるを認めて、甚だ喜べり。 063 2JO 001 005 夫人よ、今新しき掟を書贈るものとせず、之を初より受けたるものとして相愛せん事を汝に冀ふ。 063 2JO 001 006 愛とは我等が其御掟に從ひて歩むべき事是なり。御掟とは即汝等が初より聞きたるがままに歩むべきもの是なり。 063 2JO 001 007 蓋肉體にて來り給ふイエズス、キリストを宣言せざる、多くの誘惑者世に出でたり、是ぞ誘惑者にして又非キリストなる。 063 2JO 001 008 汝等己に省みて、我等が曾て働きし所を失はず、充満せる報酬を受くる様にせよ。 063 2JO 001 009 総てキリストの教に止らずして退く者は神を有し奉らず、教に止る者は父及び御子を有し奉る。 063 2JO 001 010 若汝等に至る者にして、此教を齎す事なくば、之を家に入るる事なく、之に挨拶すること勿れ。 063 2JO 001 011 其は之に挨拶する人は、其惡しき業に與ればなり。 063 2JO 001 012 書贈るべき事尚多くあれども、我は紙と墨とを以てするを好まず、是汝等の喜の全からん為に、汝等の中に在りて口づから語らん事を希望すればなり。 063 2JO 001 013 選を蒙りたる汝の姉妹の子等、汝に宜しくと言へり。 # # BOOK 064 3JO 3 John ヨハネの手紙第三 064 3JO 001 001 長老は至愛なるガイオ、即ち我が眞に愛せる者に[書簡を贈る]。 064 3JO 001 002 至愛なる者よ、我汝が魂の榮ゆる如くに萬事に於て榮え、且壮健ならん事を祈る。 064 3JO 001 003 或兄弟等來りて、汝の忠實、即ち汝が如何に忠實に歩めるかを證したれば、我甚だ喜べり。 064 3JO 001 004 我に取りて、我子等の忠實に歩めるを聞くに優れる喜びはあらず。 064 3JO 001 005 至愛なる者よ、汝は兄弟等、而も旅人に對して、何事を為すにも忠實に之を為せり。彼等は教會の前に於て汝の愛情を證せしが、 064 3JO 001 006 汝が尚神に相應はしからん様、彼等の旅行を扶けんは然るべき事なり。 064 3JO 001 007 其は彼等は神の御名の為に出立して、何物をも異教人に受けざればなり。 064 3JO 001 008 故に我等は眞理と協力せん為に、宜しく斯の如き人を接待すべきなり。 064 3JO 001 009 我教會に宛てて一筆書贈れり、然れど其中に頭立つ事を好めるデオトレフェス我等を承容れざるなり。 064 3JO 001 010 故に我が至りたらん時、其為す所の業を其心に喚起さんとす。即ち彼は我等を惡口して、而も足らざるものの如く、自ら兄弟等を承容れず、併せて承容れんとする人々を禁め、且教會より追出すなり。 064 3JO 001 011 至愛なる者よ、汝は惡に倣はずして善に倣へ、善を為す人は神よりのものなり。惡を為す人は神を見奉りし事なし。 064 3JO 001 012 デメトリオは衆人にも實際にも證明せられ、我等も亦之が為に證明す、而して我等の證明の眞實なるは汝等之を知れり。 064 3JO 001 013 汝に書贈るべきことは多かりしかども、我は墨筆を以て書贈るを好まず。 064 3JO 001 014 願はくは不日汝を見て、我等口づから相語らん。汝に平安あれかし。友人等は汝に宜しくと言へり。友人等に、各名を斥して宜しく傳へよ。 # # BOOK 065 JUD Jude ユダの手紙 065 JUD 001 001 イエズス、キリストの僕にしてヤコボの兄弟なるユダ、父にて在す神に愛せられ、キリスト、イエズスの為に保たれ、且召され奉りたる人々に[書簡を贈る]。 065 JUD 001 002 願はくは慈悲と平安と慈愛と汝等に加はらん事を。 065 JUD 001 003 至愛なる者よ、我は我等が共同の救霊に就きて汝等に書贈らんことを切に望み、一度聖人等によりて傳へられし信仰の為に力を盡して戰はんことを勧めんとて、汝等に書贈るを必要とせり。 065 JUD 001 004 其は或人々、即ち昔より罪に處せるる様預定せられたる不敬虔なる人々の潜入りて、我神の恩寵を放蕩に易へ、唯一の主宰者にして我主にて在せるイエズス、キリストを否み奉ればなり。 065 JUD 001 005 本文 汝等素より何事をも知れりと雖も、爰に我汝等をして思出さしめんとする事あり。即ち主エジプトの地より民を救出し給ひて後、信ぜざりし人々を亡びし給ひ、 065 JUD 001 006 又己が位を保たず己が居處を棄てたりし天使等を、大いなる日の審判の為に、無窮の縲絏を以て暗黒の中に閉ぢ給ひ、 (aïdios g126) 065 JUD 001 007 又ソドマ、ゴモラ及び其付近の市町は、同じく淫亂に耽り、異なる肉身を冒したるが故に、永遠の火の刑罰を受けて見せしめと為られしなり。 (aiōnios g166) 065 JUD 001 008 斯の如く彼夢想者等も亦肉身を汚し、権力を軽んじ、尊榮を罵る。 065 JUD 001 009 大天使ミカエルは、惡魔と論じてモイゼの屍を争ひし時に、敢て罵るが如き宣告を為さずして、願はくは主汝に命じ給はん事を、と言へり。 065 JUD 001 010 然れども是等の人は総て知らざる事を罵り、無知の畜類の如く自然に知れる事を以て其身を汚すなり。 065 JUD 001 011 彼等は禍なる哉、其はカインの道に行き、又報酬の為にバラアムの迷に流れ、尚コオレの謀反の中に亡びたればなり。 065 JUD 001 012 彼等は憚らずして食し、己を飽足らしめて、汝等の愛餐に於て汚と成り、風に吹遣らるる水なき雲、實らずして再び枯れ、根の抜かれたる秋の末の樹、 065 JUD 001 013 己が醜行を泡立たする海の暴波、暗黒が彼等の為に限なく備はれる惑星なり。 (aiōn g165) 065 JUD 001 014 アダムより七代目なるヘノクは、是等の人をも斥して預言して言へらく、「看よ主は其千萬の聖徒を從へて來り給ひ、 065 JUD 001 015 萬民に對ひて審判を為し、凡ての不敬虔なる者を、其不敬虔に行ひし不敬虔の業と、不敬虔なる罪人が神に對ひ奉りて語りし凡ての暴言とを以て責め給ふべし」と。 065 JUD 001 016 彼等は私慾に從ひて歩み、不満を鳴らして呟く者、其口は大言を語り、利益の為に人に諂ふ者なり。 065 JUD 001 017 至愛なる者よ、汝等は我主イエズス、キリストの使徒等より預言せられし事を記憶せよ。 065 JUD 001 018 即ち彼等謂へらく、末の時には嘲る人々來り、己が望に從ひて不敬虔の業の中に歩まん、と。 065 JUD 001 019 彼等は自ら分裂して肉慾に從ひ、霊を有せざる者なり。 065 JUD 001 020 至愛なる者よ、汝等が至聖なる信仰の上に己を建て、聖霊によりて祈り、 065 JUD 001 021 己を神の愛の中に守り、永遠の生命を得ん為に、我主イエズス、キリストの御慈悲を待て。 (aiōnios g166) 065 JUD 001 022 汝等彼等の中の或者、即ち眞偽を争へる人々を承服せしめ、 065 JUD 001 023 或者を火より取出して救ひ、或者を懼れつつ憫み、肉に汚されたる肌着をも厭ふべし。 065 JUD 001 024 結末 克く汝等を守りて躓かざらしむる事と、(我主イエズス、キリストの降臨の時に)其光榮の御前に汚なく喜ばしく立たしむる事を得給ふもの、 065 JUD 001 025 即ち我主イエズス、キリストによりて、我救主にて在す唯一の神に、萬世の以前に於ても、今に於ても、又萬世に至る迄も、光榮、威光、能力、権能歸す、アメン。 (aiōn g165) # # BOOK 066 REV Revelation ヨハネの黙示録 066 REV 001 001 イエズス、キリストの黙示、即ち必ず速に成るべき事を其僕等に明さしめんとて、神はイエズスに賜ひ、イエズス又其使を遣はして其僕ヨハネに示し給ひ、 066 REV 001 002 ヨハネは神の御言を證し、又イエズス、キリストの證明し給ひし事、総て己が目撃せし事を證したるものなり。 066 REV 001 003 此預言の言を読み且聞きて、是に録したる事を守る人は福なり、其は時近ければなり。 066 REV 001 004 ヨハネ[小]アジアにある七教會に[書簡を贈る]。願はくは現に在し、曾て在し、且來り給ふべきものより、又其玉座の前に在る七霊より、 066 REV 001 005 又イエズス、キリストより、恩寵と平安とを汝等に賜はらん事を。即ちイエズス、キリストは忠實なる證者、死者の中より先ちて生れ給ひしもの、地上の王等の君に在し、我等を愛し給ひ、御血を以て我等を罪より潔め給ひ、 066 REV 001 006 我等を以て其父にて在す神の為に國と為し祭司と為し給ひしものにして、光榮と権威と是に在りて世々に限なし、アメン。 (aiōn g165) 066 REV 001 007 看よ彼は雲に乗りて來り給ふ、凡ての目及び彼を刺貫きし人々も之を見ん、地上の萬民彼の故に歎かん。然り、アメン。 066 REV 001 008 現に在し、曾て在し、且來り給ふべき全能の神にて在す主曰く、我はアルファなり、オメガなり、始なり、終なり、と。 066 REV 001 009 第一編 七教會に贈る書簡 汝等の兄弟にして、キリスト、イエズスに於て患難と國と忍耐とを共にせる我ヨハネ、神の御言の為、及びイエズスを證し奉らん為に、パトモスと云へる島に在りしが、 066 REV 001 010 或主日に當り、氣を奪はるるが如くになりて、我後に喇叭の如き大いなる聲を聞けり、 066 REV 001 011 曰く、汝見る所を書に記して、アジアなるエフェゾ、スミルナ、ベルガモ、チアチラ、サルヂス、フィラデルフィア、ラオヂケアの七教會に贈れ、と。 066 REV 001 012 我己に語れる聲を見んとて顧みしが、顧みれば七の金の燈台あり、七の金の燈台の中央に當りて人の子の如きものあり、 066 REV 001 013 足まで垂れたる衣を着し、胸に金の帯を締め給ひ、 066 REV 001 014 御頭と髪毛とは白き羊の毛の如く又雪の如く白く、御目は燃ゆる焔の如く、 066 REV 001 015 兩の御足は熱き炉に於る青銅の如く、御聲は大水の音の如く、 066 REV 001 016 右の御手には七の星を持ち給ひ、御口より兩刃の利き剣を出し、御顔は日盛に照輝ける太陽の如し。 066 REV 001 017 我之を見るや、死せるが如く御足下に倒れしが、右の御手を我に觸けて曰ひけるは、懼るる勿れ、我は最初のものにして又最終のものなり、 066 REV 001 018 我は活けるものにして死したりしものなり。看よ我は世々に限なく活きて、死と地獄との鍵を有てり、 (aiōn g165, Hadēs g86) 066 REV 001 019 然れば汝が既に見し事、現にある事、此後あるべき事、 066 REV 001 020 又我右の手に見し七の星の奥義と、七の金の燈台の奥義とを書記せ、七の星は七教會の天使にして、七の燈台は七教會なり。 066 REV 002 001 エフェゾ教會の天使に斯く書遣れ、右の御手に七の星を持ち、七の金の燈台の中央に歩み給ふもの曰く、 066 REV 002 002 我は汝の業と働と忍耐とを知り、又汝が惡人を忍び得ざる事と、自ら使徒と稱しつつ然らざる人々を試みて其僞れる者たるを認めし事と、 066 REV 002 003 汝の忍耐ある事と、我名の為に患難を忍びて倦まざりし事とを知れり。 066 REV 002 004 然れども汝に咎むる所あり、即ち汝は最初の愛を離せり、 066 REV 002 005 然れば其何處より堕落せしかを思ひ、改心して最初の業を為せ。若然らずして改心せずば、我汝の許に至り、汝の燈台を其處より取除かん。 066 REV 002 006 然りながら汝に長所あり、即ちニコライ党の業を憎める事にして、我も亦之を憎めるなり。 066 REV 002 007 耳ある者は[聖]霊の諸教會に曰ふ所を聞け、即ち勝利を得たる人には我わが神の樂園に在る生命の樹の果を食せしめん。 066 REV 002 008 又スミルナ教會の天使に斯く書遣れ、最初のものにして最終のものたり、且死したりしに活き給へるもの曰く、 066 REV 002 009 我は汝の患難と貧窮とを知れり、然れど汝は富めり。又自らユデア人と稱しつつ、然らずして、却てサタン教會たる人々に罵らるるなり。 066 REV 002 010 受けんとする苦を一も懼るる事勿れ、看よ惡魔は汝等を試みんとて、汝等の幾人を監獄に入るべく、汝等は十日の間患難に遇はんとす。汝等死に至るまで忠信なれ、然らば我生命の冠を汝に與へん。 066 REV 002 011 耳ある者は[聖]霊の諸教會に曰ふ所を聞け、即ち勝利を得たる人は第二の死に害せられじ。 066 REV 002 012 又ベルガモ教會の天使にかく書遣れ、兩刃の利き剣を持ち給へるもの曰く、 066 REV 002 013 我は汝の何處に住むかを知れり、即ちサタンの座の有る處なり。然るに汝我名を保ちて、我忠信なる證人アンチパスが汝等の中なるサタンの住む處にて殺されし時すら、汝は我に於る信仰を否まざりき。 066 REV 002 014 然れども少しく汝に咎むべき事あり、即ち汝の處にはバラアムの教を保てる人々あり、彼は禁物を食せしめ又私通せしめん為に、躓く物をイスラエルの子等の前に置くべしと、バラクに教へ居りしが、 066 REV 002 015 斯の如く汝の地にニコライ党の教を保てる人々あり。 066 REV 002 016 汝も亦改心せよ、然らずんば我速に汝の許に至り、我口の剣を以て彼等と戰はん。 066 REV 002 017 耳ある者は[聖]霊の諸教會に曰ふ所を聞け、即ち勝利を得たる人に我隠れたるマンナを與へ、又白き石に新しき名を記して與へん、其名は白き石を受くる者の外之を知る者なし。 066 REV 002 018 又チアチラ教會の天使に斯く書遣れ、神の御子、即ち御目は焔の如く、御足は青銅の如くに在すもの曰く、 066 REV 002 019 我は汝の業と信仰と、愛と務と忍耐と、又後の業の前の業より多き事とを知れり。 066 REV 002 020 然れども聊汝に咎むべき所あり、即ち汝は預言者と自稱する婦人イエザベルの、我僕等を教へ且惑はして、私通せしめ偶像に献げられし物を食せしむるを措けり。 066 REV 002 021 我彼婦人に改心すべき暇を與へたれど、敢えて其私通より改心せず、 066 REV 002 022 看よ、我彼を床に臥さしむべく、又彼と共に姦淫を為す人々にして、己が業より改心せずば、大いなる患難に遇ふべく、 066 REV 002 023 我又彼が子等を撃殺すべく、斯て諸教會は我が人の心腸を探るる者たるを知るに至るべく、我又汝等に各其業に應じて報ゆる所あらん。而して汝等、 066 REV 002 024 即ちチアチラに在る他の人々に謂はん、総て彼教を有たざるもの、所謂サタンの奥義を知らざるもの我汝等に他の荷を負はせじ。 066 REV 002 025 但汝等が有てる所を我が來るまで保て、 066 REV 002 026 而して勝利を得て、終まで我業を守りたる人には、與ふるに諸國民に對する権威を以てすべし、 066 REV 002 027 彼は鉄の杖を以て之を治め、彼等は土器の如くに砕かれん、 066 REV 002 028 猶我にも我父より賜はりたるが如し。而して我亦彼人に暁の明星を與ふべし。 066 REV 002 029 耳ある者は[聖]霊の諸教會に曰ふ所を聞け。 066 REV 003 001 又サルジス教會の天使に斯く書遣れ、神の七霊と七の星とを持ち給へるもの曰く、我は汝の業を知れり、即ち汝は活くるの名ありて而も死せるなり、 066 REV 003 002 警戒して将に死せんとする殘を堅固ならしめよ、其は我汝の業が我神の御前に円満ならざるを認むればなり。 066 REV 003 003 然れば汝曾て受けし所聞きし所の如何なりしかを思起し、之を守りて改心せよ、汝警戒せずんば、我盗人の如く汝の許に至るべく、汝は其何れの時に至るかを知らじ。 066 REV 003 004 然りながらサルジスに於て己が衣裳を汚さざりしもの、汝等の中に數人あり、彼等は白衣を着て我と共に歩まん、其は之に値する者なればなり。 066 REV 003 005 勝利を得たる人は斯の如く白衣を着せらるべく、我其名を生命の名簿より消さず、我父の御前にも其使等の前にも、彼の名を宣告すべし。 066 REV 003 006 耳ある者は[聖]霊の諸教會の曰ふ所を聞け。 066 REV 003 007 又フィラデルフィア教會の天使に斯く書遣れ、聖にして信實にて在すもの、ダヴィドの鍵を有し給ひて、開き給へば誰も閉づる事なく、閉ぢ給へば誰も開く事なきもの曰く、 066 REV 003 008 我は汝の業を知れり。看よ、誰も閉ぢ得ざる門を我汝の前に開き置けり、其は汝力乏しと雖も、我言を守りて我名を否まざりし故なり。 066 REV 003 009 看よ我サタン教會の中より、自らユデア人と稱しつつ然らずして僞れる人々を與ふ、看よ、我彼等をして至りて汝の足下に拝伏せしむべく、斯て彼等は我が汝を愛したる事を知るべし。 066 REV 003 010 汝わが忍耐の言を守りし故に、我も亦汝を守りて、地上に住める人々を試みん為に全世界に來るべき試の時に之を免かれしめん。 066 REV 003 011 看よ我速に至る、汝が既に有てるものを保ちて、汝の冠を誰にも奪はるる事勿れ。 066 REV 003 012 我勝利を得たる人をして我神の聖殿に於る柱たらしめん、斯て彼は最早外に出づる事なかるべく、我彼の上に書記すに、我神の御名と我神の都、即ち天より降だれる新しきエルザレムの名と、我が新しき名とを以てすべし。 066 REV 003 013 耳ある者は[聖]霊の諸教會に曰ふ所を聞け。 066 REV 003 014 又ラオディケア教會の天使に斯く書遣れ、アメンなるもの、神の造物の最初にして、忠信眞實にて在せる證者曰く、 066 REV 003 015 我汝の業を知れり、即ち汝は冷かなるにも非ず熱きにも非ざるなり、寧冷かに或は熱くあらばや。 066 REV 003 016 然れど汝は冷かにも熱くも非ずして温きが故に、我は汝を口より吐出さんとす。 066 REV 003 017 蓋汝自ら、我は富めり、豊かにして乏しき所なし、と言ひつつ、其實は不幸にして憫むべく、且貧しく且瞽にして且赤裸なるを知らざるなり。 066 REV 003 018 我汝に勧む、火にて験されし金を、富まん為に我より買へ、又身に纏ひて汝が赤裸の恥を顕さざらん為に、白き衣裳を買へ、又見る事を得ん為に、汝の目に目薬を塗れ。 066 REV 003 019 我は我が愛する人々を責め且懲らすなり、然れば奮發して改心せよ。 066 REV 003 020 看よ、我門前に立ちて敲く、我聲を聞きて我に門を開く人あらば、我其内に入りて彼と晩餐を共にし、彼も亦我と共にすべし。 066 REV 003 021 勝利を得たる人をして、我玉座に我と共に坐するを得しめん事、猶我が勝利を得て我父と共に其玉座に坐せるが如くなるべし。 066 REV 003 022 耳ある者は[聖]霊の諸教會に曰ふ所を聞け、と曰へり。 066 REV 004 001 第一款 豫備の出現 其後我見たるに、折しも天に開けたる門あり、而して我が初に我に語るを聞きし喇叭の如き聲言ひけるは、此處に登れ、我此後に成るべき事を汝に示さん、と。 066 REV 004 002 斯て我忽ち氣を奪はれたるが如くになりしに、折しも天に一の玉座備へられ、其玉座の上に坐し給ふものありて、 066 REV 004 003 其坐し給ふものは碧玉及び赤條瑪瑙の象の如く、又玉座の周圍に緑玉の象の如き虹ありき。 066 REV 004 004 然て玉座の周圍に廿四の高座あり、其高座の上には白衣を纏ひて頭に金冠を戴ける廿四人の翁坐し居れり。 066 REV 004 005 斯て玉座より電光と數多の聲と雷鳴と出でつつありしが、玉座の正面には輝く七の燈火あり、是即ち神の七霊なり。 066 REV 004 006 又玉座の前に水晶に似たる玻璃の海あり、玉座の中央と周圍とに、前後共に目にて満ちたる四の動物ありき。 066 REV 004 007 第一の動物は獅子の如く、第二の動物は犢の如く、第三の動物は人の如き顔ありて、第四の動物は飛ぶ鷲の如し。 066 REV 004 008 此四の動物各六の翼ありて、内外共に目にて満ち、晝夜絶間なく、聖なる哉、聖なる哉、聖なる哉、曾て在し、今も在し、又将に來り給ふべき全能の神にて在す主よ、と言ひ居れり。 066 REV 004 009 斯て此四の動物、玉座に坐し給ひて世々に限なく活き給ふものに、光榮と尊崇と感謝とを歸し奉るに、 (aiōn g165) 066 REV 004 010 廿四人の翁、玉座に坐し給ふものの御前に平伏し、世々に限なく活き給ふものを禮拝し奉り、己が冠を玉座の前に投じつつ、 (aiōn g165) 066 REV 004 011 主にて在す我等の神よ、主こそは光榮と尊崇と能力とを受け給ふべけれ、其は御自ら萬物を創造し給ひ、萬物の存在にして創造せられしは御旨によればなり、と言ひ居れり。 066 REV 005 001 第二款 羔及び七封印の巻物 我又玉座の上に坐し給ふものの右の御手の上に、内外に文字ありて七の印を以て封ぜられたる巻物を見、 066 REV 005 002 又一の強き天使の聲高く、巻物を開きて其封印を解くに堪ふる者は誰ぞ、と布告するを見たり。 066 REV 005 003 而も天にも地上にも地下にも、巻物を開きて之を眺むる事だに能くする者なかりき。 066 REV 005 004 斯て誰も巻物を開きて見るにすら堪へたりと認めらるる者なきにより、我大いに泣き居たりしかば、 066 REV 005 005 翁の一人我に謂ひけるは、泣く勿れ、看よやユダ族の獅子ダヴィドの萌蘗、勝利を得て巻物を開き、其七封印を解くを得給ふと。 066 REV 005 006 我見たるに、折しも玉座と四の動物との中央、翁等の中央に屠られたるが如き羔立ちて、是に七の角あり、又全世界に遣られし神の七霊なる七の眼あり。 066 REV 005 007 羔來りて玉座に坐し給ふものの右の御手より巻物を受けしが、 066 REV 005 008 其巻物を受くるや、四の動物と廿四人の翁とは羔の前に平伏し、各琴[の如きもの]又聖人等の祈なる香の充ちたる金の香炉を持ちて、 066 REV 005 009 新しき賛美歌を謳ひ、主よ汝は巻物を受けて其封印を解くに堪へ給へり、其は屠られ給ひて、御血を以て、神の為に諸族、諸語、諸民、諸國の中より人々を贖ひ、 066 REV 005 010 之を我等の神の為に王たらしめ司祭たらしめ給ひたればなり、彼等は地上を統治すべし、と言ひ居れり。 066 REV 005 011 我尚見たるに、玉座と動物と翁等との周圍に在る、多くの天使の聲を聞けり、其數萬々億々にして、 066 REV 005 012 聲高く言ひけるは、屠られ給ひし羔は、権威と富有と、叡智と能力と、尊貴と光榮と祝福とを受くるに堪へ給ふものなり、と。 066 REV 005 013 又天にも、地上にも地下にも、海上にも何處にも、被造物の悉く言へるを聞けり、玉座に坐し給ふものと羔とに、祝福と尊貴と、光榮と権能と、世々に限なし、と。 (aiōn g165) 066 REV 005 014 而して四の動物はアメンと言ひ、廿四人の翁は平伏して、世々に限なく活き給ふものを禮拝し奉れり。 066 REV 006 001 第三款 六封印解かる 我又見たるに、羔七封印の一を解き給ひしかば、四の動物の一、雷の如き聲して、來りて見よと言へるを聞けり。 066 REV 006 002 又見たるに、折しも一の白馬ありて、之に乗れる者は弓を持ち且冠を授けられ、勝ちて勝たんとて出でたり。 066 REV 006 003 [羔]第二の封印を解き給ひしかば、我第二の動物の、來りて見よ、と言へるを聞けり。 066 REV 006 004 而して又一の赤馬出來りて、之に乗れるものは、地上より平和を取去りて人々をして相殺さしむる事と、大いなる剣とを授けられたり。 066 REV 006 005 [羔]又第三の封印を解き給ひしかば、我第三の動物の、來りて見よと言へるを聞けり。然て一の黒馬ありて、之に乗れる者は手に量を持てり。 066 REV 006 006 斯て四の動物の間に聲の如きものありて、小麦一升、一デナリオ、大麦三升、一デナリオなり、葡萄酒と油とを害ふ勿れ、と言へるを聞けり。 066 REV 006 007 [羔]又第四の封印を解き給ひしかば、我第四の動物の聲の、來りて見よと言へるを聞けり。 066 REV 006 008 折しも死色の馬ありて、之に乗れるものは名を死と云ひ、冥府其後に從ひ、彼は剣と飢饉と死亡と地の猛獣とを以て地上の人の四分の一を殺す権力を授けられたり。 (Hadēs g86) 066 REV 006 009 [羔]又第五の封印を解き給ひしかば、我神の御言の為、及び其為しし證明の為に殺されたる人々の魂、祭壇の下に在るを見たり。 066 REV 006 010 彼等聲高く呼はりて、聖にして眞實にて在せる主よ、何時までか審判し給はずして、地に住める人々に我等が血の復讐を為し給はざる、と言ひ居れり。 066 REV 006 011 斯て各白き衣を授けられ、暫く安んじて己等の如くに殺さるべき同じ僕と兄弟との數の満つるを待て、と謂はれたり。 066 REV 006 012 [羔]又第六の封印を解き給ひしかば、我見たるに、折しも大地震ありて、日は毛衣の如くに黒く成り、月は全面血の如くに成れり。 066 REV 006 013 而して天より星の地上に落つる事、恰も無花果の樹の大風に吹揺らるる時、晩生の果の落つるが如し。 066 REV 006 014 天は巻物を捲くが如くに去り、山と島とは悉く其處を移され、 066 REV 006 015 地上の帝王と大人と、千夫長と富豪と、権力者と、又奴隷も自由なる者も、皆身を洞穴、山の巌の内に匿し、 066 REV 006 016 山と巌とに對ひて言ひけるは、汝等我等が上に墜ちて、玉座の上に坐し給ふものの御顔と羔の御怒とを避けしめよ、 066 REV 006 017 蓋彼等の御怒の大いなる日は來れり、誰か立つ事を得べき、と。 066 REV 007 001 第四款 中間の二の出現 其後我、四の天使地の四隅に立てるを見しが、彼等は地の四方の風を引止め、地上にも海上にも如何なる樹の上にも吹かざらしめんとせり。 066 REV 007 002 此外に又一の天使、活き給へる神の印を持ちて東より上るを見たり。此天使、海陸を害する事を許されたる四の天使に聲高く呼はりて、 066 REV 007 003 言ひけるは、我等我神の僕等の額に印するまで、海にも陸にも樹木にも触るること勿れ、と。 066 REV 007 004 斯て我、イスラエルの子等の諸族中印せられたる者の數を聞きしに、印せられたる者十四萬四千人、 066 REV 007 005 即ちユダ族の中にて一萬二千人印せられ、ルベン族の中にて一萬二千人印せられ、ガド族の中にて一萬二千人印せられ、 066 REV 007 006 アゼル族の中にて一萬二千人印せられ、ネフタリ族の中にて一萬二千人印せられ、マナッセ族の中にて一萬二千人印せられ、 066 REV 007 007 シメオン族の中にて一萬二千人印せられ、レヴィ族の中にて一萬二千人印せられ、イッサカアル族の中にて一萬二千人印せられ、 066 REV 007 008 ザブロン族の中にて一萬二千人印せられ、ヨゼフ族の中にて一萬二千人印せられ、ベンヤミン族の中にて一萬二千人印せられたるなり。 066 REV 007 009 其後我、誰も數ふる事能はざる大群衆を見しが、諸國、諸族、諸民、諸語の中よりして、白き衣を着し、手に棕櫚の葉を持ちて、玉座の前、羔の目前に立ち、 066 REV 007 010 聲高く呼はりて言ひけるは、救霊は玉座に坐し給ふ我神及び羔に歸す、と。 066 REV 007 011 玉座と翁等と四の動物との周圍に立ち居たりし天使一同、玉座の前に平伏し、神を禮拝し奉りて、 066 REV 007 012 言ひけるは、アメン、祝福と光榮と、叡智と感謝と、尊貴と能力と、世々に限なく我神に歸す、アメン、と。 (aiōn g165) 066 REV 007 013 時に翁の一人答へて我に謂ひけるは、白き衣を着せる此人々は誰なるぞ、何處より來れるぞ、と。 066 REV 007 014 我、我君よ、汝こそ知れるなれ、と言ひしに翁我に謂ひけるは、此人々は大いなる患難より來り、羔の血に己が衣を洗ひて白く為したる者なり。 066 REV 007 015 故に神の玉座の前に在りて、其[聖]殿に於て日夜之に事へ奉り、又玉座に坐し給ふものは、彼等の上に幕屋を張り給ふべし。 066 REV 007 016 彼等最早飢渇く事なかるべく、日光も熱氣も彼等に中るべからず、 066 REV 007 017 其は玉座の正面に在せる羔彼等を牧して、之を生命の水の源に導き給ひ、神は彼等の目より凡ての涙を拭ひ給ふべければなり、と。 066 REV 008 001 第一款 豫備の出現 [羔]第七の封印を解き給ひしかば、天上静まりかへる事半時間。 066 REV 008 002 我又見たるに、七の天使神の御前に立ちて七の喇叭を授けられ、 066 REV 008 003 別に又一の天使、金の香炉を持來りて香台の上に立ち、多くの香を授けられしが、是諸聖人の祈に加へて、神の玉座の前なる金の香台の上に献げん為なり。 066 REV 008 004 斯て香の烟は、諸聖人の祈と共に天使の手より神の御前に立昇りしが、 066 REV 008 005 天使香炉を取り、之に香台の火を盛りて地に投げしかば、雷と聲と電光と大地震と起り、 066 REV 008 006 又七の喇叭を持てる七の天使、喇叭を吹かん身構を為せり。 066 REV 008 007 第二款 初の六の喇叭 斯て第一の天使喇叭を吹きしに、血の雑りたる雹と火と起りて地に降らされ、地の三分の一燃上り、樹木の三分の一燃上り、緑草悉く焼盡されたり。 066 REV 008 008 第二の天使喇叭を吹きしに、火の燃ゆる大いなる山の如きもの海に投げられ、海の三分の一血に變じて、 066 REV 008 009 海の中に活ける被造物の三分の一死し、船の三分の一も亡びたり。 066 REV 008 010 第三の天使喇叭を吹きしに、松明の如くに燃ゆる大いなる星天より落ちて、河の三分の一と水の源との上に落ちたり。 066 REV 008 011 此星は名を苦艾と云ひ、水の三分の一は苦艾の如くに成りて、水の苦く成りしが為に多くの人死せり。 066 REV 008 012 第四の天使喇叭を吹きしに、日の三分の一と月の三分の一と打たれしかば、其三分の一は暗み、晝も三分の一は光らず、夜も亦同じ。 066 REV 008 013 我尚見たるに、天の中央を飛べる一の鷲聲高く、禍なる哉、禍なる哉、禍なる哉、地上に住める人々、尚喇叭を吹かんとする三の天使の聲によりて、と言へるを聞けり。 066 REV 009 001 第五の天使喇叭を吹きしに、我一の星の天より地に落ちたるを見たり。然て彼は底なき淵の穴の鍵を授けられ、 (Abyssos g12) 066 REV 009 002 淵の穴を開きしかば、大いなる炉の烟の如き烟穴より立昇りて、日も空も穴の烟の為に暗まされたり。 (Abyssos g12) 066 REV 009 003 又穴の烟より蝗地上に出でて、地の蠍の如き力を授けられ、 066 REV 009 004 地の草、凡ての青物、及び如何なる樹木をも害する事なく、唯己が額に神の印を有せざる人々をのみ害すべき事を命ぜられたり。 066 REV 009 005 但之を殺す事なく、五箇月の間苦しむる力を授けられ、其苦は蠍の人を刺したる時の苦に等し。 066 REV 009 006 此時人々死を求めて而も之に遇はず死を望みて而も死は彼等を遠ざかるべし。 066 REV 009 007 彼蝗の状は戰に備へたる馬に似て、頭には金に似たる冠の如きものあり、顔は人の顔の如く、 066 REV 009 008 女の髪毛の如き毛ありて、歯は獅子の歯に等しく、 066 REV 009 009 鉄の鎧の如き鎧ありて、翼の音は多くの馬に曳かれて戰場に走る車の音の如く、 066 REV 009 010 尚蠍の如き尾ありて、其尾に刺あり、其力は五箇月の間人を害すべし。 066 REV 009 011 此蝗を司る王は底なき淵の使にして、名はヘブレオ語にてアバッドン、ギリシア語にてアポルリオンと云ひ、ラテン語[の意味]は破壊者なり。 (Abyssos g12) 066 REV 009 012 一の禍過ぎて尚二の禍來らんとす。 066 REV 009 013 第六の天使喇叭を吹きしかば我聞きたるに、神の御目前なる金の香台の四隅より一の聲出で、 066 REV 009 014 喇叭を持てる第六の天使に謂ひけるは、ユウフラテの大河の辺に繋がれたる四の天使を免せ、と、 066 REV 009 015 斯て年月日時を期して人間の三分の一を殺さんと構へたる、四の天使免されたり。 066 REV 009 016 騎兵の數は二億にして我其數を聞けり。 066 REV 009 017 然て我幻影に其馬を見しが、之に乗れる者は緋色、紫色、硫黄色の鎧を着け、馬の頭は獅子の頭の如くにして、其口より火と烟と硫黄と出で、 066 REV 009 018 此三の禍、即ち其口より出づる火と烟と硫黄との為に人間の三分の一殺されたり。 066 REV 009 019 其馬の力は口と尾とに在り、其尾は蛇の如くにして頭を備へ、之を以て害を加ふるなり。 066 REV 009 020 是等の禍によりて殺されざりし人々は、尚其手の業より改心せずして惡鬼等を拝し、見聞き歩む事を得ざる金、銀、銅、木、石の偶像を拝する事を歇めず、 066 REV 009 021 其殺人、其害毒、其私通、其窃取の罪よりも改心せざりき。 066 REV 010 001 第三款 第七の喇叭に先てる中間の二出現 我又見たるに、別に天より下る一の強き天使ありて、身には雲を纏ひ、頭には虹あり、其顔は日の如く、其足は火柱の如く、 066 REV 010 002 手には開きたる小き巻物あり、右の足を海の上に、左の足を地の上に踏み、 066 REV 010 003 獅子の吼ゆるが如き大いなる聲して叫びしが、叫び終りて七の雷聲を出せり。 066 REV 010 004 然て七の雷聲を出したる時、我之を書記さんとせしに、天より聲ありて、七の雷の語りし事を封じて、之を書記すこと勿れと我に謂へるを聞けり。 066 REV 010 005 斯て前に見たりし海陸の上に跨りて立てる天使、右の手を挙げて天を指し、 066 REV 010 006 世々に限なく活き給ひ、天と之に有らゆるものと、地と之に有らゆるものと、海と之に有らゆるものとを造り給ひしものを指して誓ひ言ひけるは、最早時あらざるべし、 (aiōn g165) 066 REV 010 007 然れど第七の天使の聲を出し、喇叭を吹始むる時に至りて、神の奥義は其僕なる預言者等を以て幸に告げ給ひしが如く成就すべし、と。 066 REV 010 008 又天より聲聞えて、再び我に語り、往きて海陸に跨りて立てる天使の手より、開きたる巻物を取れと言ひしかば、我天使の許に至りて、我に巻物を與へよ、と言ひしに彼我に謂ひけるは、 066 REV 010 009 巻物を取りて食盡せ、汝の腹を苦からしめんも、口には蜜の如く甘かるべし、と。 066 REV 010 010 斯て我天使の手より巻物を受けて之を食盡ししに、我口に在りては蜜の如く甘かりしも、食盡して後我腹は苦く成れり。 066 REV 010 011 又我に謂ふものあり、汝は多くの民族と國民と、國語と國王に就きて、再び預言せざるべからず、と。 066 REV 011 001 斯て我杖の如き葦の測量竿與へられて謂れけるは、起きよ、神の聖殿と祭壇と、其處に禮拝する人々とを度れ。 066 REV 011 002 然れど殿外の庭は、措きて之を度ること勿れ、其は異邦人に委ねられたればなり。而して彼等は四十二箇月の間、聖なる都を踏荒さんとす。 066 REV 011 003 我わが二個の證人に力を與へん、斯て彼等毛衣を着て、一千二百六十日の間預言すべし。 066 REV 011 004 彼等は地の主の御前に立てる二の橄欖樹、二の燈台なり。 066 REV 011 005 若是等を害せんとする人あらば、火其口より出でて其敵を亡ぼさん。若彼等を傷はんとする人あらば、斯の如くにして亡ぼさるべし。 066 REV 011 006 彼等は預言する間、雨をして降らざらしむべく、天を閉づる力あり、又水をして血に變ぜしめ、思ふが儘に幾度も有らゆる天災を以て地を打つの力あり。 066 REV 011 007 彼等其證明を終へたらん後は、底なき淵より上る獣ありて彼等と戰を為し、勝ちて之を殺すべく、 (Abyssos g12) 066 REV 011 008 其屍は例へばソドマともエジプトとも名づけらるる大都會、即ち彼等の主の十字架に釘けられ給ひし所の衢に遺らん。 066 REV 011 009 且諸族、諸民、諸語、諸國に属する人、三日半の間其屍を見るも之を墓に収むるを許さじ。 066 REV 011 010 地上に住める人は之が為に歓樂しみ、且互に禮物を贈らん、其は彼二人の預言者地上の人を苦しめたればなり。 066 REV 011 011 然れども三日半の後は、生命の霊神よりして彼等に入り、彼等足にて立ち、之を見たる人々は大いに懼を懐きしが、 066 REV 011 012 天より大いなる聲聞えて、此處に昇れと言ひしかば、彼等雲に乗りて天に昇り、彼等之を見たり。 066 REV 011 013 尚其時大いなる地震ありて、市の十分の一は倒れ、七千人の人地震の為に殺され、殘れる者は懼しさに堪へず、天の神に光榮を歸し奉れり。 066 REV 011 014 第二の禍過去りて第三の禍将に來らんとす。 066 REV 011 015 第四款 第七の喇叭神の國を報ず 第七の天使喇叭を吹きしかば、天に大いなる聲響きて言ひけるは、此世の國は我主と其キリストとのものと成りたれば、世々に限なく統治し給ふべし、アメン、と。 (aiōn g165) 066 REV 011 016 是に於て神の御前に、己が座に坐し居たりし廿四人の翁、平伏して神を禮拝し、 066 REV 011 017 然て言ひけるは、曾て在し、今も在し、且來り給ふべき全能の神にて在す主よ、我等汝に感謝し奉る、其は、己が大いなる能力を執りて統治し給へばなり。 066 REV 011 018 諸國民怒を起したるに、主の御怒亦來れり、且死者審判せられて、主の僕なる預言者、聖人等、及び大小を問はず御名を畏める人々に報を與へ、地上を腐敗せしめたる人々を亡ぼし給ふ時來れり、と。 066 REV 011 019 斯て天に於て神の聖殿開け、神の契約の櫃其聖殿に現れ、電光と多くの聲と地震と大いなる雹と起れり。 066 REV 012 001 第一款 婦人及び龍 又天に大いなる徴現れたり、即ち日を着たる一個の婦人あり、其足の下に月ありて、頭には十二の星の冠あり。 066 REV 012 002 子を姙して陣痛に遇ひ、将に産まんとして叫び居れり。 066 REV 012 003 又天に他の徴顕れたり、看よ大いなる赤き龍ありて、七の頭、十の角あり、其頭には七の冠あり、 066 REV 012 004 尾は天の星の三分の一を引き居りしが、之を地に擲ち、子を産まんとする婦人の前に立ちて、生れなば其子を食はんと構へたり。 066 REV 012 005 婦人は萬民を鉄の杖もて治むべき一人の男子を生みしに、其子は神の御許に其玉座へ引上げられたり。 066 REV 012 006 婦人は荒野に迯れしが、此處に一千二百六十日の間養はるる様、神より備へられたる處ありき。 066 REV 012 007 斯て天に於て大いなる戰起れり、ミカエル及び其使等、龍と戰ひ、龍も其使等も戰ひ居りしが、 066 REV 012 008 龍勝を得ずして天に其跡すらも遺らざりき。 海の砂の上に立てり。 066 REV 012 009 而して彼大いなる龍、全世界を惑はせる蛇、所謂惡魔又はサタンなるもの投下されたり、彼地に投下されしかば、其使等も共に投下されたり。 066 REV 012 010 我又大いなる聲の天に於て斯く言へるを聞けり、我等の神の救と、力と、國と、又其キリストの権能とは、今ぞ至れる、其は我等の兄弟等を訴へて、我等の神の御前に日夜彼等を訴へ居たりしもの、投下されたればなり。 066 REV 012 011 而して兄弟等は羔の御血により、又己が證明の言によりて之に勝ち、死に至るまで己が生命を惜まざりき。 066 REV 012 012 是故に喜べや、天及び天に住へるものよ、禍なる哉地よ海よ、其は惡魔己が時の唯暫時なるを知りて、大いなる怒を啣みつつ汝等に下りたればなり、と。 066 REV 012 013 斯て龍は己が地に投下されたるを見て、男子を生みし婦人に追迫りしが、 066 REV 012 014 婦人は荒野に飛ばん為に大いなる鷲の翼を授けられしかば、己が處に至り、一年と數年と半年との間、龍の面前を離れて此處に養はれたり。 066 REV 012 015 然るに龍は其口より水を出して、婦人の後より吹懸くる事河の如く、之を河に流さしめんとしたりしも、 066 REV 012 016 地は婦人を助け、口を開きて龍の口より吹出したる水を呑盡り。 066 REV 012 017 龍は婦人を怒りて、其子孫の中神の掟を守り且イエズス、キリストの證を有する人々と戰はんとて、往きて、 066 REV 013 001 第二款 海より起る獣 我又海より一の獣の上るを見たり、其は七の頭と十の角と有りて、其角の上に冠あり、頭の上に冒涜の名あり。 066 REV 013 002 我が見し獣は豹の如く、其足は熊の足の如く、其口は獅子の如くにして、龍は之に己が座と大いなる権力とを與へたり。 066 REV 013 003 我又見たるに、其一の頭死ぬばかり傷つけられたれど、其死ぬべき傷醫されしかば、全世界感嘆して此獣に從ひ、 066 REV 013 004 此獣に力を與へし龍を禮拝し、又獣を禮拝して言ひけるは、誰か此獣の如き者あらんや、誰か之と戰ふを得んや、と。 066 REV 013 005 而して大言と冒涜とを吐く口を與へられ、四十二箇月の間働く権力を與へられ、 066 REV 013 006 然て口を開きて神を冒涜し、其御名と其幕屋と天に住める者とを冒涜せり。 066 REV 013 007 又聖人等と戰ひ、且之に勝つ事を許され、諸族、諸民、諸語、諸國に對する権力を與へられ、 066 REV 013 008 斯て地上に住める人にして、世の初より殺され給ひたる羔の生命の名簿に名を録されざる人、皆彼獣を禮拝せり。 066 REV 013 009 人耳あらば聞け、 066 REV 013 010 擒に牽きし人は自ら擒に往くべく、剣にて殺しし人は剣にて殺さるべし、聖人等の忍耐と信仰と茲にあり。 066 REV 013 011 第三款 地より起る獣 我又別に地より一の獣の上るを見しが、羔の如き角二ありて、龍の如くに言ひ居り、 066 REV 013 012 先の獣の前に於て、総て之と等しき力を顕し、地と地に住める人とをして、死ぬばかりの傷の醫されし曩の獣を禮拝せしめたり、 066 REV 013 013 又人の眼前に天より火を地に下さしむる程の大いなる徴を為し、 066 REV 013 014 獣の前に為すことを得しめられたる徴を以て、地に住める人を惑はし、之に勧めて、刀の傷はありながら尚生存へし獣の像を造らしめ、 066 REV 013 015 此獣の像に生命を與へ、且言ふことを得させ、此獣の像を拝せざる人を殺す力を與へられたり、 066 REV 013 016 又大小と貧富と自由の身と奴隷とを問はず、凡ての人に、或は右の手或は額に印章を受けしめ、 066 REV 013 017 此印章若くは獣の名、若くは其名の數を記されたる人々の外、売買する事を得ざらしめたり。 066 REV 013 018 智恵は是に於てか要せらる、知識ある人は獣の數を算へよ、獣の數は人の數にして、其數は六百六十六なり。 066 REV 014 001 第四款 羔及び童貞者 我又見たるに、折しも羔シオン山に立ち給ひ、其御名及び父の御名を額に印されたる十四萬四千人之と共に在り。 066 REV 014 002 我又天よりの聲を聞きしが、大水の聲の如く、又大いなる雷の聲の如くにして、又此我が聞きし聲は弾琴者の其琴を弾ずるが如し。 066 REV 014 003 斯て彼等、玉座の前、四の動物と翁等との前に於て、新しき賛美歌の如きものを謳ひ居りしが、地上より贖はれたる彼十四萬四千人の外、誰も此賛美歌を唱うる事能はざりき。 066 REV 014 004 彼等は女に触れず汚されざるもの、蓋童貞者たるなり。彼等は何處にもあれ羔の往き給ふ處に從ひ、人間の中より、初穂として、神と羔との為に贖はれたる者にして、 066 REV 014 005 其口に僞ありし事なく、神の玉座の御前に汚なき者なり。 066 REV 014 006 第五款 三の天使神の宣告を傳ふ 又見たるに、別に天の中央を飛べる一の天使あり、地上に住める人と、諸國、諸族、諸語、諸民とに福音を告げん為に、永遠の福音を携へ、 (aiōnios g166) 066 REV 014 007 聲高く言ひけるは、汝等主を畏れて之に尊榮を歸し奉れ、蓋其審判の時は至れり、天地と海と水の源とを造り給へるものを禮拝し奉れ、と。 066 REV 014 008 又別に一の天使、其後に從ひて言ひけるは、倒れたり倒れたり、私通の為に起せる怒の酒を萬民に飲ませし彼大いなるバビロネは、と。 066 REV 014 009 又第三の天使、彼等の後に從ひて聲高く言ひけるは、若獣と其像とを拝し、己が額若くは右の手に其印章を受けたる人あらば、 066 REV 014 010 彼も亦神の御怒の酒、即ち御怒の杯に物を雑へずして盛りたる酒を飲むべく、又聖なる天使等の前及び羔の御前に、火と硫黄とを以て苦しめらるべし、 066 REV 014 011 而して其刑罰の烟は世々に限なく立昇り、獣と其像とを拝せし人々と彼の名の印章を受けし者等とは、夜晝休息なかるべし。 (aiōn g165) 066 REV 014 012 神の掟とイエズスに於る信仰とを保てる聖人等の忍耐は茲に在り、と。 066 REV 014 013 斯て天より聲ありて我に斯く言へるを聞けり、書記せ、福なる哉今より主に於て死する死人、[聖]霊曰はく、然り、彼等が其働を息まん為なり、其は其業之に從へばなり、と。 066 REV 014 014 第六款 人の子及び刈取 又見たるに、折しも白き雲ありて、其雲の上には人の子の如きもの、頭に金の冠を戴き、手に利き鎌を持ちて坐し居れり。 066 REV 014 015 又別に一の天使、[聖]殿より出でて、雲の上に坐せるものに向ひ、聲高く呼はりけるは、地上の穀物は熟したるが故に、刈取るべき時は來れり、汝其鎌を入れて刈取れ、と。 066 REV 014 016 斯て雲の上に坐せるもの、其鎌を地に入れしかば、地の面は刈取られたり。 066 REV 014 017 又別に一の天使、天に在る[聖]殿より出でしが、彼も亦利き釜を持てり。 066 REV 014 018 又別に火を司る権威を有せる一の天使、香台より出でて、利き鎌を持てるものに對ひ、聲高く呼はりて言ひけるは、地上の葡萄は熟したるが故に、汝利き鎌を入れて葡萄の房を刈取れ、と。 066 REV 014 019 斯て天使其利き鎌を地に入れて地上の葡萄を刈取り、神の御怒の大いなる搾槽に入れ、 066 REV 014 020 其搾槽は市外に於て踏籍けられしが、血搾槽より出でて、馬の轡に達くほど、七十五里の間に弘がれり。 066 REV 015 001 第七款 禍を有せる七の天使 又見たるに、天に大いにして不思議なる徴あり、即ち七の天使ありて最後の七の禍を有せり、蓋神の御怒が之にて全うせられたるなり。 066 REV 015 002 尚見たるに、火の雑れる玻璃の海の如きものありて、獣と其像と其名の數とに勝ちたる人々、玻璃の海の上に立ち、神の琴を持ちて、 066 REV 015 003 神の僕たるモイゼの賛美歌、及び羔の賛美歌を謳ひて言ひけるは、全能の神にて在す主よ、大いにして不思議なる哉、主の御業。萬世の王よ、正しくして眞なる哉、主の道。 066 REV 015 004 主よ、誰か汝を畏れ奉らず御名を崇め奉らざらんや、其は汝のみ聖に在して、汝の審判の明なるにより、萬民來りて御前に禮拝し奉らんとすればなり、と。 066 REV 015 005 第四項 七の器 其後我又見たるに、折しも天に證明の幕屋の[聖]殿開けて、 066 REV 015 006 七の禍を有せる七の天使、潔くして輝ける亜麻布を纏ひ、胸に金の帯を締めて[聖]殿より出でしが、 066 REV 015 007 四の動物の一は、世々に限なく活き給ふ神の御怒の満てる七の金の器を、七の天使に與へしかば、 (aiōn g165) 066 REV 015 008 [聖]殿は神の稜威と其能力とによりて烟を以て充たされ、七の天使の七の禍の終るまで、誰も[聖]殿に入る事能はざりき。 066 REV 016 001 我又大いなる聲の[聖]殿より出でて、七の天使に斯く言へるを聞けり、汝等往きて神の御怒の七の器[の物]を地上に注げ、と。 066 REV 016 002 斯て第一の天使、往きて其器[の物]を地上に注ぎしかば、獣の印章を有せる人々、及び其像を拝したる人々の身に、惡性の甚しき腫物生じたり。 066 REV 016 003 第二の天使其器[の物]を海上に注ぎしかば、死人の血の如くに成りて、海に在る活物悉く死せり。 066 REV 016 004 第三の天使其器[の物]を川及び水の源に注ぎしかば、變じて血と成れり。 066 REV 016 005 斯て我水を司る天使の斯く言へるを聞けり、現に在し、又曾て在しし主よ、汝は正義にて在す、斯の如く審判し給へるものよ、汝は聖にて在す、 066 REV 016 006 蓋人々は汝の諸聖人、諸預言者の血を注ぎたれば、汝彼等に血を與へて飲ましめ給へり、彼等は之に値する者なればなり、と。 066 REV 016 007 又別の天使の祭壇より斯く言へるを聞けり、然り、全能の神にて在す主よ、眞實にして正義なる哉汝の審判、と。 066 REV 016 008 第四の天使其器[の物]を太陽に注ぎしかば、激しき暑を以て人々を焼き悩ます事を許され、 066 REV 016 009 人々激しき暑の為に焼かれて、斯る禍の上に権力を有し給へる神の御名を罵り、且改心せずして、光榮を神に歸し奉らざりき。 066 REV 016 010 第五の天使其器[の物]を彼獣の座の上に注ぎしかば、獣の國暗黒と成りて、人々苦の餘りに己が舌を噛み、 066 REV 016 011 其苦と禍との為に天の神を罵り、己が業より改心せざりき。 066 REV 016 012 第六の天使其器[の物]をユウフラテの大河の上に注ぎしかば、其水を涸らして、東方の諸國王の為に道を備へたり。 066 REV 016 013 又見たるに、龍の口と獣の口と僞預言者の口とより、蛙の如き三の穢らはしき霊出でたり。 066 REV 016 014 是徴を為せる惡魔の霊にして、全世界の國王の許に至り、全能の神の大いなる日の戰の為に彼等を集めんとす。 066 REV 016 015 看よ、我は盗人の如くにして來る、警戒して、裸に歩まず、恥を見られざらん為に、己が衣を保てる人は福なり。 066 REV 016 016 彼霊ヘブレヲ語にてアルマゲドンと云へる處に諸國王を集むべし。 066 REV 016 017 第七の天使其器[の物]を空中に注ぎしかば、大いなる聲[聖]殿より而も玉座より出でて言ひけるは、事既に成れり、と。 066 REV 016 018 斯て電光と聲と雷と大地震と起りしが、此地震は人の地上に在りし以來曾て有らざりし程に大いなりき。 066 REV 016 019 然て大都會三に裂かれ、異邦人の諸都會倒れて、大いなるバビロネは神の御前に憶出でられ、激しき御怒の酒を盛りたる杯を飲ましめられんとし、 066 REV 016 020 島悉く去りて山も見えず成り、 066 REV 016 021 タレント程の大さなる雹天より人に降懸りしかば、人々雹の禍の為に神を罵れり、是其禍甚だしく大いなればなり。 066 REV 017 001 第五項 大いなるバビロネの處罰 然て七の器を持てる七の天使の一來りて我に謂ひけるは、來れ、我汝に示すに、多くの水の上に坐せる大淫婦の宣告を以てせん。 066 REV 017 002 地上の諸國王之と姦淫を行ひ、地に住める人々其淫亂の酒に酔ひたりき、と。 066 REV 017 003 斯て我氣を奪はれ、彼天使に荒野に携へられて見たるに、緋色の獣に乗りたる一人の婦あり、獣は渾身冒涜の名を以て覆はれ、七の頭と十の角あり。 066 REV 017 004 婦は緋色、紫色の服を着し、金、寳石、眞珠を以て身を飾り、手には憎むべきものと其淫亂の穢とに満てる金の器あり。 066 REV 017 005 其額には書記されたる名あり、曰く「奥義、大いなるバビロネ、地上の淫婦等と憎むべきこととの母」と。 066 REV 017 006 此婦を見るに、諸聖人の血及びイエズスの殉教者等の血に酔へる者なれば、我之を見て大いに驚けり。 066 REV 017 007 天使我に謂ひけるは、何の故に驚くぞ、我此婦の奥義と、七の頭、十の角ありて之を乗せたる獣の奥義とを汝に語らん。 066 REV 017 008 汝の見し獣は曾て有りしも今在らず、後には底なき淵より上りて亡に至らん。地上に住みて世の開闢より以後生命の名簿に名を記されざる人々は、曾て有りしも今は在らずして後に顕るべき、彼獣を見て驚き怪しまん。 (Abyssos g12) 066 REV 017 009 是に於てか知識と穎敏とを要す。七の頭は婦の坐せる七の山なり、又七人の國王なり。 066 REV 017 010 五人は既に倒れて一人は存し、尚一人は未來らず、來りたらん時は暫し留るべし。 066 REV 017 011 曾て有りしも今は在らざる獣は其第八番にして七人より出でて亡に至るなり。 066 REV 017 012 又汝の見し十の角は十人の國王にして、彼等は未國を得ざれども、獣の後に一時王の如き権威を受くべく、 066 REV 017 013 彼等は同一の計略を為し、己が能力と権威とを獣に付さん。 066 REV 017 014 彼等は羔と戰ふべく、而して羔は彼等に勝ち給ふべし。彼は諸主の主、諸王の王に在して、之と共に居る人々は、召されし者、選まれし者、忠實なる者なればなり、と。 066 REV 017 015 天使又我に謂ひけるは、淫婦の坐せる處に汝が見し水は、是諸國、諸民、諸語なり。 066 REV 017 016 又獣に於て汝が見し十の角は、遂に彼淫婦を憎み、之を悩まし且裸ならしめ、其肉を喰ひ、火を以て彼を焼盡すべし。 066 REV 017 017 蓋神彼等に御旨を行ふ事と、同一の計略を為して神の御言悉く成就するまで、己が國を獣に付す事とを志さしめ給ひしなり。 066 REV 017 018 又汝が見し婦は、地上の國王を司る大都會なり、と。 066 REV 018 001 其後、又別に一の天使、大いなる権威を以て天より降るを見しが、地上は其榮光を以て照されたり。 066 REV 018 002 彼力ある聲にて呼はり言ひけるは、倒れたり、倒れたり大いなるバビロネは。既に惡魔の住處と成り、凡ての穢れたる霊の巣窟と成り、総て汚れて憎むべき鳥の巣と成れり。 066 REV 018 003 蓋萬民は其姦淫が起さする怒の酒を飲み、地上の國王等は彼と姦淫を為し、地上の商人等は彼が奢の勢によりて富豪と成りたるなり、と。 066 REV 018 004 又別に天より聲して斯く言へるを聞けり、我臣民よ、汝等彼が中より出でて、其罪に與らず其禍を受けざる様にせよ。 066 REV 018 005 其は彼の罪は天に達し、主彼が不義を心に留め給ひたればなり。 066 REV 018 006 彼が汝等に為しし如く汝等彼に為し、其業に應じて倍して之を報い、彼が汲與へし杯は之に倍して汲與へよ。 066 REV 018 007 彼が自ら誇りて快樂に暮らししと同じ程なる苦と悔とを與へよ、其は彼が心の中に、我は女王の位に坐して寡婦には非ず、而も悔を見じ、と謂へばなり。 066 REV 018 008 故に其禍、即ち死と、悔と、飢と、俄に來りて、彼は火にて焼盡さるべし、彼を審判し給へる神は全能にて在せばなり。 066 REV 018 009 彼と姦淫して樂しみ暮らしし地上の諸國王、彼が焼かるる烟を見て其上を泣き、且己が胸を打ち、 066 REV 018 010 其苦を恐れて遥に立退きて言はん、禍なる哉、禍なる哉、彼バビロネの大都會、彼堅固なる都會よ、其は汝の刑罰一時に至りたればなり、と。 066 REV 018 011 又地上の商人、泣きて彼が上を悲しむべし、其は己の商品を買ふべきもの既に之あらざればなり。 066 REV 018 012 其商品は金銀、寳石、眞珠、亜麻布、緋色布、絹物、紫布、種々の香木、及び一切の象牙細工、佳木、青銅、鉄、大理石の諸器物、 066 REV 018 013 又肉桂、香料、香油、乳膏、葡萄酒、油、麦粉、小麦、駄獣、羊、馬、四輪車、人の體と魂と等なり。 066 REV 018 014 [バビロネよ]、汝の好みし果物は汝を去り、一切の珍味華美の品々は、亡びて汝より離れ、以後は之を見出さざるべし。 066 REV 018 015 是等の物を商ひて富豪と成りし人々は、バビロネの苦を恐れて遥に立退き、泣悔みて、 066 REV 018 016 言はん、禍なる哉、禍なる哉、曾て亜麻布、緋色、紫色の服を着し、金、寳石、眞珠を以て身を飾りたる、彼大都會よ、と。 066 REV 018 017 是然しも莫大なる富の一時に消失せたればなり。 066 REV 018 018 又一切の船長、航海せる人々、水夫、又は海上に働ける人々、遥に立退きて、其火事の烟を見て呼はり言ひけるは、如何なる都會か此大都會には似たる、と。 066 REV 018 019 而して彼等は、塵を己が頭に被りて泣悔み、叫びて言ひけるは、禍なる哉、禍なる哉、其奢によりて総て海上に船を有ちたる人々を富ましめたる彼大都會よ、其は一時に荒果てたるなり、と。 066 REV 018 020 天及び聖人、使徒、預言者等、彼が上を歓びて躍れ、蓋神汝等が[受けし]處分を彼に於て復讐し給ひしなり。 066 REV 018 021 又一の強き天使、大いなる磨の如き石を海に投げて言ひけるは、彼大都會バビロネは、斯の如き機勢を以て投げられ、再び見出さるる事あらじ。 066 REV 018 022 今より後は汝の中に、琴を弾じ、樂を奏し、笛を吹き、喇叭を鳴らす者の聲再び聞えず、種々の芸術の職人、汝の中に再び見出されず、磨の音汝の中に再び聞えず、 066 REV 018 023 燈の光汝の中に再び輝かず、新郎新婦の聲全く汝の中に聞えざるべし。其は汝の商人、既に地の諸侯の如くに成りて、萬民汝の魔力に惑ひ、 066 REV 018 024 且預言者、聖人及び地上に殺されし一切の人の血、彼に於て見出されたればなり、と。 066 REV 019 001 其後我、大群衆の聲の如きものの天に於て斯く言へるを聞けり、アレルヤ、救霊と光榮と能力とは我神に歸す、 066 REV 019 002 蓋其淫亂を以て地上を腐敗せしめたる大淫婦を審判し給ひしものの審判は、眞に且正しくして、己が僕等の血の報を彼の手に求め給ひしなり、と。 066 REV 019 003 又重ねて言ひけるは、アレルヤ、彼が烟立昇りて世々に限なし、と。 (aiōn g165) 066 REV 019 004 而して廿四人の翁と四の動物と平伏して、玉座に坐し給ふ神を禮拝し奉り、アメン、アレルヤ、と稱へたり。 066 REV 019 005 斯て聲玉座より出でて言ひけるは、総て神の僕たる者、又大小を問はず之を畏るる者よ、我神を賛美し奉れ、と。 066 REV 019 006 我又大群衆の聲の如く、大水の聲の如く、大いなる雷の聲の如きものの斯く言へるを聞けり、アレルヤ、蓋我全能の神にて在す主は統治し給へるなり。 066 REV 019 007 将我等は歓び躍りて之に光榮を歸し奉らん、蓋羔の婚禮の期至りて、其新婦既に準備を調へ、 066 REV 019 008 潔くして輝ける亜麻布を身に装ふことを得しめられたり、と。亜麻布とは聖人の正しき業なり。 066 REV 019 009 [天使]又我に謂ひけるは、羔の婚筵に召されし人々は福なる哉、と書け、と。又我に謂ひけるは、是ぞ神の眞の御言なる、と。 066 REV 019 010 斯て我之を禮拝せんとして、其足下に平伏しければ、又我に謂ひけるは、然する事勿れ、我は汝及びイエズスの證を有せる汝が兄弟等と同様の僕なり、神をば禮拝し奉れ、其は預言の霊はイエズスを證し奉ればなり、と。 066 REV 019 011 第一項 キリストの決勝 第三編 キリスト及び聖會の決勝 又見たるに、折しも天開けて一の白馬あり、之に乗れるは忠信者、眞實者と稱せらるる者にして、正義を以て審判し且戰ひ給ひ、 066 REV 019 012 御目は焔の如く、頭には數多の冠を戴き、又記せる名ありて、自らの外誰も之を知る者なく、 066 REV 019 013 又血に塗れたる衣服を纏ひ給ひて、名を神の御言と稱す。 066 REV 019 014 又天に在る諸軍は白馬に乗り、白く潔き亜麻布を纏ひ給ひて之に從ひ居れり。 066 REV 019 015 而して諸民を撃つべき兩刃の利き剣、彼の口より出で、彼は鉄の杖を以て諸民を治め給ふべく、又自ら全能の神の御怒の搾槽を踏み給ひ、 066 REV 019 016 衣の上股の處に其名記されて、諸王の王、諸主の主、とあり。 066 REV 019 017 又見たるに、一の天使太陽の中に立ちて、空の中央を飛べる一切の鳥に對ひ、聲高く呼はりて言ひけるは、汝等來りて神の大いなる饗筵に集れ、 066 REV 019 018 諸國王の肉、千夫長等の肉、権力者の肉、馬と之に乗れる人々との肉、総て自由なるもの奴隷たるもの、大人小人の肉を喰ふべし、と。 066 REV 019 019 又見たるに、彼獣と地上の諸國王と其軍隊と既に集りて、白馬に乗り給へるもの及び其軍隊と戰はんとしたるに、 066 REV 019 020 獣は捕へられ、曾て其前に種々の徽を為し、之によりて獣の印章を受け、其像を拝みし人々を惑はしし僞預言者も亦共に捕へられ、兩ながら活きたる儘にて硫黄の燃ゆる火の池に投入れられたり。 (Limnē Pyr g3041 g4442) 066 REV 019 021 其他の者は皆、白馬に乗り給へるものの口より出づる剣にて殺され、諸の鳥飽くまで其肉を喰へり。 066 REV 020 001 又見たるに、一の天使底なき淵の鍵と大いなる鎖とを手に持ちて天より降り、 (Abyssos g12) 066 REV 020 002 彼龍、即ち惡魔サタンなる古き蛇を捕へ、一千年を期して之を繋ぎ、 066 REV 020 003 底なき淵に投入れて之を閉籠め、封印を其上に為せり。是一千年の終るまで諸民を惑はさざらしめん為にして、其後は暫し解放たるべし、 (Abyssos g12) 066 REV 020 004 我又列座を見たるに、之に就くものありて裁判権を賜はり、又イエズスの證明の為神の御言の為に馘られし人々の魂と、彼獣をも其像をも拝まず、其印章を己が額又は手に受けざりし人々と、皆生回りて、一千年の間キリストと共に王と成れるを見たり。 066 REV 020 005 其他の死人は総て一千年の終るまで生回らず、是即ち第一の復活なり。 066 REV 020 006 福なる哉、聖なる哉、此第一の復活に與る人。斯る輩に於ては第二の死は権力を有せず、却て彼等は神及びキリストの司祭として、一千年の間之と與に王たるべし。 066 REV 020 007 一千年終りて後、サタン其獄舎より放たれ、 066 REV 020 008 出でて地の四方の人民、ゴグ及びマゴグを惑はし、戰の為に之を集めん、其數は海の眞砂の如し。 066 REV 020 009 而して彼等地の全面に上り、聖徒等の陣営と最愛の市街とを圍みしが、火天より降りて彼等を焼盡し、 (Limnē Pyr g3041 g4442) 066 REV 020 010 彼等を惑はしたる惡魔は火と硫黄との池に投入れられたり。是に於て彼獣と、僞預言者と、世々に限なく晝夜苦しめらるべし。 (aiōn g165) 066 REV 020 011 又見たるに、大いなる白き玉座ありて、之に坐し給ふものあり、地と天とは其前を逃去りて、其場所すら見出されざりき。 066 REV 020 012 又見たるに、死せし人々、大小共に玉座の前に立ちて、數多の書籍開かれ、又別に一の書籍開かれしが、是生命の名簿にして、死者は皆書籍に記されたる事柄により、面々の業に從ひて審判せられたり。 066 REV 020 013 斯て海は其中に在りし死者を出し、死も冥府も亦其中に在りし死者を出し、各其業に從ひて審判せられ、 (Hadēs g86) 066 REV 020 014 死も冥府も火の池に投入れられしが、是第二の死にして、 (Hadēs g86, Limnē Pyr g3041 g4442) 066 REV 020 015 生命の名簿に記されざりし人々も亦火の池に投入れられたり。 (Limnē Pyr g3041 g4442) 066 REV 021 001 第二項 聖會の決勝 我又新しき天と新しき地とを見たり、蓋曩の天と曩の地とは過去りて、海も既に在らざるなり。 066 REV 021 002 我ヨハネ又、聖なる都會新しきエルザレムが、恰も其夫の為に飾れる新婦の如く備はりて、神より天降るを見たり。 066 REV 021 003 又大いなる聲の玉座より來るを聞けり、曰く、看よ神の幕屋は人々と共に在り、神彼等と共に住み給ひて、彼等其民と成り、神御自ら彼等と共に在して、其神と成り給はん。 066 REV 021 004 又神彼等の目より涙を悉く拭去り給ひ、此後は死ある事なく、悔も叫も苦も更に之あらざるべし、其は前の事既に去りたればなり、と。 066 REV 021 005 又玉座に坐し給ふもの曰ひけるは、看よ我萬事を新にす、と。又我に曰ひけるは、汝書記せ、其は此言は信ずべくして眞なればなり、と。 066 REV 021 006 又我に曰ひけるは、事既に成れり、我はアルファなり、オメガなり、始なり、終なり、我渇く人をして生命の水の源より價なく飲むことを得しめん。 066 REV 021 007 勝利を得たる人は、是等のものを有して、我其神と成り、彼我子と成るべし。 066 REV 021 008 然れど凡て卑怯なるもの、不信仰なるもの、憎むべきもの、人を殺せるもの、私通を為せるもの、魔術を行ふもの、偶像を崇拝するもの、又総て僞を言ふ者は、火と硫黄との燃ゆる池に於て其報を受くべし、是第二の死なり、と。 (Limnē Pyr g3041 g4442) 066 REV 021 009 又七の最後の禍の充てる器を持ちたる七の天使の一、來りて我に語り言ひけるは、來れ、我羔の配偶者たる新婦を汝に示さん、と。 066 REV 021 010 斯て我氣を奪ひて、我を大いにして高き山に携へ、聖なる都エルザレムが神より天降るを示せり。 066 REV 021 011 即ち神の榮光を有して、其燈は水晶の如くに透明れる碧玉の如き寳石に似たり。 066 REV 021 012 又十二の門を備へたる、大いにして高き城壁あり、其門に十二の天使ありて記されたる名あり、即ちイスラエルの子等の十二族の名なり。 066 REV 021 013 東に三の門、北に三の門、南に三の門、西に三の門あり。 066 REV 021 014 又市街の城壁に十二の基礎ありて、羔の十二使徒の名之に記されたり。 066 REV 021 015 斯て我と語れる者は、市街と其門と城壁とを測る為に、金の葦の測量竿を持ちたりしが、 066 REV 021 016 市街は四角に立ちて、長さ広さ相等しく、天使其金の葦を以て市街を測りしに、五百五十五里にして、長さ高さ広さ相等し。 066 REV 021 017 又城壁を測りしに、二十五丈あり、人の度にして亦天使の度なり。 066 REV 021 018 其城壁は碧玉より成り、市街は清き玻璃に似たる純金にして、 066 REV 021 019 市街の城壁の基礎は有らゆる寳石を鏤め、第一の基礎は碧玉、第二は青玉、第三は玉髄、第四は緑玉、 066 REV 021 020 第五はサルドニクス、第六は赤條瑪瑙、第七は貴橄欖石、第八は緑柱玉、第九は黄玉、第十はクリゾプラズ、第十一はヒヤシント、第十二は紫水晶なり。 066 REV 021 021 十二の門は十二の眞珠にして、各の門は一の眞珠より成り、市街の衢は透明れる玻璃の如き純金なり。 066 REV 021 022 此市街には[聖]殿あるを見ず、其は全能の神にて在す主及び羔は、其[聖]殿にて在せばなり。 066 REV 021 023 又此市街は日月に照さるるを要せず、其は神の榮光之を照し、羔其燈にて在せばなり。 066 REV 021 024 諸國民彼が光によりて歩むべく、地上の國王等己が光榮と尊崇とを是に齎すべく、 066 REV 021 025 其門は終日閉づる事なかるべし、其は此處には夜無なければなり。 066 REV 021 026 是には諸國民光榮と尊貴とを齎すべく、 066 REV 021 027 潔からざるもの、憎むべき事を行ふもの、僞を為すものは之に入らず、羔の生命の名簿に記されたる人々のみ之に入るべし。 066 REV 022 001 天使又我に示すに、水晶の如く透明れる生命の水の河の、神及び羔の玉座より流るるを以てせり。 066 REV 022 002 市街の衢の中央及び河の兩岸に生命の樹あり、十二の果を結びて月毎に一の果を出し、此樹の葉も亦萬民を醫すべし。 066 REV 022 003 如何なる詛も今は有る事なく、神と羔との玉座其中に在りて、其僕等之に事へ奉るべく、 066 REV 022 004 彼等其御顔を見奉り、神の御名其額に在るべし。 066 REV 022 005 最早夜ある事なく、燈の光をも日の光をも要する事なかるべし、其は神にて在す主彼等を照し給へばなり。斯の如くにして彼等は世々に限なく王たるべし。 (aiōn g165) 066 REV 022 006 末文 天使我に謂ひけるは、此言は信ずべくして眞なり、預言者等の霊を賜へる神にて在す主は、遠からずして成るべき事を其僕等に示さん為に、其天使を遣はし給ひしなり。 066 REV 022 007 看よ我速に來らん。此書の預言の言を守る人は福なる哉、と。 066 REV 022 008 是等の事を見聞したる者は我ヨハネにして、見聞したる後、是等の事を我に示せる天使の足下に平伏して禮拝せんとせしに、 066 REV 022 009 彼我に謂ひけるは、然する事勿れ、我は汝及び汝の兄弟たる預言者等、並に此書の預言の言を守る人々と同様の僕なり、神をば禮拝し奉れ、と。 066 REV 022 010 又我に謂ひけるは、此書の預言の言を封ずる事勿れ、其は時近ければなり。 066 REV 022 011 害する人は愈害し、汚に在る人は愈汚れ、正しき人は愈正しく、聖なる人は愈聖と成るべし。 066 REV 022 012 看よ我速に來り、報を携へて、各其業に随ひて之に報いんとす。 066 REV 022 013 我はアルファなり、オメガなり、最初のものなり、最終のものなり、原因なり、終局なり。 066 REV 022 014 生命の樹に與る権を得ん為、門より市街に入らん為に、羔の御血に己が衣を洗ふ人は福なる哉。 066 REV 022 015 犬、魔術を行ふもの、淫亂なるもの、人を殺すもの、偶像を崇拝するもの、総て僞を愛して之を為す者は外に在るべし、 066 REV 022 016 我イエズス使を遣はして、諸教會に於て是等の事を汝等に證明せしめたり。我はダヴィドの萌蘗にして裔なり、輝ける暁の明星なり。 066 REV 022 017 霊及び新婦、來り給へと言へり。聞く人も亦、來り給へと言ふべし。渇く人は來れ、欲する人は價なく生命の水を受けよ。 066 REV 022 018 我は総て此書の預言の言を聞く人に保證す、若之に加ふる人あらば、神は此書に記されたる禍を之に加へ給はん。 066 REV 022 019 若此書の預言の言を省く人あらば、神は生命の名簿より、また聖なる都より、又此書に記せる所より、其受くべき分を省き給はん。 066 REV 022 020 是等の事を證明し給へるもの曰く、然り、我速に來る、と。アメン、主イエズス來り給へ。 066 REV 022 021 願はくは我主イエズス、キリストの恩寵、汝等一同と共に在らん事を、アメン。